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ちよ・とも・大阪限定3人を語るスレ
- 1 :ちよとも大阪限定さん :2004/03/31(水) 12:18 ID:???
- 3人について語りまくろー!!
- 342 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/23(金) 21:59 ID:???
- 検事と弁護人。
裁判では敵対する関係。
だが、滝野検事は、彼女の親友である春日弁護人に対して、しばしば事件に関する重要な資料を提供していたのだ。
勿論、滝野検事が自主的に行った行為ではなく、春日弁護人の執拗なお願いがもたらした結果だということは言うまでもない。
「まあまあ滝野検事、とりあえず彼女の意見を聞いてみましょう」
あまりにも拍子抜けした発言に癇を起こした滝野検事だったが、小さな裁判長の言葉を聞き、落ち着きを取り戻した。
「続きやで。この指紋も重要な事なんやけどな、もっと重要な事があんねん」
「もっと重要な事?」
裁判長と検事の声がはもる。
どさくさに紛れて、被告席にいたK教諭もはもっていた。
「そうです。この包丁は元々、何処にあったものですか?」
「何を言い出すかと思えば……犯行に使われたと思われる包丁は家庭科室の備品だ。事件が起こったとき、家庭科室は他のクラスの調理実習で使用されていた」
半ば呆れ果てた表情で滝野検事は続けた。
「授業が始まる五分くらい前に、家庭科室にK被告が入ってきたことは家庭科担当の教諭の証言で明らかになっている。だから、包丁についた被告以外の指紋は、その場に居合わせた生徒によって……」
「ちゃうねん!!」
ちゃうねん。
滝野検事の証言を遮った言葉は『異議あり』ではなく『ちゃうねん』。
傍聴席がどよめくのを裁判長が制した。
いつもの事なのだ。
そのことを知っているのは検事、裁判長、係員のみ。
「はぁ〜、またかよ」
「ええやん別にー。意味は同じなんやし」
「確かにそうですが……春日弁護人、続きを」
裁判長はあまり意味のない追及を諦め、弁護人に続きを促した。
- 343 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/23(金) 22:47 ID:???
- 「さっき言った重要な事なんやけどな、それは包丁に血以外のある物が付いてたことなんや」
「それは初耳ですね。で、一体何が付いていたのですか?」
「裁判長、それはわたしが言います。凶器に使われた包丁にはアルカリ性の洗剤が付いていました」
滝野検事が間髪入れずに証言をする。わかりきっている事をあの間延びした声で繰り返されることに嫌気が差したためである。
「そう。せやから、包丁に付いているもう一つの指紋は家庭科室にいた生徒のものやない」
「ちょっと待ておおさ……春日弁護人。なんでそうなるんだよ」
またしてもあだ名で呼びそうになってしまった滝野検事。
「何で洗剤が付着していたのか。それは、包丁が洗われて間もなかったからや」
「……あ、なるほど。今は何処の学校でも衛生面には気を付けてますからね」
ぽんと手を叩き、裁判長は独り言を呟いた。
立場上、なるべく発言を控えたいのだ。
「そして、洗われて間もない包丁をK被告が持っていった」
「その通りだ。だけどなぁ、その包丁を洗った生徒はこう証言してるんだぞ。『はい。確かに僕はK先生に包丁を手渡しましたよ』ってな。手渡したんぞ。当然そのときに指紋が……」
「豆知識ー!! アルカリ性の洗剤はたんぱく質を分解するんやで?」
構内を再び沈黙が覆う。
だが、先程とは違い、誰一人として呆れ顔のものはいなかった。代わりに、いまいち事情が飲み込めない、といった困惑顔の者ばかりが目立つ。
滝野検事は額から汗を流し、春日弁護人の発言を咀嚼していた。
「まさか……」
「そう、そのまさかや」
- 344 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/24(土) 16:01 ID:???
- 「指紋が……なくなる?」
「完璧にとはいかへんけどな。せやけど、その状態ならちょっとやそっとでは指紋は付かへんはずや」
春日弁護人の一言で構内から静寂が消え、どよめきが起こる。
「せ、静粛に!! 春日弁護人、続けてください」
いくら子供でも、この構内では最高の権力を誇る者。
裁判長の一喝で場は静寂を取り戻した。
「これでわかったやろ? その生徒の指紋は付くはずない……」
「異議あり!!」
額の汗を机の上にたらしながら、滝野検事は春日弁護人の言葉をさえぎった。
その様子から、彼女にはもう余裕などないことが明らかとなる。
「さっき春日弁護人はこう言いましたよね? ちょっとやそっとじゃ指紋は付かないと。では、その生徒が包丁を強く握ってK被告に渡したなら……」
「先生を前にして、そんなことするアホなんておるわけないやろ。それにわたしも言わせてもらうけどな、さっき智ちゃんこう言うたよね? 生徒はK先生に手渡した、って」
その言葉に動揺を見せる滝野検事。
反論を失った上に、彼女はもう気付いているのだ。
「そ、それがどうした……」
「ハサミなんかもそうやけど、普通、人に危ない方を向けて渡す奴おるかー?」
次に滝野検事が見せたのは、傍聴席から見ても一目でわかるほどのあからさまな動揺。
それは、勝利を過信した者だけに与えられる焦燥の色。
一方、そんな滝野検事とは対照的な笑みを浮かべながら、春日弁護人は言葉を続ける。
「資料によると、指紋が付いていたのは柄の部分だけ。刃のところに付いていたのは洗剤だけ。どうや? まだ何かあるー?」
- 345 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/24(土) 18:56 ID:???
- 下唇を噛み締めながら滝野検事は暫しの間、閉口していた。
その間、春日弁護人はまたも唸っていた。
そして、裁判長はそんな二人の様子を、どうしたものかと眺めていた。
「裁判長ー、もう一度あの証人の証言を聞きたいんやけど?」
「え? あ、はい。……滝野検事、どうでしょうか?」
証人を召喚するのは検事の仕事である。
その事を知った上で、裁判長は滝野検事に意見を求めたのである。
「……わかりました。検事側は先程の証人を再び召喚します」
両の拳を握り締めたまま、滝野検事は力なく言った。
- 346 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/25(日) 14:32 ID:???
