世の中のすべての萌えるを。

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あずまんが大王で仮面ライダー2

1 :名無しさんちゃうねん :2003/05/25(日) 19:30 ID:U04wddbI
みんな、ずっと、一緒…の筈だったのに、どうしてこんな事に!?
こんなの、酷すぎるよ…だが、それがお前達の運命だ
戦え、戦わなければ生き残れない……
果たして、彼女たちはどう戦い、どう生き残るのか!?
(初代スレより 一部改竄)

前々々スレ(初代スレ)
あずまんが大王で仮面ライダー龍騎
http://comic.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1023956889/l50

前々スレ
あずまんが大王で仮面ライダー龍騎2
http://comic2.2ch.net/test/read.cgi/asaloon/1040046719/l50

前スレ
あずまんが大王で仮面ライダー
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1046790365

関連HP
鷹氏の保管所
http://azuhawk.hp.infoseek.co.jp/

101 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:34 ID:???
 軽いパニック状態の浩子を尻目に、他の三人は余裕しゃくしゃく。「お疲れさーん」と男らに声
かけて長い階段を降り始めた。こんなところに置いていかれてはたまらない。必死に後に続いた。
やがて大きな扉がひとつ。立っていた大男――暗くてよく判らないが、黒人のようだ――が「イラ
ッシャイマセ」と片言の日本語で挨拶。ドアノブに手をかけて、開けた。

 ――途端に。
 中からまばゆい光が迸り、浩子は痛みすら感じて目を閉じてしまった。耳には、男女のさざめく
声が聞こえている。こちらも、これまでの静寂から一転して。
 
「何やってんだよ、こっち、こっち」手を引かれ、前に進む。何度かの瞬きの後、やっと明るさに
慣れた浩子の目に飛び込んできた光景は――別世界だった。
 まず、広い。天井も高い。入学式が行われた九段の国技館を思い出した。
 そこでポーカー等のカードゲーム、ルーレット、その他様々なギャンブルが行われているのだ。
 いつかTVで観た、ラスベガスの光景が脳裏に蘇った。

「か、カジノ?」自然と口をついて出た単語。「ビンゴー!大当たり!」すぐに明美の言葉が、そ
の連想が正しかった事を証明した。

「驚いた? 驚いたよねぇ? こんなところに、こんなもんがあるなんてさ。きゃはは」
「嘘っこじゃなくてさー、ホントにお金賭けてんだよ」
「お客さんもさー、いいとこのボンとかぁ芸能人とかぁ多くて、お近づきになるチャ〜ンス!」

「え・・・・・・あう」浩子はポカンと口を開けて、しばし立ち尽くした。
「な、なんで?」そして、やっとすべき質問を発することに成功した。

「え〜、なんかぁ、ここって戦争の時、軍の秘密施設だったんだって。んで、こんな地下に超広い
スペースがあるわけ」
「大学の中って、けっこー好都合なんだって。自治のせーしん? とかってのがあるそうでさ、警
察とか外部からウザいこと言われにくいんだって。よくわかんないけど」
「きゃはは。でもねぇ・・・・・・あっ、始まるよ♪」

102 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:37 ID:???
 明美の視線の先に、ざわめきと共に客が集まり出した。中央には金網で囲まれた空間が見える。
暗くて、その中までは窺えない。

「え、動物かなんかの檻?」浩子は自分の知識にあるもので、最も近いものの名をあげた。
「コロシアムって呼んでる、ここでは。でも、檻ってのは意外といいセンいってるかも。ケダモノ
を戦わせる場所だもんねー」明美が答える。その顔は上気し、目は興奮に輝いている。これから何
が始まるというのか?

 ――お待たせしました。レディース&ジェントルマン。イッツ ショータイム!

 アナウンスとともに高まった歓声が、浩子らの会話を中断させた。

 ――まず、本日の戦士をご紹介。東方は皆さんご存知、先日のバトルでスワニーを破り勝ち残っ
た狂乱の暴れ牛・バッファロー!

 檻の一角、スポットライトの光の中に、雄叫びをあげる異形の姿が浮かびあがった。全身はその
名が示すように牛を思わせる無骨な意匠の甲冑に覆われている。

 ――西方は勇敢なチャレンジャー。暗闇の使者・バット!

 今度は先ほどと反対側が照らされて、別の戦士が姿を露にした。その身を包む甲冑は黒尽くめで、
以前洋画で観た蝙蝠を模したヒーローを浩子は思い出した。

 両者はそれぞれ大きな剣を手にすると、中央へと進み対峙した。

 ――では、始めましょう。いつものように、時間無制限・ルール無し!

 立ち尽くす浩子の肩を抱き、明美が耳元でつぶやいた。
「ねぇ、浩子ぉ。本気の殺し合いって見たことある? とーっても楽し〜いよぉ、病みつきになっ
ちゃうくらい。きゃははははは」
 
 ――レェッツ ファイッッ!!

「おおおお、オレが最強だぁぁぁっ!」「ざけんなよぉぉ、オレこそ頂点だぁぁ!」

 アナウンスの声を合図に、絶叫と共に二人の戦士は斬り合いを始めた。その叫びは――浩子は知
りようもないが――昼間、神楽の目の前で戦いを始めた連中のそれとまったく一緒であった。

103 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:39 ID:???
<九>

 ――そして、再び場面は花鶏へ。
 やっと店内の片付けも終わり、三人はカウンターで一休み。何か冷たいものでも飲もうか、とい
うことになったところである。

「榊さん、お疲れさまでしたぁ! どうぞ」

 独特の香りのするアール・グレイを濃く淹れて、グラスに満たした砕氷の上に注ぐ。そうして出
来上がったアイスティーを、かおりは満面の笑顔で榊の前に置いた。
  

「はい、神楽も」「お、サンキュ!」「最後に私、と」
「それじゃ乾杯といくか。お疲れさーん♪」

 神楽の声につられるようにかおりも、榊までもがグラスを合わせた。

「ちょっと、何で乾杯なのよ?」「…?」「こーゆー時は乾杯するって決まりごとだろ?」
「そんなわけないでしょー、もう。ふふふ」「ま、別にいいじゃねーか。へへへっ」「…」

 和やかに二人は笑い合った。そっと榊の表情を窺うと、心なしか彼女の顔にも笑みが浮かんでい
るかのように見えた。何か不思議な一体感に場が満たされてゆく。普段は言いづらいことも打ち明
けられる、そんな雰囲気に。

「なぁ、かおりん。あのさぁ、なんていうか」 神楽は思い切って、話を切り出してみた。

「なに? さっきも何か言いたげだったでしょ。遠慮するなんて、あんたらしくないよ」
「よっしゃ、じゃあ聞くぜ。お前の兄ちゃんてさぁ、なんでライダー同士を戦わようとするんだ?
えらく熱心にさぁ」
「そ、それは。・・・・・・ごめん、知らないの」 「尋ねたことはねーのか? 兄ちゃんに」
「何度も聞いたよ。なんでそんなことさせるのって。でも、教えてくれない。お前は知らなくてい
いって」

104 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:40 ID:???
 そう言うとかおりは目を伏せ、指でグラスの縁を軽く弾いた。

「実はね、今日のお昼、あんたがでかけた後にもお兄ちゃんが来てね」
「何ぃ、飯でも食いに寄ったのか?」
「ううん。お昼まだならすぐ作るよって言ったのに、いらないって・・・・・・ちがーう! 話がずれち
ゃったじゃない」 「おっと、すまねぇ」
「もうっ、真面目な話をしてるのに。でね、その時もまた聞いてみたの。戦わせる理由を」
「おおっ。で、どーだったんだ」
「だめ。知る必要が無いの一点張り。それで、私も少し頭にきて『お兄ちゃんのバカ!大ッ嫌い』
なんて口走っちゃって。そしたら、お兄ちゃん、悲しそうな顔で・・・・・・」

 ――お前はなにも心配するな。俺はいつでも、お前を守る為だけに生きている。

「そう言ったの。それ以上はなんか、追求できなくなっちゃって。えへへ」
「なーに嬉しそうな顔してんだよ、このブラコン女。もっと追い込めってんだよ、言わなきゃグレ
て茶髪にするぞとか、へそにピアスの穴開けちゃうぞとかよぉ」
「だーれがブラコンだってのっ! なんで私が茶髪だのへそピアスだのしなきゃなんないのっ!」
「お前、自覚がねーのかよブラコンの?」「なにぃ! ガサツ女になんか言われたくないわよ!」
「なんだよっ!」 「なによっ!」
「「ふんっ!」」 声を揃えて言うと、二人は同時にそっぽを向いた。

 榊はひとりアイスティーをすすりながら、そんな彼女らを空ろな目で見つめていた。

 冷戦は、ほんの数分で終わった。
「・・・・・・あ、アイスティー、お代わりはいいの?」 背を向けたままでかおりが尋ね、
「・・・・・・あ、ああ。頼む」 そう神楽が応えて。
「悪かった。言い過ぎた」「ううん、私のほうこそ」

 この時、榊の唇が一瞬だけ形を変えた。ひとが微笑む時のそれに。 

「ねぇ、神楽。あ、あんたには無いの? ライダーの戦いに勝ち残って叶えたい望みとかさ」
 
 二杯目のアイスティーを作りながら、かおりは尋ねた。おずおずと、ぎこちなく。まるで「あ
る」と答えられることを恐れるように。

「ねぇよ。そんなもん」 だが、神楽の返事は素っ気無い『否定』だった。

「で、でも、水泳は? 現役に復帰して、また泳ぎたいとか思わないの?」  
「ふっ! 今さらなぁ。なんか、もうイヤなんだよ私は。水泳が。上手く言えねぇけど・・・・・・」
「あ・・・・・・ご、ごめん。無神経な事、聞いちゃって。まだ一年も経ってないもんね、あんな事があ
ってから。あー、もう、私ったら! ホント、ごめんね」
「んん? 別にいいよ。私が根性無しなだけなんだからさ」
「そ、そんなことない! あんたは、何も悪くない。それが普通なんだって、うんうん。普通!」
「か、かおりん・・・・・・?」

105 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:42 ID:???
 かおりは、神楽もたじろぐほどの勢いでまくし立てた。そして、自分のグラスをひっ掴むと、中
身を一気にガブ飲み。「ぷはぁ〜」と息をつくと、あっけに取られている娘ににじり寄った。

「ねぇ、神楽」 「な、なんだよ?」 神楽は、思わずやや後ずさりしつつ応えた。

「他のライダーを倒してまで、叶えたい望みは無い。そうよね?」 「ああ、そうだよ」
「だったら、お願い。相手が襲ってきた時は仕方ないけど、そうじゃない限り、自分から他のライ
ダーに戦いを挑まないでっ!」 「え? いや、まぁ、そう心がけてるけどさぁ」
「お願い、お願いだから!」
「か、かおりん。どうしちまったんだ。お前のグラスだけ、酒でも入ってたのか?」
「・・・・・・お願い。約束して」「かおりん。なんでお前ぇ、そこまで?」
「そ、それは」

 ――キィィィン キィィィン
「いやぁぁぁっ!」

 そこへ、あの音が聞こえてきた。何度聞いても、決して慣れることの無い忌まわしい音が。かお
りの悲痛な叫びが重なる。
 ・・・・・・そして、期せずしてそれは、神楽の問いへの答えにもなっていたのだ。

 ――カラン カラン

「な、何ぃ!」 話を中断して戦いの場へ急ごうした神楽に先んじて、花鶏のドアにつけられた呼
び鈴が乾いた音を立てた。外へ飛び出していったのだ。店内にいた、神楽でもかおりでもない誰か
が。
 
「さ、榊!」神楽は、その誰かの名を叫んだ。「まさか・・・・・・、かおりん、おいっ!」
「お願い、お願いだから。神楽ぁ・・・・・・」「くっ!」

 涙ぐみながらの哀願が、事の次第の全てを悟らせた。かおりを残し、神楽も表へと駆け出す。

 ――キィィィン キィィィン

 音の方向へ全力疾走。かなり先行している榊の背を追う。

106 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:48 ID:???
(榊。お前も、お前もライダーだったのか)

 視線の先で、均整の取れた長身がしなやかに躍動している。神楽の知る近代体育の理論とは微妙
に違うフォーム。なのに全く無駄も不自然さも感じさせないその走り。

(ふっ、くふっ、くはははははっ・・・・・・そうとも、そうこなくっちゃいけねーんだ! 私がライダーなん
だから、お前だって!)

 神楽も走り続けた。とっぷり暮れた夜道を。街灯の光に浮かんでは消えるその表情は、獲物を捉
えた肉食獣のようにも、待ちに待ったお祭りの日を迎えた子供のようにも見える。

(戦える、戦えるんだ・・・・・・お前と。またあの頃のように。しかも、今度は命がけだぜ。榊ぃ♪)

 やがて、路肩に止まったワゴン車が見えてきた。「た、助けてくれっ」とドアを開けて転がり出
てきた運転手が、先が平たくなった触手に捕らえられ、ドアウィンドの中へと引きずり込まれてい
った。――モンスターの仕業だ!

(出たな! さぁ、榊。私に見せてくれ、お前のライダーとしての姿を!)

 長身の娘は走る速度はそのままで、何処からか取り出したカードデッキをリアウィンド目がけて
差し出した。細い腰に、無骨なベルトが出現する。

「…変身」舞うような仕草の後、発せられた声。それを合図に榊の姿は、一瞬閃光に包まれた後、
異形へと変わった。――赤を基調としたその姿。左手には、龍の頭を模した手甲!

(り、龍騎! そうか、お前が龍騎だったのか。よぉし、いよぉぉーしっ! ますます燃えてきた
〜!)

「…はっ!」赤き龍のライダーは軽やかに跳躍すると、ミラーワールドへ飛び込んでいった。
「変身っ!」神楽もタイガへと姿を変える。

 ――お前は根っからの勝負好きだ。このままいけば
 手塚の諫言も
 ――お願い、お願いだから
 かおりの哀願も
 今は彼方、遠い彼方。心を満たすのは、ただ純粋な悦びだけ。

「うぉぉぉっ」雄叫びと共に、後を追って鏡の中へ。そして、神楽は叫んだ。

「榊っ! 私と勝負だっ!!」

                                                      (続く)

107 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/07/20(日) 00:51 ID:???
 と、いうわけで第十話でした。
 また長いです。オリジナル設定・オリキャラも満載です。申し訳ありません。

 芝浦と手塚、デッキを持たない一般人として登場させました。
 芝浦は別に問題なく、話の中に納まりました。彼はライダーになってもならなくても、生き方は
変わらないキャラですから。
 逆に手塚は苦労しました。親友の残したデッキを取るか取らないかで、まったく違う道になって
しまうからです。辻褄を合わせるのに、えらく苦しい理屈をこねるハメに(w
 
 ご意見ご感想、お待ちしております。
 
 では毎度おなじみの当てにならない次号予告です。
 
『仮面ライダー 神楽』

「…奇襲こそ虎の本領…邀撃こそ虎の真価」
「神楽のバカッ! 大嘘つきっ!」
「だから、さっきから何をやろうとしてんだよ!」「占いやー。見てのとおり」
「よぉし、神楽。力を貸すぞっ。ボンクラーズ復活だー!」「帰ってくれねぇか、智?」

 戦わなければ、生き残れない!


追伸:◆SwudF.K6 様、毎度、保管所へのアプ、お疲れ様&感謝です。ひとつ、お願いがあります。
この作品をアプする際は<壱><弐>とかの章区切りも省かず、そのまま入れてください。どうか、
よろしく。

108 :名無しさんちゃうねん :2003/07/20(日) 15:39 ID:???
(゜∀゜)キターーーーーーー!!!

109 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:53 ID:???
えらく久しぶりの予感がするのは内緒です。まずはお二人方のSSの感想から書き込みますね。

xPTaKino氏乙です!聖夜の死闘読みました。

>「デートをすっぽかしてこんな所で油を売っていたのかい、神楽さん」
大山君色男でふなー

智タソは病気だったんですか。殺シテモ死ニソウニナイノニ…ごめん嘘ですw
仮面ライダーセイバー(神楽)と謎のライダーネールとの激闘も良い感じ。
オリジナルライダー達によってどんなストーリーになっていくのか…楽しみです。
これからも強くガンガレ。

いらだとばるさん乙!仮面ライダー神楽第10回読みました。

とりあえず保管はこんな感じ(10話)でよろしいでしょうか?
妙にある空白欄と今までの分は8月いっぱいで修正しますので気長にお待ちくださいです。
神楽と手塚の出会い、芝浦の所属するクラブなど、実に原作チックで思わずニヤニヤしてました。
グっジョブ!
しかし神楽と榊が次回で激突するのか…あれやこれやと考えて待ってます。
これからもまったりガンガッテくださいです。

それでは…あずまんがー龍騎第37話、目覚めの時…どぞー。

110 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:54 ID:???
【あずまんがー龍騎!作/鷹】【第37話目覚めの時】

全てが乾き尽くした大地の上で千尋という名の少女が1人途方に暮れていた。

『ここって…どこだっけ?』
『お前の無意識の世界だ』

千尋が振り返った先に1人の男がいた。熱気さえ漂う大気の中、顔色1つ変えること
なくロングコートを羽織っているその姿は奇怪であった。だが、なによりもその男を
印象付けるのは姿かたちではなく、その吸い込まれていきそうな深淵の瞳であった。
千尋はしばし状況を忘れてその男の瞳に魅入られていた。

『…』
『…』
『え、えっと、あなたは誰ですか?』
『神崎士郎…千尋よ。約束の時だ…』
『?』

神崎士郎の言葉に首をかしげる千尋。

『…ボルキャンサー』

その言葉を合図に突然千尋の前の大地が盛り上がって何かが現れた!

111 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:55 ID:???
「きゃあああああ!!」

悲鳴を上げながら千尋はベットから身を起こした。

「な、なに?今の…」

千尋の尋常ならざる悲鳴は隣の部屋で寝ていた母親にも聞こえたのだろう。ベットに
座った母親は千尋の手を握り締めながら心配そうに声をかけた。

「千尋どうしたの?」
「あ、お母さん…ううん。何でもないよ」
「そう…何かあったらいつでも呼ぶのよ」
「うん。お母さん」
「おやすみなさい千尋」
「おやすみなさい」

―バタンッ

部屋の扉が閉められ、千尋は再び1人になった。時計を見るとまだ午前3時であり、
千尋はもう一眠りすることに決めた。

「ふあああ…おやすみ」

誰にともなく挨拶して再び千尋は夢の中へと戻っていった。醒めない悪夢の中へと…

112 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:55 ID:???
『えーっと…これで終わりかな…』

その日は雲ひとつない良く晴れた日だった。太陽の陽射しを暑く感じながら千尋は小
さなメモ帳を片手に夕食の材料を買っていた。

『あとは牛肉を買うだけね』

繁華街へと足を運んだ千尋は不意に右手から全身へとかけて貧血に似た眩暈と海の底
へと潜っていくような衝撃に襲われた。

『…う』

混乱しながらも千尋は原因とおぼしき右手を見て目を大きく見開いた。右手がビルの
ガラスブロックの中へと引っ張り込まれているのである。

『なんなのよ!?』

持っていた荷物を地面にばら撒いて左手で必死に右手を引っ張る千尋。だが、尋常な
らざる力は情け容赦なく千尋をミラーワールドへと誘った。

113 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:56 ID:???
―戦え…戦え!―

…この人を私は知っている…

―急げ…終わりが近づいている―

…終わり?…

―それだ。ミラーワールド、そしてお前の永遠の眠りの日が近づいている―

…そんな…どうしたらいいの?…

―最後の1人になるまで戦え―

…最後の1人?…

―そうだ、思い出せ千尋。いや仮面ライダー、シザースよ―

…シザース?…

―デッキを使え。そして―

―ライダー同士の戦いに決着を着けろ―

「…」

朝のさわやかな光が部屋の中に差し込み、全身に朝日を浴びながら千尋は身を起こし
たが、その瞳は虚ろだった。

「そう、私は仮面ライダーシザース。最後まで、戦い続ける存在…」

114 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:56 ID:???
『きゃあああ!!』

ミラーワールド内に連れ込まれた千尋は背後から迫り来る醜悪な怪物から必死で逃げ
惑っていた。その怪物は両手に巨大な鋏を持ち、見るからにがっしりとした装甲で、
大地に紛れ込み目標をを捕獲する為の保護色である黄土色の身体を持つモンスター、
ボルキャンサーであった。

『ぐっ!?』

追い詰められた壁際で、喉を捕まれ持ち上げられた千尋はそのまま為す術もなく怪物
の開かれた口が近づいてくるのをただ黙って見つめることしか出来なかった。

(お母さんより先に死んじゃうなんて…ごめんなさい)

不思議と落ち着いた心で千尋は目を閉じて最後の時を受け入れた。ミラーワールドに
しばしの時が刻まれた。

『…?』

しかし一向に始まろうとしない終焉に疑問に感じた千尋は恐る恐る目を開けてみた。
見るといつのまにかモンスターの鋏の拘束から解除されており、その隣に見知らぬ
男が立っていた。

『…死が、怖くないのか?』
『え?』
『何故死を恐れない?』

男は食い入るように千尋を見つめていた。男の様子にためらいながらも千尋は答えた。

『…私には何もないから受け入れるしか出来なかっただけ…』

115 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:57 ID:???
千尋は寂しそうに笑いながら言葉を続けた。

『私はいつだってそう。何もないから…黙って受け入れるの』
『…おまえはそれでいいのか?』
『それしか出来ないから…』
『おまえの名前は?』
『わ、わたしの名前は千尋です。あの…あなたは?』
『神崎士郎…』

神崎は千尋に近づくと黒く、長方形の薄い箱、カードデッキを渡した。

『これはなんでしょうか?』
『すべてを凌駕する力だ。いずれわかる』
『力?…きゃ!!』

カードデッキから一瞬電流が流れた感じがして千尋は再びデッキに目を向けた。する
と先ほどまで黒だったデッキが黄色く輝きながら中央に蟹とおぼしき紋様が刻まれて
いたのである。

『やはり…ボルキャンサーに選ばれてたのだな』
『ボルキャンサー?』
『お前を襲った後ろのモンスターだ』

士郎の言葉に千尋が目を向けると膝をついていたボルキャンサーが主人に心の声を送った。

―マッテイタ…ワガアルジ…
『今のは…ボルキャンサーの声?』
『そうだ…』
『でも、どうして私が?それにここは?』
『…時がくればすべてわかる…だが…』
『だが?』

116 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:58 ID:???
その時、士郎の頭を駆け巡ったのは一体何だったのだろうか?
戦いを止めるために戦っていたかつての龍騎?
刻々と迫る己の命のタイムリミットと戦っていたかつてのゾルダ?
いずれにせよ士郎は決断した。

『…タイムリミットを作らせてもらう…すべての生命よ、ここに集え…ソウルベント』
『う…』

千尋は強い脱力感に襲われ、徐々に目の前が真っ暗になっていった。

『なにを…したの?』
『お前の命を時がくれば失われるように設定した。今はすべてを忘れて戻るがいい』

士郎によって潜在意識に刷り込まれていたミラーワールド、戦い方、現在のライダー
達の姿が急速に千尋の頭の中を駆け巡る。そして、自らの命のタイムリミットの日も。

(私はもう受け入れない…永遠の眠り、望まない未来…かつての友達だって…)

千尋は立ち上がると机の上に置いてあったカードデッキを握り締め、脳裏に浮かんだ
かつての友人の1人を襲撃することに決めた。

「…急ごう」

【千尋が眠りにつくまであと―3日】

117 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:58 ID:???
《ファイナルベント》

「てやー」

間の抜けた声ではだったが、ベルデのバイオグリーザの舌を利用したファイナルベン
ト、デスバニッシュは狙い違わずシアゴ―ストを高速で掴み上げると大空高く飛び上
がって一気に地面に叩きつけた。逆さまのまま動かなくなったシアゴ―ストを見つめ
ながらベルデは何かを考え込んでいた。

(どうした?)
「え…何でもないでー…なあグリーザちゃん」
(…何だ)
「今度一緒に海に行かへんか?」
(海?何だそれは?)
「グリーザちゃんは海に行ったことないのん?」
(ああ、記憶にはないようだ)
「ほなら今度連れてってあげるー」
「春日歩…仮面ライダーベルデ」
「?」(?)

