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あずまんがSS書きの控え室8

1 :名無しさんちゃうねん :2005/09/13(火) 00:21 ID:???
 ストーリーの構成、キャラの造り方、言葉の使い方など、あずまんがのSSや
小ネタを作成する上で困ったことや、悩んでいること、工夫していること等を話し合う
スレです。
 また〜り楽しんでいただければ幸いです。
 ここで新作をUPすることも可です。

★主な注意事項
1. sage進行でお願いします。
2. 対象範囲は「あずまんが大王」及び、連載中の「よつばと」とします。
3. 他人の作品を善意であっても批評しないでください。(自分の悪いところを
教えてくださいというのは可です。)
※その他の注意事項は、>>2以降で記載します。

2 :名無しさんちゃうねん :2005/09/13(火) 00:26 ID:???
★その他の注意事項
1. 上記の2.において他作品の批評は不可としましたが、このスレ内で新作をUP
した場合にのみ、常識的な範囲での作品単体に対する批評、感想はOKです。
但し、その場合でも、罵倒、中傷は絶対にしないでください。
2. 他のスレ、板、およびHPから、本スレに転載された作品についても批評しないで
ください。
3. 新作をUPする場合についてですが、エロ、非エロのどちらを書かれても構いません。
但し、板の性質上、過激なものは避けてください。
(ソフトなえっち程度ならOKです。)

3−2.あずまんが、よつばとのキャラが殺される、または虐待されるなど、
残酷な描写はしないでください。(2003/12/01追加)

4. AAについては文章スレッドであるので使用しないでください。

5. スレの趣旨に関係のない書き込みはしないでください 。(2005/02/03追加)

前スレ【あずまんが】SS書きの控え室7
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1115481963/150

3 :名無しさんちゃうねん :2005/09/13(火) 00:28 ID:???
間違いました。すいません

前スレ【あずまんが】SS書きの控え室7
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1115481963/

4 :名無しさんちゃうねん :2005/09/13(火) 00:32 ID:???
関連スレッドです。

SS書きの編集会議室 3
http://so.la/test/read.cgi/azuentrance/1117200622/
【他作品】クロスオーバー・あずまんがSSスレッド【コラボ】
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1125758648/
あずまんがSSを発表するスレッド パート4!!
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1115996693/l50
SS書きの控え室@大阪板 SSまとめ
http://azu.qp.land.to/

5 :名無しさんちゃうねん :2005/09/29(木) 00:55 ID:???
大分遅れましたが、新スレ乙です。
そして、このスレ初のSSを投下したいと思います。

6 :真相は闇の中 1 :2005/09/29(木) 00:55 ID:???
 少し風の強い日の放課後、榊はちよと一緒に下校していた。
「あっ、そうだ。榊さん」
 ちよの言葉に反応するように、顔を見つめた。ちよはまっすぐに輝いた目をして、榊の
顔を見つめている。

「先日、アメリカの知り合いから手紙が届きまして、そこに面白い話が書いてあったんで
すよー」
「どんな話なの……?」
「その知り合いのお友達の話なんですけど、仕事で日本に来ていたんですよ。で、仕事を
終えて、アメリカに帰る日のことなんですけど、色々とお土産を買いすぎちゃって、持ち
運ぶのが大変だったらしいんですよ」
 一瞬、強い風が吹き、髪を揺らしていった。それをかき上げるようにして直すと、改め
て、ちよの顔を見つめた。

「両手にたくさんお土産があって、しかもかなり重たかったから、普通に歩くのも大変だ
ったそうです。それなのに駅の階段を上らなくちゃならなくって、息を切らし、汗をかき
ながら上っていたんです。すると、突然一人の若い女性が現れて、荷物を持つのを手伝っ
てくれたんですって。日本の女性はとても親切だって感激していました。で、その駅と言
うのがここの近くの駅なんですよ。あまりにも近くなのでビックリしました」
「へぇ、そうなんだ……」
 ここから見えるわけでもないのに、その駅の方角へ目をやってしまった。駅が見えるわ
けでもないし、その様子を窺い知る要素もない。

「最初にこの手紙を読んだときに、この若い女性って榊さんじゃないかって思ったんです
よ。だって、榊さんはとっても親切だし、こういうことも率先してしそうだから」
「いや、私じゃない……。私だったら、きっと助けてあげようと思っても、何もできない
だけで終わりそうだし……」
 駅の階段で荷物を持ったまま悪戦苦闘している外国人の姿を想像してみた。とても、自
分が助けに入れそうには思えない。やはり、何とかしようと思っても、見ているだけで終
わりそうだ。

7 :真相は闇の中 2 :2005/09/29(木) 00:56 ID:???
「でも、文面を読んでいくうちにこの女性は榊さんじゃないって思ったんですよ」
 ちょっと話が気になったので、駅で悪戦苦闘としている外国人の想像図を一度打ち切り、
ちよの話に集中することにした。
「どうしてだ……?」
「実は、その女性はあまり英語が得意じゃないらしいんですよ。いきなり『ヘルプミー』
と連呼するもんだから、自分は痴漢か何かで捕まるんじゃないかと思って、本当に焦った
って書いてありましたから」
「そういうときって、最初に『May I help you?』って尋ねるんだよね……?」
「はい。それから、『I will carry your baggage』と言うんですけど、その女性はそれを知
らなかったらしいので、榊さんじゃないなと思いまして。榊さんならきっと分かると思い
ますし」
 強い風が吹いたために、髪がまた乱れている。一旦正面を向いて、髪を直すと、ゆっく
りとちよの方へと向き直した。

「確かに、英語の受け答えは分かるけど……。でも、実際に人助けをするのとは別問題だ
……。きっとその女性は勇気のある人なんだろうな……」
「私も英語の受け答えはできますけど、荷物を持つほどの力はないですから、手伝うのは
無理です。でも、言葉が通じないのに、困っている人を助けようとするのは、本当にすご
いと思います」
 その言葉にうなずきつつ、自分にはない勇気を持っているその女性に対して、心から尊
敬の気持ちを覚えた。

「でも、一体どんな人なんだろう……?」
「何か、すごく陽気な人らしいですよ。別れ際に、『イエーイ』と親指を突き立てて見送っ
てくれたらしいですから」
「陽気で親切な人か……」
「もしかしたら、私たちの知っている人かもしれませんね」
「うん、この近くの駅なら、その可能性はあるかも……」
 今度はその女性の姿を想像してみる。思い浮かぶのは、明るくて、気持ちがまっすぐな
女性の姿だ。頭の中で一人の女性がイメージに浮かぶ。もし、彼女だとしても違和感はな
さそうだ。

8 :真相は闇の中 3 :2005/09/29(木) 00:57 ID:???
「でも、もしその人が私たちのクラスの人だとして、その話をゆかり先生が聞いたら怒るか
もしれませんね。『何でいきなりヘルプミーなのよ。ちゃんと英語の勉強してんのか』とか言
い出しそうですし」
 ちよが笑みを浮かべながら呟いた。
「うん、そうかも知れない……」
 榊もちよと視線がぶつかったこともあって、笑みを返した。
 でも、きっと彼女に違いない、明日にでも本人に聞いてみようかな……。
 榊が心の中でそう決意した直後だった。ちよが放った言葉がその決意をあっけなく砕い
てしまった。

「あっ、そう言えば、その知り合いの家に猫が生まれて、写真を送ってくれたんですよ。メイン
クーンのメスなんですけど、とってもかわいいんですよー」
「えっ……。それはいいな……」
 言葉では平静を装っているものの、頭の中で猫の想像図が駆け巡っている。こうなったら、
もう子猫のことしか考えられず、さっきの女性のことなど次第にかき消されていく。
「明日、その写真持ってきましょうか?」
「うん……」
 頬が赤らむのを感じながら、小さくうなずいた。
 子猫の写真か……。かわいいんだろうな……。あぁ、いいなぁ……。どんな感じだろう
……。楽しみだな……。
 みるみるうちに頬が赤くなっていくのが自分でも分かる。もう頭の中は完全にその子猫
で支配されている。風が髪を乱していても、それに気が付かないくらいだ。

「でも、この前のテストで――」
 ちよが何かを呟いているのは分かったが、今の榊は子猫の想像図にすっかり気を取られ
てしまったため、何を言っているかまでは分からなかった。
「榊さん、どうしたんですか?」
 不思議そうな顔を浮かべて呼びかけるちよの声も遠く感じるほどに、榊は子猫の想像図
に酔いしれていた。そこにはさっきの女性が介在する余地などない。
 こうして、その女性のことはすっかり脳裏から消え去ってしまい、その後、榊がその女
性の正体を突き止めることがないまま、時は流れるのであった。
(終わり)

9 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/09/29(木) 10:20 ID:???
神楽はいい子だってことがよくわかりますね

10 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2005/10/03(月) 00:28 ID:???
あの神楽に助けられた外人がちよの知り合いとはちよも顔が広いですね
そして榊さん、やはり優先事項は猫である事に笑いました

11 :名無しさんちゃうねん :2005/10/09(日) 18:15 ID:???
スレ分けた途端一気に過疎化したな、ここ。誰もいなくなったのか?

12 :国防委員長 ◆Ps6jeUWgS6 :2005/10/10(月) 02:03 ID:???
>>11
予測された事態です

13 :名無しさんちゃうねん :2005/10/21(金) 02:28 ID:???
ゆかり先生の人また書かないかなぁ?

14 :名無しさんちゃうねん :2005/10/22(土) 18:53 ID:???
平和だねここ。その変わり人もいなくなって>>11の言う通り過疎化して
しまってるけどね

15 :女教師の事情 :2005/10/24(月) 01:29 ID:???
リクがあったからって訳じゃないけど、新作です。

 今、私は物凄く機嫌が悪い。
 原因は昨日知った衝撃の事実だ。
 まさか、あいつが私よりも先に結婚するだなんて。何であんな地味で何の特徴もないよ
うなブサイクが結婚できるのよ。順番が逆じゃない。世の中間違っているわ。
 あの女にだけは先を越されるとはないと思っていただけに、ショックは大きいわ。まぁ、
私だってちよちゃんからいい縁談話がもらえればすぐに追いつけるから、焦ることはない
んだろうけど。それでも、やっぱり先を越されるのは悔しい。

「機嫌悪そうね。まっ、気持ちは分からないでもないわ」
 私と同じ負け組にいるはずの体育教師が何気ない口調で呟いた。別に気にしていないの
か、それとも必死でショックを隠しているのかは分からないけど、私としては後者であっ
て欲しい。傷を舐め合う仲間は多い方がいいからね。
「まさかさー、あの地味ブスが結婚するとは思わなかったわよ」
「どうやら、職場の人と結婚するらしいわね」
「職場結婚かよ。随分と手近なところで済ませたもんだな。まぁ、そうでもしなきゃ結婚
なんてできなかったんだろーなー」
 吐き捨てた言葉が妙の負け惜しみっぽく感じられるのが、自分でも腹立たしい。

「私達も早くいい人見つけないとね」
「そーねー」
 とりあえず、相づちだけは打っておくか。私にはちよちゃんという強力なサポーターが
いるんだから、数年後にはいい人が見つかるのは間違いないけどね。あっ、あんたにはあ
げないわよ。これは私にだけ与えられた特典なのだから。
 しかし、あと数年も待たなきゃいけないと思うと、ちょっと気が滅入る。今が旬の私に
とっては一日でも早く、いい縁談を見つけて欲しいんだけどな。
 あーあ、こんな気分の日に、授業なんてやってられないわ。でも、こういう気分の日の
ためにとっておいた奥の手があるんだった。よし、今日はそれでいくか。

16 :女教師の事情 :2005/10/24(月) 01:29 ID:???
「えー、実は先生の親友が今度結婚することになりました」
 しかし、クラス内からのリアクションは特にない。ただの世間話だと思っているのだろ
うか。じゃ、そのまま話を続けるか。
「だから今日はテストをします」
 私の言葉と同時に、「ええー」とか「なんでー」というブーイングが巻き起こった。
 どうやら、テストって言葉には過剰反応するらしい……って、そんなことはどうでもい
いか。つーか、何であんたらにテストをする理由を話さなくちゃいけないのよ。自分の心
の傷に自分で塩を塗りこむようなことなんて言いたくないわよ。

「うるさい、だまれ」
 とりあえず、ブーイングをした連中を睨みつけ、自分ができる限りのドスを効かせた声
で一喝した。すると、途端に静まり返った。どうやら、私の丁重なお願いを聞いてもらえ
たようね。とにかく、大人の女性に聞いちゃいけないシビアなことを聞くのはタブーだか
ら、若いうちに覚えておくのよ。じゃないと、痛い目に遭うから。
 
 しかし、用意しておいたテストのプリント、題して「今日は腹立たしいから難易度を高
めに設定したわよ」を配ろうとしている間にも、突き刺すほどじゃないけど私に視線がぶ
つけられているのは感じられる。
 ちょっと何よ、文句でもあるの? あんたらも大人になれば分かるわよ。先を越される
悔しさってものが。
 えっ、本当に親友かって? そりゃ、親友……だったわよ。少なくとも数日前までは。
あいつが私よりも絶対に先に結婚するはずがないって信じていたから、親友として接して
いたんだもん。でもね、今となっては親友って言えるかどうかは分からないわ。もう、た
だの裏切り者としか思ってないし。

 あー、こんな奴に御祝儀を渡すのも正直嫌だわ。どうしてやろうかしら。
 私はテストに苦戦している奴等を尻目に、どうやって一泡吹かせてやろうかを考えていた。
 いっそのこと皮肉も込めて、図書券でも入れてやろうかしら。でも、そんな子供じみた
ことをしてもしょうがないか。あっ、お札と一緒にカミソリを……って、そこまで鬼じゃ
ないわ。そうだ、一円玉をたっぷり詰め込んだ御祝儀袋でも渡してやろうかしら。かなり
の量になるし、重たくなるだろうから、「ギャフン」と言わせることができるかもしれない
わね。まぁ、実際に「ギャフン」って言うかどうかは知らないけど。

17 :女教師の事情 :2005/10/24(月) 01:29 ID:???
「結婚式に行ってきました」
 数日後、私はにこやかな表情で報告すると、クラス中がざわめきだした。
「げ」
「またテストか?」
 何よ、どいつもこいつも何をそんなにビビっているのよ。この前のテスト「今日は腹立
たしいから難易度を高めに設定したわよ」が思った以上に難しかったからかしら? 確か
に平均点は低めだったけど、別に赤点は設定してないから気にすることはないのよ。ちな
みに、採点はまだ全部終わってないから今日は返さないわ。

「フ、フ、フフフフフ……」
 あらやだ。私としたことがついつい笑みがこぼれちゃったじゃない。まぁ、仕方ないわ。
だって、あんなことがあったんだから、笑うなって言う方が無理よ。だって、あの新郎の
顔と来たらさぁ。あんなにらめっこみたいな顔をされちゃ、そりゃ思い出すたびに笑いた
くもなるわよ。あー、写真に撮っておけばよかったわ。ホント、お腹が痛くなっちゃう。
 しかし、何も事情を知らない連中は私がいきなり笑い出したために、不思議そうな顔を
浮かべてこっちを見ている。まぁ、それもそうね。じゃ、タネ明かしといきますか。そう
しないと、単に気が狂ったんじゃないかって思われそうだし。

「人間あせるとダメね」
 私はおすまし顔で呟いた。しかし、クラス内からはリアクションがない。それどころか、
唖然とした表情で私の顔を見ている。
 あー、やっぱりガキには分からんか。焦って結婚して変なものを引き当てるよりは、じ
っくりといい縁談を待ったほうが得策だってことは。
 じゃ、特別サービスで教えてあげるけど、あんな冴えない奴とすぐに結婚するよりは、
数年待っていい縁談をゲットしたほうが何倍もお得なのよ。その頃には私も完熟した大人
の女性になっているから、セクシーさ満点になっているだろうし。でも、今すぐにいい縁
談を紹介してくれるって言うのなら話は別だけどね。

「それじゃ、今日の授業を始めまーす」
 満面の笑みを浮かべながら、前列に座っている一人の少女に目をやった。
 ちよちゃん、いい縁談をよろしくね。この前の結婚式で、ブーケの強奪に成功したから、
いつでも準備はOKよ。
(終わり)

18 :27GETTER ◆pXWVmj9lto :2005/10/24(月) 17:15 ID:???
>>15-17
新作乙!
さすがゆかり先生、とことん黒い!