- 「え? もう一回証言するんですか?」
気分も大分良くなり、裁判が終わるのを待つばかりとなったはずの少女は少し困惑していた。
「私が見た事はさっき全部話したんですけど」
「……でも、検事が」
「検事側はこれ以上の証人を用意していない。尋問で何も得られなかったら、後は裁判長が決める事だ」
先程までの憂いは何処へ行ったのやら。
滝野検事はすっかりもとのペースを取り戻していた。
つい数分前に見せた姿はもう何処にもない。
「警察の調べは終わっている。つまり、最後のチャンスと言う事だよ春日弁護人?」
彼女は嫌みったらしい口調で、余裕綽々の言葉を並べた。
彼女は悟ったのだ。
凶器についていた指紋が生徒のものでないとわかったところで、事態は変わらないという事を。
包丁の柄にはK被告の指紋が付いていた。第一発見者が一人だけだからと言って、現場を見た人間は一人だけとは限らない。
今、証言台に立っている少女の悲鳴で駆けつけた生徒、教師は多々いるのだ。
そして、現場を見た者は口々にこう言っている。
『包丁を持ったK先生が血まみれで立っていた』と。
それだけで充分ではないか。いや、充分すぎる証拠だ。
ただ、全員呼んでいては時間の無駄だ。
第一発見者だけでいい。証言など、裁判を公的に成立させる為だけの、聴衆を納得させる為だけのモノに過ぎない。
彼女はいつだってそういう風に考えてきた。
先程の焦り、意気消沈は、プライドがどうこうという問題に過ぎないのだ。
- 347 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/25(日) 14:57 ID:???
- 「では、証言を始めてください」
「あ、はい……あの、どこから始めたら……」
「教室に戻った時の状況を詳しく話してやー」
春日弁護人を辟易した顔つきで見つめる裁判長。
半ば諦めの表情を見せている。
「……教室に入ると、まず目に飛び込んできたのは、教卓の方に立っているK先生の姿でした」
うんうんと頷く春日弁護人。
「あなたは教室の前の入り口から入ったのですね?」
「はい」
「わかりました。続けてええよ」
「……何やってるのかな? って思ってたら、突然、うめき声が聞こえて……声のするほうに目をやったら……」
証言者が手を口に持っていこうとしたが、間髪いれずに弁護人が問いを投げかける。
「あなたは見たのですね。包丁を手にしたK先生の姿を。そしてYさんの変わり果てた姿を」
「……はい。私、Y先生の姿を見た瞬間、すごく怖くなって……」
「叫んだんやろ」
誘導尋問として、糾弾すべき発言なのだが、構内にいる人間は呆れ果てて何も言わない。滝野検事でさえもだ。
「え? あ、はい。そうです。私、大声で叫びました」
証言者の言葉に呼応するように、春日弁護人は口元にかすかな笑みを浮かべた。
その笑みは、何処か卑しい印象をもたらす。
- 348 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/25(日) 15:17 ID:???
- 「裁判長、それも全て調査済みです。これ以上の証言は時間の無駄です」
滝野検事はわざと語気のない声で裁判終了を促そうとする。
「ですが、検事。まだ尋問が……」
「ええよ。もう何も聞くことあらへんし」
構内いる全ての人間が言葉を失った。
それは、弁護人の口から出るような言葉ではなかったからだ。
証人の証言が終われば、おのずと裁判も終了する。
つまり、それは被告の有罪決定を意味する。
「おおさ……春日弁護人。本当にいいんですか? このままだと被告は……」
今回の裁判で初めて見せる、裁判長の焦り。
有罪無罪を決定する立場であるからこそ。
親友であるからこその焦り。
いや、焦りというよりも驚きと言った方が適切だ。
「この女の子の証言はもうええねん。その代わり、K被告に証言をしてもらいたいねん」
あまりにも唐突、拍子抜けの内容に構内がざわめく。
「異議あり!! 今更そんなことに何の意味がある?」
「ええやん別にー」
「良くない!!」
「まあまあ、お二人とも、落ち着いてください」
既に、構内は裁判所としての役割を果たしていなかった。
言うなれば、学校。
「滝野検事、意味がないのならば別にいいのでは?」
「ですが、裁判長……わかりました。ならば私は口を一切挟みません。せいぜい足掻いてください、春日弁護人」
被告の証言で何が変わる?
恥の上塗りというものを見届けてやろうじゃないか。
滝野検事は、薄ら笑いを浮かべながら言い放った。
- 349 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/26(月) 14:30 ID:???
- 「それではK被告、証言を始めてください」
額に汗を浮かべながら、K被告は徐に口を開いた。
「……何を話せばいいのかね?」
余裕があるのか、元々そういう口調なのか、裁かれる立場の人間とは思えない態度。
しかし、構内の温度はさほど高くない事を考慮すると、やはり焦っている。
「なぜ、家庭科室から包丁を持ち出したか。その理由を言うてや」
理由。
春日弁護人は国選弁護士ではない。
当然、被告からは様々な事を聞いたはずである。
「わたしが聞きたいことはそれだけ。さあ、早う言うてや」
K被告は最後まで答えてはくれなかったのだ。
だが、今の彼女にはK被告の口を開かせる、絶対の策があった。
それを今から使おうというわけである。
「……今回の裁判で、私を雇った人、誰やと思います?」
- 350 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/27(火) 21:20 ID:???
- K被告の証言。
教室に行ったらY教諭が倒れていた。
ただそれだけ。
こんな証言、誰が納得してくれよう。
なぜ包丁を持ち出したか?
それすら答えない。
「……誰だね? 私に弁護人などつけたのは……」
「あなたの奥さんです」
春日弁護人が口にした言葉は、K被告にこれ以上ない動揺を与えた。
「ま……マイワイフが?」
マイワイフという言葉に、構内にいる誰しもが突っ込みを入れたいと切実に願ったが、それよりも今は被告の豹変した態度に驚いた。
あからさまな動揺の裏側。
「妻が……妻が君を雇ったのかね?」
「そうや。事件が発覚してからすぐの事やったわ。わたしが事務所で、次の裁判の為の調べものをしとった時。あなたの奥さんがいきなり来てな、『うちの主人を、うちの主人を助けてください!!』って」
春日弁護人をじっと見つめながら、話に聞き入る被告。
「わたしは、次の裁判を控えとるから無理や、って言うたんやけど、奥さんが『お願いします!! 主人は……あの人は人殺しなんてするような人じゃありません!!』って言うてな、わたし、その奥さんの誠意に打たれて今回の件を引き受けたんや」
- 351 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/29(木) 20:54 ID:???
- 「そんな奥さんの気持ちを無駄にするんですか?」
ついにK被告が折れる時が来た。
「……わ、私は……Y先生に脅されていた」
彼の口からポツリと出た一言は、構内を騒がせるのに充分すぎる事実だった。
例によって、裁判長が制止の言葉をかけるが、今回はなかなか収まらない。
「あの日、Y先生は私を使って強盗を企てました。授業が終わる前に戻って来れれば完全なアリバイが成立すると言って……」
証言を続ける被告の顔が徐々に紅潮し、表情が怒りで歪んでいく。
思い出すだけでも腹が立つとは、まさにこの事だ。
「それで、家庭科室から包丁を?」
「はい……でも、私は怖くなって、やっぱり辞める、と言いました。そしたら、彼女は……」
急に口ごもる被告。
これこそが、今まで被告を束縛し、口を憚らせていたものだ。
「あなたはY教諭に何か弱みを握られていたんですね?」
K被告は春日弁護人の言葉に黙って頷いた。
「弱みと言っても、重罪に犯すよりはいくらかましなものだったので、私は彼女と口論をしてその場を離れました」
重罪を犯すよりはまし。
だが、家族や周りの人間にばれたら不味い事。
「その時、包丁はどないしたんですか?」
「教室に置いて行きました」
- 352 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/29(木) 21:26 ID:???