ベルデがバイオグリーザと他愛もない安息の時を刻んでいた時、最後の戦いへとライ
ダーを導く神崎士郎の声がベルデとバイオグリーザの耳に届いた。

「あんたは誰やー?」
「神崎士郎…お前は理解している筈だ。ライダーの、宿命を…」
(この男は危険だ!逃げるぞ!)
「…ライダーの宿命って何なんや?」
(歩!)

118 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:59 ID:???
バイオグリーザは本能的に神崎士郎が危険な存在だと理解していた。しかしベルデは
ここのところずっと離れない心のもやもやを解決してくれるのが神崎士郎ではないか
と期待して会話を続けた。

「ライダーは戦い続ける存在…だが、それはモンスターと戦うための力ではない」
「そうやったら、私は誰と戦えばいいんやー?」

あの日ゾルダとナイトを見た時からベルデの心にわき上がっていた一つの想いを神崎
士郎は決定付けた。

「同じ仮面ライダー同士で戦え」

その言葉を聞いた途端、大阪は今の今まで自分を悩ませていたもやもやが晴れ渡って
いった気がした。

「…そうなんや。私はこんな奴等と戦ってもちっとも楽しくないで」
(どうしたんだ歩?あんなに同じライダー同士で戦うのを拒んでいた筈だぞ…)
「そうだったん?でも、もういいんやー」

困惑するバイオグリーザ。以前から予兆はあった。戦う度に大阪がぼーっとする時間
が長くなっていったこと、共鳴を聞きつけて場所にモンスターしかいないのを見て大
阪が少しがっかりしたような動きをしていたこと。だが、全ては遅かった。

「私は…私はもっと強い相手と戦いたいんや!」
「そうだベルデよ。戦え…戦え!」
「そうや!私は戦うんや!…グリーデちゃん行くでー」
(バイオグリーザ!)

119 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 06:59 ID:???
…大きすぎる力は人を狂わす。ベルデの力は大阪には大きすぎたのだろう。今まで必
死に残っていた理性でモンスターと戦い続けていたベルデであったが、士郎の今の一
言で最後に残っていた理性の欠片が砕かれた。ベルデはミラーワールドをひたすら走
り続けた。命の奪い合いという激しい戦いが出来る相手を、己の力に優るとも劣らな
い好敵手、仮面ライダーを求めて。

「うまいこと大阪さんを戦いに参加させましたねー」
「リュウガか…」

士郎は振り向きもせずに相手を言い当てた。そんな士郎にリュウガは先日のタイガと
の戦いで生まれた疑問をぶつけた。

「榊さんに新しいカードを与えたことを士郎さんはわざと黙っていましたね?」
「…」
「黙っていましたね?」
「…」
「別に責めているわけじゃないんですよー。ただ…私にもください」
「…」

士郎は一枚のカードをリュウガに放り投げた。受け取ったカードを見つめるリュウガ。

「炎のサバイブですか!ありがとうございます!…でも士郎さんはどうして急にまた
 動き出したんですか?」

リュウガには、千尋を期限付きでシザースとして目覚めさせたことや、ベルデをライ
ダー同士の戦いに仕向けた士郎の態度は事を急いでいるようにしか見えなかった。

120 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 07:00 ID:???
「らしくないですよー士郎さん」
「…。ライダー同士の戦いの先に何があるか、おまえにはわかる筈だ」
「でも優衣さんの20回目の誕生日まではまだゆとりがありますよ?」
「コアミラーの限界が近づいている…このままだとあと3日で終わりだ」
「!!…それは…予想外ですね」

ミラーワールドの核、コアミラー。コアミラーはエネルギーをモンスターという形で
具現化し新たなエネルギーを獲得する目的で人間を襲撃し、その生命エネルギーをコ
アミラーに補給していた。この一連の流れでモンスターはより一層強くなりその数が
増えていく。だがちよに選ばれた仮面ライダー達は

「モンスターから人を守りそしてコアミラーを見つけ次第破壊して欲しい」

というちよの願いを受け入れ、日々人間を襲撃し、エネルギーをコアミラーに供給し
ようとするモンスター達を撃退していったのでコアミラーの活動停止までもはや時間
がないことを士郎は知って動き出したのであった。最後の戦いに向けて。

「お前も戦え…己の命を守る為に」
「そんな運命に巻き込んだ士郎さんに言われたくないですけどね…」

だがリュウガも士郎の言葉に同意したのだろう。仮面の中に隠れている素顔はいつに
なく厳しい表情をしていた。

―急がないといけませんね。だって私も…

シザース、ベルデ、リュウガ。こうして彼女達はライダー同士の戦いを選んだ。運命
を変える為に、己の全てをかけて戦う為に、自身の命の為に…

【コアミラーの限界まであと―3日】

121 :◆f.SwudF.K6 :2003/08/01(金) 07:06 ID:???
【次回予告】

「ちぇー。よみのけーち!だから太るんだよ!」
「はい!」
「行こっかボルキャンサー」
「そんなこと、私が絶対にさせない!」

【生き残らなければ真実も見えない。ライダーよ、生き残るために戦え!】

122 :応援カキコ :2003/08/01(金) 14:02 ID:???
明日も負けない MEEN! NESS! 
うた:仮面ライダータイガ(神楽)

ココがChanceだってそんなときに 姿みせたら(・A・)イケナイ!!
ググッと爪だして忍び寄ろう トラが引きずってくよ
倒したら なんだろ急に あんたの態度は 何故かきびしい …………Lurk!

 これからもっとズルくなる 
 いちばんになるからね
 応戦なんてさせないよ
 Surprise(奇襲)! 卑怯で今日を駆け抜けろ
 I am a meenness rider TIGER!

123 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/02(土) 13:43 ID:???
◆f.SwudF.K6 さん乙です!
あずまんがー龍騎 第37話読ませていただきました。
あれ?>113、前後の話との繋がりがなんか変ですね。順序間違えてませんか?
あと、メール欄の謎の言葉の意味は(w

まあ、それはさておき・・・・・・千尋がついに参戦ですか〜!

>『…私には何もないから受け入れるしか出来なかっただけ…』

もの悲しい台詞ですね。脇役キャラの本音のような?

そして、大阪までもがついにライダーバトルへ!
「気のいい相棒」って感じのバイオグリーザ、いい味出てますな。

> 「榊さんに新しいカードを与えたことを士郎さんはわざと黙っていましたね?」
> 「…」
> 「黙っていましたね?」
> 「…」

おー士郎ちゃん困ってる、困ってる。やるなぁ黒ちよちゃん(w

今後の展開が楽しみです。
555の方も、早く続きを読ませてくださーい♪

追伸
>とりあえず保管はこんな感じ(10話)でよろしいでしょうか?

はい。お手数をおかけしました。☆⌒(*^-゜)v Thanks!!

124 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/02(土) 14:19 ID:???
>>122
\(^▽^)/ワ〜イ♪ 応援うれしーな♪ 感謝でつ!

> ココがChanceだってそんなときに 姿みせたら(・A・)イケナイ!!
> ググッと爪だして忍び寄ろう トラが引きずってくよ
> 倒したら なんだろ急に あんたの態度は 何故かきびしい …………Lurk!

キャラの特徴やSSの内容が上手に歌詞になってて感動しました!
元歌のCDかけながら歌っちゃおっと。

>  これからもっとズルくなる
>  いちばんになるからね
>  応戦なんてさせないよ
>  Surprise(奇襲)! 卑怯で今日を駆け抜けろ
>  I am a meenness rider TIGER!

今後の展開もそんな感じですよー。卑怯になりきれなくて悩んだりもしますが。

(あと、失礼ながら・・・・・・meenでなくてmeanではないかと?)

今後ともよろしくです。ではでは。

125 :仮面ライダー ティーチャーズ 追悼歌 :2003/08/05(火) 13:06 ID:???
 「殉職イコール敗退の法則」     
うた:(故)スコピオ&(故)スレイダー (谷崎ゆかり&黒澤みなも)
ゲスト:デューク(大山 将明)

一所懸命なんだよ病室からは 毎度の鏡がゆれてる
豹にちょっと剣とか打ち付けても こいつは元気だね
そんなときもあったから あんまり強くは 攻めれないような甘い
戦闘じゃいかん だけど (大山:アドヴェントー!!)

I am SCO-PIO 黄昏ちゃうよね I cared Tomo 4話でリタイア
SO-DA, DO-DA 理想は贅沢? 
KO, OK? 逝けてる教師と 云われる体感……耐えられない!


かわいい弟の復讐とか 誓ってるんだよ 黒澤
方法がずれてる気もするけど 悪気じゃないみたい (大山:フハハハ!!)
いろんなことが起こる学校生活は 卒去までの強い因果になるから なんて 

I am SULEYDER いくときゃイクでしょ? I hate Ohyama たまにはいい子も
Final-vent! 装填しなさい  OK,OK! 絡みだしちゃった
接触→殉職 ……負けられない!

I was Rider 黄昏ちゃうよな I lost to Ohyama ディークに敗北
SO-DA, DO-DA 御族(みぞう)は昼食 KO, OK? 逝けてる教師と
云われる体感……耐えられない! 接触→殉職 ……負けられない!

126 :明るくサンバでうたいましょう :2003/08/05(火) 13:08 ID:???
スレイダーの綴りがかなり違ってますとか 学外なので「殉職」とはいいませんとか
そんなツッコミは大歓迎です----------------
 ∧||∧  
(  ⌒ ヽ …………ごめん、逝ってくる
 ∪  ノ 
  ∪∪  

127 :ミネルヴァの梟@生存報告 :2003/08/07(木) 22:45 ID:???
ハロー とりあえずひさしぶりながら生存報告の書き込みです。
まだモンスターには喰われてませんしオルフェノクになりそこなって塵にもなってません。

自身の新作はなかなか書けないながら、ちゃんと読ませてもらってます。

>鷹さん
むぅ、コアミラーの秘密、か。本編同様、悲壮な選択。結末はどうなるのでしょう・・・
大阪さんの離反、リュウガのSURVIVE化、残っていたライダー、シザースとしての千尋の参戦
またーりと待ちましょうぞ

ファイズの新作もグッジョブです。はてさて、期待期待
ちよちゃんが怖いよー

ファイズは出てくるライダーが予想外に多くなり個人的に大わらわ
3人だけだと思ってたのにー

>xPTaKinoさん
狂気ちっくな大山君 こ、こわぁ 
(東條+浅倉)×3くらい怖っ

にゃーも 涙涙 ライダーバトルとは非情。いや、まあわかっとるねんで?
ライダーとなるにも、ライターとなるにも覚悟が必要なことくらい

>いらだとばるさん
うおー ライア、ガイ、それに龍騎
手塚に大阪、それに智、ついでに芝浦とか
バトルは一回もなかったのに燃える、燃えますぞ。
竜虎合間みえ、次回は対決?

128 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:47 ID:???
では、二ヶ月ぶりの新作を
前回のは前のスレですが・・・

129 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:48 ID:???
十七章 

「あんた、自分でわかってんのか!?全部あんたのせいだ!あんたがっ――――」
興奮したようなその声、その最後の部分は、昂ぶった感情が爆発したか、もはや言葉になっておらず、
替わりに、思い切り机を叩いたようなドンッという音が耳に届く。

「おいおい、勘弁してくれよ」
そして、返事となる言葉は、言葉どおり、呆れているようにも頼んでいるようにも聞こえた。もっとも、
それは己を非難することに対する嘆きか、机(多分)を乱暴されたことに対する嘆きなのか、聞き分けられ
なかったが。


(・・・で、・・・なんで、こんなに冷静かつ客観的にわたしは聞いてるんだ?)

そんなことを考えながら、薄壁一枚もとい薄ドア一枚を挟んだ向こう側から聞こえた声に水原暦が最初
にしたことはとりあえず眉をひそめることだった。

彼女の現在位置は、北岡法律事務所前。もっと具体的に言うと、ドアノブに右手を掛けて硬直している
所である。追加するなら、なぜか暦の背後には滝野智が付属していたりする。
追加の部分の理由は簡単。暦がここに来る途中、偶然会って、ここまで付いてきてしまったのだ。
今日暦が北岡に会うのは事前に約束済みだが、智のことはもちろんイレギュラーである。まあ、互いに
知らぬ間柄でもないし、結構両者相性はいいのでそれはたいした問題でもないだろうが。

改めて説明の必要もないと思うが、水原暦と、この北岡法律事務所に所属する弁護士、北岡秀一は血の
つながった実の兄妹である。で、ちょうどドアノブを掴んだ瞬間にドアの向こう側から聞こえてきた二
者の声、そのうち後者のほうがその北岡秀一の声だ。

北岡法律事務所には北岡のほかに、由良吾郎という北岡の万能秘書が一人いるが、前者の声はその吾郎
の声ではなかった。いや、それどころか男の声ですらなかった。
暦にとって聞き覚えのない、甲高い女性の怒鳴り声。


「痴話喧嘩?あれ、でもたしか北岡さんまだ結婚してないよなー、よみ」

「ああ、わたしの知る限りでは未婚のはずだ。
たぶん、弁護関係だろ、兄さんそういうの結構あるみたいだし。
ま、弁護士ってのは弁護側か、被告側のどっちかからは絶対に恨まれる損な職業だからな」

首をかしげながらの智の言葉に頷きながらそう言い、そして智に聞かれないよう、心の中でこっそりと
(特に兄さんは、金を法外に取るのと弁護にかなり強引な手段をとるからな・・・)、と付け加える。
おかげで弁護側からも恨みを買うことがしばしばあるらしい。クロをシロにし、同時に黒を赤にもする
弁護士とはよく言ったものだ。

130 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:50 ID:???
「ふぅん、弁護士って結構大変なんだな。ま、よみには関係ない話だろーけど」
「ほー、わたしが司法試験に受かりっこないと言いたいわけか?」

「・・・・・・別に」
「じゃあ目をそらすな。・・・・・・確かに何回か落ちてるけど、次は絶対に受かるんだからな!」

ぎりぎりと音を立てて、智がそらした顔を正面に向けなおしながら、ふぅ、とため息をつく。
両手を使って智の顔を掴んでいるため、当然暦は一旦ドアノブから手を離している。しかしふたたびド
アノブを握る気にはなれなかった。あきらかな修羅場に自分から飛び込んでいく気はさすがに起きなか
ったからだ。経験上(できればそんな経験したくないものだが、当然そのいらぬ経験の原因は今背後にい
る幼馴染の所以である)、あれだけ興奮してるのがそれほど長く続くとも思えない。
二、三分も待てば十分にクールダウンするだろうし、その後でそ知らぬ顔で入っていけばいいだろう、
と思ったわけだ。思ったわけなのだ・・・が。

「ま、いいか。さぁ、入ろーぜ」
「お、おい、智、バカ、やめ、」
ドンドン、ガシャ

ドアの前から一歩退いた暦の代わりにドアの前に立ち、おざなりに形式上のノックをし、ドアノブを掴
んでひねった智の素早い行動の前で、暦の考えは、コンクリートの上に力いっぱい叩き落した花瓶のよ
うに、もろくも粉々に崩れ去った。

(まったく、トラブルの中に嬉々として飛び込んでいくのは人間以前に動物としてどうなんだろうな・・・。
っていうか、ドアのノックはともかく、返事を待たずに入るってのは常識云々の問題だと思うんだが・・・、
なんで、こうも小学校のころからこいつは全然かわらないんだ?)

智と付き合う以上はこの程度でいちいち愚痴っていてもしょうがないと、もはや半分悟りの境地で、二
度目のため息をつく気すら起こらず、一足先に事務所に足を踏み入れた智に続いて、暦もゆっくりと事
務所の中へと体を滑り込ませた。

もっとも、暦自身、兄北岡になんの災難が降りかかっているのか知りたい気持ちがなかったといえば嘘
になる。この時本当に望むなら暦は智の服を掴むなりなんなりでとっさにでも止める術はあったはずな
のだが、そのせいで行動にわずかに躊躇が入ったのは間違いないだろう。
結果、暦が智を止めるためドアから入ったときには、智は左に曲がり、事務所の全貌が見渡せる階段の
ところにすでに立っていた。もちろん逆もまた然り。人それを手遅れという。

「ん、誰だ、って、智ちゃん、か?」
階段の上に堂々と立つ智の姿を認識し、一瞬険しい顔つきで、同様に険しい声を出した北岡だが、一瞬
の後にはその顔は驚きと戸惑いに変わっていた。
北岡と智が顔を会わせるのは一年以上ぶりのはずなのだが、さすがに職業柄知り合いの顔を忘れるとい
うことはないらしい。

131 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:50 ID:???
「うぃーっす」
ウィンクをしながら親指を上げた右手を突き出したポーズ。智の好きなポーズだ、が。
「うぃーっす、じゃない!」「痛っ!」
ガシッ(むしろ擬音はベキッに近い)と智の頭に全力で手刀を叩き込み、痛みにうずくまってうめく智(微
妙に涙目)を尻目に暦は改めて、階下の机の奥にどっしりと腰を降ろす兄に挨拶をした。

「ごめん、兄さん、勝手に入ってきちゃって」
「暦か、ああ、ちょっとそれは困るな。悪いけど今立て込んでてね」
「・・・、確かに取り込み中らしいし、とりあえずこいつ連れて外に出とくよ」

智の襟首をむんずと握り、申し訳なさそうに聞こえるようにそういいながらも暦の目は兄の前にいる女
性の姿をさりげに観察していた。探偵や警察ではないが、そういう細かな点をとっさに見逃さないのは
弁護士を目指すものとしての条件反射である。
当の女性は突然の闖入者である暦と智のほうを若干の警戒と驚きの表情で見つめている。

服の色は基本は白、身嗜みは上々、髪の毛は黒というより茶色。とはいえ、軽さはあまり感じられない。
気が強そうな雰囲気を漂わせている。

(年齢は若いな。わたしと同年齢か、それ以下。場合によっちゃ未成年。容貌は、十二分に美人の範疇
だな)

それだけ確認すると、「じゃ、」とだけ言って智を引っ釣れて暦は事務所の外へと移動した。

バタンとドアを閉め、暴れようとする智の体をがっちりと押さえつける。

「何すんだよー、火事と喧嘩は江戸の華だろー」
「それとこれとは全然関係ない。しばらく大人しくしてろ」

ドアを閉めて数秒後、中の会話が再開される。ドアの外に入るものの、ドアに体を密着させているだけ
あって中の二人の声は、ドアを通しても二人の耳にはかろうじて全容が聞こえてくる。
もっとも、その二人のポーズは傍から見たら不審人物この上ない。

「兄さん、ってことはさっきのはあんたの妹か?」
「ああ、俺に似てかわいいだろ?」

本気とも冗談ともつかぬ言葉を正体不明の女性はさらっと聞き流したらしい。

「あんたも、妹がいるならわかるだろ?」
「・・・くだらないねぇ。何度も同じことを言うけど、俺は頼まれた仕事はきっちりこなすのが主義なんだ
よね。その結果がどうなろうと知ったこっちゃないし、そもそもいちいち情に流されてたらこの仕事や
っていけないわけ」
「っく、もういい!」

最後にもう一度机を強く叩いたような音を立て、女性の声は終わり、替わりに足音が響き始める。
数秒を待たずして、ドアが開き、女性が出てきた。
二人を一瞥すると、憤懣やるかたないいった形相で二人の見ている中、その場から立ち去った。

132 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:51 ID:???

