世の中のすべての萌えるを。

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スレッドが大きすぎます。残念ながらこれ以上は書き込めません。

あずまんがSSを発表するスレッド

1 :甘露 :2003/02/25(火) 03:20 ID:Vyn779qA
新作、力作、新人、ウェルカム。

2 :名無しさんちゃうねん :2003/02/25(火) 06:06 ID:m9n1C7oo
2ゲットやねん

3 :名無しさんちゃうねん :2003/02/25(火) 07:58 ID:???
3ゲットやねん


4 :うちゅー ◆AZUxozdw :2003/02/25(火) 10:46 ID:???
ぼん

 大阪は急にプロレスが見たくなった。
「ちよちゃん、猪木見にいこー」
「いいですよー」
 猪木は強かった。
「猪木ボンバイエ〜〜やねん」
「ボンバイエーー」

「ただいまー」
 玄関のドアを開くと同時に、カレーの匂いが大阪の鼻腔をくすぐった。
 母親が台所から顔を覗かせる。
「歩、今日の夕御飯はおつ――」
「待ってお母ちゃん。まさかお疲れーて言うんちゃう?」
「……なに言っとるねん歩、いくらなんでもそれはないねんよ」
「…………」
「…………」
「お母ちゃん、汗いっぱい出とるで」
「……鋭くなって来たんやなー」
「ふっ、私は猪木を見て感覚が高まったんや。もう無敵やで」
「そう。ところで今日は、ボンカレーやで」
「ぼん?」
「そうや、ボンカレーゴールド、甘口」
「ゴールド! 甘口! ぼん!」
 大阪はそわそわを抑えきれず、靴を脱ぎ捨てて台所にかけこむ。
 いい香りが部屋に広がっていた。
「ぼん! ぼん……ぼんばいえーごーるど!」
「うふふ、まだまだやね歩」
 後方の視線に、大阪は固まった。
「他にもあるで。ほれ、サーターアンダギーに、チャンプル」
「ちゃ、ちゃんぷるー! さーたーあんだぎー!」
「あら歩、どうして涙を流しとるんやー? ふふふ」
「な、なんで口が勝手に……」
「可愛いわね。はい、ボンカレー」
「いのきぼんばいえー!」

5 :ぼるじょわ ◆EncckFOU :2003/02/25(火) 19:40 ID:???
(・3・) エェー でもここチョー重複だC

6 :名無しさんちゃうねん :2003/03/25(火) 17:16 ID:???
age

7 :SwudF.K6 :2003/04/02(水) 07:11 ID:???
重複でもまたーり書きたいのなら良いのではと思ふ。
というわけで
――――――――――再開―――――――――――

8 :名無しさんちゃうねん :2003/04/03(木) 09:21 ID:KxSt3YcQ
「控え室」がすっかり発表専門の場になっているのは
本来の趣旨からは少し外れた流れだとも言えるわけで……
こっちを利用してもいいのではないかと言いつつ
ちょっとageてみることにする。
今後書く人がいれば、しばらくの間は遠慮せずageでいきましょう。

9 :名無しさんちゃうねん :2003/04/03(木) 10:41 ID:???
じゃ控え室をはじめいろんな板で書いたSSを、
まとめてこのスレにうp・・・っていうことでもよかですかな?

10 :SwudF.K6 :2003/04/03(木) 12:03 ID:???
>>9OKですたい。

11 :名無しさんちゃうねん :2003/04/03(木) 21:13 ID:???
>>10

らじゃ〜。

12 :ケンドロス :2003/04/04(金) 21:51 ID:???
*このSSには過激な暴力表現が含まれています。

正月―――――
いつもの6人が集まって餅つきをする事になった。場所は美浜家である。

「皆さん、準備できましたよ〜」
ちよが声をかける。その言葉通り臼と杵と餅が用意されていた。まず、歩とちよ
が初め、次に榊とよみがやった。で智と神楽の番になるのだが・・・

「普通についてたんじゃつまんねーよな。神楽あれやるか?」
「ああ、あれだな。いいぜやろーぜ。」
智と神楽が何か思いついたようだ。

「一体何を始める気だ?」
その様子を不安げにみている暦。他のメンバーも固唾を飲んだ。

「せ〜の!!ジャンケンポイ!!」
いきなりジャンケンを始める智と神楽。結果は智の勝ち。すると智は大きく
杵を神楽の頭上目掛けて振り下ろす。

「おりゃあああああああ!!」
「甘い!!」
とっさに神楽は臼を頭上に上げる。間一髪の所で杵は餅をつくにとどまった。

「今すぐやめろ〜〜〜〜〜〜〜〜!!バカ達〜〜〜〜〜!!」
「し、心臓に悪いですよぅ。」
「ダイナミックや。」
「・・・・・・・・・・・・」←驚きのあまり言葉のない榊

13 :ケンドロス :2003/04/04(金) 22:09 ID:???
しかしそんな言葉に耳を貸さずに続行する智と神楽。
今度は神楽の勝ちで神楽は杵を真横に振った。

「もらったあああああああああ!!」
「おせーよ!!」
智も臼を真横に振って防御する。一応今回も餅をついている。

「お前等ぁぁぁぁ!!いい加減にしろ〜〜〜〜〜〜!!」
暦が石を拾って二人に向かって投げる。しかし、二人はあっさりとかわしその石は
何と近くにいた榊に当たってしまった。しかも眉間・・・・・

当たりどころが悪かったのか、榊はそのまま地面に倒れた。

「わ〜榊さん、しっかりして下さい!!」
「シャレにならんで、あかんわよみちゃん。」
「わ、私もこんな事になるなんて思わなかったんだよ!!」
「おいおい榊ちゃん、大丈夫か?」
「榊ぃ!!しっかりしろぉ!!」
心配する一同。それに反して榊はすぐに起き上がった。

「あ、榊さんだいじょ・・・・ひっ!!」
ちよが驚いたのも無理はない。榊の目はいつも以上に座っていたのである。

「今、私に石当てたの誰だ!?」
ものすごく低い声で榊が言葉を発した。その迫力に言葉が出ない歩。

14 :ケンドロス :2003/04/04(金) 22:27 ID:???
同じく言葉を発する事が出来ない智と神楽。

「さ、榊!!わ、悪い!!わざとじゃないんだ!!」
暦が必死に謝る。すると榊は暦の方に歩み寄る。さすがの暦もこれまで見せた
事のない表情に戸惑いを隠せなかった。じりじりと後ずさりする暦。

「ご、ごめん!!本当にそう思ってるよ。」
しかし榊はまるで聞き入れてる様子はない。とうとう暦は端に追い詰められて
しまった。そして榊は暦の肩をガシッと掴んだ。

「あ、あ、榊・・・」
「無闇に物投げちゃダメだ。とても危ないから。な?」
一転して榊の表情は穏やかになった。いつもの優しい表情に戻ってる。

「わ、分かったよ。」
「ならいい。」
そう言うと榊は笑みを浮かべた。その瞬間、暦は緊張の糸が切れてその場に
座り込んだ。

「弥生ちゃん天使みたいや・・・」
「私でもあんな事されたら怒りますのに・・・・」
「榊ちゃんごめん。あたし等のせいで・・・」
「ごめん榊。もうこんな事しないよ。」
さすがにこたえたのか智と神楽も榊に謝った。

「うん。みんな仲良くしなきゃダメ・・・・」
頭から血を流しながら榊はニッコリ微笑んだ。

「それもそうだけど、まずお前は病院行った方がいいぞ。」
座り込んだ姿勢のまま暦は榊に言った。ある冬の日の出来事だった。END

15 :ケンドロス :2003/04/04(金) 22:31 ID:???
書いた本人が言うのも何だが、何かようわからんものになってしまった。
最後の方ギャグにしたかったけど、書いてみたら感動物語(?)になってました。

16 :名無しさんちゃうねん :2003/04/05(土) 01:16 ID:???
書かせてもらってもいいでしょうかね?

17 :SwudF.K6 :2003/04/05(土) 01:47 ID:???
>>16良いかと思われる(´ー`)ノ

18 :SwudF.K6 :2003/04/05(土) 01:51 ID:???
>とっさに神楽は臼を頭上に上げる。間一髪の所で杵は餅をつくにとどまった。
殺伐しててイイ(・∀・)ね!!

>当たりどころが悪かったのか、榊はそのまま地面に倒れた。
榊さんが…イクナイ(・A・)

19 :16 :2003/04/05(土) 02:25 ID:???
じゃ、書かせていただきますよ。

 大学1年の夏休み。
榊は大学に通うため一人暮らしをしているアパートから、今では一回り成長し
たマヤーを連れて実家に帰省する途中だった。家の最寄の駅に到着した後は徒
歩で家を目指し、あともう少しで到着するところだった。歩を進めるにつれて
よく見覚えのある風景が次々と目の前に広がり、横を通り過ぎてゆく。

――あれから4ヶ月しか経っていないのに、随分懐かしく感じる。

榊はそう思った。

みんなも帰って来ているだろうか。
帰ってきていたら会えるといいな。
でも、ちよちゃんは日本と学校のスケジュールが違うから無理かも。

榊は次々と高校時代の友人たちの顔を思い浮かべる。

「智ちゃんに会ってもひっかいたりしちゃダメだぞ、マヤー」

榊は胸に抱いていたマヤーにそう言った。
しかしマヤーは、榊の言葉が聞こえていないような様子だった。両耳をしきり
にぴくぴく動かしながら、じっと前方の道の曲がり角を凝視している。

「マヤー?」

20 :16 :2003/04/05(土) 14:23 ID:???
再び榊が名前を呼ぶが、やはりマヤーは反応しない。まるで何かを警戒してい
るかのようである。
と、そのとき、曲がり角から一匹の猫が姿を現した。感情を読み取ることので
きない、鮫にも似た目をした黒猫である。それは榊のよく知る猫だった。

――かみねこ。

かみねこは傷ついていた。顔といわず体といわず、全身いたるところに噛み傷
や引っかき傷と思われる傷がついている。どこかの猫とケンカでもして体力を
使い果たしたのだろうか、まっすぐ歩くこともままならず、左の後ろ足を引き
ずり、ふらつきながらこちらへ向かってくる。前方に注意を払う余裕もないと
見え、榊たちとの距離が3メートルにまで縮まっても、かみねこは目の前の一
人と一匹の存在に気づかないまま近づいてきた。

21 :16 :2003/04/06(日) 15:08 ID:???
それを見て、おもむろにマヤーは榊の腕の中から抜け出し榊の足元に飛び降り
ると、かみねこと榊の間に立ちはだかった。それによって、ようやくかみねこ
は榊とマヤーに気づき、同時に先ほどまでの消耗振りが嘘のようにすばやく臨
戦体勢をとった。それに応じ、マヤーも背中を低くして構える。

しゃぁッ、とかみねこが牙をむいて威嚇する。
ふうぅッ、とマヤーが鋭い目つきで唸る。

二匹の間の空気がにわかに緊張した。一触即発である。
止めなければ、と榊は思った。今やり合えばかみねこの命すら危険に晒される
可能性がある。相手が傷を負っているからといって、マヤーが手加減をする保
証などない。榊は流血を覚悟で両手を差し出し、二匹の間に割って入った。

22 :16 :2003/04/10(木) 16:08 ID:???
しかし、榊の制止の手が目前に立ちふさがるより一瞬速く、マヤーはかみねこ
に向け突進を開始していた。榊の手を身を低くしてかわし、股の間をすり抜け、
まっすぐにかみねこへと飛びかかる。かみねこはマヤーのすばやい襲撃に反応
しきれないのか、敵の接近する中、威嚇の構えのまま微動だにしない。マヤー
の剥き出しにされた爪が、かみねこの顔面に襲いかかる。
しかし、その瞬間。
マヤーの爪は空を切り、かみねこの顔を切り裂くことはなかった。
マヤーは着地した後、突進の勢いを残したまま少し走ると、すぐさま振り返っ
て敵の逆襲に備えた。
すると。
かみねこは倒れていた。

23 :名無しさんちゃうねん :2003/04/14(月) 02:03 ID:???
↑・・・・・・で?

24 :16 :2003/04/14(月) 17:09 ID:???
>>23
続きは近いうちに書きますよ。でもつまらんからやめろと言うなら回線(ry

25 :名無しさんちゃうねん :2003/04/14(月) 18:40 ID:???
初めてSSを書きます。
しかも結構長編ですので、話がグダグダになる可能性があります
頑張りますので宜しくお願いします。

なお、このお話は大阪板の

あずまんがキャラを何かに当てはめるスレ
http://www.patipati.com/test/read.cgi/oosaka/036787934/

の35,69からインスピレーションを得て作成しました。
(パートとかは全然違いますが…)

ひょっとしたらキャラクター達が皆さんのイメージと違う行動を取るかも知れませんが、
その辺りはどうぞご容赦頂けますよう宜しくおながいします。

26 :ロックンロール・ネバー・ダイ(1/4) :2003/04/14(月) 18:41 ID:???
今日はとても天気がいい。
金曜日なので、今日一日学校へ行けば明日は休みだ。
ここのところ少し体調を崩していたので週末はゆっくりと休もうと思う。
「なあ、よみ〜!」
・・・とまあ、そんな甘い考えもあいつの一言で消え去ってしまう訳だが。
「何だよ、智」
私に声を掛けてきたこの子の名前は智と言う。私とは幼少時代からの腐れ縁だ。
元気が良いのはいいのだが、良すぎるのも困る。おまけに何を考えているのかが理解できん。
正直な話、私が今まで持ち堪えているのが不思議なくらいだ。
まあ、癇癪は小出しにしているからかも知れないが。
「あのさぁ、私達って何もしてないよな〜」
「お前はまだ物足りないのか」
いつもいつも何かしら騒動の火種になる割には、直ぐに飽きて次の事を起そうとする。
何かしていないと不安なのか?
例えて言うなら常に漕いでいないとこけてしまう自転車みたいなものだ。
補助輪になってくれるような男が現れでもすれば・・・そんな訳は無いか。
「だって帰宅部だろ?青春を楽しんで無いねぇ」
「そう言えばそうだな。で、何か考えているのか?」
私がそう問うと智は素っ頓狂な顔で
「え?まだ何も〜」
と答えやがった。勢いだけで物を言うのはやめろと言ったのに・・・。

27 :ロックンロール・ネバー・ダイ(2/4) :2003/04/14(月) 18:42 ID:???
昼休み。
食事を終えた私は、疲れていた事もあって机に突っ伏して寝てしまった。
だが何しろ机が硬いのと周囲が騒がしいのもあって、深い眠りに入るのは困難だったのだ。
そんな浅い眠りの中へと、私の意識は歩いて行った。

  *

私はいつものメンバーとカラオケに行っていた。
智と大阪は必死に曲を探し、榊は前で歌っている。相変わらず歌がうまい。
夜通し歌ったのだろうか?ちよちゃんはソファの上で眠っている。
「さあ、よみの番だぞ。次こそは歌ってもらうからな。」
智がマイクを突き付けてきた。
「又お前は私に歌わせて音痴だと馬鹿にする気だろう。その手には乗らんぞ。」
私が拒むと智は、さらに声のトーンを上げて私に迫ってくる。
「何だよノリ悪いな〜歌えよ〜よみ〜」
ノリだけで片付けられるお前が羨ましいよ。でも私はもう恥ずかしくて歌えない。
「う、うるさい!強要するのはマナー違反だぞ!」
「いいじゃんね〜よみ〜よみってば〜!さあ!さあ!よみ〜!」
頬にマイクをぐりぐりと押し付けられ、私は体を仰け反らせる。
「よ〜〜み〜〜」
「う…ぐ…やめろ…」

  *

28 :ロックンロール・ネバー・ダイ(3/4) :2003/04/14(月) 18:42 ID:???
「…み…よみ〜…」

「っ…歌わないぞ私は〜!」
大声を上げて立ち上がる私。
場所は教室。周囲で皆が驚いた顔でこちらを見ている。
夢か!
うわ…これこそ恥ずかしいな、等と考えながら、心を落ち着かせる為に座る。
「よみさん、大丈夫ですか?何だかすごく魘されてましたよ」
ちよちゃんが心配そうな顔で私を見上げている。
「ああ、大丈夫。それより何だ、智」
「いやぁ別によみさんは歌って頂かなくても良いのですよ。」
あいつはあの喋り方好きだな…
「で、何なんだ?」
「いやぁね、大した話じゃ無いんだけど、よみくんがぐっすり眠ってる間に、皆で話してたのよ。」
よみくんはやめろ、よみくんは。
「朝も言ったと思うけど、何かこう、青春な事をしたいわけ。」
「ああ、言っていたな。」
嫌な予感を感じながらも、話の続きを聞く事にした。
「そう言う訳で、バンドやろうぜバンド!」
何ぃぃ!軽く言ってのけやがった!

29 :ロックンロール・ネバー・ダイ(4/4) :2003/04/14(月) 18:42 ID:???
「…バンドが何か知っているのか?」
少し引き気味で私が尋ねると智はこんな返事をした。
「ぐれい!」
ハァ…
「演奏は難しいし、そもそも楽器を買う金が無いぞ。」
現実的な話を持ち出せば、如何に無謀な事を考えているかわかるだろう。
…だが、
「バイトすればいいじゃん!」
いやいや、簡単に言うなよ。
「どうせ直ぐに飽きるんだろ」
「んなこたーないっ!」
うわ…目が輝いてやがる。この高校を受験した時のあの目だ。
あいつ本気じゃないか・・・
「そもそも、どこで練習するんだ」
「音楽室を借りよう!それに…」
無茶な事を言うなぁ…
ん…?ちよちゃん?
「うちに地下室があるので、そこを使えば大丈夫ですよ!」
何だとぉーっ!
「ち、ちよちゃん、正気かぁ?」
もう何が何だか分からなくなってきた。
そうだ、榊はどうか。あまりアクティブな事は好きじゃ無さそうなんだが…
「榊…こんなバンドとか、好きじゃないよな?そうだよな?」
「昔から…ベースをやってみたかったんだ…」
やばい!完全に智のペースだッ!このままでは青春どころか、
人生まで滅茶苦茶にされそうだ!
…大阪はどうだろう!大阪は不器用だから、楽器とか駄目だろう…
「大阪、大阪はどうするんだ?」
「私〜?………私はトライアングル〜」
……もうだめぽ。
その日の夜から私は寝込んでしまい、せっかくの週末もずっと布団の中だった。
まさか、まさかこんな展開になるとは……。

<続く>

30 :名無しさんちゃうねん :2003/04/14(月) 18:44 ID:HTA1P14k
第1回は以上です。
皆様のお目汚しになったかも知れませんが、
これからも宜しくおながいします。
ご意見などありましたら何でも言ってやってくださいませ。

31 :うちゅー ◆AZUxozdw :2003/04/14(月) 20:01 ID:???
おお! いつのまにかSS作家が次々に育っている!

32 :メジロマヤー ◆lbw79m/2 :2003/04/15(火) 14:16 ID:???
>>26-29 good job!
    あずまんがバンド(?)の今後に期待!

33 :名無しさんちゃうねん :2003/04/15(火) 18:33 ID:???
「ロックンロール・ネバー・ダイ」の作者です。
第2話ができたのでうpします。

34 :ロックンロール・ネバー・ダイ2(1/4) :2003/04/15(火) 18:34 ID:???
昨日智ちゃんがあんな事を言うたので、私は今日から
楽器の練習をする事になった。
私がやりたかったトライアングルが無かったので、音楽の
時間に使てるたて笛を使う事にした。
バンドと言えば笛やと私は思う。
いわゆる「リードリコーダー」や。
とは言え、何の曲を練習したらええんやろう…

よし、とりあえず何を始めるにも作戦会議や!
「歩ー、滝野さんから電話やでー」
おおっ、ナイスタイミングや!智ちゃんも何も考えてへん
わけでは無いみたいやな。
「はいー」

  *

「と、言うわけで君たち。今日は作戦会議をする事になった。」
智ちゃんは机の端に座ってしゃべり始めた。
バンドという事を意識してか、ちょっと露出度の高い服を着てる
セクシーや。あんな服持っとったんやな。
机の周りには智ちゃん、榊ちゃん、ちよちゃん、私の4人がいる。
やっぱりちよちゃんの部屋は広いな〜

「智ちゃん、よみちゃんは?」
「あいつは風邪で寝込んでる。気合が足らんぞ気合が!」
気合か〜私も気合を入れたらしっかりできるのやろうか…

35 :ロックンロール・ネバー・ダイ2(2/4) :2003/04/15(火) 18:35 ID:???
「しょうが無いから今日はよみ抜きでやるぞ!」
智ちゃんはいつもからは考えられへんくらいやる気や。
「まず、何を決めるんですか?」
目の前にノートを広げたちよちゃんが尋ねてる。
「バンドでちよちゃんのポジションは書記やな…」
…あれ?ちよちゃんがすごく心配そうな顔でこっちを見てる…
「さて、何を決めようか?」
あかん、やっぱり智ちゃんは何も考えてへん。
ここは私がビシッと提案して、しっかりしてきた事を
皆に見せたろう!
「まず芸名から決めへん?」
どや?
「……はぁ?」
あれ…全員固まってしもた、何でやろ…
「バンド名の事ですよね?おおさかさん…」
「そう!それ!」
ちよちゃん、うまい事言うなぁ。
「バンド名かぁ、それは大事だなぁ。…うーん、何かこう、
私リーダーだし、私にちなんだ名前がいいんじゃないの?」
ええっ!?
「智ちゃんリーダーだったんですか?!」
ちよちゃんが目をくりくりさせて聞く。
「あったりまえだろー?言い出したのはあたしなんだから!」

36 :ロックンロール・ネバー・ダイ2(3/4) :2003/04/15(火) 18:35 ID:???
「では皆さん、紙を配りますので希望の名前を書いてください!
いくつ書いてもいいですよ〜」
みんなの前に紙とペンを並べられた。
ちよちゃんらしいかわいいペンや。キャップの上に猫が座ってる。
…智ちゃんは落書きを始めたし、榊ちゃんはペンを手にしたまま
止まってしもうた。みんな大丈夫かなぁ?
ちよちゃん一人に任せるのも不安やし、やっぱり頼れるのは自分って
事や。何でもやってポイント稼がなあかん。

「……"消しごむ"…"ふくらはぎ"…"へび使い座"……何だこりゃ?」
何だとは失礼やなぁ。頑張ってカッコいい名前考えたのに。
「え?かっこええやん、特に"へび使い座"とかミステリアスで…」
「却下!」
却下されてしもうた…
リーダーが言うんやからしゃあない…残念やけど諦めよう…
「じゃあ次は…榊ちゃん」
榊ちゃんは真っ赤な顔をして紙を差し出してる。
どんな恥ずかしい事書いたんやろう…
「榊ちゃんはっと…」
わくわく。
「…なんかこう、ファンシーな感じだね〜。"三毛猫合唱団"とか」
うわ〜合唱団て!ていうかバンドやし!
バンドは笛やのに!

37 :ロックンロール・ネバー・ダイ2(4/4) :2003/04/15(火) 18:36 ID:???
「ほんなら智ちゃんはどんなん〜?」
智ちゃんは自慢げに笑いながら紙を出した。
「ほぼこれで確定だと思うのだがね!ふーはーはーはー!」
紙を手にしたちよちゃんの顔がだんだん青ざめていく…
何や!そこにはどんな素敵な事が書いてあるんや!?
「……智ちゃんと…愉快な仲間たち…」
うわ!省略されとる〜!
「どうだ!素晴らしい名前だろう!」
「………」
一気に静かになってしもうた。智ちゃんさすがやな。
「ちよちゃんのは…どうなんだ?」
榊ちゃんが聞く。
「えーと、私はあんまり自信無いんですけど〜」
もうこうなったらちよちゃんの案だけが頼りや。頼むでちよちゃん。
これがあかんかったら"ふくらはぎ"しかあらへんのや…
「…"Rasbelly Heaven…?」
おおっ、かっこええやん!
「えへへ、可愛く格好よくしてみました。」
ちょっと照れ気味なちよちゃん。
「いいじゃないか…」
「えっ!私の案は?!」
智ちゃんはまだ自分の案を推そうとしてる。やばい!
ちよちゃんの付けた名前にしてしまおう、もう!
「これにしよう!」
ノリ的にも、もうちよちゃんの案しか無かった。
智ちゃんは最後まであの名前にしようとしとったけど…
私もほんまは、"ふくらはぎ"が良かってんけどなー…
まあええわ、それよりも楽器練習せなあかんな!
私は笛や!
とは言え、何の曲を練習したらええんやろう…

38 :名無しさんちゃうねん :2003/04/15(火) 18:40 ID:PP.zM63c
第2回は以上です。
ここまでお付き合い頂いた方、ありがとうございます。
そしてこれからも宜しくお願いします。

余談
FPV(一人称視点)は難しい!
今回はそう感じた回でした。
大阪の主観という事で、状況を伝えつつ、ボケなければいけない・・・
これはかなり辛かったです。状況を正確に伝えようと思うと
大阪が真人間に近づくし(失礼)
ボケ過ぎると話が伝えられないので間を取るのが難しいのです。
そういう意味では前回のよみは楽でした。
何も考えずに動く智(失礼)も難しいのでは、と思います。

39 :名無しさんちゃうねん :2003/04/15(火) 18:45 ID:???
本文に修正入ります。
ごめんなさい…(涙

>>37 ロックンロール・ネバー・ダイ2(4/4)の
16行目
   「…"Rasbelly Heaven…?」

   「…"Raspberry Heaven…?」
でした。
綴りミスとは情けない…

40 :16 :2003/04/15(火) 20:54 ID:???
すみませんね。間ぁ空けちゃって。

マヤーが攻撃の態勢を解いた。榊は急いでかみねこにかけ寄り、そばに
しゃがみこんだ。かみねこは目を閉じたまま微動だにしない。

死んだ?――まさか。

榊はかみねこの鼻先に手をやった。かろうじて呼吸はしているようだっ
たが、それはあまりに弱弱しかった。

このままじゃ――。
助けないと――でも。
――そうだ。

そこで榊は、以前にちよに案内され、マヤーを連れて行った獣医のこと
を思い出した。

あそこへ行こう。そうすれば助かるかも。

榊は服が泥と血で汚れるのも構わず、かみねこの体を胸に抱き上げた。
すると、マヤーが唸りながら、榊のズボンの裾を加えて引っ張った。
こんな奴を助けるのか。そう言いたげな目をしている。
榊は言い聞かせるようにマヤーの頭をなでると、口を裾から離させ、お
いで、と手で言うと、わずかな記憶を頼りに走り出した。
奇しくも榊がかみねこに再会した場所は、かつて榊がかみねこの率いる
猫の集団に襲われ、マヤーに救われた場所だった。あの日マヤーを救う
ために走った道を、今榊はかみねこを助けるために走っていた。
かみねことの奇妙な縁を、榊は走りながら感じていた。

41 :名無しさんちゃうねん :2003/04/15(火) 23:53 ID:???
>>38
お疲れサンダー♪

> FPV(一人称視点)は難しい!

へぇ、FPVってゆうんだ。初めて知った。カコイイな。

> 大阪が真人間に近づくし(失礼)

適度でいいとオモタ。『ふくらはぎ』・・・・・・確かに捨てがたい名だ。
メンバー全員がふくらはぎを露出させて歌う・・・・・・色っぽいし。

続きを期待しまふ。

42 :16 :2003/04/16(水) 20:03 ID:???
途中何度か道を間違え迷いそうになったこともあったが、どうにか榊は
動物病院の前にたどり着くことができた。走って来た勢いに任せ入り口
のドアを開ける。マヤーが榊のそばをすり抜け中へ入り込む。開いたド
アの少し奥にある受付カウンターの窓越しに、係の女性の姿が見えた。

「先生はいますかっ!?」

榊は呼吸を整える間もなく急いでカウンターに向かうと、ぐっと顔を窓
に近づけ、息を切らせたまま大声で、切迫した口調で女性に言った。

「あの…少々…お待ちください」

榊の態度に少し呆気にとられながら、受付の女性は医師を呼ぶため立ち
上がると、カウンターの向こうにある奥のドアの向こうへと消えていっ
た。

早く来て――早く。

榊は焦る。そして、胸に抱いたかみねこを少しだけ強く抱きしめた。
かみねこは、やはりぐったりして反応を示さない。

もうすぐだから。もうすぐ助かるから。だから――お願い。もって。

それから医師が榊の前に姿を現すまでのわずか2分間が、榊にはとてつ
もなく長く感じられたのだった。

43 :名無しさんちゃうねん :2003/04/16(水) 22:40 ID:???
>>41
ありがとうございます。

>へぇ、FPVってゆうんだ。初めて知った。カコイイな。

造語です。「First Person View」

>メンバー全員がふくらはぎを露出させて歌う・・・・・・色っぽいし。

文章から色っぽさを伝えるなんて無理ぽ〜(涙

>続きを期待しまふ。

がんばります。毎日は無理ですが。

44 :16 :2003/04/18(金) 01:00 ID:???
長々続けてしまって申し訳ありません。後4回ほどで終わるかと思いますので
どうかご容赦のほど願います。

45 :名無しさんちゃうねん :2003/04/18(金) 01:18 ID:???
>>44
いやいや、楽しく読ませてもらってますよ。
それより、私のはかなり長く続く悪寒なんですが…

46 :16 :2003/04/18(金) 01:29 ID:???
待合室の長椅子に膝にマヤーを乗せて座り、医師がかみねこの手当てを終える
のを待ちながら榊は考えていた。

あの時、かみねこにマヤーの攻撃が当たらなかったのは、やっぱりかみねこが
よけたからじゃなかったんだ。
きっとどこかの猫とケンカして、傷ついて、もうフラフラになっていて、それ
で力尽きて倒れて、たまたまそれがマヤーの攻撃をかわしたようになったんだ。
あの子は大丈夫だろうか。
死んだり――いや、絶対死んで欲しくない。
それにしても、どうして――。

その時、老医師が診察室のドアを開け、待合室に姿を見せた。

「ふう」

老医師はタオルで手を拭いながら息をついた。

「どう…でしたか?」

榊が恐る恐る尋ねた。

47 :16 :2003/04/18(金) 01:51 ID:???
すると老医師はさらりと答えた。

「ああ、ありゃあずいぶん派手にやられたなあ。ひどいもんだ」
「えっ――」

榊は動揺して言葉を詰まらせる。

「じゃ、じゃあ――」
「ま、しかし心配はいらん。あの猫は呆れるほどタフなようでなぁ。あんなケ
 ガしておきながら、点滴一本打っただけですぐに目ぇ覚まして逃げようとし
 よった。だから押さえつけたら暴れるわ暴れるわ。おかげで手当てするのに
 ずいぶん骨が折れたよ。ほれ、このザマだ」

老医師は笑ってそう言うと、榊に両手を差し出して見せた。真新しい歯型が、
全部で七つか八つほどついていた。

「じゃあ、助かるんですか!?」榊は尋ねた。
「ああ。むしろあの猫は、死ぬことの方が難しい。消耗の具合一つとっても、
 君のその猫が前にウチに来たときよりもひどかったというのになぁ」

医師はマヤーを見ながら言った。マヤーは心なしか少し複雑そうな表情をして
いるようだった。

ああ、良かった――。
「本当に――どうもありがとうございました」
榊は心の底から老医師に感謝した。

48 :16 :2003/04/18(金) 01:57 ID:???
>>44を訂正します。もう少しだけ長くなってしまいそうです…

49 :16 :2003/04/18(金) 02:17 ID:???
「なに、大したことはしていないさ。ふむ…しかしなぁ」

老医師は顎に手を当てて言った。

「ケンカをしたんなら、どうしてあんなにボロボロになるまでやったんだろう
 な。勝つにせよ負けるにせよ、普通あんなになるまでやらんぞ。何かよっぽ
 ど退けない理由でもあったのか」
「えっ――」

その疑問は、榊も感じていた。どうしてあれほど満身創痍になって、体力を使
い果たして倒れるまで戦い続けたのか――。

どうしても負けられない――理由?