- 置いていった。
という事は、別の指紋はその後に付いたという事になる。
春日弁護人は次の質問を口にした。
「それなら、いつ教室に戻って来たんですか? それに、何故包丁なんかを手にしてたんですか? しかも血まみれで」
今回の事件で、おそらく彼女が一番疑問に思っていた点だ。
弱みを握られていたK被告。
だからと言って、今まで事実を黙っていたのは少しおかしい。
「……悲鳴を聞いて、私は教室に行きました。一応、私も教師ですから。教室に行くと、既に変わり果てた姿のY先生がいました。驚き、そして混乱して、私が殺してしまったのだと錯覚してしまったんです」
状況、立場、弱みを握られていた事実、数分前に口論した事実を考慮すればあり得ることだ。
「パニックに陥った私は、Y先生の死を確認する為、胸に耳を当てたり、体を揺すったりしました。……血はそのときに付いたのでしょう」
「わたしもそういう事例はぎょうさん聞いた事があります。わたしが前に担当した事件の中には、目撃者が遺体を家に運んで行った、なんてのもあったでー」
冗談を入れるつもりでもなければ、そんな雰囲気でもない。
春日弁護人特有の天然ボケを流したところで、証言は一番の山場に差し掛かる。
「包丁は……私の意思で持ちました。Y先生の横に落ちてたんです。まだ殺人鬼が近くにいるかもしれない。そう思ったら怖くなって、身を守るものが欲しくなったんです……」
「そういう事やったんか……わかったで。これであなたの無実は証明されたも同然や」
無実と言う言葉を着火材に、構内が一気に騒がしくなった。
もう静粛どころではない。
それでも、必死になって場を鎮めようとする幼い裁判長の姿は非常にいじらしい。
「実はな、真犯人の正体はとっくにわかってたんよー。でもその前にあなたの無実を証明せんと話にならんやろ? 例え、証明できなかったとしても、真犯人に犯行を認めさせればOKや」
- 353 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/29(木) 21:39 ID:???
- 「無実? 真犯人? ふざけるな!!」
今までずっと黙っていた滝野検事が大声を上げた。
「わっ、びっくりするやん。それに、何も口ださへん約束やろ?」
言葉とは裏腹に、全然驚いた様子も見せずに、春日弁護人はやんわりと返した。
「尋問は終わったんだろ? だったらもう約束の期限は切れている。それよりも今は、お前のふざけた言葉を糾弾する方が先だ!!」
拳を机に叩きつけ、滝野検事は怒りを露わにした。
「ふざけてなんかあらへんよ。犯人はそこの女の子や」
「なんだと!?」
検事と聴衆の声が見事にはもる。
あっけらかんとして言う春日弁護人に対し、張本人の少女はあからさまな狼狽を見せた。
二度にわたって証言した女子高生。
一度目は気分が悪くなって、尋問を待たずに待合室に戻ってしまった彼女を、春日弁護人は犯人だと言う。
「裁判長ー、この女の子に……」
「もう好きにしてください……」
憔悴しきった顔で答える裁判長。
最早、彼女の言葉で黙る人間は構内にいない。
「ほんなら遠慮なく」
「待て!! 私は認めないぞ!!」
「智ちゃん、裁判長の言う事は聞かなあかんで?」
顔を真っ赤にさせ、唇を噛み締めながら、喉まで出かかった言葉を飲み込む検事。
目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
- 354 :名無しさんちゃうねん :2004/07/31(土) 11:30 ID:???
- 「ほんなら、始めよか。突っ込むべき点はいくらでもあるさかい」
得意げに言う春日弁護人を、証言台に立っている少女は不安そうに見つめた。
「は、始めるって何をですか? 犯人はK先生なんでしょ?」
「せやから、あんたが犯人や言うてるやん。人の話は聞かなあかん!!」
「だから、何で私が犯人なんですか?」
言ってる事とは裏腹に、少女の態度は何処かおどおどしている。
「ほんなら、一つ一つ指摘していくわ。まず一つ目。あんたは最初の証言では『K先生が包丁を持って立っていた』て言うたけど二回目の証言の時には『包丁』と言う言葉は一回も出でこなかった。これはどういうことー?」
悪戯っぽい笑みを浮かべ、春日弁護人は少女の問いかけた。
少女は口をパクパクさせながら必死で何かを考えている。
「そ、それは……わ、忘れてたんです。そう、忘れてたんです。Y先生の印象があまりにも強くて、二回目の時は包丁の事を忘れてたんです」
今思いついたようなことを述べる少女。
既に聴衆席からは、その発言に対して疑問を投げかける声がちらほらと聞こえ始めている。
「何でY先生の印象が強かったのですか?」
「え? そりゃ、血まみれでしたから。誰だって、血まみれの人を見れば強く印象に残るはずです」
少女は少しだけ平常を取り戻した。余程、証言に自信があるのだろう。
だが、その姿を見て、春日弁護人は口の端を持ち上げてにやりと笑った。
その笑みには少女以上の自信が含まれている。
「ほんまに? 血まみれの人を見たら絶対に忘れへんの?」
「はい。一回目の証言では気分が悪くなってしまいましたけど、二回目は何とか持ちこたえて証言しましたよ」
「という事は、見た事全部話したわけやな?」
「はい。全部話しましたよ。克明に」
その言葉を聞き、再び口の端を持ち上げる弁護人。
「一つ目終わりや。二つ目いくでー」
- 355 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 11:32 ID:???
- 誤爆してしまった。
- 356 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 11:47 ID:???
- 「ちょ、ちょっと待て!! 終わりって何がだ?」
弁護人の意図が全く読めない滝野検事が当然のことを言う。
「それは全部終わってから言うわー。それより二つ目や。あんた、怖くなって叫んだ言うたけど、それは何で?」
検事の言葉をさらりと流し、春日弁護人は次の質問を少女にぶつける。
「な、何でって……普通、死体があったら誰だって怖くなるじゃないですか!!」
少し憤慨したように言う少女を見て、弁護人は微笑する。
「三つ目。叫んだ後どないしたん?」
「え? ……こ、怖くて動けませんでした」
少女が途中で口ごもったが、間髪入れずに弁護人が口を開く。
「四つ目。悲鳴を聞いて先生達が駆けつけた後はどないしたん?」
「そ、それは……」
「最後。結局、忘れ物ってどうなったん?」
まだ答えが終わっていないにもかかわらず、質問を続ける弁護人。
- 357 :名無しさんちゃうねん :2004/07/31(土) 11:53 ID:???