「だれ、あれ?」
暦の北岡への問い。場所はもちろん弁護士事務所の中である。
デスクの前の椅子へ腰をおろしている北岡に対し、暦と智はソファに腰掛けている。
智は、吾郎に出されたジュース(お手製らしい)を一心不乱に飲んでいる。
家のソファに比べ格段にいいすわり心地に若干の嫉妬などを覚えながら、まず開口一番暦はそう問いか
けた。

「暦は知る必要ない」
「うわ、そっけないな。兄さん、いくら自分が法律の抜け穴知ってるからって、あんまり未成年の女の
子を泣かせるのはまずいんじゃないか?」
「誤解だと一応断らせてもらう」
「じゃ、説明してよ。まあ、弁護士の仕事に関係してるのなら別にいいけどさ」

冗談交じりの兄妹の会話。暦としてはおそらく北岡に「仕事上のことだからこればかりは、」と返される
のを予想していたのだが、

「ま、仕事の話じゃないし、問題ないかな。暦、おまえ、浅倉威、って知ってるな?」
「知ってる知ってるー、一ヶ月くらい前に脱獄してまだつかまってない凶悪犯だったっけ」

北岡の問いに答えたのは、ストローから口を離した智だ。

北岡の口から漏れたその名に暦はどくん、と一瞬心臓が跳ね上がったような錯覚を覚える。
忘れるはずがない。
鏡の中の世界に干渉できる十三人のうち一人。仮面ライダー王蛇こと浅倉威。
同様にライダーである暦も何度か王蛇とは邂逅している。忘れたくて忘れられるような印象の人間では
ない。そもそもあれが人間なのかどうかすら怪しいところだ。

心の動揺を外に出さないようにして暦は小さく頷いた。「そのニュースなら私も覚えてるけど、それが?」と。

「浅倉に姉を殺されたんだ、あいつ、霧島の奴はな。それで浅倉を終身刑から救い上げた俺を恨んでる
わけ。まったく、子供の逆恨みもいいとこだろ」

「ふぅん」、と興味なさそうに頷いた暦だが、その内心には驚きが混じっていた。

そのあとの会話は長くなるので割愛。暦にとって元来の用件だったわけだが、智がいてもたいした問題
のない話だったわけで、それほど重要な話でもなかったとだけは記しておこう。

133 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:51 ID:???
帰り道の暦と智の会話より抜粋。

「やっぱ、よみの言うとおり仕事関係のトラブルだったなー、けど、これくらい日常茶飯事って感じで
気にも留めてないあたりさすがスーパー弁護士だよなー」
「・・・いや、あれで兄さん結構罪悪感感じてるみたいだけどな」
「へ?うっそでー、どうしてそう思うんだよー、ぜんぜんそんな感じしなかったぞ」
「ああいうふうに吐露したのがなによりの証拠だよ。普通ならそんなこと口に出しすらしないからな、兄さんは」
「へぇ〜、さすがですにゃー、よみさんは。以心伝心?一を聞いて十を知る?」
「茶化すな、ったく。なんかお前、だんだんゆかり先生に似てきてないか?」
「うわっ、ひでぇ!名誉毀損だー、北岡さんにいいつけてやるー」
「・・・・・・じゃあ、わたしも今の言葉、ゆかり先生にいいつけてやろうか?」
以下口論が延々と


その日、一度邂逅を果たした暦たちと霧島、霧島美穂だったが、互いにそんなすれ違っただけの相手の
ことなどすぐに忘れてしまうはずだった。
しかし、一度接近した三人の運命は時を空けずして再びの急接近を迎えることになる。
ただし、今度は北岡秀一という共通の接点とはまた別の接点を機軸として。

134 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:52 ID:???
暦たちが北岡の宅を訪れた次の日の早朝。

水原暦は己のカードデッキと鏡のついたコンパクトを手に一人廃工場へと足を運んでいた。

開かれたドアの前、鼻腔をくすぐる古びたオイルの臭いと、埃の臭い、そこにさらに混じる何かが腐っ
たような臭いが吐き気を催させる。眼前にぶら下げられている、このまま踵を返しここを立ち去るとい
う魅力的な選択肢を心に留めながらも、暦は覚悟を決め、すでに使われなくなって久しい工場の中へと
足を踏みいれた。

この奥から聞こえてくる、頭の中にガンガンと響き渡る不愉快な音を消し去るために。

電気の通っていない廃工場の中は、割れた窓ガラスから太陽の光が差し込んでくるとは言え、薄暗く、
数メートル先にすらなにが潜んでいるか分からない。
歩いた先から埃が舞い散り、差し込む日光を拡散させる。
雰囲気から言うならば、幽霊が出てきても決しておかしくはない。もっとも、幽霊ならまだ生易しいほ
うだが。

「さぁて、モンスター、か、それとも・・・」

圧し掛かってくる沈黙に耐え切れず、虚しさを承知しながらも暦は小さくつぶやいた。
この音はミラーワールドからの斥候が出現するときになる音。しかし、このような人気のないところで
モンスターが現出するとも考えにくい。それが違うのならば、消去的必然的に解はもう一つの可能性、
唯一無二の選択肢となる。こちらのほうが、モンスター説より一回り、いや、それ以上にたちが悪い。

(それとも・・・ライダーが誘ってる、のか?)

そう心の中でつぶやいたとき、ガタンという音が彼女の鼓膜に届いた。 吹き出る冷や汗。足が止まる。
案外近く、数メートル。動かぬ、否、動けぬ暦の前で、灰色に沈殿した空気が動く。
ゆっくりと、体が熱くなっていくのを自覚する。いつでも動けるように体に力を入れ、それでもなお体
はきっかけを求め動こうとはしない。

「はっ、貴様か・・・」
「浅倉・・・」

音を立て、のっそりと立ち上がった、それは紛れもなく人間。
暦と数メートルの間を空けているが、薄暗闇の中、その顔ははっきりと網膜に捉えられる。
体中の服を血らしきものでで赤黒く染めているが、その姿は紛れもなく浅倉威そのもの。
おそらくその傷は、二週間前に暦がエンドオブワールドでつけた傷だろう。
わずかな逡巡の後、暦はそう決め付けた。

(・・・やっぱ、あれくらいじゃ片付いてなかったか)

「はぁ、りょうどいい、この傷の借りは返さなきゃなぁ」
「へぇ、あんたにも、借りたもんを返す、って思考があったんだ」
「この傷のおかげで暴れたりないんだ。イライラするんだよ。俺と戦え」

よく見ると、その右手には鉄パイプを持っている。両者間は数メートル。さらに間に障害物もあるし、
一瞬の油断が即命取りになる、という心配はそれほどない。とはいえ、その手の中のを投げつけてこな
いという保証もない。

135 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:53 ID:???
「ふぅ、」
周りを少し見渡し、小さくしかし深いため息をつき、暦は視線を前へと戻した。
非日常が彼女を好いているのか、彼女が非日常を好いているのか。
他人から聞かれれば後者ではないと言い張りたいが、前者もごめんこうむりたい。
非日常が好きなのは警察、非日常に好かれるのは探偵と彼女の中では相場が決まっているのだが。

時間柄か、周りには完全に人気はない。もっとも、場所が場所だけに人がいないのは時間と相関関係な
どないかもしれないが。ただ、まったく人気のない理由が偶然なのか、それとも必然なのかは分からな
い。できるのなら前者であってほしいものだ。

「イライラするんだよ」
「わたしの知ったことか」

眼前の男、浅倉威の言葉にむしろ暦のほうが苛立ちを募らせる。
ここにこの男がいると知っていれば絶対来なかっただろうに。できれば顔も見たくない。
モンスターらしきものの気配を感じてきてみれば、これだ。やはり途中で引き返しておくのだった。
つくづく運がないというのか、捨てたい縁があるとでもいうのか。

「で、ここで話しててもしょうがないだろ。私も暇じゃないんだ」
「ああ」

にやりと爬虫類のような笑みを浮かべ、毒々しい紫のカードデッキを掲げる浅倉。
できればすぐにでもこの場を離れたかったが、そういうわけにも行かず、暦もすでに右手の中にある緑
のカードデッキを手に掲げた。

136 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:53 ID:???

浅倉威こと仮面ライダー王蛇対、水原暦こと仮面ライダーゾルダ。

しかし、二人が沈黙を守ったまま、工場の中に廃棄されている大き目の鏡に向かった瞬間、第三者の声
がそれを切り裂いた。
二人の動きを止めるに充分な、多分に負の感情の込められた、肺腑から絞り出したような声。

「あさくらぁぁ!」

若い女性の声、声の主は工場の扉位置に立っているため、逆光のせいで顔は見えないが、暦は、なんと
なく聞き覚えがあるようなきがした。

「ぁんだ、お前は?」
これから、という楽しみの時間を邪魔されたせいだろう、そちらのほうを睨みながら振り向いた浅倉の
言葉の端々から不機嫌そうな雰囲気が垣間見える。

「浅倉、ここであったが百年目、戦え!」
浅倉の言葉には答えず、いきり立った様子で二人のほうへと足早に歩み寄る女性。
数メートル近づいたところで暦はそれが、前日兄の宅でみた女性であることに気付いた。
同時に向こうも気付いたらしい。

「あんた、北岡のとこで会った・・・、なんでこんなところにいる?」
「多分・・・同じ理由だろうな」

会話の流れから、うすうす予想はついた。なぜ、彼女、霧島美穂がここに現れたのか。
彼女にとって、浅倉は当然憎い相手だろう。それでも、理由もなく『戦え』はないだろう。
そもそも、一般人に浅倉の居場所であるここが分かるはずがない。となると・・・
・・・・・・できるのならばそんな縁は認めたくはないが・・・・・・

「あんたも、ライダー、ってことか」
「つくづくいやな縁があるな、ライダーってのは」
彼女が掲げた白きカードデッキに、暦はため息とともに己の緑のカードデッキを掲げることで答えとした。

ただ、浅倉は違うところを聞きとがめたらしい。

「北岡、だと。はっ、聞くだけでイライラする名前だな、そいつはあの弁護士の北岡のことか?」
「・・・あんたには関係ないだろう」
「ああ、そうだな、今はこのイライラをどうにかするほうが先だ・・・どっちが相手でもいい。それとも二
対一でやるか?俺は別にかまわんぞ・・・変身!」

おもちゃが増えたことを喜ぶ子供のように、と印象はほど遠いが、にやりと口の端を吊り上げ、変身の
一言とともに鏡から光が生まれ、右手を鏡のほうへと突き出した浅倉の体を包み込んでいく。
コブラの図の入った紫のカードデッキを体の中心とする毒々しい紫のライダー、王蛇。
浅倉は一瞬にしてその姿を変えると、暦と美穂を一瞥し、鏡の中へと飛び込んでいった。

137 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:54 ID:???


「あんたと浅倉にどんな因縁があるかは知らないけど、あいつは私の獲物だ。あんたには渡さない」
美穂はぎらりと目つきを険しくしながらそう暦に言い放つと、浅倉を追うようにして鏡へと己のカード
デッキ、純白に金で白鳥の絵がかかれたもの、を突きつけた。

「変身!」

やはりその言葉とともに、先ほど見た光景をそのまま繰り返すように、美穂の体をグランメイルと呼ば
れる装甲が覆っていく。
ただ、浅倉のそれと決定的に違うのは、変身した後のその姿。
カードデッキと同じ純白の鎧。ハイヒールにも似た女性的なブーツ。翼にも見える背中のマント。
マスクには白鳥を模したレリーフが付加されている。そして右手にもつはレイピアの形状をしたバイザ
ーらしきもの。
かつて暦が相対した仮面ライダーナイトの色を黒から白にし、より女性的にしたらこんな姿になるだろ
うか。

「奴は・・・浅倉は私が絶対に殺す!私の邪魔をするなら、あんたにも容赦はしない!」
小さくそうはき捨てると、ライダーへと姿を変えた美穂は浅倉と同様、鏡の中へと身を躍らせた


「やれやれ・・・」
早々に自分を置いて鏡の中に入っていった二人に、暦はその手のカードデッキを上に軽く跳ね上げて弄
びながら苦笑った。
「邪魔をすれば容赦はしない、ね」
そうは言われても、ここまで来て引き返すという選択肢はいかにもばかげている。
そもそも、ライダーとして勝ち残るのなら、彼女も最終的には敵の一人に過ぎない。

「手を出すかはともかくとして、情報収集も戦いの一環だよな、―――変身!」

三度工場に満ち溢れる久方の光明。
鏡に映る、鏡の中だけの存在である紫と白の異形――白いほうの名がファムで契約モンスターがブラン
ウィングだと情報が伝えられる――、そして先まで自分が立っていた所に存在する緑の異形の姿を認め、
暦は薄く笑うと、音もなくその身を鏡の中へと滑らせた。

138 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:54 ID:???

わずか数秒遅れだったはずだが、鏡の中ではすでに王蛇とファム、二者の戦いは始まっていた。

工場内の10メートル四方ほどの開けたスペースで両者が自身のソードベントを手に持ち、火花を散ら
しながら切り結んでいる。光の強さは現実世界と変わりないが、ライダーの視界は先ほどまでのそれと
は比べ物にならぬほど細に入ったところまで確認できる。しようと思えば。

金色のドリルのような、切るのではなく叩くのを優先させたような姿の剣、ベノサーベルを、無造作に
振り回す王蛇。
同様に金色の、細長いポールウェポン、棒の両先に刃物が付いた、さしずめハルバードか薙刀のような
武器、ウィングスラッシャを巧みに扱うファム。
威力では王蛇が押しているが、速度で勝るファムは、二の太刀、三の太刀と続けざまに攻撃し、決して
引けをとってはいない。ただ・・・・・・

(あれじゃ・・・体力が持たないだろうな)

戦略どうのこうのではなく、今のファムは激情のまま動いているだけの公算が高い。
どれだけ美穂に基礎体力があるのかは知らないが、生死を賭したぎりぎりのストレスの中、さらにあれ
だけの動きをしていれば、息が切れるのも時間の問題だろう。
ようは、己の体力が切れる前に浅倉の動きを止めてしまえばいいわけだが・・・

続けさまの攻撃により、王蛇のベノサーベルが跳ね上がり、その胴が無防備に曝け出される。
「浅倉ぁ!」

その間を逃さず、白き羽が舞い、王蛇の体に金色の薙刀がたたき付けられた。
しかし、まるで痛覚をどこかに忘れてきているかのように王蛇にひるみはない。
嬉々としてファムへとベノサーベルの切っ先を向ける王蛇。

すでに同じことが数回は繰り返されている。ダメージがあるのかないのか、ないわけはないのだろうが、
少なくとも浅倉は外にそれを感じさせていない。脳内物質のせいで痛みを感じなくなっている、などと
説明をつけるのは難しくないが、心理的にも霧島のほうが分が悪い。

(この調子じゃ、霧島のほうに勝ち目はまずないな)

うまく相打ちにでも持ち込んでくれれば言うことなしだったのだが、そうそう都合よくは行かないらしい。
この場で霧島を見殺しにするというのもさすがに後味が悪いだろう。
聞こえないよう小さく舌打ちをすると、暦は一枚のカードを取り出した。それをマグナバイザーへと差
し入れる。

『SHOTVENT』

ショットベント、それはマグナバイザー自身の攻撃能力を向上させるカードである。一瞬の後、暦の手
にする緑色のガンが光り輝き若干重さを増した。それを彼女はマグナバイザー・ギガと呼んでいる。

139 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:55 ID:???

ちなみに暦がいるのは、二人の戦う倉庫空き地部分から少し離れた障害物の影。当然二人からは死角の
位置となる。気付かれていないかどうかはいささか怪しいところだが、おそらく大丈夫だろうと楽観的
にあたりをつける。

目に見えて速度が遅くなってきているファム、その武器が宙を舞ったのは暦の手にマグナバイザー・ギ
ガが握られたのとほぼ同時だった。
必然、一瞬ファムがバランスを崩し、二人の体が間合いを開ける。
千載一遇のチャンス!

「よしっ、|‖ ADVENT』

同時に耳に入った認証音。頭がそれがなんなのかを理解する間もなく暦の体は動いてしまっていた。
暦が銃を手に、放置されていた古い機材の影から出た瞬間、その上に再び影が覆いかぶさる。
そして直後左肩にかかる黄色い液体。
ジュ、っといういやな音をたて、液体がかかった部分から緑色の煙が立ち昇る。
そして音に一瞬遅れて左肩にはしる激痛。反射的に見上げた、そこにいたのは・・・紫の色をした大蛇!

仮面ライダー王蛇の契約モンスター=ベノスネーカーだ。

決して暦は蛇が苦手というわけではない。いや、もちろん好きなわけはないが、動物園で折の中の蛇を
見て恐怖を催すほど嫌悪しているわけではない。しかし、この大きさで、この唐突さならば話は別に決
まっている。

「う、ぅわぁっ!寄るなぁ!」
痛みも忘れ、パンパンッ、と空を裂く爆音が二度、三度と立ち上る。そしてそれに応えるかのようにベ
ノスネーカーの体が衝撃を受けて後ろにのけぞる。マグナバイザー・ギガの一撃一撃の威力はマグナバ
イザーの数倍になる。しかし、冷静さを欠いている暦の銃撃が致命傷を与えられるわけもない。

不意を突かれ、一瞬パニックに陥り、狼狽しながらも放たれたその銃撃はしかし外れることなくベノス
ネーカーの胴へと吸い込まれていく。通常のマグナバイザーに比べ、その一撃一撃は確かに重く、ベノ
スネーカーに攻撃の暇を与えない。
致命傷には程遠い攻撃だが、それでも数かさなれば話は変わる。
しかし、その息もつかせぬ連続攻撃がベノスネーカーに致命傷を与えるより早く、ゾルダの背後に音も
なく忍び寄る影があった。

「はぁ!」
「っ、しまっ、」

己の迂闊さを呪う暇もなく、気がつけば背後に忍び寄られていた王蛇のベノサーベルがゾルダの後頭部
へと振り下ろされた。
バキッ、という鈍い音を立て、ゾルダの体が揺らぐ。
しかし、倒れることなくそのまま、『ベノサーベルをマグナバイザー・ギガで辛うじて受け止めた』拮抗
体勢を崩さずに、まだ痛みの残る左手で王蛇の顔を打ち払った。
間髪をいれず、ベノサーベルの重みが消えたマグナバイザー・ギガを王蛇へと浴びせかける。しかし、
その程度は予想していたか、当然のようにその弾は間隙をあけた王蛇によりベノサーベルであっさりと
弾かれた。

140 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:55 ID:???

「こんなにゾクゾクしたのは久しぶりだ、今度は2人まとめて来いよ」

『STRIKEVENT』

挑発とともに王蛇があらたに牙召杖に入れたのは、初見になる王蛇のストライクベントのカード。
そして、それに引き続いてその左手に、ベノスネーカーの顔とその手前の胴の一部分をかたどった手甲、ベノヘッズが装備される。見た感じ、盾の用途も兼ね備えていそうだ。

立ち上がったファムが、ゾルダと王蛇の延長線上、つまり王蛇をはさむ形でならぶ。

『SHOOTVENT』
『BRUSTVENT』

ゾルダとファムがそれぞれのカードをバイザーへと差し込む。
ゾルダの右腕に握られる一門砲、ギガランチャー。
ファムの背後に現れる羽を広げたブランウィング。

「とりあえず浅倉を倒す、って利害は一致してるみたいだな」
「浅倉に止めを刺すのは私だ」
「好きにすればいいさ」

「はぁっ!」
「行けぇ!」

二人の掛け声がきれいに重なる。
重い反動とともに打ち出されたギガランチャーと、ブランウィングの羽から白銀の煌きとともに伸びる
幾筋もの光の刃・ウィングスラスト。

狙いたがわず王蛇へと向かうその攻撃に対し、王者は躊躇することなく、まずゾルダの方へと跳躍した。

勢いよく突き出された左手のベノヘッズの頭部分から黄色い毒液らしきものが噴射され、ギガランチャ
ーの砲弾を包み込む。そしてそのまま、ベノヘッズから吐き出されたそれによって威力を減じた砲弾は
勢いよく振られたベノサーベルによって弾き飛ばされる。

ゾルダが二撃目を放つより早く、王蛇はゾルダの眼前へと移動する。
王蛇のポテンシャルは秒速10メートルを優に超える。至近距離の反応速度ではゾルダに勝ち目は万に
一つもない。
とっさに、極端に行動を制限するギガランチャーを手から離し、ベントインとともにもとの姿にもどっ
たマグナバイザーを構える。

141 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:56 ID:???
放たれたベノサーベルの一振りは、マグナバイザーによってかろうじて防がれたが、同時に過剰な力を
加えられたマグナバイザーは暦の手を離れ数メートル後ろへと弾かれる。

「あっ!」
「ははっ!」

バイザーなくしてはライダーの戦いは根本から成り立たない。しかしこの間合いでは取りに行く一瞬の
隙が命取りになる。二律背反な判断がせめぎあい、一瞬の硬直状態へとたたされる暦。
そして振り上げられる、もはや避けようのないベノサーベルの二振り目。

しかし、その二振り目が暦を襲うその瞬間、王蛇の背中へと、白銀の二刃が突き刺さる。
ファムのブラストベント、ウィングスラスト。そして、同時に王蛇のほうへと駆けていたファムのウィ
ングスラッシャでの一撃。

うめき声も上げず振り上げたベノサーベルをそのまま後ろに振り回す王蛇。
風を切るその一撃は、一太刀与えると同時に間合いをあけているファムのウィングスラッシャによって
受け止められる。
そしてその一瞬の好機に暦は後ろに跳び、マグナバイザーを拾い上げる。

再びの王蛇を間に挟んだ硬直状態
ただし、若干、分は暦たちのほうが悪くなっている。

「どうした・・・もう終わりか?」

首をぐるっと回しながら、嘲るような笑いを含んだ王蛇のその言葉に、同時にバイザーへと手を伸ばす
二人、しかし、その手が途中で止まる。ライダーの超聴覚が捉えた異音。

何かが近づいてくる。
それも。大量の何かが。

そして
工場の
壁を
窓を
天井を
突き破って
現れる
大量の
モンスターたち

一種類ではない。
全部違う種類というわけでもない。
戦ったことのあるモンスターも、ないモンスターもいる。
ただ、確実に分かること。

そのモンスター達は彼らライダーを襲うためにここにやって来たのだと言うこと。

メガゼール、ギガゼール、マガゼール、サガゼール。ナーガゼール、フーガゼール、ネガゼール。オメガゼールとエンゼール。
全部で20匹、否、もっとだ。

142 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:57 ID:???
「また邪魔が入ったな・・・、まぁいい、お楽しみはまた今度だ」
露骨な舌打ちとともにその言葉とともに近づくゼール軍団の中へと刃を向けなおす王蛇。
そして、一拍置いてそちらのほうへと地を蹴って飛び出していく。