榊は考えたが、答えは見つからなかった。すると老医師は言った。

「ま、何にせよあの猫は大丈夫だ。連れて帰って構わんよ。ただし今はまだ安
 静にさせておかなきゃあ駄目だが」
「はい、どうもありがとうございました」

榊は答えた。

「ところで」

老医師は唐突に言った。

「初めて見たときも思ったんだが、やはり君のその猫、イリオモ」
「雑種です」

榊はすばやく老医師の言葉を制した。
そうか、と老医師は笑って言った。

50 :16 :2003/04/18(金) 04:15 ID:???
身体中に絆創膏やガーゼを張られたかみねこを抱いて、榊は帰路についた。治
療の際に暴れたという話を聞いたが、今はなぜか天敵とも呼べる榊の腕の中で
おとなしくしていた。やはり今は無理をするべきではないと悟っているのか。
老医師の話では、3日もすれば普通に動き回れるようになるらしい。それまで
は自分の部屋に居させてあげようと榊は考えていた。マヤーはやや釈然としな
いといった目をしながら後をついて来る。

お母さんには近づけないように気をつけないとな。
マヤーはやっぱり同じ部屋にいるのは嫌がるだろうけど、仕方ないか。

そんなことを考えているうちに、家のすぐそばの十字路にさしかかった。ここ
を左に曲がれば、もう家は目の前だ。そう思いながら榊が角を曲がろうとした
――その時。
十字路を直進した先の道の突き当たりの塀の下に、猫が群れを成して座ってい
るのが榊の目に映った。そのほとんどが過去に幾度か触ろうと試みてことごと
く失敗に終わった、すなわちいずれも見覚えのある猫だったが――。
塀の上の一匹。その猫だけは榊は見覚えがなかった。もともと白かった毛が土
で汚れたような毛の色をした、目つきの鋭い長毛の猫である。心なしか、堂々
と胸を張り、他の猫たちが全てその下に集まっている様子から、その猫が群れ
の頂点に君臨しているかのように榊には感じられた。
よく見ると、先ほど出会ったかみねこほどではないにしろ、顔や身体に何箇所
か傷を負っているのがわかった。
その姿を見たとたん、急にかみねこは歯を剥き、かぁっ、と声にならない怒り
の叫びを上げ、榊の腕から抜け出そうともがき出した。その瞬間、榊は全てを
理解した。

51 :16 :2003/04/18(金) 20:51 ID:???
そして、榊はにわかに走り出すと、全速力で角を曲がり、家へと急いだ。マヤーが
後からついて来る。腕の中のかみねこは、暴れるのをやめない。走るのに精一杯で
見ることはできなかったが、榊はかみねこが自分の腕の中から逃れるべく、腕や手
を幾度となく噛むのをその痛みで知った。しかし榊は抱く力を緩めず走り続ける。

今、この子を放すわけにはいかない。

おそらくあの猫は、よそから来た流れ者だ。榊は思った。かみねこはきっと、あの
猫とボスの座をかけて争って、負けて、あの場所まで逃げてきたんだ。あの時病院
で沸き起こった疑問の答え――どうしても負けられない理由が、今はっきりと榊に
は理解できた。

そんな状況と今のかみねこの様子を考えれば、榊は一刻も早く十字路から立ち去ら
ずにはいられなかった。

もし今、この子を放してしまったら――。

惨憺たる敗北を喫したばかりであるにもかかわらず、かみねこは早くもリベンジを
挑むつもりらしい。今のかみねこの怪我と体力をかんがみれば、それは無謀としか
言う他ない。もしやり合えば、今度こそ命が危ないかも知れない。
それでもかみねこは止まらない。意地と、誇りのために。
榊は、これ以上かみねこが傷つくのを見たくなかった。だから走った。全力で、必
死で走った。
そして、やっとのことで家にたどり着き,玄関の戸を開けて中に入った途端、榊は
にわかに腕の力を緩めて半ば放るようにかみねこを下に降ろすと、へたりこむよう
に上がり框に座り込んだ。
疲れた。榊は心底そう思った。
少し遅れて息を切らせて中に入ってきたマヤーは、かみねこを一瞥すると、す、と
頭を榊のすねにこすりつけた。

52 :16 :2003/04/20(日) 12:16 ID:???
その夜、榊は真夜中に目を覚ました。
昼間の疲れから榊はいつもより早く床につき、泥のように熟睡していたのだっ
た。にもかかわらず不思議なことに、榊はまるで少しうたた寝をしてしまった
後であるかのように深夜に目を覚まし、しかもその意識は朝まで十分に睡眠を
とったかのように冴えていたのだった。枕もとの時計を見ると、午前1時を回
っていた。
榊は寝る前に確かに閉めたはずの窓が開いていることに気づいた。月明かりが
部屋の中を照らし、夜風が吹き込んでいた。
その月明かりに照らされて、ベッドの足元側の部屋の隅に、榊は自分のよく知る
人物の姿があるのを認めた。榊は起き上がった。

「やあ」

彼はその体型の割に細い右腕を挙げて言った。
この人が窓を開けて入って来たのだろうか、と榊は思ったが、不思議なことに
榊はこの時、少しの不審感や嫌悪感も感じることはなかった。まるで彼がそこ
にいるのが当然であるかのように。

53 :16 :2003/04/20(日) 12:40 ID:???
「どうも…お久しぶりです」

榊は上半身だけを起こした姿勢のまま、お辞儀をして言った。

「あれから本当のネコを探すことができたようだね」

彼は同じベッドで榊のそばに寝ているマヤーを見て言った。

「ええ…みつかって…本当によかったです」

榊は答えると、マヤーに目をやり、いとおしそうに頭を撫でた。

「ふむ。…ところで彼は、決着をつけに行ったようだ」

その人物は唐突に言った。

「彼?」

榊は訊いた。しかしその人物はそれに答えることなく、言葉を続けた。

「しかし心配は要らない。彼はきっと無事に戻ってくる」

榊にはその人物の言う彼が一体誰なのかわからなかったが、その人物は構わず
続ける。

54 :16 :2003/04/20(日) 13:19 ID:???
「何しろ私が特製のぴ――ゴホン、ン、とにかく君は心配することはない。私
 の言葉を信じたまえ。娘の友達に嘘はつかん。…さてそれじゃあお別れだ。
 本物のネコと幸せに暮らしたまえ。あと、もしあの目の大きな君の友人に会
 ったら、よろしく伝えておいてくれたまえ」

彼は言い終わるとふわりと浮き上がり、宙を漂うように移動して、窓から月明
かりで少し青みがかった夜の闇へと消えていった。

それからいつの間に再び眠りに落ちてしまったのか覚えていないが、榊は朝の
日差しと少しだけ寒さを覚える空気によって目を覚ました。窓はやはり開いて
いた。
ふと窓の下を見てみると、昨夜、中にバスタオルをしいて、かみねこを寝かせ
ていた段ボール箱が横倒しになっていた。バスタオルが外に出てしまっている。
中にかみねこの姿はない。よく見ると、箱のあたりの床から箱の上を経て、窓
枠のあたりまで、かすかに足跡らしきものがついている。それは、窓の前でい
くつか固まっていた。

これは。じゃあ、まさか本当に――。

その足跡を見て、榊はかみねこが自分で窓を開けて外へ出て行ったことを悟り、
同時に昨夜の彼の言葉を思い出した。

55 :16 :2003/04/20(日) 14:46 ID:???
本当に――決着を?あんな身体で、そんなことをしたら――。
でも。

あの人は言っていた。心配は要らないと。榊はあの人の言葉とかみねこを信じ、
待つことにした。

それから数日後の朝。かたり、というかすかな音が聞こえたような気がして、
榊は目を覚ました。窓を見ると、外側のふちに何か四角い紙のようなものが置
いてあった。榊はそれが何なのか確かめようと、ベッドから出て窓へと近寄り、
窓を開けると外へと手を回して、その四角いものを手に取った。同じく目を覚
ましたマヤーもベッドから降りて榊に近寄る。
それは一枚の写真だった。そこには、誰がどうやって撮ったものか、数日前に
も増して身体中に傷を作った、身体は正面を向いているが、顔は伏し目がちに
斜め下を見ている、まるで照れているかのような様子のかみねこが写っていた。
それを見て、榊は思った。

あの人の言った通り、きっとかみねこは無事に戻ったんだ。

それは、ほぼ確信に近いものだった。
そして、この写真は、きっと――。

「お礼っていうこと、かな。マヤー」

榊はマヤーに向かって微笑みながら言った。マヤーは複雑そうな表情をした。
榊は微笑んだまま、そんなマヤーの背中を撫でた。

もしまた会うことができたら、きっとあの人にお礼を言おう。

榊はそう心に決めたのだった。                (おわり)

56 :16 :2003/04/20(日) 14:48 ID:???
やっと終わりました。…長いですねぇ。読む人が途中で読む気なくしてくれな
きゃいいんですけど。

57 :名無しさんちゃうねん :2003/04/20(日) 23:34 ID:???
>>56
うーん、ちょっとわかり易くこのSSで表現したかったことを言ってみてくれんかね。
英語で・・・・・・いや日本語でいいです。

58 :16 :2003/04/21(月) 11:03 ID:???
>>57
SS本文で伝えることができなかったのなら、それは私の文才のなさのせいで
す。どうもすみませんでした。
簡単にいってしまうと、過去に散々かまれ続けたにもかかわらずかみねこを必
死で助けようとする榊さんの優しさと、そんな榊さんと決して和解はできない
けれど、助けてくれた恩は返す(素直な態度じゃないですが)かみねこの義理
堅さのようなものを書いてみたかったのですが…(あと、必要以上に宿敵の世
話にはならないというかみねこのプライドじみたものも)。今見返すと、確か
にわかりにくいかもしれませんね。
あと、本文がもはやSSとも呼べないほど長くなってしまったことについては、
本当に申し訳なく思っております。

59 :名無しさんちゃうねん :2003/04/21(月) 21:30 ID:.6B1oi5k
補完的後日談ものとして、出来は決して悪くないと思いますよ。
「かみねこの恩返し」って点はわかりづらいけど……
(つまり猫たちは榊さんを襲おうと集まってたわけですか?)

60 :ケンドロス :2003/04/21(月) 23:52 ID:???
ひとつだけ質問します。あのちよ父(と思われる)は榊さんにかみねこの事
を伝える為に夢の中に現れたと解釈していいですか?
あ、あとひとつ。目の大きな友人って誰の事ですか?すいません理解力なくて・・・
大阪?

61 :16 :2003/04/22(火) 18:45 ID:???
やっぱりわかりにくかったですね、文章。すみませんでした。
>>59さん
猫たちはかみねこに勝って新しくボスになった長毛の猫のところに集ま
っていただけで、榊さんを狙っていたわけではないです。榊さんたちが
猫の集団に会ったのは偶然で、そこでかみねこは先ほど自分が敗れた相
手の姿を見つけいきり立ち、それで榊さんはかみねこにこれ以上ケンカ
をさせないため、急いで家まで帰ったということです。
>>ケンドロスさん
まったくそのとおりです(榊さんにとっては夢か現実か定かでないよう
な表現で書いたつもりではいるんですけど)。
あと、目の大きな友人というのはご推察の通り大阪です。「不思議な脳
みそを持った」とでも表現すれば、もっと分かりやすかったでしょうか。
(いえ、決して悪い意味ではなくてですよ)

62 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:17 ID:???
『友達、なんだから』

「おう、榊ぃ、勝負だ!!」
女の大声が後ろから聞こえてきた。神楽だ。私は彼女の言う「勝負」の内容が
気になった。ことによっては、かねてからの計画を実行に移す絶好の機会かも
しれないからだ。弁当の早食い、教室の雑巾がけ競争といった内容では計画を
実行に移すのは難しい。
「今日の体育、バドミントンだよな。今回はそれで勝負だ!!」
彼女がそう叫んだ瞬間、私の体は思わずびくっとなってしまった。
これ以上ないほどおあつらえ向きだ。今日は雨が降っていて、
男子も女子も体育は体育館で行われる。しかも競技はバドミントン。
人数は多くてもダブルス、いや、彼女が勝負をすると言うのだから、
体育教師の黒沢先生に頼み込んでシングルスにさせるだろう。つまりは一対一。
当然男子の目も女子の目も私達にある程度は集中する。理想的な状況だ。
団体競技ではいまいちだ。それに単に走った時の結果は既に出ている。
その点、今回のバドミントンのようなネットを挟んだ競技では、お互いの技量の差が
結果に即結びつく。本当に理想的だ。やるなら今日だ。
 「やめたほうがいい。せっかく出来たお前の貴重な数少ない友達じゃないか。
考え直せ。戻れなくなるぞ!」
そういう考えが頭の中に浮かんだが、その考えを押しつぶす。
そして、そのまま私は彼女に返事をする。
「ああ」
短い承諾の返事。これでもう後戻りできない。後戻りしたくない。
「よーしそうこなくっちゃなぁ。うりゃー! 燃えるぜっ!」
無邪気な彼女の返事。私の企みも知らずに、彼女は同性の私から見てもまぶしい笑顔を
浮かべて叫んでいる。その笑顔を壊そうとしているのは、間違いなく私なのだ……。

63 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:18 ID:???
 準備体操、ペアでの練習と授業はつつがなく進み、いよいよ練習試合の時間になった。
こういう場合、たいていは適当にペアを組んで、一部のやる気のある人は熱心に、
大多数のそうでない人はいいかげんに試合をする。試合を見ている方も
そう真剣に見るものではない。
 しかし今回は私と神楽の試合だ。しかも神楽はやはりあらかじめ黒沢先生に頼み込んで
私と神楽でシングルスの試合を組んでもらっていた。黒沢先生は私と神楽の試合を
中央のコートでさせることにした。さらにこの試合をするあいだ、他の試合を止めて
ここにいる私達以外の女子生徒を観戦にまわらせたのだ。
「みんな、いい? 神楽さんと榊さんの試合を見て参考にするのよ」
そう黒沢先生は言ったが、本当は少しでも生徒に授業を楽しませようと言う
黒沢先生の配慮である。さながら私達の試合は本日のメインイベントというわけだ。
先生が顧問を務めている水泳部、そのエースである神楽の頼みに
甘い顔をしたかったというのもあるだろう。
 事実体育館の中には皆の興奮と熱気があった。黄色い声をあげている者もいる。
かおりんなどは興奮し過ぎて両隣りから二人掛かりで押さえ付けられている。
男子は黒沢先生の担当ではないが、それでも手の開いている男子は
こちらの方を見物している。舞台は十分すぎるほど整っていた。
 観衆の中、神楽と私はコート中央で試合前の握手をした。彼女は屈託のない笑顔と、
輝いた瞳を私に見せつつ、
「お互いがんばろうな! でも今日は負けねーぜ!!」
と私に語りかけた。またどこからか黄色い声が上がった。まさにお祭り騒ぎだ。
しかしこの場にいる人は、私のこれからしようとしていることを何一つ知らないのだ。
私の陰湿で卑劣な計画を。
(黒沢先生、あなたの心遣い、かえってあだになりましたよ)
私は心の中でこう呟いて、コートの中、位置についた。
 笛の音。そして神楽がサーブした。いいサーブだ。とにかく返す。まずは様子見。
神楽もそのつもりのようだ。数回のお互いの手の探り合いの後、
私は計画を実行に移した。スマッシュを打つ。決して彼女が取れないように。
シャトルは私の期待通りに床に転がった。苦笑いする神楽。
そうだ、今のうちに笑っておくんだ。もうすぐきみの顔からは
笑顔はきっと消えてしまうだろうから……。

64 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:19 ID:???
 私がこんなことをするきっかけになったのは、小学校4年生のときの出来事が
きっかけだった。クラスには勉強も運動も非常に出来る男子がいた。
その男子はことあるごとに自分の能力を自慢し、さらに自分は他人、特に女子に対して
いかに運動能力が優位にあるか誇っていた(今から考えれば思春期にも到達していない
小学生に男女差はそうあるものでもないのだが)。とにかく彼は人気があり、
ませた女子がラブレターを送っただのという噂には事欠かなかった。一方の私は勉強は
そこそこ出来るが、運動は女子の中でも大したことのない子だった。私は体育に限らず、
体を使うことを適当に「流して」いたのだ。なぜだかよく覚えていないが
とにかく一人っきりのときは全力で走ることがあっても、知っている人間の前では
決して力を出し切ることはなかったのだ。
 あるとき、クラスマッチだか運動会だか忘れてしまったのだが、
リレーのクラス代表選手を決めようという話になった。そのリレーは
男女混合リレーだったため、とにかくクラス全員を走らせて早い順から代表に出そうと
いう結論になった。先述の男子はぶっちぎりのトップで代表に出ることが
確定していたようなものだった。しかし、クラス全員が走って代表を決めるという
建前上、彼も走ることになった。このとき私は思ってしまったのだった。
もし私が全力で走ったら彼に勝てるだろうか、と。内心、自信はあった。
私は答えを知りたかった。だから私は全力で走った。人前で初めて全力で。
 結果は、私が問題の彼のタイムを大幅に超越する形になった。
彼は顔を真っ赤にして叫んだ。曰く、私が何かいんちきをしたのだと。曰く、
女のくせに生意気だと。曰く、こんなのは間違っている、やり直せと。曰く、
今まで実力を隠していたのは卑怯者だと。そうやって叫ぶごとに彼は周りに
八つ当たりをし、拗ね、だだをこね、幼稚園児に戻ったかのように暴れ回った。
そして、すっかり自信とプライドを失った彼は、リレーの行われる当日欠席した。

65 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:20 ID:???
 別段これは特異な事例ではないだろう。単に彼がそういう、自信やプライドを
崩されることについてたまたまナイーブなだけだったのだ。だが、この事件は
私にある考えを植え付けた。それは、「人より運動が出来るということに関して
自信を持っている人間の自信、プライドを崩せば、その人間は立ち直れなくなる
ことがある。普段運動に興味無さそう(と考えている)な人間にそれをされた場合、
その可能性は大きくなる」という考えである。私はこの考えを何回か試してみた。
例えば、リトルリーグ所属の同級生よりも体育のソフトボールの時間で活躍してみたり、
あるいは小さい頃から剣道をやっていた上級生と剣道の練習試合で一本勝ちしてみたり、
と。もちろん、自信、プライドを崩せないことも多かったし、崩せたとしても
それをバネに立ち上がってくる人間の方が多かった。幼いとはいえ,スポーツを
やっている人間の精神は強靭なのである。しかし、たまにやはり立ち直れなくなる人間は
確かに存在した。そしてその人間を見る度に、私は言い様のない興奮と快感を
覚えるようになってしまった。昨日までの英雄が今日はすっかりしょげ返り誰からも
見向きもされないのを見るとたまらなくうれしかった。
 自分は運動部に入らなかったしスポーツにも興味なかったにも関わらず、
運動能力だけは高かったため、中学生になってもこの性癖は治らなかった。
スポーツが出来てクラスのリーダー気取りの生徒が私に負けたのをきっかけに自虐的な顔を
するようになったときはその顔を思い出して自室で笑い転げたし、校内の代表選手として
大事にされていた生徒がやはり私に負けたのをきっかけにぐれてしまい、
そのうち少年院に入ったと聞いたときには幸福感のあまり精神が
どうかなってしまいそうであった。いや、そのときすでに私はどうかなっていたのだ。
そんなことをする自分に罪悪感も、後悔も覚えるのに、幸福感の方が大きくて
堪えきれなかったのだから。病気としか言い様がなかった。そのうち、
もともと弱い人間だけではあきたらず、私に負けても再び立ち上がって
努力しようとする人間をあらゆる手段を使って叩き潰し駄目にすることにやっきになって
しまうようになった。もちろん、極力それと分からないようにするのである。
私に負けた人間に、
「ううん、私なんて大したことない。まぐれだ。●●さんのほうが全然すごい」
こういう台詞を何度言ったことか。度を過ぎた謙遜は嫌がらせでしかない。
そうやって私は自分の欲望を満たした。その他にももっと単純に匿名で中傷の手紙を
出したりなど相手を精神的に傷つけるための下劣なことをいっぱいやった。
自分ほどの偽善者は他にいなかっただろう。

66 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:21 ID:???
 高校に入学して、もうこんなことはやめようと思った。罪悪感と快感のあいだで
どんどん汚くなる自分がつくづく嫌になっていた。普通に友達を作って、
普通の人間関係を作りたかった。しかしその普通の人間関係の作り方を私は
すっかり忘れてしまっていた。誰ともうまく話せなかった。かおりんなど、
私に憧れる人もいたが、正直苦痛だった。こんな汚い私が憧れの対象になっている。
いっそ、誰とも関係を持たなければ、誰も私の汚い手にかかることもない、
そう考えるようになってしまっていた。
 だが、私はある人に出会った。美浜ちよ。ちよちゃん。10歳の天才高校生。
ちよちゃんのおかげで、私はやっと普通の人間らしい人付き合いが出来るようになった。
そして、決して数が多いとは言えないけれど、大切な友達が出来た。普通に人と話して、
普通に遊ぶ中で幸福感を得られるようになった。私は変われたと思った。
あの頃の、卑劣で、汚くて、最低で、どうしようもない自分はいなくなったと思った。
そう思っていた。だけど……。
 2年生になった私は神楽と同じクラスになった。神楽。校内で有名なスポーツ少女。
しかも彼女は私に話し掛けてきたのだ。やばいと思った。この人と付き合ったら
またあの病気が出てしまう。だから知らん振りをした。それでも彼女は話し掛けてきた。
一緒に昼食を食べた。一緒に下校した。やめてくれ、私はきみを壊してしまうかも
しれないんだ。そう思って避けようとしたが、優柔不断で弱い私は彼女を
避けきれなかった。友達が増えるのがうれしかったのだ。うれしくてうれしくて
たまらなかったのだ。そして油断もしていた。彼女と付き合ってもあの病気は
出なかった。だから自分は変われたんだ、もうあの病人だった自分じゃないんだ、
そう思っていた。いや、思い込もうとしていたのかもしれない。
 親しくなるにつれ、彼女は彼女のスポーツに対する思い、水泳に対する思いを
私に語ってくれるようになった。そのときの彼女の目、彼女の顔は本当にきれいだった。
私はすっかり油断し切っていた。だから、そのきれいさに見とれるだけで、
自分をかえりみることを忘れてしまっていた。そして、自分の病気が、
自分の中の悪魔が、取り返しのつかないところまで育つのに全然気付かなかったのだ……。

67 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:22 ID:???
 気付いたときには遅かった。
 ……どうやって神楽を負かそうか、いや、負かすのは既に自分が神楽の存在に
気付いていなかった(というより、病気を恐れて意図的に無視していたのだが)
ころにすでにやっている。二度と立ち直れないような敗北を彼女に与えねば、
じゃあどうやって? 彼女の得意競技でありレゾンデートルである水泳で負かすべき、
いや、一度に倒しては面白くない、まずは外堀を埋め、じわじわと自信とプライドを
そぎ落として行くべきだ。彼女は根っからのスポーツウーマンだ、
敗北を自らの糧にしてしまう、だから敗北を与えるだけでなく、敗北することで周囲から
孤立したかの印象を彼女に与えねば……
 授業中も、昼食時間も、下校中も、家でも、友達としゃべっていても、忠吉さんと
遊んでいるときでさえ! こんなことばっかり考えている!
他のことを考えようとしても無理だった。私の部屋の机の中には、
神楽が体育祭で私に負けたことを非難・中傷する手紙、これがいつでも出せる状態で
数十通も入っているのだ。もちろん全て私が自分で書いたものだ! 完全に病気だ!
誰かに相談しないと。でも誰に? ちよちゃん? 相談できるわけない!
ちよちゃんは私より年下なんだ。天才だけど子供なんだ、そんな子にこんなことを
相談してどうする? 彼女の心に負担をかけるだけだ。それにもう
友達を無くしたくない。一人は嫌なんだ。一人は嫌だ……。
 私の心は既に病魔に支配されていた。私は、病魔の命ずるままに、
神楽をその手にかけることを決めてしまった。
 病魔が私に指示した方法。
「神楽は何かにつけ、お前に勝負を挑んでくる。他愛のない遊び半分のものもあれば、
彼女の得意なスポーツ分野のものもある。スポーツ分野を狙え。
実力の差の分かりやすい競技を選べ。間違っても勝利を与えるな。彼女の望む
いい勝負もさせるな。完膚なきまでに叩きのめせ。可能な限り多くの人数の前で、
彼女の不様な敗北を晒せ。彼女は強いから、これだけでは潰せない。
その後、嫌がらせをしろ。噂を流せ。何気ない言動を装い彼女を傷つけろ。
とにかく彼女の自尊心を破壊しろ。スポーツが苦痛になるようにさせるのだ……」
 私はその指示に従うままに、彼女からの勝負の申し出をひたすら待ち、
今日、彼女の勝負を受け入れ、彼女をこのバドミントンの勝負で潰すことにした。
勝負終了後、流す噂、出す嫌がらせの手紙、彼女にかける言葉、勝負することが
決まってから全て大急ぎで考えた。そして、私はさっき彼女にスマッシュを
打ちこんだのだ。私は最低だ……。

68 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:23 ID:???
 最初のスマッシュが決まって以来、一方的な展開が続いた。予定通り、
私は神楽に1点も取らせなかったのだ。最初は、
「本気だな榊。うれしいぜ」
「くーっ、惜しいなぁ。でもまだまだこれからだぜ!」
などと言っていた神楽の表情に、どんどん余裕が無くなり、焦りの色が出てきた。
私は、やけに冷静でしかも感格が研ぎすまされたようになっていた。中学のときと
同じだ。こういうとき、普段以上の力が出るのだ。やはり病魔のせいなのか。
いや、病魔は私そのものなのだ。だからこれは私の意志。神楽を苦しめるのが
私の意志なのだ。
 さらに試合が進むと、もう神楽は何も言わなくなってしまった。顔面が蒼白になり、
目に涙がたまっているように見える。観戦している女子生徒も黄色い声など
あげなくなった。男子も一様に沈黙していた。皆からすれば、私と神楽が対決して
神楽が1点も取れないのは異常なのだ。コートチェンジの時、黒沢先生が神楽に
声をかけたが、返事はよく聞き取れなかった。声を出す気力も失われたのかもしれない。
 手加減しようとすれば手加減出来るのに、私はただひたすら神楽を苦しめた。
わざとシャトルを彼女の顔面に打ちこむことさえした。受けきれずシャトルを顔面に
受けた彼女は、悲しいのか、悔しいのか、呆然としたのかよく分からない曖昧な
表情を浮かべた。そういった表情の変化を見て、私はまぎれもなく喜んでいた。
私の病気は相手の苦痛を喜びとして感じる。彼女の顔がもはや半泣きになったときには
私の心は喜びでいっぱいになった。試合や競技の後に泣くことはあっても、
最中には泣くことも諦めることもせず戦い続けるはずの彼女があの顔だ。
私はその顔を見ながら心の中で呟いた。神楽。もう泣いてもいいんだよ。泣いてその場に
崩れ落ちるがいい。そしてこう言うんだ。「私はみじめな敗北者。完全に負けた。
榊には勝てない。バドミントンなんか嫌いだ。もうこんなみじめなことしたくない。
スポーツもみんな嫌いだ。水泳も嫌いだ……」

69 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:23 ID:???
 私はとてつもなく深い罪悪感と、背筋がゾクゾクする快感をを感じながら、
最後のスマッシュを打った。シャトルが床に着いた瞬間、神楽の目からすうっと
光が消えて行くのが見えた。神楽は私に叩きのめされたのだ。衆人環境の中で。
このうえないみじめな負け方で。他の女子、男子もあまりのことに神楽に近付こうと
さえしない。ただざわざわと声が上がるだけだ。神楽は呆然と立ち尽くしている。
黒沢先生が神楽に駆け寄った。私も神楽に駆け寄った。
神楽のことを心配してとかではない。その絶望の表情を近くでじっくりみて、
より深い快感に浸ろうと考えたのだ。やはり近くで見る絶望の表情は最高だった。
この表情を見る為に、私は小学校、中学校と幾人もの人間に同じことをしてきたのだ。
「大丈夫? しっかりなさい」
黒沢先生が声を掛けた。数瞬遅れて神楽が反応した。
「……かいだ……」
「え?」
「……もう一回だ! 榊! もう一回勝負だ!」
「ちょ、ちょっと、落ち着きなさいよ。試合はもう……」
「先生!! もう一回やらせてください!! お願いです!!」
「……いい? もう決着はついたのよ。もう終わったの。だから……」
「嫌だ嫌だ!! もう一度だ、もう一度やるんだぁ!! 榊!! 私は……」
「落ち着け神楽ぁ!!!」
空気を引き裂くような黒沢先生の怒鳴り声。体育館は静寂に包まれた。
「……これは体育の授業なんだから、あなた達だけにこれ以上好きに
ここを使わせるわけにもいかないわ。あなた達に割り当てられた時間は終わったんだから。
それに……神楽はよくがんばったわ。とりあえず座って休んで、
気持ちを落ち着かせなさい。いいわね?」
黒沢先生のその言葉を聞いた神楽は、堰を切ったように嗚咽を漏らした。
そしてそのままゆっくりと体育館のすみへ歩いて行き、そこにしゃがみ込んだ。
そこで涙を拭おうともせずに泣き続けた。誰も彼女に話し掛けようとはしなかった。
「はーい、みんな、グループごとに後片付けを始めなさーい!
時間来てるから急いでー!」
黒沢先生が大声でみんなに指示を出した。努めて普段と同じ調子にしようとしている
ようだった。

70 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:24 ID:???
 授業終了後、着替えている私に話し掛けようとする者はいなかった。
既に泣くのを止めていた神楽にも話し掛ける者はいなかった。ちよちゃん、大阪、智、
よみ、かおりんでさえも、私にも神楽にも話し掛けなかった。黒沢先生だけが神楽に
何か二言三言話していた。
「もう大丈夫です、さっきはすみませんでした」神楽がそう返事をするのが聞こえた。
 教室に戻った私は自分の席に座り、先刻の神楽の姿を思い出していた。
打ちひしがれる神楽。絶望した神楽。取り乱した神楽。そんな神楽の姿で私はこの上ない
興奮と快感を覚えていた。しかしこの興奮と快感は、いわば前フリである。
スポーツ万能で私のライバルだった神楽がすっかり突き放され負け犬としてみんなに
認識されて、立場が無くなってしまう。あるいは、傷ついた彼女が自信をなくして
壊れてしまう。できれば、あんなに好きだった水泳も止めてしまう。そこまで行って
私の計画は完成となる。始めた以上止められない。戻れない。罪悪感を覚えようが、
後悔しようが。

71 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:25 ID:???
 放課後、私は一人で下校していた。そこに、神楽が追い付いてきた。彼女は努めて
普段の調子を作ろうとしているのが分かった。
「いやー、今日の榊はすごかったなー。完敗だぜ。もしかしてほんとはバドミントン
やってたんじゃねーのか?」
「そんなことない。体育の時間だけだ。それに別にすごいわけじゃ」
「え? やってねーの? ふ、ふーん。で、でも本当にすごいと思うぜ。
あ、それと試合の後取り乱したりして悪かったな」
「いや、気にしてない……。今日は神楽は調子が悪かったんだろ?」
「い、いやー。一応本気のつもりだったんだけどなぁ。私も気合いが足りねーぜ。
あはは。それにしても榊があんなに強ええとはなぁ。でもさ、今度持久走の校内記録会が
あるだろ? あれで勝負してみねーか? 長距離だったら私の方が有利だし。
今回の借りを返させてもらうつもりだけど、どうだ?」
……長距離が苦手なんてのは嘘。苦手なふりをしているだけ。
「……ああ」
「よし、決まりだな! 今度こそ負けねーぜ!」
……勝とうと思えば、私はほぼ確実に勝てる。神楽、きみは常に勝ち負けを意識しないと
生きられないんだね。でももうやめてくれ。やっぱりきみという友達だけは失いたくない。
「……」
「負けっぱなしじゃライバルとしての名がすたるからなー。そうだ、
今日からランニングのペース上げようかな」
……頼むからその場に倒れていてくれ。再び立ち上がろうとしないでくれ。
羽ばたこうとしないでくれ。きみが立ち上がり、羽ばたけば、私はきみを打ち倒し、
きみの羽をもがなくてはいけなくなるから。
「……あ、あの……」
「ん? な、何だ榊?」
「……いや、何でも」
私はお互いのために絶交しようと言いたかったのに言えなかった。そうすることが
神楽を壊さないでいられる最後の手段なのに。内心で後悔する私に、彼女が呟いた。
「榊、今回のこととかで私に気を使ったりしないでくれよ。私は、平気なんだからな」
その後、私が神楽と何を話したのかは覚えていない。

72 :84BHHK5c :2003/04/23(水) 22:25 ID:???
 自分の部屋に帰りつき、ベッドに寝転んだ。彼女の言葉を反芻する。
「榊、今回のこととかで私に気を使ったりしないでくれよ。私は、平気なんだからな」
そのときの彼女の顔は、強がってなんかいなかった。焦ってもいなかった。
逆境を楽しんでいるかのような、そんな顔だった。そして、彼女の目は、彼女の言葉が
真実であることを静かに語っていた。そう、彼女は平気なんだ。
「ははは……あはははは……」
うれしさのあまり笑いを堪えきれない。手強い相手だ。潰せない可能性の方が
高いだろうが、潰したときの快感は極上に違いない。きっと、これまでにないほど
楽しいに違いない。惜しむらくは、彼女が友達であることだ……。
「ははは……神楽……なんで……なんできみが私の友達なんだ……」
涙がこぼれてきた。自分がまだ泣けることに正直驚いた。
「神楽……私は最低だ。最低で壊れた人間だ。そして今も壊れ続けているんだ……。
神楽は私と一緒に壊れてくれるよな? 友達なんだから。
友達なんだから、見捨てないで……見捨てないでよ……」

(終)

73 :紅茶菜月 ◆cwYYpqtk :2003/04/23(水) 23:50 ID:???
>>72
引きこまれるように読んでしまいました。
凄くダークで、切ないですね。
続きを読みたいです。

74 :ケンドロス :2003/04/24(木) 01:05 ID:???
>>72
これほどまでに闇を持った榊さんは初めてです。正直読んでいて胸のあたりが
すごく苦しくなってきました。正直、バッドエンドは苦手です。

75 :名無しさんちゃうねん :2003/04/24(木) 20:37 ID:???
むしろ萌える。
なぜか萌える。
本能がくすぐられる。救ってやりたいと。

76 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/04/24(木) 22:16 ID:???
>>62-72
ちょっと泣きそうになりました。
続きが激しく気になります。

ところで皆さん、文章考えるの大変ではないですか?
私は会話ばっかりになってしまいます。

77 :84BHHK5c :2003/04/24(木) 23:22 ID:???
えーと、初めてのSS投稿がこんな暗いのですみません。
やはりお気に召さない方もいるようなので今度から投稿前に
ダークなのには注意書きつけときます。

基本的に電波を受信してそれを文字にしてます。
続きを希望されている方もいますが、私の受信した電波は
ここまでなので続きは今のところありません。すみません。
機会があったら書くこともあるかもしれませんが。
いま複数の電波を平行して受信しておりまして、
文字化できそうなのを起こしております。
次はダークなのにはならない予定です。

78 :名無しさんちゃうねん :2003/04/24(木) 23:49 ID:???
無性に、この榊さんに罰を与えてやりたくなった。
・・・・・・ハァハァ、ハァハァ

>「落ち着け神楽ぁ!!!」
>空気を引き裂くような黒沢先生の怒鳴り声。体育館は静寂に包まれた。
>「……これは体育の授業なんだから、あなた達だけにこれ以上好きに
>ここを使わせるわけにもいかないわ。あなた達に割り当てられた時間は終わったんだから。
>それに……神楽はよくがんばったわ。とりあえず座って休んで、
>気持ちを落ち着かせなさい。いいわね?」
>黒沢先生のその言葉を聞いた神楽は、堰を切ったように嗚咽を漏らした。

あと、このシーンの黒沢先生に惚れた!
怖くて、そして優しい!イイ!

