世の中のすべての萌えるを。

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スレッドが大きすぎます。残念ながらこれ以上は書き込めません。

【あずまんが】SS書きの控え室6

1 :◆5xcwYYpqtk :2005/02/03(木) 23:43 ID:???
 ストーリーの構成、キャラの造り方、言葉の使い方など、あずまんがのSSや
小ネタを作成する上で困ったことや、悩んでいること、工夫していること等を話し合う
スレです。
 また〜り楽しんでいただければ幸いです。
 ここで新作をUPすることも可です。

★主な注意事項
1. sage進行でお願いします。
2. 対象範囲は「あずまんが大王」及び、連載中の「よつばと」とします。
3. 他人の作品を善意であっても批評しないでください。(自分の悪いところを
教えてくださいというのは可です。)
※その他の注意事項は、>>2以降で記載します。

176 :大山の一日1(全部で13レスあります) :2005/03/01(火) 23:29 ID:???
僕には言うべきことがあった。
「男女七歳にして席を同じゅうせずっていう言葉がある。
礼記っていう書物に載っているんだけど、これはまさに言い得て妙だと思う。
だいたい男と女がいて、男の方が人数が多いのならばまだしも、女のほうが多い状態なんて
男にとって目も当てられないことになるのは、誰から見たって明らかだ。
女は何々君ってかっこいいわよねえ、あっでも誰々君もそこそこ………、
なんて、男なら絶対に女性の前ではできない話を教室でごく自然にやってのける。
もちろんそこにいた男は場違いな所にいる気分で出て行かざるを得なくなるんだ。
もてない男の気持ちなんてこれっぽっちも考えてくれない。
そもそも女性という人種は煩い。女と三回書いて姦しい、なんて言葉があるくらいだ。
古代から煩かったに違いない。古文の木村先生は「嬲」という字は女性軽視の字だ、と
言っていたけど、じゃあ「嫐」という字は男性軽視にならないのだろうか?
個人的には、「嫐」のような状態の方が、より悲劇的な気がするんだけどなあ。
木村先生はいい先生だけど、近視眼的なフェミニストの所だけはいただけない。
女は弱いというけれど、それも明らかに偏見だ。
クレオパトラや卑弥呼など、古代には女性で強力な王だっていたじゃないか。
いや、現在だってイギリスは女王のはずだ。
それに、妲己や楊貴妃を見ても判るように、女は男を意のままに操ってしまうことがある。
女の武器って奴だ。そういえば、男の武器なんて聞いたこともないぞ。
以上から、やっぱり女は強い。それに平均寿命も長いし。
女性的っていう言葉は、おしとやかという意味だけど、
それは人類最大級の意味のとり間違えだと、僕は思う。
とにかく、男女が一緒に勉強するというのは、間違ってるんだ」