「・・・さてと、どうする?浅倉はあの中だけどさ」
「そんなの決まってる。行くよ、ブランウィング!」

『FINALVENT』

躊躇なくベルトから引き出したカードをブランバイザーへと差し入れるファム。
認証音が鳴り響くと同時、突き破られた天井から、純白の白鳥型モンスター、閃光の翼ブランウィング
が羽を上下に動かしながら舞い降りる。

しかし、ブランウィングは地に降り立ちはせず、空中でその動きを一旦止め、そして羽を動かす向きを
変化させた。
物理法則と呼ばれるものを完全に無視した動きで、宙にとどまったまま羽を前後に動かすブランウィング。
そこから巻き起こされる不自然なまでの強風に幾匹か、否、十匹余りのモンスター達がまず空中へと持
ち上げられ、その自由を奪われる。
そして、刹那の後―――

「ミスティ、スラッシュ!」

風圧で吹き飛ばされてきたモンスター達を金色の煌きが襲う。
尋常ではない勢いで叩き込まれるそのウィングスラッシャでの一撃は、華麗さを伴いながら、確実にモ
ンスターの体を両断し、爆発四散させていく。

「・・・へぇ、じゃ、私も行くかな」

ゾルダのファイナルベント・エンドオブワールドはこの閉区間では危険にすぎる。もっとも、閉区間こ
そ真価を発揮するファイナルベントでもあるのだが。

『ARMEDVENT』

アームドベント、それは現在未使用の全武器の同時装備に他ならない。
この場合は三つの武器の同時装備。
肩に圧し掛かるギガキャノン。
左手に握られるギガシールド。
右手に握られるギガホーン。
そして、そのすべてが強力な火器である。

「行け!」
暦の意志に従いて、音を立て同時に発射されるミサイル、砲弾、そしてレーザー。
ゾルダの視界の中で、命中したモンスターが灰燼へと帰すのが確認できる。
遠距離ならば比類なき力を発する圧倒的な火力、それこそがゾルダの力。

143 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:58 ID:???
ゾルダの重火器がモンスターをなぎ、ひるんだモンスターをミスティスラッシュが切り刻む。

何時終わるとも知れぬ饗宴、と暦には感じられたが実際には一分にも満たぬ間のことだっただろう。
まず暦の火器がその機能を停止し、それとほぼ同時にしてファムもその手を止めた。

爆煙が晴れた二人の視線の先、そこにはいつの間にかモンスターの姿は消えていた。
全員倒した、といえればラクなのだが、暦が数えていた限りではせいぜい過半数の息の根を止めた程度
だろう、それに王蛇を倒した形跡もない。
それに倒せたのも、ギガゼール、メガゼールを始めとした下級のモンスターばかり
ゼール系の頂点に立つオメガゼールとエンゼールはまず倒せていないのは間違いない。

つまり逃げられた、ということだ。
深追いしようと思えばできないこともないのだが、

「浅倉っ、どこだ!」
「霧島美穂、だったな。消えたくないんならさっさと出たほうが賢明だと思うぞ」

暦の冷静な言葉に、美穂は浅倉を探すため走り出そうとしていた動きを止める。
その体から漏れる白色の粒子。グランメイルとアースメタルが分解しているしるしだ。
ライダーといえども最高でミラーワールドに滞在できる期間は10分弱。激しい戦闘をこなせばこなす
ほどその時間は短くなる。そして、その時間がすぎれば、まっているのは―――――完全な消滅。

「あんたの気持ちも分かるけど、命あっての物種だろ」
「あんたに何が分かる。私の何がっ!」
「じゃあ、今から浅倉を探して決着をつけてくればいいさ。タイムリミットであんたが消えるのなら
わたしにとっても願ったり叶ったりだ。もっとも、浅倉がまだミラーワールドにいるかも分からないけ
どな」

聞きようによっては冷たい言葉だが、暦がそこまでしてファムの自殺行為を止める必要はないのは事実だ。
なんと言ってもライダー同士である以上最終的には敵なのに変わりはないのだから。
もっとも、この瞬間にファイナルベントでもって吹き飛ばさないだけ、まだ暦も甘い、ということだろう。

「わたしは命が惜しいからな。先に帰らせてもらう」
小さく肩をすくめると、ファム同様緑色の粒子が出始めた自分の手を一瞥し、入ってきた鏡へとその身
を沈めた。

144 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:59 ID:???
「なんだ、結局あんたも出てきたのか」
「浅倉に止めを刺すまでは、死ねない」

暦のほうを睨んだまま、美穂は服についた埃を払っている。場所は例の工場の入り口の外。
あだ討ち。まあ、暦にも分からないではないが。そして、その延長上にあるのが、

「で、ライダーの戦いに勝ち残って奴に殺されたお姉さんを生き返らせよう、ってか」
「!、あんたなんでそれを!・・・そうか、あんたは浅倉の弁護をした北岡の妹だったな」
「兄さんも悪気があって浅倉の弁護をしたわけじゃないんだ。あんまり兄さんに絡まないで欲しいな」
「・・・・・・・・・」

暦の言葉に難しそうな顔の美穂に苦笑する。

「ま、そう簡単に割り切れるとも思っちゃいないさ」
そこまで言って、暦は言葉を切った。
耳に届いた、わずかな音。工場の横のほうからだったような気がする。
もし音の主が浅倉ならば、この上なく危険だ。
ライダーの状態ならともかく、人間の状態では戦う前から結果は分かりきっている。
時間切れすれすれでミラーワールドから出て着た今、鏡の中に逃げ込むという選択肢も取れない。

声を出さず、慎重に周りを見渡す暦。先ほどの戦いで壊れた壁や窓なども、現実世界ではなにもなか
ったかのように静かに佇んでいる。
その視界の中、動くもの。

「・・・智?」
「よーみー」

なにかから隠れていたかのように、工場横の機材の影から飛び出して、暦のほうへ近づいてくる、その
姿は間違いなく滝野智。

「智、なんでおまえ、こんな」
「いやぁ、朝コンビニ行く途中でよみの後ろの、えっと、名前なんだっけ、」
「霧島か?」
「そう、霧島がすごい形相で走ってるの見かけたから、ちょっと追いかけてみたんだけど」

ザ・野次馬。
とりあえずため息をついて・・・今日何度目になるだろう。二十歳をすぎたため息は老けの原因とも言うが、
本当なら智に賠償請求してやろう、などと考えつつ・・・智の首根っこを掴んで暦はかえるために踵を返した。

145 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 22:59 ID:???
「じゃあな、霧島。また、縁があったら会うかもな」
「・・・ああ」
「あ、そうだ。お前あそこに、あさ」

そこまで言って言葉を止める。思いつくと同時、顔から血が引くのを一瞬にして感じる。
智は霧島美穂を追ってきた。それならば、工場の中で浅倉威を見た可能性がある。
しれば、好奇心の塊である智が黙っているわけがない

見たかもしれない、見てないかもしれない。どちらにしろ、名前は出さぬほうが吉だ。

「・・・あいつが居るって、初めから知ってたみたいだけど、どうやって分かったんだ?」

それは今日最初に美穂を見たときからの暦の疑問だった。あの位置からでは浅倉と暦の会話は聞こえな
かっただろうし、むろん顔や姿もはっきりとは見えなかったはずだ。
それに対し、美穂はあっさりと、「神崎のやつが教えてくれたんだ」とだけ答えた。

(神崎、士郎か・・・何を考えてるんだ、一体。そもそも何のためにこんなライダーバトルを。いや・・・)

心に思った疑問を無理やり押し込める。
神崎士郎は、彼女に兄を救う方法を与えた。それならばそこについて疑問を挟む必要はない。
少なくとも、今は。信じるしか道がない、今は。

146 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 23:00 ID:???
肩を並べ(と言っても、二者の身長差は高校時代とほぼ変わっていないが)は沈黙のまま道を歩く暦と
智。廃工場が見えないくらいの距離まで移動し、そこまで保たれていた二者の沈黙は、唐突にして破ら
れた。

「なぁ、よみ」
暦を呼びかける智の声が、震えている。
幼馴染にして長年の付き合いを誇る暦をしてめったに聞けない智のその声、否、初めてかもしれない。
とりあえず返事をためらう暦に、智は続ける。

「なぁ、暦の言ってたそのゲーム、って危険とかないんだよな!」
「どうしたんだ、智。藪から棒に?」
「・・・見たんだよ」

その智の口調にいつものふざけた様子は一切ない。
智が何を見たのか、そして何を言わんとしているのか、暦には大体予想がついた。
ならば、どう切り返すか・・・・・・・・・

「あの工場の中にいたのって・・・浅倉威だろ?あの、脱獄犯の」
「どこから見てた?」

147 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 23:00 ID:???
疑問に疑問で返す。礼儀としては正しいものではないが、まずは必要最低限の状況を知るのが先決と暦
は判断した。
否定されることを望んでいたのだろう、わずかな逡巡のあと、智は、工場内で三人が睨みあっていると
ころから、と答えた。

「・・・そうか」
「おい、よみ!」

すべてを話したい、その衝動に一瞬駆られ、暦は奥歯をかみ締めた。
智だけは、ライダーの戦いに絶対に巻き込めない。
状況としてはかなり悪いが、最悪ではない。まだ丸め込める範囲内だ。ぎりぎりだが。

「危険がまったくないわけじゃない。けど、お前が心配するほどのことじゃない。安心しろ。
浅倉のことについては、わたしもよく分からないんだ。あのゲームは、敵がどこにいるかしか分からな
いからな。誰かまでは、直接会ってみるまでは分からないだ。まさか浅倉威がこのゲームプレイヤーだ
ったなんてわたしも初耳なんだ」

嘘半分、本当半分。いや、嘘のほうが多いか。

「じゃあ、あの霧島がいってた神崎ってのは?」
「ゲームマスター。このゲームをすべて把握して、上から傍観してるいやみな奴だ。
安心しろ、浅倉威についちゃ、あとでちゃんと警察に通報しとくからさ」

もっとも、浅倉が警察に捕まるだろうとは微塵も思っていないが。
おそらく浅倉のいた痕跡は確認できても、雲隠れされて捕まえられない、というのが関の山だろう。

「さてと、そういえば智、コンビニに買い物行く途中だったんだろ?」
「あ!牛乳と今日の朝ごはん、買うの忘れてた!いっけねー」
同時に智の腹の虫がきゅうと鳴る。

「う・・・」
「ったく、お前は何時になっても変わらないな。うちに来いよ、ちょうど今日の朝作ったおかずが余っ
てる。一人で昼ごはん食べるのも寂しいしな」

おなかを押さえ、赤面していた智が顔を上げ、にやりと笑ったのをみて、はめられたかな、と考える。
こういう状況なら自分がどういうか、智なら分かっていただろう。もっとも、それもまた楽しいものだが。

「さ、帰るぞ」
「おー!いざ、よみの家へ、gogo」
「・・・はしゃぐな」

そして、二人は再び肩を並べ歩き出した。

これは、まだ・・・二人が永遠に続くかに思えた平和という世界の中にいた時の一コマ。

148 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/07(木) 23:05 ID:???
第十七章 完

最初、霧島美穂の姉の名前は香織にするつもりでした、まる。
いろいろとオリジナルのカードとかモンスターとか入れたりしたのでその補足
ゼール系・・・・・・のちのち、インペラーが出たときにでも
カード  アームド ゾルダの未使用カードすべての同時使用って、まんますぎるか
      ショット  ゾルダ 武器はマグナギガの体積の関係で増やせないので、バイザーの威力強化
      ブラスト(ファム 鋭い羽と風で相手を切り裂く、みたいな攻撃
      ストライク(王蛇 ドラグクローのベノスネーカーver 火の変わりに毒を吐ける
      
      ドラグクローって火を吐くイメージがあるのだけど、吐いていた記憶がない・・・・・・


次回は第6章  
  

149 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/14(木) 11:48 ID:???
ミネルヴァの梟 氏、乙です。
新旧スレ二本立てですか〜、盆と正月がいっぺんに来たようです♪

> まだモンスターには喰われてませんしオルフェノクになりそこなって塵にもなってません。
良かった〜♪てっきり冴子お姉サマにシャンパンを贈られてしまったのではと(w

さて、十七章、読ませていただきました!
暦と智が絡む場面、会話とか仕草とか、相変わらずいい味出してますね。読んでると心が和むー。

>互いに知らぬ間柄でもないし、結構両者相性はいいのでそれはたいした問題でもないだろうが。

相性いいのは、北岡もツッコミ体質だからですか(w 
北岡に突っ込まれる智も見てみたいっす。

そして、霧島美穂ことファム登場! 女性ライダー二人VS王蛇の戦いは熱いっ!燃えた!
彼女らの悲鳴とか脳内で音声入れて楽しみました(w
しかし、智はなんかホントに危なっかしいですなぁ。そのうち窮地に陥るヨカーン(w

続きを熱くお待ちしております。では〜♪

150 :名無しさんちゃうねん :2003/08/18(月) 15:09 ID:???
>ミネルヴァの梟 氏
2ヶ月ぶりの新作に感動! 改行の使い方が(・∀・)イイ!!
かつてない火力 ・ 迫力を誇る17章。 あまりの凄まじさに替え歌ができてしまいますた。

シリアスな本編とはちょっとはなれ、 司法試験をうけ、法に携わる職業を志望しておきながら
ひとたび鏡にはいると容赦なく重火器を乱射(もちろん無許可)する暦さんを思い浮かべて歌ってください。

おじゃ魔女ドレミのオープニングソング(知らなかったらゴメン)でどうぞ



乙女の人生 アッパレ×4 火点だ (ソイヤ!)
振天満点 ウーララ×4 エゴイスト (アイヤ!)
暦のドキドキハートが 攻撃待ちきれないよ
不快音きいた カードデッキかざそう 内緒の世界へ (レッツゴー!)

王蛇も登場(どっかん) ごらんあそべよ 魔獣のパワー
霧島変身(どっかん) おいでなすった さあさみんなで
なんてったて CHANCE×4 掴もう CHANCE×4

王蛇の刀杖 (どっかん) ごらんあそべよ ピンチに判知
インパラ変身 (どっかん) やってらっしゃれ後出し御免よ
ハチャメチャ DANCE×4 襲おう DANCE×4 こよみ
とんでっても (どっかーん)

151 :名無しさんちゃうねん :2003/08/19(火) 21:24 ID:3NOMMaVg
ええな〜、作詞兄ちゃん、ええな〜

152 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:41 ID:???
うわぁい ありがとうでつ
曲名はしらないですが曲自体は聞いたことがあったのでなんとなくしってましたよー

うまー、と思わず唸ってしまいました
もう、大歓喜ですよ(二回目
もう、大感激ですよ(三回目
もう、多謝謝ですよ(四回目、しかも混合


ではでは調子にのって第6話、今回はちょとみじかめかも

153 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:42 ID:???
第六章

『も〜、何でつぶれるまで飲むかな、あんたは?』
そんな声が聞こえた気がして、彼女、谷崎ゆかりは居酒屋の机に突っ伏したまま、首を横に振った。
そして、顔を前に向け、今日は自分独りで飲みに来ていることを思い出して、小さく、しかし深いため
息をつく。
幻聴、言い換えるならば、そう、ロストペインとでもいうやつだろうか。少し違う気もするが。

居酒屋、それは学校とゆかりの家の中間地点ほどにある、常連ともいえるゆかりの居場所。

今ゆかりが座っているのは通常二人が座る席のため、やけ酒やけ食いとも言える量の酒瓶や皿を考えて
もまだテーブルの上には十分余裕がある。それがより一層、自分が今独りであることを彼女に自覚させた。
―――― 一人でなく、独り。

「いとりが、なんだろぉ〜」

手に持ったビールジョッキをドンとテーブルに叩きつけ、やや呂律の回っていない舌で呟くゆかり。
すでに摂取したアルコールは毛細血管の隅々まで行き届いているらしい。現在の顔の色が目の前の皿に
あるキムチよりもなお真っ赤であることくらいはたやすく想像がつく。
テーブルの上にはだらしなく彼女の財布が放り出されている。
彼女の基本ポリシーとして、二人(この場合おおむね相方は決まっているが)で飲みに来た場合、
ゆかりの財布は閉じたままである。
しかし、さすがに一人で居酒屋で飲めばそういうわけにも行かないが。

今日は木曜日で、週末でも次の日が休みという言うわけではない。
いくら常識はずれといわれるゆかりでも、教師という職業上、ウィークディの深夜に居酒屋の世話に
なることは今までにはほとんどなかった。というか、誰にとは言わないが、そんな時間まで居酒屋に
入り浸らせてもらえなかった。にもかかわらず、この一週間は、学校の帰りはほとんど居酒屋に寄生
するように足を運んでいる。
それも、ずっと独りでだ。

その理由を知っている店長や店員、常連から彼女にかけられる言葉はない。
ただ、時折心配そうな目で見つめるだけ。

「にゃ〜も〜ぉぉぉぉ」

その手のジョッキに半分ほども残っていたビールを一息で飲み下し、相変わらずぐんなりとしながらそ
う言うゆかりの目からは、ぼろぼろと涙がこぼれていた。

154 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:42 ID:???
結局そのまま、代金を払い、自分の足で居酒屋を出、自分の家まで、千鳥足ながら支えもなくかろうじ
て歩いて帰ったのはなんとなく覚えている。

そして、気がつけばゆかりは自分の家でも一升瓶を丸々空けていた。
今日一日でどれだけ酒を飲み、そして呑んだか、考えるのすら馬鹿馬鹿しい。
心のどこかに、泣き、怒り、悲しみ、そして笑っている何人もの自分がいるような気がする。
一方は死を望み、もう片方はそれを否定する。一方は忘却を選び、もう片方はそんな一方を軽蔑する。
まともな思考力など残っちゃいない。まともな思考など望んじゃいない。

明日、もう今日か、の朝、壊滅的な二日酔いになっているのはまず間違いない。

「にゃぁもぉのぉ、ばぁかぁやぁろぉぉぉ」

空の一升瓶を手に、深夜だというのに近所迷惑を顧みず大声で叫ぶゆかり。
もっとも、それも一週間ともなればいい加減横の家も慣れてきているのだろうか、文句の一言もない。
あるいは、どうせすぐに疲れて寝るのだからと諦めているのかもしれない。

力の入らない手から零れ落ちた一升瓶が床に転がり、わずかに残っていた酒がこぼれて新聞を濡らす。
それを見て、ゆかりは部屋の床に放ってあった、滲みのできたその新聞紙を拙い手つきでつかみ上げた。

視界に飛び込んでくる『高見沢グループの総帥、高見沢逸郎が事故で死亡』の文字。

この日本、一日に何人が死んで、そしてそのうちの何人がこうして新聞に取り上げられるのか。
そんなことをふと考えて、ゆかりは無言のまま新聞を引き裂いた。
人の価値は何で決まる?金?名声?それとも、死んだときに泣いてくれる人の数?
――――――どれでもない。
死ねば、どんな人間にも価値など有りはしない。生きていることこそが人間の価値なのだ。
金も名誉も、所詮は付加価値に過ぎない。

収まりかけていた腹の虫と涙腺が再び暴れそうになる。

何でもいいからぶち壊したい。その衝動に駆られ、ゆかりは立ち上がると、部屋の隅にある姿見の前へ
と歩み寄った。
・・・・・・決して安価なものではないが、壊しても買いなおせる。
とっさにそんな考えを持ってしまったことに自虐的な笑みを浮かべ、ゆかりは握り締めたこぶしを振り
かぶった。そのまま振り下ろし・・・・・・
―――――――そしてそのこぶしが途中で止まる。

155 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:43 ID:???
「ひさしぶりだな、谷崎ゆかり」

姿見の中から聞こえてきた声。
そこにある、ありえざる白衣の男の姿。
今、自分の横に誰もいないことくらい、いくら酩酊している彼女にだって分かる。

張り巡らされる警戒心。ゆかりの気分が一瞬で素面に戻る。
こういうところのとっさの切り替えの速さは彼女の長所の一つかもしれない。
さすがにアルコールの回った頭と体を一瞬でクリアに、というわけにはいかないが。

「あんた誰ぇ?ってかなんで私に無断で私の鏡の中にいるわけ?」

「変わらんな。俺を覚えていないか?一応俺はお前の教え子のはずだが」

一瞬鏡の中の男を凝視し、ゆかりはまだ少しぼやけている頭を振り絞った。
そういえば・・・・・・この顔としゃべり方は記憶に残っている。
4〜6年前・・・・・・あれは美浜ちよたちだ。
確かそのさらに前の3年間・・・・・・、そうだ、名前は・・・・・・

「んんー、あれぇ〜、もしかして神崎?」
ゆかりの言葉に鏡の中の男は、白衣から手を出さず、ゆっくりと頷いた。

頭がはっきりするにつれ、記憶がぼんやりと蘇えってくる。
鏡の中の男、それはかつての教え子、神崎士郎。
あの天才児、美浜ちよを教える前の三年間担任をしていた生徒だ。
独特の雰囲気を醸し出していた、一言で言うと特殊な存在だったため、4年前に卒業した美浜ちよと並
んで印象が強い。
おそらく知能レベルはちよと変わらないのではないかと思うくらい頭はよかった。
ただし、クラスメイトと打ち解けていた感じはなかったと記憶している。

たしか、神崎士郎も高校卒業の後アメリカに行ったと聞いていたが。

156 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:43 ID:???
心の中で、あぁ、これは夢だと、ゆかりは頷いた。
なぜ、夢の中に突然神崎士郎なんてのが出てきたかなんて知ったことではないが、それなら鏡の中にい
てもおかしくない。

「でぇ〜、その神崎士郎がなんで鏡の中なんかにいんの?」

「説明しても理解はできないだろう、谷崎ゆかり、お前にはな」

「あいっかわらず可愛げのない口調ね。先生、くらいつけられない?」

「尊敬する相手にならつけるが?」

ゆかりに思い切り睥睨されているのを神崎士郎は気にも留めるようすはない。
笑うでもなく、怒るでもなく、表情をほとんど変えずに神崎士郎は再び口を開けた。

「別にお前と昔話をしに来たわけではない。早速だが、本題に入らせてもらおう」

それから神崎士郎に言われたことはなぜか妙にはっきりと、酒に飲まれ、さらに夢現の間を確実にさま
よっていたはずの彼女の頭に残っている。
ミラーワールドのこと、モンスターのこと、ライダーのこと。
ライダーは13人いて、勝ち残れば何でも願いが叶うということ。
そして、ゆかりがそのライダー候補の一人だということ。
それほど長い話でもなかったが、聞き終わるころにはかなり頭の中はクリアになっていた。