79 :amns :2003/04/24(木) 23:59 ID:???
時間をかけてゆっくりと神楽の自信を摘み取り、ズタズタにしていく榊。
そして、どん底まで追い込まれた神楽を悲しげな顔で慰める。
「ごめん、ごめんね、神楽。でもお願い、友達をやめないで。私を見捨てないで……」
「もちろん、もちろんさ……」自分の胸に飛び込んで泣く神楽を、ぎゅっと抱きしめる榊。
浮かべる笑顔の理由は、友情を噛みしめる嬉しさと、そしてぞくぞくする嗜虐の快感。
それ以後の神楽は、「榊との友情」を自らの新たな存在意義としてすがりつき、
己の卑屈さを「榊への尊敬」の名で糊塗しながら付き従う下僕状態。
やがてある日、新たな獲物に目をつけた榊は、神楽をそそのかす。「君なら勝てるよ……」
失ったプライドを回復できる機会に、嬉々として勝負に挑む神楽。
そして、格下の者同士を争わせる新鮮な快楽に溺れながら、榊は笑う。
「神楽、勝ってくれるよね。私の友情に応えてくれるよね……?」

そんな展開が勝手に浮かんでしまう自分がとてつもなく嫌です (;´Д`)

>>76
この2日間ヒマだったのに5行しか書けませんでしたが何か
次の1行が半日以上浮かびませんが何か

80 :ケンドロス :2003/04/25(金) 00:24 ID:???
>>79
さらにボロボロになりました。俺の精神状態が。マジ泣きそうです。

>>76
ジャスティスの場合は大体の文章は浮かびます。(でないと話成立しませんし)
百合萌え等の場合は浮かぶ時は浮かびます。浮かばない時は言葉で乗り切ります。

81 :紅茶菜月 ◆cwYYpqtk :2003/04/25(金) 00:32 ID:???
>>76
 どうでしょう?
『文章』については、かなり自由に書けますが、会話文は、キャラの性格と
口調をきちんと把握して、原作の雰囲気を上手く出さないと、あずまんが
らしさがなくなってしまうので、より難しい気がします。

82 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/04/25(金) 00:40 ID:???
>>79
あふっ!

私は浮かばない時はとことん浮かびません。
そんな時は風呂に入ったり、仕事中気分転換に書いたりします。

>>80
それはいいですね…
トリップの通り、私は>>26ですが、ご覧の通りグダグダです。
三話がもうできているのですが、あまりにグダグダなので
もう一度書き直そうかと。
話をマッタリ書く派なので、あずまんが向きだとは思うのですが
テンポが悪くなっているのが事実です。
何かいい方法は無いでしょうか?

>>81
私は一人称で書いているので全部会話みたいな物なんですが、
どこで考えさせて
どこで声として出させるか
といのと、あと、文章がマンネリ化しないか心配です。

83 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/04/25(金) 00:48 ID:???
トリップじゃない、ハンドルでした。
鬱…

84 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

85 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

86 :名無しさんちゃうねん :2003/04/25(金) 01:05 ID:???
>>79

む、先生。いよいよ再起動でつか・・・・・・新作の?

87 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:49 ID:???
>>79
それで続き書いてください(;´Д`)ハアハア

えっと、今書きかけなのを途中までてきとーに出します。
ダークじゃないです。でもあいかわらず好き勝手やりまくりなので
あんまりキャラのイメージ壊されたくない人は見ない方がいいかもです。
途中で止まるかもしれないのでそのへんはご容赦を。

88 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:49 ID:???
もしも願いが叶うなら
〜あるいは人間シャッフルクイズ というか使い古されたネタ〜

ボールの弾む音と激しい足音。その音の中で、周囲よりひときわ背の高い少女が
ボールを受け取る。
「いっけー!! 榊さーん!!」
「榊さんがんばってー!!」
周囲の少女たちから歓声が上がりだす。背の高い少女、榊はドリブルしながら全速力で
ゴールに突っ込んで行く。
「させるかぁぁ!!」
ゴールの目の前で、ショートカットの少女、神楽が仁王立ちになる。
「神楽さーん!! 止めて!!」
「神楽ーっ!! 今戻るから!!」
神楽と同じチームの少女たちが叫ぶ。だが間に合いそうもない。榊はスピードを落とさずに
ドリブルを続ける。そのまま、榊は立ちはだかる神楽をかわそうとする。
「あっ!」
「うわっ!」
二人から声が上がる。かわそうとする榊と止めようとする神楽の足が引っかかってしまい、
二人とも倒れこむ。そして、ゴッという鈍い音が上がる。転んだ拍子に、二人がお互いの
頭同士をぶつけてしまったのだ。
「ああっ、榊さんしっかりしてください!」
「神楽ちゃーん。神楽ちゃーん。授業中に寝たらあかんで」
「寝てるんじゃねー!! てゆーか、体育以外の授業中寝たきりのおまえが言うなよ!」
そんな周囲の呼び掛けにも喧噪にも、榊と神楽は答えることはない。

89 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:50 ID:???
 眠りから少女が目覚めた。まず彼女は思った。頭痛いなー、と。そして、
きょろきょろと周囲を確認し、ここが学校の保健室であることに気付いた。
(何で私がここにいるんだ? そうか、私はバスケしてたんだっけ。それで榊とぶつかって
……気絶してたのか? くそーっ、受け身全然取れなかったもんなー。
今起きるちょっと前何か夢見ちゃったな。 どんなのかよく思い出せねーな。
ずいぶん変な夢だったってのは覚えてるけど。まあ夢なんかどうでもいいや。それより
もう体育の授業は終わって……うわっ! もう六時間目終わってる時間だよ!
そういや榊はどうしたんだ? 無事だったのか?)
 再びきょろきょろと保健室の中を見回した少女は、隣のベッドの中にもう一人少女が
寝ているのに気付いた。
(榊かな?)
カーテンを開けてベッドを覗き込む。そこには見覚えのある少女が寝ていた。
(……ああ、神楽いるじゃん。大丈夫なのかな? まぁ、ここで寝てるんなら
そんな大したことなかった……ちょっと待てぇ! 「神楽」だと!?)
改めてベッドの中の少女を見る。ショートカットの髪。丸顔。胸。うん、この胸のせいで
いつもからかわれるんだよな。日焼けした肌。この季節屋外で泳げば嫌でもそうなるよ。
んで、身長156cm。せめて160cmあればスポーツ人生変わってたのかもしれないのに。
さて、コイツは誰でしょう……?
(私じゃん!!)
 少女の目の前にいるのは、間違いなく神楽と呼ばれる少女だった。だが、それを見ている
少女は、自分のことを「神楽」であると認識している。
(すると、これはあれだ)
【神楽】=自分を神楽であると認識している少女は思った。
(私はまだ夢を見てるんだ。それで自分が二人になったなんて思ってるんだな)
ならばすべきことは一つ。パーンと言う乾いた音が保健室に響いた。【神楽】が、
【神楽】自身のほほを平手で打ったのだ。気合いを入れるというやつである。

90 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:52 ID:???
(これで夢から……覚めねー)
目の前の神楽はあいかわらずそこにいる。【神楽】は恐ろしい結論にたどり着いた。
(ひょっとして私……もう死んじゃって、自分の体に最後のお別れを言いに来てるのか?
そ、そんなの嫌だ!!)
慌てて鏡を探す【神楽】。姿見が見つかった。自分の姿勢が正しいかを確認するための
姿見だが、この際本来の用途はどうでもいい。そこに自分の姿が映っている。
(よかった、映るってことは私は幽霊じゃない……)
 幽霊が鏡に映る怪談はあるのだが、そんなことは【神楽】は知らない。
彼女の認識では、鏡に映るものは幽霊ではないのだ。だから彼女はほっとした。
それも数瞬しか続かなかったが。
「っっっっ!!」
彼女の叫びは音にならなかった。鏡には、【神楽】のよく知る少女が映っていた。
それを【神楽】が確認したからだ。
(あ、あ、ああああ……)
 足下を見る。いつもより足下が遠く見える。靴のサイズも明らかに大きい。
視線を上げる。普段より視線が高い。幼い頃竹馬に乗ったときのことを思い出した。
私は昔からおてんばで……と、そこまで考えたところで感傷に浸るのを止め手をうなじに
持って行く。髪が手に触れる。そのまま手を下に移動させる。腰まである長い髪。
手のひらを見る。傷だらけの手。手の臭いを嗅ぐ。魚の臭い……はしなかった。
あんな失礼なことを言ったのは謝らなきゃ……それはまた今度だ。覚悟を決めてもう一度
姿見を覗き込む。男子のみならず一部の女子からも圧倒的な人気を得ている
涼しげな瞳が姿見の中で自分を見つめている……。
(榊!! 榊が!! 何で!?)
 自分がまばたきすれば、鏡の中の榊はまばたきする。自分がひらひらと手を振れば、
鏡の中の榊がひらひらと手を振る。ついでにくるっと回ってみた。
鏡の中の榊が360度ターンする。
(これで……私が本当に榊なら問題ないんだけど……)
 自分に関することを思い出してみる。しかし、どんなに思い出しても榊という少女の
持っているべき記憶は思い出せない。自分の記憶は、自分が神楽という女子高生で
あることを力一杯主張した。ならば結論は……。
(私の心が……私「神楽」の心が……榊の中に入った?)
(じゃあ、榊の心は? 私「神楽」の体はどうなってるんだ?)
 そこまで【神楽】が考えたとき、ベッドの方からごそっと音がした。ベッドを見やると、
ベッドの上の少女がむくっと起き上がった。

91 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:53 ID:???
 神楽の姿をした少女は、【神楽】の姿を認めると、ベッドの上でペコっと
お辞儀をした。つい【神楽】もペコっと頭を下げてしまう。そのまま二人はお互いを
じっと見つめ合った。数秒が経過した。
 神楽の姿をした少女の瞳が大きく広がり、驚愕の色を浮かべた。神楽の姿をした少女の
口が開き、叫び声を紡ぎだそうとした。
(ヤバイ!!)
とっさに【神楽】は神楽の姿をした少女に駆け寄り、口を塞いだ。
「(んん〜!! んん〜!! ん〜!!)」
口を塞がれ声の出ない少女に【神楽】がひそひそ声で話し掛ける。
「(おい、頼むから大声を出さないでくれ! 落ち着け! 大声を出さないでくれれば
放してやるから!)」
口を塞がれた少女が【神楽】の方に目を向け、「本当?」と涙目で問いかける。
「(ああ、本当だ。約束するから。だから落ち着いてくれ。よし、今手を離すぞ)」
【神楽】が手を離すと、神楽の姿をした少女は言われた通り小声で一気にまくしたてた。
「(お願いですまだ殺さないでくださいまだ殺さないでくださいまだ連れて行かないで
くださいあなたが来たってことは私はもう駄目だってことは分かります
でも聞いてください私には友達が出来たんです高校で友達が出来たんです
本当にいい友達なんです私こんなこと初めてで本当にうれしくてだからお願いです
せめて高校が終わるまで生かしておいてくださいその後どんな地獄に堕ちても構いません
だからお願いですそれが無理なら
せめて自分の言葉で友達にさよならを言わせてくださいお願いです……)」
 【神楽】は慌てて口を挟んだ。
「だ、だから落ち着けって。大体私はあんたを殺しなんかしねーし、
てゆーか何で殺さなきゃいけねーんだよ」
神楽の姿をした少女はきょとんとして問い返した。
「え? あ、あなた死神さんじゃないんですか?」
今度は【神楽】がきょとんとする番だった。
「……死神って何のことだよ?」
神楽の姿をした少女は【神楽】を指差しこう言った。
「……ドッペルゲンガー……」

92 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:54 ID:???
 ドッペルゲンガーとは自分自身の影、もう一人の自分で、ドイツの伝説では、
見てしまうとその人間は必ず死ぬとされている。神楽の姿をした少女は【神楽】が
ドッペルゲンガーであると考えたのだ。そのことを、神楽の姿をした少女が
【神楽】に手短に説明する。
 【神楽】はあることを確信した。目の前の自分の姿をした少女にその確信をぶつける。
「私を見てそのドッペル……なんとかって言うことは、あんた……榊だな!!」
神楽の姿をした少女はこくこくとうなずく。そして、
「ドッペルゲンガー……さんは……なぜここに?」
と問い返した。【神楽】はその質問には答えず、
「私は神楽だ。神楽なんだよ」
と答えた。え? という顔をする神楽の姿をした少女。【神楽】は、
「いいか、気合い入れて見ろよ」
と言いながら神楽の姿をした少女を姿見の前に引っ張った。
「榊、これが今のあんたの体だ」
数秒後、保健室には悲鳴を上げようとする神楽の姿をした少女の口を、
必死で塞ぐ【神楽】の姿があった。

93 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:55 ID:???
「どういうわけか知らんが、私の体の中に榊が、榊の体の中に私がいるみたいだ。
魂が入れ替わったとでもいえばいいのかなぁ」
 【神楽】が彼女なりにまとめた現状を説明する。立ち直りの早い【神楽】に対して、
神楽の姿をした少女=【榊】は口に手を当ててベッドに座り込みがくがく震えている。
「それで今は大体六時間目が終わったとこで……」
【神楽】が説明しきらないうちに、ガラッという音とともに扉が開いて女教師が現れた。
「おお! 2人とも起きてるじゃーん。二人とも起きないっていうから心配したぞー。
いやー、養護の先生今日休みでほったらかしになっちゃったのよねー。悪い悪い。
あーホームルーム終わっちゃったけど大した連絡もなかったから別にいいやー。
そのまま帰っていいぞー。今日は掃除は二人とも免除!!
念のために聞くけど別にちょーし悪いとかそんなことないよねー」
現れた女教師は二人の担任の谷崎ゆかりだった。ゆかりの姿を見た【榊】は、
はっと気付いて、ゆかりに向かってしゃべりはじめた。が。
「ゆ、ゆかり先せ……」
「二人ともいたって健康です!! 問題ありません!!
お見舞いありがとうございます!!」
【神楽】に遮られてしまった。
「おお、そうか。ほんじゃまた月曜日にねー!!」
「あ、ああ、ゆかり先生、あの……」
「はいっ!! お疲れ様です!! ゆかり先生さようなら!!」
ガラガラ、ピシャ。ゆかりは扉を閉めて行ってしまった。
「今日の榊妙に気合いが入ってたわねー」と呟きながら。

94 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:56 ID:???
「ああ、待って……」
戸口に駆け寄ろうとする【榊】を【神楽】が引き止めて、
「落ち着けって榊。ゆかり先生に話そうって気持ちは分かるけどさぁ、
どこの誰が『体育の時間にぶつかって魂が入れ替わりました。どうすればいいんですか?』
って質問に答えてくれるんだよ。」
「う……。そ、それはそうだけど……」
「だろ? 人にしゃべったって変に見られるだけだぜ。自分達だけで解決しねーと。
幸い養護の先生もいなかったから誰にもばれてねー。かえって好都合だぜ」
「う、うん……」
「それに私は結構この状況気にいってるんだ」
え? という顔で改めて【榊】が【神楽】の顔を見る。【神楽】はこんな状況にも
関わらず上機嫌だった。それはさっき【榊】がまくしたてた
「高校で友達が出来たんです本当にいい友達なんです私こんなこと初めてで本当にうれしくて」
のくだりがうれしくかつ照れくさかったのもあるが、それ以外にも理由があった。
そっちの方がどちらかというとメインである。そっちの理由を【榊】に説明する。
「だって、理想の肉体が借りられたんだぜ!!」
ますます分からない【榊】。顔が え? から は? になる。
「わかんないかなぁ榊。あんた、自分の体がどんなに恵まれてるか自覚してねーぜ」
説明しながら、【神楽】は、
(しっかし、自分の体と声相手に、榊の体と声で話し掛けるって違和感バリバリだな)
などという感想を持っていた。
「いいか榊。あんたの身長は170オーバー。太股の筋肉、腕の筋肉、腕の筋肉、
体のバランス、もうバッチリ!!」

95 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:56 ID:???
【榊】は、いきなり自分の体のことを言われてこっぱずかしくなり、
「い、いや……その……好きでそうなったんじゃないし、もっと背の低い方が……」
【神楽】は、今は【榊】が使っている自分の顔を見て、
(うわー、私って弱気のときはこんな顔してるんだー。
うーん案外自分でも分からねーもんだなー)
と感心しつつ話を続ける。
「そう、そこだよ榊!! 『もっと背の低い方が……』なんて贅沢な悩みだー!!
いいか! 背の低い人間が、体格に恵まれない人間が、どんなに辛いかあんたは
分かってない! 毎日牛乳を1リットル飲んで、七夕の願い事に
『背が高くなりますように』って書いても私は背が高くならなかった!!
鉄棒に逆さにぶら下がるという無駄な努力もやったさ!!
ああ、もっと体格が良ければ私の記録は学校の狭いプールをぶち抜いて津々浦々にあふれ出し
バサロが個人メドレーでフライング……」
【榊】は【神楽】が体が入れ替わったショックと興奮でおかしくなっていると思ったが、
あんまり自分の体で変なことをしゃべって欲しくないという気持ちもあったので、とりあえず
「ご、ごめんなさい……」
と謝っておいた。興奮し過ぎて自分でも何をしゃべっているか分からなくなっていた
【神楽】は、榊の謝罪を渡りに船とばかり受け取って、
「う、うん。分かればいいんだ。私も言い過ぎたな」
と、一息おいて、
「つまりだ。榊はあんまりこの体……今私が入っているヤツを有効利用していない。
こんなに運動向けの体はそうそうないのにだ。私は正直うらやましい、もったいないぜ、
なんで水泳部に入らねーんだ、と思っていた。そこへ今回の事故だ。私は榊の体を、
榊は私の体を手に入れた。これはせっかくの稀代の肉体を
有効利用するチャンスだと思わねーか?」

96 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:57 ID:???
 【榊】にもなんとなく話が見えてきた。
「私の体を使って、いい記録を出したい、そういうことか?」
「まあ、そんなところだ。安心しろ榊。あんたの肉体はきっと日本の水泳界発展のために
役立ててみせる!!」
(すいません親からもらった体なんで勝手に使われるのはちょっと)
と【榊】は思ったのだが、【神楽】は話す暇を与えず、
「よーし、そうと決まればさっそく実行!! この肉体の底力を試してやるぜ!!
生まれ変わった私を見ろーっ!!」
と、【神楽】は叫ぶと扉を開けて駆け出して行ってしまった。
うりゃうりゃうりゃー!! などとドップラー効果つきで叫んでいる声が聞こえる。
榊の声(CV:浅川悠)で。
 【榊】は、元に戻れなかったらどうしようとか、体が入れ替わってしまって
どんなふうに生活に支障が出るのだろうか、という心配よりも、
(私の体で変なことをしないで欲しい……
せっかく、まあ最近趣味の可愛い物好きの副作用で崩れてきたとは言え、
クールでクレバーなイメージでやってるのに……)
という心配をしていた。

97 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:58 ID:???
 【神楽】はまるでこの世の春を謳歌しているような気分だった。あの榊の体が
自分のものになっているのである。借りると言ったが、返すつもりはなかった。
二人を元に戻す方法が見つかったとしても、地の果てまで逃げ回るつもりだった。
大丈夫、私の肉体より榊の肉体の方が足が速い。校内の女子で追い付けるものはいない。
男子に対しても男子の平均レベルくらいならまず大丈夫。あ、長距離が苦手なのか。
まあなんとかなるさ、榊が返せーって追いかけてきても地の果てまで逃げ切れる。
でも水の果てになると不利か? そんなことを考えながらルンルン気分で校庭にでた。
見る人が見れば、【神楽】の頭にチューリップが咲いているのが見えたかもしれない。
 校庭では陸上部が練習していた。榊の肉体の力を試すチャンスである。
【神楽】は勝手に練習中の女子選手の横について競争した。完勝した。
ついでに男子選手も何人か追い抜いておいた。男女陸上部長と数人の部員が走ってきて
【神楽】にクレームをつけた。練習中に勝手にトラックに入るんじゃない、
そうよそうよあんた帰宅部でしょ何様のつもりよ、と。【神楽】は、
自分が他人から見れば榊であることなどすっかり忘れて、
「うるせーバカ!! 私は走りたいから走っただけだ! 遅い奴はトラックから出て行け」
と、【榊】が見ていたら卒倒しそうなやりとりをしてしまった。このやり取りで
当然男女陸上部員の榊に対する印象は基本的に悪化したが、中には
(ああ……毒舌な榊様も素敵だわ……)
(ああ……あんな風にして榊さんに言葉責めされて肉棒踏まれたいハァハァ……)
という部員もいて、若干人気が上がったのもまた事実だった。
 多数の敵意のこもった視線と若干のえろえろな視線を浴びつつ【神楽】は
トラックを後にした。プールに向かっていたのだ。校舎と校舎の間の人通りの少ない
場所にさしかかったとき、何者かが【神楽】に飛びついた。

98 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:59 ID:???
(バカな?! 私に気付かれずに近付いてきた? くそっ、榊か!?)
そう思いつつ慌てて不審者を確認……するまでもなかった。
「さーかーきーさーーーん!! ご無事だったんですねーーっ!!」
(かおりんかよ……)
 かおりんは天体望遠鏡を使い屋上から榊……今は【神楽】だが……を監視していたのだ。
榊が本物の【榊】ならばこの程度のかおりんの監視には引っかからないし、
不意打ちで飛びつかれたりもしないのだが、あいにく今日は中の人は神楽である。
「榊さーん!! ほんとにご無事で何よりです!! 私、本来なら保健室で榊さんが
お目覚めになるまでちゃんと看病してさしあげたかったんですけど、
ゆかり先生が『てめえ私の授業に出れねえのか!!』
って無理矢理私を引っ張って行ったんですよ!! ひどいですよねー!!
それにゆかり先生はこんなことまで言ったんですよー! 『ふっふっふっ……かおりさん、
心配しなくてもいいわよ。どーせ榊は神楽と二人っきりでよろしくやってるに
違いないわよー!! だって今日養護の先生休みでいねーんだもんねー!
二人っきりの保健室、起きたばっかでまだ動けない榊に向かって神楽が
「榊ぃ、私はあんたのことが……」、榊が「いけないよ神楽……私にはかおりんが……」、
神楽が「そんなこと言ってここはいやがってないぜおりゃおりゃ」、
榊が「うう……汚された……でも悪くない……神楽に乗り換えよう」って
ちょっとかおりさん何マジ切れしてんのよジョークに決まってるだろジョークに
ええい分かった分かったから廊下でそんな卑猥なことを大声で叫ぶんじゃないわよコラ!』
ってー!! でもね榊さん、こんなことでは私の想いは(以下長文のため1024行略)」
と、このようにまくしたてるかおりんに【神楽】は辟易した。
(ゆ、ゆかり先生……あなた本当に教師ですか……? てゆーか、それかおりんにだけ
言ったんですよね? クラス全員の前で言ったりしてないですよね?
ああ、後で確認取らなきゃ……。ったく、榊と私がデキてるってネタいいかげんに
止めて欲しいぜ。デキてねーつーの! 大体ともとよみの方が怪しいだろうってゆーか
かおりんいいかげん放してくれよどこ触ってんだよったく榊は毎日こんなのに耐えてんのか?)

99 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 01:59 ID:???
 実は榊は普段はかおりんが現れると適当にどうとでも取れる言葉を呟いておいて、
かおりんがくらっとなった瞬間にその俊足を生かして逃げているので大事には
いたってないのである。しかし場慣れしていない【神楽】には
それは無理というものであった。ベタベタと触りまくるかおりんに
【神楽】はぶつっと切れてしまい、
「ああもう!! 気持ちわりぃからやめろよ!!」
と怒鳴ってしまった。愛する「榊さん」に怒鳴られたかおりんは、
「うう……榊さん、どうしちゃったんですか?」
と【神楽】を涙目で見上げてきた。
(あ、そっか。榊の背の高さだとかおりんの顔は下にくるんだな。
っと、そんな場合じゃねえ。どうフォローしようか)
【神楽】は榊のイメージにあったフォローを考えたが、ガサツでボンクラな彼女には
2秒が限界だった。彼女が2秒で導きだした結論、それはめんどくさいので
地のままでいく、ということだった。
「あー、私急いでっから。それとあんまりべとべと触るんじゃねーよ。
この時期暑っ苦しいだろ。そんじゃな」
そう言い残してプールの方に駆け出して行った。残されたかおりんは
「榊さん……言葉遣いが悪くなっちゃって……それに冷たいし……どうしたんだろう」
と呟いていた。

100 :84BHHK5c :2003/04/25(金) 02:32 ID:???
 【榊】は困っていた。それはそうである。いきなり友人とは言え他人の体になって
困らない方がおかしい。しかもその友人は榊の体を持ち逃げしてどこかに行ってしまった。
「どうしよう……」
きょろきょろと誰もいない保健室の中を見回す。天井が、棚が、ベッドのカーテンレールが、
全て高く見える。自分が神楽の体を借りているということが実感できた。
(ああ……)
嘆きながら足下を見る。何でこんな風になってしまったんだろう。そう思いつつ床を
はわせていた視線が一点に止まる。
(神楽の上履き……小さい)
さっき立ち上がったときは余裕がなかったため上履きなど気にしなかったが、
よくよく見ているとかなり普段自分の使っているものより小さいのだ。そして姿見を
もう一度見て自分の姿を確認する。
(やっぱり小さい……ともや大阪と同レベル……これは……これは……
可愛い服を着るのにうってつけ?!)
これなら普段自分には似合わないと諦めていた可愛い服が着られるかもしれないのだ。
もちろん、ちよちゃんレベルは無理にしても、工夫すればある程度いけるかもしれない。
もし普段神楽に可愛い服を着ることを頼んだとしても、断られるのがオチだろう。
だが、今は神楽の体は【榊】のものなのだ。
(そうだよね……神楽だって私の体を使うって勝手に行ってしまったんだ、
ちょっとぐらい私も好きなように使わせてもらっても構わないはずだ)
 今の【榊】は、小さい頃から悪ガキに「十六文」、「アッコ和田」などと
からかわれていた大女ではない。「目つき悪い」とか「三白眼」とか、「鉄面皮」などと
詰られていたちょっと怖い印象の女ではない。結構小さいのにやたらとグラマラスな
少女なのだ。ややつり目だけど、くりっとした大きなきれいな目で、
笑顔が素敵なさわやかスポーツ少女なのだ。
(……っ!)
 可愛い想像をし過ぎて、いつもの症状が現れた。姿が変わっても
これは変わっていなかった。【榊】は結局十分ほどそこで姿見を見ながら震えていたのだった。

(つづく)

101 :名無しさんちゃうねん :2003/04/25(金) 23:40 ID:???