177 :大山の一日2 :2005/03/01(火) 23:30 ID:???
「………で、それが中間テストのトップを取り損ねた言い訳か?
 何をいまさら。言い訳にもなってない。情けなくって涙がでるね」
一緒に登校していた後藤は大きく欠伸をしながら言った。
それをみると、こちらはくしゃみがしたくなってくる。
「なんていうか、アホとしかいいようがないよな。だいたい男女の差でテストの点が
変わるかって。お前のほうがよっぽど近視眼的で短絡的だ」
ほぼ予想通りの答えだ。
こいつは木村先生の影響を受けた極度のフェミニストで、自分をいかに
目立たなくさせるか、ということしか考えていないような男なのだ。
「そもそもお前、ちよちゃんに勝とうとすること自体、無謀だっつーの。
 あの子は天才なんだからさ」
「天才だって?ちょっと脳に血が多く通ってるだけじゃないか。
 ああいうタイプは大きくなったら伸び悩むんだよ」
ちよちゃんとは、美浜ちよといって、入学式のすぐ後に転入してきた十歳の女の子だ。
その歳で高校に入学できるほど頭がいいときた。全く、世の中どっか狂ってきている。
「だいたい僕もちょっと油断したんだ。あの時………」
「はいはい。ちよちゃんが来るまで学年トップだったお前にとっちゃあ、悔しいだろうさ」
後藤は僕が喋ってるのに、それを笑い飛ばした。これだからこの男とはやってられない。
「それに比べて俺の潔いことといったらないね。
高校に入ったとたん成績が落ちていったって、全然気にしてないんだから」
「それを開き直りという。まあ、どっかのアホの変な山勘に惑わされるだけのことはあるな」
僕はそう言ってくしゃみをした。
今日はポケットティッシュを少ししか持って来てないから、気をつけないと。
後藤はむっとしたように、
「お前も騙されてたじゃねえか」
「騙された具合が違う。君は僕とは違って滝野の言うことを鵜呑みにしただろう?
 僕は最後の見直しの参考にしただけだ。ちゃんと勉強してたから」
「は、さいですか、この秀才。それでちよちゃんに負けたんだもんな。何が油断したー、だよ」
雲行きが怪しくなってきた。本当に口だけは達者な男だ。
それに英語に限っていえば、時々僕に迫る点をとる。
だけどそれもアメリカに旅行に行くから、とかいう理由で勉強しているにすぎないので、
二学期になれば本格的に落ちこぼれていくんだろう。
これ以上勉強の話は不毛だと判断し、僕は話題を変更することにした。

178 :大山の一日3 :2005/03/01(火) 23:31 ID:???
今日は家を出るのが早かったので、学校についたときは時間に随分余裕があった。
一階にあるこの教室には、まだかおりと美浜の二人しかいない。
後藤がトイレに行ってしまい時間を持て余した僕は、
自分の席でボーっとしているかおりに話しかけた。
「早いね」
「おはよう。………何か用?」
かおりは明らかに不機嫌そうな口調で返事をしてきた。
昨日、天文部の観測で遅かったので寝不足なんだろうが、いくらなんでもつっけんどんすぎる。
僕だって話しかけたくて話している訳ではない。
「昨日言ってた、春の大曲線の写真が載ってる本、後で部室に置いとくから」
「あっ、ごめん。そうね、ちゃんと見ておかないと。ありがとう」
彼女はクラブの話をすると急に友好的になる。
別にとくに熱心という訳でもないので(事実、シリウス、プロキオン、ペテルギウスを
春の大三角だと信じていたくらいだ)、これはちょっとした謎ではある。
もしかしたらクラブ以外では男と話したくないのかもしれない。
ちなみに部室とは、一階の科学実験室の隣にある実験準備室のことだ。
僕が自分の席に戻ると同時に、榊が音も無く入ってきた。
いや、入ってきたのには気が付かなかったが、かおりの、
「お、おはようございます、榊さん!」
という声がしたのだ。この女は榊に心を奪われているらしい。
「ああ、やっぱり榊さんは素敵………」
なんて呟いて、榊を宝塚女優かなんかと勘違いしている。変態め。
確かに榊は背が高いし、そこそこ美人だけど、なんであんなに夢中になるのだろうか。
僕にしてみれば、あんな無口で何を考えているのか判らない女より、
ちょっとくらい馬鹿でも元気で明るい女のほうがいいと思うんだがな。
戻ってきた後藤とそんな事を喋っているうちに人が増え、ベルがなった。
「おひゃー」
意味不明な挨拶で教室に駆け込んできたのは、校内一やかましい滝野智だ。
テスト前の山勘予報を外し、クラス全員を敵にまわした豪胆の持ち主でもある。
「ぎりぎりセーフ。間に合ったー!」
なんていっているけど、ベルの後に入ってきているから担任がいたらアウトにされていただろう。
「馬鹿で元気で明るいってーと、ああいうのが好みなのか?」
後藤が滝野を親指で指しながらまた馬鹿げたことを言う。
「何度でも言うけど、僕は馬鹿な女が好きなわけじゃない。だいたい、
おひゃー、なんて変に流行に乗り損ねたみたいな挨拶してる奴には関わりたくないね」
「じゃあ、水原さんとかは?結構いい線いってるんじゃね?」
眼鏡の水原暦(なんていって、実は僕も眼鏡なんだけど)には一回、
僕の渾身のギャグを無視されたことがあった。
「別に好みじゃない。やめよう、面白くもない話だ」
実際、僕はちょっと不機嫌になってしまった。