「へー、でもなんで私なわけ?」
そう訊きながら、夢だから何でもありなんだろーけど、などと思っていたが。

「己のためだけに戦うことのできる人間がライダーバトルにほしい。
本当は他に予定していた人間がいたのだがな、予想外の事故でだめになった。」

神崎士郎のその言葉に小さく肩をすくめると、ゆかりは立っていた体を床に投げ出した。
夢のはずなのに立っているとなぜか疲れる。

「ま、どうでもいいや。悪いけど私パス。めんどくさいしね〜」

「勝ち残れば何でも願いが叶う、それが信じられない、と?」
その言葉に面倒くさそうに、「そ〜ねぇ」と頷くゆかり。

「はぁ、もういいからあんた私の前から消えなさい。夢でも充分にウザいからさぁ〜」

「ならば、その証拠として・・・死んだ黒沢みなもを生き返らせてやる、と言ってもか?」

ピクリと痙攣するその体。その言葉の瞬間、死んだように濁っていたゆかりの瞳の中に、光が、灯った。

「・・・今、なんつった?」

157 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:44 ID:???
谷崎ゆかりにとって、唯一にして無二の親友、にゃも――――黒沢みなも。

ゆかりとみなもの俗に言うくされ縁は中学から始まった。
今でこそ気の置けぬ友といえる仲の二人だが、最初から中がよかったわけでは決してない。むしろ最初
は互いを理解し会おうとせず、色で言うなら「赤」と「白」のように反発し、はっきり言って仲は良く
なかった。
ただ、それはお互いに意地を張っていただけだった。己が持っていないものを持っている相手を認めた
くなかっただけだったのかもしれない。
ただ、最初に会ったときからおそらくは二人とも分かっていたのだろう。二人はなにか、どこかで似通
っている、と。付き合ってみることでそれはますますはっきりした。

外接するタイプが逆なことで互いに補う形状の友情、見も蓋も無い言い方をすればそうなる。
ただ、少なくとも根底に「青」とでもいうべき共通因子を持った二人【「紫」=ゆかり】と【「水」面=みなも】
の同性間の友情が崩れずに十年以上続いたのをそのていどの安っぽい言葉で完璧に説明することは
不可能だろう。

中学、高校、大学、就職先。その間、喧嘩は日常茶飯事のようにしていたが、決別を余儀なくされる
ほどの亀裂はついに入ることは無かったし、別れとも言えるような別離も味わったことはなかった。

そう、ほんの十日前、黒沢みなもが、ゆかりの前から永遠に姿を消してしまうことになるまでは。


彼女が、黒沢みなもが自動車事故で帰らぬ人となって、今日でちょうど十日を数える。

みなもに非があったわけではない。居眠り運転によるトラックの衝突だった。
不幸中の幸いか、不幸中の不幸か、苦しむことすらできぬ即死だったという。
遺体は、それこそ直視すらできぬほど見るも無残な姿だった。人の姿すら留めていなかったのだから。

事故の元凶であるトラックの運転手も黒沢みなもと同様に命を落とした。
もし、トラックの運転手だけ生きていたら、ゆかりは自分がどんな行動に出たか、自信はない。

その10日前を境に、確実に自分は変わったとゆかりは自覚している。

自分では、それほど彼女に依存していないと自負していた。
しかし、気がついてみれば、記憶にある風景にはいつも自分と一緒に黒沢みなもの姿がある。
アルバムを紐解いてみれば、どこでも、自分と一緒に彼女が笑っている。
そして、自分の目の前には、もう彼女はいない。
記憶の中、過去の中にしか、もう、黒沢みなもは、いない・・・・・・・・・

むろん、いつかは分かれる運命だったとは理解している。
しかし、決別はあまりに、そう、あまりにも突然すぎた。

死、しかしそれは人間に等しく訪れる最期。生まれたときからその最後の日のために生きるのが生物。
寿命で死ぬにしろ、自ら命を絶つにしろ、他人によって理不尽に命を奪われるにしろ、一度失えば
二度と戻ることはない。それは天地開闢以来の、絶対不変の理(ことわり)。

―――――――――それを今、この男はなんと言ったのだ?

158 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:45 ID:???
「にゃもを、生き返らせる?この世には冗談ですませていい事と悪いことがあんのよ」
「俺は冗談は言わん。これを受け取れ」

予想外の神崎士郎のその返事と共に、鏡の中から飛んできた何かをゆかりはとっさに受け取った。
それは一枚のカード。奇妙な図柄と英語−[TIMECORE]−が書かれている。

「なによこれ?タイム、コア?」

「そうだ、それを持っていなければ新たに分岐する時の流れに存在できないからな」
意味の取りかねる神崎士郎のその言葉に次ぎ、金色に輝く何かが神崎士郎の後ろに現れ、そして鼓膜を
揺らす鐘の音とともに鏡が金色に輝いた。


                            [TIMEVENT]  [TИヨVヨMIT]


その瞬間、そしてそのあとの数瞬になにが起きたのか、なぜかまったくゆかりの記憶には残っていない。
ただ、その「タイムベント」という単語のみが記憶にこびりついている。

気がつけば、鏡からもれていた金色の光も消え、鏡の中には相変わらず白衣のポケットに両手を入れた
神崎士郎の姿のみがあった。
ゆかり自身はカードを受け取った瞬間のポーズからまったく動いていない。
ただ、その一瞬のうちに何日もの時を歩んで来たかのような気だるさがほんの少しだけ頭に感じられた。

そして、なにをしたのか、問いただすより早く、ゆかりの手の中で、[TIMECORE]と書かれたカー
ドは砂のように崩れ去った。その砂も、ゆかりの足元に落ちるが早いか、さらに小さい微小な粒子に融
けて跡形もなく消滅していく。

「修正は終わった。また、明日来る」

何も説明せぬまま、その言葉だけを残し、神崎士郎もまた鏡の中から溶けるように姿を消した。

「はっ、馬鹿馬鹿しい。」
これが夢か現か分からぬが、どちらでもいい。
襲ってきた眠気に抗わず、ゆかりはゆらりと立ち上がり、ベッドのほうへと一歩足を進めた。
そして、そのまま、ベッドに倒れこむと同時にゆかりは意識を手放した。

159 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:46 ID:???
ピーンポーン ピーンポーン
鳴り響くチャイムがゆかりの二日酔いの頭に響き渡る。やはり昨日は飲みすぎた。
普段は酔っているときの夢など覚えていないのだが何故か昨日の晩の夢ははっきりと記憶に残っている。
夢だけにどうでもいいことだが。

「ぅ〜、ぅるさぃ〜」
繰り返されるチャイムに布団を被りなおし悪態をつく。誰だ、こんな朝っぱらから人の迷惑顧みず
チャイムを連打する馬鹿は。

みなもがいなくなってからは、起こすものがいないので、ゆかりが起きるのは昼前だ。
当然午前の授業は遅刻。
一応理解はある校長たちだが、さすがに下手したらそろそろ教師を首になるかもしれない。
まあ、そうなっても別にかまいはしないが。

「ごめんなさいね、ゆかりったら、ちっとも起きなくって」
「・・・・・・・・・・・・」

母親が誰かと話している。誰だ?誰でもいいが。自分には関係ない・・・・・・・・・

「ゆかり〜、黒沢さんがそっち行ったわよ〜、いい加減起きなさい!」

黒沢・・・・・・、なにを言っているのだろう?なにを・・・・・・・・・

たんたんたんたんたん

軽快に近づく足音。これは・・・母のもの?わからない・・・わかりたくも・・・ない。

「ほらゆかり、起きなさい!」

この声は・・・・・・母ではない・・・・・・ただ、どこかで・・・聞いたことが、ある・・・・・・・・・

「ちょっと!」

・・・・・・そう、これは・・・10年間以上聞き続けてきた・・・、この声の主は・・・・・・

――――――――え?

160 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:46 ID:???
「あんた、何時まで寝てるわけ?遅刻よ、このままじゃ。って、酒臭っ!」

カーテンが開けられ、まぶしい光を顔面に受けながら、ゆっくりと目を開ける。
ゆっくりと焦点を結ぶ視界の中、そこにあるのは、当然のように、見慣れていた顔。
高校時代からほとんど変わっていないその体躯。遺伝子レベルで刷り込まれているその声。

「にゃ、も・・・・・・?」

見間違えるはずがない。聞き違えるはずがない。それは、黒沢みなも。
見開いた目に飛び込む太陽の光。あまりのまぶしさに目が痛みを訴える。
痛み、ならば、これは、夢では・・・・・・・・・・・・ない。

「あんたねぇ、って、ちょ、ちょっと、私の足をひっぱらないでよっ!」

「足も・・・ある?」

おそるおそるそこにある足を引っ張り、ちゃんとあるか確認する。
初めは軽く、そして、あることを一度確認してから、もう一度、今度は全力で。
マンガでそういう場面を見るたび、なんと馬鹿らしいことかと鼻で笑っていた行為だが、いざ自分の身
に降りかかってみるとやらずにはおられない。

足を思い切り引っ張られても、流石に体育教師だけあって、みなももバランスを崩しながらも倒れるこ
とはなかった。

「危ないじゃない!人を幽霊みたいに言って、足があるなんて当然でしょ!なに寝ぼけてんの」

「にゃぁぁぁぁぁぁもぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「ゆ、ゆかり?、きゃぁぁぁぁぁっ」

布団から予備動作なしで全力でみなもに飛び掛るゆかり。
ゆかりに押し倒され、目を回すみなも。
大きな音にすわ何事かとあわてて部屋へと飛び込んでくるゆかりの母。

結局その日、ゆかりとみなもは仲良く学校に遅刻した。

161 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:47 ID:???


「やっぱりあんたのほうも夢じゃなかったみたいね」

夜、再び己の部屋で前日の晩と同じようにゆかりはかつての教え子、神崎士郎と向き合った。
昨日との大きな違いは、ゆかりが酒を飲んでいない、ということと、それでもなお上機嫌な点くらいか。

「黒沢みなもは生き返った。お前以外は死んだという記憶を持っているものすらいない。これで満足か?」

鏡の中の神崎士郎の念を押すような言葉に頷くゆかり。
あれから、今の世界と自分の記憶の中の世界の差異を、図書館や過去の新聞、あまつさえ本人に訊いて
確かめた。そして確信に至る。両者の違いは、黒沢みなもが生きているか否か、それに尽きると。

「確かにあの事故は、どのニュースを見ても死んだのはトラックの運転手一人ってことになってた。
そして、にゃもは間一髪のところで危険を免れた、ってね」

その間一髪のところで免れた理由が、居眠りトラックの原因不明の軌道修正にあり、それを為したのが
仮面ライダーオーディンと呼ばれる存在だった、と言うことまではゆかりの知るところではない。

「どうやら、少なくとも自由に歴史を修正できるってのに嘘偽りはない見たいね。
OK。ライダーバトル、だっけ。約束どおりやってやろうじゃない。あ、一応礼を言っとこうか」

「いや。お前には、純粋に自分のためだけに戦ってもらいたかっただけだ。礼には及ばない。」

自分の思うとおりになったというのに、笑みすら浮かべず、神崎士郎はそう言うと同時に鏡の中から
ゆかりのほうへと緑色のケースを放り投げた。それは鏡という境界面を意に介さず、まるで水の中から
投げられたかのように、しかし鏡面に波紋一つ残さずにゆかりの下へと届く。

「で、これは?」
「カードデッキ。ライダーになるために必要なモノだ。それを受け取った瞬間からお前はライダーたる
資格を得る。そして一度でも変身すれば、二度と戻ることはできない。」
「へぇ、じょーとーじゃない」

緑のカードデッキを笑みを浮かべながらゆかりは強く握り締めた。同時に、鏡のなかの神崎士郎の横に
緑色をした大きななにかの姿が現れる。
彼女の知るいかなる動物にも似ていない・・・否、強いて近いものをあげるのならば・・・カメレオン?

162 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:48 ID:???
「昨日も説明したと思うが、ライダーとは、ミラーワールドの中に存在する、モンスターの力を借り、
互いに戦う存在」

一旦言葉を切り、横にいるその緑のモンスターをあごで指し示す。

「そしてこれがお前の変身するライダー、ベルデと契約関係にあるモンスター、バイオグリーザだ。
契約モンスターはライダーに力を貸す代わりにモンスター、あるいは人間のコアを餌として要求する」

ミラーワールド、モンスターなど、昨日一通りの説明はされたものの、完全に理解できているとはいいがたい
が、それだけでもライダーとは何かについて、考えた結果としての彼女自身の見解は持っていた。

「なるほど、そういう系の育成ゲームみたいなモンね。で、そのギブアンドテイクの関係が築かれてい
る間は互いに協力関係にある、と。そのコア、ってのは?」

コア、普通の英語なら核という意味だ。となると、意味はさしずめ・・・

「魂のようなものだ。モンスターのコアは、モンスターが死ねば自然に現れる」
「やっぱり。じゃあ、人間のコア、ってのは?」
「モンスターが人間を食えば自然にモンスターに補給される。人間もまたモンスターの餌の一つである
ことはすでにいったと思うが」
「あー、そういえばそんなことも言ってたわね・・・じゃあ、なに?最近の原因不明の失踪事件の犯人、
ってのは、もしかするともしかして、モンスターってわけ?」
「そういうことだ。珍しく頭の回転が早いようだな」
「珍しく、ってのはよけいよ。ま、いいわ、私には関係ないことだしー」
「・・・そういうおまえの自分中心的なところは嫌いじゃない」
「今日のわたしは機嫌がいいからほめ言葉として受け取っておいてあげるわ」

再び笑みを浮かべるとゆかりはその右手のケースを強く握り締めた。
大いなる力を得るための挑戦状、仮面ライダーベルデのカードデッキを。

「まだ、ライダーは全員がそろっていない。時も満ちるにはまだ早い。急ぎ戦う必要はないだろう。
モンスターを倒し、契約モンスターの力を上げるがいい」
「ますます育成ゲームね。追加でロープレか。まいいわ。見た感じなんか弱っちそうなモンスターだし」

「期待しているぞ、谷崎ゆかり」

愛想なく鏡の奥へと融けるように消えていった神崎士郎に、ゆかりは「だから先生くらいつけろっつー
の、」と小さくつぶやき、鏡に背を向けた。
明日もまた一日が待っている。
10日前とも違う、2日前とも違う、そして今日とも違う、新しい日々の始まりの一日が。

163 :ミネルヴァの梟 ◆pXyy/aAePc :2003/08/20(水) 00:52 ID:???
そんなこんな感じで第6章 
ゆかり先生の参戦と十三人目のライダーの顔見せでつよ
ちなみにこの章の内容については既書の章の内容で若干匂わせているあるところがあったり。
具体的にどことは言いませぬが

さて、次は第11章。またすこしあいだがあくかもです。でわでわ

164 :名無しさんちゃうねん :2003/08/23(土) 01:06 ID:???
連投でキタ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜─ !!

165 :名無しさんちゃうねん :2003/08/27(水) 13:00 ID:???
す、すごいなここのスレは。アプしたSSにレスつくのに半月以上経過してたり
する。住人がみんな大阪みたいな性格なのか?

166 :大阪XP ◆HaiBaNe. :2003/08/27(水) 15:00 ID:???
過疎板ですし・・・

167 :名無しさんちゃうねん :2003/08/27(水) 15:03 ID:???
過疎か・・・
いったいどれくらい見ているのやら

168 :鷹 ★ :2003/08/27(水) 15:14 ID:( ゚∋゚)
むしろこの2chでは許されないスローな動きを許されるのが貴重なんです。
というわけで大分遅くなりましたがこれまでの感想を。
あ、保管はばっちしやっていますので安心してくださいです(`・ω・´)シャキーン!

ミネルヴァの梟さん、第17章・第6章・ファイズ序章乙です。

第17章の感想
霧島美穂とよみのコンタクト、そして智に知られるライダーの戦い…
相変わらず実に構成が良いですな!素晴らしい。

>何かが近づいてくる。
>それも。大量の何かが。
>
>そして
>工場の
>壁を
>窓を
>天井を
>突き破って
>現れる
>大量の
>モンスターたち

この表現方法カコイイ!

第6章の感想
神崎士郎がゆかりの教え子という設定は中々興味深いですな。
ゆかりを戦いへと導く為ににゃもを復活させたというのもさもありなん。

>明日もまた一日が待っている。
>10日前とも違う、2日前とも違う、そして今日とも違う、新しい日々の始まりの一日が。

この終わり方好きです。

ファイズ序章の感想
突然のバトルから始まる序章。実に…期待させますなw
ファイズは構成が大変だと思いますががんがってくださいヾ(´ー`)ノ

169 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 16:55 ID:???
ミネルヴァの梟 氏、乙です。第六章、読ませていただきました。
 
ゆかり&にゃもが『喪失=どちらかの死』へ至るパターンは数あれど(?)スタートが喪失から始ま
ったSSは、私はこれが初見でつ。新鮮味あふれて感動。
 そして参戦の報酬として与えられるにゃもの復活。報酬が先払いってのも、ライダーバトルでは
目新しいですね。ゆかり先生の性格からして、にゃもが生き返ったら後は知らん、ってなるかと思
ったら、意外と律儀に戦ってますな〜。ゲームに例えてライダーバトルのルールを飲み込んでゆく
のも彼女らしくてイイッ!

> ちなみにこの章の内容については既書の章の内容で若干匂わせているあるところがあったり。
> 具体的にどことは言いませぬが

 この章を読んでから十三章を読み直すと、なかなか味わい深いでつね。・・・・・・神楽が会いにいっ
た時のにゃもは既に一度死んでタイムベントで救われた彼女だったんだ、とか。
 ジグゾーパズルのピースが徐々にハマっていくような楽しみがあります。
 ちなみに十三章でシザースが、タイガが不可視の敵(ベルデ)の攻撃を受けているのを見て、先
ほど自分も同じ目にあったとか言っている場面がありますが、ベルデ=ゆかり先生は、生徒を守る
為にシザースと戦ったと考えていいでつか? まぁ、その後タイガ=榊も襲ってるからなぁ。純粋
にバトル勝者になるためかもしれませんが。

> またすこしあいだがあくかもです。でわでわ

 そんな殺生な。お早い帰還をお待ちしております。では〜♪

 さて、私も自作の続きをアプさせていただきます。

170 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 16:57 ID:???
仮面ライダー神楽 第十一話

<壱>

「榊っ! 私と勝負だっ!!」

 大音声で宣戦布告。そしてすぐさまベントイン。タイガ=神楽は装備したデストクローを油断な
く構え、燃えるような眼差しで相手の出方を見守った。
 ゆっくりと龍騎=榊が振り返る。しばし無言の対峙の後、その右手が上がり、人差し指がこちら
に向けて突きつけられた。

「おっ、受けて立つぞ、って意味か? よし、記憶が無いぶん話も早ぇ。いくぜっ!」

 猛る心が抑えきれず、ずいぶん身勝手な解釈のあげく――今なら『手を合わせてゴメンナサイ』
のポーズをされても同じ反応をしたであろう――タイガは龍騎めがけて走り出した。

 ――だが。
 一歩、二歩、三歩。そこまで踏み出した時、まさにその身にスピードが乗り始める寸前、何かが
タイガの体を引き戻した!

「うわっ、何だ!?」視線をやれば、そこにはモンスターの姿が。その右手から伸びたものの先端
が背中に貼りつき、もの凄い力で引き寄せているのだ。「き、吸盤? イカか、こいつは!?」

 神楽の推測は正しかった。現れ出でたるはバクラーケン、イカ型のモンスターであった。と言っ
てもイカそのものの姿ではない。多くのモンスターがそうであるように、人間に似た二足直立。頭
部に太い触手が何本も生えている。額に穿たれた穴――口吻が怪しく蠢く。こびり付いた血は、先
ほどの運転手のものであろう。次はタイガの肉を喰らおうと欲するのか?

「…だから…教えてあげたのに」その有様をみて龍騎が呟いた。そして、ベントイン。『ソード・
ベント』の認証音とともに虚空から出現した剣を右手で受け取り、そのまま斜め上に掲げる。

 ――ガキィィィィン!

 ほぼ同時に刀身に何かが当り、金属音を響かせた。見ればいつの間に忍び寄ったか、バクラーケ
ンとよく似たモンスターが長柄の武器を振り下ろした姿勢。「シュクシュク、シュク?」粘りつく
ような鳴き声には困惑の色があった。不意打ちをいとも簡単にかわされたからであろう。

「ちょうどいい…一匹づつ…」

 かくして、タイガVSバクラーケン、そして龍騎VSウィスクラーケン。二つの戦いの幕が切っ
て落とされた。

171 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 16:59 ID:???
「っっと、とっ、とっ・・・・・・調子にのってんなよ、このイカ野郎! てゃっ!」

 転ばされそうになるのを必死に踏みこたえ、タイガはデストクローで自分を捕えている触手の中
ほどを払った。爪に流れるエネルギーがスパークして、命中箇所に火花が散る。敵はあわてて吸盤
からタイガの体を離した。

「せっかくのお楽しみに水を差しやがって! 刺身にしてやるぜ!」

 猛然とタイガはバクラーケンに襲い掛かった。爪の連撃が再び捕獲を狙って伸ばされた触手を弾
き落とし、さらに胴体をも切り裂く。勝ち目が無いと見たか「シュクゥゥ! シュクゥ!」と悲鳴
を上げて、敵は早くも逃亡を始めた。口吻から黒煙を噴出しながら。

「うっぷっ! イカだけに墨吐きやがって。くそ、どこだ!? 見えねぇっ!」
 気体のクセに妙に粘着力を感じさせるその煙はタイガの体にまとわりついて離れず、視界を奪い
続ける。だが、タイガ=神楽はすぐに頭を切り換えた。

「よしっ。だったら・・・・・・」仮面の下の眼を閉じて神経を聴覚に集中させる。自らの呼吸音、心音
に始まり、様々な音が感知されてゆく。少し離れたところから、何らかの攻撃が命中する音とモン
スターの悲鳴が立て続けに聞こえた。龍騎の仕業であろう。胸が高鳴る。早く、そちらへ駆けつけ
たい。だが、まだだ。必死に意識を逸らし、スキャンを続ける。

 ――ねちゃり くちゃり ねちゃり くちゃり

 捉えた!頭上から、軟体動物が這うような音が!