 あまりに身勝手に暴走する神楽in榊のちょっとムカついてしまった。
次回は神楽の体の榊さんが暴走する番でつか。どうなる、どうなる?
 えらく楽しみであります。がんがってください。

102 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:27 ID:???
>>100からの続きです。

 ひとしきり可愛い神楽の妄想に浸った【榊】は、ようやく我に帰ると
着替えをすることにした。体育の時間に倒れたあと体操服を着たままだ。
さすがにこのままでは帰れない。気絶している間に届けられていたらしい、
二人分のバッグの中から自分のバッグを選……ぼうとして、気がついた。
(そうか、私は今神楽なんだから、着替えは神楽のバッグの中だ。あれ? 神楽は……
体操服のまま飛び出して行ったな……。頼むからそのまま学校の外に
出たりしないでくれ……私の体で……)
神楽がどこにいるのか急に心配になってきた。着替えが終わったのですぐに神楽を探しに
出ることにした。
 二人分のバッグを持ち、扉を出て保健室に鍵をかけていると、声をかけられた。
「神楽センパーイ!! もう大丈夫なんですかーっ!!」
一瞬自分が呼ばれていることに気がつかなかったが、あっ、と気付き
すぐに声のした方向を見た。ポニーテールの女子。知らない女子だ。
「先輩、怪我の具合はどうですかー? やっぱり、今日は練習来れませんかー?
あの……もしかして大会も無理とか……」
恐らく、神楽の所属する水泳部の部員だろう。そう見当をつけた。そういえば神楽が
大会がどうこうとか言ってたっけ。
「いや……怪我は大したことない……」
ここまでしゃべって気がついた。自分は今神楽なのだから、神楽らしくしゃべらなければ。
 【榊】は考えた。
(言葉遣いもそうだが、話す内容も問題だ。神楽らしく振る舞わないとすぐにばれてしまう。
神楽の言う通り、今自分達の異常に気付かれるのは得策ではないな。カムアウトは時期と状況を
考えないと。この子の質問だが、神楽ならどう答えるだろう……)
以前神楽から聞いたエピソードを【榊】は思い出していた。その1:熱が38度あるので
気合いで熱を下げようとしてジョギングしたら実はインフルエンザで肺炎になりかけた。
その2:なんだかぶつけた足が痛いので気合いで直そうとして短距離ダッシュしたらよけい
痛くなり実は骨にひびが入っていた。以上2つのエピソードから、神楽は超のつく
体育会系思考であることが分かる。

103 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:28 ID:???
(なるほど、この程度の怪我で休むのは「神楽らしくない」ということになるな。
あとはしゃべり方や声の調子に気をつけて……)
「こんなの怪我の内にはいんねーよ。ここの鍵を職員室に戻したら行くから」
「あ、じゃあ私もお供しますー」
「おう、じゃあ行こうか」
まったく違和感を感じさせない完璧な会話だった。2秒で考えることを放棄し、
かおりんを困惑させた【神楽】とはえらい違いである。【榊】はこういう所で律儀だった。
(しかし……ここまではうまくごまかせたけど、水泳部の部室に行って
どうすればいいんだ? いや、それよりも練習に私が出ていいものかどうか分からない……
でも今の私は少なくとも外見上は神楽のわけだし……うーん今さら私の姿をした
神楽を探しに行くわけにもいかないだろうし……ん?)
 【榊】の思考はそこで中断した。ポニーテールの女子が取り出したものに視線が
行ってしまったからである。
(あ、あれは「ねここねこ手帳」! 品薄で駅前の文具屋にも売ってないのに……
いったいどこで?!)
【榊】が「ねここねこ手帳」に釘付けになっていると、ポニーテールが
「あ、これかわいいですよねー? ねここねこ手帳って言うんですよー」
【榊】が慌てて返事をする。
「えっと、そ、それをどこで?!」
「駅の北口からちょっと離れた所にあるお店ですよー。結構他のとこで見つからないものが
あったりする穴場なんですよー。おまけでこんなストラップももらっちゃったしー」
「非売品か?!」
「え? ええー、そうですよー。でも私いっぱいもらって余っちゃって……」
そこまでしゃべったところで、ポニーテールは神楽先輩……つまり【榊】の目がギンギンに
輝いているのに気がついた。
「あ、あのー神楽先輩? もしかして先輩ってこういうの好きだったりするんですかー?」
「あ、ああ、ちょっとな。」
『大好きです!!』と叫びたいのを必死に堪えて何とか返事をした【榊】。
「もし良かったらー、私おまけがいっぱい余ってるんでー差し上げますよー。」
「下さい!!」
堪えきれなかった。
「?!」
「じゃ、じゃなくて、それじゃーもらおうかな……」
「……えっとー、じゃあまた今度持ってきますねー。でも先輩がこれ好きだなんて意外ですー」
このとき【榊】は、心から自分が神楽になって良かったと思った。

104 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:28 ID:???
 ポニーテールと一緒にプール下の水泳部部室に向かう【榊】は、プールに向かって
体操服のままずんずん歩いている【神楽】に気がついた。
「おーい、かぐ……じゃなくて、さかきぃー!!」
【榊】は【神楽】を呼び止めた。こっちに来い、と手で合図する。【神楽】が答える。
「あーっ! なんだ榊、西山と一緒だったのか!」
走りよってくる【神楽】。焦る【榊】。西山と呼ばれたポニーテールが疑問を口にする。
「あ、あのーっ! こちらは神楽先輩ですよー。それに、あなたが、いつも神楽先輩が
言われてる榊先輩ですよねー?」
(しまった、マズイ!!)ようやく【神楽】も気がつく。
「あ、あははー。いや、ちょっと勘違いしただけじゃねーか! 気にすんなって!」
何とか返事をした【神楽】に西山部員の追い打ち。
「榊先輩初めましてー。でも神楽先輩から伺ってたのと印象違いますねー。
クールな方だって伺ってたんでー」
(うわぁ……)焦りまくる【神楽】に【榊】が助け舟を出す。
「今日はちょっと榊は機嫌がいいんだよ。普段はもっと無口なんだけど」
 そこまで言っておいて、すっと【神楽】に近付きひそひそ話をする。

105 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:29 ID:???
「(神楽、バッグも持たずに何をしていたんだ。)」
「(ああ悪い。持ってきてくれたのか。さんきゅー)」
「(私は部活に参加しなくてはいけないの?)」
「(へ? 別にあんたは参加しなくていいぜ。部員じゃねーんだから)」
「(状況を思い出してくれ。他の人から見て『神楽』は私だ……。部員じゃないのは
『榊』の姿をしたきみの方だ。)」
「(あっ、そうか。今だけ元に戻ろう)」
「(何を言っている。戻る方法が分からないから相談してるんだ。そう都合よく
入れ替わったり戻ったり出来るわけがない……)」
「(じゃあどうすんだよ)」
「(今日だけでも私、つまり神楽は欠席というわけにはいかないか?)」
「(冗談だろ?! 大会前のこの時期サボったら黒沢先生になんて言われるかわかんねーだろ!
つーか冗談抜きで殴られるかもしれねーぞ!)」
「(黒沢先生……今日の体育の時間は出張でいなかったけど、来てるの?)」
「(夕方には出張から戻って練習見て行くって昨日言ってたから、来てるだろ)」
「(事情を説明できないかな。私達の現状を……)」
「(だから信じてもらえるわけねーって! サボる口実だと思われるのがオチだ)」
「(でもこれじゃ本当に部活に参加すべき神楽が参加できなくて、私が参加すると
いうことになってしまうけど……)」
「(……頼む、榊! 私の代わりに練習に出てくれ!!)」
「(無理だ……どうすればいいのか分からないし……)」
「(みんなについて行けば分かるって!!)」
「(いや、やっぱり無理だ)」
「(どうしてだよ!!)」
「(体育会系は苦手で……)」
「(好き嫌いでもの言ってる場合かー!! 頼むよお願いだよ出てくれよ!!)」

106 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:31 ID:???
 何やら内緒話を始めた先輩とその友人を見ていた西山部員は、
「あのー、私先に行ってましょうかー? 席外した方が良さそうですし……」
と、部室の方に進もうとした。それを見て【神楽】が叫ぶ。
「ちょっと待って!!」
「なんですかー?」
西山部員が立ち止まり振り向く。
「あ、あの(えーと榊のしゃべり方は、えーっと)……わ、私も水泳部を……
あの、見学というか、体験入部させてくれないか? お願いだ!!」
これには【榊】が目を丸くして、
「な、な、何言ってるんだかぐ……もとい、榊!!」
と叫んだ。
【神楽】が【榊】にひそひそ声で話し掛ける。
「(まあ落ち着け榊)」
「(どういうつもりだ)」
「(榊のかっこした私が無理なく練習に参加するにはこれしかない。
こうすれば私があんたにどうすればいいのか教えてやれるし、私も練習できるかもしれねー)」
「(それはそうだけど。準備を何もしてない)」
「(榊は今日注文してあった体育用の水着が届いたんだろ。あれを私が着ればいいんだ。
タオルとかは貸してやる。と言うか私が「神楽」のタオルを借りるってわけだな。)」
「あのー」西山部員がひそひそ話を遮る。
「えーとですねー、そういうことは神楽先輩に相談された方がいいと思いますー。
ていうか今ひそひそ相談されてましたよねー。神楽先輩、どうされますかー」
「え、えっと……」【榊】は言い淀んで、
「これから決める……」
と返事をした。
「はいー、ではそーゆーことですのでー。それでは私はお先に行かせていただきますー。でもー」
西山部員はクスッと笑って、
「榊先輩やる気じゃないですかー。神楽先輩の勧誘がようやく実を結びましたねー。
もうちょっと早く決めていただければもっと良かったと思うんですけどー。
仕方ないですよねー。それではー」
そして、トコトコと部室の方に歩いて行った。

107 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:33 ID:???
 「……神楽」【榊】が不機嫌な調子で呟く。
「あれじゃ私が水泳部に入る気満々みたいだ……」
【神楽】はいたずらっぽく笑って
「わざとそうしたに決まってんだろ。こうでもしないと神楽のかっこしたあんたに
揉み消されるかもしれなかったし。やる気がねーとか理由つけてさ」
【榊】は【神楽】の、周りから見れば「榊」の顔を見て驚いた。
(こんな笑い方私には出来ない……私の顔なのに……やっぱり人は性格次第で
笑い方も変わるんだ。私が私でいたときの私の顔は、あまりにも無表情だ)
しかしそんなことを考えてばかりもいられず抗議を続ける。
「今だけだ。元の体に戻ったら私が水泳部に所属するのは嫌だから」
「つれないこと言うなよー。西山の言ってたことは本当だぜ。もう少し早く入ってたら
榊も今回の大会にだって出られてたかもしれねーんだぜ。」
「それだけレギュラー枠が減るだろう。みんなにとってはうれしくないんじゃないのか?」
「まあそうかもしれんが……ところで何でさっき即答しなかったんだよ。
あんたは今神楽なんだから、あんたがうんと言えば体験入部できるんだよ。
体験入部だから黒沢先生には事後承諾とっとけばいいし」
「でも……」
「今の所他の選択肢はねーぞ。さあ決めちゃえ」
「……『榊』の体験入部を認める」
「そうこなくっちゃな。でも後からやめるなんて言っても黒沢先生が放さねーかもしれねーぜ。」
「おどかさないで……。ああ、一瞬でも神楽の体をいいと思った自分が間違いだった。
こんなことになるなら早く自分の体に戻りたい」
「戻るつもりなのか? 私はこのままでいいけどな。うーん、水泳のときだけ榊の体
借りるってわけにはいかねーのかな」
「無茶言うな」
 二人は部室に向かって歩いて行く。戸口の所で【神楽】がふと気になったことを
【榊】に質問する。
「ん? 私の体をいいと思ったのは何でだ?」
【榊】が返事をする。
「かわいいから……小さい方がかわいくていいよ……」
【神楽】はちょっと呆れた。【榊】が続ける。
「ゴシックロリータとか着たい……」
【神楽】は思った。何のことだか分からん。まあどうせフリフリの服とかそんなんだろ。
正直そんなのを着ようとするのは止めて欲しい、と。

108 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:36 ID:???
>>102-107でした。続きはまた今度です。
下のは小ネタで上のとは関係ありません。

「……いくら用意できたの?」
「これだけです……」
「うわっ、少ねーなあんた。ホンットスズメの涙だよ」
「すみません……」
「で、だ。もう一個の契約の方なんだけどさ」
「はい」
「あんた最近ノリ悪すぎ。ギャグへの反応も悪いしさー。
ツッコミだってもっとまともなのできないの?!」
「いえっ、その、がんばってるんですけど……」
「がんばってるじゃないよ。周りに受けなきゃ意味ないんだよ。
あんたそれ分かってんの?!」
「すみません……」
「すみませんすみませんって、そればっかり言ってりゃ済むわけねーじゃん」
「はい……」
「大阪もいるんだしさ、ツッコミだったら神楽でも出来ないことはないんだよね。
このままだったらあんたいらないよ! 私がクビにするって言ったらあんたには一銭も
入んないんだからね。そしたらあんた……体でも売る?」
「そ、それだけは嫌……」
「嫌でしょ?! 嫌なんでしょ?! だったらちゃんとやりなさいよ!
きちんと私の要求することできればその月の返済はチャラにしてあげてるんだからさ。
今月あんたにお金持ってこさせたのもあんたがちゃんとやってないからだよ。
ちゃんとやることやろうよ。やれるでしょ?!」
「はい……やります」
「やれるんだね?! じゃあしょうがねーな、今回は今まで通りにするよ」
「あ、ありがとうございます!」
「あー、泣かんでもいい。んじゃ、まー、この話はこれで終わりね。あの時計で
5時から『お友達モード』ね。来月までちゃんとやってよ。正直私はさー、
小学校のときからこの契約してるあんたを結構信頼してるんだし、
期待してるんだからさ。裏切らないでよね」
「は、はい」
「10秒前……5、4、3、2、1、ピーン! 時間でーす!」

109 :84BHHK5c :2003/04/26(土) 00:37 ID:???
「あー!! もうムカツクなー!!
何でお前にこんなにネチネチ言われなきゃいけねーんだよ!!」
「だってさーよみー。最近あんたダメダメだもーん!
そりゃー文句の一つも言いたくなるよ」
「うーっ、くそっ! 小学校の時に父さんがお前の親に借金さえ作ってなければ
お前みたいなヤツの友達なんかやってなくてすむのに……」
「ふっふっふっ、これからも私の幼・馴・染・みとしてせいぜい私に
尽くしてくれよよみくん」
「あーっ、勉強して絶対いい大学入っていい男つかまえて玉の輿に乗って
おまえとの縁を完全に切ってやるからな!!」
「あっはっはー! お菓子大好きぷよぷよよみくんに男がつかまりますかねー?」
「こいつ……言わせておけば……アッパー!!」
「ぐはっ!! そう、そのツッコミだよよみくん! いやー久々に会心の一撃!
いっつもこれだったらひと月で2か月分チャラにしてあげるよん♪
大阪や神楽に食われないようにがんばってくれたまえ☆
ま、大阪や神楽によみと私の『契約』をばらせばちょっとは手加減してくれるんじゃ
ないの? あんたと私がお金の関係だって知ったらみんなさぞ驚くだろうねー」
「言うか! 絶対言わねー!! お前も誰にも言うんじゃねーぞ!!」
「はいはい、分かってますって。よみは昔から強情だなー。
そういうとこが結構好きなんだけどね」
「えーい、覚えてろよとも!」

以上、二人の『お友達契約』           (終)

110 :名無しさんちゃうねん :2003/04/26(土) 01:33 ID:???
>>108

> 下のは小ネタで上のとは関係ありません。

いや、上のはいい感じになってきたんで続きが読みたいけど
下のはいかんな。
ブラックな線をねらったのはわかるけど、読後感が悪いだけでつ。
黒いけど、萌える・・・・・・受けるのはこのパターンでは?
黒ちよスレッド等を参考にしてくらさい。

111 :ケンドロス :2003/04/26(土) 01:45 ID:???
>>82
でもセリフで進める場合、どーしても被ってしまう事あるんですよ。特にともと神楽
って喋り方似てるから、榊もしくはよみとの絡みがないと区別つけずらいんですよ。
だから二人が一緒に喋るシーンはいつも苦労します。
千尋に関してはある程度適当に喋り方決めてますけど。
自分は人にもの教えられる程偉い立場にいる人間ではないので、納得いくまで
書き続けるしかないとしかいえません。すいません、お役に立てなくて。

>>109
ダーク榊さんの話の続きが浮かんだんですけど、載せて大丈夫でしょうか?
もちろん、◆84BHHK5cさんが描いていたイメージと違うものになる可能性
があるから一応ダメかどうか聞いてみたいのですが・・・・

112 :ケンドロス :2003/04/26(土) 01:50 ID:???
>>109
これまた変わった作品ですな。(褒め言葉です)欲を言えば、かおりん以外の
レギュラーメンバーの反応も見てみたいです。続きで書かれるのかな?

もう一本のは>>108のは無いほうが良かった気が・・・・

113 :名も無きSS書き ◆K6TB303w :2003/04/26(土) 14:32 ID:YH.7aMAw
>>榊×神楽チェーンジ(古!

すっげぇ混乱したけど…神楽inゴスロリは見てみたい。(*´Д`)

114 :うちゅー ◆AZUxozdw :2003/04/26(土) 18:59 ID:???
ゴスロリ榊、10歳、無表情はどうだろう。

115 :84BHHK5c :2003/04/27(日) 01:38 ID:???
なんか紛らわしかったかも。
>>107-108でワンセットです。
榊神楽の話とともよみの話は別次元と言うことで。
>>107-108はライトな感じのブラックを狙ったんですけど
うまく行きませんでしたね。スレ汚しすみません。

>>111
ぜひ書いていただきたいです。自分はあの話の続きとか
考えていませんし、あの設定の榊を使った話も
今の所考えていませんので。楽しみにしてます。

えーと、榊神楽入れ代わりの話なのですが、予想以上に長くなりそうで、
このままここに長い文貼りまくって自分一人でスレを汚していいものか
と思っておりますが……。御意見を伺いたいです。

116 :84BHHK5c :2003/04/27(日) 01:39 ID:???
>>115>>107-108となっている部分は>>108-109の間違いです。
すみません。

117 :名も無きSS書き ◆K6TB303w :2003/04/27(日) 01:51 ID:kcXnm1lI
>>115

続きキボン!続きキボン!続きキボン!続きキボン!続きキボン!

118 :名無しさんちゃうねん :2003/04/27(日) 02:28 ID:???
>>115

途中で終わったら眠れないっすよー

119 :ケンドロス :2003/04/27(日) 02:36 ID:???
>>115

続けてください。かくいう自分も今ジャスティスのSS書いてる真っ最中ですが・・・

120 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:40 ID:???
「榊、準備はいいか?!」
 【神楽】が階段の上から呼び掛ける。
「うん……」
【榊】が答える。【神楽】はちょっとムカついた。
「榊ぃ!! もっと元気出せよ! そんなに腑抜けてたら
いいタイムは出ねーぞ!!」
【榊】の心は暗澹としていた。いくつかの問題が彼女を悩ませていた。
 まず、どうしても体育会系が苦手なのだ。今怒鳴った体育会系の友人一人にも
辟易することがあるのに、この階段の上、プールサイドにはそういう人間ばかりが
たくさんいるのだ。中学生のとき、勧誘攻勢に勝てずいくつかの運動部に入ったが、
一つ目は3日、二つ目は1日、三つ目は2時間と45分で辞めてしまった。四つ目は、
さすがに懲りていたのでしつこい勧誘から逃げ出した。あまりにも榊の足が
速かったため、勧誘する側の生徒が追いつけないという事態が発生して
勧誘していた部の面子が大いに傷付いたのだが、それは榊の知る所ではなかった。
 この水泳部の顧問は黒沢みなもである。担任、谷崎ゆかりの大親友で、
榊も仲良しグループと一緒にプライベートで遊びに行ったことがあるのだ。
つまり、普通の教師と生徒という関係よりもお互いを知っている関係である。
ただ、今回は相手に自分のことを神楽と認識されているのが問題なのだ。
まだ「お客さん」の榊と異なり自分が神楽だとやはり手加減はあんまり期待は
出来ない。そういえばさっき【神楽】が言っていた。
『大会前のこの時期サボったら黒沢先生になんて言われるかわかんねーだろ!
つーか冗談抜きで殴られるかもしれねーぞ!』
黒沢が本当にそこまでするのか、【榊】には分からない。しかし、こう言ったときの
【神楽】の顔は冗談を言っている顔ではなかった。ヘマをやって怒鳴られるなら
まだしも、殴られたらどうしよう。泣いたら余計に殴られるのだろうか。
恐怖に捕われる【榊】の頭の中で、「懐かしのアニメ特集」などの番組で流れる
スポ根アニメのシーンがぐるぐる回った。
 それに純粋に体の問題もある。どうも感覚が変なのだ。足の長さの感覚が
違うのか、階段で4回もつまづきそうになった。【神楽】に調子を聞いてみたい
とも思ったが、【神楽】は榊の体に有頂天であんまり気にしていないようだ。
 さらに問題なのは【神楽】の態度である。自分の感情を優先するあまり、
榊として似つかわしくない態度を取る、というより、むしろ榊になりきる気が
微塵も感じられないときがあるのである。【榊】としては自分の体でイメージと
違う変なことをされるのはうれしくない。

121 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:40 ID:???
 そんな悩みを抱えつつ、【榊】はプールサイドに立つ。ほどなく集合がかかり、
生徒が集められる。【榊】は【神楽】に手を引かれてようやく整列できた。
準備運動の後、黒沢が生徒に注意を与えようとしたが……
「あら? あなた榊さん?」
黒沢の声に、全員が列の後方にいる、皆から見れば榊、つまり【神楽】に注目する。
最前列の【榊】は、あっそうか、自分が紹介しなくちゃ、と思った。
「ええと、榊が今日は体験入部に来ています。皆さん、どうかよろしくして
あげてください」
【榊】がこういうと、今度は全員の視線が一斉に、皆から見れば神楽、
【榊】に注目した。明らかに普段と違うのだ。皆、神楽が
「みんな喜べ!! 見ろ!! ついに我が水泳部は榊を獲得したぞー!!」
ぐらいは言うと思っていたのだが、肩すかしを食った形になっていた。
黒沢もちょっと怪訝な顔をしたが、とりあえず先に進めることにした。
 黒沢の話の途中、【榊】はふと【神楽】が気になった。変なことされていては
困る、そう思い【神楽】を見た。それに気付いた【神楽】がジェスチャーと
口パクで「バカ! 前を向いてろ!」と【榊】に向かい訴える。【榊】が
よく分からず、え? と怪訝そうな表情をしていると雷が落ちた。
「神楽!! どこ向いてるの!!」
怒声にびっくりして慌てて【榊】が黒沢の方を見た。黒沢が続けた。
「私の話を聞いていたの?! 榊さんが来てるからって浮かれてるんじゃない
でしょうね!! 大会前にそれじゃ困るわ!! 気合いが抜けてるじゃないの!!」
黒沢の迫力に圧倒された【榊】は硬直して動けなかった。こんな黒沢は見たことが
なかった。いや、酔ったときは別として。
「気合いを入れ直しなさい!! 腕立て30! ……早く!!」
慌てて腕立て伏せの姿勢をとる【榊】。無言で腕立て伏せを始めたが、
「声が出てないわよ!! もういっぺん最初から!!」
結局、3回やりなおしをさせられてようやく起立の姿勢に戻された。

122 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:41 ID:???
やっと終わった、と【榊】が思った次の瞬間、
「あんたたち! 榊さんが来てるからかどうか知らないけど全員たるんでるわよ!!
今は神楽が腕立てしたけどほんとは全員でやらなきゃいけないくらいよ!!
この調子でまともに泳げると思ってんの?! 集中しなさい集中!!」
と黒沢が怒鳴った。全員が
「ハイッ!!!!!!」
っと返事をする。既に【榊】はこの時点でくじけていた。黒沢は別に神楽を
いじめようとかしてたわけでなく、いきなりの見学者、それも有名な榊のせいか
場の雰囲気がそわそわしていたため、エースである神楽を注意することで全員に
対する効果を狙ったのであった。だが馴れていない【榊】は、自分のせいで神楽、
そして水泳部全員が怒られたものと思い責任を感じてしまって小さくなっていた。
そして何より、この体育会系独特の雰囲気から早く逃げ出したくなった。
 「練習始め!!」の声で部員がそれぞれの練習位置に向かう。【神楽】は
【榊】にこっそり近寄って行った。【榊】がへこんでいるのはまずい。声をかけてみた。
「おい、大丈夫か?」
「わ、私のせいで……」
「あ、あのなあ、こんなのしょっちゅうあることだって。私なんかおとといも
ああやってどやされたし。いちいち気にしなくていいんだよ。」
「わ、分かった……」
「うん。とりあえずあの4コースで前のヤツのやる通りに泳いでみな。
私もちょっと泳ぐ。榊の体でどれくらい速く泳げるか確かめてーし」
「あんまり期待しない方が……」
「いやもうぶっちぎるって! よっしゃー! いくぜ!!」
元気よく歩いて行く【神楽】。その背中を見ながら、【榊】は
(やっぱりあんまり叫んだりしないで欲しいなぁ。変に思われる)
などと心配していた。

123 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:41 ID:???
 心配ばかりしていてもしょうがないし、またどやされても嫌なので、
【榊】はとにかく泳いでみることにした。
「やっぱり体の感覚が全然違う……」
戸惑う【榊】。さらに距離の目測を誤って、コース端でうまく壁を蹴るターンが
出来ず、空振りしてしまった。
(だ、だめだ、こんなんじゃ……私が神楽でないのがばれてしまう)
そう思いつつも何とか泳ぎ再びコース端まで来てプールサイドに上がるために
顔を上げると……黒沢がこちらを覗き込んでいた。思わずひいっ! と声が
上がりそうになる。さっき見たことのない黒沢に怒鳴られた恐怖がまだ残っていた。
黒沢が口を開いた。
「どうもあなたらしくないわねぇ……リズムが完璧にずれちゃってるわ。
昨日まで良かったのに今日になって急にだし。困ったなぁ。ターンの失敗は
ケアレスミス? それもあなたらしくないけど」
【榊】は、とりあえず怒鳴られなかったことにほっとしながら、
「あ、はい、すみません……」
と謝ってみた。黒沢が続ける。
「もしかしてあなた急にフォーム変えた? 伸び悩んでるのは分かるけど
フォーム変えてる余裕はないわよ。変えたんならすぐに戻しなさい。
けどなんか引っかかるのよねー。フォーム変えたというより、なにかこう、
別人の泳ぎを見ているような……」
「せ、先生……」【榊】がおずおずとしゃべりだす。
「何、神楽? やっぱりフォームを……」
いきなりおーっという歓声が上がった。声の上がった方を見ると、【神楽】、
つまり皆から見た榊が飛び込んだ所だった。皆有名人の飛び入り練習に注目している。
「ごめん、後で聞くわ。とにかくフォームは戻すのよ」
そう言うと黒沢も【神楽】の飛び込んだ方に向かう。【榊】は、本当は自分達が
入れ替わっていることを黒沢に言おうとしたのだが、言いそびれてしまった。
泳ぎ方が別人と言われたので、もしかしたら自分の中身が本当に神楽とは
別人だと分かってくれるかもしれないと思ったのだが。

124 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:42 ID:???
 泳ぎきった【神楽】はすぐにプールサイドに這い上がり、
「タイムは? タイム! 言ったように計ってくれた?!」
と叫んだ。【神楽】は期待していた。この体なら確実に自己記録は更新できると。
そしてタイムを告げられる。
「……!!! うおっしゃー!! いける!! これならいけるぞーー!!」
叫ぶ【神楽】。周りの部員が目を丸くして
「あ、あの、榊先輩? 落ち着いてください」
と言うが聞こえていない。まずい、と【榊】は思い、慌てて【神楽】の所に行く。
止めないと。
 周囲の部員は、いつも神楽からクールで優しいヤツだと聞かされていて、
実際に生徒の間でもクールビューティーで通っている榊が体験入部でいきなり
タイムを計ることを要求し、さらに大声で騒いでることに驚いた。
榊さん、こんな人だったの?
 ようやく【榊】が到着した。
「待て、かぐ……じゃない、榊」
【榊】は【神楽】を羽交い締めにした。が、困ったことに今の二人は
入れ替わっている。【神楽】の方が大きいからずるずると引きずられて行く。
周囲を見回すが、いつの間にか黒沢がいなくなっていた。
(こんなときに黒沢先生はどこに行ったんだ……とにかく自分で何とかしないと)
「何だよ人が喜んでるのにー。すげぇんだぜ私……うわぁっ!!」
 【神楽】が悲鳴を上げた。【榊】が【神楽】の足を引っかけて、そのまま
二人ともプールの水面に突っ込んだのだ。大きな水音が上がる。その後
バシャッと言う音とともに二人とも水面に顔を出す。
「な、何すんだよ榊!」
先に口を開いたのは【神楽】だった。【榊】は、極力低音でドスの利いた声で
━━神楽の体ではどこまで出せるか分からないが━━周りに聞こえないように、
そして【神楽】を氷のような顔で睨みつけながら話す。
「……いいか、今のきみは『榊』なんだ。もっと普段私がやるように行動してくれ。」
やっと【神楽】も気がついた。
「す、すまない、榊」
「人前では私を『神楽』と呼ぶ癖をつけた方がいいな……とにかく注意してくれ」
「は、はい……」(こ、怖ぇーよ榊。私の顔がこんなに怖ぇーなんて……)

125 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:43 ID:???
 プールサイドから声が飛んだ
「神楽センパーイ! 榊センパーイ! 大丈夫ですかー!」
西山部員だった。榊の体験入部に関わっただけにちょっと責任を感じたのかも
しれない。他の部員は、「榊さん」が騒いでいたこと、そして普段怒るときは
熱くなって大声を出す「神楽」が、今は何を言ってるのか聞こえないが、
座った目で、あくまで冷静に怒っているのを見てあっけにとられていた。
普段の神楽先輩ならともかく、あんな感じで怒られたら泣くかも、
と思ってしまう後輩部員もいた。
「なんでもない! 榊はちょっと気分が悪いみてーだ! 少し休ませる」
【榊】の言葉に【神楽】はおい、と言いかけたが、再び怖い顔で
「今きみをもう一度泳がせたらまた同じことをするかもしれない……頼むから
おとなしくしていてくれ」
と言われ、おとなしく引き下がった。
 プールサイドに黒沢が現れた。
「あら? 何かあったの? それよりも、神楽と榊さんは上がりなさーい!」
【神楽】は、【榊】に向かい小声で、
「さっきはしゃぎ過ぎたからかな。ごめん。黒沢先生には私が叱られるから」
と言い、プールサイドに向かった。【榊】も後を追う。だが黒沢はさっきの
騒動を叱ろうとしていたわけではなかった。

126 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:43 ID:???
「二人とも、今日のバスケの授業で頭打って気絶してたんですって?
ごめんなさいね、出張から帰った時にちゃんと聞いとかなきゃ
いけなかったんだけど……。とにかく、二人はもう今日は帰った方がいいわ。
気分が悪くなったり何か変わったことがあったらすぐに病院に行くのよ。いいわね?」
【神楽】が
「先生、私は大丈夫ですよ。まだやれます。練習を続けさせて……」
【榊】は慌てて、
「先生、榊はいいですけど、私は残らせてください! 大会前ですし、
時間を無駄には出来ません!」
こう言いながら、【神楽】に余計なことを言わないようにと目で訴えた。
しまったという顔をする【神楽】。黒沢はそれには気付かずに、
「二人とも駄目よ。神楽、ここで無理して大会に出られなかったら
元も子もないわ。顧問として休むことを命じます。榊さんも、なにも
体験入部でそんなに意気込むこともないでしょ。もっとリラックスして。
二人とも、ちゃんとまっすぐ帰るのよ」
「はい、ありがとうございました」
「……お先に失礼します」
 二人はとぼとぼと更衣室に向けて歩き出した。【神楽】が残りたがったのは
練習したいからだが、【榊】が残りたがったのは別の思惑があった。最後まで残り、
黒沢に全てを打ち開け相談するつもりだったのだ。
(それも今日は出来ないな……仕方ない)
【榊】はため息をついた。これからどうなるんだろう……。

127 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:54 ID:???
 「悪かったな、榊」
「いや、いい……これから気をつけてくれれば何とかなる……」
更衣室の一角で、【神楽】と【榊】は着替えながらしゃべっていた。
「タオルはその中だ」
「ああ、これか……それにしても、黒沢先生があんなに怖かったなんて……」
【榊】は怒った黒沢の顔を思い出して震えた。
「あ? あれくらい別に普通だろ?」
「そ、そうなのか? ……そうかもしれないけど……みんなの雰囲気も何となく
怖かったし……」
【榊】の黒沢に対するイメージは「しらふのときは優しい先生」だったので、
それが崩れて動揺していたのだった。
「大会前だってのもちょっとはあるんだが(むしろ私はキレた榊の方が
怖かったけどな)、基本的にシメルときはきちっとシメル先生だし、
怒ってないときは優しいいい先生だろ? それより榊はもっと気合いを
入れて臨んでくれねーと……」
「ご、ごめん。でも気合いって言われても……」
「まあ今日はいいさ。それよりそっちは調子どうだった?」
「なんだかうまく体が動かなくて……」
「ふーん。私は全然絶好調だったのにな」
その【神楽】の言葉にすかさず【榊】の突っ込みが入る。
「その全然の使い方はおかしい。全然という言葉は後ろに否定が……」
「あーっ、そんな細かいことどうでもいいって。でも私がうまくいって
榊がダメなのは変だな」
【榊】はちょっと考えて、
「多分……神楽の方がこういう状況への適応が早いんじゃないかな。
入れ替わった直後でもきみは落ち着いていただろう?」
と答えた。
「そういやそうだな。でも意外だなー。榊の方が精神的に強そうなのに」
【神楽】のその言葉を聞いて、【榊】は思った。
(私はそんなに強くない……)

128 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:54 ID:???
 二人は校門を出た。【神楽】は無邪気に喜んでいた。
「いやー、しかしこの体がこんなにスゲーとはなぁ。悪いけど榊、
これは返したくねえなぁ。」
【榊】はかねてから疑問に思っていたことを口にした。
「……その大会は、飛び入り参加が自由なのか?」
「……はぁ? あんた何を言ってるんだ? ちゃんと学校から選手登録するに
決まってるじゃん。あ、もしかして榊も出たくなったか? いやー残念だけど
そりゃー無理だなー」
「と、いうことは、『榊』という人間は選手登録されていないということになるわけだ」
「ああ、そうだ……あああああ!!」
【神楽】はバッグを取り落とした。
「……やっと気づいたのか」
「私が榊の体だったら出れねーじゃん!! どうしよう!!」
「どうしようと言ったって……」
「も、戻ろう! 今すぐ元の体に戻ろう!」
「方法が分かっていればとっくにやっている」
「何とかしてくれよー!! 高校で最後二つの大会の内の一つなんだよー!!
ああ、今から『榊』で入部してももう間に合わねーし!!」
「仮に間に合ったとしても記録は『榊』でつくんじゃないのか?」
「ううっ、確かに……。そ、そうだ!! このことを打ちあけて黒沢先生に
頼んでなんとか榊の体で『神楽』として出させてもらえねーのかな?!」
「ほとんど毎回大会や競技会に出ているんだろう。そんなんじゃごまかせないと思う……」
「だよなぁ……みんな私の顔知ってるし……ああーどうすりゃいいんだ!」
「それに……黒沢先生に話すのは、いや黒沢先生に限らず誰かに相談するのは
最後の手段だ」
「何で?! 大体最初にゆかり先生に言おうとしてたのは榊じゃねーか!」
「確かに私もさっきまで考えていた手段だけど……」
「考えてたならやってくれよ!」
「大体やっぱり望み薄だろう。自分で言っていただろう……誰も信じてくれないって。
それに黒沢先生は今日話を聞いてくれそうか?」
「帰れって言われたからなー。今日行ってもまだいたのかってたたき出されるぜ」
「ふむ……それで今度にでも打ちあけた場合、どうなるのかをさっきまで
いろいろ考えていたんだ。いくつか結果が考えられるんだが……」
「結果ってなんだよ!」