19 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2005/10/25(火) 00:41 ID:???
>>15-17
乙です。
結婚したら友達じゃないってあたりが生々しいです。

20 :27GETTER ◆pXWVmj9lto :2005/11/08(火) 20:01 ID:???
編集会議室の次スレです。

http://so.la/test/read.cgi/azuentrance/1131446577/
前スレはあと40ちょっと程あります(11月8日8時現在)。

21 :レッツゴーちよちゃん 1 :2005/11/11(金) 00:54 ID:???
 火曜日の朝、ちよは交差点の前に立っていた。
 目の前の信号機は赤になったばかり。青になるにはもう少しかかるだろう。

「今日こそ横断歩道の白だけ踏んで渡れたらいいことがあります」
 赤く灯る歩行者信号機を見つめながら、ちよは心の中で呟いた。
 根拠なんてないけど、信じてみたい。昨日果たせなかった野望を今日こそ果たすべく、
誓いを新たにした。
 だが、信号が変わる前に確かめておくことがある。智がいるかどうかだ。昨日は横断し
ている途中で智が前に立ち塞がったために、白線だけで渡ることができなかった。もし、
今日も近くにいるようであれば、可能性は一気に低くなる。
 横断歩道の向こう側からは現れそうな気配はない。念のため左や右も確認したが、姿は
見えない。どうやら、今日は邪魔されることはなさそうだ。

「今日こそはうまく行きそうな気がします」
 かすかな安心感を得るのと同時に、信号が青に変わった。それを合図にちよは勢いよく、
右足を最初の白線へと踏み込ませた。
「よっ、よっ」
 思った以上に幅のある白線を一つ、また一つと渡り、半分以上を過ぎようとしたときだ
った。後ろから軽やかなステップで足音が近付いてきているのが聞こえてきた。
 
(まだ信号は変わったばかりだから、そんなに慌てなくても間に合うのに、せっかち人な
のかな)
 不意にそんなことを思っているうちに、足音がどんどん近付いてきた。スタスタと地面
を蹴る音がハッキリ聞こえてくる。
(あれ? 私の横を通り抜けるんじゃなくて、何か私に向かってきているような……)
 そう思ったときには、ちよの身体はバランスを崩していた。足音の主がちよの背中を思
い切り叩いたのだ。

「おはよー! ちよちゃん」
「あいたたた……。おはようございます」
 足音の正体は智……ではなく、神楽だった。だが、そんなことよりももっと重大なこと
にちよは気づいた。

22 :レッツゴーちよちゃん 2 :2005/11/11(金) 00:54 ID:???
「あっ……」
 神楽に背中を叩かれてバランスを崩したときに、踏みとどまろうとした右足が白線を越
えて、灰色のアスファルトの上にあったのだ。
「どうしたんだ? 何か元気がないみたいだけど」
「いえ、何でもないです……」
 しかし、言葉に力はなかった。こうして、ちよは今日も白線だけで横断歩道を渡ること
ができなかった。

 今日の運勢:元気のいい人に妨害される恐れがあります。特に体育会系の人には気をつ
けましょう。


 水曜日の朝、今日もちよは交差点の前に立っていた。
 反対側の歩行者信号機が点滅している。もうすぐ、目の前の信号は青になりそうだ。
(今日こそは、横断歩道の白だけ踏んで渡れたらいいことがあります。だから、今日こそ
は白だけを踏んで渡ります)
 心の中で強く決意すると、智の姿を確かめるために、信号の向こう側を確認し、それか
ら首を左右に振って辺りを確認した。どうやら姿は見当たらない。それと、神楽に関して
は今日は万全だ。なぜなら、心強い味方が隣にいるからだ。

「ちよちゃん、どうしたの……?」
 ちよの右隣で、すらっと背の高い女性が不思議そうな顔を浮かべて尋ねてきた。そうだ、
今日は榊と一緒なのだ。
「あっ、信号を渡る前に安全確認をしようと思いまして」
 榊になら本当のことを話してもいいとも思ったが、こういう願いは他の人に話すと叶わ
なくなるらしいので、口からでまかせを言うことにした。
(でも、ちょっとは安全確認をしているから、嘘じゃないですね。車じゃなくて智ちゃん
や神楽さんに対する安全確認ですけど)
「へぇ、そうなんだ……」
 感心するような口調で榊が呟いた。

23 :レッツゴーちよちゃん 3 :2005/11/11(金) 00:54 ID:???
(榊さんと交差点の手前で一緒になったのはラッキーです。これなら、神楽さんが現れた
としても、私よりも榊さんの方へ駆け寄るに違いないはずですから)
 今日こそはうまく行きそうな気がする、そう思うと、ちょっと嬉しくなった。だが、油
断は禁物だ。再度、智と神楽の姿を確認するために首を左右に振った。今度は後方も確認
した。どうやら、二人が現れる気配はなさそうだ。

「それじゃあ、私も安全確認しようかな……」
 榊が左右を確認している間に信号が青に変わった。
「おや……?」
 榊の呟きをよそに、ちよは勢いよく最初の白線を踏みしめた。次の白線も、その次の白
線も順調に踏み続け、半分ぐらいのところまでたどり着いた。
「私も榊さんみたいに背が高くなりたいんですよ、どうやったら背が伸びますか?一応、
毎日牛乳を飲んではいるんですよ」
 ちょっと余裕が出てきたことで、榊に質問をしたが、返事がない。
「ねぇ、榊さん……って、あれぇ!?」
 振り返ると、そこに榊の姿はない。

「榊さん、ど、どこ行っちゃったんですかぁ?」
 見失った榊の姿を探そうと、キョロキョロと辺りを見回す。すると、交差点から少し離
れた植え込みのところで、榊が猫をじっと見つめているのが見える。
「榊さん、こんな所にいたんですか! あっ……」
 ちよはこのとき、自分が大きなミスを犯したことに気が付いた。榊の姿を追い求めてい
る間に、左足が白線をはみ出し、灰色のアスファルトの上にあったのだ。
(うぅ、今日もダメでした……)
 今日も白線だけで横断歩道を渡ることができずじまいに終わる、ちよであった。

 今日の運勢:話の途中で突然いなくなってしまう友人に気をつけましょう。

24 :レッツゴーちよちゃん 4 :2005/11/11(金) 00:55 ID:???
 木曜日の朝、ちよは交差点の手前にある歩道を歩いていた。
(今日は日直の仕事があって、いつもよりも早めに出なくちゃいけないけど、その分、他
の人に会う心配はないかな。よし、今日こそは、絶対に横断歩道の白だけ踏んで渡れたら
いいことがあります)
 心の中で強く誓うと、問題の交差点にさしかかった。今日は信号がすでに青になってい
たので、辺りを確認する余裕がない。だが、この時間では知っている人に出会う心配はな
さそうだ。
 勢いよく、最初の一歩を踏み出した、そのときだった。突然、背後からクラクションの
けたたましい音が鳴り響いた。

「うわっ」
 その音があまりにも突然で、あまりにも大きかったため、思わずよろめきそうになった。
しかし、最初の一歩は辛うじて白線に踏みとどまっている。 
「あー、ビックリした。でも、まだ大丈夫ですね」
 気を取り直し、ちよは再び歩き出そうとした。

「ちょっと、クラクションを鳴らすことないじゃない!」
「そんなこと言ったって、一発で気付いてもらうにはこうするしかないじゃん!」
 後ろから女性の叫び声が聞こえてきた。どこかで聞いたことがある声だ。
(もしかして……)
 聞き覚えのある声の主を確認すべく、後ろを振り返ると、クラクションを鳴らした車の
助手席の窓がゆっくりと開いた。窓から顔を出した主は思った通りの人物だった。

「ちよちゃーん、おはよう!」
 一人の女性が窓から身を乗り出して手を振っている。しかも、大声で呼びかけているた
め、ちよはちょっと恥ずかしさを感じた。
「あっ、ゆかり先生、おはようございます……」
「ちょっとゆかり、聞いてるの……あっ、おはよう、ちよちゃん」
 更に運転席から、ゆかり先生をたしなめている黒沢先生の姿も見えた。黒沢先生が軽く
会釈したので、ちよも「おはようございます」と挨拶をした。
 その間にゆかり先生が車から降りてきたので、一旦歩道に戻ることにした。

25 :レッツゴーちよちゃん 5 :2005/11/11(金) 00:55 ID:???
「どうしたのよ、こんな早くに?」
「いえ、今日は日直の仕事で早くに出なくちゃいけないので」
「今日の日直はちよちゃんだったか。あっ、そうだ。一緒に乗ってかない? せっかく会
ったのも何かの縁だし」
「ちょっと、人の車に乗っておいて、何を勝手に決めてるのよ?」
 黒沢先生が二人のそばに車を横付けし、運転席から降りて、ゆかり先生を睨みつけた。

「行き先が一緒なんだから、ちよちゃんを乗せるぐらい問題ないじゃん。それに、夏休み
に別荘でお世話になったでしょ? そのお礼もしなくちゃ」
「まぁ、そりゃそうだけど……」
「だったら、堅いことは抜き。これで決まりね!」
「ったく、しょうがないわね」
「さっ、ちよちゃん、後ろに乗って」
「えっ、でも……」
 ゆかり先生の申し出は嬉しいが、今はやらなきゃいけないことがある。まだ横断歩道を
渡っている途中なのだ。せめてそれだけはクリアしておきたい。

「あの……」
「何を遠慮しているのよ。さっ、乗った乗った」
 しかし、事情を説明しようとする暇さえ与えられないうちに、ゆかり先生がちよの手を
引っ張り、車の後部座席に乗せた。傍から見れば誘拐と間違われてもおかしくないほどの
強引さだ。
 
「ほい、出発進行!」
「何であんたが仕切るのよ!」
 二人のやりとりをよそに、ちよは窓から一歩しか踏み出すことのできなかった交差点を
じっと見つめていた。
(あぁ、今日もダメでした……。一体いつになったら渡れるんだろう……?)
 次第に視界から遠ざかる交差点を見つめながら、人知れずため息をつく、ちよであった。

 今日の運勢:担任の気まぐれに注意しましょう

26 :レッツゴーちよちゃん 6 :2005/11/11(金) 00:55 ID:???
 金曜日、ちよは今日も交差点の前に立ち、目の前の赤いランプが照らされている歩行者
信号機をじっと見つめていた。
(今日こそは、本当に今日こそは、白だけ渡れたらいいことがあります。だから、白だけ
で渡ることができますように)
 祈るような気持ちで信号機を見つめる。本当に両手を組んで神に祈りを捧げたい気分だ。

「あれ……?」
 不意に視線が信号機からそれ、瞳が空を映し出した。青く澄み渡った空と、その間を漂
う白い雲が見える。
「秋は空がきれいですよねー」
「ほんまやなー」
 途中で一緒になった大阪もちよと同じように空を見上げて呟いた。
 照り付ける眩しさはないけど、太陽が穏やかな日差しで包み込んでくれている。それに、
どこへ行くのか分からず、あてもなくさまっている白い雲、全てを包み込むように広がっ
ている淡いブルーの空、これらのコントラストが一枚のきれいな絵を描いているようにも
見える。

(あぁ、本当にきれいな空です。こんな空を見られただけでも、今日はいいことがあった
のかもしれないな)
 大阪との間に言葉はなく、横断歩道の前でただ青空をぼんやりと見つめているだけだ。
しかし、それだけで不思議と幸せな気分になってくる。横断歩道を白だけで渡れたらいい
ことがあるなんて思いさえどこかへ消え失せそうだ。
 
 こうして、信号が青になってもちよと大阪はずっと青空を見上げたままだった。
「おは……?」
 交差点の反対側で智が呼びかけても、ちよは全く気づくことなく空を見上げたままだっ
た。当然、横断歩道の白のことなどすっかり脳裏から消えている。
 そして、今日も白線だけで渡ることはできなかったが、他にいいことがあったので気に
はしていないちよであった。

 今日の運勢:澄んだ景色の見惚れすぎに気をつけましょう。

END

27 :27GETTER ◆pXWVmj9lto :2005/11/11(金) 19:33 ID:???
>>21-26
乙!
三巻冒頭のあの短い話にそんなエピがあったとは・・・その御着眼点に脱帽
させられました。GJ!

28 :眠名有 :2005/11/21(月) 23:52 ID:???
>>1
おつかれー

>>6-8
さすがはちよちゃん、顔が広いですな。
榊さんも榊さんらしさ抜群でとても面白かったです!

