世の中のすべての萌えるを。

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スレッドが大きすぎます。残念ながらこれ以上は書き込めません。

【あずまんが】SS書きの控え室5

1 :◆.B5vIcoKkk :2004/07/29(木) 06:25 ID:???
 ストーリーの構成、キャラの造り方、言葉の使い方など、あずまんがのSSや
小ネタを作成する上で困ったことや、悩んでいること、工夫していること等を話し合う
スレです。
 また〜り楽しんでいただければ幸いです。
 ここで新作をUPすることも可です。

★主な注意事項
1. sage進行でお願いします。
2. 対象範囲は「あずまんが大王」及び、連載中の「よつばと」とします。
3. 他人の作品を善意であっても批評しないでください。(自分の悪いところを
教えてくださいというのは可です。)
※その他の注意事項は、>>2以降で記載します。

7 :華氏903 :2004/08/02(月) 12:07 ID:???
「その音、めちゃめちゃいややなあ」
脇を並んで歩いていた春日が、不意にそんな事を言った。俺はいったい何の事を
言っているのかと不審げな顔で春日を見かえしたのだが、彼女の表情には少しも
冗談くささが無かった。
「え?」
「そのダウンパーカーの音や」
春日はつらそうにそう言った。俺はまだ何の事なのか良く解らないまま、
「そうか?」と軽く答えた。
しばらくはふたりとも黙ったまま歩き続けた。映画へ行く途中だった。
大学の近くの喫茶店で待ち合わせをし、店を出て歩き出したとたんに
春日がそんな妙なことを言ったのだ。俺は春日の言葉を心の中で
訝(いぶか)りつづけたまま、歩いた。

十二月の、かなり寒い日だった。
俺は濃いカーキ色のダウンパーカーを着ていた。春日はこのダウンパーカーの
音を嫌だと言ったのだ。確かに耳を澄ますと小さな音を立てている。
身体を―――特に腕を動かす拍子に生地と生地がこすれ合わさって立てる音だ。
大して変わった音ではない。いったいこの音のどこが嫌なのだろうか。
それとも単なる冗談なのだろうか。

8 :華氏903 :2004/08/02(月) 12:14 ID:???
「ほんまにいやな音やで、それ。」
「どうして?どこが嫌なんだ?」
「だからその音や。ものすご嫌なんや。なんかこう…黒板を爪で
ひっかいたような。あれと似たような感じや。」

黒板に爪を立てる音?
そんな響きはひとつもない。聞き流して当然の、いや、聞くことすらできないほどの
微少な音だ。
「そうか?お前が言うほど、嫌な音には聞こえないけど…」
春日は俺の返事を聞くと、両掌を耳に当てた。
「ほんまに嫌なんよ」

9 :華氏903 :2004/08/02(月) 12:25 ID:???
そのダウンパーカーは、杉並という友人から譲り受けたものだった。
まだかなり肌寒かったから、三月の上旬だったと思う。杉並はふらりと
俺の部屋を訪れ、成田まで自分を見送ってくれと突然俺に頼んだのだった。
「成田って?何処か行くのか」
「ああ…」
心なしか、杉並の表情は暗かった。
「ヨーロッパへ行ってくる」
「え?」
俺は驚きながらも眉をひそめた。杉並の口調が冗談のようであったせいもあるが、
それよりもその不安げな様子に疑問を抱いたのだ。
「いつ?」
「明日の朝一番の便だ。今夜は泊めてくれよな…」
「そりゃいいけど…」
俺は答えながら、なんだか妙な気分だった。そのときの杉並には、旅立ちへの
輝くような興奮も期待も感じられなかった。
「しかし何でまた急に…」
俺は少し遠慮がちに尋ねた。「馬鹿、冗談だ」という杉並の返答を半分期待もしていた。