129 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:55 ID:???
 【榊】は自説の解説を始めた。
「まず一つ。まったく信じてもらえなかった場合。これは何の解決にもならない」
「うん。そりゃー分かるぜ」
「次、信じてもらえた場合。でも信じてもらえた所で黒沢先生は元に戻す方法は
知らないだろうし、大会だってどうなるか分からない」
「そ、そんな!!」
「三つ目。もっと悪いケースだ。精神疾患などを疑われた場合」
「何だよそれ」
「病気だ。魂が入れ替わったなんて誰も信じたくないから、心の病気で
榊が自分は神楽だと『思い込む』ようになったと診断される可能性はあるな」
「そんな病気あるのかよ!」
「分からない……でも、この場合、病気なわけだから大会どころか部活を続ける
ことも無理なんじゃ……」
「うわあっ、ヤダ、ヤダ!! やめてくれよ!!」
【榊】は、『気分が悪くなったり何か変わったことがあったらすぐに病院に行くのよ。
いいわね?』という黒沢の言葉が皮肉に感じた。変わったことがあったら病院に、か。
気が重いが【榊】は話を続ける。
「最後だ。最悪のケース。これは信じてもらえた場合のことなんだが……」
「信じてもらえるならいいだろ!!」
「信じてもらえて、大変なことになったと周りが騒ぎだした場合。私達は
心配してもらえるが、それ以上に好奇の目に晒される。場合によってはどこかの
機関が研究するだのと言って私達を『保護』するかもしれない。もちろん
その過程で戻れる方法が見つかる可能性もあるわけだが……」
それを聞いた【神楽】の脳裏に、全裸にされて檻につながれ体中に電極を
刺された自分と榊の姿が浮かんだ。
「わぁーん!! ヤダよヤダよー!! てゆーか榊、普段喋らない長台詞を
喋ったと思ったら何でそんな暗い話なんだよー!! えーいくそっ!!」

130 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:55 ID:???
ゴッ、と音がした。【神楽】が【榊】に頭突きを食らわせたのだ。
「痛いっ……なにをする」
「頭ぶつけたあとこうなったんだから、もう一度頭ぶつけりゃ治る!!」
「思いつきでそんなことしちゃダメだ……治る保証はないのに」
「じゃあどうすんだよ!! くそっ、こうなったら、榊! 『神楽』として
大会に出てくれ!」
【榊】はあの練習の雰囲気を思い出してしまった。
「い、嫌だ……」
「本当は絶対私が出たいんだけど、しょうがねー! 今さら棄権なんて出来るか!
大丈夫、大会の日までに元に戻れればもちろん私が出るから! だから榊、頼む!
あんたに託すから!」
「だ、ダメだ……正式な競技のルールなんて知らないし」
「教える! 覚えろ!」
「やっぱりダメだ……あの練習の雰囲気には耐えられない……。ましてや競技なんて」
「慣れだよそんなの!! ちょっと大きな声が出せればいいんだよ!!
競技だって、お祭りみたいなもんだと思えばいい!! な! 頼む!」
「……きみは大会が心配だが、私にも心配なことがある。」
と、唐突に【榊】は話題を変えた。
「何だよ!!」
「今度のテストだ」
「なにそれ?」
「全国模試……きみはすっかり忘れていたようだけど」
「ああ、そんなのもあったな」
「……一応私達は受験生なわけだが……自覚しているのか?」
「あんまり……」
「きみがすっかり忘れていたことから考えるに、きみが私として試験を受けた
場合の点数は期待できない。つまり戻れないと私もまずい。戻れなかった場合
きみに勉強してもらって……」

131 :84BHHK5c :2003/04/30(水) 21:56 ID:???
 それを聞き、イライラした様子で【神楽】が怒鳴った。
「いいじゃねーか! そんなこと、勉強だけが人生じゃねーぜ!」
「そんな……いい点を取れないと困る……」
「なんだよ、勉強勉強って。私の大会の方が重要だろ? テストなんか
この際どうだっていいだろ!!」
「……よくない」
「はっ、優等生だなー!! いいよなー頭いい奴は! そんなことより
大会だよ大会!! 榊が私の代わりに出てくれればいいんだよ!! 練習にも
出てくれ!! 大急ぎで何とか練習してさー」
「嫌だと言っているのに……それに、勉強の時間が取れないのは……」
「私がどんなに水泳がんばってたか知ってるくせに! 勉強、勉強、勉強、
そんなにいい点取ってほめられたいのかよ!! もういい!
榊がそんな奴だとは思わなかったぜ!!」
 【神楽】はそれだけ言うと、そのまま走り去ってしまった。【榊】は追いかけることが出来なかった。自分の体で、顔で、声で、ああ言われるのが辛かった。神楽に自分がいい点を取ってほめられたいだけの人間だと思われたことが悲しかった。神楽の願いに答えられない自分も嫌だった。それで足が動かなかった。
「……私はそんなんじゃない」
そう呟くのがやっとだった。


(つづく)

132 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/05/01(木) 00:56 ID:???
>>131 おぉ〜、すごいなぁ。Good job!
   それぞれの事実に気が付いた榊と神楽が今後どうなるのか気になります。
   今後の展開に期待しています!

133 :ケンドロス :2003/05/01(木) 01:01 ID:???
ジャスティスがひと段落ついたのでダーク榊さんの続きを書いてみます。

『LOVELESS』
神楽を徹底的にたたきのめした翌日の放課後、私はどんな手段で追い詰めて
そして壊してやろうか考えていた。それを止めようとする自分の声が聞こえるが、
壊してやりたい衝動を上回るのを感じていた。しかし・・・

「榊ちゃん?これから予定あるん?」
聞いてきたのは関西の言葉を喋る私の友人の一人春日歩だった。皆からは「大阪」
と呼ばれている。私はそう呼ぶのに抵抗があるので呼んでいない。

「いや、特にない。」
「そうか〜。なら、ちょっと体育館まで来てくれへん?大事な用があるんや。」
体育館?一体何の用だろう。今日はどの部も使ってないので、行くのは構わないの
だが・・・・しかし、大事な用と聞かれては断るわけにもいかない。

「分かった。」
「まいど〜。そーゆう訳で神楽ちゃん、ちょっと榊ちゃん借りるで〜」
「え?あ、ああ。」
私と一緒に帰ろうとした神楽は呆気にとられながら返事した。私達は体育館
に移動した。

「で、大事な話って?」
何の用だか知らないが、早く済ませて欲しいものだ。すると、いつになく真剣
な表情で春日は振り返った。

「榊ちゃん、もし今のままやったら榊ちゃんは自分で自分の身を滅ぼすで〜
あたしはそれを止めにきたんや。」
言ってる意味がさっぱり分からなかった。自分の身を滅ぼす?止める?
どういう事だ?

「榊ちゃん、あたしと勝負せえへん?バスケットボールで。」
「勝負?」
「そーや、時間は15分。それで相手より多くゴール入れた方が勝ちや。単純やろ?」
「何で私が君と勝負しなきゃならない?」
「言うたやろ?榊ちゃんの暴走を止める事やて。」
そこまで言われてピンときた。つまり彼女は私が神楽を潰すのを阻止する為に
こんなとこに連れてきたのだ。

134 :ケンドロス :2003/05/01(木) 01:16 ID:???
「今のまま進んだら、榊ちゃんも神楽ちゃんも破滅するだけや。それは自分
でも分かってるやろ?」
「・・・・・・・・分かった。ただし、どうなろうと責任は持たないぞ。」
それを聞いて春日はニッコリ微笑んだ。私達は体操着に着替え、コートに立った。

正直春日を潰したいとは思わない。私がボロボロにしたくなるのはスポーツを
必死になってやっている人間、そう神楽のような人間だ。
しかし、春日にはそれが感じられない。
でも勝負を挑むからには容赦はしない。己の無力さを嫌というほど味わわせてやる。
心の中の黒い部分が私を突き動かす。

「ほんじゃ、私から行くで〜」
春日がドリブルをした。しかし、全然サマになっていない。私はその春日の
ボールを簡単に奪い、先制点を決めた。

「さすがやな〜榊ちゃん。」
笑いながら春日は言った。その笑いいつまでもつかな?15分たつころには君の
顔は泣き顔でぐしゃぐしゃになっている事だろう。
私はその調子で10ゴール決めた。その間、春日は私に触れるどころか追いつく
事すら出来なかった。
しかし、それでも春日の表情は変わらない。相変わらず笑みを浮かべている。

「榊ちゃん、やっぱすごいわ〜。あたしも本気出さな〜」
本気?私は耳を疑った。運動神経はちよちゃんと同じくらいにない君が?
笑えない冗談だ。

「ほな、行くで〜」
春日がドリブルを始める。私はすかさずボールを取りにいく。しかし、私の手は
空を切った。目的の人物は私の背後におり、そしてゴールを決めていた。

「初ゴールや〜」
嬉しそうにはしゃぐ春日。

135 :ケンドロス :2003/05/01(木) 01:42 ID:???
油断していた。そうとしか考えられない。でなければゴールを決められるはずはない。

今度は私の攻撃だ。全力で春日を抜く。しかし、すぐに春日にボールをカットされ、
そのままゴールを決められてしまった。

「2ゴールや〜」
見えなかった。今までの本気じゃないというのは嘘ではなかったのか?
それからの私は春日に翻弄されっぱなしだった。攻撃を止めようにもあっさり抜かれ、
攻撃しようにもすぐにボールをカットされてしまう。あっという間に同点にされてしまった。
私の中で焦りの感情が生まれた。こんなはずはない。私の方が優れているんだ。
落ち着け!冷静になるんだ!!何度も自分に言い聞かせる。
しかし、そんな思いも空しくあっさり逆転されてしまう。

「どないしたん?あたしを倒すやないんか?」
(カチン)春日の余裕に満ちた態度、人をバカにした表情に私の中の何かが
はじけた。気付くと私はドリブルし、カットしようとした春日の眉間に肘を
ぶつけていた。倒れこむ春日。
それを見て私は「調子に乗るからだ。」と心の中で罵った。段々と闇の部分
が強くなるのを感じる。しかし、春日は額から血を流しているものの何事も
なかったかのように立ち上がった。

「別に怒ってへんよ〜。スポーツに事故はよくある事や〜。さ、再開しよか〜」
笑いながら春日はゲームを再開した。

あとはもう一方的だった。そう、昨日私が神楽にした事を今春日に私がされているのだ。
10分たった時には点差はもう絶望的にまで開いていた。
私の中の何かが突き崩されてゆく。これまで誰にも負けた事のなかったスポーツで
ここまで打ちのめされるのは屈辱だった。しかももともとスポーツをやっていた
人間ならまだしも、相手は自分以上にスポーツに縁の無い人間である。
恐らく誰かがこの場にいたら、私の表情が焦燥と絶望に満たされているのに気付いた
だろう。ガラガラと崩れ落ちる自信とプライド。
自分が今までしてきた事をされて初めて気付いた。私に潰された相手は皆こんな
気持ちだったのか?
いや、それ以上かもしれない。そして、気付いた。春日もまた私と同質の人間なのだと。

「無様やな榊ちゃん。潰される側に立つのはどんな気持ちや?」
これ以上にないくらいに嫌な笑みを浮かべながら春日は言った。私と春日の
決定的な違いは私は時間をかけて潰すのに対し、春日はその場で完全に叩き潰す事
である。

「ハァハァ・・・・ま、まだ終わっていない。」
その言葉を言えば言うほど空しくなる。私に見えるのは深い暗闇だけだった。

136 :ケンドロス :2003/05/01(木) 01:58 ID:???
春日がドリブルしてくる。私は何とかキッチリマークして春日の進路を塞いだ。
しかし、次の瞬間私は春日に吹き飛ばされていた。ショックだった。自分よりも
小柄な人間にパワーですら負けた事に。

「やる気ないんちゃう?つまらへん。」
春日の言葉がグサグサと私の胸を突き刺す。直後に春日は顔面目掛けて思いっきり
投げ付けてきた。よける事すらままならずボールは私の顔面を直撃した。うずくまり
鼻を押さえる。鼻血が出たからだ。目からは涙も出ていた。

「ホンマ情けないな〜かおりんが見たら失望するで〜」
もう何も言い返す気力も残っていなかった。もういい、何もかもどうでもいい。
神楽を壊す事も、春日を倒す事も、もういい。このまま消えてしまいたい。
どうせ遅かれ早かれ私は壊れる運命だったんだ。なら、ここで壊れても構わない。
そんな思いが頭の中をぐるぐると駆け回っていた。

「何やってんだよ!!」
体育館の入口から聞き覚えのある声がした。そこにいたのは神楽だった。

「何ってバスケットの勝負やで。見ての通りあたしの圧勝や。」
「うるさい、大阪は黙ってろ!!」
物凄い剣幕で神楽は春日を睨む。春日は特に気にした様子もなくそっぽを向いた。
そして、神楽は私に近づいてくる。
嫌だ!!来るな!!こんな姿見られたくない!!その思いで頭が一杯になり
私は後ずさりした。

137 :ケンドロス :2003/05/01(木) 02:20 ID:???
神楽はそれに構う事なく私に近づいてくる。そして、私を抱きしめた。
やめろ!!私に触るな!!私は神楽から逃れようと必死になって暴れた。

「離せ!!離せ!!」
それだけを繰り返し叫んだ。しかし、神楽は動じない。むしろ抱く力が強まる。

「榊、もういいんだ。」
優しく微笑みながら神楽は言った。さっきまで渦巻いていた負の感情が溶かされていく。
涙がより一層溢れた。

「どうして・・・・私はお前に・・・あんな事をしたのに・・・・今の今までそれを繰り返そう
としたのに・・・・どうして・・・・」
言葉がうまくつながらない。涙のせいでうまく声が出ない。

「言っただろ、気にしてないって。だってあたしらライバルで友達だろ?」
私の心の一番奥にその言葉は響いた。闇が消えてゆく。

「榊ちゃん、神楽ちゃんにここまで言わせたんや。榊ちゃんの気持ちも聞きたいわ。」
春日がこちらに向き直って言った。その表情はいつもの優しい顔だった。
まるで悪魔から天使に生まれ変わったかのように。

「神楽・・・・私を嫌いにならないで・・・ずっと友達でいて!!お願い!!」
一杯に声を張り上げて私は嘘偽りのない気持ちをぶつけた。

「何言ってんだ。お前を嫌いになんてなるもんか。私らずっと友達だ!!」
神楽は私の頭を撫でてくれた。私は声をあげて泣いた。こんなに泣いたのは
何年振りだろう。でもそうせずにはいられなかった。
気付いたから。神楽の優しさに、自分で汚れ役を引き受け私の暴走を止めに
きた春日の勇気に・・・・

「良かった。あたしのようにならんでホンマに良かった。危険な賭けに出て
良かったで。」
と春日は言った。その目には私同様涙が溢れていた。

138 :ケンドロス :2003/05/01(木) 02:50 ID:???
私の気が落ち着いた後、春日は自分の過去を語ってくれた。

「私もな、榊ちゃんと同じで何もしなくてもスポーツできたんよ〜
で、あたしは自分の実力を見せつけ、次々にスポーツに一生懸命な人間のプライド
を傷つけそして壊してきたんや。あたしは榊ちゃんと違って良心も存在せへんかったん
や。潰れる奴が悪い、そーゆう考えやったんや。」
何処と無く寂しそうに語る春日。

「そして、前の学校でとりかえしのつかない事になったんや。あたしと一番仲のええ
子やった。その子が自殺したんや。何でやと思う。あたしのせいや。もうあたしは歯止め
が効かなかった。スポーツをやめさせるだけじゃ収まらなくなっとった。そして死んでしまい
たい思うぐらい追い詰めなきゃ満足出来んようになった。あたしはその友達を大事に思う反面、
潰したいという願望ももっとった。そして、越えてはいけない一線を越えてしまったんや。」
重い、ずっしりと重い告白だった。

「その時、あたしは初めて自分が取り返しの付かない事をした事に気付いたんや。
あたしの精神は一度ボロボロに壊れた。世界の終わりが来たくらい闇に堕ちた。
あたしの担任や家族があたしを励まして続けてくれなければ、私は二度と立ち直れ
なかったやろな。それでも今の様になるまで随分時間がかかった。そのことがあって
からあたしは自分の運動能力を封印したんや。」
昔を思い出したのだろうか?春日の声が震えていた。

「ここに来てからはうまくやってけるようになった。友達も出来た。でも、昨日の
榊ちゃんの行動を見て背筋が凍る思いやった。それはまさに以前の自分そのものやったから。
このままにしてたら榊ちゃんはあたしと同じ運命を辿る。そう思った私は今日この
手段に出たんや。一歩間違えれば榊ちゃんを潰してまう。
あたしは神楽ちゃんの友情に賭けた。そして神楽ちゃんはあたしの期待に応えて
くれた。嬉しいであたしは。」
喋り終わった後、春日は座り込んだ。緊張の糸が切れたのだろう。

「そうだったのか。大阪、その友達の中には私も入ってるんだよな?」
「私もか?」
「当たり前や。」
そう春日が言うと私と神楽と春日は抱き合った。私と春日の溢れていた闇が
消え、光が照らされてゆくのを感じた。

「帰ろうぜ、榊、大阪。それとここであった事はみんなには内緒だぞ。」
「うん。」
私と春日は一緒に返事をして、体育館を後にした。私はひとつの物を失い、それと
引き換えに何者にも変えがたい物を得たのだった。

その光景を近くで見ていた者がいた。にゃもである。

「やれやれ、私の出番なしか。ま、あれを見せられたら出るに出れないわね。
さて私も帰るか。」
にゃももその場を後にした。

  LOVELESS   END

139 :ケンドロス :2003/05/01(木) 02:52 ID:???
終わりです。正直予定よりずっと長くなってしまいました。闇から解放される
のに納得行かない方もいるかもしれませんが、これもひとつの結末って事で・・・

>>131
何だか険悪な雰囲気になってますな〜どうなるか楽しみです。

140 :名無しさんちゃうねん :2003/05/02(金) 21:58 ID:???
>>133-139
ゴメン。正直つまんない
こう言ったパロ小説で自分の設定を作りすぎるのはあまりいただけないと思いますよ
大阪はスポーツがダメって設定まで覆すというのはちょっと……
葉鍵の美栞スレのあの人みたいだ……(わからん人、ごめんなさい)

141 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:53 ID:???
>>133-138
榊が救われる結末ってのはよかったと思いますよ。
正直自分には榊が堕ちるとしか考えられなかったので。
スーパー大阪にはたしかに賛否あると思いますけど……。


前回の続き、いきます。

142 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:53 ID:???
 ありがとうございましたー、の声に見送られ、【神楽】はコンビニを出た。
近くの公園のベンチに腰掛け、買ったスポーツドリンクのボトルのふたを開け
口に含む。少し落ち着いてきた。落ち着いてくると、さっき榊に言ったことに
対する後悔の気持ちが浮かんできた。
「どうしてあんなこと言っちゃったんだろう……」
 考えてみれば、自分が勝手に榊に対して無茶を言っていたのだ。榊の都合も、
気持ちも考えずに。それに、榊が承諾して代わりに大会に出てくれたとしても、
大会に出るのは自分の姿をした【榊】だ。それじゃ、どんなにいい記録が
残ったとしても意味がないじゃないか……。
「こんなことに気づかないなんて、私、バカだよな」
呟いてため息をつく。自分はいつも勝手に熱くなって失敗ばかりしている。
本当にがさつだ。熱中すると周りが見えない。この性格のせいで入れ替わる前も
入れ替わった後も迷惑をかけっぱなしじゃねーか。
 それに、榊は周りからほめられたいと言う理由だけでいい点を取ろうとする
ヤツなのだろうか。そうじゃない。詳しいことは分からないが、きっと、榊は
理由があって勉強に情熱を注いでいたのだろう。水泳に情熱を注ぐ自分のように。
もともと榊のものである手のひらを見る。この傷だらけの手で勉強、
がんばっていたんだな。私は、自分の認めたライバルを、友達を、
信じられなかったのか? なら今からでも信じねーと。信じる気持ちを表さねーと。
「榊に……謝ろう」
 それくらいしか、今の自分に出来ることはない。だが、榊は許してくれるだろうか。
(考えててもしかたねーか。もともと私は考え込むのは苦手なんだ)
 【神楽】は立ち上がり、もと来た方向に向けて歩き出した。

143 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:55 ID:???
 コンビニの前まで戻ってきた。榊は怒って帰ってしまってないだろうか。
そう考えていると、
「神楽!」
と声がした。声の主は【榊】だった。こっちに走りよってくる。【神楽】が
謝ろうとして口を開こうとしたが、しかし、
「ごめん、神楽」
と先に謝ったのは【榊】だった。【神楽】は驚いて、
「なっ、何謝ってるんだよ! 謝らなくちゃいけないのはこっちだ!」
と叫んだ。【榊】は、
「いや……水泳にどれだけ情熱を持っていたか知っていたのに断った私が悪いんだ。
ごめん。やっぱり部活と大会には神楽の代わりに出る」
とまた謝った。
「だから、本当に謝らなくちゃいけないのは私だって! 私が榊に無理言って
出たくない大会に出させようとしたんだぜ? さっきは焦ってて気づかなかったけど、
その、そんなことされたらすごくやだよな。悪かった! 私はほんとがさつで
そういうところ気がつかなくて……自分のことしか考えてなくて……」
【神楽】はそのとき【榊】の表情に気がついた。今にも泣き出しそうだった。
榊がぽつりとしゃべった。
「自分のことしか考えてなかったのは、私も同じだ……。体育会系が嫌いだから
というのと……。夢のために大学に入らなくちゃいけないってこと、
そればっかり考えていて……」
「夢……そうだったのか。それで成績を気にしてたのか。私の水泳と比べて
どうでもいいとかそんなこと全然ねーじゃねーか! 榊、点取り虫みたいな
言い方して本当に悪かった! 榊! バカな私を殴ってくれ!」
【神楽】の言葉に【榊】はちょっと驚いたが、
「いや、そんなことはしない……それに、自分の体だし」
と言った。【神楽】も気づいた。
「ああっ! そうだった! 私ってほんとバカだなー……。バカと言えば、
榊に大会に出てもらって『神楽』で記録を残してもらったとしても、それって
実際は榊が残した記録なんだよな。そんなのにも気づかないって私はバカで……」
喋り続ける【神楽】を制して【榊】が言った。
「そんなに自分を悪く言わないでくれ……きみだけが悪いわけじゃないし。
それに、謝るだけじゃ先に進まない」
【神楽】がそれに答える。
「そ、そうだな! よし、先に進むために、何とか大会とテストの前に
元に戻る方法を考えようぜ!!」
「ああ。それを考える方がよっぽど気が楽だ」

144 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:55 ID:???
 涙を堪え、ふと【榊】が塀の上に目をやると、一匹の猫がいた。
手を差し出す【榊】。……噛まれた。【神楽】が吹き出した。
「ぷっ……はははは……猫って中身の人間がちゃんと分かるんだなー!」
「……早く元に戻る方法を見つけないとな」
【榊】が微笑んで言った。
「早く神楽の体を返さないと……これじゃ傷だらけにしてしまうから」

 交差点まで来て【神楽】が言った。既に周囲は暗くなりかけている。
「もう今日はこんな時間だ。どっちみち誰にも相談出来ねーな。親も心配するし、
とりあえず家に帰って寝よう。日曜日は練習あるけど明日は練習ねーんだ、
戻る方法は明日一日考えようぜ。」
そして、【神楽】はダッシュしようとした。そんじゃなーと叫びつつ。
【榊】が慌てて止める。
「待って、どこに行くんだ?」
【神楽】が不思議そうな顔をする。
「どこって、家だろ」
「『榊』の家はこっちだ」
 あっ、と【神楽】が気づいた。
「そっか。じゃあ案内してくれ。よく覚えてねーからさ」
「いや……家に行ったとして神楽は私の家でうまくやれる?」
「やれるだろー。何が問題なんだ?」
「例えば私の家の習慣を知っているか?」
「どんなのだ?」
「風呂に入るときは必ず左足からだ」
「ふーん。変なの」
「他にもある。夕食は40分間、ご飯は一口20回以上噛む。お茶のおかわりは2杯まで。
おかずは毎分1回、ご飯は毎分2回のペースで箸をつける。しょうゆの量は5gが限度。
ご飯の残り量が30%を切っているときにおかずを食べるときは……」
「ちょ、ちょっと待て! そんなの決まってんのか?!」
「冗談だ」
「……」
 【神楽】は思った。珍しく言った冗談がこれかよ。しかもニコリともせずに言うし。
もっと楽しい冗談を言えないのかあんたは、と。

145 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:56 ID:???
 黙り込んだ【神楽】に向かって【榊】は続ける。
「まあ、それはともかく、現実問題として十数年間一緒に暮らしてきた人間の中で、
いきなり入れ代わりが発生してもばれずにやって行くのは難しいんじゃないかな?」
それが言いたいんだったら最初っからそう言えよ、そう思った【神楽】であったが、
言っていることはもっともなのでうなずいた。
「じゃあ……榊か私のうちに二人で行って片方がフォローするとかどーかな?」
「いい方法だと思う……けどうちには人を泊める余裕がない」
「うちもねーなー。じゃダメか。今日だけでもホテルに泊まるってのはどうだよ?
 明日からどこで寝るかはまた考えるとしてさ」
「いくら持っている?」
「3800円。榊は?」
「639円」
「なんでそんなに少ねーんだよ」
「いや、これを買ったから……」
そう言って【榊】は榊のバッグの中から「ねここねこ・夏限定トロピカル
ハイビスカスバージョン」を取り出そうとした。この可愛さを【神楽】に
アピールし、今度こそコレクター仲間に引きずり込もうという魂胆であった。
が、【神楽】に、
「いや、見せなくていい」
とあっさり言われ、しぶしぶバッグの中に戻した。
 【神楽】が話を続ける。
「……榊、なんか今舌打ちしなかったか? まあいいや、お金がねーとなると、
お金が少なくても泊まれる所を探さねーと」
周囲を見回す【神楽】の目に、遠くの方で派手に光っているものが見えた。
普段より背が高いのでよく見える。「休憩」と「宿泊」にコースの別れている
非常に安いホテルのあるホテル街である。二人の目が合った。お互い若干赤い
顔をしている。
「へ、変なこと考えてねーだろうな!!」
「そ、そんなことは考えていない! 私にはそんな趣味はないし……かおりんの
せいで誤解され気味だけど……。それにあんなとこ女同士じゃダメなはずだ」
「よく知ってるな榊……彼氏でも出来たか? それとも耳年増ってやつか?」
「そんなのいない! ちょっと聞いたことがあるだけだ! きみこそ黒沢先生に
いろいろ聞いてるんじゃないのか?」
「そんなこと聞いてねーよ!!」
「……」
「……」

146 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:57 ID:???
 重苦しい空気を打ち破るように、【神楽】がこう言った。
「キャ、キャンプ! うちにテントがあるんだ! キャンプしようぜ榊!!
食費以外タダだ!!」
「どこでするつもりなんだ?」
「河原とか、公園とか……」
「そういうところは夜は治安が悪い……」
二人の脳裏に、『野宿女子高生2人レイプ!』という週刊誌の見出しが浮かんだ。
二人同時にため息をつく。
 不意に【榊】が叫んだ。
「そうだ! ちよちゃんちに泊まらないか?」
「おおーっ! 榊頭いい! あそこは広いし安全だな!」
「泊めてもらう理由は、テストに備えて勉強合宿をするということでいいだろう。
これが自然だと思う」
「なるほど! さすが榊!! んじゃ、一旦それぞれの家に行って着替えとか
取ってこようぜ!」
「ああ、二人でお互いの家に行って、神楽は私の親に、私は神楽の親御さんに
ちゃんとちよちゃんの家に泊まってくることを告げるんだ。この状態が
長引いてお互いの家で暮らさなくては行けなくなったときのための
コミニュケーションの練習と思えばいい。」
「よし、さっさと行こうぜ」
駆け出そうとする【神楽】。【榊】が思い出したように声を掛ける。
「あ、勉強道具も忘れないで」
「なんでだよ。あ、そうか。勉強を理由にしてるからカムフラージュってやつだな?」
「まあそれもあるけど……」
 【榊】は【神楽】の肩にポンと手を置いた。身長差が逆になっているので
かなりの違和感を感じながら。
「神楽……もしテストまでに元に戻れない場合、きみにがんばってもらう……」
【神楽】は、うげっと小声を上げた。

147 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:57 ID:???
「いらっしゃーい!」
ちよの顔が、門扉脇のインターホンのモニターに写し出された。
二人は首尾よくお互いの家から荷物を持ち出し、そのときに【榊】がちよちゃんに
アポイントを取っておいたのでここまではスムーズである。ちよちゃんちの都合が
悪くなくて良かった。そう思いつつ二人は敷地の中に入る。
「どーぞどーぞ。それにしても、神楽さんが勉強でうちに来るって初めてですよねー。
やる気ですね神楽さん」
玄関先でちよがこう言った。アポイントを取ったのが【榊】で、他人から見れば
神楽なのだから仕方ない。だが、ちよの言う「神楽さん」、つまり【榊】は
返事をしなかった。あれっと思ってちよが【榊】を見ると……
「忠吉さん……」
ほほを染めながら一心不乱にちよの愛犬、忠吉さんをなでていた。【神楽】が慌てて
「(榊! あんた今私なんだからそーゆーコトしちゃダメだ!)」
と耳打ちする。【榊】は名残惜しそうに忠吉さんから離れた。
「か、神楽さん。あの、忠吉さんは怒らないですから撫でててもいいですよ。
榊さんも遠慮なさらずに……」
ちよはそう言ったが、【神楽】は、
「い、いや、私はいい。そのー、私、じゃなくて、神楽も勉強がんばるみたいだ」
とごまかした。
「そうそう。私もいいかげん勉強しねーとな。E判定取りそうでヤバイし」
【榊】がさらっと言った。なっ、という顔になる【神楽】。ちよは、
「あはは……でも、がんばればきっと大丈夫ですよ。それじゃ、お二人とも
お荷物をあの部屋に置いて来られたらどうですか? 私はご飯の準備をしますので」
と言って台所に向かっていった。
「おい、さっきのE判定って何を言ってるんだよ榊! 私の姿をしてるからって
そんなこと言うなよ!」
【神楽】が抗議すると、【榊】は、
「別に、忠吉さんを撫でるのを止められたことを怒ってるわけじゃない。
ああ断じて怒ってないさ」
と涼しい顔で言った。
(めちゃめちゃ怒ってるじゃねーか!)
【神楽】は心の中で突っ込みながら部屋に向かった。

148 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:58 ID:???
 台所に来た二人。【榊】がちよに声を掛ける。
「ちよちゃーん、何か手伝うことはないか?」
「あ、お二人は部屋で勉強されていても良かったんですのに」
とのちよの返事に、【神楽】が
「いや、何かしないと悪いし……」
と言った。【神楽】はようやく榊らしい喋り方に慣れてきていた。
「それじゃーすみませんが、和室に置いてあるお醤油とお砂糖を取ってきて
もらえますか? 和室を物置き代わりに使っちゃいけないとは思ってるんですけど、
収納庫が今手狭で置いてるんですよ」
「オッケー」
「ああ」
ちよの頼みに二人はそれぞれお互いの口調で返事をして和室に向かう。
 【榊】が和室に入り、さて醤油は、と部屋の中を見回すと、後ろからゴッ、
という音がした。
「痛ぇ!!」
【榊】が声と音に振り返ってみると、【神楽】が頭を抑えてうずくまっている。
「鴨居に注意してくれ」
と【榊】は言った。