179 :大山の一日4 :2005/03/01(火) 23:32 ID:???
午前の授業が終わり昼休みになると、僕は部室に行って、
かおりに貸す天文の本を置いてきた。
クラブの時に渡してもよかったんだけど、忘れたら困る。
ところでこの部室、放課後はクラブで使う時以外は締め切ってしまう。
それなのになんで教室で直接渡さないかというと、一度滝野に、
「あっ、大山。かおりんにラブレター渡してる?なにそれ、ひゅーひゅー!
 あっついねー!みなさーん、聞いて。大山がさ………」
なんて叫ばれたからだ。
おかげで担任の谷崎先生には色男扱いされるわ、かおりには何故かほっぺたをぶたれるわ、
美浜には、
「みなさん。大山さんの、その、じゅ、純情な気持ちをからかってはいけません!」
なんて、フォローにならないフォローをされるわで大変だった。
こんなときも男は不利なんだ。なんで僕ばっかりこんなに言われなきゃならない?
もともとクールなイメージを保持していた僕にとってこれは致命的なダメージだった。
「なーにがクールだ、この色男め。お前の印象は最初っからずっとへたれだったよ」
勝手についてきた後藤はまた勝手なことを言っている。
よっぽど閻魔大王に舌を引っこ抜いてもらいたいんだろう。
こんな奴ほっときゃいいんだけど、ちゃんと答えてやるのが僕の長所だ。ちょっと腹も立ったし。
「また思いこみと妄想か?だいたい全く目立たなくて、印象ゼロの君にいわれたくないね。
 そもそも、へたれというのは君自身のことだろう?
自分の性格を僕に無理矢理当てはめることでしか心の均衡を保てないのか?」
ここまで言えば、いくら現代ののびろべえと呼ばれる後藤でも
自分の嘘を認めるだろうと思っていたのに、この男ときたら涼しい顔で、
「そうやってむきになるあたりがへたれなんだ。さらに子供っぽい。
 お前がクールなら榊さんはフリーズだ」
なんて訳の判らないことを言っている。
相手をしてやってもいいんだけど、ここで後藤を言い負かすのもかわいそうだと思い、
僕は黙った。後藤はそれでも喋り続けている。
「だいたいラブレターを渡したって勘違いされるような男がクールな訳がねえよな」
「………」
「まあ、今ならお前は変質的な女嫌いとして有名になってるから、間違われることもないけどな」
「………」
「それに、あの本はB5だろ?前のと違ってラブレターに間違われることなんてないって」
「駄目だね。本をプレゼントしたとか、凄く長いラブレターをファイルしたとか
言われるのが関の山だ。」
僕がついに口を開くと、後藤はしてやったり、という顔でにやりと笑った。
なんだかくやしい。