10 :華氏903 :2004/08/02(月) 12:33 ID:???
しかし杉並は、しばらく口篭(くちご)もってから、
「いや…別に理由なんか無いが。以前から遠くへ行きたいって、言ってただろ」
「そうか…でも…」
俺は改めて杉並の様子をうかがった。しかしどう見ても念願の海外旅行を明日
に控えた男には見えない。
「荷物は?それだけかよ」
杉並は小さなスポーツバッグをひとつ、持ってきているだけだった。
「ああ、身軽なほうがいいのだ。金さえ持っていればな」
杉並は短く微笑んだ。しかし力の無い、嫌な微笑だった。俺はますます不審に
思い、同時に不安にもなって尋ねた。
「お前、なんか変だぞ」
「そうか?」
「何かあったのか?」
「別に…」
杉並の横顔に一瞬影がさした。俺は杉並が何か隠している、と直感したが、
結局問い詰めることはできなかった。

11 :華氏903 :2004/08/02(月) 17:06 ID:???
俺は床に就いてからも、杉並にいろいろ尋ねたい気持ちで一杯だったのだが、
間もなく杉並の寝息が聞こえ始め、それに誘われるように寝入ってしまった…。
そして次の朝、俺が起きると、杉並の姿はどこにも無かった。時計を見るともう十時だった。
杉並の寝ていた枕元に、細かい字で書かれたメモが一枚置いてあった。

『あまりにも良く眠っているのでこのまま旅立つことにする。見送りの無い旅立ちも
また一興だ。昨夜は俺の様子がおかしいなどと言っていたが、別に対したことでは無い
のだ。

どうせ解ってしまうことだから今の内に言っておくが、実はアパートを引き払って
しまった。家財道具も全部売った。その金とバイトの金を旅の費用に当てたわけだ。
親元にも知らせていない。引き止められそうだったからだ。何しろいつ帰国できるか解らないのだからな…

無謀だと思う。その不安が昨夜の俺をあんな表情にしたのだ。心配かけて済まなかった

旅立ちに向けて何か気障(キザ)な台詞でも残そうと思ったのだが、どうもそうはいかなかった
ようだ。無骨な文章になって済まない。
わびの印にダウンパーカーを置いていく。温かいギリシャに行く俺にとっては
必要無いものだ。せいぜい愛用してくれ』

12 :華氏903 :2004/08/02(月) 17:18 ID:???
そしてその日から四日後に、アテネで記録的な大地震があった。杉並からの手紙は
いつまで待っても来なかった。新聞によると、日本人の死者は無し、という事だったが、
杉並は消息を絶ってしまった。

すでに映画は始まっていた。館内は暖房が効いていたので、俺はダウンパーカーを
脱いだ。
「なあ…」
しばらくして、春日に尋ねた。
「これ…そんなに嫌な音か?」
春日は強くうなずいて見せた。たしかに、上映中も俺がちょっとした音をたてると、
隣や前にいる者たちも俺のほうを見るのだ。
映画が終わり、ロビーへ出ると、春日は
「どうや、やっぱりみんな嫌な音やとおもとるみたいやろ?」
と得意げに言った。
春日はダウンパーカーの生地に指先で触れた。不思議そうな顔をする。
「なんか変やな…気のせいかなぁ?」
「何が?」
「いや、やっぱ気のせいや」

13 :華氏903 :2004/08/02(月) 17:27 ID:???
俺は疲れてしまった。
「なあ、俺、帰るよ…」
春日は気の毒に思ったのか、引き止めてくれた。だが、俺は映画館を出た。
「あ、春日!」
そして俺は春日に尋ねた。
「お前、三月ごろに杉並と会わなかったか?」
「杉並くん?」
「ああ、三月頃さ」
「えっと…三月頃言うたら、杉並くんがおらんようになる前やな。
うーん…会わんかったと思うけど」
「…」
「朝倉くん?」
「ん?」
「どうかしたんか?」
「いや、別に。ちょっと思い出したからさ」

俺は早足にその場を離れた。このダウンパーカーにはなにかいわくがあるのか?
杉並は何でこれを俺に残した?
俺は歩きながらいろいろ考えた。
だが、結局何もわからなかった。

          世にも奇妙なあずまんが 終

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