世の中のすべての萌えるを。

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【これはこれで】キムリン【それいいじゃん!】

1 :名無しさんちゃうねん :2002/11/17(日) 14:17
少ない出番でおいしいところを全部もっていくキムリンを語ろう。

222 :あず青労同大阪派教労委員会 ◆ttKIMURA :2004/05/02(日) 21:18 ID:???
【木村の回顧録:10−1】

 体育祭の最後は、フォークダンスである。
 フォークダンスといえば、私の高校時代は、文化祭の日の夕闇迫るひとときに行われる
ものだった。消えゆく残照と手製の松明とがかすかに照らし出す異性の表情を横目で見な
がら不器用に踊った記憶は、今思い出してもえも言われぬムードがある。それは変な意味
ではなく、むしろ私達から幼稚な好き嫌いを消し去り、大人のたしなみとして相手の手を
取る紳士、という感覚を教えてくれた。
 しかし、高校生を夜遅くまで学校に置いておくことが好ましくないといった事情なのか、
いつしか日中に行われる様になった。しかも、体を動かすからという基準なのか、体育祭
のメニューにされてしまっている。これでは昔私達が教えられた「紳士淑女のたしなみ」
など感じようがなく、そうなってしまうと、「異性の手を握るのは嫌」「冷やかされる」
といった子どもっぽい意向をそのまま聞き入れざるを得ない。だから、双方の組は男も女
もごちゃまぜだ。
 まっ昼間の社交ダンス―――世界中の、笑いものだ。
 学校が行事を催さなくとも、高校生は遅くまで出歩いて、さまざまな問題に巻き込まれ
てしまっている。確かに文化祭の夜を機に交際が深まり、後に若さゆえの過ちで悲劇を迎
えてしまう男女もいたが、盛り場で不特定の異性と問題を起こすのとどちらが不健全だろ
うか。何より、幼稚な好き嫌いを幼稚だと自覚させず、つまらない基準で人を選り好みす
る人間のまま生徒を社会に送り出すのが、果たして教育なのだろうか。

223 :あず青労同大阪派教労委員会 ◆ttKIMURA :2004/05/02(日) 21:19 ID:???
【木村の回顧録:10−2】

 ・・・・・しかし、それでもフォークダンスをするという企画が生徒から出てきている
というだけ、まだ救いがある。考え事などしてそれを無にしてはいけない。そう思って気
持ちを切り替え、ふと横目で次の相手を見ると、かおりんだった。
 かおりんが、今まさに、彼女の想い人である榊君を相手に、顔をほんのり赤らめて不器
用に、しかし精一杯踊っている。
 幸せそうな、かおりん。
 しかし、「こんなことがあっていいの?」という、過分な幸せからくる戸惑いの色もま
た彼女の目の中にあるのを、私は見逃さなかった。そしてその目は、時折隠れる様にして
榊君を見上げる以外は、伏してしまっている。
 偶然やって来た至福のひとときに、目を丸くするのは解る。でも、かれこれ2分近く踊
っているよ。いつまでもそんな色を浮かべていてはダメだ。相手は何だろうと思ってしま
って、好意なんて伝わりようがない。嫌なのかとすら勘ぐってしまうよ。・・・そうだ、
言葉だ。いきなり好きだなんて言う必要はない。そんな伏し目じゃなくて、もっと相手の
目をしっかり見て、楽しいとか、なにか、素直な気持ちを一言・・・ああ、そんな事じゃ
これから君はいつまでも・・・・・

224 :あず青労同大阪派教労委員会 ◆ttKIMURA :2004/05/02(日) 21:20 ID:???
【木村の回顧録:10−3】

その時、相手の交替を告げる合図が鳴った。
 かおりんの腕が、隣へと移って行く榊君の手に一瞬だけついていってから、だらりと垂
れた。微妙な表情の曇りよりも、その手の動きが、彼女の未練をよく伝えていた。
 しかし、かおりん、落ち込んでいる場合じゃない。
 そんな事じゃダメなんだ。君はこれから、決して暖かい者ばかりじゃない社会を相手に
強く生きなきゃならない。それが相手に気持ちを伝えることすらままならない様では。
 では、思ったことを素直に相手に伝えるとは、どういう事か―――。
 私はかおりんと向き合うと、思いっきり力強く、「ようこそ!」と彼女に言った。実際、
次が私でよかったと思ったからだ。彼女が榊君を思っている事に気づいている者でなけれ
ば、励まそうとも必要なことを教えようとも思いようがない。
 彼女の表情が、さっ、と変わった。ほら、言えば相手に気持ちが伝わるんだ。でも、か
おりんの踊る動きは、まだまだぎこちない。私はなおも気持ちを伝える。このところ運動
不足気味で、久しぶりに体を動かすのが心地よくなってきたところだったから、心地よさ
のままに笑った。私が笑うにつれて、彼女も体を動かすことに集中できる様になってきた
らしく、汗をかいている。表情は相変わらず固いが、未練とかそういったものとは違うも
のだ。よかった。これだけ気持ちの切り替えがしっかりできれば、今すぐどうにかなって
しまうことはないだろう。後は安心して、フォークダンスを楽しもう。
「楽しいかい?かおりん」
「かおりんって呼ばないでください!」
 声に勢いがある。彼女は、すっかり元気だ。しかし、やはりこの言葉に象徴される、自
分が大事にされていることを受け入れられないという状態は悲しい。
 昼下がりにしてなおまばゆい日差しの中で、私はあの夕べのフォークダンスをまた思い
出していた。あの松明の薄明かりの下、私達は紳士淑女になる一方で、恋する者は素直に
なり、大人の恋愛もまたごく自然に生み出されていた。彼女がもしあのダンスの輪にいた
ならば、奮い起こす様にせずとももっと素直になれたかも知れない―――
 かおりんのために、いつかこの学校でも、夕闇の中でロマンチックなフォークダンスを、
と、私は思った。

                                        【つづく】

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