>>15-17
ゆかり先生ブラックですねぇ(笑
たしかにあの先生が心の中で考えていそうです。。

>>21-26
一瞬神が降臨したのかと思いましたよ。
いや本当に。
原作との組み合わせがとてもすごく、良かったです。

29 :風児 ◆iQwkicAw :2005/11/28(月) 01:38 ID:???
最近地下スレにてお世話になっています。
風児と名乗っているものです。

投下します。

「俺の名は」

30 :風児 ◆iQwkicAw :2005/11/28(月) 01:39 ID:???
・・・因縁・・・っていうのか?人間の言葉で。
俺はあの女が嫌いだ。あの人間の女。マルの野郎が失せ、ついにここら一帯を
取り仕切るボスの座に就いた俺であっても、どうにもあの女に対する「恐怖」は
捨てきれないでいるようだ。やはりあの女、俺の生涯の宿敵である事は間違い無い。
これを因縁と呼ばずして何と言うんだ!
畜生!あの女!あの女の纏う気迫はジャガーのものに近い!同じネコ科で考えて、
俺には野良猫相手ならまず負けないという自信が在る。だがいくらなんでもジャガー
に野良猫が勝てるハズが無いだろう!しかし俺はマルの野郎が一帯を支配していた時から
ボスの座を狙っていたし、今またボスの座に君臨する以上は、その恐怖を表に出す
わけにはいかなかった。

31 :風児 ◆iQwkicAw :2005/11/28(月) 01:39 ID:???
実際に、今までも恐怖を押し殺し、あの女と三年間戦い続けた。この間は子分どもに
召集をかけ、あわやという所まで追い詰めたが、現れたのは奴の配下・・・かどうかは
定かではないがとにかく「イリオモテヤマネコ」とかいう凶悪な異国の猫に一括され、
腰抜けの子分どもが逃げ出してしまったために分の悪い状況になってしまい、
屈辱を味わいながらも撤退せざるを得なかった。
くそっ!悔しい!この上なく悔しい!そもそも俺が何をしたというんだ!いつもいつも
昼寝の邪魔しやがって!一度など、あの女の仲間の・・・これまた凶悪な気迫を放つ人間
の女にさんざん叩かれた事もあった。あの時は本当に辛かった。殴られた場所が激しく
痛み、挙句マルからは馬鹿にされた。この上なくみじめだった。
まだまだ挙げていけばキリはないが、とにかく俺を事あるごとにひどい目に合わせやがる
あの女が嫌いだ!大っ嫌いだ―――・・・っ!

32 :風児 ◆iQwkicAw :2005/11/28(月) 01:40 ID:???
・・・うっ!やはり今日も現れやがった!近づいてきやがる・・・。来るなら来い!
俺はボスの誇りにかけて、野良猫の意地にかけて、逃れられない因縁に従い、今日も
お前と戦う為に爪と牙を研いでおいた!さあ!いつもの様にいかつい手を出して来い!
この牙の餌食にしてやる!お前は俺を「噛み猫」と呼んでいるな!あぁ、望み通りに
してやるさ!お前が俺の牙を恐れるのなら本望!間合いも十分だ!さあ!来い!さあ!
覚悟は出来ているぞ!さあ!来やがれ―――・・・っ!

「ごめんな、今まで無理になでようとしてた」

・・・・・・・・・何?おい、今なんて言った?「ごめん」って言ったのか?それは・・・「謝る」
って意味だよな?ちょっと待て。いや、待ってくれよ。俺は・・・お前の敵だぞ・・・。そして
お前は俺の敵だ・・・。敵に「謝る」?訳が分からない。そんな事、俺達野良猫の覇権争い
では有り得ないことだ。

33 :風児 ◆iQwkicAw :2005/11/28(月) 01:41 ID:???
だけど・・・だけど何だ?このこみ上げてくるあったかい気持ちは。ますます分からなくなる
じゃないか。お前は・・・俺にさんざんみじめな思いをさせるだけでは飽き足らずに、
こんな訳の分からない気持ちまで背負わせるのか・・・?どこまで俺を虐げれば気が
済むんだ・・・。おい、まて。背を向けるな。どうして、どうして今俺はお前が
「憎くない」んだ。大嫌いだ・・・、大嫌いだお前なんて・・・。それは変わらないのに・・・
なのにどうして・・・。どうしてなんだ・・・・・・・・・。
この研いだ牙の使い道は・・・やっぱりお前を噛まなきゃダメだ・・・。おい、こっち向けよ。
いや、向いてくれよ。

「えっと・・・なでていいのか?」

馬鹿。勘違いするな。噛むんだよ。俺は「噛み猫」だぞ?お前の知っている「噛み猫」
は頭なんか撫でさせてくれないだろ?ホラ、手出せよ。よしよし。それでいいんだよ。

ガブ

俺は「噛み猫」だ・・・。

「いたぁ・・・?」

・・・俺はお前なんか・・・大嫌いだからな・・・・・・。

                         終

34 :風児 ◆iQwkicAw :2005/11/28(月) 01:47 ID:???
以上です。
元ネタは4巻167pと168pです。

35 :名無しさんちゃうねん :2005/11/30(水) 01:58 ID:???
>>29-34
乙です。
噛み猫の心理描写が巧みでとても楽しく読ませていただきました。

36 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2005/12/04(日) 13:01 ID:???
>>29-34
お疲れさ様です。
噛み猫が榊さんに恐怖を抱いて噛んでいたというのは斬新だと思います

37 :風児 ◆iQwkicAw :2005/12/04(日) 19:58 ID:???
感想ありがとです。
自分はマターリなSSの方が合っているのかも・・・。

38 :「魔法少女暦ちゃん」 :2005/12/06(火) 03:03 ID:???
「魔法少女暦ちゃん」

「よみー!帰ろうぜ〜!」
水原暦は元気にはしゃぐ友人滝野智に多少呆れながらも一緒に帰る事となった。
それはいつもどおりの日常だった。途中までは他の仲間も含めて6人で帰り、
最後に智と二人で帰る。それの繰り返しだった。だが今回は違った。

「よみー、今日は鯛焼き食べないの〜?」
「昨日食べたから今日は食べない!」
「そっか〜。ん?」
何かに気付いたらしく、智は視線を上に向ける。暦もそれに続く。
すると、彼女達の足元に何かが落ちてきた。

「何だこりゃ?」
「ステッキみたいだな。魔法少女のアニメとかでよくある」
何気なくそれを拾い上げる暦。すると強烈な光がステッキから発せられた。

「な、何だこれ!?」
「まぶしい!!」
そして次の瞬間、光が一気に消えて行く。

「一体何だったんだ?って何だコレ―――!!」
暦は自分の姿を見て驚愕する。何と自分の格好が今まで着ていた制服ではなく、
黒いローブを身に纏っていた。要は魔法少女がする格好になっていたのだ。
ご丁寧に頭にはとんがり帽子も装備されている。しかしニーソックスはそのままだ。

「もしかしてこのステッキって本物なのか?おい、とも!これは!?」
智に声をかけようとした暦は絶句した。何と智が小動物のように小さくなってしまっているからだ。
何かの着ぐるみを被っている。形状からして恐らく猫であろう。

「ん?何だよみ?そんな格好して。あれ?何かよみでかくなってないか?」
「鏡見ろ」
と、手鏡を差し出す暦。それを見て流石の智も唖然となる。

「何であたしが使い魔でよみが魔女ッ娘なんだ!納得いかねー!」
「驚くのそっちかよ!!」

39 :「魔法少女暦ちゃん」 :2005/12/06(火) 03:05 ID:???
思わず暦はツッコミを入れてしまった。

「どうやらこれ本物だったみたいだな」
「で、これからどーすんの?それにしてもそれ地味だな〜。もっとフリフリな
奴なかったのかよ〜」
「いや、どうするって言われても。それとあんなアニメでよくある露出度
高い格好なんて出来るか〜!」
するとそんな事情を察してかそのステッキの部分からまたも何かが出てきた。
小さくなった智と同じくらいのサイズの人間だった。ただその衣装は天使のそれと
いってもいいくらい真っ白だった。よく見ると羽根も生えている。

「あなたが今度のこのステッキの使用者ですね。始めまして私は天使の恵那です」
榊と同じようにサラサラのロングヘアーの女の子が自己紹介する。

「えーと使用者になったというか偶然落ちてきたのを拾ったらこうなったというか
いやそれ以前に天使って・・・・・・・」
「あたしなんて使い魔にされちゃってるんだぞ〜何でだよ〜?」
「杖を拾うと自動的に使用者になるシステムなんです。それとあなたが使い魔に
なってしまったのは使用者のすぐ近くにいたせいでそうなってしまったんです」
二人の質問にも丁寧に答える恵那天使。

「そ、そうなのか。空から落ちてくるなんて普通じゃないけどな。
で、この格好になったのはいいけどこれからどうすればいいんだ?」
「魔女といえば、やっぱり人助けなんじゃねーの?それか悪い奴をやっつけるとか」
早くも智はその格好になじんでいる。

「それはあなた達次第ですね」
「そんな事言われてもな。私はそんな事するつもりもないしこの格好だって・・・・・」
その時携帯電話の着信音が鳴った。何と恵那天使の携帯電話だった。

「もしもし!あっお姉ちゃん!分かった、すぐに行く!すいませんちょっと
用事が出来てしまったので私はこれで失礼します!変わりに使用方法を書いた
説明書を置いていきますので」
天使なのに何で携帯持ってんだ?という突っ込みをさせる間もなく恵那天使は
説明書を残して消えてしまった。
残されたのは智と暦と手渡された説明書のみ。

40 :「魔法少女暦ちゃん」 :2005/12/06(火) 03:09 ID:???
「とりあえず説明書を読んでみよう」
説明書にはこう書かれていた。困っている人を助ける時とかや自分が何らかの
危機に陥った時などに魔法を発動する事ができると。ただし魔法を使えるのは
一日三回までで、それを使うと強制的に元の姿に戻ると。
また一度でも変化すると、最低でも一回は魔法を使わないと元に戻れない。
ちなみにそこに書かれていたのは色々あるが、どういう訳か攻撃魔法の事まで書かれていた。
元の姿に戻るのも自由だが、一般人に変わるところを見られてはいけないらしい。

「これ使う機会あるのか?」
「あるんじゃないの〜。それにどっちにしても最低一回は魔法を使わないと
元に戻らないって事も分かったから使うしかないだろー」
「仕方ないな」
とうとう暦は観念したらしく、行動する事となった。ただ流石にこの格好で
街中を歩くのは非常に恥ずかしいものがある。なるべく人目につかないように
歩いていると、それらしき人物が公園のベンチで座りながら俯いていた。

「あの〜すいません。一体どうしたんですか?」
遠慮がちに暦は声をかける。制服は暦達の通う学校の男子が着る男子生徒の
ものだから、同じ学校の生徒であるのは確かだろう。ただし、暦のクラスメイトではない。

「おわ!何だお前、妙な格好して!まあいいや。いや、ゆかり先生に俺の
自転車盗られちゃってさ。返してくれたのはいいんだけど、この通りボロボロでさ」
実はこの男子生徒、1巻でゆかりに自転車をパクられた生徒で暦達の一年年上なのである。
仮に橘先輩と呼んでおこう。彼の隣にはボロボロになった自転車があった。
ゆかりがゲームソフトを昼休み中に買いに行こうと無茶な運転した為である。

「ゆかりちゃんってば、車と同じくらい無茶な運転してんだな〜。
よみ〜自転車直してみれば〜」
「しょうがないな。やってみるか」
暦が円を描くようにステッキを振るう。すると何か星のようなものが発せられ、
ボロボロだった自転車を新品同様に直してしまった。

「あれ?何だかよくわかんねーけど、俺の自転車が元に戻ってる。これで買い直さなくもすむぞ〜。
なんかよく分からないけどありがとうな」
よもや魔法で直ったとは思うまい。橘はそのまま自転車を漕いでどこかに行ってしまった。

「凄いじゃん、よみ。本当に魔法で直せたよ!」
「ああ、そうだな」

41 :「魔法少女暦ちゃん」 :2005/12/06(火) 03:11 ID:???
「でもいいなぁそれ。あたしにも貸してよ」
「駄目だっての!お前が振り回したらロクな事にならないから!!」
「いいじゃん、貸してよケチ〜!」
智がそれを奪い取ろうとする。するとステッキから何と火炎が発射された。

「わー何だこれ!?」
智はとっさに身をかわした。その後を火炎が通り過ぎていく。その火炎はすぐに消滅した。

「お前がステッキをとろうとしたのを攻撃と判断して自動的に魔法が発動したんだな」
「あ、危なかった。もう少しで黒焦げになるとこだった」
二人共まさか本当に攻撃魔法が出るとは思わなかったので、心臓がバクバクしている。
とりあえず人助けをしたので、元の姿に戻る事が出来た。智も元の人間に戻っている。

「あ〜やっと人間に戻れた。やっぱ使い魔だとよみにこき使われて大変だからな〜」
「お前、今回何もしてないじゃないか!」
「そうだっけ?それより今日はあと一回魔法使えるみたいだけど、空飛んでみたら?」
説明書にはステッキを変型させて空を飛ぶ事も出来るらしい。魔女ものの定番といえば定番だが・・・・・・

「よしやってみるか!」
暦はステッキにまたがって飛ぼうとする。が、何故かステッキは浮かび上がらず
そのまま暦は地面にしりもちをついてしまった。

「いって〜!何でだよ?」
「あはははははは、よみだっせー!!」
「うるせー!笑うな〜」
大笑いされて顔を真っ赤にして怒鳴る暦。ちゃんと読んでないせいもあるが、
ステッキで飛べるのは魔法少女の格好をした時だけなのだ。

「で、どうすんのそのステッキ?あたしは別に使い魔やってもいいよ。楽しそうだから」
ひとしきり笑った後、真顔になり尋ねる。

「そうだな。まだ持ってる事にするよ。意外と悪くなかったし魔法少女」
暦はステッキを見ながらそう呟いた。

「お〜よみさん楽しそうですな〜」
「うるさいな。いいだろ別に」
その後、智と別れて自宅へと戻るのだった。勿論ステッキは持ちかえっている。
今、暦の胸の中は自分が魔法少女になった事でずっとドキドキしていたのだった。

42 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2005/12/06(火) 03:14 ID:???
前スレで少し話題になってた奴を書いてみました。
本当は色々魔法の国とか、3つ全部魔法使おうかとも
色々考えていたんですが、なるべくシンプルにしたかったんでこうなりました。
(その段階では長谷川と千尋も登場する予定でした)

43 :名無しさんちゃうねん :2005/12/06(火) 11:13 ID:???
>>38-42
お疲れ様です。
何やら面白そうな展開になりそうですね。
もし続編があるのでしたら、よろしくお願いします。