- これが>>1000へ続く……このスレの物語。
2ヶ月……。あの後わずか2ヶ月で、あの焼け野原が……
歴史という物語の豊穣さにおいて……このスレは輝いている!
今それを知るのは……このスレの住人数名と脳内ちよとも大阪限定……のみ。
何のためなのか!!? (かわぐちかいじ作ジパングより引用)
>>355様御疲れさんどす。これは新鮮でいい感じですねぇ。
面白く読ませていただきました
しかし…このスレはどうなるんだろう
- 358 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 12:18 ID:???
- 「え? そ、それは……と、取りに行けませんでした。ご、ごたごたしてから」
その言葉を聞き終えると、春日弁護人は大きく深呼吸をした。そして……
「ちゃうねん!!」
弁護人が言い放った言葉は、構内にいる全ての人間の目をひん剥かせた。
「ちゃうねん、ちゃうねん、ちゃうねーん!!」
一瞬、構内にいた大半の人間が、弁護人が発狂したと思った。
「一体、何が違うんだ? 春日弁護人!!」
弁護人の気迫に押されてか、滝野検事の問いには以前のような威勢はなかった。
裁判長は目を丸くして二人の様子を見ている。
「一つ目。証人は血が印象に残った言うたけど、K被告の衣服に付いた大量の血については一言も証言していない」
裁判長はぽんと手を叩き、検事は顔をしかめ、証人は狼狽の色を見せた。
「他の目撃者が口をそろえて言うてんねんで? 血まみれのK先生が立ってた、って。せやけど、証人は一言もそのことに触れていない。おかしいやろ? わたし何度も確認したんやで?」
少女の顔がみるみる青ざめていく。
「二つ目。証人は『死体』という言葉を口にしたけど、『うめき声が聞こえて……』とも証言しているんやで。おかしいと思わへんか?」
青ざめた顔が段々と歪んでいく。
「なんで、死んでる人間がうめき声を上げんねん。矛盾しとるやろ?」
「そ、それは……」
最早、少女の声など聞いていない弁護人は言葉を続ける。
「三つ目。あんた、ほんまは悲鳴なんて上げてへんやろ?」
「あ、上げましたよ!!」
すぐさま反論する少女。
「嘘やろ?」
「異議あり!! それが弁護人の言う事か? 第一、多くの目撃者が悲鳴を聞いて駆けつけているんだぞ?」
今まで沈黙を通していた滝野検事が、ここぞとばかりに異議を唱える。
「そうやー。せやけど、その悲鳴は証人のものやない」
構内がざわめく。
裁判長が再び辟易とした態度で、静粛を求める。
「何? じゃあ、誰の悲鳴なんだ?」
微笑を浮かべ、K被告を見つめながら、春日弁護人は口を開く。
「Y先生や。K被告が聞いたY先生の悲鳴や」
被告を含め、構内にいた全ての人間が言葉を失った。
- 359 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 12:23 ID:???
- >>357
誤爆のせいでレスがついてしまいましたか。すみません。
このスレの末路……また過去ログ行きですね(笑
- 360 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 13:16 ID:???
- 「どういうことだ?」
最早、誰が言ったのかすらわからない。
「つまり、こういう事や。証人がY先生を殺す。Y先生が悲鳴をあげる。その声を聞きつけてK被告が来る。K被告がパニックになる。遅れて、悲鳴を聞きつけた先生、生徒が来て、K被告の姿を目撃する」
あまりにもすっきりした答え方なので、一瞬、誰もが納得しかけた。
「私、殺してません!!」
「五つ目。忘れ物……それは包丁や」
「な、何言ってるんですか? 私は包丁なんて……それに、私ずっといたんですよ。悲鳴を上げた後も、先生達が駆けつけた後も」
焦りと狼狽がない交ぜになって、少女は声を荒げる。
「それも嘘や。だって、誰もあんたの姿見てへんねんで? 駆けつけた先生も生徒も」
その言葉を聞いた瞬間、滝野検事が口をぽかんと開けた。
とうとう、彼女も気がついたのだ。
「目撃者の証言は『血まみれのK先生が立っていた』やけど、あんたの事は一切言うてない。つまり、誰も見てないんや。仮に、あんたが実際に教室にいたとして、K被告が犯人やったとしたら……あんたは今この場にいないはずやで?」
錯乱した殺人者が、悲鳴を上げる少女の姿を見たとしたら……殺人者が次にとる行動は誰でも想像できる。
「ところが、あんたはこうして生きてる。それが何よりの証拠や。それにあんた、さっき『ごたごたしていた』って言うたやん。それは駆けつけた生徒達に紛れていた、って言ってるようなもんやで?」
弁護人は言い終わると、椅子に腰をかけた。
決まったな、と。
ところが、くしゃくしゃに歪んだ顔を気にもせず、少女は口を開く。
「わ、忘れ物? K先生が包丁を忘れた? あははは、それを私が忘れて……取りに行こうと思ったら後の祭り。あーあ、最初からロープで殺せばよかったなぁ」
少女は目をぎらぎらと輝かせて言葉を続ける。
その異様な光景に、誰もが閉口していた。
「教室の掃除道具入れの中に隠れて、Y先生が一人になったところを狙って殺す。その後授業に戻り、『忘れ物しちゃった』なんて適当な事言って、作戦成功!! ……になるはずだったのに」
少女の声のトーンが低くなる。
「K先生がY先生と口論して……時間をロスして、しょうがないから、包丁で刺して。……でも、まさか悲鳴を上げるなんて思いもしなかった」
まるで人事のように言う少女に、聴衆が嫌悪を露わにする。
「急いで逃げて、包丁忘れて、手に付いた血を洗う為にトイレに入って、包丁を忘れた事に気が付いて、戻ってみたら人だかりができていて、K先生が包丁を持っていて、作戦変更して、K先生に罪をなすりつけようとして……」
「ええ加減にせえよ!! さっきから聞いてれば……人が死んでるんやで?」
滝野検事ほどではないが、春日弁護人は机をひっくり返さんばかりの勢いで立ち上がり、啖呵を切った。
だが、
「あっそ。だから? あいつは死んで当然よ。私の好きな人を奪ったんだから。私の初恋の人……K沢先生をね!!」
滝野検事は知っている。
半年前に起こった事故を。
少女の通う高校で起きた悲惨な事件を。
「あれは事故じゃない。Y先生が殺したのよ。体育教師だからって言って……あいつは無理矢理、K沢先生に危ない跳び箱の技をやらせたのよ!!」
跳び箱から落ちて、首の骨を折り、そして……。
明らかに事故なのだが、その判定に異議を唱える生徒がいたのを、滝野検事は覚えていた。
今証言台の上にいる少女に良く似た女の子。
似ているのではなく、その生徒本人なのだ。
「許せなかった。だから私は……」
途中から、少女は涙を流し始めた。
絶望の果てに犯した行為。
だが、本当にそうだろうか?