149 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 22:59 ID:???
「な、なんなんだよこれ……かもいって何だよ」
よく分かっていない【神楽】。【榊】が解説する。
「鴨居と言うのは、今きみが頭をぶつけた所だ。日本建築の場合、古い基準だと
鴨居の高さは170cmぐらいしかないから。私の背だと気をつけないと、
鴨居に頭をぶつけてしまうんだ。ちよちゃんちは基本的に高さには余裕を持たせて
作ってあるけど、和室だけは古い基準で作ってあるな。わざとそうしたのか、
もともとここにあったのをそのまま利用したのか、どこかから由緒ある和室を
移築したのかは分からないけど」
「そ、そんなことはどうでもいいよ……あー痛ぇ。思いっきりぶつけたぜ。
背が高くなってたのを忘れてた」
「私の体をあまりぶつけないで欲しい……」
そう注意する【榊】に、【神楽】は、
「これから注意するよ。しっかし、鴨居なんて難しい言葉知ってるなー」
と答えた。
「別に難しくない。それより、きみは砂糖を頼む」
 そう言って【榊】は醤油を持って出て行く。【神楽】も砂糖袋を持って
喋りながら後に続く。
「ここのこと鴨居って言うのは知らなかったな。しかし、鴨居って
どういう意味なんだ? 鳥の鴨と関係が……」
また、ゴッと音がした。【榊】はため息をついた。
「頼むから、『鴨居を避けること』だけに注意をしてくれ」

 それから、【榊】と【神楽】は夕食作りを手伝った。が、
「(……かがまねーとうまく作業できないなんて……)」
「(仕方ない、身長差があるんだから……)」
まず体の違いで困惑した。続いて、
「(ちょっ、神楽、何をするつもりなんだ)」
「(何って、ゆで卵を作ってくれって言われたんだろ?)」
「(電子レンジに卵を入れちゃダメだ)」
知識の違いで困惑した。そうやってひそひそ話をする度に、
「あのー、お二人とも……大丈夫ですか?
無理にお手伝いしていただかなくても……」
とちよに不審がられ、必死にごまかすのであった。そしてさらに困ったのが、
「(榊、これこんな皮のむき方で良かったっけ? なんか形がガクガクしてるし。
榊がやり直すか?)」
「(いや、私も不器用だからそんなにうまくできない。それでいいと思う。
一応皮もむけてるし)」
二人とも不器用で料理はうまいとは言えないことであった。

150 :84BHHK5c :2003/05/02(金) 23:00 ID:???
 ピンポーン。チャイムが鳴った。ちよがインターホンに向かう。
「はーい。あっ、ご苦労様です。今行きますからー。……あの、宅配便が届いた
みたいなので、ちょっと受け取りに行ってきますね」
ちよが台所から出て行く。【神楽】は、はぁっ、とため息をついて
「あー、やっとフツーの声の大きさで入れ替わる前の感じで喋れるぜ。
ひそひそ話は好きじゃねーんだよな」
と愚痴った。【榊】も、
「いや、お互いのふりをして喋っていれば別に普通の声の大きさでもいいんだけど」
と普段の声の大きさで喋った。
「だけどさぁ、疲れるじゃん。それに榊のふりって何喋っていいか分かんなくなるし」
「え……? 私ってそんなに普段何喋ってるのか分からないのか?」
「い、いや、そうじゃなくてさー、まぁ確かに榊は無口だけど。その……
喋ってることが知的じゃん?」
「そ、そうかな?」
「そうだよ。それに声も冷静っていうか……クールだよな」
「声に抑揚がないのは私もちょっとあれかなと思っている。逆に神楽の声は
感情がはっきりしているというか……正直私にはマネしづらいな」
「それはただ元気なだけだって」
「うーん。でも私の体で神楽が喋ってるとなんかすごく新鮮だな。
楽しそうに元気よく喋る私を見るっていうのは」
「私の声で冷静な喋りってのもこっちからすると相当印象変わるよなー。
てゆーか私って結構クールな喋りもイケテルかもしれねーな。
練習してみようかな」
「練習って……」
「ゴホン。勝負だ……榊……。どう? クール?」
「どうって……今は私の体なんだし」
「あ、じゃあ。勝負だ……神楽……。どう?」
「そういう問題じゃなくて、私はそれ以前にそんなこと言わない……。
まあみんなの前ではどっちみちお互いのふりをしなきゃいけないんだから、
そういう練習はしとくべきかもしれない」
「だろ? だろ? だから言ったんだよ」
「でも、私の言いそうにないことを言っても怪しまれる」
相手のふりをしなくてはいけない人前の会話と比べて、本当の自分を出せる
会話は楽しい。二人は手を休めてだんだんお喋りに夢中になっていた。
 ちよのことを忘れるぐらいに。
「それでさー、榊の場合語尾に……」
 ギイッ、という音に二人ははっとしてそっちを見た。
「……ちよちゃん」
「ち、ちよちゃん!?」
ドアをちょこっとだけ開けた隙間の後ろに、荷物を持ってちよが立っていた。
(つづく)

151 :名無しさんちゃうねん :2003/05/04(日) 11:02 ID:0JA5AWrY
早く続きキボンヌ

152 :名無しさんちゃうねん :2003/05/04(日) 18:21 ID:???
>>142-150
本当に面白いですよ。
頑張ってください。続き楽しみにしてます。

153 :天の川 :2003/05/05(月) 21:08 ID:j237pVB.
はじめまして。いきなりですが短編のSSです。

 にゃも、本名黒沢 みなもはため息をつきながら学校の廊下を歩いていた。
 今日は給料日で、さらに必ずといっていいほど給料日には「呑みにいこう!」と誘ってくる長年の友人、谷崎 ゆかりも風邪で休んでいるので、本当なら嬉しくてしょうがないはずなのだがなぜか素直に喜べなかった。
―――馬鹿は風引かないって言うけど……あれは嘘ね―――
 みなもは長年の友人に対して普通に「馬鹿」と思ってしまう。いや、長年の友人だからそういえるのかもしれない。
「あ、にゃも。さよなら。」
 古文の木村がみなもにあいさつをする。木村は変人だが善人でもある。
 その後もみなもは幾人かの生徒と挨拶を交わした。
―――今日は一人で呑みに行こうかな……―――
 いつものゆかりはいないので、今日はゆっくり呑める。みなもはそう思っていた。

154 :天の川 :2003/05/05(月) 21:11 ID:???
すいません。初心者なもんで、ageてしまいました。本当にすいません。

 学校帰りにみなもが寄ったのは、風邪で休んでいるゆかりの家だった。
 ピンポーン。
 みなもがチャイムを押すと、ゆかりのお母さんが出てきた。
「あぁ、ちょっと上がってってね。ゆかりは多分おきてるわよ。」
 みなもはお見舞いのりんごを持ってゆかりの部屋に歩を進めた。
 ゆかりの部屋に入ると、いつもどおりの汚い部屋だった。
「あ〜にゃも〜・・・お見舞いちょうだい〜」
 ゆかりが少し虚ろな目をしてお見舞いを欲しがる。
 みなもがお見舞いをわたすと、ゆかりは不機嫌そうに「メロンが良かった」とつぶやいた。
「馬鹿なこと言わないの。はい。今日は給料日でしょ。」
 みなもはそういってゆかりに給料袋を手渡した。
「頑張って風邪治しなさい。」
 それだけいってみなもはゆかりの部屋をあとにした。
 部屋からは、風邪だというのに嬉しさのあまり狂喜乱舞しているゆかりの声が聞こえてくる。
 みなもがゆかりの家をでると、そのまま駅のほうまで向かった。この前見つけた美味しそうな居酒屋がそこにはあるのだ。ただ、静かそうな雰囲気だったのでゆかりをつれてこようとは微塵も思わなかった。

155 :天の川 :2003/05/05(月) 21:12 ID:???
 ガラッ。
 いい音を立てて居酒屋の扉が開いた。
 中には何人も先客がいた。
 みなもは席につくと早速、ネギマと中ジョッキを頼んだ。
 みなもがまったりとした時間をすごしていると、みなもと同じくらいの男女が入ってきた。
―――あっ!あの人は―――
 みなもは男性のほうには見覚えがあった。前に一度、大学時代にラブレターを出そうと思った相手。勇気がだせずに、結局気持ちを伝えられないまま卒業してしまった相手。(そのときのラブレターはどうしてかゆかりの手にわたっている)
 男性は後ろの女性と楽しそうに話をしている。二人の指には結婚指輪と見られるものがあった。
―――・・・くそぉ!なによ!いまどき高校生でも彼氏がいるってのに!今日は呑んでやる!どうせ私は一人身よ!―――
 そのあとみなもは何を頼んだのか覚えていない。ただ会計が五千円前後だったのは覚えている。
 会計を済ませて街中を歩いていると、ホストと見受けられる人物がみなもに近寄ってきた。
「どうしたの?何か悲しそうな顔をしているね。ホストクラブでパーッと遊んでみない?」
「結構です。」
 みなもはそれだけいうとわき目も振らずに帰ろうとした、だが、ホストはみなもの腕をつかんで話さない。
「見るだけでもいいからさ。一回来て見てよ。」
「ちょっと!離してください!」
 しかしホストは一向に離そうとしない。
 ホストの肩に何者かが手をポンと置いた。
「強引過ぎる男は嫌われますよ。」

156 :天の川 :2003/05/05(月) 21:13 ID:???
 ぬっと木村の顔がいきなり出てきたことにより、ホストは驚いて逃げてしまった。
 木村はみなもを見たまま動かない。
「大丈夫ですか?嫌なら嫌ってきっぱりいったほうがいいですよ。それに女性一人で夜道を歩くのは危険だ。家まで送ってあげます」
 木村はそういいながら近くにあった募金箱に一万円を入れる。
 みなもは不意に、子供のころ見た戦隊ものの特撮番組を思い出した。
―――そういや、ああいうのも、ピンチになったところに正義の味方が助けに来るんだっけな・
 木村はみなものマンションまで本当に送ってくれた。
「それじゃあ、おやすみ。」
 木村はそれだけ言うと、自宅の方向に向かって歩き出した。

 翌日、ゆかりは復帰し、職員室に賑わいを越えたうるささが戻った。
 木村に礼を言っても「当然のことでしょう?」というばかりだった。
―――あなたは、奥さんもお子さんもいます。でも、近くから見守るだけなら、いいですよね―――
 みなもは木村を見つめながら、にっこり微笑んだ。

               END

157 :名無しさんちゃうねん :2003/05/05(月) 21:19 ID:4AwTMUbM
>>154

age歓迎。

158 :名無しさんちゃうねん :2003/05/05(月) 21:33 ID:???
キムリン、カコイイな・・・・・・乙かれ!

159 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/07(水) 22:37 ID:???
何だかクオリティの高い作品揃いで恐縮ですが、
貼らせて頂きたいと思います。

160 :ロックンロール・ネバー・ダイ3(1/4) :2003/05/07(水) 22:38 ID:???
今日は日曜日。何故か朝からみんな私の部屋にいる。
それも一昨、智ちゃんが急にバンドをやるなんて言い出したからだ。
最初はバンドのお名前の事とか、ちゃんと話し合ってたのに、
どんどん話がそれて行ってムチャクチャになってしまった。
智ちゃんは本当にやる気があるのかなぁ…
そう言う私は興味深々で、今までこんな大きな活動はした事が無いから
とても楽しみにしていたりする。
「で、昨日は何が決まったんだ?」
「まだバンドの名前しか決まってないよ。智ちゃんと愉快な仲間たち!」
ぎょっ!
「まじでか!」
よみさんはかなり引いている…
「いやいや、"Raspberry Heaven"だ。」
榊さんが困ったような顔で訂正している。
「それは安心だ。さっきの名前ならやめてるぞ私は。」
あれ?やっぱりよみさん、やる気なのかな?
「よみさん、一昨日はあんなに嫌がってたのに今日はまたどうしてここに?」
私が聞くと、よみさんはちょっと顔を赤くして答えた。
「ほら、歌ったり踊ったりするとダイエットになるかも知れないだろ?」
なるほどー!
「でもよみは歌じゃないよ、下手だから。」
「うるせぇ!」
やっぱり二人は仲がいいなぁ。

161 :ロックンロール・ネバー・ダイ3(2/4) :2003/05/07(水) 22:38 ID:???
「…というわけで、今日は皆さんがどの楽器をするのか決めたいと思います。」
昨日に引き続き、私が議長だ。えへん。
「もちろんあたしはリーダーだから歌で決まり!」間髪入れずに智ちゃんが言う。
「え え っ !?」
「歌は…ほら、こないだカラオケ行った時に榊さんがすごく上手かったじゃないですか…?」
私が聞くと、智ちゃんは人差し指を横に振りながら言った。
「ちっちっち、甘いなちよちゃん。」
「え?」
「榊ちゃんは一昨日、ベースをやりたいと言っていたのだ。だからベース!」
「良かった…」
私の隣で、榊さんの小さなガッツポーズが見えた。
「で、大阪。」
「私は笛やろ〜?」
バンドだから…そはないと思います。
「その通り!」智ちゃんが親指を立てる。
えっ!
「おおいちょっと待て、音楽会じゃないんだぞ」
よみさんも心配そうだ。
「笛と言ってもリコーダーじゃないよ。」
「え〜ええやん、リコーダーええやん」
だめだってば…。

162 :ロックンロール・ネバー・ダイ3(3/4) :2003/05/07(水) 22:39 ID:???
「笛と言っても、大阪にはブラスをやってもらおうと思う。」
「ブラス〜?」
大阪さんは笛を片手に首を傾げる。
「そう。ま、詳しくは明日学校で教えるよ。で、次はよみ〜」
「私は楽器の類はやった事が無いぞ」
実は私もです…というより、みんなした事あるのかなぁ?
「わかってるって。そんなの練習すりゃいいじゃん、気合でカバー」
気合かぁ…
「で、私は何なんだ?」
「よみはギター。」
「踊れないじゃないか…」
よみさん、ダイエットしたいって言ってたのに…
「踊りながら弾きゃいいじゃん」
…うわーそのまんまだ。智ちゃん適当だな〜
「なーなー」
「何だ大阪?」
「どら焼きとみかさはどう違うんやろ…」
……
「あ、あの、私の楽器は何なんですか?」
「そう、ちよちゃんのは考えるのに苦労したんだよ〜」
や、やっぱりちゃんと考えてるんだ。
「ちよちゃんはピアノ弾ける?」
「少し弾けます」
ピアノは幼稚園の頃から少しづつしていて、家にもあったりする。
「決まり!ちよちゃんはキーボードね。いや〜ギターとかじゃ重いでしょ?
この機転と利かせたあたしはやっぱりリーダー向きよね〜」
「で、ドラムは誰がやるんだ?」
よみさんの一言が、その場の空気を凍りつかせた。

163 :ロックンロール・ネバー・ダイ3(4/4) :2003/05/07(水) 22:39 ID:???
「どうしよう…」
「馬鹿、ちゃんと人数考えろよ」
智ちゃん…やっぱり何も考えて無いんじゃ…
「ほんならさー」
大阪さんが切り出す。何かいい案でもあるのかな…?
「智ちゃんがドラムやるってどないや?」
……
「じゃ誰が歌うんだよ…」よみさんの冷めた突っ込み。
「えーと…私。」
うぉっ!
「大阪さんはブラスですよ!ブラスは口がふさがってますよ!」
「……ほんまや!」
大阪さん…
でも本当に、ドラム無しでどうするんだろう?
ほかの楽器にはもうみんな割りあたっちゃったし、歌う人はもちろん必要だし
「ちよちゃん…」
みんなが悩んでいる中、榊さんが声をかけてきた。
「何ですか?」
「音楽室のキーボードによっては、ドラムの音が出るかも知れない…。」
なるほど!
「あ、そうですね!明日行って確かめてみましょう!」
今日はちょっと危なかったけど、何とかなりそうな気がしてきました…!
「そこ!何楽しそうに話してんだよ!あたしも混ぜろ〜」
私と榊さんの間に、智ちゃんが押し入ってきた。

164 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/07(水) 22:41 ID:???
以上です。
今回はかなり悩みました。
おそらくグダグダだと思います。

バンドが本格的に動くまでまだだいぶ話があるのですが、
マッタリ進行は大変辛いです。
早く彼女達がステージで活躍するところを書きたいです。
しかしここはぐっと我慢。頑張ります。

165 :名も無きSS書き ◆K6TB303w :2003/05/08(木) 02:04 ID:???
>>164

乙〜。

ホーンなのに天性の肺活量の無さというハンデを抱えてる大阪,
キーボードなのに手がとても小さいというハンデを抱えてるちよちゃん,
このハンデをどう克服するかがすごく見ものですな。

続き激しくキボン。

166 :名無しさんちゃうねん :2003/05/08(木) 06:59 ID:???
>>164乙!何かが始まるようなそういうワクワク感が伝わって好きです>3話
>「え〜ええやん、リコーダーええやん」
大阪の無邪気な子供みたいなセリフにワラタ。同じく続き激しくキボンヌです。

これからもガンガッテください>SS書きの皆さん

167 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/09(金) 21:55 ID:???
懲りずに更に貼ります。

168 :ロックンロール・ネバー・ダイ4(1/4) :2003/05/09(金) 21:56 ID:???
変化に富んだ日々。
高校生になってからというものの、いつも私の周りでは楽しい友人達が
学園生活というものの楽しさ、素敵さというものを教えてくれる。
元々人付き合いのうまくない私がこんなに積極的になれるのも、彼女達のおかげだ。

今日は皆で音楽室に来ている。音楽の新田先生が私達に嬉しそうな顔で説明している。
新田先生はこの学校の非常勤で、ジャズをやっているらしい。
先生が言うには、この学校は男子生徒がかなり少ない為、
軽音楽部が無い事。また、軽音楽をやろうと言う人がいないとの事である。
そのため楽器室にある軽音楽用の楽器たちが埃をかぶっていたのだ。
そこで私達がこうやってきたので、先生は非常に喜んでいるらしい。
協力もしてくれるようで、非常にありがたい。
「それでですね、楽器を持っていないので借していただけませんか?」
もうすっかりちよちゃんが交渉役だ。リーダーは…?
…いない、どこに行ったのだろう…
「是非使ってちょうだい!楽器は使わないと死んでしまうから!」
やった。これで問題のひとつ、「楽器が無い」が解決した。
「ありがとうございます、新田先生!」
ちよちゃんがめいっぱいの笑顔でお礼をしている。ちよちゃんは可愛いな…
「おーい、こっち来てみなー。」
音楽室の奥の部屋から、リーダーである智の声がした。
あそこは楽器室…

169 :ロックンロール・ネバー・ダイ4(2/4) :2003/05/09(金) 21:56 ID:???
楽器室を覗くと、吹奏楽で使われる管楽器や木琴などの奥に、
未だ使われた事の無いギターとベース、ドラムセットなどがほとんど
新品に近い状態で保管されていた。
智が皆に出すのを手伝うよう命じたが、私が体が大きく、
狭い楽器室の中で身動きが取れなくなるのを恐れて外に出る事にした。
表で運び出されたドラムなどを受け取る途中、智が
「ほら、これは榊ちゃんのだぞ」
と私に渡した黒い皮のケース。
意外にずしりと腕に堪えたそれを、私は開けずにはいられなかった。
考えていたよりも早く来たこの瞬間…
手をファスナーにかける。大きな鼓動、震える手。
そんな中私は、昨日見た夢を思い出していた。

  *

私は部屋で動物専門のの雑誌を読んでいた。
気に入ったページは角を折る癖があるので、ほとんどのページの角が折れている。
ページの角を折る事を、ドッグイヤーと言うらしい。
何てかわいい表現なんだろうか…
あ、このページ、一合升に入ったハムスターがとてもかわいい。
よしここのページも…
「やあ、おはよう」
…!
いきなり肩を叩かれたので驚いてしまった。
私は慌てて雑誌を隠すと、恐る恐る後ろを振り向いた。
「やあ、また合ったね。」

170 :ロックンロール・ネバー・ダイ4(3/4) :2003/05/09(金) 21:57 ID:???
「…うわっ!」
私の後ろにいたのは…そう、ちよちゃんのお父さんだった。
「元気にしてたかなー?」
私の肩に置いていた手をふっと上げて、お父さんは言った。
「ええ…まあ、それなりに。」
私が答えるとお父さんは、どこから出したのか黒いケースに入った
ギターのような物を差し出した。
「ベースがやりたいと…そう言っていたんだよねぇ?」
落ちついていて、それでいて凄みのある声で言う。
「はい…そうです。」
動揺している私に、お父さんはそれを渡す。
受け取ったそれはずしりと重く私の腕へとのしかかってきた。
「これは本当のベースだ。これを君にあげよう。」
お父さんは私に背中を向けて言った。
「え…何故?」
ベースを抱いたまま私が尋ねると、
「腕を磨くのだよ〜?」
お父さんは何も言わずに去っていってしまった…。

  *

171 :ロックンロール・ネバー・ダイ4(4/4) :2003/05/09(金) 21:57 ID:???
「榊ちゃん何してんのさ、早く開けなよ」
私がファスナーに手をかけたまま思い耽っている間に、
楽器はすべて音楽室に運び込まれていた。
そこに並べられた楽器は本当に綺麗で、本当に長い間放置されていた物には見えなかった。
「誰も使わないから、私がいつも手入れしてたのよ。
新田先生が得意げに言う。
よみは黒地に白の変な模様のギターを抱えていた。
彼女は背があるからとても様になる。
大阪は昨日智が言ったようにブラスだったが、ブラストは全然違う形で
そもそも金属製では無いようだ。
それからはコードが出ているし、私にはよくわからない。
彼女は懸命に息を吹き込んでいるが、それから音はしない。
「音せえへん、この笛壊れてるんちゃうん〜?」
ちよちゃんはキーボード。
背が低いので、教卓の下にある台を使ってやっと届く高さだ。
ちよちゃんはとても嬉しそうだ。
「榊さん!」
「…ん?」
「榊さんもほら、早く!」
そうか、私がまだだったな。
「…うん。」
私はファスナーにかけた手を、一息に引きおろした。
中から現れたのは想像もしていなかったほど赤く赤く、
そして触れる者を全て破壊してしまうようなフォルムと存在感を持ったベースだった。
「わ・・・」
私は恐ろしさよりも、早くそのベースを抱いて
全力で弾いてみたい感覚に襲われた。

172 :RnRND :2003/05/09(金) 21:58 ID:???
以上で第4話はおしまいです。
今回は会話が少なかったですが如何でしたでしょうか?

173 :SwudF.K6 :2003/05/10(土) 01:01 ID:???
ロックンロール・ネバー・ダイ、第4話乙!
相変わらず仕事が速いですね。見習いたいものです(´ー`)

皆がそれぞれの楽器を手に入れる第4話。
個人的には榊タソがちよ父からベースをもらうところでワラタ。
ちよ父なら…ありえるねぇ。

>彼女は懸命に息を吹き込んでいるが、それから音はしない。
音を出すことの出来ない大阪に萌え。

>今回は会話が少なかったですが如何でしたでしょうか?
会話が少なくても「らしさ」が充分伝わりました(o^-')b

第5話も期待しています。それでは。

174 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/10(土) 05:48 ID:???
>>165
ありがとうございます。
ま、それはこれからの展開でわかると思います。
うまく書ければ…ですが。

>>166
ありがとうございます。
大阪は原作ではずっとボケてたので、このテイストをなるべく
崩さないように書いていきたいと思います。
うまく書ければ…ですが。

175 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/10(土) 05:50 ID:???
>>173
保管庫作業お疲れ様です。
ちよ父は最初からずっと出したいと思っていました。
大阪が音を出せないのにも訳があります。

176 :84BHHK5c :2003/05/10(土) 11:29 ID:???
>>150のつづきです。

「うぁぁ……さ、榊さん、神楽さん、ご、ごめんなさい……その、最初は立ち聞き
しようなんて思ってなかったんですけど、そ、そのー……」
「何で謝るんだ?」
弁解するちよに【榊】が尋ねた。
「え? あの……」
ちよが言い淀むと、
「何言ってるんだよちよちゃん、別に聞いてたって謝ることなんかねー
くだらねー話だぜ、なあ榊?」
【榊】がごまかしにかかる。ここまでは自然に出来た。
「あ? あ、ああ……その通りだ。べ、別になにも隠してなんかいませんよ……?
うん、その通りださか……神楽、あは、あははは……」
【神楽】は自然にできなかった。【榊】は何とかしようと思ったが、
ちよが喋りだす方が早かった。
「で、でも、榊さんが神楽さんみたいに喋ってて、神楽さんが榊さんみたいで、
あの、あの、榊さんが神楽さんのことを榊って……それで、入れ替わったとか元の体とか……」
涙ぐみながらそう言うちよ。
「……」
【榊】は黙って聞いた。
「あ、あの、ごっこなんですよね!? 神楽さんが榊さんごっこやってて、
榊さんが神楽さん……あっ、いえ、その、立ち聞きなんかした私が悪くて、
その……あ! あの、もしかしてどっきりとかそういうのじゃ……」
そこまで聞いて、ちよを遮って【榊】が言う。神楽の口調を必死に作って。
「そうそう、ごっこなんだよちよちゃん。だからそんな泣くことねーって!
ちょっと遊んでみただけだ」
「榊さん、本当にそうなんですか?」
ちよが【神楽】に話を振る。

177 :84BHHK5c :2003/05/10(土) 11:29 ID:???
「がっ、が、ごごご、ごっこ遊びなんだ、そうだ、うん。私はその、
神楽じゃなくて、榊! 榊! なあ、そうだろ? 榊にしか見えねーだろ?
じゃなくて、見えないでしょ? あれ? 見えないわよ?
……え、えーと榊の言い方は……」
【神楽】はしどろもどろだった。【榊】が【神楽】を黙らせようとしたとき、
ちよが叫んだ。
「あ、あの! お二人とも今日体育の時間に頭を打ったから、
それで具合が悪いんですか?!」
「違うって、私達は大丈夫だから」
「お二人とも、今からでも救急病院に行きましょう!! そこで詳しく
診てもらいましょう! 私も一緒に行きますから!」
「だ、だから、私は神楽じゃなくて榊だぁ、マジで榊だ!」
「救急車! 救急車を呼びますから落ち着いてください!!」
焦りまくるちよと【神楽】。【榊】は考えた。
(病院に連れていかれても私はごまかせそうだが神楽がちょっと怪しいな。
でも救急車を呼ばれたらどっちみち騒ぎになる。それよりちよちゃんが
どこまで納得してくれるかだな)
「ちよちゃん」
そう言って【榊】は電話を持つちよの手を押さえた。
「これはごっこ遊び。大したことはないんだ。分かる?」
尋ねた【榊】に、ちよは
「神楽さん……なんですよね? でもごっこ遊びにしてはちょっと変なんじゃ
ないかと思うんです……」
と答える。
「じゃあちよちゃんは何だと思う?」
また【榊】は尋ねた。

178 :84BHHK5c :2003/05/10(土) 11:30 ID:???
「それは……やっぱり頭をぶつけてちょっとその……具合が悪くなってるとか……
ストレスでちょっと混乱してるとか……やっぱり病院に行きましょう!」
「そうか……。ごっこ遊びとは思ってくれないか……。でもちよちゃん、
ちよちゃんがこれはごっこ遊びって信じるなら、
私達はごっこ遊びをしてることになるんだよ」
「どういう……ことですか?」
【榊】の言葉がよく分からず困惑するちよ。
「ちよちゃんが今の私達を、ごっこ遊びをしていると思ってくれればいいんだ。
そうすれば、私達の変な行動はちよちゃんには納得できるんじゃないかな。
他に納得できる理由を探してもいいけど……例えばちよちゃんの言う通り
頭を打ったせいだとか。どう?」
「ごっこ遊びとか、頭を打ったせいだってことにして、納得しろってことですか?」
「他の理由でもいいけど、そういうことだ……」
そういうと【榊】は笑顔を作って、ダメ? と声を出さずに口だけを動かした。
「私は……」顔を伏せていたちよは【榊】の顔を見つめ、
「私は、本当のことを知りたいです!」
とハッキリと言った。ちよの真剣なまなざしが【榊】の心に突き刺さった。
(仕方、ないよね。この目に向かって嘘はつけない……)
「分かった……」
【榊】はそう答えると、【神楽】に、
「いいか? 言ってしまって。ちよちゃんなら信用できるし、大丈夫だと思う」
と聞いた。
「ああ、あんたに任せる。そういう説明とか苦手だし」
【神楽】は心なしか疲れた様子で答えた。

179 :天の川 :2003/05/10(土) 13:09 ID:???
乙です。
続きが気になります〜

180 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/12(月) 20:24 ID:???
私も続きが激しく気になります。
そんなファンの一人です。

 

 
さて、私のもまだまだ張ります。

181 :ロックンロール・ネバー・ダイ5(1/5) :2003/05/12(月) 20:24 ID:???
私は今、学園生活が楽しくて楽しくて仕方が無い!
こないだから私は、友達を一緒にバンドというものをやっている。
とは言え、まだ楽器が無くてできなかったんだけど。
だがしかーし!それも今日まで!
「…ついに今日、自分達のための楽器を手にしたのだったー!」
「うるさいなぁもう」
よみが鬱陶しそうだ。
「それにこれは私達のじゃないです。あくまでも借り物ですよ?」
「確かにそうだ。各員自分の楽器を買う事!」
「お金あらへんで〜」
「ううむ世の中金か…貯金の無いやつはバイトする事!」
「智ちゃんはお金あるんですか?」
「ううう、私はバイト組だ〜」
ちよちゃん痛いところ突いてくるなぁ…とほほ。
「…で、今からどうするんだよ」
「どうしよう。弾けないもんな」
「とりあえずみんな、音を出してみたら?はじめて触るものだから
ひとまず慣れてみるといいかも」
「さっすが先生!」
先生がみんなの所を回って、スイッチを付けたり線を繋いだりしているうちに、
「先生、これはどうやって持つんですか?」
よみと榊ちゃんが聞いている。
「これはピック。人差し指を曲げて、上から親指で挟み込むの。」
「こう…ですか?」
「そうね。ちょうど100円玉を自販機に入れる時のように。」
先生教え方うめ〜
私でもわかるぞ。

182 :ロックンロール・ネバー・ダイ5(2/5) :2003/05/12(月) 20:25 ID:???
急に後ろから、綺麗なピアノの音が聞こえてきた。
ちよちゃんがキーボードを弾いているのだ
「ちよちゃん、すげ!」
「…これは…『エリーゼのために』…」
「榊ちゃんよく知ってるな」
「知らない方が珍しいぞ。」
「え?そ、そうなのか!?ちきしょー騙されないぞ!」
よみはいつもあんな言い方するが、実は物知りだから悔しい。
そうしてる間にちよちゃんが弾き終った。
「ブラボー!
「ブラボ〜」
大阪は笛を口に咥えたまましゃべろうとするので変な音が出ている。
ん…ちよちゃんのピアノの音が出てたスピーカーから音が出てるぞ?
「すごいなちよちゃん」
「えへへ、小学校の時少しやってたんです。」
それは頼もしい。
「でさ、大阪は一体どうやったらそんな所から音が出せるんだ?」
大阪も困った顔をしている
「それがな、私もわからへんねん。そもそも笛の音ちゃうしー。」

183 :ロックンロール・ネバー・ダイ5(3/5) :2003/05/12(月) 20:25 ID:???
「それはね、その笛の音じゃないの。」
先生が言う。
「え?でも大阪が吹くと鳴るよ?」
私の言葉を聞いて大阪が笛を吹く。変な音だ。
「ぷはぁ!」
相変わらず息が短い。
「実はこれの音なの。」
先生が指差したのはでかいスピーカーの上に置いてある小さな機械だ。
機械だよ何かかっこいいよ。
「それから音が?」
「そう。ほらこれを見て?」
先生が手で電線を持つそれはその機械から大阪の笛に繋がっている。
「ほんとだ!」
「これはコントローラなの。」
先生が大阪の持っている笛に指して言う。
「このコントローラでこの機械を操作してるの。で、この機械はそれに従って音を出す仕組み。」
なんだかよくわからないけどすごい!
「なるほど!これがあったら夜でも笛練習できますね、大阪さん!」
「そうなん?ちよちゃん〜」
私もちよちゃんの言ってる事がよくわからん。このへんはちよちゃんい任せるとしよう。
「そうね。これを使えばヘッドフォンを使って音を聞けるわね。」
「へぇー…」

「で、どうしてちよちゃんの音が同じところから?」
よみが聞く。そんな事忘れてたよ。

184 :ロックンロール・ネバー・ダイ5(4/5) :2003/05/12(月) 20:26 ID:???
よく見るとちよちゃんのキーボードからも、大阪のそれと同じような電線が
その機械に繋がっている。これだ!
「これだ!」
私は電線を掴んで先生の顔を見た。
「そうね。ちよちゃんの弾いていたのもピアノじゃなくてコントローラだから
それだけじゃ音は出ないの。」
「へへーんすごいだろ」
「お前は凄くねぇよ」
「ちぇー」
よみは厳しいな。少しくらい甘やかせてくれたっていいのにさー。
「で、よみと榊ちゃんはどうなんだ?」
二人はそれぞれギターとベースを抱いている。
背が高いからカッコいいなぁ。
「いくぞ榊」
「…うん。」
二人で一斉に弾き始める。かっこいい!
…が、音がムチャクチャだぁ。
「どうにかならないの?それ」
「しょうがないだろ!やった事無いんだから。」
榊ちゃんも顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「智も何か歌ってみろよ」
「えっ!?」
そうか、私ボーカルか。

185 :ロックンロール・ネバー・ダイ5(5/5) :2003/05/12(月) 20:26 ID:???
「そうやで、みんな弾いたんやし、智ちゃんも早くー」
「そうか、よし、みんな聴いて驚くな〜」

「ト〜ラ〜ンクひと〜つ〜だ〜けで〜
 浪漫飛行へ〜インザ〜スカ〜イ
  飛び回れ〜この〜マイハ〜」

…アカペラ恥ずかしっ!!
変な汗かいちゃったじゃないか!