44 :風児 ◆iQwkicAw :2005/12/06(火) 17:30 ID:???
>>38-42
これまた面白そうな展開・・・。
恵那天使に笑いました。

45 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2005/12/07(水) 07:49 ID:???
>>43-44
どうもありがとうございます。
一応、そう続編みたいなのも考えています

46 :27GETTER ◆pXWVmj9lto :2005/12/07(水) 20:21 ID:???
>>38-42
ケンドロスさんお疲れです。
恵那=天使ですかw
このキャストは思いつきませんでしたよw
まさか恵那が来るとは。
続編を期待しております。

47 :名無しさんちゃうねん :2006/01/24(火) 21:58 ID:???
質問すいません。
一度書いてみようかと思っているのですが
一回あたり、どれくらいの量を書き込むコトが出来るのですか?
よろしければ、どなたか教えていただけませんか?
よろしくお願いします。

48 :名無しさんちゃうねん :2006/01/25(水) 00:30 ID:???
>>47
4096byte 60行です。
文字にすると2000文字くらいでしょう。

49 :名無しさんちゃうねん :2006/01/25(水) 10:25 ID:???
>>48
ありがとうございます。
書いてみます。

50 :1/3 :2006/01/25(水) 11:20 ID:???
暗い部屋の中、椅子に腰掛け、一人の少女が雪を見ている。

しんしんと降り積もる雪
全てを白く覆い隠す
木の心を 石の心を 水の心を
美しいものも 醜いものも あらゆるものを覆い隠す
何の苦もなく
それは ひどく羨ましくて ひどく切ないもの

「おい、よみー。さっきから電気消して外をぼーっと見て…楽しいか?」
雪を見ていた暦と呼ばれた少女は、呆れたようにその問いに答える。
「バーカ、旅ってのはな、こういう楽しみ方もあるんだよ」

少女は思う。
いつからこの演技を続けているのだろうか。
大事なモノを失わない為の演技。
大切なモノを壊さない為の演技。

「このともちゃんにむかってバカだとー!?バカってのは
 大阪とか神楽みたいなヤツらのコトだー!!」
自らを智と名乗る少女は不満を露わに抗議する。
そして暦は、そんな智をバカにするかの様な態度で答える。
「ヤツらはともかくとして、お前はバカだぞ」
「なんだとー!!」

少女は思う。
いつまでこの演技を続けられるのだろうか。
冷たい雪の凍傷のような苦痛を伴う演技を。
心を降り積もる雪で覆い隠す演技を。

なぜなら、暦は智を愛していたから。
狂おしいほどに愛していたから。
百年でも千年でも抱きしめ続けられるほどに愛していたから。
百万回でも千万回でも愛してると言い続けられるほどに愛していたから。
ただひたすらに、ただひたすらに愛していたから。

「しょうがねーなー」
智は、暦が座る向かい側の椅子に腰掛けながら暦に言う。
「私も付き合ってやるか!」
それを受け、暦は迷惑そうに智に言う。
「…付き合わなくていい。うるさいから」

同性を愛するという、社会において普遍性をもつ禁忌。
暦にとってそのようなものはどうでもよかった。何の障害にもならなかった。
それにより周りの人間に迫害されても罰をうけても、暦には耐えられる。
でも…智にとっては?

51 :2/3 :2006/01/25(水) 11:23 ID:???
少女は思う。
自分が想いのたけを吐露した時の相手の反応を。
拒絶されるであろう時の恐怖を。
関係が壊れるであろう時の恐怖を。

だから演技をする。
それは暦自身で決めたこと。
一人の観客に気づかれないため、という淋しい演技。
この観客が望むなら役者は死をも受け入れられよう。
だが役者は観客に何かを望むことは出来ない。
役者に許されるのは心の中で、観客を愛している、と想うことだけ。

「いやー、まさかよみが福引で温泉旅行を当てるとはねー」
「連れてきてやったんだから感謝しろよ」
 死ヌホド アナタヲ愛シテイマス
「一生分の運を使いきったかもな。受験ヤバいんじゃねーの」
「んなわけねーだろ」
 狂オシイホド アナタヲ抱キシメタイノデス
「それにしても、選んだ相手が私とは悲しいねー」
「どういうことだよ」
 切ナイホド アナタガ欲シイノデス
「早く彼氏の一人ぐらい作れよ」
「お前に言われたくねー!!」
 心ガ張リ裂ケルホド アナタノコトガ好キナノデス

暗い部屋の中、椅子に腰掛け、二人の少女が雪を見ている。

しんしんと降る雪
全てを白く覆い隠す
木の心を 石の心を 水の心を
美しいものも 醜いものも あらゆるものを覆い隠す
何の苦もなく
それは ひどく羨ましくて ひどく憎いもの

しばらくして、暦は智の話しかける。
「とも?」本当の心が溢れないように、気を使いながら。
「とも?」返事は無い。聞こえてくるのは軽く静かな寝息だけ。
「とも?」呼びかける毎に、本当の心が溢れ出しそうになる。
「とも?」起きない。
「とも?」切ない 苦しい 心が張り裂けそうに 狂おしい

52 :3/3 :2006/01/25(水) 11:27 ID:???
…そして暦は初めて、役者を辞め舞台から降りた。
そしてほんの少しだけ本当の心を、智を想う気持ちを込めて、名を呼んだ。

「…とも」今までの言い方とは違う、切なく甘く小さな声で。
「とも」もう一度。
「とも」もう一度。
「とも」もう一度。
少しづつ、少しづつ堰き止めていた心が溢れ出していく。
本当の心が溢れ出していく。
暦には、それを止めることが出来ない。
今まで耐えてきた、今まで押さえつけてきた
智を想う気持ち、智を愛する気持ち。
それらが智を呼ぶ声に溢れていく。
「とも、とも、とも、とも、とも、とも、とも!とも!とも!とも!とも!とも!とも!!とも!!とも!!」
何度も繰り返し、声は噛み殺し、ひたすらに名を呼ぶ。
暦は自分でも気づかないうちに涙を流している。
涙を流しながら智の名を呼び続けた。
決して届くことの無い、届かせられない秘めた思い。
それを「とも」と呼ぶ声に込めながら。何度も、何度も。
智を想い智を愛し、ただひたすらに智の名を呼ぶ。
名を呼ぶ。
  ・
  ・
  ・
「とも、起きろ、おい」
暦は智と肩に手をかけ、ぞんざいに揺り動かす。
役者は再び舞台に上がる。涙は拭いた。心は押し込めた。もう大丈夫。
「バカでもカゼひくぞ」
「ふぁ?」
寝ぼけた様子で智が目を覚ます。
「寝るんだったら布団で寝ろよ」
「あ、あぁ、はいはい」
ふらふらと気だるそうに立ち上がる智。
そこで、ふと気づき暦にむかって怒り出す。
「バカってゆーなー!!」
暦はニヤっと笑い、バカにしたような感じで答える。
「わかったわかった、ボンクラ」
「なんだとー!!」

少女は思う。
これからも演技を続けよう。
大事なモノを失わない為に。
大切なモノを壊さない為に。

少女は想う。
愛する観客のことを。
愛しい智のことを。
雪を演じながら、心の奥底で、深く深く。

53 :47 :2006/01/25(水) 11:31 ID:???
書いてみました。
こういうトコで書くのは初めてなもので
拙いトコもあるとは思いますが、どうぞご勘弁を。

54 :風児 ◆iQwkicAw :2006/01/25(水) 16:57 ID:???
よみとも好きの私としてはものすごくGJなんですけど
ここでやるべきではないかと。

参考

あずまんが百合萌えスレ 2
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1082995228/

よみとも萌えスレッド・2
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1073297135/

次からはこちらで・・・。

作品の感想ですが・・・
情景描写が凄い好きです。私はものっそい苦手なんで
ウラヤマシィ
よみの智に対する狂気じみた黒い感情が雪と対比的・・・
ってのは狙ったものですか?だとしたら、凄ェ。
計算尽くのSSは自分にはムリ(´・ω・`)

55 :47 :2006/01/25(水) 18:55 ID:???
感想感謝です。
これからは、そっち系の話はそちらに書きたいと思います。
ちなみに自分的には雪は象徴として使ってみました。
暦の中で「自己実現の愛」と「他者実現の愛」がせめぎ合っていて
それが凍傷のような苦痛を伴う冷たい雪として表れている、
みたいな感じです。やっぱり話というものを書くのは難しいですね。
次に書くとするなら、百合系じゃない話にすると思うので
もしこちらに書いたときは、ぜひご意見ご感想をお聞かせいただく思っております。

56 :名無しさんちゃうねん :2006/01/25(水) 21:02 ID:???
似たようなSSに手をつけた身としてはなかなか楽しませてもらいました
あめゆじゅとてちてけんじゃ
を何となく連想しました
切ない

57 :1/1 :2006/01/27(金) 22:09 ID:???
青く光る月の下 二人の少女が歩いてる
波打ち際の砂浜を さくりさくりと音を鳴らし
青く光る月の下 二人の少女が歩いてる
水着の跡を残す 日焼けした少女が ほろり呟く
 すっげー しあわせ
長く綺麗な黒髪の 長身の少女は立ち止まる
日焼けした少女を見つめ 月の下で言葉を待つ
日焼けした少女は振り返らずに 言葉を待ってる少女に向かって
照れくさそうに ひとり言のように語りかける
 今 すっげー しあわせだ
 皆と出会えたコトが 今ここにいるコトが 皆と一緒にいるコトが
 本当に 本当に しあわせだ
青く光る月の下 二人の少女が立っている
波打ち際の砂浜を なにかをじっと待つように
青く光る月の下 二人の少女が立っている
水着の跡を残す 日焼けした少女は ほろり呟く
 今 あたしは 死なないんだ
長く綺麗な黒髪の 長身の少女は問いかけない
日焼けした少女を見つめ 月の下で言葉を待つ
日焼けした少女は振り返り 言葉を待ってる少女に向かって
照れくさそうに 説明するように語りかける
 今 あたしは 不死身なんだ
 たとえ今あたしが死んでも 皆が生きていてくれる 皆の中で生きていられる
 だからあたしは死なないんだ だからあたしは不死身なんだ
日焼けした少女は 一気にそれだけ言うと黙り込む
独りよがりな想いかもと 恥ずかしさのため黙り込む
だから長身の少女は優しく微笑む こくりと頷き想いに答える
 あぁ 神楽は不死身だな
日焼けした少女はそれを聞き 身体をぶるりと震わせる
幸福のあまり 身体をぶるりと震わせる
自身を抱きしめるように両肩をつかみ 幸福にぶるりと震わせる
水着の跡を残す 日焼けした少女は 海にむかって叫ぶ
 ちくしょー しあわせだぞ
水着の跡を残す 日焼けした少女は 恥ずかしさを誤魔化すように叫ぶ
 しあわせだー すっげーしあわせだー
長く綺麗な黒髪の 長身の少女は それを黙って見ている
長く綺麗な黒髪の 長身の少女は 微笑みながら黙って見ている
そして日焼けした少女は振り返り 長身の少女を見て笑う
照れくさそうに笑う しあわせそうに笑う
 さあ戻ろう 皆のところへ
青く光る月の下 二人の少女が歩きだす
波打ち際の砂浜を さくりさくりと音を鳴らし
青く光る月の下 二人の少女が歩いてる

58 :47 :2006/01/27(金) 22:15 ID:???
携帯からの入力の為、
改行など読みにくいトコロがあったらお許し下さい。

59 :名無しさんちゃうねん :2006/01/29(日) 00:45 ID:???
>>57
お疲れ様でした
これは詩ということでいいんでしょうか
気合いを感じます

「意余りて言葉足らず」の感があります
「言葉」と、さらに「意」について研究していきましょう

60 :57 :2006/01/29(日) 11:45 ID:???
確かに勢いだけで書いてみても駄目ですね。
精進します。

61 :春日歩の大人計画 :2006/03/03(金) 01:34 ID:???
 卒業を目の前にしたある日のことや。
 私の「だいぶしっかりしてきた」という発言は、よみちゃんによってあっさり覆されて
しまった。
 きっとよみちゃんは試験が近いから、イライラしているんやろう。だから、先に合格し
た私を妬んでいるんや。うん、きっとそうに違いない。
 私自身はしっかりしてきたと思っているし、少しずつではあるけど、大人になろうとし
ているって思うんよ。何とかそれを証明させたいんやけど、何かええ方法あらへんかなぁ。
 そんなことを考えていたときやった。

「よみさん、ここらで休憩しませんか?」
 ペンを置いて背伸びをしたよみちゃんを見て、ちよちゃんが切り出したんや。
「ん、そうだな。ずっと勉強してたから、ちょっと目が疲れたよ」
「おっ、いいねぇ。休憩しようぜ。勉強ばっかりだと疲れるからな」
「お前は何もしてないじゃん」
 智ちゃんの言葉によみちゃんの鋭いツッコミが入った。
「では、コーヒーブレイクをしましょう。今、ケーキとコーヒーを持ってきますから」
 ちよちゃんが立ち上がって、部屋を出て行った。
「よみー、良かったな。シュークリームじゃないけど、甘いものを食べることができて」
 智ちゃんが右肘でよみちゃんの脇腹を突っつくと、よみちゃんが、「うるさいなー」と困
った表情を浮かべとる。
 そんなやりとりを見ながら、私はふとあることを思いついた。
 きっと、これなら、私が大人になろうとしていることを証明できるはずや。特に根拠な
んかはないんやけど、私はその思いつきに自信があった。

 数分後、ちよちゃんがトレーにショートケーキとコーヒーを持って戻ってきた。
「はい、お待たせしましたー」
 ウエイトレスのように、コーヒーカップと苺のショートケーキが乗った皿をそれぞれの
前に並べていく。この辺の手際のよさは私も見習わないとあかんな。
「あ、お砂糖はいくつですか」
「はーい、私は3つー」
 智ちゃんが勢いよく手を上げた。

62 :春日歩の大人計画 :2006/03/03(金) 01:34 ID:???
「私はいらない」
「よみー、無理するなよ。本当は苦いくせに」
「最初はそうだったけど、今は平気だ」
「へっ、大人ぶったことしやがって。じゃあ、お前のケーキも私がもらうぞ」
「何でそういう風につながるんだ!」
「まぁまぁ、ケンカしないで下さい」
 よみちゃんと智ちゃんのやりとりに、ちよちゃんは苦笑いを浮かべている。