計画を立てている時点で、目的が逸脱しているのでは?
では、今、少女が流している涙は?
後悔? 愛しき人を失った悲しみを彷彿したから?
裁判長……美浜ちよは前者を選んだ。
- 361 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 13:46 ID:???
- 「何泣いてるんですか?」
誰も予想していなかった発言。
そして、発言者。
「あなたは何で泣いているんですか?」
言葉の主を見つけた少女は、すぐさま怒りを露わにする。
「何で? あなたにはわかるの? 愛しい人を失った悲しみが!!」
「はあ? 何言ってるんですか?」
今まで一度も動揺を見せた事のない春日弁護人を含めた構内中の人間が驚愕した。
まさか、裁判長がそんな事を言うとは思わなかったのだ。
「どうせ、片思いだったんでしょ? K沢先生って女性ですよ。きっとすごく迷惑だったと思いますよ」
「なっ……なんて事言うのよ!!」
顔を真っ赤にさせ、これ以上ないというほどの大きな声で叫ぶ少女。
「まあ、その人も死んじゃったんだし、今更どうでもいいじゃないですか?」
怒りのあまり、脳の血管が何本か切れて、少女はふらついた。
口をパクパクさせ、怒りの思いを言葉にしようとするが上手くいかない。
そんな様子を、検事と弁護人は唖然として見つめていた。
「私は裁判長。そんなレズの身の上話なんてどうでもいいんですよ」
これが先程まで聴衆を制するのに必死になっていた女の子だろうか?
それとも、こちらの姿が本当の姿なのだろうか?
いずれにしろ、次の言葉で今回の事件の結末が決まる。
「計画的殺人という点で、最早、情状酌量の余地はありません。弁護人の尋問、証人の矛盾点、被告の諸事情。これらを全て踏まえた上で判決を下します」
ごくり、というつばを飲み込む音があちこちから聞こえる。
「K被告は無罪。そして、証人は有罪。刑は……」
- 362 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 14:14 ID:???
- 数日後、某居酒屋にて
「ちよちゃんにあんな一面があるとは驚いたなぁ」
「私、自分を正当化する人って許せない性質なんです」
ウーロン茶を飲みながら、ちよが答える。笑顔で。
「はぁ……私、検事向いてないのかな……」
「そんな事あらへんよ。智ちゃんは最高の検事や……わたしにとって」
智のツッコミが大阪に入る。
「それは、私がお前に事件に関する資料をあげるからだろ?」
「あはは、バレたか」
再度ツッコミが入る。
「冗談や。ほんまに智ちゃん検事としてすごいと思うでー。いっつも私追い込まれるし」
「そうですよー。私も毎回感心します」
「でも、最後は必ず『逆転』されるんだよなぁ」
ジョッキに残ったビールをぐいと飲み干すと、大阪が口を開く。
「そう言えばそうやな……。あ、でもこないだの事件のK先生。あの後、結局、有罪になってもうたな」
肴の枝豆をつまみながら、智が答える。
「そりゃそうだろう。だって、あの先生、女子の下着とか盗んでたんだろ?」
「女性の敵ですね」
「そうやー。せやから、裁判の時、何も言わへんかったんや。喋ってしまえばその辺の事もわかってまうからなー」
ビールのおかわりを頼む為、大阪が手を上げる。
「でも、奥さんの事を言った途端、急に素直になったよな?」
「そう言えばそうですね」
「そうやなー。でも、あの奥さん天使やで。K先生が下着ドロだって事言うても『あら、そうなんですか?』やもん」
「この世がああいう人だらけだったら、犯罪なんて起きないんだろうなぁ……」
追加の注文を終え、大阪が智の方に向きなおす。
「せやけど、それも困りもんやで?」
「え? 何で?」
疑問詞を頭に浮かべる智を見つめ、大阪がにやりと笑う。
「……わたし等の仕事がなくなってまうからや」
「あのなぁ……」
(おしまい)
- 363 :脳内ちよとも大阪限定 :2004/07/31(土) 14:19 ID:???
- 終わりました。
何か、後半から、とってつけたような設定のオンパレードでした(笑
それにしても、視点を幾つも使うととても難しくなりますね。
やはり、勉強が足りないみたいです。
それでは……
- 364 :名無しさんちゃうねん :2004/07/31(土) 15:01 ID:???
- 展開がもろに逆転裁判だとか、キャラの性格に合っていないとかは
この際置いといて……。
とにかく、最後までよくやった!
- 365 :名無しさんちゃうねん :2004/07/31(土) 19:54 ID:???
- >>364
展開が逆裁って言うのは最初に述べています。
キャラの性格は……すいません。仕方なかったのです。
だって、そのまま使ったら裁判になりませんから(笑
きっとこうなる。
大阪「尋問? それって食べれるん?」
智「いいんだよ。あんた有罪決定!!」
ちよ「私が私が……かわいそうですぅ。有罪? 無罪? 誰か時計の針を戻してー!!」
それはそうと、最後までやるのは性質なので。
それに約束もありましたし。
でも……もう終わりですかね? このスレ。
- 366 :名無しさんちゃうねん :2004/08/05(木) 13:32 ID:???
- あげとこう。何だ、結構職人さん書いてるじゃん。
- 367 :名無しさんちゃうねん :2004/08/20(金) 00:26 ID:???
- どこをどう見ればそう見えるのでしょうか。
たった一人ではありませんか。
次は……エッチな要素も必要ですな。個人的に。
となると、男キャラの登場は必須……なのですが、このスレはちよ智大阪限定だから……百合。
でも、そうなると、嫌になる人もいるでしょうから、その辺は何とかせねばなりません。
- 368 :名無しさんちゃうねん :2004/08/22(日) 18:58 ID:???
- 突発2
- 369 :三人限定でネット :2004/08/22(日) 19:17 ID:???