180 :大山の一日5 :2005/03/01(火) 23:34 ID:???
「きゃー!」
なにに驚いたって、僕はその凄い叫び声に驚いた。
午後の英語のひとときという、一日で一番意識が朦朧としている時間に
そんなふうに叫ばれたんだから、僕は一瞬死んだおばあさんが語りかけてきたと
思ってしまった。もちろんその直後の、
「うわ、ゴキブリだ」
という声で我に返ったけど。
なんだゴキブリか、と一気に醒めた僕とは裏腹にクラスは大パニックになった。
「ちょっと、誰か殺しなさい!」
なんて物騒なことを担任がいえば、
「よっしゃー、まかせろ!」
と滝野が乗ってくる。まかせろって、あんな小さな虫ほっとけばいいじゃないか。
殺すなんて残酷なことをよく実行に移そうと考えるものだ。
クラス中が大騒ぎになって、普段どおりの態でいるのは榊と春日歩くらいだ。
榊はともかく、春日は以外だった。
真っ先にうろたえそうなイメージを持っていたのに。
緊急時のときは人間の本質が見えて、全く面白い。
やがてスパーン、と心地よい音がして、ゴキブリは天に召された。
やれやれ、やっと授業再開だ、アーメン。
「あの、もう大丈夫ですから、机から降りたらどうですか?」
見下ろすと、美浜が哀れむような目でこちらを眺めている。
僕は咳払いをして机から降り、上履きを履いた。
ここでクラスのみんなを観察していた、なんて言ってみてもいいのだが、
言い訳がましくなると思い、やめた。我ながら謙虚な男だ。
「そういやさ、最初の凄い悲鳴、誰のだ?」
話しかけられたが、その内容は僕には全く興味のないものだったので、
「さあ、誰だろう」
と答えておいた。
僕か、榊か、春日以外の誰かだろう。
僕を驚かせた罪は重いが、ゴキブリを恐れる気持ちは充分に分かるので、帳消しだ。
くしゃみをしながらそう考えていたんだけれども、
「はいはーい、授業始めるわよー。もうテスト一週間前なんだからね」
谷崎先生がそういった途端、僕は体に電撃が走るのを感じた。
もちろん実際に感電したとか、そう感じるほどの打撃をうけたわけじゃない。
テスト一週間前。そう、この言葉が僕のこころに響いた。
クラブがなくなり、誰もが勉強に集中するこの一週間。すっかり忘れていた。
クラブのせいで美浜に遅れている分を、ここで取り返すのだ。
僕は思わず熱くなった。次は絶対に学年トップをこの手に………。
授業は聞いてなかったのかって?
大丈夫、教壇では担任と滝野がゴキブリの後始末をめぐって格闘していて授業は中断してたんだ。

181 :大山の一日6 :2005/03/01(火) 23:35 ID:???
今日最後の授業は体育だった。
休み時間が十分しかないので、みんな大慌てで更衣室に走っていく。
着替えた後、僕が急いで用を足しに行っていたら教室には誰もいなくなってしまっていた。
春日さえいない。これは遅刻の予感がする。
ふと、誰かの机の上にティッシュペーパーの箱が置かれてあるのに気が付いた。
変な物を持ち込む奴がいるものだ、と思ったけど、時間が迫っていたので、
それ以上は考えずにさっさと準備をして運動場にむかった。
今日はクラス合同ではないので、男女とも一緒の場所でやる。
もちろん場所が一緒なだけで、男女で対戦プレーとか、協力プレーをするわけじゃない。
体育の黒沢先生は、男子のところにきて、
「男子は今日はグラウンドを走ってね。トイレ等に行きたかったらちゃんと私に言うこと。
さぼったらだめよ。チャイムが鳴ったら集合をかけます」
などと言いたい放題言って、女子の方に戻ってしまった。
女子は運動場の奥のコートでバレーボールをするらしい。
男子がマラソンで女子はバレーボール。
この差に男たちは憤慨するかと思いきや、みんな準備体操をしながら、
「よっしゃ、今日は女子を見放題だ!」
なんて言ってにやけている。とくに後藤なんて、
「ブルマっていいよな、やっぱり」
とかなんとか呟きながら鼻の下を伸ばしていた。
ほんと、この学校の男はどっか間違ってるよ。
「おいおいなんだよ、大山は女子を見ないってのかよ」
僕の冷たい視線に気付いたのか、後藤がそう言って因縁をつけてきた。
「いや、見るよ。ずっと走ってるのは退屈だし」
「じゃあ、俺らと同じじゃねーか」
「違うね。少なくとも君みたいに卑猥な心は持っていない」
「はいはい。口じゃあどうとでも言えるわな。せいぜい女の子を観賞してくれや」
もちろん言われなくたってそのつもりだ。
ただ走っているだけじゃ、僕のニューロンたちが退屈してしまう。
こういうときにクラスメイトの人間観察をすることも大切なんだ。
「もうお前の屁理屈はいいよ、走ろうか」
「そうだな」
僕は鼻をかむと、ゆっくり走り出した。