「あっ、大阪さんはいくつですか?」
「私も砂糖はいらへん」
「ええっ!」
 ちよちゃんが目を見開き、大声を出した。そんなに驚くことないやん。しかも、さっきま
で言い合いをしていたよみちゃんや智ちゃんまで、ビックリした表情を浮かべている。
 何や、みんなして鳩が豆鉄砲を食らったような顔して。そんなに変なことを言ったか?
「大阪、悪いことは言わないからやめとけ」
 冷静さを取り戻したよみちゃんが、少しずれ落ちたメガネを直しながら言った。
「そうだ、お前にブラックは十年早い」
 智ちゃんも珍しく真面目な顔をしとる。せやけど、あんたは私に先を越されたくないか
ら、そんな風に言ってるだけやないのか。
「大阪さん、本当にブラックで大丈夫ですか?」
 ちよちゃんはちよちゃんで、心配そうな表情を浮かべている。
 どうして誰も「大人だね」って褒めてくれないんや? 智ちゃんに至っては「明日は雨
か雪が降るな」なんて呟いとるし。
「大丈夫やって。私だって少しはしっかりしてきたんや。ブラックぐらい飲めるようにな
らんとあかんねん」
 相変わらず心配そうに見つめるちよちゃんをよそに、私はコーヒーを一口飲んだ。

「うえっ……」
 数秒後、私はコーヒーをテーブルの上に吐き出してしまった。
「ほーら、言わんこっちゃない。お前にはまだ無理なんだよ」
 よみちゃんの言葉が冷たく突き刺さった。私はあまりの苦さにむせてしまって、何も言
い返せない。

63 :春日歩の大人計画 :2006/03/03(金) 01:35 ID:???
「大阪さん、布巾を持ってきました」
 ちよちゃんが持ってきた布巾で、こぼしてしまったコーヒーを拭いた。おかしい、こん
なはずじゃなかったのに……。コーヒーってこんなに苦かったんか?
 コーヒーの苦さがまだ口の中に残っている。更にむせて咳き込んだこともあって、少し
涙目になってきた。これが大人になるための試練なんやろうか。何て厳しい試練なんや。
 こんなんやったら、無理に大人にならなくてもええかもしれない。

「うぅ、よみちゃん……」
 涙目のままよみちゃんを見つめる。
「何だよ?」
「あんた、バケモノや。こんな毒のような飲み物を平気で飲むんやから……」
「なっ――」
「大阪。それは違うぞ」
 何か言おうとしたよみちゃんの言葉をかぶせるように、智ちゃんが言った。
「よみだって、平気な顔してブラックを飲んでいるわけじゃないんだ。本当は飲んでいる
ときに『にが』って言ってるんだからさ」
「よみちゃん、本当なん?」
 私の質問に答えてくれない。唇を噛み締めて、智ちゃんを睨みつけているだけや。せ
やけど、その仕草が全てを物語っている。

「大阪さん、別に無理にブラックにしななくたっていいと思いますよ。コーヒーは自分に
合った味わい方を楽しむものだって、テレビでも言ってましたし」
「そうそう、誰かさんと違って大阪は太ってないんだからさ。別に砂糖をたくさん入れた
って問題ないじゃん」
「別に私だって太っていない!」
「じゃあ、よみも無理しないで、砂糖にコーヒーを入れろよ」
「いや、私にはブラックが性に合っているから、ブラックコーヒーでいいんだ!」
「あっ、そう。じゃあ、私たちは砂糖が入ったあまーいコーヒーを味わおうぜ」
「勝手にしろ!」
 こうして、私は智ちゃんに強引に誘われるがままに、砂糖とミルクの入ったコーヒーを
飲むことになった。せやけど、私には砂糖とミルクがたくさん入ったコーヒーの方が合っ
てるみたいや。やっぱり、ちよちゃんの家で飲むコーヒーはこれに限るな。
 でも、ブラックコーヒーが飲めないことで、私が大人になろうとしていることを証明す
る機会が遠ざかってしまった。仕方がないから、また別の方法を探すか。
(終わり)

64 :眠名有 ◆GtfGIppaeU :2006/03/03(金) 14:11 ID:???
乙ですー
結構良かったんですけど……
途中から大阪弁と標準語が混じってますね。
そこを全部大阪弁に統一できてたらよかったなー

65 :insider-1 :2006/03/18(土) 01:15 ID:???
 春休みを目前に控えたある日の放課後の職員室。
 ある目的を胸に秘めた私は、彼女の姿を視界に捕らえ、深呼吸をした。
「やっぱりちよちゃんは戦力になるし、外せないわね。あと、体育祭に備えて榊も入れて
おかなくちゃ……」
 クラス替えに備えて、自分のクラスに入れたい生徒をピックアップしているみたいだ。
この話を切り出すには好都合だと感じながら、すぐそばまで近寄り、彼女の目の前で立ち
止まった。

「谷崎先生」
 私が呼ぶと、彼女は一瞬驚いた顔を見せた。私が声をかけるのが珍しいというのもある
だろう。
「何でしょうか」
 不機嫌そうな声を出し、ピックアップ作業を見られたことが気に入らないといった感じ
で私の顔を怪訝そうに見ている。
「実はちょっと谷崎先生にお話がありまして」
 ずれ落ちた眼鏡を人差し指で直しながら、話を続ける。
「話って何ですか?」
「ここじゃ何ですので、場所を移しましょう」
「別にここでもいいんじゃないんですか?」
「いえ、人に聞かれるとちょっとまずい話ですし。お互いのためにも移動した方がいいと
思うんです」
「はぁ、そうですか。分かりました」
 要領を得ない彼女を無理矢理連れ出すように職員室を出ると、隣の会議室に入った。コ
の字状に並んだ机の一角に彼女を座らせ、私はその横に並ぶ。

「それで、何でしょうか? 話というのは」
「谷崎先生」
 窓からの景色を眺めながら、私は小声で呟いた。午後の光が眩しい。
「以前、休み時間中に学校を抜け出し、買い物に行きましたね」
 振り返ると、谷崎先生が目を見開いて、何でそんな知っているのと言いたそうな感じで
こちらを見ている。

66 :insider-2 :2006/03/18(土) 01:15 ID:???
「しかも、買いに行ったのがゲームソフトとじゃないそうですか。教師たるものがそんな
ことでは、生徒に示しがつきませんよ」
「そ、そんなこと、あなたに関係ないじゃありませんか」
「えぇ、私には関係のないことです。しかし、一教師としてこの由々しき事態を見逃すわ
けには行きません」
 きっぱりと私が言い切ったこともあって、目の前の女性は睨みつけるようにこちらを見
ている。それを和らげるように、私はにこやかな笑みを浮かべた。

「でも、もし私の言う条件を満たしてくれるのなら、この件は私の中で秘密にしておきま
しょう。どうです、飲んでくれますか?」
 彼女からの返事はない。了承したと思い、そのまま話を続ける。
「かお――」
「言いたきゃ、言えばいいじゃない」
 妙に投げやりな口調だが、提案を拒否する上では強烈な一言だ。眼鏡がずれ落ちそうに
なるが、それを人差し指で食い止める。
「その件なら、後藤先生に注意されました。もう、納豆ぐらいにネチネチとね。だから、
今更どーのこーの言われたって、どうってことはないわ。ただ、嫌なことを思い出したっ
てことぐらいかしら」
 どうやら、この話をネタに彼女と取引をするのは不可能なようだ。

「ところで、話ってそのことだけでしょうか? だとしたら、戻ってもいいですか。私も
こう見えて結構忙しいので」
「ま、待ってください。まだ話は終わりじゃありません」
 立ち上がり、会議室を出ようとするのを引きとめるべく、両手を差し出す。露骨に嫌そ
うな顔を浮かべて、彼女が私の顔を睨んでいる。視線の鋭さにひるみそうになるのをこら
えて、話を切り出す。

「谷崎先生、あなた去年の冬に、駅で困っている外国人を見捨てたことがありましたね。
あれは人としてどうかと思いますよ。せっかく海外旅行に来ている人を無下に扱うなんて。
日本人の美しいイメージが崩れてしまいます」
「何でそんなことを知っているんですか……」
 再び目を見開いて、こちらを見ている。覚えているのなら、話が早い。

67 :insider-3 :2006/03/18(土) 01:16 ID:???
「もしかして、見ていたんですか?」
 相手の問いかけに、「ええ」と呟き、一度だけ首を縦に振る。
「あの後、私がボディランゲージで道案内をしてあげましたよ。言葉は通じ合えなくても、
気持ちは通じ合えたはずです。オリバーはそう言ってました」
「言葉が通じなくて、どうしてオリバーと気持ちが通じ合えたって分かったんですか?」
「別れ際に握手をしたからです。彼の手の温もりは人としての温かさそのものなのです。
ただ、私としてはグラマーな女性の方が良かったのですが……おっと、これは関係ないで
すね」
 油断すると女性の話になってしまうのを堪え、再び彼女を見る。何を言いたいのかとい
う苛立ちを感じた表情を浮かべている。

「つまり、谷崎先生が原因で国際問題に発展しそうな事件を私が未然に防いだのです」
「別に私が悪いわけじゃないと思いますが。日本語も満足に話せないのに、日本に来る方
が悪いんだから、当然の報いよ」
 不満を隠すこともなく、ぶっきらぼうに呟くのを見届けた後、再び私は口を開く。
「でも、私が国際問題を未然に防いだのは事実です。つまり、あなたは私に感謝をしなく
てはいけない。しかし、私はそこまでおこがましくはありません。ですから、ここは取引
をしましょう。是非とも、かおり――」
「あっそ、それはどうもありがとうございました」
 一応礼はしているが、投げやりな態度で決して感謝をしているとは思えない。それに、
この話での取引も失敗のようだ。やはり、この手の脅しに屈するタイプではないか。

「これで用は済みましたか? それじゃ、私は失礼します」
「あぁっ! ちょっと待ってください」
 右手を伸ばし、出て行こうとする彼女を引き止める。
 こうなった以上、小細工はやめにしてストレートに勝負した方が良さそうだ。
「すいません、もう一つだけお話があります」
「本当にもう一つだけなんですか?」
 明らかに不機嫌な声だ。しかし、それに構っている暇はない。
「谷崎先生、一生のお願いです!」
 私はその場に跪き、土下座をする準備を整えた。

68 :insider-4 :2006/03/18(土) 01:17 ID:???
「かおりんを私のクラスに譲ってください!」
 叫び声とともに頭を床にこすりつける。
 ほんの数秒ほどなのだろうが、永遠のように長く感じられる沈黙が漂った。聞こえてく
る音は外で鳥がさえずる声と、グラウンドで部活動をしている生徒の声ぐらいだ。

「えぇ、別にいいわよ」
 数秒後に出た意外な一言に、私はぱっと顔を上げて、彼女の顔を見つめていた。
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。でも、タダっていうわけにはねぇ。『地獄の沙汰もなんとやら』って言うじゃあり
ませんか」
 彼女が親指と人差し指で輪を作っている。要するにお金が目当てなのか。しかし、その
程度の要求ぐらいなら、大したことはない。
「それはもちろんです」
「そう、それじゃ、とりあえずこれで」
 ピンと伸ばした人差し指が私の目の前にある。これが要求する金額なのだろう。
「そうですか、一万円なら安いものです」
 早速ポケットから財布を出すと、私は一万円札を出し、それを彼女に渡した。
「それじゃ、契約成立ってことでいいですね」
「ええ、良いわよ」
 視線は私にではなく、私が手渡した福沢先生の方をじっと見つめている。
「どうもありがとうございます! 谷崎先生は女神様のようです!」
 何度も何度も礼を繰り返す。そうでもしないと、感謝してもしきれない程だ。
「それでは、失礼します!」
 有頂天のあまり、スキップで廊下に飛び出す。
「あぁ、かおりーん。これで僕と君は一緒だよー」
 歓喜のあまり涙がこぼれ落ちた。しかし、今はこの喜びに浸りたい気持ちもあって、涙を
拭うこともせず、そのまま廊下をスキップで走り続けた。
 私は今、世界中の誰よりも幸せなのだから。
(終わり)

(オマケ)
「あれ、私は千円のつもりで言ったんだけどな。まぁ、木村も喜んでたみたいだし、別に
いいか」
 ゆかりは思わぬ形で転がり込んできた一万円札をじっと見つめ、再び笑みを浮かべた。

69 :風児 ◆iQwkicAw :2006/03/18(土) 17:30 ID:???
かおりん・・・ゆかり的相場1000円・・・

報われねえw乙です。

70 :眠名有 ◆GtfGIppaeU :2006/03/18(土) 22:18 ID:???
三年生のいけいけかおりんのあれですかー
キムリンとゆかりちゃんの会話に笑わせていただきましたwww


乙です

71 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:02 ID:???
魔法少女暦ちゃん 「Wing」

水原暦が初めて魔法を使ったその夜、勉強している暦の前に再びあの天使の恵那が現れた。
ステッキから出てきたのは言うまでもない。

「さっきはごめんなさい。お姉ちゃんに呼ばれてて」
「いやそれは気にしていない。それよりも恵那だったっけ?君は一体どこから来たんだ?」
「魔法の王国マジカルランドからだよ」
「マジカルランド?それと同じ名前のテーマパークがあったな」
しかし暦はそれ以上の事は気にしなかった。偶然の一致などはよくある事である。
気がつけばタメ口になっている恵那。しかし暦は別に気にしなかった。

「で、私に何か用?」
「正式にそのステッキの使用者に選ばれたからあなたに便利なアイテムを届けにきたの」
と言って指輪らしきものを二つ渡された。

「これは?」
「ひとつはあなたにもうひとつは使い魔の人に渡してください。
これを持ってるとどんなに遠くにいても連絡がとれるんです」
「ともとどこにいてもか。何か用もないのに呼び出されそうで嫌だな」
「その心配はないです。召喚が出来るのは基本的に主であるあなたの方だけです」
またまた敬語で話す恵那。それを聞いて暦はホッとなる。

「それを聞いて安心した。連絡手段としては確かに持っていた方がよさそうだ。
ありがとう」
暦は素直に指輪を受け取った。

「あと使い魔さんが使える能力だけど・・・・・・・」
そこにまたも携帯電話が鳴り響く。

「もしもし。あっ風香お姉ちゃん。え?どうしてそんな事になってるの!?」
何やら切迫した事態になってるようだが、どうせ大した事じゃないんだろうなと暦は心の中で思った。

「すいません、ちょっと風香お姉ちゃんが大変なんでこれで失礼します!」
「あ、ちょっと!使い魔の能力は・・・・・・・」

72 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:04 ID:???
暦が引き止める間もなく、恵那天使はまた消えてしまった。