- 「なぁ、ちよちゃんってパソコン得意ー?」
黄昏時の教室。
「得意って程ではありませんが、それなりに使えますけど?」
外から聞こえてくるのは、運動部部員の威勢のいい掛け声とヒグラシの鳴き声。
「ほんならやー、いんたぁねっともできるわけやな?」
夕陽色に染まる校庭を、青春の汗を流しながら駆ける生徒達。
「え……まあ、一応できますよ。でも、どうしてですか?」
電気も消え、教室を照らすのは窓から差し込んでくる夕陽の光だけ。
そんな空間に今、存在している二つの人影。
「実はやな、ちょっと調べたい事があんねん」
肩まで伸びたセミロングの髪を、夕焼けの色に染めた少女。
大きな瞳がその光を映し出している。
「学校の……パソコンでな」
「え?……今からですか?」
セミロングの少女……春日歩の言葉を聞き、少しの戸惑いを見せる小さな女の子。
その体躯ゆえ、全身は黄金色に染まったいる。
更に、夕陽が、二つのおさげの元来の色をより一層強めていた。
「でも、もう5時ですよ?」
おさげの少女……美浜ちよは時計を指差し、歩はその方を見やる。
「わかってるねん。せやけど、どうしても今知りたい事なんや」
言葉とは裏腹に、歩の語調はかなりのんびりとしている。
「何ですか?」
「それは後のお楽しみや」
何がお楽しみなのか、ちよは解せない。
しかし、普段から歩の言動には慣れているちよ。
ちよは歩の提案に渋々了承すると、二人は黄金色に染まった教室を後にした。
- 370 :三人限定でネット :2004/08/28(土) 17:00 ID:???
- 「うわー、人、全然おらへんなー」
図書室。
放課後の図書室。
いかにもな生徒が二、三人いるだけで、他に人影は見当たらない。
「ほな、早速調べよか」
本棚の間をすり抜け、歩とちよは壁に面したパソコンに向けて足を進める。
パソコンの前には、やはり人影はなかった。
ローラー付の椅子を引き、歩がそこに腰を下ろす。
ちよはその横のパイプ椅子に腰をかけた。
「え、えーと、B、Bはどこやー?」
やっとのことで検索画面にまでこまを進めた歩。
しかし、歩は先ほどからずっとキーボードとにらめっこをしていた。
椅子に座ってから、既に十分以上が経過している。
その様子を見かねたちよが口を開く。
「あのぉ、私が代わりに入力しましょうか?」
キーボードからちよの顔へ、ゆっくりと視線を動かす歩。
「ほんまに? 助かるわぁ」
席を替わる二人。
歩がパイプ椅子に、ちよはローラー付の椅子に。
「それで、何を調べたいんですか?」
ホームポジションに手を置いたちよが画面を見ながら歩に問いかけた。
本棚が壁となり、夕陽が差し込んでこない、パソコンの前。
勉強していた最後の生徒が席を立つ。
(鍵置いとくから、最後かけて出てね。あ、電気も消しといてね)
そんな言葉も耳に入るわけがない、パソコンの前。
「あんなぁ、ぶるせらを調べてほしいねん」
戸の閉まる音。
「え? あの、もう一度お願いします」
図書室には二人だけ。
「せやから、『ブルセラ』って言葉を調べてほしいねん」
図書室には、歩とちよの二人だけ。
- 371 :三人限定でネット :2004/09/04(土) 11:41 ID:???
- 「はぁ? 忘れ物?」
親友はわたしの言葉を、何とも呆れた様子で繰り返した。
「どうせ、お前の忘れ物だ。大した物でもないだろう?」
既に半分以上まで来てしまった帰り道。
今から戻ると言えば、誰だって辟易する。
でも、わたしはどうしても取りに戻らなくてはならない。
なぜなら……こいつを困らせたいから。
「……リコーダー忘れたんだよ」
親友の顔が一瞬のうちに蒼白と化す。
『わなわな』と震えるとは、まさにこの事だろう。
「……今、何て言った?」
「だから、リコーダー忘れた」
「……な、な、何だとー!? とも!! 今すぐとって来い!!」
つい先ほどまで真っ青だった顔が、今は炎の如く真っ赤になっている。
知っている。
わたしは知っている。
親友がここまでマジになることを。本気と書いてマジ。
「誰かに吹かれたらどうすんだ!!」
おせっかい? 杞憂?
いや、違う。
これは嫉妬だ……しかも、まだ起きてもいない事に対する嫉妬。
「吹くわけないじゃん……」
「もしもってことがあるだろう!!」
たしかに、わたしも誰かに自分のリコーダーが吹かれたら嫌だ。
だけど、こいつはもっと嫌なのだろう。耐えられないのだろう。
……間接とはいえ、自分以外の誰かの唇がわたしの唇に触れることが。
- 372 :三人限定でネット :2004/09/04(土) 11:42 ID:???
- 結局、親友を困らせることには失敗し、代わりに怒らせてしまった。
「ほら、取りに行くぞ」
「えー、あんたも付いてくの?」
元々、本気で取りに行くつもりもなかった物。
どうせなら、取ってきてもらいが、こいつにそんな事言ったところで無駄に終わるのは目に見えている。
好きだからこそ甘やかしたくないんだ。とか、言いそうだ。
「ねえ、わたしのこと好きなら取ってきてよー?」
「あのなぁ……私はお前のために言ってやってるんだぞ? 好きだからこそ、甘やかしたくないんだよ」
案の定。
だったら、なんで一緒に行くんだよ? とツッコミたい。
「わたし一人で行くからいいよ」
「な、何言ってるんだ!? 誰かに襲われたらどうするつもりだ!!」
こいつには珍しく、最初に言ったことと矛盾している。
「大丈夫だって。いざとなったら、この必殺の右手で……」
たしかにわたしは『超』が付くほど可愛いけど、今は夏。
まだこんなに明るいんだから、変な人だって出ない。……と思う。
そう言えば、変な人にしてみれば、夏って、商売上がったりの季節だよなぁ。
「ダメだ。私も付いていく」
「取って来いって、自分で言ったじゃん」
それは……、と言葉を濁す親友。
「あれは……少しカッとなってつい……」
「はぁ……ベッドの上じゃ、散々、甘えさせてくれるくせに」
わたしが言った刹那、親友の怒声が飛ぶ。
「な、何を!? とも!! こんな所でそれを言うとは……今夜は覚悟して置けよ?」
言葉の最後のトーンが下がった。
さすがに不味かったな。
これはタブーだった。
でも、親友の目に一瞬、よからぬ輝きが宿ったのをわたしは見逃さなかった。
結局、わたしの親友は怒りが頂点に達して、先に帰ってしまった。もとい、わたしの我侭を聞いただけ。
何だかんだ言って、結局最後に折れるのはあいつ。
さて、取りに行くとするか。
教室にはまだ誰か残っているのだろうか?
わたしは親友の心配を無下にし、のんびりと、教室を目指した。
- 373 :三人限定でネット :2004/09/15(水) 21:56 ID:???
- 明るいと思っていた校舎の中は、思いのほか薄暗かった。
日がまだ差しているからだろうか、廊下の電灯はついていなかった。
「やっぱり誰もいないなぁ……」
思わず独り言がもれる。
怖さを紛らわすためじゃないぞ!!