182 :大山の一日7 :2005/03/01(火) 23:35 ID:???
女子たちは六人ずつのチームに分かれてバレーボールの試合をしていた。
女子の試合なので全体的にもっさりとした動きで、あんまり面白味がなかったけど、
それでも凄い奴は凄い動きをする。特筆すべきは、榊の動きだ。
サービスもトスもスパイクも全てにおいて他の人間を凌駕している。
あれは初心者の動きじゃない。
「おい後藤、見たか?榊のあの動き。あいつ、あんなに運動できたんだ。なにやってんのかな?」
「榊さんはクラブには入ってない。色んな所から誘われてるんだけど、
全部断ってるらしい。格好いいよなあ」
そういえば、天文部に誘ったけど駄目だったってかおりがクラブで言ってたっけ。
そのかおりは春日とバックの方でお喋りしている。全くやる気がないらしい。
少しして、横を走っている後藤が話しかけてきた。
「そういやさ、大阪さんはなんで一人称に『うち』って使わないんだろ」
大阪というのは春日の愛称だ。
大阪から転校してきたからっていうのがその理由なんだけど、これは安直にも程があると思う。
後に大坂さんという人が転入してきたらどうするんだろう。先の事を全く考えていない。
それはともかく、今は後藤の話だ。
「大阪人は自分のことを『うち』って言うのか?」
「そうだ。『じゃりんこちえ』ではそうだった」
「………本人に聞いてみたら?」
僕はコートに目を戻して言った。馬鹿の相手は疲れる。
「行くぜー!」
コートでは滝野がサーブしようとしていた。こいつは運動できそうなイメージがある。
実際どうなんだろう。後藤に聞いてみると、
「できない。無駄に元気なだけだ」
後藤の言っていた通り、滝野は思いっきりサーブをミスし、
自分のチームにいる美浜の後頭部にぶちあてていた。
この男はなんでそんなに女子の事情に詳しいんだろう。一度ソースを聞いてみたいところだ。
「大丈夫?ちよちゃん」
水原が美浜に駆けよってきた。
「そこ、どうしたの?」
黒沢先生もよってくる。
「ちよちゃん、頭打ったみたいで、一応保健室連れて行っていいですか?」
なんだか大惨事の予感がする。
「水原さんのああいう優しいところもいいよな」
僕は後藤の頭を小突いてやった。

183 :大山の一日8 :2005/03/01(火) 23:36 ID:???
美浜は滝野に連れられて保健室に行ってしまった。滝野は、
「ちよちゃん、大丈夫大丈夫!」
なんて言って、なぐさめている。自分でやっておいて何を言っているんだか。
「二人も抜けたら試合ができません」
「じゃあ、ここの試合はちょっと中断しましょう」
黒沢先生がそう言うと、榊は先生に何か呟いて、校舎のほうに行ってしまった。
今の間にトイレにでも行ったんだろう。トイレは、下駄箱のすぐ側にある。
「おお、大山。あっちのチームすげーぞ。なんかもう、反則ぎりぎりだな」
後藤は別のチームの試合に熱中しだした。
でも僕にはあんなレベルの低いバレーなんて見たくもなかった。
早く滝野や榊が帰ってくればいいいのに。
祈りが通じたのか、滝野と榊はすぐに戻ってきた。滝野によれば、
「たいしたことないし、ちよちゃんもすぐ来るよ」
とのこと。やれやれ、これでまた榊のプレイが堪能できる。と思いきや、今度は春日が、
「あー、ごめん。わたしもやっぱりトイレに行っていいですか?」
なんて言い出した。そしたら、
「あ、じゃあわたしも行こうかな」
「わたしも」
と、かおりや水原までも、一緒に連れ立って校舎の方に行ってしまった。
ここでもし谷崎先生なら、
「お前ら授業受けたくないんかー!」
なんて言っただろうが、黒沢先生は、
「さっさと行ってきなさいよ、あんまり時間ないんだからね」
なんてありきたりなことしか言わなかった。
もうそろそろチャイムがなる。
結局、美浜と春日たちが一緒に戻ってきたときにちょうどチャイムがなってしまい、
僕たちはそれ以上バレーの試合を見ることはできなかった。