(あいつ、どうやら二人の姉がいるみたいだな)
と暦はわりかしどうでもいい事を考えていた。
結局いくら待っても恵那天使は戻ってこなかったので、暦はそのまま眠る事にした。

翌日になって、暦はいつものように登校する。

「おっはよーよみ!元気してたか!」
「おはようとも。お前ほどじゃないけどな」
そして今日もハイテンションで挨拶してくる智。暦もいつものように軽く流す。

「あ、そうだ。恵那天使からこれもらったんだ」
と言って暦は智に昨夜もらった指輪を手渡した。

「何だ、これ?」
「私達の連絡手段に使う為のものらしい。これを使えばどこにいても連絡がとれるそうだ」
「へー携帯電話よりも便利なのか?」
「お前、そりゃ魔法のアイテムで携帯に負けてちゃ立つ瀬ないだろ」
「それもそっか。どこにいてもか」
「言っておくけど、魔法絡み以外では絶対に使うなよ!」
「うー!」
機先を制され、智はふてくされる。

「おはよう!二人共、何やってるの?」
そこにショートカットの髪型の少女が話しかけてきた。クラスではよく一緒になって話す千尋である。

「お、おはよう千尋!」
「千尋、聞いてよ。あたし達さあ〜マホ・・・・・・むが」
喋ろうとした智の口を慌てておさえる暦。

「何すんだよ!」
「バカ!いきなり魔法のことなんて話して信じてくれると思うか!?
大体魔法の事が分かったら、いろいろまずい事になるかもしれないだろ!とりあえず黙っておけ!」
文句を言う智の首ねっこを掴んで暦は手早く話した。

73 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:05 ID:???
「ちぇっ、考えすぎだと思うけどな。まあいいよ、そうしとくか」
「どうしたの?二人共」
不思議そうに千尋は二人を見た。

「あ、いや何でもないんだ!何でも!!」
と手を振ってごまかす暦。だが、千尋は智と暦が同じ指輪をしていることに気付いた。

「もしかして・・・・・・二人ってそんな関係だったの!?いつも一緒にいるからもしかしてと思ったけど・・・・・・・」
「はあ?」
千尋の突拍子のない言葉に唖然となる二人だったが、千尋はまだ続ける。

「いいの!分かってるから!!そういう事ならいう訳にはいかないもんね!
頑張って二人共!!応援してるよ!あ、もうこんな時間だ!早くしないと遅刻するよ!」
言いたいことを言って千尋は走り出してしまった。

「千尋、あいつ絶対何か勘違いしてるぞ」
「まあ、魔法の事はバレてないみたいだしいいんじゃねーの?」
暦、智も後に続いた。

(おーいよみ。聞こえるか〜)
(バカ!授業中に使う奴があるか!)
(そうは言ってもぶっつけ本番で使うより、試しに使ってみたほうがいいだろ)
(まあそれはそうだが、これ以上は使うなよ)
この指輪を使うと、どうやら装着した相手の心の声がそのまま脳に伝達されるようである。
もちろん声を出しても通じる。この後智はこれをやってゆかりに頭をはたかれた。
教科書でだが・・・・・・・

「授業中いきなり大声だすなっての!!」
「あった〜ちっとは手加減してよ、ゆかりちゃん」
そんな事をしているうちにあっという間に下校時間となった。

「学校にいるときに何も起こらなかったな。つまんねーの!」
「いる時にトラブル起こったら、対処しにくくてしょうがないぞ!」
退屈そうに欠伸をする智に暦はそう言った。

74 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:06 ID:???
そんな訳で二人は一旦別れて帰宅する事になるのだが・・・・・・

(よみ!・・・・・・よみ!)
勉強している暦の頭の中に智の声が響いてきた。
どうやら指輪を使ってテレパシーを送っているらしい。

(どうしたんだよ!魔法を使う時以外は使うなって言っただろ!)
(ちょっとやばい事になっててさ!魔法使いになって来てくんねーか!)
どんな理由が分からないがあの智がやばいというくらいだから緊急事態なのだろう。

(分かった!すぐ行く!)
暦は通信を終えて、ステッキを取り出した。

「メタモルフォーゼ!」
暦が叫ぶと、暦は魔女の姿となった。何かを念じるとステッキがほうきに変化した。

「ベタだけど、これがあると魔女って感じがするな。あいつも呼び出しておくか。
我の呼びかけに応えよ!」
暦はほうきにまたがって空を飛んだ。召喚魔法を唱えたらしく使い魔の姿になって智が現われた。
猫のような姿だ。智は暦の肩の上に乗る。

「うわ!びっくりした!いきなり使い魔にされて気付いたらよみが前にいるんだもん!」
「そんなことより、ここまでしたんだからくだらない理由だったら承知しないぞ!」
「分かってるって!とりあえずあっちに向かってくれ!」
「分かった!」
智の指差す方向を目指して飛んでいく。

「見えてきた!ほら、あそこだよ!」
智が指を指したので、暦は高度を下げてその場所に向かう。
目に入ってきたのは小さな女の子が木の上からさかさまに落ちそうになっていたのだった。
近くに引っかかった風船がある事から、どうやらその風船をとろうとして落ちそうになっているらしい。

「うわ!確かに大変な事になってるな!てかお前助けようと思わなかったのか?」
「そんな事言ったって、登ろうとすると何か木がみしみしっていうから、
下手に登ったらヤバいんじゃないかって思ったんだよ!」
暦に言われて智は言い返す。

75 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:09 ID:???
そうこうしている内に、少女がぶらさがっている枝は強度を失いつつある。
木の高さから言って落ちたら怪我は確実だろう。

「とにかく助けなきゃ!」
「でも魔法を使ってるのを見られたら」
暦が魔法を使うのを躊躇ったその時、ついに枝が限界を迎えて折れた。
少女はまっさかさまに落ちる。
考えるより先に智は飛び出していた。

(もしあたしが飛べたらな)
そんな事を考えた時だった。突然智の体が光だし、背中に羽が生えたのだ。
智は少女を救い上げてからそれに気付いた。

「何だこれ?あたしの背中に羽が生えている!」
智自身がそれに驚いていた。

「ふぅ、あいつ心配させやがって。さて風船は?」
暦が振り返ると今のショックでか、風船は空へと舞い上がっていく。

「仕方ない魔法を使うとするか」
暦は一度地上に降りてから、ホウキをステッキに戻し魔法を唱える。

「我は望む。我が指し示した物を我の元へ!」
暦がステッキで風船を指すと、風船は姿を消して暦の手の中に現われた。

「おーすげえ。まほうみたいだ〜」
助けられた女の子は緑色の髪をしており、後ろに髪をふたつにして結わえている。
とても元気そうな少女だった。

「まあ、そんな感じかな」
「ほら、風船。もう手を離すんじゃないぞ」
「おーたすかった!もうゆうがたになったからかえる!とーちゃんしんぱいするからな!
ありがとう!ネコとまほうつかいさん!」
その少女はとびっきりの笑顔を見せた後に、風船を持ってとても早いスピードで駆け抜けていった。
あっとういう間に少女の姿は見えなくなった。
ちなみに魔法を使うところは見られていない。少女は格好を見てそう言っていたのだ。

76 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:11 ID:???
「なあよみ!あたし飛んだよ!空を飛んだんだよ!すっげー!!」
少女が見えなくなった後、智は大興奮しながら暦に言った。
暦に抱きついてきてはしゃぎまくる。ちなみに背中の羽は今はもう無くなっている。

「こ、こらやめろとも!あんまりくっつくな!!」
暦はそんな智を引き剥がしながら、説明書を取り出す。

「あたしが飛びたいって思ったらあたしの背中に羽が生えたんだ」
「多分使い魔であるともの能力は今みたいに強く念じた事に応じて、
それをなす為に必要なものを具現化するんだろうな」
「よーするにあたしの思った事を形にしてくれるんだ!」
「そういうこったな。でも気をつけた方がいいぞ。
こういうのって使えば何かしらの負担がかかるだろうからさ」
「そーいや何だか妙に眠いや」
と、智は目をこする。その時智はここに誰かが近づいてくるのに気づいた。

「よみ!早く戻ろうぜ!千尋がこっちに来てる!」
「マジか!急いで戻ろう!」
智に言われて暦は変身を解いた。智も元の姿に戻る。それからしばらくして千尋が本当にやってきた。

「あれ?よみにとも。こんなとこで何してんの?」
「あたし等はちょっと散歩かな。千尋は?」
「私はちょっと買い物行っててその帰りなの」
「そ、そうなんだ。じゃあ私達急ぐんでこれで」
と逃げるようにこの場を去る智と暦。

「あ、ちょっと二人共!変なの」
千尋が止める間もなく二人はいなくなった。千尋はそんな二人に首を傾げたが、すぐに自分もここを後にした。

「どうやら使い魔になってるときは感覚が通常より敏感になるみたいだな」
「おかげで助かった。あーそれにしても今回はともちゃん大活躍だぜ!」
「バカ言うな!私の魔法あってだろ。それより憧れのホウキにまたがって空を飛ぶことが出来るなんて夢のようだな」
「前は尻餅ついたんだよな」
「う、うるさい!」
顔を真っ赤にして怒鳴る暦。
その後智と暦は互いに笑いながら帰り道を歩くのだった。 

77 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2006/04/19(水) 02:13 ID:???
魔法少女シリーズ、すっごく間が空きましたが
第二弾でした。最初は千尋に戻るとこを見られるように
しようかと思いましたが、二回目でそれは早すぎると思ってやめました。
基本的に魔法を使うシチュエーションを考えるのが一番悩みますね。
では

78 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/04/19(水) 20:11 ID:???
乙ですー

こんどはよつばも登場ですか。
とーちゃんとかあさぎさんもこの後登場するんでしょうか?
期待してますー

79 :名無しさんちゃうねん :2006/05/17(水) 03:20 ID:???
停止?

80 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 21:45 ID:ez-Y/yZGnYc
勝手に投下!

81 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 21:45 ID:ez-Y/yZGnYc
【願い】(あずまんが大王4巻131ページ参照)

 部落差別は今の時代も続いている。地方のローカルな地域で、一人だけ東京生まれがいるとみんながその一人を何気なく都会生まれでかっこいいと思うことと理論は同じだ。
 私の育った地は昔から忌み嫌われていた。貧困と差別と暴力だけが隠れて村を支配していた。私の家も町からは嫌われていた。
 父ははやくして亡くなり貧しい生活の中、母は死にもの狂いで仕事をして私を育ててくれた。朝から畑で農作業をして、疲れきった体にムチを打って夜遅くまで内職をしていた。それでも貧しい生活だった。
 私の十何回目かの誕生日の朝、母が私に僅かなお金を与えてくれた。
 『ごめんね、お母ちゃん本当に忙しくて、あんたの誕生日のお祝いもしてやれないけど……これ、少しばかりだけど、なにかあんたのためになるものを買いなさい。』
 そういった母に私は『お母ちゃん、ありがとう。』と一言だけ言った。
 母がくれた硬貨ばかりの僅かなお金は、母の手垢がついて、錆びていた。毎日の農作業のため土もついて汚れていた。だが私にとってそれはどんなにかけがえのないお金だったか計り知れない。
 私は隣町まで歩いていって、色んなお店を長く見ていた。このお金で買えるものはそう多くなかったが、それでも今日は特別な感じがして本当に楽しかった。
 花屋さんの前を通りかかった私の目に映ったのは、色鮮やかな花の苗だった。
 『そうだ、これを買って帰ろう。お母ちゃんもどんなにか喜んでくれるだろう。』そう思った。
 苗をひとつだけ買って私は帰途を急いだ。もう空は暗くなっていた。
 私の家まであと何十メートルかまで来た時に、私の家が騒がしいことに気付いた。妙な不安を感じて私が急いで家に駆け込むと、そこには布団に横たわった母がいた。
 『お母ちゃん!!』
 そういって私は母に駆け寄ると、近所で私達と同じように部落差別をうけている仲間のおじさんが私にいった。
 『母ちゃんな、あいつらの子供に石投げられたんや! 見てみい、血いでとる……バイキン入って母ちゃん倒れてしもたんや!』
 今でいう破傷風だった。体に元々疲労が溜まっていた母にとって致命的だった。

82 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 21:45 ID:ez-Y/yZGnYc
 私は朝晩つきっきりで看病をした。どうしていいのかわからずに言葉もでないくらいに高熱に病む母の額に冷たく濡らした手拭いを当てることと、有り合わせで栄養のない食事を作ることしかできなかった。
 虐げられている身分で医者も診に来てなどくれないし、その医者に払う金もないまま、私の疲労も限界が来ていた。私は夜長に最後の母の額に手拭いを乗せるとそのまま力尽きて眠ってしまった。
 朝になって目覚めてみると、母は穏やかに息を断っていた。私は疲労と悲哀の中、母に、母のため、母のくれたお金で買った花の苗を瞑った瞳の前に、だしてみせた。
 『……母ちゃん喜ぶと思うて、母ちゃんから貰ったお金でこの花買ってきたんよ……なあ、母ちゃん、キレイな花やな……なあ……母ちゃん、何とかゆうてや……母ちゃん!!!!』

 私は貧困が、差別……差別がこんなにも憎たらしいものかと思った。それからは自給自足で生活をしながら時間があるとそれだけおじさんがくれた本や町に捨てられた本を拾って勉強した。
 母の今わの際に一輪の花も見せてやれなかったことが、どんなときも私の背中を押して勉強させた。差別への憎しみが私の背中を押した。
 私が大学にでも入っていたなら、私の家は頭のいい子がいると思われてこんなにも酷い差別は受けなかったろう。私が稼げるほど優秀なら母にこんなにも負担をかけることはなかったろう。
 そんな思いだけが私を押した。押されてここまで来たのだ。



 「どうしたの、あなた?」
 「……ん……? あ、いや……長い夢を見ていたようだ…………。」
 「大丈夫かしら? 今日はあそこの神社にお詣りに行くって言ってらっしゃったけど、行けるかしら?」
 「ああ、大丈夫だ……。」



 「頼むぞー五百円――」

 ――チャリン パサ

 (一万――!?)