「・・・・・・そこだ! とぅっ!」気合一閃、タイガは大地を蹴った。その跳躍力は基本スペックだけ
で40m。楽々と煙幕の圏内を突き抜けた先には、バクラーケンの姿があった。体の吸盤を使い、
傍らの高層マンションの壁を這い登っている最中だ。
 跳躍の勢いをのせて、無防備なその背に右手のデストクローを突き刺した。

「シュクワワワ〜〜ッ!!」  

 絶叫とともに、敵はその身を痙攣させた。爪は胴を貫通し壁にまで至っている。タイガはあえて
それを抜かないまま、手放した。引力の作用に従い降下し、柔らかく着地する。

「さてと、へへへ」仮面の下で不敵な笑みを浮かべて、壁を見上げた。「何秒もつかな?」
 五秒だった。瀕死に至り吸盤の力を失い、怪物は壁から剥がれ落ちた。

「よぉしっ! トドメだっ!」と叫んでタイガは落下地点に走りこんだ。
 真上を見てタイミングを計り、落ちてくる敵めがけて、左手に残りしデストクローを渾身の力を
込めて突き上げる。

「おりゃあ〜〜っ!!」「シュクワァワァワァ〜〜!!」

 雄叫びに少し遅れて断末魔の悲鳴が重なり、一拍置いて後、バクラーケンは爆発した。
「トラ吉ぃ!」虚空から白虎が躍り出て、漂うエネルギー球を嬉しげに飲み込む。

172 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:00 ID:???
「へっ、他愛もねぇ。ま、ウォーミングアップ代わりにはなったか」右デストクローを拾い上げ、
装着しながらタイガは言った。そして龍騎たちが戦っていた方角へと向き直る。

「さぁ、榊! いや龍騎。そんな雑魚にモタモタしてんじゃ・・・・・・あれ?」

 そこには、ただ静寂があった。先刻まで、あれほど激しい戦いの音に満ちていたのに。
 長柄の武器が、地面に横たわっている。まるで新品のように綺麗だった。持ち主がこれをロクに
使う暇も無く叩き落とされた証だろう。その後、徒手になったウィスクラーケンがどれほどの過酷
な攻撃に曝されたかは、今はもう知る由も無い。武器からやや離れて、地面が焼け爛れている箇所
がある。そこが多分、奴の終焉の地だったのだろう。

「そっちも終わってたのか。・・・・・・おっ!」タイガの目が、龍騎を捉えた。焦げた地面の10mほ
ど先に、ウィスクラーケンの成れの果てである光球を手に佇んでいる。赤き龍のモンスター・ドラ
グレッダーが、その周囲の宙をゆっくりと回遊する。契約者を慕うように。

「・・・おいで」「クォォォーン・・・・・・」

 優しい呼びかけに龍は嬉しげに鳴いて応え、頭部を主へと近づけた。二本の角の付け根あたりを
そっと撫でてやりながら、龍騎は光球をその口元にあてがう。たちまちそれは鋭い牙の居並ぶ顎へ
と吸い込まれていった。

「クォォン・・・・・・」ドラグレッダーは再び喜悦の声をあげる。「…よし、いい子だな」龍騎も愛し
そうにその体を軽く叩いた。

 ――そんな光景を前に。
 タイガ=神楽は呆然と立ち尽くしていた。
 睦みあう両者の姿を見て、思い出してしまったからだ。かつての榊と、その愛猫マヤーを。

(あれは、高三の冬だったけ。ちよちゃんちに集まって勉強会してた時、合間にあんな感じでマ
ヤーと遊んでたな、あいつ。ホントに幸せそうだった。まぁ、マヤーはあんなデカくねぇけどさ)

 ・・・・・・懐かしき日々の記憶。
 普段はガサツさの影に隠れてしまっている、神楽の心の柔らかい部分が露になってゆく。
 あれほど昂ぶっていた戦意が失せ、替わって、やるせ無い想いがこみ上げてきた。

(だけど、もうマヤーはいねぇ。榊、その龍はあいつの代わりなのか? 記憶が無いなりに、失っ
ちまった何かを埋め合わせようとしてんのか、お前は・・・・・・くぅぅ) 
堪えきれず、仮面の下の瞳から涙がこぼれ始めた。

 だが、神楽は激する感情に翻弄されて、ある事実に気づかなかった。――龍騎は今、背を向けて
いる。このタイガの前で、無防備な背中を。そして、デッキには未使用のファイナルベントが!

 最初は、かすかに。次第に大きく、神楽の脳内に声が響き始めた。ガイとの確執の始まりとなっ
た、あの声が。

 ――いまだ、いまだ、いまだ! 使え、使え、使え!

173 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:02 ID:???
<弐>

「ぐふっ・・・・・・」「おらおら、どうしたぁ〜? もうお終いかぁぁぁ!!」

 同時刻、タイガVS龍騎に先駆けて決着がつかんとしている戦いがあった。
 ただし、場所は現実世界。明林大学地下の通称『コロシアム』にて。

「畜生、ちくしょ〜っ!」バットと呼ばれる戦士が這いずりながら間合いを取ろうとする。
「逃げんな、ゴルァ!」バッファローの名を冠する戦士が、大剣を振りかぶり追う。

 堅牢な甲冑に身を覆っていても、実は彼らはただの大学生。ケンカどころか、競技での格闘も経
験の無い文弱の徒だった。――だが、今は違う。彼らは完全に成りきっている。ゲームのキャラク
ターに、無敵の戦士に。

「動けねぇように脚ぃつぶしちまぇよっ!」観客の一人、明美が叫ぶ。「そうだ、脚、脚!」他の
客も賛同して声を合わせる。
 バッファローは仮面の下で残酷な笑みを浮かべると、そのリクエストに応えた。大剣の鋭い切っ
先を、バットの膝裏――防具の無い部分目がけて突き下ろしたのだ。

「うぎゃぁぁぁぁ〜〜!」

 絶叫。そして出血。だが、バットはまだ自らの剣を手放さない。戦いを放棄しない。普段の時だ
ったら、すでに昏倒しているであろうダメージなのだが、何故に?
 ――それは、マインドコントロール。彼らは強力な暗示をかけられ、操られているのだ。
 分泌される脳内麻薬は痛みを抑え、理性のタガを外されたことにより筋肉は危険領域まで力を発
する。ひ弱な坊やも、一時的なら屈強な戦士になることができる仕組みだ。
 ちなみに、昼間のチャンバラ二人組が神楽の張り手で簡単に正気に戻ったのは、暗示がまだ不完
全な状態だったからだ。

「ぐうう、まだだ、まだだぁぁ!」四方を囲む金網に手をかけて、バットは立ち上がった。逆の手
に持った大剣を振り回し、裏返った声で叫ぶ。「俺がァ、俺が最強なんダァァァァ」
 ・・・・・・だが、すでにその動作は鈍い。
 バッファローは余裕を感じさせる足取りで近寄ると、バットが剣を振る腕の肘へ痛烈な斬撃を放
った。――そこにも鎧の隙間があるのだ。再び、絶叫と血飛沫が。

「ち、ちょっと! な、なにあれっ! 腕が取れかかってるじゃん!」力なく垂れたバットの前腕
を見て、浩子は青い顔で叫んだ。「ねぇ、し、死んじゃうよ、マジで!」
「はぁ、何言ってんの?」だが、彼女をここへ連れてきた友人たちはうるさげに応えた。「当り前
だろ、殺し合いなんだから」

 言葉を失い、立ち尽くす浩子。その肩を彼女らのリーダー格の明美が抱き寄せた。

「ま、あんたは今日が初めてだからねー。すぐ慣れるっての」
「な、慣れる?」
「そっ! だってカンケーねぇじゃん、自分が死ぬわけじゃねーし。だろ?」
「そ、それはそうだけど・・・・・・」

174 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:04 ID:???
コロシアムの床に仰向けに倒れたバットの体を、バッファローが踏みつける。何度も、何度も、
執拗に。
 黒衣の戦士は無抵抗だった。もう逃げるどころか、身動きひとつする力も残っていなかった。い
かに優れたマインドコントロールも、出血多量までは克服できない。

(・・・・・・う、う)バットの乾いた唇が、かすかに動いた。
(・・・・・・ここは?)血液不足が脳に変調をきたし、皮肉にも暗示から解放される結果となったのだ。

 もはや全身に感覚はなく、右肘と左膝の惨状――皮一枚残して切断されている――にも気づかな
い。ただ、かすれる目に映る光景から、誰かが傍らに立っていることだけは理解できた。

(お前は・・・・・・誰だ?)文字通り、声にならない声。途切れ始めた息は、もう声帯をわずかに震わ
せる力も無い。唇だけが動くのみだった。

 勝利を確信したバッファローは敗者の胸板をいっそう強く踏みしめると、大剣の切っ先をその喉
へとあてがった。

「さぁぁぁぁっ、どうする、どうするぅぅぅぅ!!?」観客らを見回しながら、猛牛は大声で問い
かける。その声色は、あるひとつの答えだけを待ち望んでいるようだ。
「やっちまぇぇぇ!」応えたのは、またしても明美の声だった。
 それを嚆矢として、たちまち、居合わせた者たちは異口同音に叫び始める。
「そうだ、やれっ!」「やれっ!」「殺れ〜っ!」

「おおおぉぉぉっ、殺るぞぉぉぉぉっ!」歓喜に満ちた声で、バッファローは応じた。「殺るぅ、
殺るぅぅ、ぐふっ、ぐふぅ」
 
 興奮の余り息苦しくなったのか、猛牛の戦士は利き手では剣を持ったまま、空いた手で己が仮面
をずらして外気を取り込もうとする。角度の関係で観客には見えなかったが、床面から見上げるバ
ットの目には彼の素顔が映った。

(う、牛山・・・・・・か? なんでお前が?)
 ――殺れっ! 殺れっ! 殺れ〜っ!
「殺る! 殺る! 殺るぞぉぉぉっ!」

 バッファローこと牛山は、バットの戸惑いなど全く気付かぬ様子で利き手に力を込めた。切っ先
が柔らかい咽頭の肉に突き刺さってゆく。
 
(や、やめろ、俺だ、羽田だよ。わからねぇのか、おい!? 死ぬ、死んじまう。いやだ、いやだ。
やめ・・・・・・て、や・・・・・・め・・・・・・)
 ――殺れっ! 殺れっ! 殺れ〜っ!

 敗者の微かな命乞いを押し流すかのように観客の叫びはヒートアップしていき・・・・・・
 ――殺れっ! 殺れっ! 殺れ〜っ!

 そして、大剣は深々とその喉を貫き通した。 

175 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:06 ID:???
<参>

 再び、舞台は鏡の中へ。

 ――殺れっ! 殺れっ! 殺れっ!

 その頃、タイガ=神楽の脳内にも、奇しくも同じことを促す声が響いていた。
 それはデッキからの囁き。所有者に為すべき事を命じる、タイガそのものの意志。
(殺る、殺る・・・・・・殺るっ!)
 神楽はすでに意識を支配されていた。空ろなの心のまま、その声に唇の動きだけで応える。指が
ゆっくりとデッキに至り、ファイナルベントのカードを抜く。そして召喚機へと。

 だが。

 ――神楽…神楽…神楽。

 新たに聞こえてきた別の声に、その指は止まった。脳内に声の主の映像が次々と再生され始める。

 ――?…?
 同じクラスになって、初めて話しかけた時の榊。

 ――まだ、動かないで…。
 浴衣の着付けをしてくれた榊。

 ――で、でも…話せばわかってくれる…。
 自分を噛んだ猫の弁護を必死にする榊。

 ――かわいいぞー。
 ねここねこ縫いぐるみの可愛さをぎこちなく力説する榊。

 勝負を挑まれた時のきょとんとした表情。一緒に帰ろうと誘った時見せた戸惑う仕草。まだ幼い
美浜ちよを見守る優しい眼。一人暮らしを始めたら猫を飼うと言った時の嬉しげな声。

(榊。榊。榊・・・・・・)無意識のうちに神楽は、止め処なく蘇る思い出ひとつひとつに相槌を打つよ
うに、旧友の名を呟いていた。その度に心が、何か暖かいもので満たされてゆく。

 ――殺れっ! 殺れっ! 殺れっ!
(うるせぇな、黙れ!)

 そして、呪縛は破れた。いとも簡単に。
タイガの手は、カードが挿入されたホルダーのフタを閉める寸前で止まった・・・・・・。

176 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:08 ID:???
 だらりと両手を下げる。下腹に力をいれ、大きく息を吐く。そして吸う。数度繰り返すと、完全
に自分を取り戻すことができた。

(使えるわけねーだろ、ファイナルベントなんて。できるわけねーだろ、殺すなんて。二度とあい
つと会ったり、話したりできなくなるなんて、考えるだけでもイヤだ、イヤだっ!)

 一瞬、脳裏に浮かんでしまった榊の死の場面を打ち消そうと、頭を激しく左右に振った。

(よぉ〜〜く、わかったぜ。違うんだ。私が榊としたい『勝負』は、ライダーのそれとは別モンな
んだ。何度でも立ち上がれる、次は負けねぇぞって言える、そんな戦いさ。だって、私はあいつが
憎くて挑んでるんじゃない。むしろ・・・・・・)

 タイガ=神楽は心中で呟く言葉の最後を濁し、龍騎へと視線を移した。赤き異形の姿をとりし旧
友は、神楽の葛藤など知る由もなく、配下の龍と戯れている。――相変わらず、背を向けたまま。

(ったく。忘れてるのかよ、ここが戦場だって。あーあ、なんだか、少し腹が立ってきたな。よぉ
し、忍び寄って後ろ頭に軽くチョップでも入れてやるか。へっへっへっ)
 
 ――だが。
 すっかり和やかな気分になってしまい、むしろ自分のほうが今の状況を忘れ去った神楽が一歩を
踏み出したその時!

「…時間切れ」

 唐突に龍騎=榊はこちらへ振り向いたのだ。その身は粒子となって蒸発し始めている。

「…虎よ」抑揚のない声で呼びかけてきた。「なぜ、来なかった? 『勝負だ』と聞こえたが…」

「そ、それは。だって、あの、なんていうかさ、その」
「…待っていたのに」返答に詰まるところへ、さらに追い討ちをかけるように言った。「ずっと…
君の大好きな『背中』を向けて」

「な、な、なんだってっ!」驚愕のあまりに神楽はどもった。「じ、じゃあお前はわざと!」

 その問いには応えず、龍騎は言葉を続けた。

「…そもそも、なぜ『勝負だ』などと相手に告げる? いきなり…襲いかかればいいのに…」
「いきなりって、そんな卑怯なマネできねーよ。お、お前を相手にさぁ」
「…ライダーの戦いにルールは…無い。卑怯という言葉も無い。躊躇すれば…死ぬのは自分」

「あ、うっ」返す言葉が出ない。心が認めたがらない。非情の掟を語るのが、あの虫も殺せぬほど
優しかった旧友であることを。病が情緒に影響を与えているのを充分知りつつもなお。

177 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:10 ID:???
 仮面の下の口が、ぱくぱくと虚しく動く。まるで死に瀕した金魚のように。言うべき言葉が、ど
うしても見つからないのだ。
「ちいっ!」 苛立ってタイガ=神楽は、手にした何かを叩いてしまった。誰もがやりがちな仕草
だ。特に奇矯なことではないが、この場合はいささか問題があった。――それが斧、すなわち召喚
機・デストバイザーだったから。

『ファイナル・ベント』斧が認証音を発す。「え? ファイナルって、おい! なんで!?」

 何のことは無い。先ほど、ホルダーからカードを抜くのを忘れていたのだ。フタも半開きのまま
だった。――それが今の行為で閉じ、ベント・インが完了したのだ。

「ま、待て!」神楽は叫んだ。だが、もはやカードの力は、使用者本人の意思ですら止められない。
「ガォォォ〜ン!!」デストワイルダーが虚空より飛び出し、龍騎に飛びかかる。

(なんてドジ踏むんだ、私は! 止まらねぇ、止まらねぇよ! 榊が、榊が死んじまう! 私が、
私が殺しちまう〜!)瞬きより速く脳裏を飛び交う、後悔、悲哀、絶望の念。

「あうう〜っ!!」そんな数々の想いを内に含んだ短い悲鳴が迸った。

 ――しかし!
 
「な、何ぃ!」

 次の瞬間タイガ=神楽の見たものは、白虎に押し伏せられる龍騎ではなかった。
 唐突に発生した、人ほどの大きさの竜巻だったのだ!

 いや、タイガの目には詳細も見えた。
 龍騎は掴みかかるデストワイルダーを受け流し、その力を巻き込むように己が体を回転させたの
だ。周囲の砂埃を巻き上げるほど速く、竜巻と見まごうほどに。

「何だ・・・・・・うわぁ!」「ガォ〜〜ン!!」驚く間も無く、タイガは吹っ飛んできた相棒の下敷き
になってしまった。白虎は自らの突進力に回転による力を上乗せされて、投げ飛ばされたのだ。
「痛てて、コラッ、重いってんだよ。さっさと、どけっ!」「ガゥ、ガゥゥ〜!」

「…今のタイミングでは、だめ。もっと、不意を突くんだ…」絡み合ってもがく主従に諭すように
言いいながら、龍騎は手近な鏡へと歩み寄った。
「忘れるな…己の取り柄を。奇襲こそ虎の本領。邀撃こそ虎の真価。…そして」

 そのまま立ち去るかに見えた龍騎の足が止まった。すでにその赤い表皮は限界を思わせるほど激
しく粒子化しているのにもかかわらず。

「…生き残るんだ…神楽」

 一度だけ振り返り、そう呟くと、赤き龍のライダーは現実世界へと戻っていった。

178 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:12 ID:???
<四>

 ――その頃、花鶏では。
 ひとり残されたかおりが、必死に祈っていた。祈るしかなかったからだ。榊と神楽――龍騎とタ
イガ。二人のライダーが戦ってしまわないことを。

(榊さん、お願いです! 神楽もお願いだから・・・・・・)唇からもれる囁き。それに込められた願い
がいかに強いかは、その表情から十分推測できた。あたかも敬虔な信徒が、己が信じる神の御前で
祈りを捧げているかの如く。
 ・・・・・・ただし。
(神楽が死ぬなんてイヤ。やっとあいつの良いところもわかってきたのに。ガサツなだけのひとじ
ゃないって、思えてきたのに。お願い、お願いだから戦わないでっ)
 その懸念に『榊が負けて死ぬ』というオプションは一切無かったが。

 ――カラン カラン
「あっ」

 ドアに付属の呼び鈴が鳴った。

 顔を上げれば、そこには榊の姿があった。
(榊さんだけ!?)ひきつりながらも笑顔を作り駆け寄る。
「お、お疲れ様ですっ!」
「…ん」「あ、あのっ」
 神楽は?と問いかける間もなくかおりの傍らを通り過ぎ、榊は自室へと去ってしまった。

「あ・・・・・・」力なくスツールに座り込む。
「ち、ちょっと遅れてるだけよね。あいつ、榊さんより脚が遅いから。うん、うん」
 自分に言い聞かせるように呟くと、かおりは入り口の方に向き直った。
「そろそろ、戻ってくる頃かな。『あー、ひと暴れしたらまたハラ減っちまったな』とかバカなこ
と言いながらさぁ。そしたら、しょうがない、何か作ってあげるかな。ふふっ」

 ――カッチ カッチ カッチ カッチ
 静まり返った店内に、時計の音だけが小さく鳴り続けている。
 いつまでも開かないドアを見つめ続けるうち、かおりはいつしか、昼間、士郎と交わした会話を
追憶していた。
 
  

「何を悩む、かおり」そう言いながら現れた士郎にかおりが真っ先に頼み込んだのは、榊と神楽が
戦わないようにしてくれということだった。
 しかし兄の応えは素っ気無かった。「それは無理だ。ライダー同士は戦うのが定め」
 そしてさらに何事か言おうとするかおりを制して言葉を続けた。
「案ずるな。今のタイガでは龍騎に勝てない。死ぬのは神楽の方だ」

179 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:14 ID:???
「イヤッ! 神楽が死ぬなんて、イヤッ!」蒼ざめてかおりは叫んだ。
「ならば、榊より奴を選ぶのか?」
「そ、そんなわけないでしょっ! ・・・・・・でも、あいつが死んじゃうのはイヤ。当たり前じゃない
の、友達なんだよ!」
 半泣きになってそう言い募る妹に、士郎は何も応えなかった。ただ、いつもの暗く険しい表情の
まま立っているだけだった。

「なんで・・・・・・なんで榊さんをライダーにしたのよっ!」
 返事が無いのに苛立って、かおりは当り散らすように言った。
「前に言ったはずだ。あの娘を守るためだと。今の状況では、誰もがいつモンスターに喰われるか
わからない。自分で自分の身を守る手段を与えたのだ」
「だったら、神楽はっ? なんで!」
「奴は自ら選んだ。死ぬよりも、戦って生きることを」
「そんなのずるいよっ! 誰だって死ぬことと比べたら戦うことを選んじゃうでしょ! 第一、な
んでライダー同士戦わなくちゃいけないの!」
「・・・・・・」「お兄ちゃん、答えてっ! お兄ちゃん!」