184 :大山の一日9 :2005/03/01(火) 23:37 ID:???
さっさと着替えをすませて教室に戻ると場は騒然としていた。
また滝野が掃除用具でもばらしたか、つっこみをくらって吹っ飛んだかしたんだろうと
思ってたら、そうじゃなかった。
「よみのティッシュの中身を盗んだ奴はだれだ〜!安物だけど薄ピンクだったんだぞ!」
「安物、は余計だ」
滝野が手に持っているのは、体育が始まる直前に僕が見たティッシュの箱だった。
あれは水原のだったのか。しかし盗んだとはまた人聞きの悪い。
「白状しないと全員かえさねーぞ」
滝野は嬉々として言う。きっとテスト一週間前だなんてこれっぽっちも頭にないに違いない。
「あの、それ、ティッシュが入ってたんですよね。一体どのくらい残っていたんですか?」
美浜が質問する、ってことは滝野たちに付き合うってことだ。よくやるよ、ほんとに。
「あと少ししかなかったよ。どっかの馬鹿がゴキブリを教科書につけてしまったからな」
水原が答えた。彼女は不機嫌そうに見えた。
「あ、そういえばとも、ティッシュ濡らして教科書をふいてたっけ。
あれ、よみのだったんだ」
かおりは帰り支度をしながら呟いた。鞄に本がなかなか入らないようだ。
「じゃあ、この箱に中身が残ってたのを見たのはいつですか?」
再び美浜の質問。
「体育の前だ。更衣室に行く前に出して、そのまま忘れてしまったんだ。
 体育が終わってわたしが一番に帰ってきた時には、もうなかった」
水原が答え、僕もしかたなく言う。
「最後に見たのは、たぶん僕だよ。着替えた後、一旦教室に戻ったときに見た。
 中身はあったと思うけど」
僕たちの答えに、美浜はにっこりとした。
「それなら、無くなったのは体育の時間中ということですね。体育の間はここには
 これないので、わたしたちのクラスの人には盗れません」
「じゃあ別のクラスの奴かー!」
滝野はそう叫んで教室を飛び出していった。
「いや、そうでもないぞ」
水原は滝野が出て行ったのを見てから言い出した。
「トイレに行く、とか言って体育をぬけて教室に行ったやつがいるかもしれない」
「男子は一人もトイレに行ったりしたやつはいなかったぞ」
長谷川が口を挟んだ。こいつはいつも男子を見ている変人なので、
言っていることには信憑性がある。美浜は苦笑いを浮かべながら頷きつつ、
「それなら女子ですか。女子でトイレに行った人は………」
「だめだー!一年のクラス全部まわったけど、途中で授業抜けたやつとかいねー!」
滝野が飛び込んできて美浜を押し倒した。

185 :大山の一日10 :2005/03/01(火) 23:38 ID:???
「と言う訳で、結局体育の時間に校舎の方に行った人はこの六人だけということになりました」
美浜が教室にいる僕以外のメンバー、滝野、榊、水原、かおり、春日の顔を見ながら言った。
みんな、後藤さえ、帰ってしまったのに僕だけ残っているのは、今日提出のプリントを
やり忘れていたからだ。
「この中に犯人がおるんやな?」
「犯人というか、ティッシュを使った人がいる確率は高いと思います
流れを、順を追って確認していきましょう」
どうでもいいけど、こっちは勉強してるんだからもうちょっと静かにしてほしいものだ。
「まず、最初に校舎の方に行ったのはわたしとともちゃんです。
みなさんご存知の通り保健室に行きました。ともちゃんはすぐ戻ったんですが、
わたしは少し休んでいました」
美浜がそういうと滝野が、はーいと手を挙げて、
「わたしが戻ろうとしたとき、榊ちゃんが運動場の方から来るのが見えたよ。
 で、一緒に戻ったんだ」
すると榊も、
「わたしも保健室から出てくるのを見た」
「榊はトイレには行かなかったのか?」
水原にそう言われると、榊は顔を赤らめて、
「うん。ちよちゃんが心配だったんだ。大丈夫だとわかったからそのまま戻った」
道理で早く戻ってきたわけだ。水原はうんうんと頷いて言った。
「その後はわたしたちだな。わたしたちは、トイレに行って、そのまま戻ろうとした時に
 ちよちゃんが出てきたから、一緒に戻ったんだ」
「あのう、三人でトイレに行ったんですよね。誰が一番早かったんですか?」
美浜は何を思ったのかそんなことを聞いた。水原は律儀に答える。
「わたしが一番だったな。その後すぐ、かおりんと大阪がほとんど同時に出てきた」
「そうですか………」
美浜は俯いてしまった。そのまま黙り込んでしまう。
「ちよちゃん、これでなんか分かるん?」
春日が聞くと美浜は顔をあげて、
「分からないです。やっぱりこれだけでは情報量が少なすぎますね」
「だな。もうティッシュのことはいいよ。早く帰って勉強しようぜ」
水原もそう言ったので、六人の女子は帰り支度をして教室から出て行ってしまった。