 「うわぁ! 一万円でなにを……」

 ――パン パン

 「――世界人類が平和でありますように」
 「何ィ!? 一万円でそんな願いでいいのか――!?」

 「これ以上何を望むというのです?」

 (――これ以上……何を、何を望むと……)

終わり

83 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/06/11(日) 21:59 ID:???
乙ですー。

いやー、木村先生苦労したんですねぇ……

84 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 22:09 ID:???
>>80-82
お疲れ様です
・・・でも、上げちゃダメですよ・・・

85 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 23:07 ID:???
すーぱーさげついでに、SSスレって3つあって1つの方向性は大体わかるんだけど
この控室スレとSSを発表スレの違いがよくわかんないんですよね、どういう判断で使い分ければいいのか

86 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/06/11(日) 23:13 ID:???
>>85
基本的に控え室はsage進行なので、長いやつ。
発表スレが短めのやつですかね。

87 :名無しさんちゃうねん :2006/06/12(月) 00:01 ID:???
>>80-82
全米が泣いた・・・いやマジで泣いた。
人に歴史あり。


でも下げようね・・

88 :名無しさんちゃうねん :2006/06/12(月) 00:05 ID:???
>>83-87
あ〜、すいませんです。気づきませんでした……

89 :名無しさんちゃうねん :2006/06/14(水) 01:42 ID:???
>>80-82
乙です、いや〜なんというか壮絶。
ラストの木村先生のセリフは重みがありますね。

「ご飯が食べれられる事が一番の幸せ」っていうやなせたかしの言葉を
思い出しました。

90 :古文の時間 〜1時間目〜 :2006/06/22(木) 23:05 ID:???
 「……ハァ……」

 ――ガラガラ

 「あっ……せ、先生……」
 「まったく、凄い雨ですなあ。今日は傘を忘れてしまいまして、帰るに帰れないのですよ。」
 「そ……そうですか……」
 「榊くんも、そういった事情ですか?」
 「え……いや……あの、そうです……」
 「フム、私の通った小学校では、傘を忘れた子のために黄色い傘を常備していたものですが……
 やはり高校にないというのは……いかにも社会人になるに連れて、自分の失敗を自分で取るということを暗に伝えているような気がしますなあ。」
 「…………」
 「しかしまあ、小学生もなかなか立派なものです。小学生の子が傘を忘れるよりも、教師が忘れて借りていくほうが多いというのですから。
 もしかしたら社会人になりきれていない教師の方々のためにあるのかもしれませんな。いやこれは傑作だ!」
 「そう……なんですか……フフッ……なんだかおかしいですね……」
 「……やはり人は笑っているほうがいい。女性に限らず、男性だって。」
 「あ…………」
 「なにか悩み事でも……? 私でよければ……」
 「……いえ……別に……」
  「うら若い女子高生が、放課後の教室でひとり、ため息をついているなんて、悩み事がないほうが不自然ですな。」
 「…………」
 「やはり、私では役不足ですか。谷崎先生や黒沢先生のほうがいいみたいですな。」
 「い、いえ……別にそんな……」
 「なら話してくれますね?」
 「あ……その……いえ、ただの思い過ごしかも……」
 「そういったほのかな心配事を聞くのも、教師の仕事です。それができないようでは、教師をする資格などありませんよ。」
 「……あの……私の……友達のことなんですけど……」
 「わかりました、どうぞ気が楽になるように吐き出してみなさい。」
 「……私は……みんなの中で……その……浮いている気がして……」
 「…………」
 「私は面白い話もできないし……愛想笑いもできない……ただいるだけで、その場をシラケさせてしまっているような……そんな気が……」
 「…………」
 「このあいだも……ちよちゃんの別荘に行ったんですが……やっぱり私は、なんか打ち解けてない気がして……」
 「…………」

91 :名無しさんちゃうねん :2006/06/22(木) 23:05 ID:???
 「でも……別に、もっと優しくしてほしいとか、そういうことじゃなくて……ただ……誰にも必要とされないのが……嫌で……」
 「…………」
 「……私は……中学校で……友達いなくて……浮いてて……だから……だから……またあの時みたいに戻るのが……とても怖くて……」
 「…………」
 「あんなに誰かと仲良くなったのなんて初めてで、どうしたらいいのかわからないまま……また誰からも必要とされなくなっていく気がして……」
 「…………」
 「その……それが心配で……先生……?」
 「……今日のお昼は、スーパーのお寿司でした。」
 「えっ……?」
 「妻が風邪気味でね。仕方なく買ってきたのです。」
 「…………」
 「スーパーのものといっても、なかなかおいしいものです。榊くんはお寿司といったら何から食べますかな?」
 「あの……やっぱり……いえ……忘れてください……今の話……」
 「榊くんはお寿司といったら何から食べますかな?」
 「あの……何があるかわかりませんので……」
 「まあ一般的にですよ。」
 「……ヒラメか……タイ」
 「なかなかいい選択ですな、君は敷居の高いお寿司屋さんでも粗相なく食べられそうだ。」
 「あの……それがなにか……?」
 「私も最初は味の薄くて鮮やかな白身から食べますな、寿司は得てしてそういう趣向になっています。」
 「…………」
 「君は美浜くんに誘われたのでしょう? 無論、別荘へのことですが。」
 「え……? あ……はい……図書館で偶然……」
 「ふむ。それで、君はお寿司を普通にそのまま食べるんですか?」
 「……??? あの……え……? いや……その、まあ……そうですが……」
 「それは不思議な話ですね……君は醤油は嫌いなのですか?」
 「え……? あ、いや……醤油なんて普通についてるものだと……思って……」
 「そう、当然、誰もがそう思いますなあ。当たり前過ぎて気付かないんです。君も、それと同じですよ。」
 「え……?」
 「君の存在があまりにもあの子たちに浸透してるんですよ、だからこそ、そこにいるのが当たり前過ぎて、みんなが君に気をつかわないんですよ。」
 「…………」
 「君が欲しいのは、気を使ってくれる優しい友達ですか? それとも気を使わなくて済むような親しい友達ですか……?」
 「…………」
 「私は、生徒に気を使われる先生には……なりたくないですね。」
 「…………」

92 :名無しさんちゃうねん :2006/06/22(木) 23:06 ID:???
 「勿論、味を引き立てるための醤油が、自己主張しすぎて濃すぎたりしたらダメです。しかし、薄すぎては物足りない。」
 「…………」
 「君が自分を浮いていると感じるのならば、地に足をつけばいい。君の価値を決めるのは君ですよ。君が自分の価値を高めるなら、君の味わいも一層浸透することでしょう。」
 「…………」

 「さあ、雨もやんだようですな、私はそろそろ失礼致しましょう。愛する妻が待っていますのでね。」
 「あの……先生……」
 「なんでしょうか?」
 「私は……その、先生のこと……誤解してたみたいで……」
 「誤解などしていませんよ、アレもいつもの私の通りです。包み隠さずがモットーですので。誤解していたと思っていたのが誤解ですよ。何かあったらまた相談に乗ります。」
 「でも……私なんかに……こんな……」
 「女子高生とか好きですから!! ハハハ! いやこれは傑作だ!」
 「……フフッ」
 「君は笑っていたほうがかわいいですな。」
 「え……! あ、あの……その……あ、ありがとうございました……失礼します……」

 ――タッタッ

 「ハハハ、若いとはいいものですなあ!」

 ――ガラガラ パタン

 「フム……キレイな青空だ……雲に隠れていない青空は美しい……」

 「止まない雨などないのですよ……」

 《終》

93 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/06/23(金) 00:32 ID:???
うおおおお!
マジで乙。
キムリンらしさを消さずに、ここまでヒーローなキムリンが書けるとは……

94 :名無しさんちゃうねん :2006/06/23(金) 21:29 ID:???
二時間目も書いてます!!

95 :名無しさんちゃうねん :2006/06/25(日) 21:38 ID:???
>>94
久々の良作ですね・・キャラが崩れてないのがすごい。
二時間目も期待しています。

96 :名無しさんちゃうねん :2006/06/26(月) 22:50 ID:???
 
テスト

97 :名無しさんちゃうねん :2006/07/16(日) 23:20 ID:???
二時間目はまだでつか? >94のレス見て以来、ずっと正座して待ってるのですがw

98 :名無しさんちゃうねん :2006/08/04(金) 01:11 ID:???
>>94
今更読ませてもらったのですが、木村先生の含蓄ある言葉に感動しました。
短い作品の中でこれほどの感動できる話を書けるなんてすごいですね。
続編が完成する日を心待ちにしています。

99 :ひねくれ者 :2006/08/05(土) 00:29 ID:???
 遂に、私は驚愕の事実を手に入れた。
 それは、テレビを見ていたときに、ひょんなことから知ったんや。まさか、しゃっくり
を止めるツボがあるなんて、そんなん知らんかったわ。
 せやけど、これを知った以上、この前のようにしゃっくりが止まらなくなって、大変な
目に遭わなくても済むんや。もう、あんな思いをするのは嫌やからな。
 
 これで私は他の人とはちょっと違う知識を得たんや。「まめちしき」が一個増えたわ。豆
と関係ないから、豆の知識やないけどな。
 よし、早速効果があるか試してみるで……って、しゃっくりが出てないのに、ツボを突
いてもしょうがないわ。
 ほんなら、しゃっくりを出せばええんやな……って、ここで私は重大なことに気付いた。

 しゃっくりってどうやって出せばええのん?

 よく考えたら、くしゃみやあくびと違って、しゃっくりって自発的に出そうと思って出
せるもんやない。自分の意思とは関係ないときに出るもんやないか。
 計画は最初のところでつまずいてもうた。しかも、自分の力じゃどうすることもできへ
んやないか。
 こうなったら、自分で辛いものを食べて、しゃっくりを出すしかない。効果を試すため
にはこういう犠牲も必要や。

 そういうわけで、私は台所から唐辛子を持ってきたんや。
「この前はよみちゃんの激辛唐辛子コロッケを食べてしゃっくりが出たんやから、ワサビ
よりは唐辛子がええかもしれないな。せやけど、あんな死にそうな思いはしたくない。今
回は少なめにしてみるか」
 キャップを開け、少しだけ手の平に乗せてみる。赤い小さな塊が、私の目の前にある。

100 :ひねくれ者 :2006/08/05(土) 00:29 ID:???
「これを飲めば、しゃっくりが出るはずや。そう、これを飲めば……」
 頭の中では分かっているんやけど、それを飲む勇気が湧いてこない。呼吸が小刻みに震
えとるのが自分でも分かる。それに、赤い魔物が手の平で踊っているように見えるんや。
「せやけど、しゃっくりを出さなあかんのや!」
 意を決して、赤い魔物を一気に口の中に入れた。

 数秒後に、出たには出たんや……。
 涙が、両方の目からとめどなく溢れ出とる……。せやけど、今の私にそれを止めること
はできへん……。
 あと、咳もさっきから出まくっとる……。むせて咳き込んだことで、息苦しくてかなわ
んわ……。
 まさにこの世の地獄や……。
 私は今、何でこんなことをしたのかっていう後悔が、頭の中でぐるぐると渦巻いとる。
しかも、その渦で目が回りそうや。

 それなのに、肝心なしゃっくりはちっとも出てこないやんか。作戦は失敗や。
「何でや、あんだけ唐辛子を口の中に入れたのに、何で出てこないんや……?」
 涙が止まらへん。唐辛子の辛さで泣いとるのか、しゃっくりが出てこない悔しさで泣い
とるのか自分でも分からへん。せやけど、涙をぬぐうこともできないほどにショックを受
けていることだけは、紛れもない事実や。

「あかん、ほんまにしゃっくりは出とらへん。もしかして、もっと唐辛子を食べないとあ
かんかったんか……? せやけど、これ以上やったら、私は死んでまう。これ以上の唐辛
子なんてあかんわ」
 結局、私はしゃっくりを止めるツボを突く実験、並びにしゃっくりを出す実験を諦める
ことにしたんや。むしろ、今は涙を止めるツボを教えて欲しいわ。
 それにしても、出たときは止まらなくて私を困らせたのに、出て欲しいときには全然出
てくれずに、私を困らせるなんて、しゃっくりは本当にひねくれ者や……。

(終わり)

101 :27GETTER ◆mRZMzGA.po :2006/08/05(土) 01:02 ID:???
>>99-100
お疲れです。

うわwww
大阪さんの喋り方とか、行動とかがイイww
確かに、しゃっくりって自分だと出来ませんしねw

102 :名無しさんちゃうねん :2006/08/18(金) 12:48 ID:???
いい感じの流れだな。

103 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/08/18(金) 13:53 ID:???
>>99-100
遅くなったけど
乙ですー

大阪さんらしさがとてもでていますねw

104 :名無しさんちゃうねん :2006/10/15(日) 02:17 ID:???
就職試験に明け暮れて二時間目書くの忘れてました! すいません

105 :名無しさんちゃうねん :2006/10/20(金) 16:33 ID:???
>>104
試験に受かってからで良いって・・自分の人生が一番大事。

106 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2006/10/28(土) 11:34 ID:???
>>90
無粋かも知れへんけど一応指摘しとくな。
「役不足」ゆーんは役の方が不足しとるねんでー。
キムリン古文の先生なんやからそういうのはきちんとしとると思うねん。

107 :693 :2007/04/29(日) 00:45 ID:???
長谷川小説です。良かったら改善すべき点などを教えてください。
ttp://so.la/test/read.cgi/oosaka/1074518861/697-706

108 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:22 ID:???
 窓から見える暮れかけの空には真っ白な月が浮かんでいる。

「行かなくちゃ」
 誰に言うわけでもなく、自分の胸に言い聞かせるように呟くと、力任せにドアを開けて、
外に飛び出した。
 少しだけ夜の冷たさを感じるそよ風が体に吹き付けている。
 これから自分がしようとしていることを考えると、風が妙に胸に沁みて、もどかしい気
分になってくる。
 
 夕方になると榊がちよと一緒に忠吉さんの散歩に出かけることをかおりんが知ったのは、
つい昨日のことだった。
 散歩コースも散歩する時間帯もほぼ固定しているらしく、午後七時ごろに最終目的地で
ある街の景色が一望できる小高い丘のある公園に行けば、確実にいるとのことだ。
 これほどの有力情報を手に入れた以上、みすみすと見逃す手はない。

――七時に公園に行こう
 今朝から、かおりんの脳裏にはその思いだけが支配されていた。
 最愛の人・榊と逢えるひとときを心待ちにしながらも、なかなか進まない時計の針に苛
立ちが隠せなかった。いっそのこと自分が時計の針を進めてしまいたいという衝動を堪え
ながらも、今日の授業を終え、天文部の部会も半ばうわの空の状態でやり過ごした。