 そこから先は既に神楽に語ったとおり。うまくはぐらかされて、回答を得られずじまい。


 ――そして。気がつけば、もう小一時間が経過していた。
「なんであの時、もっとしつこく聞かなかったんだろ。戦わせる理由を。神楽が言ったみたいに、
茶髪だのピアスだので脅してでも。理由さえわかれば、戦いを止める方法もわかったかもしれない
のに。そうすれば・・・・・・」
 回想から覚めたかおりは、ドアを睨みつけてそう呟いた。
「・・・・・・そうすれば」
 視界の中で、花鶏の瀟洒な扉が歪み、ぼやける。
「か、ぐ、ら・・・・・・」
 大粒の涙が、堰を切ったように零れ落ち始めた。
「なによ、明日は明林大で取材なんでしょ? チャンバラ事件の真相を明かして、また私に自慢げ
に話してくれるんでしょ? なによ、な、に、よ・・・・・・」
 泣き崩れてかおりは、カウンターに突っ伏してしまった。
「か、ぐらのば、か。おおう、そつき。ばか、ば、か」
 後は言葉にならず、ただ嗚咽が続くだけ。
 ・・・・・・のはずだったのだが。

 ――ぺしっ!
「きゃんっ!!」

 唐突に、まさに唐突に何者かに後頭部にチョップを喰らい、かおりは悲鳴を上げた。
「こらぁっ! だーれが馬鹿だってぇ、おい!」
 そして懐かしい――ほんの一時間ほどの別れなのだが――声に振り向けば、そこにはやや憮然と
した表情で話題の人物が立っていたのだ。

180 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:15 ID:???
「か、か、神楽ぁ!?」喜びよりむしろ、戸惑いの叫びが出た。「な、なんで!? そ、そんな、
いつの間に?」
「んん、玄関の方から入ったんだけど? ずいぶん遅くなったから、もうみんな自分の部屋に戻っ
ちまったかと思ってさ」
 神楽は怪訝な顔で応えた。
よく見れば、Tシャツが汗でたっぷり濡れている。息もまだ荒い。
「ああ、これか?」かおりの視線に気づいて、神楽は照れ笑いをした。
「へへへ。ちょっとランニングをしてきたのさ。なんか、こう、無性に鍛えたくなって」
「ええっ、ランニング?」
「ああっ。やっぱり、榊は榊だったぜっ! 凄ぇ〜、凄ぇよっ! 私のファイナル・ベントをあっ
さり破りやがって!」
「さ、榊さんにファイナル・ベントぉ!? ど、どういうことなのよっ!!」
「うぉぉっ! く、悔しい、悔しいんだけど、なんていうか、その、イヤな悔しさじゃなくて、む
しろ嬉しいんだ、わかるだろ?」
「わかるわけないでしょ・・・・・・だから、何がどうしたのっ?」

 説明も無しに一方的にまくし立てられ、かおりは困り顔になった。神楽の方はそんなことなどお
構いなしに、両の拳を握り締めて熱弁を続ける。

「こうさぁ、私も負けないぜ、いつか追いついてみせるぜって、燃えて燃えてしかたなくなっちま
うのさ。モチベーション爆発上昇だぜ、イェ〜ィ♪」
「あ、あのね神楽っ」
「でさぁ、取り合えずその辺を20キロばかり走りこんできたってわけさ! ぐぉぉっ、まだ物足
りねぇぜ、なんか、なんか鍛えねぇと」
「こ、こ、この・・・・・・」
 困惑を通り過ぎて、かおりのコメカミに青筋が立ち始めた。こんな身勝手な女のために泣いた自
分自身にも怒りがこみ上げてくる。
「ひ、人の気も知らないで・・・・・・この、大バカ〜〜〜ッ!! 一生おもてぇ走ってろっ!」
 ついにぶちキレて、かおりは給仕に使うステンレスのトレイの底で神楽をメッタ打ち。
「わっ、こら、痛っ、痛ぇって。何だよ、なに怒ってんだよ?」
「うるさ〜いっ! このバカ虎ぁ、ガサツ女ぁ!」
「なんだとぉ、痛っ、痛っ! ったく、モンスターよりタチ悪ぃぞ、お前ぇは」
「なにぃ〜!!」 「なんだよぉっ!!」

 ・・・・・・この後、あまりの姦しさに業を煮やして現れた沙奈子に叱られるまで、低レベルの小競り
合いは続いた。
 なにはともあれ、神崎家の夜は更けていくのであった。

181 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:19 ID:???
<五>

「いいよなー、大学の先生ってのは。勝手に講義お休みにできてさぁ。なんかズルぃよなー」
「そやなー。ほんでも高校の頃も、ゆかり先生よくお休みしとったやん」
「うんうん。『自習』って黒板に書いて、隅っこの椅子で居眠りしてたっ! あれもさぁ・・・・・・」
 
 翌日、明林大キャンパス13時。
 午後特有のけだるい日差しの中を、二人の女子大生が仲良く肩を並べて歩いていた。
 滝野智と春日歩である。
 偶然両者とも午後の講義が休講になったため、学食で一緒に昼飯を食べた後、校内をのんびりと
ぶらついている所なのだ。

「それにしても残念やな〜。今日の飲み会、延期になってしもうて」
「全くだ! よみの奴めっ、レポートの締切ぐらい遅れたっていいじゃんか、もうっ!」
「あかん、あかん! よみちゃんは私らとちごうて一流大学のひとや。提出遅れて受ける罰もハン
パやないで、きっと・・・・・・」
 言葉を唐突に切って、歩は遠い目になった。その脳裏には、平たい岩を正座した腿の上に乗せら
れたり、逆さ吊りで水桶に落とされたりして悲鳴を上げている水原暦の姿が浮かんでいた。テレビ
の時代劇で見たのが元ネタらしい。
「お、大阪ぁ?」黙りこくったまま青い顔して震えだした旧友を見て、智が声をかけた。「た、た
ぶん、お前がいま想像してるであろう事態にはならんと思うぞっ!」
「ええっ、ほんならもっと酷い目に!?」「だーかーらっ!」

 気心の知れあった同士ならではの漫才のごとき会話を楽しみながら、二人は広大なキャンパスを
闊歩してゆく。やがて、同学の中心部に位置する工学部のエリアに達した。
「おーっ! こっから先は工学部だって。そういえば入学以来まだ行ったことないよな、ここは」
 校内随所に設置されている行き先案内ボードを見て智が言った。
「こおがくぶ・・・・・・ええなぁ、講義中にヤクルトの空き瓶いっぱいつこうて、ロボットとか作った
りできるなんて〜」
 再び空想の世界に入った歩は、恍惚の――例えるなら温泉につかってボーっとしている時の――
表情になった。
「それは工学じゃなくて、工作だろっ。しかも小学校の夏休みのじゃんっ!」
 智がやや呆れ顔で突っ込んだ。
「ほんならやー、工学部って何やるトコなん?」
「それはだなー、えーと、えーと、えーと」
「・・・・・・」返答に詰まった友人の顔を、歩が無言で覗き込む。まるで幼児のように無垢な瞳の凝視
は、えらいプレッシャーをこの娘に与えた。
「くけーっ!!」たまらず精神が学級崩壊を起こし、智は奇声をあげてしまった。
「うわぁ! どないしたんや智ちゃん、いきなり大声だして?」
「つ、つまり、あれだっ。『百聞は一見に如かず』だ! こうなったら、工学部の真実をこの目で
確かめるぞっ。いざゆかん、未知なる世界へ〜っ!」「おーっ」
 智の苦し紛れの思いつきに、歩はにっこり笑って調子を合わせた。
 二人は意気揚々と工学部エリアに進み――そして、運命の輪は転がり始めた。

182 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:21 ID:???
 ――十分ほど無言で歩いた後。
「なんか、男ばっかだなぁ」智が発した第一声がこれだった。
「ほんまにな〜」歩も同意した。

 ここの工学部は男子限定では無いのだが、男密度がえらく高いのは事実だ。特に二人は女の園・
家政学部の所属なので、いっそう強く感じてしまうのかもしれない。

「それにメガネのひと多いな〜」「おおっ、それもそうだな」
「コンタクトにして煮沸消毒とかしてみたいとは思わへんのかな〜?」
「お前なぁ、昔、よみにも同じこと言ってなかったか?」
「ほんでも・・・・・・」また智の顔を覗き込んで歩は言った。少し悪戯っぽい笑顔だ。
「智ちゃんは嬉しいんと違うん〜?」「ん、なんでだよ?」
「ほら、智ちゃんてメガネのひと好きやし」
「い、いきなり何を言い出すんだ、こいつはーっ!」
 頬を赤らめ抗議の声をあげる智。
「そやかてメガネやん? よみちゃんも、彼氏も」
「ば、ば、ば、バカぁ〜! め、メガネだから好きになったんじゃないってのっ! あ、好きって
のはよみの方じゃないからなっ! いや、よみのことが嫌いってわけじゃないぞっ! えっと、え
っと、だーかーらっ!!」
「あー、でもよう見たら女のひともおるな〜。少しやけど」
 よほど急所を突かれたのか、さらに紅潮し、自分でも何を言ってのるかわからないことを叫び始
めた親友を置き去りに、歩はあっさり話題を元に戻した。
「こらー、勝手に話を変えるなー!」
「具体的に言うと、シラスにたまに混じっとる小さなタコぐらいや」
「私の話を聞けってのーっ! もおーっ!」
 どうしてもメガネの件で釈明したいのか地団駄まで踏んでいる智を尻目に、歩は視界に入った女
子学生をゆっくりと指差し数え始めた。
「ひとり、ふたり・・・・・・あー、あの校舎の窓んとこ、あれも女や、さんにん・・・・・・」
 視力2.0を誇るこの娘の探査は、智の目には点にしか見えない人物まで逃がさない。
「あー、すぐそこにもおるやん。よに・・・・・・あ、あ、あー?」
「なんだよ?」突然、カウントが止まった相棒に智がふくれっ面で尋ねた。「もしかして、三より
先の数を忘れたのか〜? 三の次は、たくさん、だよ。た・く・さ・んっ!」
 仕返しとばかり、言い捨てる。だが返ってきた歩の台詞は、その不機嫌を吹き飛ばしてあまりあ
る驚きをこの娘に提供した。
「神楽ちゃんや、あれ・・・・・・」
「ええ、か、神楽ぁ〜? どこ、どこに?」
 歩の指し示すほんの10メートル先には、街路樹の陰で人目をさけるように携帯電話で話してい
る女の姿が見えた。
 昔となんら変わらぬ背格好、髪型、そして忘れようも無いその横顔。まぎれもなく、彼女は二人
の旧友・神楽であったのだ。

183 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:24 ID:???
<六>

「ち、地下カジノで殺人ショー? 編集長、それマジネタっすかぁ?」
 神楽は携帯での通話であることも忘れ、思わず大声で聞き返してしまった。

 時間はやや遡り、歩たちに発見される少し前のことである。

 その日は朝イチで明林大工学部に乗り込み、意気揚々と聞き込みを開始した神楽だったが、結果
は惨憺たるものだった。
 誰も知らないのだ、昨日のチャンバラ事件の二人――蟹江と三津地の詳細を。
 もちろん学生課で聞けば、在籍は確認できた。同じ専攻科目の学生を探し出して尋ねたら、確か
に何人かは彼らのことを知っていた。しかし、あくまで顔と名前を覚えている程度で、それ以上の
情報が全く得られない。
 まぁ実は、大学という所ではさほど珍しくない話なのではあるが、中学から大学中退に至るまで
一貫して運動部という人間関係が濃密な環境で生きてきた神楽にとっては、えらく不可解で寒々し
く思えたものだ。
 かくして事件の全貌解明には程遠い状況で午前を終え、やけ食い気味の昼食を済ませた所へ、携
帯の着信音が鳴ったというわけだ。

「こら、神楽、バカっ! でかい声出すなっての。誰かに聞かれたらヤバいだろが!」
「あっ、すみません、つい」苦笑いして頭を掻きつつ、神楽は釈明した。
「でも、大声も出したくなりますよ。この大学に地下カジノがあって殺人ショーまでやってるなん
て聞かされたら」
「ま、気持ちはわかるがな」
「ガセってゆうか、イタズラじゃないんですか、そのメール」
「うんうん、俺もな、そう思ったさ。こんなマンガみてぇな話よぉ・・・・・・」

 電話の向こう側OREジャーナル編集部にて、大久保は顎を撫で回しながら言った。目の前のモ
ニター画面には読者からのメールが表示されている。その傍らでは島田が「でも、面白いのに、面
白いのに」とご機嫌斜め。

「だがなぁ、この文面には、こう、えらく切羽詰ったモンがあってな、あれだ、俺のここん所に」
 コメカミを人差し指でこねくり回しつつ、大久保は顔をしかめた。
「ビビビッと来ちまったのさ。もしかしたら、もしかするんじゃねーかってな」
「来ちまったんですか!?」
「それにな、メールによると、殺人ショーってのは鎧着て剣で斬り合うやつだそうだ。こう聞けば
お前にも来ないか、ビビビっと?」
「・・・・・・あっ、チャンバラぁ!? き、来ました、来ましたっ、ビビビっと!」
「だろ? 大学生のチャンバラ事件。彼らの大学で行われているという殺人剣戟。いかにも何かあ
りそうじゃないか? ふふんっ」
「はいっ! いかにもどころか、きっと何か関係がありますよ!」
 煽るような大久保のもの言いに反応し、神楽の口調にも熱がこもる。

184 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:26 ID:???
「わっかりました、編集長ぉ! そっちのほうも探ってみますっ。ではっ」
「おいっ、ちょっと待て! もし本当だったら一筋縄じゃいかねーネタだから、くれぐれも慎重
に・・・・・・って、切っちまいやがった。ったく、あいつは人の話を聞かねぇなぁ」
「こうなると、わかってたのに、なぜやるの? おー、五七五になってる♪」
 嘆息しつつ受話器を置いた大久保を横目で見つつ、島田が呟いた。

 ――さて一方、神楽の方はといえば。

「よぉしっ、いよぉぉぉしっ! 燃えてきたぜっ!」
 それまでの落ち込みはどこへやら。元気もやる気も120%回復し、今にも駆け出さんばかり。
「やっぱり私は危険な臭いのするネタじゃねーとダメなのさっ! へへへっ」
 新たなテーマが加わっただけで何ら突破口が見出せたわけでもないのに、この言い草だ。立ち直
りの早さと、精神的タフネス。ジャーナリストに要求される素養のいくつかが、確かにこの娘には
備わっていた。
――だが、興奮のあまり。
 背後から怪しい影が二つ、そろりそろりと密やかに近づいてきているのに気づかなかったのは大
きな失点であろう。
 そして、次の瞬間・・・・・・!
「スパイはっけーんっ! 逮捕だ!」と右の腕を、「たいほや〜」と左の腕を、それぞれ何者かに
抱え込まれてしまった。
「な、なんだ!? 誰だっ、こらっ!」
 お得意の『奇襲』を自らが受けるハメになり、あわてて首を左右に捻って不埒な奴らの正体を確
かめんとする神楽。しかし、敵もさる者、背中に顔面を押し付ける姿勢で顔を見られないよう抗う。
「ええぃ、この大学に何を探りに来たぁ? おとなしく白状しろー」「たいほや〜」
「何をって、この、離せって!」
「スパイは銃殺だー。だが、素直に吐けばお白州にも情けってもんがあるぞっ」「たいほや〜」
「お白州って、お前ぇ」
「吐けっ、そして泣いて許しを請うのだ! 勝手に携帯変えといて連絡もしなかったことを」「た
いほや〜」
「・・・・・・!?」
 会話を重ねるごとに薄れてゆく緊迫感が、この時点でついにゼロになった。同時に、相手が誰で
あるかも気づき、神楽はその名を口にした。えらく疲れた声で。
「智ぉ・・・・・・? 大阪ぁ・・・・・・?」
「へっへ〜♪」ニカッと笑って腕を離し、滝野智は胸を張った。「やっとわかったか、この体力バ
カめっ」
「な、なんだとー! 本物のバカのくせにっ」脊髄反射で神楽も言い返す。「たいほや〜」
「バカバカ言うなっ! 久々に顔合わせたってのに・・・・・・って」「たいほや〜」
「お前の方から言い出したんだろが・・・・・・っと」「たいほや〜」
 二人は言葉を切って、未だ必死に腕にしがみ付いているセミロングの娘に視線をやった。
「「大阪・・・・・・もういいぞ」」
 脱力気味のツッコミが、綺麗にユニゾンとなった。

185 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:30 ID:???
<七>

 ――同時刻。某駅前の広場。
 昨日ほどではないが、季節外れの陽気は相変わらずだった。
 とはいえ、真夏に雪が降るというほどの逸脱ではない。今年はちょっと夏が早いな、猛暑になる
のかな、そんなささやかな感慨を人々の心にもたらす程度だったはずである。謎の失踪事件なんて
ものさえなければ。

「あんたの不幸と、この陽気は何も関係ない。あくまで、個人の運命は個人に由来するものだ」
 今日はここに店を構えた――と言っても、布切れ一枚と手書きの看板だけ――手塚は、客の中年
女性にそう応えていた。

 最近、彼女のように、こんな些細な気象の異常すらに何か不吉の予兆を疑ってしまう客が多くな
っていた。謎の連続失踪も最初の発生――と、思われる事件――から既に約半年。何ら解決の糸口
すら示されないまま、じわじわと被害者が増え続けている現状。親しい者が失われるという直接の
被害に遭わなくとも、漠然とした恐怖感や虚無感という形で人心はストレスを受け、歪んでしまう
のだ。

「とはいえ、ごく近い将来、あんたにより大きな不幸が訪れるのは事実だ。しかし・・・・・・」
「ふ、不幸。やっぱり、ああ〜」
「あ・・・・・・」
 運命は変えるべきものだと手塚が言おうとするより早く、女はふらふらと立ち去ってしまった。
「ふぅ・・・・・・」 呼び止めようと伸ばした手を嘆息とともに下ろし、手塚は瞑目した。果たして、
運命は変えられるのか、本当に。単なる俺の願望に過ぎないのではないか。何度も繰り返した自問
自答が、己の意志に逆らって反芻される。
(運命は変えられる、いや、変えてみせる!)
 絶望に至るマイナスのイメージを打ち消すように心中で叫ぶと、手塚は目を開けた。
 ――すると。
「よぉ。どうよ、調子は」
 いつの間にやってきたのか、目の前には一人の人物が立っていた。
 ブランド物のスーツをはじめとして全身をくまなく高級品で覆い、なおかつ、それらを体の一部
の如く馴染ませている長身の男。
「まだ続けてるの、あれ。戦いを止めようっての」北岡秀一は、揶揄の笑みを浮かべてそう言った。
「ああ。当然だ」手塚はやや不機嫌そうに応えた。
「へぇ。暇というか、生産性がないというか・・・・・・ま、どうでもいいけど」
 しばしそのまま、二人は睨みあった。互いの脳裏に、初めて出会った日のやり取りが再現されて
ゆく。
 かつて手塚は、昨日神楽にしたように、北岡にも接触し戦いを止めるよう働きかけたことがあっ
た。占いで最初に正体が判明したライダーが彼だったからである。だが、交渉の結果は不備に終わ
った。いや、取り付くシマがなかったと言ったほうが正しい。唯一の成果は、自分の占いが当たる
事を認めさせたことだけだった。

186 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:31 ID:???
「・・・・・・それで、今日は何の用だ? ご多忙な悪徳弁護士さん」皮肉の棘を言葉に含め、手塚は話
を続けた。「まさか、俺に協力する気になったわけではあるまい?」
「偶然よ、偶然。仕事帰りにここを通りかかったら、お前さんがいたってだけ」
 そこへ、誰かが小走りで駆け寄ってきた。真っ赤なシャツに豹柄の上着を羽織った、ややコワモ
テの青年だ。 
「先生、すみません。この辺は駐禁が多くて」本当に申し訳なさそうに頭を下げて、由良吾郎は言
った。「車、あちらッス」
 有能な秘書兼ボディガードに促され「じゃあね」と立ち去る北岡。

 ――ところが。
 その歩みは、四、五歩で突然止まった。顎に手をやり、何事か思案顔になる。
「せ、先生?」「ゴロちゃん、悪いけど車で待ってて」
 心配げな吾郎にそう告げると、踵を返して占い師の前に戻って来たのだ。
「ま、俺ぐらい天才になると、偶然もまた必然になっちゃうのよ」
 けげんな顔を向ける手塚の前にゆっくりとしゃがみ込んで、意味ありげな笑みを浮かべる。
「お前、続けてるって言ったよね、ライダーに戦いを止めるよう説くのをさ」
「ああ、そうだ」
「だったら、俺以外のライダーの正体も知ってるってことよね」
「だったら、なんだ?」
「俺に教えてくれない?」笑みをやや鋭いものに変えて言った。「もちろん、金は払うからさ」
「断るっ!」手塚は即答した。「お前の戦いに手を貸す気は無い」
「そう冷たいこと言わずにさぁ」北岡は、手塚の反応など意に介せず、こう切り出した。
「例えば、OREジャーナルの神楽ちゃんは」「・・・・・・誰だ、それは?」
「タイガだよね?」「・・・・・・ふっ、なんのことだか」

 わざと途中で言葉を切って間を置き、こちらの表情の変化を窺いながらの問いかけ。
 占い師は自制に成功し、おもてには何ら動揺を浮かべなかった。――両者の関係を知らなかった
ので、この男の口から神楽の名が出たことで少々意表は突かれはしたものの。

 しかし何故か、カマかけが不発に終わったにもかかわらず、
「ま、その件は済んじゃったから、もういいんだけどね」と、北岡はあっさり言ってのけたのだ。
「済んだ? どういうことだ?」手塚も思わず問いただす。
「もちろん、倒したってこと。仮面ライダータイガこと神楽ちゃんは、俺の手で殺した。つい先ほ
どね。言ったろ? 『仕事』帰りだって」
「な、なんだとっ!」
 愕然とし、手塚は叫んだ。脳裏に神楽の笑顔が蘇る。裏の無い、まっさらな笑みだった。あの娘
が死んだ? もしや、自分との約束が元で? 激情に駆られ、声を荒げて詰め寄った。
「嘘だっ! 俺の占いでは、あの娘は、タイガはまだ死なないっ! いい加減な事を・・・・・・うっ」
 怒声はすぐ途切れた。同時に、占い師は敗北を悟った。カマは二段構えだったのだ。
 勝者は、にっこり笑って万札を数枚差し出した。「ご協力、ありがと♪」
「ふざけるなっ」はねのけられた紙幣が春の風に舞う。
「ふんっ」北岡は立ち上がり、背を向けた。「じゃあね」
「ま、待てっ!」苦しげに手塚が叫ぶ。 
 ・・・・・・しかし、彼は一度も振り返ること無く、吾郎の待つ車へと去っていった。