186 :大山の一日11 :2005/03/01(火) 23:38 ID:???
プリントを職員室に持っていったあと鞄をとりに教室に戻ると、
美浜が一人、自分の机についていた。
教科書もノートも出さずに何をしてるんだ、と思ったけど、特に話題もないので
僕はほっといて帰ろうとした。実際、テスト勉強の準備をしないとやばい。
ところが美浜は突然僕に話しかけてきた。
「あの。さっきの話、どう思いますか?」
「さっきの話?」
僕はそう返したけど、もちろんティッシュのことだろうという見当はついた。
「どうというのは、どういうこと?」
「だから、誰がよみさんのティッシュをとったのか分かりますか?」
「分からない」
僕は即答した。
「あの中にティッシュを盗った人間がいると仮定しても、特定できない。
君がいったように、情報量が少なすぎると思う」
美浜はそうですか、と呟いた。なんだか帰りづらい雰囲気だ。
もしかしたら………、僕は嫌な予感がした。
「もしかして、分かったとか?誰がティッシュを盗ったか」
美浜はピクリと体を動かした。
「そうですね」
そう言って立ち上がり、僕の側まで近づいてくる。そして、
「すみませんが、ティッシュを貸していただけませんか?」
と言った。僕はポケットからティッシュを出して、美浜に渡す。
「君が何を知りたいのか判らないけど、これは普通のポケットティッシュだ。
 ごく普通の、市販のやつだよ」
「一枚いただきますね」
美浜はそれを受け取ると、丁寧に一枚だけ紙を取り出して、天井のほうに持ち上げ、
眺めだした。すぐにその動作を終えると、僕にポケットティッシュを返した。
「何がやりたい?」
意味の分からない行動ほど僕が嫌いなものはない。ましてやこんな子供にからかわれる
ような形でこんなことをされて、僕はいらいらしてきた。
「言いたいことがあれば、はっきり言ってほしい」
「わかりました。言います」
美浜はまっすぐ僕の目を見つめて言った。
「あなたがよみさんのティッシュをとったんですね」