「おおー!」ぱちぱちぱち
大阪の拍手
途端に全員がわっと沸く。
「え…?」
「音も無しになかなか大声が出せるものじゃないわよ。」
先生が言う。
「智ちゃんすごいじゃないですか!」
そうなのか?そうなのか?
私やっぱりボーカル向きか
「はっはっは!これが私の実力だ!」
「でも音程がまだまだね。」
なにぃ!
練習してやる、練習してやるぞー!

186 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/12(月) 20:27 ID:???
今回はこれでおしまいです。

いつもより少しだけ長くなってしまいました。
ああ、今回こそ本気でグダグダかも…

187 :天の川 :2003/05/12(月) 21:30 ID:???
 大阪こと春日 歩は、いつもどおり英語の時間に眠りこけていた。
 担任であり英語の教科担任のゆかりが、これまたいつもどおり、教科書で寝ている歩の頭をたたく。
 歩は顔を上げ、視界にゆかりの顔が入ったかと思うと「ちゃうねん」といった。
「ほ〜、じゃあ何が『ちゃうねん』なのかしら?」
 ゆかりが教科書を握り締めたままきく。
「・・・・・・ちゃうねん・・・・」
 スパーン!
 歩の頭に、もう一回教科書が振り下ろされた。

 昼食時間、歩は他のメンバー五人と昼食をとっていた。
「それにしても大阪さんはいつも寝ちゃいますねぇ。どうしてですか?」
 ちよが歩に聞いた。考えれば至極当然のことだ。

188 :天の川 :2003/05/12(月) 21:30 ID:???
「わからんなぁ、私も寝たくてねとるんやないで。いつのまにか寝てまうんや。それにしてもゆかりちゃんはひどいで、たんこぶができてもーて頭がまだずきずきする」
 歩は昼食のパンを口にくわえたまま、たんこぶができている箇所をさすった。
「ゆかりちゃんはひどい」の部分で、ほかのボンクラーズの二人がうなずく。
「ゆかり先生はいい先生ですよ」
 ちよがとっさにゆかりをフォローした。
 一番早く昼食を食べ終わった智が、ちよに質問する。
「じゃあちよちゃん。ゆかり車は―――んがっ!?」
 智が発しようとした言葉を、暦が止めようとしたが遅かった。
 ちよの顔が蒼白になり、目も死んだ魚のような目になっていく。心なしか体も小刻みに震えている。

189 :天の川 :2003/05/12(月) 21:31 ID:???
「ゆかり先生、止めてください、止めてください、もっと、ちゃんと・・・・ごめんなさい、すみません、だめ、死にます・・・・・ああ―――おじいちゃんが、おじいちゃんが・・・・逃げてーーー!」
 智は腹を抱えて笑っている。暦と神楽は智の頭をひっぱたいた。
 歩は、いつもと同じような騒ぎから視線をそらし、空を見上げた。いつもどおりの晴天だ。
―――大阪のみんなも、この空見てるんやろか・・・―――

 数年前、大阪―――
 そのころはまだ中学生三年だった歩のそばに、子供が走りよってくる。小学校の高学年くらいだろうか。
「歩おねえちゃん、また正太君がいじめるんや」
 正太というのは、歩の近所に住んでいる男の子である。悪がきで、よく同級生にちょっかいをかけているらしい。
 歩のそばには、よく歩より小さい子が集まっていた。精神的に気が合うのか、それとも歩には子供をひきつける何かがあるのかはわからないが、ともかく歩は子供に好かれていた。

190 :天の川 :2003/05/12(月) 21:32 ID:???
 正太の同級生に連れられ、正太がいるというところへ歩は向かった。
 正太は近くにある空き地にいた。
「正太くん、いじわるしたらあかんよ」
 歩はおっとりとした調子で正太に注意する。しかし歩の注意も正太には関係ないようだった。
「ええやないか、歩ねえちゃん。おれは急がしいんや。ほっといてくれへんか?」
正太はそういうと、歩の横を走っていった。
 歩が必死で走るが追いつかない。運動音痴なのはこのときからのようだ。
 ぐんぐん距離をはなされていく。一メートル、二メートル・・・ついには正太の姿は豆粒ほどになってしまった。
 歩は息を切らしながら立ち止まった。
「ダメや・・・・もう走れへん・・・・」
 大阪は息を荒く吐き出しながらへたりこんだ。
 今までの二人の関係は、『近所の悪がき』と『からかいがいのある年上』という関係だったが、二人を結ぶ接点がこのあとできるなんてことを、二人はまだ知らなかった。

191 :天の川 :2003/05/12(月) 21:33 ID:???
今日はこれくらいで。

大阪の純愛・・・?小説です。まだ少しですが続きます。

192 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/12(月) 22:30 ID:???
正太君とどうなってしまうんだろう…

193 :名無しさんちゃうねん :2003/05/13(火) 00:56 ID:???
正太君、あかん

しょーたくん、あかん

しょーたくんあいけん

しょーたあいけん

初体験!

あるおおさかでおんなになった じょしこうせいのはなし
つづかん

194 :f9KePBNo :2003/05/14(水) 00:09 ID:???
「にゃもの秘密?」

 「ふぅ、疲れた〜」
 今日の授業を終え、職員室の自分のデスクに座ったとき、にゃも先生はそう言って、背伸びをした。そして、自分の頬を両手でなでた。
 「なんだよ、体育教師がそんなに疲れるってか。もうオバハンだな」
 隣の席のゆかり先生がそう呟いた。その言葉ににゃも先生は思わずカチンと来た。
 「違うわよ。今日はずっとくわえていたから、あごがくたびれて、それで疲れたって言
ったのよ」
 にゃも先生はそう言って頬からあごの骨の辺りを時計回りにグルグルと撫でて、マッサージをしていた。

 「なっ、あんたずっとくわえてたって…。あんた、まさかフェ…」
 「そうよ。今日はずっとフエ…」
 にゃも先生がまだ話している途中なのに、ゆかり先生はにゃも先生の頭を出席簿で叩いた。
 「いたーい。何すんのよー」
 「あんた…。学校で何てことしてるのよ!しかも、私に内緒でフェ…」
 今度はゆかり先生がまだ言い終えないうちに、頭を叩かれたことで少し怒り気味のにゃも先生が反論した。
 「はぁ?あんた、何か勘違いしてない?私はただ、このフエをくわえていたから疲れたって言っただけなのよ」
 にゃも先生はそう言って、今日の体育で使ったホイッスルを見せた。

195 :f9KePBNo :2003/05/14(水) 00:10 ID:???
 「今日の体育でバレーの審判とかしてたから、ずっとこのフエをくわえていたの。これ
って、ずっとくわえているとあごとか結構疲れるのよ」
 「なーんだ、そういうことか。そうだよなー。あんたがそんなことする訳ないとは思っ
てたけどね。男と縁がないし」
 ゆかり先生はそう言って、ゆかり先生の肩に手を回した。
 「うるさいなぁ。ところで、あんた何と勘違いしてたの?」
 にゃも先生の質問に、ゆかり先生は一瞬言葉を失くした。

 「へ?そんなのこのベリーキュートなゆかりちゃんの口から言えるわけないじゃん。そ
れより、今日は飲みに行こーぜー」
 「今日『も』でしょ」
 そう言ってにゃも先生はため息をついた。
 本当にせっかちなんだから…。でも、あんたがいる限それもなかなかできそうにないかもね…。
 にゃも先生はゆかり先生の顔を見つめて、今度はさっきより大きくため息をついた。
(おわり)

196 :名無しさんちゃうねん :2003/05/14(水) 01:11 ID:???
↑ 乙!
ゆかり先生のしゃべり方が、なんか智みたいや♪

197 :天の川 :2003/05/15(木) 06:06 ID:???
この前の続きっす。
 歩が帰路についているとき、近くの橋の下に人影が見えた。歩は視力がいいので、多少離れていても誰だか確認できた、正太である。
「どないしたんやろか、正太君。おなかでもいたいんとちゃうかなぁ?」
 歩は橋の下にいる正太に近づいていった。
 正太は前かがみになり、後ろから来る歩には気づかない。
正太の目の前には段ボール箱があり、なにやら動いている。
 動いているものが鳴き声を上げた。
「ニャーン」
 そう、ダンボールの中にはネコがいた。
「なにしとんの?正太君。どないしたん?そのネコ」
 歩に声をかけられ、正太はやっと歩の存在に気づいた。
「歩ねえちゃん・・・・!このネコ、おれが世話しとるん。捨てネコみたいなんや、うちではネコ飼えんし。だから残り物とかもってきて、やってんのや。人探してもいいんやけどな、そしたら人が押し寄せてきて、ネコにとってもストレスになるとおもうんや」

198 :天の川 :2003/05/15(木) 06:07 ID:???
 歩は正太とネコに近づく。
 ネコは三毛猫だが、だいぶ体が汚れているのでとてもみすぼらしく見える。
 歩は不意に立ち上がった。
「よっしゃ。わかった。私も一緒に世話したる。ええよな?」
 正太は驚いたような顔をしたが、すぐにうなずいた。
「よろしくなぁ、ネコちゃん」
 歩がネコを触ろうとし、手を伸ばす。
「あっ!だめや!」
 時すでに遅かった。歩はネコに指をかまれた。
 歩の指からは真っ赤な血が流れていた。
「こいつは初めてのヤツには必ずこうするんや。おれかて最初はやられた」
 正太は笑いながら歩の指を自分の口の中に入れた。
「ふぁ!?」
 正太はすぐに口から指を抜き、唾液と一緒に歩の血を地面に吐いた。
「細菌入ったらあかんからな、悪く思わんといてや」
 歩は赤面した。

199 :天の川 :2003/05/15(木) 06:07 ID:???
 それから一週間もたたずに、親から転校の話が出た。
 もう少しで東京のほうの学校に行くというのだ。
 歩は、うわべでは変わっていなかったが、内心やりきれない気持ちでいっぱいだった。
「あ〜あ・・・正太君と、お別れかぁ・・・・」
 歩は窓から外を見ながらつぶやいた。

 歩の引越しまであと一週間と迫った休日、その日は台風とまでは言えないが、灰色の雲が大阪の空を埋め尽くし、すぐに豪雨を降らせた。
 正太は雨を見て、思い出した。
「あっ!ネコ!」
 ネコ。橋の下にいるのである。もちろんあそこは川べりだ、増水したら流されてしまうかもしれない。
 正太はカッパを着て走り出した。
―――ネコ、まっててや。絶対無事でいてくれよ―――
 五分くらい走ると、橋が見えてきた。
―――流されてなくても、雨に濡れて風邪でも引いたら―――
 正太が土手を降りると、そこには歩がいた。傘を差し、ネコと一緒にいる。

200 :天の川 :2003/05/15(木) 06:08 ID:???
「正太君、遅かったやないか。今までずっとネコちゃんと一人でおったんやで。一緒に飼ういうた手前、絶対こなあかんやろ。もう二十分くらい早くきたんや」
 歩は笑いながら正太に話しかける。
 歩が着ているズボンと服は、泥で真っ黒になっている。大方途中で転びでもしたのだろう。
「なんやそれぇ!歩ねえちゃんすごいことになっとるで!顔も服も泥だらけや!」
 正太は笑った。歩も自分の服を見、笑い出した。
「本当や!まぁたお母さんにしかられるわ!」
「・・・・・・・歩ねえちゃん、ごめんな。おれのせいでわざわざこんなとこまで・・・」
 正太がしょんぼりした様子でいう。
 歩は自分の胸をたたき。
「なにいうてんの?これは私が自分で勝手にしたこと、正太君は気にせんでもええよ。それよりこっちもお礼を言いたいくらいや。この前猫にかまれたときな、恥ずかしかったけどうれしかったん」
 二人とも顔を真っ赤にした。二人とも笑い出した。雨の音に負けないくらいの大声だった。

201 :天の川 :2003/05/15(木) 06:08 ID:???
「もう・・・大阪にもさよならやなぁ」
 歩が駅のホームでつぶやいた。
 正太の姿はどこにも見当たらない。
―――列車に乗ったら、進行方向の右をずっとみたったれや―――
 正太は歩が転校する前日、そういった。
 親に促されて歩は列車に乗り込む。
 列車が走り出す。歩は言われたとおりに進行方向の右を見ていた。
 スーパー、コンビニ、工場。今となってはなつかしかった。
―――あれは正太君の通ってるがっこ・・・・―――
「う!?」
 歩は思わず口に出してしまった。
 正太の通っている学校のカーテンには、ペンキのようなもので「歩ねえちゃんさよなら!」とかかれていた。
 窓からは正太が手をふっている。
 先生がやってきた。
 正太は逃げる。
―――正太君、私、東京でもがんばってくで!いつか、きっといつか、一緒にネコ飼おうな!―――

202 :天の川 :2003/05/15(木) 06:08 ID:???
「―――さん?大阪さん?どうしたんですか?」
 ちよが大阪を心配そうに見ている。
 もう屋上には誰もいない。
「皆さんいっちゃいましたよ。授業がもう始まります。早く行きましょう!」
 歩はちよに手を引かれて階段を下りていく。
 パンの入っていた袋が、カサカサと音を立てて宙に舞っていった。
 歩が大阪にいたころの回想をしていたことを、今は誰も知る由は無かった。

203 :天の川 :2003/05/15(木) 06:10 ID:???
終わりです。

大阪にすんでいるわけじゃないんで、間違いの指摘はご遠慮ください。
次回作はボンクラーズ登場か!?

204 :名無しさんちゃうねん :2003/05/15(木) 13:40 ID:e4RYlj/2
>>203
お疲れ様。いい話です。
>>198の正太君の行動を見るとやっぱりおませですね。

205 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/15(木) 22:41 ID:???
うわーん!泣きそう!
お疲れです!

206 :名無しさんちゃうねん :2003/05/16(金) 19:41 ID:???
>>197-203(・∀・)イイッ!

207 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:55 ID:???
>>178のつづきです。

 三人とも黙っていた。さっきまで事情を説明していた少女も、壁にもたれて時折それを
補足していた少女も、それを聞いていた少女も。ただ、黙っていた。
その空気の圧迫感に耐えかねて、【神楽】が咳払いをした。それを合図にしたかのように、
【榊】が口を開いた。
「どう……かな」
ややあって、ちよが口を開く。
「……ちょっと、信じられない話です……」
【榊】はうなずいて、
「信じられないのも無理ない……でも、信じてくれなくてもいい」
と言った。
「おい榊、それじゃ説明した意味がねーだろ!」
「すいません、そういうつもりで言ったんじゃないんです!」
残る二人の声が同時に部屋に響いた。
「……いや、こんな話信じろという方が無理だ。ちよちゃんは悪くない。それに、
これは私達が解決しなきゃならないことだ。ちよちゃんが作り話ということで
納得するならそれでいいよ」
二人の気持ちに答えて【榊】が自分の気持ちを伝える。再び沈黙が場を制した。
「でも……」ちよがぽつりと喋りだした。
「榊さん、神楽さんを疑うわけじゃないんですよ! 本当です! それに、その……
さっき話を聞いていたときの榊さんと神楽さん、入れ替わってたって思えば自然ですし……
ただ、本当にこんなことが……」
「私だってびっくりしたさ」と、【神楽】がちよの言葉を受ける。
「目が覚めたら榊だもんな……ともかく、ちよちゃんには余計な心配かけて、
それに嘘ついて家に転がり込んで悪かった。やっぱり私ら帰った方が……」
「い、いえ! ぜひここにいてください! 家に帰っても大変でしょうし……
それに、今日お父さんもお母さんもいなくてさびしいですから!」
ちよが慌てて引き止める。【榊】が、
「いいのか?」
と尋ねる。ちよは、
「はい! とにかく夕ご飯を食べましょう。ご飯を食べながらゆっくりともう少し詳しい
お話を聞かせてください」
と答えた。

208 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:56 ID:???
 【榊】と【神楽】の二人は、自分達が元の体に戻りたいこともちよに話した。
しかし、ちよが実年齢に対して天才的頭脳を持っていても、それを実行する答えを
知っているわけはなかった。
「ちよちゃんでも知らねーかぁ」と【神楽】。
「それはそうだろう……」と【榊】。
「で、でも、戻る方法はきっと見つかります! あきらめないでください!」とちよ。
【榊】は残ったコーヒーを飲み干し、
「うん……明日図書館に行っていろいろ調べてみよう」
と言った。
「……でも、榊さんが神楽さんみたいな喋り方をするのも、神楽さんが榊さんみたいな
喋り方をするのも、なんだか不思議と言うか、おもしろいと言うか……
あっ、ごめんなさい、おもしろがるようなことじゃないですよね……」
「いや、まぁ……私らも最初は結構こーなってるのを楽しんでたしなー。なぁ、榊」
「私は別に……」
 そんなことを話している間に、時計は8時を指していた。
「もうこんな時間ですねー。お風呂の準備は出来てますから、どうぞお入り下さい。
お二人ともお疲れだと思いますし」
ちよが二人に風呂を勧めたが、
「いや、ちよちゃん寝るの遅くなったら辛いだろ。ちよちゃんが先に入ったら?」
「お邪魔させてもらってる私達が一番風呂をもらうのは悪いし……」
と二人は言った。
「じゃあ、すみませんが、私が先に入らせていただきますね。私が出たら、
お二人ともどうぞご自由にお使い下さい」
そう言ってちよは入浴の準備を始めた。

209 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:56 ID:???
 風呂場の中。ちよの次に入浴した【神楽】は、風呂場の鏡に写った自分の姿を見ていた。
もともと榊のものだった体を。もちろん、女同士、同じクラス、そしていっしょに
旅行にもいった仲だ。裸を見るのは初めてじゃないが。
「はぁ……、本当にスポーツやらねーのがもったいない体してるなー」
 そう独り言を言い、改めて鏡の中をまじまじと見つめる。その恵まれた体格と運動能力。
もしも榊のような体に自分もなれたらと何度も思った。その願いはこうして叶うことと
なったわけだが。しかし。
(この体でいる限り、私は「榊」なんだよな……どんなにがんばっても、
「神楽」じゃなくて「榊」として評価されるんだ)
 その現実にため息をつく。戻る方法が分からないということが、さらに気を重くする。
が、とりあえずは今は考えることを止めて鏡の中の今度は顔に注目する。
 やや冷たい印象だが落ち着いた瞳。校内の男女両方に人気だといわれる整った
クールフェイス。そして黒く美しい長い髪。正直、【神楽】も変な意味でなく
カッコイイと素直に思える顔だ。ただ、精神が入れ替わっているためか、普段とは
顔の印象が若干変わっている。榊が普段やっている顔をマネしてみようとやってみたが、
うまくいかない。しょうがないので、いつも自分がやっているようににかっと笑ってみた。
(……以外と……かわいいんじゃん)
普段の榊とは大幅にイメージが違ったが、一瞬ドキドキしてしまう。
(な、何焦ってんだ私は……)
何か榊の意外な面を見たような気分になり、後ろめたさに似た感情さえ感じた。
 神楽は入浴を終えた。……しかし、彼女はその直後再び現実を突き付けられることになる。
「そういやこんなの履かなきゃいけねーんだったな……」
あまりにもファンシーな下着が脱衣所で彼女を待っていた。

210 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:57 ID:???
 【榊】も【神楽】が上がった後に風呂に入った。普段の自分より短い髪を丁寧に洗う。
ややぱさついてしまった髪。日焼けした肌。それが神楽がいかに努力してきたのかを
雄弁に物語っていると【榊】には思えた。
 【榊】は鏡の中を覗き込んだ。普段はまさに元気という言葉がぴったりくる顔。
だが、いまは【榊】が体の中に宿っているせいか、悪く言えばさめた、良く言えば
落ち着いた顔をしている。
(私じゃ、あんなに気持ちのいい笑顔で笑うことは出来そうもないな……)
快活な友人の笑顔を思い出してため息をつく。その明るさはうらやましいが、
かといって体が入れ替わってもその明るさを身に付けられるわけでもないのだ。
(一生元に戻れなかったらどうしよう……)
 不意に不安が【榊】を襲う。心が落ち着いて涙が止まるまで、【榊】は顔を洗い続けた。
風呂から上がったとき、泣いていたことがちよちゃんにばれないように。
これ以上心配させるわけにはいかないのだ。
 涙が止まって、【榊】は、体を温めるために湯舟に入った。その瞬間、
「ごぼっ?!」
危うく溺れそうになった。背が低いのを忘れて普段の調子で湯舟の中で座り、
ちよの家の風呂が大きいこともあって潜ってしまったのだった。
(……なんとしても、元に戻る方法を見つけよう)
決意を新たにする【榊】だった。

(つづく)

211 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/19(月) 23:25 ID:???
正直な話、続きが気になる話を書くのは難しいと思う。
すごいです!

212 :ケンドロス :2003/05/19(月) 23:29 ID:???
みんなうまいなぁ。どうしたらそこまでオリジナルの雰囲気を残しつつ
話を作れるか教えてほしいですよ。(アレンジ大魔王)

213 :天の川 :2003/05/20(火) 05:08 ID:???
禿同。
何でそこまでうまく話を作れるんでしょうか?
天賦の才ですね。

214 :天の川 :2003/05/26(月) 21:27 ID:???
―――みんなと会うの、久しぶりですね。元気にしてたかな?―――
 ちよは何年ぶりかにやってきた、前に自分が住んでいた町を歩きながらそんなことを考えていた。
地面には雪がうっすらと積もっている

 日本が冬休みのときにちょうどアメリカの大学も冬休みなので、しばらくあっていない日本の友達のところまで来たのだった。
 ときどき届く手紙には、みんなの身の回りのことが事細かに書かれていた。ゆかりがいっていたとおり、
大学がばらばらになってもよく集まって遊んでいるようだ。
 ことの起こりは約一ヶ月ほど前の、智からの電話だった。
『―――ねぇ、ちよちゃん?こっちの大学はあと少しで冬休みになるんだけど、そっちも冬休みになるかな?もしなるんだったら、
冬休みにちよちゃんちの別荘に行きたいなと思ったりしてね。どうかな?』

215 :天の川 :2003/05/26(月) 21:29 ID:???
『あ、こっちも冬休みなんですよ!解りました、行きます!別荘はあそこじゃなくて、
他の別荘にしましょうか、今度の別荘はスキーも滑れるんですよ。
スキーを持っている人はスキーを持ってきてください。
もってない人は別荘にあるのを貸してあげますから』
『スキー!?わかった!みんなに伝えておく!ゆかりちゃんたちは呼ぶ!?』
『もちろん呼んでください、車はこちらで用意しますので。』
 こんな風に、五分たらずでちよの日本にくるということ、
そしてちよのもう一つの別荘にいくということが決定した。

 ちよは両親が住んでいる家の門の前に着いた。昔は自分も住んでいたが、今は両親しか住んでいない。

216 :天の川 :2003/05/26(月) 21:31 ID:???
「おーい!ちよちゃーん!」
 遠くから手を振っている人がいた。ムードメーカーの智だ。他の四人もいた。
 ちよは五人の近くに駆け寄った。全員変わっていない。榊は相変わらず背が高く、
歩はやはり少しポケーッとしている。
「元気だった!?いやぁ声だけじゃあわからないね!大きくなったなった!」
 自分より十センチほど背が低いちよの頭を、ともがなでながら言った。
 他の四人も、ほほえましい顔をしている。
「あ、ちよちゃん。もうご両親にあいさつは?」
 よみが思いだしたようにちよに尋ねた
「いや、してません。多分いませんよ、二人とも。
仕事が忙しいって言ってましたから」
「あっ!いた!ちーよちゃーん!」
 遠くから二人の人影がこちらに向かってくる。ゆかりとみなもだ。
 二人がちよの近くまで走ってくると、みなもが息を切らしながら謝った。
「ごめんねぇ遅れちゃって。ゆかりがいけないのよ、『新作のゲーム買うんだ!』って、
ずっとお店が開くの待ってるんだもん。挙句の果てに、結局今日は定休日・・・・・まぁいいわ、
積もる話は車の中でしましょうか、外は寒いしね」
 ちよが門を開ける。中にはもう車が置いてあった。ワンボックスカーだ、とても大きい。
 ゆかりが前列の右の席、運転席に座ろうとするのを、榊と歩、
そしてちよが急いで止めたのだった。

217 :天の川 :2003/05/26(月) 21:33 ID:???
見やすくするために文中で改行してみましたが、
一回目が失敗で余計見づらくなってしまいました。

一応続きます。まだここだけでは解らないのですが、ミステリーになる予定です。

218 :名無しさんちゃうねん :2003/05/26(月) 21:50 ID:???
>>217
乙。続き楽しみでつ。

ミステリー?まさか、次々と殺人事件が!?

219 :大阪@大阪編第一回(1/3)byなも ◆K6TB303w :2003/05/29(木) 01:22 ID:???
 「ボレロって…ホンマかわえぇなぁ…。」

 自室で,学校へ行く準備のさなか,春日歩はボレロに袖を通しながらつぶやいた。
小さいころからあこがれていた「ボレロ」。セーラー服が覇権を利かせ,
ブレザーがその勢力を伸ばしている女子高生の制服の中でも,
ボレロは採用している学校が少ないだけに,格別の扱いだ。

 そのボレロを制服として採用している名門進学校,「菊仙女学院」。
難関と言われる名門へと,ほぼ奇跡に近い合格を,
彼女は二人の親友とともに果たした。
今まで努力した結果が,現在の今に至っている。
そんな満足感に浸りながらも,学校への準備を着々と進めていく。

「歩〜,はよしないと純ちゃんとまーやちゃん来るで〜。」
「はいはいは〜い。」

 台所からおかあちゃんの声がかかる。
中学校の頃はいつもおかあちゃんのこの声で起こしてもらっていた。
だけど高校に入ってからは,今まで,学校に行く日は自分からちゃんと起きている。
こんな小さな事の積み重ねが,高校に受かった実感を盛り上げていくものだ。

 ダイニングへ行くと,既に妹の翔が4人がけのテーブルについて,
朝ご飯の白味噌汁をすすっていた。
手間がかかる二つの編み込みお下げを結い終わり,
糊で直線的なラインのシルエットを持つ,
洗い立てのセーラー服を着込んでいた。
つい先月まで,歩が着ていたセーラー服のお下がりだ。

220 :大阪@大阪編第一回(2/3)byなも ◆K6TB303w :2003/05/29(木) 01:22 ID:???
 この春から中学生になる翔の現在の体格は,
比較的成長の遅い歩とほとんど同じで,身長も,座高も,ウェストも,
ただ,胸のサイズが歩に輪をかけて小さい以外は,
それでこそ双子と見間違えるほどそっくりだ。

 歩も翔の隣に席につき,箸を手にとり,
小鉢に盛られたほうれん草のおひたしに箸を伸ばした。
アジのひらき,ほうれん草のおひたし,白味噌汁。
関西系味付けを好むの春日一家の朝は大抵は和食から始まる。
ただ,歩も翔も寝坊した日は早く摂れるトーストやシリアルで済ませる事もある。

 あめ色に漬かった奈良漬をかじりながら翔は黙々とご飯を口に運ぶ。
藍く飾り絵の施された男性用の大きめのお茶碗を右手に,
少々長めの朱色の塗り箸で,テンポよくご飯を平らげる翔。
ウサギのプリントのついた子供用のお茶碗を左手に,
カエルのプリントの入ったプラスチックの箸でご飯を食べる歩。

 容姿,体格こそ似ている二人であるが,
性格や趣向など,ほとんど中身は別物といっても差し支えは無いかもしれない。
食事だってその一つだ。早食い,大食いで辛いもの好きの翔に比べて,
歩は甘い物好きで食が細い。だから時々,歩が妹に間違われることもある。

221 :大阪@大阪編第一回(3/3)byなも ◆K6TB303w :2003/05/29(木) 01:23 ID:???
「PLLLLLLLLLLLLLLLL!」

 電話から,無機質な電子音がダイニングに響き渡る。
昨日水に漬けておいた食器を洗っていたおかあちゃんが手を止め,
エプロンで水気をふいて壁に掛けてある受話器を取る。

 「はい,春日です。」

 先ほどまで歩と翔を送り出す朝の修羅場に身を投じていたとは思えない,
社交的な明るい声でおかあちゃんは電話に出た。

 「あ,おとうちゃん?…うん…わかった…歩と翔にもゆうとくわ…はい〜。」
 「おとうちゃんから?」

 おかあちゃんに負けず劣らない明るい口調で,翔がおかあちゃんに問い掛けた。
おとうちゃんは最近は出張続きで家に帰ってこない,
たとえ帰ってきたとしてもほとんど夜遅く。
だから歩や翔とはぜんぜん親子の会話を持つ機会が無い。
歩も翔もおとうちゃんの事が好きという,ほぼ理想的な父娘関係なので,
今現在の状態みたいに親子の会話が持てないのは非常に残念だ。
だからこそ,おとうちゃんからの電話の内容が気になるし,
電話口から聴くには,歩と翔にも何かメッセージがありそうな雰囲気だ。
おかあちゃんは受話器を静かに置いて口を開いた。

 「おとうちゃん,今日は5時ぐらいに帰ってこれるって。
久しぶりに歩と翔と話ができるんやって。」
 「きゃほ〜!」

 満面の笑顔で,翔は隣の歩にハイタッチを求める。
素直に笑顔で応じる歩。乾いた音がキッチンを駆け抜ける。
そして何事も無かったのかのように,再び食事に戻る二人。

 「ごちそうさま!」

 まったく同じタイミングで歩と翔が最後の味噌汁のひとすすりをした後,
テーブルから離れ,翔はソファーにおいてある真新しい学生カバンを手に,
歩は同じくソファーにおいてある背掛けカバンを背に少し遅れて玄関へと向かった。

222 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:01 ID:???
『THE FIRST CONTACT』 ACT1

「なあなあ、よみちゃん。」
昼休み、大阪が私に語りかけてくる。またくだらない事を言い出すのかと思ったら
違った。

「よみちゃんはともちゃんとどんな出会い方したん?」
「あ、それ私も聞きたいです。」
いつの間にか大阪の横にはちよちゃんがいた。ともは・・・神楽に肩叩きをしよう
として、狙いがずれ思い切りチョップをくらわしていた。

「ともとの出会いか。」
そこから私の記憶が遥かな過去へと飛んだ。

ともと会う前の私はどちらかというと、無口で大人しかった。クラスメイトで
いうと榊に近い感じだった。でも、私の場合榊と違い『暗い』をイメージさせる
ものだ。
とにかく勉強だけにしか関心を持たず、他の物事はかなり冷めた目で見ていた。

当然クラスの中では浮いた存在だった。対照的にともは今と変わらず明るくやんちゃ
で、男子と殴り合いの喧嘩をしたりもしていた。
でも、ともには人を惹きつける魅力があったらしく文句言いながらもみんな
慕っていた。

「お前いつも退屈そうだな。あたしと一緒に遊ばない?」
いつもの様に私が次の授業の予習をしている時、ともは私に話しかけてきた。
これが私ととものファーストコンタクトだった。

223 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:04 ID:???
『THE FIRST CONTCT』 ACT2