あいつがいたら、わたしはきっとそう言っていただろう。
だが、さすがに気味が悪い。この時間帯だと、先生たちも残ってはいないだろう。
例え、いたとしても、それは運動部の監修に行っているか、残りの仕事をやっているかだ。
黄昏時の学校が、こんなに不気味なものだとは知らなかった。
わたしは、なるべく余計なことを考えないようにしながら二階の教室へと向かった。
教室に入り、真っ先に自分の席へ向かうと、わたしは机の横に掛けてあった細長い袋を掴み、さっさと教室を出た。
教室には鍵がかかってなかった。
来て正解だったかな。
罪を犯すのが生徒だけとは限らない。現に、この学校には一人、危険度Aの古文の先生がいる。
微弱な光に包まれた廊下に、一人ぽつんと立つわたし。
目的を果たしたわたしは、一秒でも早く、この薄暗い校舎を出たい思いで一杯だった。
そう思ったせいだと思う。
わたしは、来た方向とは逆の廊下の先に見えた光に興味を抱いてしまった。
今のわたしにはそれが希望……何よりの安心感を与えた。
「あれ? ……まだ、人いるじゃん」
光……電気がついているのは図書室だった。
先ほどまで考えていたこととは反対に、いつの間にかわたしは図書室の前まで来ていた。
中から音は聞こえない。
こんな時間まで残っているなんて、一体誰だろう?
まじめ君が勉強でもしているのかな?
それとも……教師と生徒の禁断の……んなわけないか。そんなことするくらいだったら、普通電気は消すよな。
色々な考えが頭をよぎったが、ここはわたしの元来の性格に、素直に従うことにした。
見て確認する。それだけ。
- 374 :三人限定でネット。そして…… :2004/09/15(水) 21:57 ID:???
- 「ぶるせら? ……何ですか、それ?」
当然の疑問を投げかけるちよ。
「わたしも、ようわからへんねん」
歩が言葉を続ける。
「今日、昼休みに男子が言うとったんやけどな、ごっつ儲かるんやてー」
「儲かる? ああ、何かのお仕事ですか?」
「多分やけどな。今年の夏はマグネやのうて、そこでアルバイトしようかと思うてるんやけど、ちよちゃんはどないする−?」
歩の問いかけに、少し戸惑うちよ。
「そうですねぇ……お仕事の内容にもよります」
「ほな、早速調べよか?」
もっともな意見。
結局、調べなくては答えは見えない。
「そうですね。早く調べましょうか」
パソコンに向き直ると、ちよはキーボードも見ずに、目的のワードを入力する。俗に言うブラインドタッチ。
その技に感心しつつも、歩は画面を食い入るように見つめた。
画面は変わり、現れたのは、二人がまるで予想もしていなかった文字。文字。文字。
「し、下着……? 大阪さん、これって一体……」
ちよはオロオロとした態度で、歩の方に目を移した。
だが、歩はそんなことはお構いなしに画面を見ている。
「生脱ぎ……? 生って、どういう意味やろう……」
歩は自分の手を、ちよの、マウスを持っているほうの手に重ねた。
え? 大阪さん?
ちよの体は突然のことにビクッと反応した。
だが、その行為は当初の目的に素直に従ったまでのこと。
「大阪さん……」
大阪さんは、このサイトにアクセスしようとしてるんだ……。
大阪さんの手……温かいです……。
ちよは少し妙な高調を覚えつつも、歩がアクセスしようとしているサイトの名前を見た。
「濃厚プライベートルーム?」
本当に、お仕事の内容にもよります……。
先ほどまでの仕事への期待感は消え去り、残ったのは不安のみ。
何考えてるのだろう……まさか、本当に……?
いくら11歳と言えど、生活しているのは高校。否応なしにそういう情報は入ってくる。
特に、ちよの場合、まじめな性格のせいで、気になることは徹底して調べないと気がすまない。
得てして、そういう知識が深まる。
「マグネの方が……」
もうダメです……聞いてくれません。
既に、大阪はちよの手を介してクリックしていた。
- 375 :三人限定でネット。そして…… :2004/10/05(火) 11:38 ID:???
- わたしかて、こんな字見たら、働く気なくなったわぁ……ランジェリーショップ言うんやろ?
わたし、下着に詳しくあらへんし、説明なんてできへん。
せやけど、内容だけでも知りたいやんか。
歩は誤った知識と自らの好奇心のみでクリックをしていた。
「……」
「……」
なんやこれ……?
トップページを見た二人は固まった。
そこには、目に黒い横棒が入った、自分たちと同じくらいの年の女の子が映っていた。
その画像の下には、下着や制服など、男性の浅ましい心を仄めかす文字が書かれていた。
そして値段。
だが、歩にそんなことを理解できるわけもなく、歩は画面をただただ、見つめていた。
「……ちよちゃんが穿いてるパンツっていくらー?」
高級な下着なんやろかぁ……?
ちよは当然、歩の意図が読めるわけもなく、狼狽する。
「な、なんでそんなことを!?……そ、それほど高くありませんけど……少なくとも、このサイトに載っている下着ほどではありません」
「そうかぁ……わたしもこんなに高いのは買わへんけどなぁ……」
うわぁ……このブルマ、わたしが買ったやつの倍の値段やぁ……。
これって、アレかなぁ……?
「あのぉ、大阪さん……この下着やブルマって、もしかして中古なんじゃないんですか?」
ブルセラという商売をいち早く理解したちよが、歩に示唆する。
「ほな、これ、一回誰かが穿いたってことー?」
ちよを一瞥した歩が、再度、画面の説明文を食い入るように見つめる。
「多分そうだと思います。そして、それを買うのは女性じゃなく……」
やっと、大阪さんにも解ったみたいです。
ガラにもなく、あからさまな狼狽の色を見せる歩。画面とちよの顔を交互に見やり、顔の紅を増してゆく。
「ち、ちゃうねん!! わ、わたしはこんな変態な商売をやろうと思ったんやのうて、その、あの、えっとな……確かに予想はついたけど……ほら、人は誰でもあるやんか。好奇心ってものが」
うわぁ、大阪さん、顔真っ赤です……。
元から、意味不明なことをしばしば口にする歩だが、今は素で呂律が回らない。勿論、羞恥心で。
「わかりましたから、落ち着いてください。大阪さん」
そう言って、ちよは、歩の手を上にのせたまま、ウィンドウを閉じた。
……何だか、可愛いです。
そして、パソコンを終了させる。
- 376 :三人限定でネット。そして…… :2004/10/05(火) 11:38 ID:???