187 :大山の一日12 :2005/03/01(火) 23:39 ID:???
「………なんで僕だと思ったんだ?」
「あなたなんですか?」
「質問しているのは僕なんだけど」
「その可能性が、一番高いと思ったからです」
「質問を変えよう。どうしてそういう結論に至ったんだ?」
美浜はそうですね、と首を傾げた。頭の左右におまけみたいにくっついている
おさげが重力を無視するようにはねる。
「わたしは最初、さっき集まっていた人たち、榊さんたち五人のことですね、の
 誰かがいたずらしたんだと思っていました。だけど、その時の状況を考えたら
 だれも一人で教室まで行く時間はありませんでした。二人で、たとえば榊さんと
 ともちゃんが協力した、というのならありえないことはないですが、あまり
 現実的とは思えません。
さらに、わたしたち六人だけになって話し合ったとき、誰も自分がやったと
言い出さなかったので、この中にはいないと思ったんです。このくらいの
いたずらなら六人になったときに白状するでしょうから」
「それで僕だと?」
「そうです。最後に教室に入ったということと、一日中くしゃみをし続けていたことを
 考えると、あなたがやったと考えるのが妥当です」
「………証拠は?」
「さっきあなたからもらったティッシュです」
美浜は片手に持っていた一枚のティッシュをひらひらとふりながら微笑んでみせた。
「透かして見たら、薄い桃色でした。こういう着色はポケットティッシュにはありません。
 よみさんのものを畳んで空のビニールに入れたんですね」
「どうだろうね」
僕は惚けて言った。
「空のビニールに入れたのは本当だとしても、それは家で入れたもので、
水原とは何の関係もないかもしれない」
「あの、わたしは、みんながお互い疑心暗鬼になったりしないか心配なんです。
 本当にやったのなら、言ってください」
美浜は真剣な目で僕を見つめた。こういう目はずるい。思わず舌打ちしたくなった。
「わかった。じゃあ、僕の出すクイズに答えられたら本当のことを言おう」
いい考えが浮かんだ。子供っぽい考えだが、相手は子供だ。からかってやってもいいだろう。
「クイズ、ですか?」
「そう。答えてもらう問いは一つ。僕は体育の時になぜ、着替えた後いったん
教室にもどったのか?」

188 :大山の一日13 :2005/03/01(火) 23:40 ID:???
「それはもちろん、ティッシュの補給をするためです。自分のが無くなったから、
 よみさんのをとろうと思っていたんでしょう?」
「違う。そうじゃない。僕がティッシュの箱に気がついたのは教室に戻ってからだ。
 うん、言い忘れたけど、答えるチャンスは三回だ。今ので一回」
「えっずるい」
「さあ、あと二回。早くしてくれ。僕も帰って勉強がしたい」
美浜は考え込んだように斜め上を見た。
「眼鏡………。眼鏡をとりに行ったとか?」
「違う」
「じゃあ、かおりんさんに渡す本を置きにきた、とか?」
僕は愕然とした。なんでだ?
「誰だ、後藤に聞いたのか?なんでだ?」
「勘です」
美浜はほっとしたように言う。
「朝、あなたはかおりんさんに、本を貸すから部室に置く、みたいなことを言っていましたよね。
 わたしは不思議に思ったんです。今日はテスト一週間前なのにクラブがあるのかなって。
 もしかしたらテスト一週間前だということを知らないのかもしれない、と思いました。
その後、体育が終わってかおりんさんが帰る準備をしているのを見たら、かおりんさんは
なにやら大きな本を鞄に入れていたんです。それがたぶんクラブの本だと見当は
ついたんですが、いつ渡したかは分かりませんでした。
今あなたが出した問題で、もしかしてそのときにかおりんさんの机に入れたん
じゃないかなって考え付いたんです」
そう、僕は着替えたあとすぐに部室まで走って、本をとってきたんだ。
そうじゃないと部室はしまってしまうから。それにしても、なんなんだこの天才は………。
「じゃあ、大山さん。教えてください。本当のことを」
「わかったよ、僕の負けだ。明日、水原とクラスのみんなに謝る」
「そうですか。………あの、わたしも一緒に謝りましょうか」
「いい」
まったく何でこんなことでこんな騒ぎになったんだろう。
ただティッシュを少し拝借しただけじゃないか。そうだ、僕は悪くなんかない。
こんなことを騒ぎ立てたやつこそ………、
「うひゃー。教科書わすれちゃったー!」
「あ、ともちゃん」
「あ、あ、あ、あー!大山、あんた、かおりんだけでなく、ついにちよちゃんにまで
 その魔手を〜?うわー、こりゃ大変だー!よみー、大変だぞー!」
「え、え?ま、待ってともちゃん!これは誤解で、その」
僕はもう固まるしかなかった。明日には変な噂が校内中に広まるだろう。
明日はいい日でありますように、といった希望さえ、僕は持てないというのだろうか………。

おしまい

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