 時計の針は六時四十分を過ぎたところだ。ここからなら歩いて十分ちょっとで公園に着
く。そんなに急がなくても七時には十分に間に合うはずだ。
 頭では分かっている。しかし、気持ちが既に走り出して制御がきかなくなった状態では、
どうにも抑えきれなかった。
 不意に、前を歩いていたスーパーの袋を両手に提げている主婦を足早に追い越していた。
 もしかしたら、もう来ているのかもしれない。そうすれば、一分でも、いや、一秒でも
長く一緒にいられるかもしれない。
 そんな淡い期待が脳裏をかすめ、歩みを緩めることを許さなかった。
 最初のうちは早歩きだったのが、次第にジョギングするぐらいのスピードになっている
のが自分でも分かった。
「逢いたい、榊さんに早く逢いたい……」
 一歩踏みしめるたびに強くなる思いは、次第に歩幅だけでなく心臓の拍動も加速させて
いる。
 居ても立ってもいられない思いに急かされてか、最終的には全力疾走に近い状態になった。

109 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:23 ID:???
 結局、公園の入り口に着いたのは六時五十分過ぎと、十分もかからずに到着してしまった。
 今まで全力で走り続けたこともあって、さすがに丘の上までの坂道を走るほどの余裕は
残されていなかったため、ここからは歩くことにして少しでも呼吸を整えることにした。
 そうでもしないと、あまりにも高鳴る鼓動に心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
 車一台が通れるほどの道幅がある遊歩道を歩きながら、丘の上に愛しき女性がいること
を考えてみた。それだけで、胸の奥が焼け焦げてしまいそうな気分だ。
 逢うことができたら、いや、絶対に逢えるのだから、逢ったらどんな話題をしようか、
そして、どうやって自分の想いを伝えようか、頭の中でそればかりが駆け巡り、言葉の形
成を妨げている。
 思考回路がショートしかけているだけではなく、小刻みに指が震えている感覚も自分自
身で認識できた。

――どうしよう、このままだとうまく言葉を伝えられないかもしれない。
 一瞬だけ、帰ろうかという気持ちが芽生えたが、この瞬間を心待ちにしていたのだから、
そんな勿体ないことはできない。
 小刻みに震える呼吸を必死に隠しながら、ようやく丘の頂上にある展望台にたどり着いた。

 今のところ、それらしき人影はない。
 まだ来ていないのだろうか。展望台にある時計の針は六時五十五分だし、ちょっと早か
ったようだ。
 目当ての人が居なかったことで、妙に肩の力が抜けてしまったこともあり、近くのベン
チに腰を下ろすことにした。
 夕陽は遠くの山の彼方へと姿を隠し、街の景色はゆっくりと濃い青に染まろうとしてい
る。その真上に半分だけの月がポツンと浮かんでいる。
 まるで自分の満たされない心のようだ。きっと空の上に浮かんでいるのが私の心の半分
で、そして、欠けてしまったもう半分は、親愛なるあの人が持っているはずだ。
 一度、深く息を吸い込んだ。少し肌寒い空気が体に入り込んだことで、冷静さを取り戻
せた気がする。
 今度は頭の中で伝えたい言葉を反芻することにした。
 単に「好き」という言葉だけでは片付けられないほど、幾重にも積み重なった想いをど
う伝えたらいいのか、どれだけ心に響くメッセージを届けらえるのか、ひたすら頭の中で
イメージしてみたものの、なかなか上手く言葉に出てこない。

110 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:23 ID:???
 ただ、初めて出逢った頃から、知らず知らずのうちに膨らんでいった恋心が胸を締め付
けるだけだった。
「最初のうちは、もっともっと榊さんのことを知りたいと思っていただけなのにな……」
 苦しさを感じた胸の内を支えるように、きゅっとセーラー服の胸元をつかんだ。
「いつの間にか知れば知るほどに、今度はもっともっと近付きたいって思うようになった
んだっけ……」
 しかし、現状はなかなか近付くことができず、遠くで憧れの視線で見つめるのが精一杯
だった。
「本当はもっとそばに居たいのに……」
 踏み出せない自分の心の弱さに気持ちが沈んでいくのを感じた。しかし、落ち込んでい
る場合ではない。あと数分後にはここに本人が来るのだから。

「今日こそ私の想いを伝えなきゃ!」
 想いを新たに立ち上がると、ふと遠くで誰かが話している声が聴こえた。
「もしかして?」
 無意識に近くにあった木の陰に身を隠すと、そっと声の主が自分の思っている人かどう
か確認してみた。

「あぁ、榊さんだ……」
 正確には愛犬の忠吉さんと忠吉さんのリードを持ったちよがいて、隣に榊が歩いている
のだが、かおりんの視界は榊しか捉えていなかった。
「制服姿も凛々しくて素敵だけど、ブルージーンズに長袖のシャツという私服もサマにな
ってて素敵。何を着てもかっこいい」
 やかんを乗せたらすぐに沸騰するんじゃないかというぐらいの勢いで、頭の中の温度が
高まっていくのを感じた。だが、一つ問題があることにも気付いた。
「どうしよう、何て挨拶すれば。それになんでここにいるのか説明しないと……」
 別のことに頭を支配されていたこともあって、肝心なことを忘れていた自分の迂闊さに
唇を噛んだ。
 しかし、迷っている場合ではない。
 意を決して、勢いよく前に一歩踏み出すと、二人と一匹の間に自らの姿を現した……
まではよかったが、「こここここ、こんばにゃー」と言葉がおかしくなってしまった。
 加えて、若干緊張している分も手伝って、声が裏返っている。

111 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:23 ID:???
「こんばんはー。こんなところで逢うなんて奇遇ですね」
「そ、そうだね」
 ちよと会話しているはずなのに、視線は常に榊にロックオンされたままだ。視線に気づ
いたのか、榊も軽く会釈した。
――あぁ、榊さんが私だけに挨拶をしてくれたぁ。
 それだけで、今日ここに来てよかったと心から実感できた。ちょっとでも気を抜いたら
喜びのあまり失神してしまいそうだ。
「きょ、今日はほら、空がきれいで、月もきれいで、だったらちょっと夜空でも眺めよう
かなと思って、こ、ここに来たんですよ。私、天文部ですし」
「そうなんだ……」
 榊が空を見上げている。視線の先にはさっき見上げた半分の月が相変わらず所在なげに
漂っている。

 いつも物憂い顔で空を見上げている美しい顔立ちが間近に迫っている。
 教室でしか見られない顔を、今見ているのは私だけなのだ。
「あっ、榊さーん」
――しまった。もう一人いたことを忘れていた。一人で榊さんをじっと見ていたいけど、どうやっ
てそれをすればいいの? さすがにちよちゃんに席を外してとは言えないし……。

 しかし、その悩みはすぐに解決した。
「近所の愛犬家の方も散歩に来ているみたいなので、ちょっと挨拶してきますね」
「あぁ、分かった……」
 ちよが「忠吉さん、行こう」と呼びかけて、その愛犬家と思しき少し恰幅のいい女性の
ところへと走っていった。
 榊はそれを見て小さく手を振っている。
――あぁ、何て幸運なの? やっぱり日ごろから行いがいいとこういうときに千歳一隅の
チャンスが巡ってくるのよね。
 心の中で何度もガッツポーズをしながら、再び榊の顔を見た。
 今度はお互いに視線がぶつかった。ちょっと気まずさを感じたため、不意に視線を月へ
とずらした。

112 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:24 ID:???
「今夜の月は上弦の月と言って、新月から満月へと向かう途中の状態なんです」
「へぇ、そうなんだ……」
「月が向かって右半分だけ見える状態が上弦の月で、左半分だけのときは下弦の月という
んですよ」
 月を見つめながら、何か納得したかのように榊がうなずいている。
「大体正午ごろに昇って、夕方に南中して、深夜は西の空に沈んでいくんです。今はこれ
から段々西へと傾いていくところですね」
「すごいね、何でも知っているんだ……」
「いいえ、大した事はありません」
 予期せぬ形で褒められたことで思わず両手を振りながら謙遜した。実際、天文部の先輩
からの受け売りだということもあるが、それ以上に尊敬する人から「すごい」という言葉
が出たことだけで、恐れ多い気分だった。

「この月はあと一週間もすれば、満月へと変わっていくでしょう」
「そうか……。余り月の変化を気にしたことがなかったけど、そういうことを知るとちょ
っとずつ変化を見たいって気になるな……」
 ちょっとだけいいムードになってきた。今なら自分の想いを言えそうな気がする。
「あの、榊さん……」
 ふと愛しき人の名を呼んだ。怖くて顔を直視できないが、名前を呼んだことでこっちを
見ている気がする。
 一瞬だけ、沈黙が場を支配した。
――言わないと、このチャンスを逃したらいつ言うのよ。弱気になっている場合じゃないわ。
不安も怖さもあるけど、それを勇気に変えていかないと。
 しかし、やっぱり顔を直視することはできず、月を見つめたままの状態で口を開いた。
「この月は引力によってやがて満ちて大きな円を描く時が来ると思います。でも、私の心
はずっと欠けたままなのです。私にも欠けた心を満たす引力が必要なのです」
 榊は何も言わず、黙って話を聞いている。心臓が徐々に高鳴っているのを感じた。

「私の引力となるのは、大切な人が私のそばで微笑んでくれることなのです。そうするこ
とで、愛しくてかけがえのない喜びが得られて、生きる強さが得られるのです」
 ふと視線を落とした、遠くのビル街のあちこちに灯りが点り始めている。
 心臓はさっきよりも高鳴っている。このままだと榊にも聴こえるんじゃないかと思うほ
どの大きさだし、それに比例して早くもなっている。

113 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:24 ID:???
「だから、この際言っちゃいます。榊さん、私はあなたの――」
 正直、ここから先のどんな言葉を口にしたのか、全く記憶になかった。ただ、一つだけ
言えることがある。

「おーい、榊ちゃーん!」
 突然現れたけたたましい叫び声によって、完全にかき消されたことは確かだった。
――と、ともぉー。何てことしてくれるのよ……。
「お前、声でかすぎ」
 気持ちを代弁するように、暦が呟いた。
「あっ、かおりんもいるじゃん」
 人の気も知らずに、呑気に挨拶をしている智の何も考えていなさそうな顔が妙に腹立た
しくなり、思わず視線がきつくなった。
「おい、大丈夫か? 顔色良くないみたいだけど」
 そりゃ、せっかくのいい場面を台無しにされたら顔色だって悪くなるじゃない、と言っ
てやりたかった。
 だが、一気に緊張の糸が切れてしまって、今となっては貧血に近い状態だし、倒れそう
になるのを必死にこらえるのが精一杯なので、せめてもの抵抗として睨みつけるのが限度
だった。

「あっ、二人も来てたんですか」
 愛犬家との挨拶を終えたちよも戻ってきて、榊が忠吉さんの頭を撫でている。
 ちよだけでなく、智と暦の二人も来た以上、もはや榊と二人っきりになれるチャンスは
限りなくゼロに近かった。
――せっかくのチャンスだったのに……。
 薄れそうになる意識の中では、あと一歩で告白できなかった自分の運のなさを嘆くのが
関の山だった。

「ちよちゃんの家に行ったら、忠吉さんの散歩に出かけたって聞いてさ。ここじゃないか
と思ったらなぁ、予想通りだったってわけ」
「なぁ、花火持ってきたんだけど、一緒にやらない?」
 智が持っていたコンビニの袋から花火を取り出した。

114 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:24 ID:???
「それは別にいいですけど、ここは花火禁止ですから、別のところでやりましょう」
「よーし、そうと決まれば、全員早速開始!」 
「お前は元気だなー」
 智と暦が先頭に立って歩き出した。ちよも「行きましょ」と呼びかけ、忠吉さんのリー
ドを持って歩き出した。
「私たちも行こうか……」
「そ、そうですね」
 今日どころか明日の分のエネルギーを使い切った気分になったせいか、全身を脱力感が
襲っている。並んで歩くのが精一杯で、何かを話そうという気分にはなれなかった。
 今はただ榊と一緒に歩けることで、ささやかな幸せを感じる以外に何もできそうになかった。

――自分の気持ちは伝えられなかったけど、榊さんと一緒に帰れるだけまだ幸せなのかな。
 愛しき人と並んで歩ける。遠巻きに見つめることしかできない学校生活から比べると、
それだけでも十分進歩している。ステップアップはしているはずだと、自分自身にそう言
い聞かせることにした。

「ところで、さっきの話なんだけど……」
「えっ……」
 体が一瞬のうちにぎゅっと凝縮する気分になった。まさか、さっきの話の続きができる
のか? 願ってもないチャンスの到来に、再び体に力が入るのを感じた。
「さっきのあの話……」
「は、はい……」
「さっきの……」
 夜の冷たい風が熱を持った頬に吹き付けてきたが、今はそれを感じる余裕はない。繰り
出される次の言葉を待つこと以外に今の自分にはできることはないのだ。

「月の話、とても面白かった……」
「あっ、そのことですか」
 途端に体の力が抜け、さっきの脱力状態よりも更に力が抜けて、その場にしゃがみこん
でしまいそうだった。

115 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:25 ID:???
「また今度、聞かせてもらえないかな……」
「えっ、いいんですか?」
 一度は尽きかけた気持ちがまた湧き上がってきた。
「星座とかってロマンチックな話が多いから、もっと知りたいなって思って……」
「は、はい! 私でよければ喜んで!」
 左手をぐっと握り締めて、小さくガッツポーズを作った。

――告白はできなかったけど。これで榊さんと一歩お近付きになれたわ!
 今日は帰ったらまずは天文の資料を片っ端から調べよう、そして、ロマンチックな話を
収拾して、今度会ったときの話題にしよう、頭の中で次から次へと行動計画が目まぐるし
く動いている。
 できることなら、今すぐ帰って調べたいけど、これから一緒に花火ができるのだから、
それを楽しむことにしよう。
 
――榊さん、好きです。
 心の中で、叫んでみた。当然、隣を歩いている女性には届いていない。それでもよかった。
 今はただ、そばにいられる喜びをかみしめるだけで十分だ。そう、今はまだこれで。だ
けど、心の中でもう一度叫んでみだ。
――今度こそはきっと私の思いを伝えますから、その時は私の気持ちを受け取ってくださいね。

(終わり)

116 :名無しさんちゃうねん :2009/08/07(金) 02:01 ID:???
>>108-115
かおりんの微妙な恋心が伝わってきますね。
榊さんの一言に一喜一憂する姿がとても良かった。

117 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

118 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

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へーちょ

120 :へーちょ :へーちょ
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139 :へーちょ :へーちょ
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141 :へーちょ :へーちょ
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142 :へーちょ :へーちょ
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143 :へーちょ :へーちょ
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144 :へーちょ :へーちょ
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145 :名無しさんちゃうねん :2010/02/21(日) 20:24 ID:???
何があったか知らんが
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146 :rwLuFETxvwYpwI :2012/05/21(月) 12:39 ID:???
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