187 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:34 ID:???
<八>

「んじゃ、聞かせてもらおうか?」「何を?」「だーから、私らをシカトしてた理由だよ、理由」
 滝野智はそう言うと、どこから取り出したのか、神楽の顔をペンライトで照らして迫った。
 どうやら、刑事ドラマなどの取調べシーンで、犯人の顔にスタンドの灯りを近づけて追い詰める
のを真似ているようだ。
「さっさっと吐けば、楽になるぞっ」
「ううっ。そ、それは・・・・・・」神楽は言葉に詰まってしまった。それこそ、何かの犯人さながらに。

 ――場面は再び、明林大に戻る。
 再会を果たした神楽たちは、立ち話も何だからと、空いてる教室に入り込んでの近況報告となっ
ていた。
 だが、立場は平等ではなかった。神楽は高校を卒業以来、なにかと不義理を重ねていたからだ。

 第一に、飲み会等の誘いに一度も応じなかったこと。
 第二に、携帯の番号を変えたのに教えなかったこと。
 第三に、そのまま、音信不通になってしまったこと。

 何故と問われれば、返答に困る。いや、何故だかわからないからではない。

 新たな環境・新たな人間関係に適応し始めた頃で、昔のそれらがやや疎ましく思えたから。
 加えて、記録が予想外に伸び始めたので、水泳の練習に夢中だったから。
 ・・・・・・そして、イジメが始まり、旧友に相談したり愚痴を言ったりしたい状況になってからは、
逆にこれまでの不義理と神楽自身の真面目さが仇となり、今さら彼女らに頼れるわけもないと思い
込んでしまったから。

 箇条書きにすれば簡単なこれらの理由。しかし、実際はそれぞれに微妙なニュアンスが付随する。
それを過不足無く説明できるほど、神楽は口達者ではなかった。考えれば考えるほど、伝えたい事、
言うべき事が頭の中で空回りしてゆく。
 
「ま、まぁだから、つまり・・・・・・」
「どうした、どうした? 故郷のお母さんが泣いてるぞー。カツどんでも取るか、ええ?」
 口ごもる神楽に、智はますます調子に乗って言い募った。
「だーからっ」さすがに少しムカついて応えた。「いろいろ・・・・・・いろいろあったんだよ!」
 言ってしまってから、後悔した。何も説明になってないどころか、相手を拒絶し、ケンカすら売
っているかのような態度だ。女同士の友情は、ちょっとしたことで拗れやすい。もしかして、これ
で決定的に決裂してしまうかもしれない。

 ――しかし。
 滝野智はにっこり笑ってこう言ったのだ。
「そうか、いろいろあったのか。じゃあ、しかたないな」

188 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:36 ID:???
「えっ?」「今の番号とアドレスはー?」
 困惑する神楽を置き去りに、智はポケットから携帯を取り出した。
「ち、ちょっと待て、おい」「なんだよ、教えられないっての?」
「そうじゃねぇよ。し、しかたないなって、それでいいのか? 納得なのか?」
「もぉー、なに細かい事言ってんだよ? お前らしくない」
「だって、私はお前たちに、何ていうのか、その、冷たくしちまって」
「へ? たかが、一年半ぐらい会う機会が無くなってただけじゃん? ほら、携帯出せって」
 促されるままに、神楽は自機を渡した。ふむふむ、と慣れた手つきでメモリー入力を始める智。
「まぁ、どんないろいろがあったのかは、ひじょーに興味あるけどな。でも、こんなとこでシラフ
で聞くにはもったいない。酒の席でじ〜〜〜っくり聞かせてもらうぞ」
 携帯を返しながら、智はこう付け加えた。悪戯っぽい笑顔で。
「こんどは逃げないよな、飲み会のお誘い?」
「ああ・・・・・・」ほんの少し鼻の奥にツンとしたものを感じながら、神楽は威勢良く応えた。
「ああ、もちろんだ。とことん付き合うぜっ!」
「よーしっ、それでこそ神楽だっ」
「これにて、いっけんらくちゃくや〜」
 ここまで終始笑顔で二人のやり取りを見守っていた春日歩が最後を締めた。――ちなみに『遠山
の金さん』のモノマネのつもりだったらしいのだが、その意図だけは不発に終わっていた。

「じゃあ、悪いけど私はそろそろ行くぜっ!」
 神楽は余韻を惜しみつつ、椅子から立ち上がった。気持ちが徐々に『獲物を追う虎』モードに戻
ってゆく。せっかく美味しそうなネタを聞きつけたのだ、手ぶらで帰るなどできるわけが無い。
「待てよ」智が呼び止めた。「一番肝心なこと聞き忘れた」
「何だよ?」「お前さあ、ここで何してるんだよ?」
「うっ、それは」「チャンバラとか、地下カジノとか携帯で話してたよな?」

 神楽はまたしても、返答に困った。されて当然の質問ではある。しかし、これも先ほどの『不義
理』の理由以上に込み入った話なのだ。自分がネットニュース配信社の記者であることから説明し
なければならない。信じてもらえるわけない、そんな突拍子もない話。過去の自分をよく知る智た
ちなら尚更だ。

「そ、それは・・・・・・」「それは?」
「それは・・・・・・あれだ、いろいろだよ、いろいろ」
 さっきと同じ回答を、今度は軽い口調で言ってみた。冗談交じりでお茶を濁そうというのだ。
「だーめ。同じ手は通用しないぞ。ちゃんと説明しろー」「そやな」
「な、なんでだよ。これも、飲み会ん時、ちゃんと話すからさ。取りあえず今日んとこは・・・・・・」
「なんでだと? ふーふっふっふっ、理由を聞きたいかね?」
 ドラマに出てくる悪の親玉みたいな口調で、智は言った。
「まず第一に、お前は今、とても楽しい事をやってんだろー!? 私の目は誤魔化せないぞー」
「うぐっ」
 神楽は返答に詰まった。ある意味、その通りだったからだ。同時に、この旧友の嗅覚――面白そ
うな出来事の匂いを嗅ぎつける――の優秀さを思い出し、心中で嘆息した。さすがは智だと。

189 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:39 ID:???
「そして、第二に・・・・・・いいか、これが一番大事なことだぞ」
「な、なんだっ?」
 思わず息を呑む神楽に、智は威勢良く応えた。
「私と大阪は、今、とてもとても暇だということだーっ! 頼む、私たちも混ぜてくれー!」
「そや〜、混ぜて〜」歩も同調して叫んだ。
「あううっ」あまりの脱力からコケそうになるのを耐えて踏ん張った。「混ぜろったって」
 神楽は頭を掻きむしった。脳が空回りしてうまく考えがまとまらない。
「もーっ、いちいち悩むなよ。うちの大学に何か用があるんだろ? だったら、有能な案内役が必
要じゃんか、部外者のお前としてはさぁ?」
「そや、『三人よれば文殊の知恵』やで」
「まぁ、そりゃそうだが」
 歩の微妙にずれた格言はさておき、智の提案の方は確かに魅力的だった。午前中の空回りを省み
れば、学内のことに詳しい協力者は喉から手が出るほど欲しいところだ。

 ――だけど。
「・・・・・・悪いけど、だめだ。帰ってくれ」
 神楽は、真顔になって断りの言葉を口にした。
「えー、何で?」「何でや〜?」
 理由はただひとつ、危険だからだ。チャンバラ程度ならまだしも、地下カジノだの殺人ショーだ
のまで絡んでくる可能性のあるネタだ。大久保に注意されるまでも無く、下手に突っつけば命に関
わることもあろうと神楽は十分認識していたのだ。
 自分だけなら恐れない。だが、この愛すべき友人たちを巻き込むわけにはいかない。絶対に。
「とにかく、だめだ! だめだったら、だめだ!」
「何だよ、けちー。自分ばっか楽しもうってのか〜」「けちぃー」
「ああ、もうっ! いいか・・・・・・んっ!」

 だが・・・・・・ごねる智らを強引に説き伏せようとした、その時だった。

 ――キィン… 

「んっ?」神楽は、言葉を切って耳を済ませた。今、確かにミラーワールドへの回廊が開いた音が
聞こえた・・・・・・ような気がしたからだ。それにしては、短すぎる。普段は頭が痛くなるぐらい鳴り
続くのに。なぜ?
「おーい、どうしたんだ? いきなり黙りこくってさぁ」「けちぃー、けちぃー」
「いや、その」

 なぜかは、わからない。もしかしたら、空耳かもしれない。だが、確実に状況は変わった。モン
スターが近くをうろついている可能性が少しでもある以上、智たちから離れるわけにもいくまい。
取材に関するトラブルより、はるかにこちらの方が危険なのだから。

190 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:41 ID:???
「ふぅ〜〜」神楽は大きなため息をつくと、腹を決めた。「わかったよ、お前らには負けたっ!こ
うなりゃ、地獄の底までつき合ってもらうぜっ!」
「おおっ、そうこなくっちゃ〜♪」
「えへへ。これでボンクラーズ復活やな〜」
「おっ」「ああっ」
 歩の言葉に、後の二人はそれぞれ小さく歓声をあげた。
 ボンクラーズ。それは高校時代この三人が結成していた、いわば『ちよ組』の派閥内派閥。いや、
それは格好つけすぎだ。単に六人の仲良しグループの中で、学業成績が劣悪な彼女らが自虐的に自
分たちにつけたチーム名。何か有益な事を成し遂げた過去があったわけでもない。あるのは、ただ
失敗とか、コントじみたオチがつく思い出ばかり。――でも、だからこそ懐かしく、胸にこみ上げ
るものがある、その名。
「そうだっ! ボンクラーズだ!」智が右手を高々と突き上げる。
「おおっ! 懐かしいぜ。ボンクラーズ!」神楽もそれに続いた。
「ボンクラーズは永遠に不滅や〜」春日歩が丸い笑みを添える。
「ビシッっと決めるかっ」「おおっ」「お〜」
「「「ボンクラーズの名にかけてっ!」」」
 最後に、三人の声が綺麗に揃った。


 ――彼女らが歓声を上げる教室の外。
 廊下の床に一本の樹脂製の筒が転がっていた。工学部の学生には必需品といっていいアイテムだ。
中には丸めた数枚の図面が入っていた。持ち主が徹夜で仕上げた課題である。だが彼はつい先ほど、
その努力が報われることもなしに、唐突な人生の終わりを迎えていたのだ。黄金の鋏を持つモンス
ターの餌食となって。
 神楽が聞いた音は、空耳ではなかったのだ・・・・・・!
                                                         (続く)

191 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/08/31(日) 17:52 ID:???
 と、いうわけで第十一話でした。

 榊と神楽の初戦、やや肩すかしな展開で申し訳ありません。まぁ今後も何かと絡む予定の二人で
すので、最初はこの程度でご勘弁を。
 また、北岡が手塚との会話で、タイガの正体が神楽かと問うのを唐突だと感じたられた方は第四
話をご参照ください。見舞いに来た神楽のポケットにデッキらしき物体を見て、疑いを抱く場面が
ありますので。

 ところで、モンスターの鳴き声を文字で表現するのって難しいですね。それぞれ違う声で鳴いて
ますし。龍騎は最後の数話しか録画してないので、ビデオ借りてきて各モンスターの鳴き声を何度
も聞きなおして文字をあてているのですが・・・・・・いまいち上手くいかないッス。

今回の話で、工学部に女子が少ないという描写がありますが、事実と違っていたらお許しを。私の
大学では実際「シラスの中にたまに入っている小タコ」程度でした。また工学部の連中は皆、図面
を入れる樹脂製の筒をいつも持ち歩いていた記憶も。
  
 ご意見ご感想、お待ちしております。
 
 では毎度おなじみの当てにならない次号予告です。
 
『仮面ライダー 神楽』
「北岡がゾルダぁ? あの緑のドンパチ野郎かっ!?」
「ただのゲームですよ。それに、現実の人間社会だってこんなもんでしょ?」
「それって、生きてる人間だって消せるってことじゃん。ね、須藤ちゃん?」
「ほんならやー、私も使わせてもらうわ。ひとでないちからを・・・・・・」

 戦わなければ、生き残れない!

192 :名無しさんちゃうねん :2003/09/01(月) 17:15 ID:???
いらだとばる ◆5jrOzGUTic キタ━━━━(゚∀゚)━━━━

193 :名無しさんちゃうねん :2003/09/01(月) 18:12 ID:???
やっとキター!! つづきが気になって 気になって、昨日まで夜しか眠れませんでした。
北岡弁護士なんて全然でてこないから、もしかして死んだの? なんて思ってたり。
それからなんか替え歌支援アリみたいなんで作りマスタ。 数年前に結成された某バンドのちょっと昔の詩でどうぞ。

【 「隠行」 について本気出して考えてみた 】
歌:ボンクラフィティー


僕がかつて一話のころ イメージした壮大な ライダープランからは多少見劣りはする
案外獣らしい攻撃的なこれまでだ それはそれなりにそう悪くはないのさ
そのプランなら今頃は本家的SSで (鏡)世界をまたにかけていた筈なんだけれど
現実はすまし顔で グルグル爪を回す そっちがやる気ならと 好きなようにしてきたし

それとなく輝いてる鏡のそこかしこに 敵がいて次々とあふれる殺意を爪に

「隠行」 について本気出してかまされてみたら いつでも同じところに逝き着くのさ
キミも 「隠行」 について考えてみてよ あとでライダーバトルしよう 少しは勝てるかな


敵わない事 倒せる事 繰り返して結局 トータルで半分になるってよく聞くじゃない?
そんな寂しいこと言うなよ ってカンジだ どうにか勝ち越してみたい 密かに全勝狙い

神楽だって卑怯にライダーを頑張ってる ときどきはその 「卑怯」 さえも褒めて欲しい

「隠行」 について本気出して考えてみたら 意外に楽はないんだと気がついた
僕は 「隠行」 に対して失礼だったみたい もう一度ていねいに隠れて 
飛び出て ファイナルベント

がっかりしたかい高校の僕 龍騎にはなれなかった ただ僕は大好きなトラ吉のカードを手に入れた

「隠行」 について爪をだして考えてみたら いつでも同じこころに行きつくのさ
キミも 「隠行」 について考えてみてよ 悟の姿浮かんでる? いつまでも消えないように

194 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/09/02(火) 22:31 ID:???
>192
はい、来ました(w 毎月一回アップにギリギリセーフ・・・・・・(^_^;)
>193
替え歌支援、ごっつあんです♪ しかも、SSアップした翌日に早くも!
マジ、嬉しいッス! 続きを書くモチベーション爆発上昇ッス♪

Porno Graffittiの『幸せについて本気出して考えてみた』ですな、元歌は?
思わず、CD買って来ちゃったよーん。同曲が収録されてる『雲をも掴む民』て奴。
元歌をBGMに【 「隠行」 について本気出して考えてみた 】の歌詞を堪能。
上手いッスね、歌詞の変換の仕方が。センスいいッス。
あと余談ですが、この『雲をも掴む民』ってアルバムに収録されてた他の曲も何かと
イマジネーションを掻きたてる歌詞が多くて、今後の展開へのアイデアGetできますた。

感謝〜〜〜〜〜!!!

195 :名無しさんちゃうねん :2003/09/03(水) 13:36 ID:???
知らぬ間に新作も替え歌もキテタ─wwヘ√レvv〜(゚∀゚)─wwヘ√レvv〜─ !!
あとでゆっくり読もう。

196 :特命リサーチ :2003/09/06(土) 20:13 ID:???
我々特命リサーチ捜査陣は、東京都における行方不明事件及びライダー死亡者数について検証した。
東京都の人口が約一千万、 近接した県から仕事で来る者も多いので、昼間東京にいる人間は
その何倍にもなる。 対してモンスターによる行方不明者数はせいぜい数十人どまり。
危険な目に遭う確率は少なくても1/5000000ほどといえる。 しかし、これがライダーになってしまうと、
週一のペースで命がけの戦いをやらされるわ、問答無用で襲い掛かってくるライバルがいるわで
命を落とす確率は単純計算で考えても12/13と一気に跳ね上がる。 しかもシードで待ち構えている
オーディンがデッキ製作者ならではの反則的強さで殴りかかってくるため、 「万に一つも勝ち目は無い。(神崎士郎)」

ならば榊がライダーにされた理由とはなんなのか。 作中でかおりんに問いただされた神崎は
榊本人の自己防衛のためだといいわけをしていたが、それが真の理由で無いのは上の統計からも明らかである。

ここでデッキ創造主こと神崎士郎が、最近やけに多い重度のシスコン兄貴であることに注目して欲しい。 なにしろ
「俺はお前のためだけに生きている」という臭いセリフを、二十歳になる実の妹に向け真顔で連発するくらいだ。
その妹があろうことか女性に心奪われストーカーに成り下がった挙句、あまつさえ情緒不安定に陥ったその女性を
自宅に引き入れ同居にまで踏み込んでいる始末。 シスコン界代表の神崎は、かおりんをこんな状態に追いやった
(でもかおりん本人はとっても幸せ)榊に対し、大きな怒りとマグマのような嫉妬をメラメラと燃やしつづけているに違いない。
ちなみに彼のこういった感情は、本家龍騎において彼の分身・オーディンに秋山蓮がよくタコ殴りにされていたことからも裏付けられる。

197 :特命リサーチ :2003/09/06(土) 20:14 ID:???
魔物たちを従える神崎にとって、人間一人葬ることくらいたやすいのだが、その対象が榊となると
話はかわってくる。 なにしろ知ってのとおり神崎士郎は極度のシスコンで、「いもうととケンカしたから」という
理由だけで時空さえ捻じ曲げ、一話かけて言い争いが起こる前まで時間を巻き戻し、カニライダーに二度目の死を
味あわせながら、昔両親に虐待を受けていた頃に兄妹で描いた絵を見つつ(・∀・)ニヤニヤしているほどだ。
加えてかおりんにはモンスターが見えてしまうため、 もし最愛の人・榊に魔物をけしかけようものなら例の認識音で
あっさりとバレてしまう。 そうなったらもう、お兄ちゃんとしての株ガタ落ちにとどまらず、かおりんの場合下手すると
後追い自殺をはかりかねない。 神崎本人は、かおりんの為を思ってやったことなのに、これでは本末転倒ではないか。
そこで神崎は、モンスター奇襲作戦よりもさらに確実で、うまくいけば我が手でにっくき恋敵をタコ殴りの刑に処せるという
仮面ライダー勧誘作戦へとうつったわけだ。 じつにまったく、 「神崎士郎も人が悪いね。 (北岡周一)」

数々の行方不明事件に恋敵の抹殺指令。 シスコンも、ここまで来ると立派な犯罪である。 家族の間での
会話や信頼関係が崩れかけていると叫ばれる今日、 また逆に親しさを追及しすぎるのもいかがなものか。
勘違いした愛情を抱え、あまつさえ朝の子供番組の場において若者たちに殺し合わせるという愚行に出た神崎士郎。
今後、テレビの前で行方を見守る子供達のこころの教育のためにも、戦いをとめ、神崎の野望を阻止する立場にある
手塚氏(住所不定)や仮面ライダー神楽らに期待がかかる。            (03/09/06)


(注:尚、この記事はネタレスであって、本編仮面ライダー神楽とは一切関係ありません。 もし執筆中の
   いらだとはる氏がこれを読んで気を悪くなさったなら、編集部一同責任とって首をつりますのでご連絡ください。

さて、次回の特命リサーチでは誰もが抱える 「仮面ライダーアークってまだ生きてるの?」 という疑問について徹底追及。
とび上がる大胆な仮説、 知られざる隠された真実。 仮面に裏に隠された彼女らの素顔を、決して見逃すな!!


                                        (もちろんつづかない)

198 :いらだとばる ◆5jrOzGUTic :2003/09/08(月) 23:40 ID:???
支援の新ネタキター! グッドアイデアっす。
とても面白かったですし、自作を他者の目から分析されることは、いろいろと勉強にもなるのでつ。
マジで感謝っす。
とても嬉しいんで、特命リサーチ編集部(w へお手紙書いちゃうぞ♪

φ(..)エエト φ(..)ナンテカコウカナ φ(..)ヨシ、コレデイコウ。ハイケイ…

 拝啓 初秋の候 貴社ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 この度は拙作『仮面ライダー神楽』をテーマとして取り上げていただき、まことにありがとうご
ざいました。
 さて、拝見させていただきました内容につきましては、当方、ただ感嘆するのみの素晴らしさで
した。精緻なデーターを基にした的確な分析には畏れ入るばかりです。おそらく『神崎士郎が榊を
ライダーにした本当の理由』に関しても、既に見抜いておられることでしょう。にも関わらず、ネ
タバレになるのを考慮してか、あえて今回の放映では触れるのを避けていただきましたご配慮に深
く感謝いたします次第です。
 末尾ながら貴社及び特命リサーチ編集部様の一層のご発展をお祈り申し上げます。
 まずは上、お礼まで。
                                                          敬具
φ(..)ヨシ φ(..)サテト φ(..)ポストニイレテクルカ…


 つづかない、なんて言わないで、ぜひ他の皆様のSSもリサーチキボンヌでつ。

199 :名無しさんちゃうねん :2003/09/09(火) 21:42 ID:???
つまりその記事によると
かおりん→(狂気の愛)→榊さん
お兄さん→(燃え上がる嫉妬)→榊さん
そして 榊さん→(愛情)→マヤー が成り立つわけだから愛と憎しみの2次方程式により

お兄さん→(榊へのせめてもの報復)→(ゴムボール転がしin公園)→マヤー事故 となるわけだ。 

マヤーを殺し、榊さんを追い詰めた犯人は神崎士郎だったのか!?


ところで関係ないけど、ライバルが榊さんで、ラスボスが神崎士郎。 物語の鍵を握るのが神崎
かおりで、ついでに主役は神楽。 メインメンバーの名前が 「神」 のつく人ばかりでややこしいな(w

200 :◆5KxPTaKino :2003/09/10(水) 02:00 ID:???
200(σ・∀・)σゲッツ

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