- 「もう帰りましょう。大阪さん?」
「せやな。ほな、帰ろかー」
すっかり元に戻った歩と、その状態に戻すのに苦労をしたちよ。
二人は椅子から立ち上がると、早速、帰路に着くべく、図書室を出ようとした。
まさに、そうしようとした時だった。
二人は気づいた。と言うよりも、パソコンから振り返った二人の瞳に映った。
「ともちゃん?」「ともちゃん?」
綺麗なユニゾン。
- 377 :三人限定でネット。そして…… :2004/10/05(火) 11:39 ID:???
- ……パンツが一枚で諭吉さん?
わたしは、目の前にいる二人に軽蔑の眼差しを送るどころか、親しみを覚えていた。
もちろん、友達としてではなく、同業者として。
「と、ともちゃん、これはその……」
ちよちゃんが顔を真っ赤にしてしどろもどろになっている。
大阪の方は、現状を把握していないみたいだ。
と言うより、把握していても、別段リアクションがでないのだろう。こいつの場合。
「大阪……お前は諭吉さんが好きか?」
「諭吉さん?」
とりあえず、わたしはこいつの少し誤った知識を正してやることにする。
「いいか、大阪。わたしたちは女子高生だ」
「うん。そやなー」
「ブルセラで働くということは、どういうことだ?」
「え? 接客するんやろ?」
これだ……。さっきの取り乱しは一体なんだったんだ?
ちよちゃんの方も、あからさまな辟易を見せている。
「何で、わざわざ直接仕事しなくちゃならないんだ!?」
「へぇ? どういうことー?」
わたしは、はぁ、とため息をつくと、さっそく説明を始めた。
「いいか? ブルセラで売ってるのは何だ?」
「下着とかブルマー。あ、制服もあったなぁ」
「じゃあ、それを元々持ってたのは誰だ?」
「……女子高生?」
「その女子高生は、ただで店に提供したのか?」
わたしの問いかけに、数秒送れて、大阪がポンと手をたたいた。
やれやれ。
「それが、『仕事』だ」
女子高生が自分の下着を、制服を、果ては体操着まで。売る。
そうして、それを男が買っていく。
性に飢えたのか、はたまたそういう嗜好の持ち主なのか。
いずれにしろ、普通の下着とは比べ物にならないくらいの値段で買う。
今の女子高生にはいい小遣い稼ぎになる。
- 378 :三人限定でネット。そして…… :2004/10/05(火) 11:40 ID:???
- 「ともちゃん、詳しいなー。……なんで、そんなに詳しいん?」
来たか……。
これだけ言えば、さすがの大阪だって、疑問に思うのは当たり前だ。
なぜ、わたしが『ブルセラ』という仕事に、ここまで詳しいのかを。
「そ、それはだなぁ……」
わたしは言葉を濁す。
果たして、理由を言っても大丈夫だろうか?
大阪……まあ、こいつは大丈夫だろう。
ちよちゃん……少し不安がある。
口が軽いとか、そういうのじゃない。
問題はわたしを見る目だ。
きっと、理由を話せば、ちよちゃんの、わたしを見る目は変わるはずだ。
軽蔑の目。
「したことあるんですか? ブルセラ」
下に目をやる。
ちよちゃんだ……。
まさか、ちよちゃんの口からそんな言葉が出るとは思いもよらなかった。
ちよちゃんの目を見る。
いたって真剣な目をしている。
「あるよ」
奇襲成功。
ちよちゃんは、漫画の登場人物並に驚き、大阪はワンテンポ遅れて驚いた。
天才には負けられない。
「ま、わからないことがあったら、何でも聞きたまえ」
- 379 :三人限定でネット。そして……○○○○バイターズ :2004/10/05(火) 11:41 ID:???
- 「せんせぇ」
「何?」
「せんせぇって、ブルセラやったことあるん?」
「……体育教師に聞け」
「忠吉さん、これ、穿いて下さい」
「わん!!」
「うーん……やっぱり、犬の○○○での偽装はいまいちですね……」
「ねぇ……」
「ん? 何だ?」
「……ニーソちょうだい」
「……旅行代なら、私が出す」
「え? 何でわかったの?」
「以前にも同じことがあっただろうが!!!」
「そうだっけ?」
「忘れるな!! まったく、あの時はとんだ恥を……」
「ごめんごめん。でも……旅行代、貯めててくれてたんだ」
「あ、ああ……私も、お前と旅行に行きたかったからな」
「うれしぃ……」
「とも……」
「北海道!?」
「ああ、そのつもりだ」
「わぁ、楽しみ……」
「ふふ、蟹か?」
「うん!!」
「食べ過ぎて、お腹壊すなよ?」
「大丈夫だって……夜は、蟹の足を使って、楽しもうね?」
「するかっ!!!」
- 380 :名無しさんちゃうねん :2004/10/05(火) 11:42 ID:???
- 終わりました。以上。
- 381 :名無しさんちゃうねん :2004/10/06(水) 17:58 ID:???
- 誰も見てないけど、乙カレー
- 382 :名無しさんちゃうねん :2004/10/06(水) 18:38 ID:???
- >>381 初めて君を見たときは、「誰も見ていない」なんて、いやみったらしい奴だな
と思っていたら、なんと君はしっかりageているではないか!
これは->>379さんの書いた作品をみんなにも見てほしいという君の願いなんだね!
感動した!君はなんて人思いな人なんだ!
こうして僕が->>379さんの作品を見れたのも君のおかげだし・・・
>>381さん!僕と結婚してください!
- 383 :名無しさんちゃうねん :2004/10/06(水) 20:42 ID:???
- >>382
事実、スレの原住民はもういなくなってたし。
いやみでもなんでもなく、事実だよ。
- 384 :366 :2004/10/06(水) 20:54 ID:???
- >>367
大阪板の他のスレも含めての話。まっ、便りがないのがよい便りってわけじゃないけど、
書き込みなくてもそれはそれで。
- 385 :名無しさんちゃうねん :2004/10/18(月) 02:38 ID:???
- ?
- 386 :名無しさんちゃうねん :2004/10/18(月) 17:30 ID:???
- 用も無いのにあげないでいただきたい。このスレはもう……
- 387 :名無しさんちゃうねん :2006/06/07(水) 17:08 ID:X71Qd/06
- 、ん;ういおg@:y
- 388 :名無しさんちゃうねん :2006/06/08(木) 07:16 ID:???
- このスレは消滅・・
- 389 :名無しさんちゃうねん :2006/06/10(土) 10:22 ID:???
- 死にスレあげるな
- 390 :名無しさんちゃうねん :2007/05/05(土) 21:14 ID:waffDmz2
- ・・・・・・気持ち悪い
終劇
- 391 :名無しさんちゃうねん :2009/04/07(火) 17:40 ID:tIo4bCkM
- …おえ
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