「悪いけど、お断りします。私にそんな暇はありませんので・・・・」
この頃の私は口調も今以上に棘があった。はっきり言えばともを見下していた。

「滝野さん、あなたもそんな事をしている暇があったら勉強でもなさったら?」
「バーカ、勉強なんてのは授業受けりゃいつでも出来んだろーが!!でも遊ぶ
のはすっげぇ限られる。だから、遊ばないと損だっての」
ともは私の嫌味な言葉にも負けないくらいの、とびっきりの嫌な顔をした。

「さっきも言ったでしょ!!断るって!!」
「いいから来いよ!!絶対面白いっての!!」
「嫌よ!!」
「人が誘ってんだから来いよ!!」
私も智も苛立ってきて口調が荒くなる。

「嫌だってんだろ!!離せ、バカ!!」
「へ〜優等生のあんたでもそんな口聞くんだ。意外だよ。」
その言葉に私の中で何かが切れた。

優等生のあんたでも・・・・何だか物凄くバカにされた気がして許せなかった。
気が付くと私はともにアッパーカットをくらわせていた。床に倒れるとも。

「いってぇ!!やりやがったなぁ!!」
ともも立ち上がり殴りかかってくる。取っ組み合いの喧嘩になり、先生が来るまで
私達はずっと喧嘩していた。先生が事態を収めた時も私達は互いにそっぽを向いていた。
これが最初の出会い。最悪の出会いだった。
でも何故か、それ以降私はともの存在が無視出来なくなった。

224 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:07 ID:???
THE FIRST CONTACT ACT3

アレ以来私達は顔を合わすたびに嫌味を言い合っていた。

「あら、滝野さん今日も熱心に遊ぶのかしら?」
「水原さんこそ、今日もお勉強ですか〜?」
お互いに毒を吐いた後、そっぽを向く。そんな毎日だった。だけど、不思議と
悪い気はしない。そして、ある日あの事件が起こった。

私の事を嫌ってる奴がいた。当然、こんな性格だったのだからともでなくても
ムカついているのもいるだろう。しかし、そいつらはともと違い陰湿な手口を
使ってきた。

私はその日、係の仕事があって少し教室を離れていた。私が教室に戻ってきた
後、机がすごい事になっていた。机の上には何か落書きがしてあり、ご丁寧に
「死ね」だの「バカ」だの書いてあった。ゴミとかも置いてあった。
俗に言ういじめである。しかし、私は呆れるだけで特に何の感慨も沸かなかった。
クラスの連中が冷たい目で見るのも今に始まった事ではない。
ただ、ともだけは何かを考えこむような顔をしていた。

当然、こういうのは日を増すごとにエスカレートしていった。椅子の上に画鋲が
あったり、下駄箱に訳の分からないものを入れられたり、机を持ってかれたり・・・
さすがの私もこうしつこいと頭に来る。誰がやってるか見当つくだけに余計に腹立つ。

で、極めつけは事故を装ってバケツ一杯の水を被せてきた奴がいた。私が見当を
つけていた犯人『平井百合子』だった。こいつは優等生だが、その裏で気に入らない奴を
徹底的に仲間と一緒に陰湿にいじめる女だった。

「あら、ごめんなさい水原さん。大丈夫でしたか?」
こいつ、よくもぬけぬけと・・・その後ろでニヤついている平井の仲間。
もう我慢できずに殴りかかろうとしたその時、それより早くともが平井を殴っていた。

「せこい事ばっかしてんじゃねーよ!!バーカ!!」
ともの声が教室中に響いた。

225 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:11 ID:???
THE FIRST CONTACT ACT4

殴られた平井は目を白黒させていた。得体の知れないものを見るかのような目
でともを見ていた。私もこの展開に呆然としてしまい、ただ事態を見守るだけだった。

「な、何をなされるの、滝野さん!?」
「バレバレだっつーの!!お前、事故に見せかけてこいつに水ぶっかっけてた
けど、それがせこいって言ってんだよ!!」
ひょっとしてこいつ私の事をかばってるのか?が、次の瞬間ともはありえない行動に出た。

「どうせやるなら、堂々とやれよな!!」
ともはそう言って、思い切りバケツ一杯の水を平井の頭から被せた。私同様水びたしに
なる平井。その後、ともは自分にも水をぶっかけた。

「くぅー!!気持ちいい!!お前等もやってみろよ。気持ちいいから!」
と、どこからか持ってきたホースを手にして平井の仲間達に水をぶっかけた。
もちろん、その時連中は逃げようとしていた為何人か関係ない奴が巻き添えを
くらっていた。
もう無茶苦茶だった。教室は水浸しになり、ともはこっぴどく先生に怒られた。
しかし、その顔は全く反省していなかった。
この事件以来、平井はいじめをしなくなった。ともにやられた事がよっぽど
こたえたのだろう。でもそれ以上に厄介な事になる事を私もともも知るよしもなかった。

帰り際、私はともを捕まえて何故あんな事をしたのか聞いた。

「そりゃあお前、不満があるのに正面から文句言わないであんな陰湿な事
やってる奴見たら、誰だってムカつくだろ?」
どうやらともは最初にあったいじめの時から平井だと見当をつけていたらしい。

「だからって教室を水浸しにしなくてもいいだろ!!」
「えー、やっぱこういうのはほらみんな水浴びた方がいいじゃん。ほら、旅は
道連れって言うだろ?」
「・・・・・・・・」
駄目だ。こいつ訳分からない。でも同時にこいつの事が嫌いじゃなくなってく
自分がいた。何でだろう?他の奴が同じ事をしたらムカつくはずなのに、ともだと
許せてしまう。

「ま、まあでも一応お礼は言っておかないとな。ありがとう。」
「気にすんなよ。あたしら友達だろ?」
ともの口から信じられない言葉が出た。

226 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:13 ID:???
THE FIRST CONTACT ACT6

「友達?」
「そーだよ。あたしがそう決めたんだから、今からよみはあたしの友達だ。
嫌だって言ってももうこれは決まった事なんだ。」
こーゆう所は昔から変わってない。私はその言葉を心の中で反芻した。友達・・・

「仕方ないな。そう言うなら私もお前の友達だ。でも何でよみなんだよ。私は
暦だぞ。」
「言いづらいからよみなの。あたしの事もともって呼べ。」
「分かったよ、とも。」
「よーし。じゃあ帰るか、よみ。」
その日、私は初めてともと一緒に帰った。初めての友達が出来た日の事だった。

「ってこんなとこかな。」
「・・・・・うう。」
いつの間にか榊が目の前にいて、感動したらしく泣いていた。その横には神楽を
伴ったとももいた。どうやら話に夢中でみんながいる事に気付かなかったようだ。

「そう、あたしがいなけりゃよみはずっと暗い奴でいたんだ。それをあたしが
救った。さあ、こんなあたしに惜しみない賞賛を。」
「まあ、そうとも言えるな。」
「ともちゃん、見直したのですのだ。」
「エエ話やな〜」
「へ〜ともにしちゃいいことしたじゃん。」
うんうんと頷く榊。

「な、何だよ〜!みんなで褒めるなんて何かおかしいぞ。あたしを騙そうとしてん
のか!?はっ、その手にはのらねぇもんね〜」
全員に褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、顔を真っ赤にしながらともは
その場を駆けていった。
あいつが照れるなんて珍しいなと私は思った。そういえば、友達って言った時も
照れてったっけ。

THE FIRST CONTACT   終

227 :84BHHK5c :2003/05/29(木) 07:37 ID:???
>>210の続きを少し。

  【榊】が風呂から上がり、髪を乾かしていると、ちよが牛乳を手に近付いてきた。
「えっと、さかき、さん、お風呂はいかかでしたか?」
「ああ、いいお風呂だった。ありがとう。ごめん、ドライヤーを勝手に
使わせてもらってる。本当にすまない。妙なことに巻き込んで、その上何から
何までお世話になって」
「いえ、いいんですよそんな。遠慮なさらないでくださいね。
……でも、そうやってお話しされるのを聞くとやっぱり榊さんなんですね」
「ああそうか、ちよちゃんから見れば私は神楽なんだよね……」
「さ、榊さん!! 大丈夫ですよ!! きっと元に戻れます!!
ですから元気を出してください!!」
「……ありがとう、ちよちゃん。そうだな、弱気になっちゃいけないな……」
不意にちよがふわぁっ、とあくびをした。
「あっ、すみません……」
「いいよ、私達に付き合って無理に起きてることはないよ。あとは私達で
片付けるから、ちよちゃんはもう休んだら?」
 そこに【神楽】がやってきた。
「あー、私も眠いや。今日本当にいろいろあってさー、疲れちゃったぜ。
榊ぃ、今日はもう寝て明日いろいろ考えよーぜ」
「神楽さん、お休みになられますか。すみません、私の寝室にぎゅうぎゅう詰めに
なっちゃいますけど……」
「いーっていーって。泊めてもらえるだけでもすげーありがたいぜ。それじゃーお休み!」
 そこまで言って寝室に向かう【神楽】を見ていた【榊】があることに気づいた。
「待って。髪はちゃんと乾かしたのか?」
「え? てきとーにタオルで拭いといたけど。てゆーかこんなに
暑いんだから自然に乾くだろ」
それを聞いた【榊】は顔色を変えて【神楽】の後ろに回り、
【神楽】の髪──つまりもともと榊のものだった髪を手に取りながらじっくり見た。
「な、なんだよ榊。どうしたんだ?」
【神楽】のその言葉も【榊】の耳には入らなかった。
 【榊】の目の前には、湿ったままの、ちょっと痛んでしまった髪。
気を使ってたのに……。そういえば【神楽】は水泳の後もろくに乾かして
なかった気がする。うかつだった……。

228 :84BHHK5c :2003/05/29(木) 07:38 ID:???
「そこに座って」
 【榊】が低い声で言う。
「なんだよぉ榊、私はもう眠い……」
「いいからそこに座って」
有無を言わさぬ声だった。
 【榊】が長い黒髪を丁寧に乾かしていく。途中痛んだ箇所を見つけるごとに
がっくりしながら。そういえば。
「……ちゃんとトリートメントはしてくれたのか?」
「え? 別に。普段もしてねーし」
はぁっ、とため息をつく。ついでに聞いておこう。
「洗うときはどうやって洗ってる?」
「へ? がーっ、がーっ、ばーってな感じで。長いから大変だったぜ」
ちゃんと教えないと分かってくれそうもない。今日やり直せと言うのは
ちよちゃんに迷惑もかかるし無理だが、明日からはちゃんとしてもらわないと。
「いいか? 少なくともお互いの体に戻れる希望のあるうちは、髪を洗うときは……」
髪を乾かしながらくどくどと説明をはじめる【榊】。途中で眠いのと
飽きてきたのとで【神楽】が口を挟んだ。
「なあ、めんどくさいしさー、髪切っちゃっていいか?」
「そんなことをしたらコロ……い、いや、頼むから切らないでくれ」
「おい! 今殺すって言いかけただろ!! 殺すって言いかけたな!!」
「い、言ってない……。とにかく、大事にしてくれ……」
 言い合う二人に苦笑しながらちよがフォローを入れる。
「神楽さん、『髪は女の命』って言うくらいですし、もうちょっときちんと
ケアしないとダメですよ。神楽さんのご自分の髪も、どうせ水泳で痛むからって
言わずにケアしてあげると結構違うと思いますよ」
「そっか。元の体に戻ったら考えてみようかな」
そう言った【神楽】に、
「『今の体の髪』も、くれぐれも、大切にしてくれ。くれぐれも、だぞ」
しっかり念を押す【榊】。その鬼気迫る表情におびえる【神楽】。
ちよは「あはは……」と愛想笑いをするしかなかった。

(つづく)

229 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:28 ID:???
>>227-228
榊さんが長い髪にこだわっていることが表現されているところに
リアリティを感じました。続きが気になりますね。

以下のSSは「20の倍数がSSを書くスレ」に書いたものの転載です。
ttp://www.miyataku.net/test/test/read.cgi/azuentrance/1052231734/
ケンドロスさんの書いた>>222-226「FIRST CONTACT」とは
対になる作品です。

230 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:33 ID:???
1/6
「みじめだわ……」
平井百合子は物憂げにつぶやいた。
その切れ長の瞳が見つめるものは、ふたりの女生徒。
昼食の喧騒が響く教室のなかで、いっそう騒がしい2人。
滝野智と水原暦である。
「そのコロッケおいしそー! いただきー!」
「こらっ! 人のおかずをとるんじゃねえ! 返せ。」
今日も楽しげにケンカしている。
それを見つめながらに思う。
あそこで滝野さんとじゃれ合っているのが自分であったならと。

231 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:34 ID:???
2/6
2ヶ月前のこと。
百合子は智に告白した。
そしてきっぱりと拒絶された。
あまりにもストレートな返事に衝撃はあったものの、
その事は百合子の気持ちを変える要因にはなり得なかった。
百合子は智のその屈託の無さをこそ愛していたから。
むしろその一件は百合子が智に執着する気持ちを強める結果となった。
それからしばらくはただ智を見つめるだけの日々が続いた。
その一方で、智は暦と顔を合わせる事が多くなった。
暦は迷惑そうな態度をとりつつも、よく笑うようになった。

232 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:35 ID:???
3/6
当然、百合子は暦に嫉妬の炎を燃やした。
智が自分を受け入れてくれなかった原因は暦なのだと。
暦をいじめの標的にする事は造作も無い事だった。
初めはささいないたずら書きだった。
しかし、それは瞬く間に増えていき、しまいには暦の机はひどい有様に
成り果てていた。
椅子の画鋲、下足入れへの悪戯、自分は直接手を下すことなく、
暦へのいじめは次第にエスカレートしていく。
もはや自分では止めようが無かった。
そしてついには、自ら事故を装って暦にバケツの水を浴びせたのだ。
ずぶ濡れになった水原の姿を見るのは痛快だった。
だがその痛快な気分は長くはなかった。
次の瞬間には智に殴られている自分の姿があったからだ。
「暦」ではなく「智」に殴られたのだ。

どこで間違ったのだろう。自分は智と仲良くなりたかっただけなのに。

233 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:36 ID:???
4/6
なぜ私は滝野さんに惹かれるのだろう。

滝野さんと最初に会ったときは単なる馬鹿だとしか思えなかった。
でも、しばらく見ているうちにそれだけじゃないと気づいた。
滝野さんはいつでも思いつくままに行動していた。
あの暴走ぶりは計算してできることではないだろう。
普通じゃない。
だから水原さんも彼女と一緒にいるときは建前抜きに本音で語っていた。
二人がストレートに感情をぶつけ合う姿が羨ましかった。

234 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:37 ID:???
5/6
私が失敗したのは、あの二人を理解していなかったから。
二人の仲を引き裂く事しか考えていなかったからだ。
あの二人は、利害を超えた素直な感情で繋がっている。
だから私も自分に素直になってただ飛び込んで行けば良かったのだ。
だから、もう迷わない。
私は、自分の欲しいものは必ず手に入れる。
ウジウジしているなんて、私らしくない!
そう決意して、立ち上がった。

235 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:37 ID:???
6/6
「滝野さん、水原さん、ごきげんいかが?」
昼食を済ませたばかりの二人に話し掛ける。
水原さんは怪訝そうな目で私を見ている。
滝野さんは敵意を剥き出しにして私を睨んだ。
私は怯むことなく、堂々と言い放つ。
「早速ですけれど私、あなたがた二人を友達にすることにしましたから。」
突然の言葉に二人ともあっけにとられている。
「最初っからこうすれば良かったのですわ!」
二人の肩に両腕をまわして、そっと二人に頬擦りする。
水原さんの柔らかい感触と滝野さんの体温が心地よい。
二人は逃げ出そうもがくけれど、しっかりと首を抱えているから逃げ出せない。
クラスの全員がイケナイものを見るような目で私たちをみつめてる。
「わ、私にはそんなシュミはないぞ〜!ホントだぞ〜!」
「私を巻き添えにするな!」
「あら、滝野さんったら照れちゃって!」
クラスの全員が私の行動に驚いている。
喧騒のなかで誰かが「百合組……?」とつぶやいた。

智「百合ちがう〜!」
暦「百合じゃねえ!」

236 :名無しさんちゃうねん :2003/05/30(金) 07:11 ID:???
うっかり殺すと言いかけた榊。
普段もの静かなだけに髪に対するこだわりのつよさがよく分かる。
(・∀・)イイ!!

237 :天の川 :2003/05/31(土) 05:07 ID:???
 車がちよのもう一つの別荘につく。地面は一面雪に覆われ、
別荘を囲んでいる山を見ればスキーをしている人が何人も見当たる。
「本当に白銀の世界ね」
 みなもが感心したようにつぶやく。他も感想は同じらしく、小さく歓声を上げている。
 ちよは別荘の鍵を取り出した。
 よみが智を抑えている。いつかの夏休みのようなことにはなりたくないのだろう。
 ギィ・・・。
 すこしきしんだ音を立てながら、別荘のドアが開いた。
「おぉ!やっぱり広い!」
 神楽が別荘の中を見回しながら叫んだ。どうやら二階建てのようで、
一階のリビングの真ん中にはストーブが置いてある。ストーブの近くには
木でできた大きいテーブルが置いてあった。
「一応気をつけてくださいね、ここは結構古いらしいですから。
私のおじいちゃんのころからあるって聞いてます。」
「早くスキーいこ!スキー!」
「はやっ!」

238 :天の川 :2003/05/31(土) 05:08 ID:???
 もはやジャンパーとスノーズボンを着ている智とゆかりが、玄関で手を招いている。
 よみとみなもは呆れたような顔をしながら自分達も一式を着込み始めた。
 スキーをやったことのある、もしくはスキーの道具を持ってきたのはちよ、
よみ、みなもの三人だけであった。
 ちよは残りのスキーを持っていない五人を連れて、別荘の裏手にある木造の物置まで連れて行った。
扉についている南京錠を外す。こちらの扉もきしんだ音を立てながら開いた。
 だいぶ長い間開かれなかったのか、大量のホコリが宙を舞った。
「どれでも好きなのとっていってくださいね。自分の身長と同じくらいか、
それより高いほうが滑りやすいです。」
 なるほど、「どれでも好きなの」というだけあって、物置の中は
数々のスキーで埋め尽くされている。
「ちよちゃーん、こっちにある物置はなんやのん?」
 いつのまにか外にでていた歩が、少し離れたところにある、
もう一つの同じような木造物置を指差していった。

239 :天の川 :2003/05/31(土) 05:09 ID:???
「あ、そっちには食料などが入ってます。それよりも大阪さん、スキーを選んでください」
 歩は物置へ向かった。しかし、雪で滑って転んだ。
 歩の顔は雪まみれになっている。
 ゆかりは「寒い寒い」と文句を言っている。
 みなもはゆかりに「寒いのは当たり前じゃない!」といいながらカイロをわたしている。
 神楽は大阪を起こしに行った。
 榊は動物でも探しているのだろうか、辺りをきょろきょろと見回している。
 智は姿が見当たらない、遠くのほうで雪だるまでも作っているのだろう。
 暦は雪だるまを夢中になって作っている智を、腕組みし、呆れたような顔をしながら見ていた。
 ちよはこの光景をほほえましそうにみていた。
 全員、この時点ではだれも事件などが起こるとは予想していなかっただろう、
あんな奇怪な事件が起こるということは・・・。

240 :天の川 :2003/05/31(土) 05:17 ID:???
>>214-216の続きでつ。

いつもの文章構成力のなさに加え、期末テストまじかということが、
文章のダメさにさらに拍車をかけています。

241 :天の川 :2003/06/03(火) 20:49 ID:???
 一行はスキー場についた。ゆかりと歩はスキーを担いで歩いただけでへばっている。
 スキーを履く手順や、すべるときの格好など、その全てを三人で教えた。
全員が理解するまで約一時間かかった。
 自分達のほかにも、利用客は何人もいた。しかしあまり狭くは感じない、
それだけこのスキー場が広いのだろう。
 榊と神楽は持ち前の運動神経のよさでとても上手に滑っていた、
初心者とは思えない腕前だ。もはやちよ、暦、みなもの三人と同じくらいの上手さである。
 一面の銀世界で華麗にスキーをすべる少女達に、自然と視線は集まる。
しかし視線の先の少女達は、そんなことに気づかない様子でスキーをしている。

242 :天の川 :2003/06/03(火) 20:50 ID:???
 智は「うりゃー!」や「ちょいやー!」などの奇声を発しつつ
斜面を登るのに苦労しているようだ。
 ちよたちがリフトに乗っていると、不意にリフトが止まった。
歩が降りられなかったのだろうか、係員に何か注意を受けている。
「大阪さーん、大丈夫ですか?」
 ちよが歩に声をかける、ほかの全員は「やれやれ」というような顔をしている。

 一体、何時間スキーを滑っていたのだろうか。もう日が暮れかけ、
だいぶいた利用客もずいぶんと減った。
「・・・戻りましょうか。暗くなると危ないですし。おなかも空きましたしね」
 ちよがゴーグルを外し、振り向きざまにみんなに提案した。
「あ〜疲れた〜」
 ゆかりがふらふらした足取りで歩く。しかしゆかりはスキーを一時間も滑ってないのだ。
みなもがそのことを指摘すると、
「わたしゃああんたのように馬鹿みたいに体力はありませんからねぇ」
といった。みなもは不機嫌そうである。

243 :天の川 :2003/06/03(火) 20:52 ID:???
 別荘に戻ると、全員床に腰を下ろした。
「はぁ〜やれやれ。疲れた〜」
 智が手をうちわのようにしながら扇ぐ。智だけではなく、他のみんなも汗だくで、
ズボンとTシャツ一枚という格好だ。
「榊ぃ、明日はスキーで勝負しようぜ!」
「まぁた神楽の勝負癖がでた」
「なに!」
 神楽の言葉に智が横槍を入れる。
 ちよはおろおろしながら、榊は表情には出さないが、心の中でおろおろして、
二人のケンカを見ていた。
 少し鈍い音がし、智が床に突っ伏している。神楽のアッパーカットが智のあごに炸裂したのだ。
「いつ〜・・・・それよりも、ナイスアッパーカット!よみのにも負けないくらいよかったぞ!」
 智は殴られたことも忘れ、ただただ親指を神楽に向けて突き出し、神楽を賞賛していた。
 神楽は間の抜けた表情で、智を見ている。
「おーい!よみー!神楽がお前の十八番を奪ったぞ!」
 智が台所にいた暦に声をかける。暦は智のそばにより、アッパーカットを智にお見舞いした。
「なにが『お前の十八番』だぁ!」
 智はまた、あごの痛みとともに床に突っ伏することになったのだった。

244 :天の川 :2003/06/03(火) 21:00 ID:???
またまた続きでつ。
事件が起こるのはあと少しの予感。

245 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/04(水) 07:36 ID:???
「Zapping SS・結末の行方」

 このSSは同時進行で、智とよみの二人を別々の視点で描くザッピングSSです。

 「SS書きの控え室2」
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1052922310&ls=50)ではよみの視点、

「SSを発表するスレッド」
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1046110813&ls=50)では智の視点でお送りします。

246 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/04(水) 07:39 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」第1章

 休み時間、智は大阪と話をしている様子のよみを見つけた。
 「さーて、またよみをからかってやるか〜」
 智はそう思いながら、よみの近くへと近付いた。
 どうやら、よみは何か本を読んでいるようだ。なになに、『東万ヶ岳の殺人』だと?聞い
たことがあるぞ。えーと…、そうだ。前にちよちゃんから教えてもらった本だ。でも、途
中を読むのが面倒くさくて最後の犯人のところだけ読んだんだっけな。ほぅ、よみは今そ
の本を読んでいるんだ。
 智はよみと大阪のそばで二人の会話を聞いていた。

 「大体どの辺りまで読んでいるん?」
 「うーん、真ん中辺りかな。これから物語が佳境に入って来て面白いところなんだ。も
う、犯人が誰なのかドキドキものだよ」
 何だと!…ってことは、よみはまだこの本の犯人を知らないんだな?これは面白そうだ。
 智は不敵な笑みを浮かべ、
 「おっ、よみー。お前、その推理小説を読んでいるのか?」
と言って、よみのすぐそばへと近付いた。

 よみが自分を見て、迷惑そうな顔をしていた。
 智はよみが何を考えているのかは大体察しが付いている。前に、よみが推理小説を読んでいるのを邪魔した前科があるからだ。
 「今、すごくいいところなんだ。悪いけど今はこの本を読ませてくれ」
 よみが自分の方を見向きもせずに言った。
 お前がそういう態度を取るほどこっちは邪魔したくなるんだよなー。しかも、その本の
犯人を知っているだけにさっ。
 「別にいいけどよ、その小説私ももう読んだんだー」
 智は何気なしにボソッと呟いた。
 「なっ、なんだって!」
 その言葉によみは相当驚いているようだ。本当にリアクションが素直な奴だ。

247 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/04(水) 07:40 ID:???
 「だって、その小説、ちよちゃんに教えてもらったんだろ?私もちよちゃんに教えても
らって、その本読んだんだよ。いやー、面白かったなー」
 「おい!絶対に犯人が誰だか言うなよ!」
 よみの口調は必死だった。そりゃそうだろう、犯人の名前を言ったら、それでもうこの
話の興味は尽きてしまうんだからな。でも、それをしたいんだよなぁ〜。
 智はいたずらっ子のような意地の悪い笑みを浮かべた。

 「うーん、どうしよっかなー。言うななんて言われると、余計に言いたくなちゃうんだ
よなー。犯人はー…」
 「ダブルチョーップ!!!」
 智が犯人の名前を言おうとした瞬間、よみのチョップを頭部に食らってしまった。かな
り本気なのか、いつもよりも数倍痛かった。
 「絶対に言うな!言ったらただじゃ済まさないぞ!」
 「痛たたた…。もう、ただじゃ済んでないだろう」
 智はチョップを食らった頭をおさえながら言った。しかし、内心ではもう少しこのネタ
でからうことができそうだと感じていた。
(続く)

248 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/07(土) 00:52 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第2章

 次の休み時間、よみの姿が教室になかった。
 よみめー、逃げやがったか。
 でも、あいつは甘ちゃんだ。お前がどこに隠れているかなど、この智ちゃんにはお見通
しなのだ。お前の考えはワンパターンだからな。
 どうせトイレだろう。中学のときに私が邪魔をして、よみがトイレで隠れて本を読んで
いた事を忘れたのか。
 まぁ、そうやってまた同じ事を繰り返すんだから、あいつは面白いんだけどな。よし、
トイレでからかってやるか。
 智は確信を胸に教室を出て、トイレへと向かった。

 トイレのドアを開け、智は中へと入った。しかし、中には誰もいなかった。扉が閉めら
れた奥の個室以外は。
 ははーん、よみはここに隠れてるなー。
 智はゆっくりとよみが隠れているはずの個室へと歩き出し、ドアをノックした。
 しかし、無愛想にノックをし返す音が聞こえた。
 ふっ、私をトイレを使おうとしているほかの女生徒と勘違いしているのか。まぁいい。
 智はまたノックし返した。しかし、同じようなノック音が返ってきただけだった。
 ふっ、私だと全く気付いてないなんて、何ておめでたい奴だ。
 智はそう思いながら、よみが中に入っている個室のドアににじり寄った。

 「よみ〜、そんなところに隠れても無駄だ〜。出てこ〜い」
と、低い声で叫んだ。
 「なっ、何でここがわかったんだ?」
 智がそう言った直後、よみの少し焦った声が返ってきた。智はよみのそんな焦った声を
聞いて、思わず笑みがこぼれた。昔のことを忘れて同じことをしていたのだからな、こい
つはお笑いだといった具合に。

249 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/07(土) 00:53 ID:???
 「お前がトイレに逃げ込んで、本を読むなんてお見通しだ〜。お前は本当にワンパター
ンだなぁ。中学のときにも同じ事をしたのを忘れたのか?」
 智がそう言った後、まだしばらく沈黙が続いた。しかし、少しして、
 「くっ…」
と、ドアの中で悔しがっているよみの声が聞こえた。
 智はよみに対して勝った気分がした。さーて、もっとからかってやるか。

 「出てこないのか〜。3秒以内に出ないと犯人の名前を言うぞ。さーん」
 ドアの中からは何の反応もなかった。このまま言ってしまってもいいのか?
 「にー」
 おや、徹底的にシラを切るつもりか?お前はもう包囲されているんだ。早く出てこない
と犯人の名前を言っちゃうぞ。

 「いー…」
 その瞬間だった。突然ドアが開くとともに、間近にいた智の頭にぶつかり、ゴンという
音が響いた。
 「痛ってー…」
 智はあまりの痛さに、額をおさえてうずくまった。
 「バカタレが!天罰だ!」
 智がうずくまっている間に、よみはそう言い捨てて、トイレから出て行った。
 智はフラフラと立ち上がり、まだ痛みの残る頭をおさえながらよみが出て行ったトイレ
の入り口のドアを見つめた。
 「くそー、不意打ちとは卑怯だぞ!このままで終わると思うなよー」
と、叫びながら。
(続く)

250 :天の川 :2003/06/07(土) 19:24 ID:???
>>246-249乙です。

自分も負けないように投稿。

251 :天の川 :2003/06/07(土) 19:26 ID:???
「さぁ!酒飲むか!」
「あ、そういえば皆さん二十歳になったんですよね。お酒がのめるんですか」
 智がビール瓶を持って立ち上がる。ちよはそれを見て思い出したようにいった。
 ちよはもちろんだがまだ二十歳ではない。したがってビールの代わりに
オレンジジュースをコップに注いでいた。
 智はみんなのコップにビールを注いでいく。よみは「いいよ、自分でするから」と、
お酌を拒否している。ゆかりのコップをみなもが奪い取っている。
「かんぱーい!」
 掛け声とともにグラスがぶつかるときの澄んだ音がする。
瞬く間にさまざまな質問が飛び交った。ちよからみんなに対する質問と、
みんなからちよに対する質問が交互に行きかう。
 スキーをしたせいか、ものすごい勢いで料理が減っていく。まずピザが消え、
続いて野菜炒めが消え、コーンスープが消え、から揚げの最後の一つが無くなり、
ビールも底を付き、話す話題もなくなったとき、自然と片づけが始まった。

252 :天の川 :2003/06/07(土) 19:27 ID:???
「・・・もうこんな時間ですか・・・・」
 ちよが目をこすりながら、テーブルの上においてあったデジタル式の置時計を見る。
電光色の文字は十二時を示していた。
「もう眠くなったの!まだまだ子供だねぇ!こっどもーこっどもー」
 智がいつぞやのように歌らしきものを歌いだす。ちよの顔が険しくなっていく。
 ゆかりはソファーで眠っている。
「ちよちゃん、相手にしなくていいぞ」
 暦が忠告した。
 みなもと榊はもくもくと皿を洗っている。歩は皿を割る可能性があるからということで、
台所には立たせてもらえていない。
「あ、そうだ。ちよちゃん、そういえばね、大阪に彼氏ができたんだよ」
 智が思い出したようにいった。
 一瞬、時が止まった、もしくは空気が凍りついた。全員歩と智のほうを振り向く。
眠っていたゆかりまで起きだし、歩のほうを見ている。
「・・・・」

253 :天の川 :2003/06/07(土) 19:28 ID:???
 気まずい沈黙が流れた。
「とーもーちゃーんー!あ、あれは彼氏ちゃうよ!ただの幼なじみやて。
少し下なんやけどな、大阪からこっちの学校に編入したいうてたし、
家もそんな遠くないから、一緒に買い物いっただけやていうたやないか!」
 歩が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「いや、でも、あれはどう考えても・・・だって一緒に・・・」
「とーもーちゃーんー!」
 歩がものすごい剣幕で智を睨む。
「ご、ご、ごめん・・・」
 智はしゅんとなった。
 ゆかりはみなものそばにいき「元教え子に先を越されたね」などとささやいている。
 暦とちよは、空いた口が塞がらない様子だった。
 ストーブの上に置かれたばかりの、保湿を促すための水が入っているやかんから
湯気が出始める。
「もぉ!ちゃうっていうてるやんかぁ!」
 歩が顔を真っ赤にして否定した。その叫び声は、みんなの笑い声に吸い込まれていった。

254 :天の川 :2003/06/07(土) 19:30 ID:???
―――あ〜頭いて〜・・・・夕べは呑みすぎたかなぁ・・・今何時だ・・・?
うわ!まだ六時かよ・・・・眠くないな・・・おきよう―――
 頭を抑えながら、智が二階の自分の部屋と割り当てられた部屋から出てきた。
まだ誰もおきていないらしく、今は殆ど真っ暗だった。カーテンが分厚いせいなのだろうか。
 智が見たもの。それは、居間の中心近くに浮かぶ物体。いや、
物体ではないのだろうか。『それ』は少し黄緑色がかった色をしており、空中に浮いていた。
そして常に形を変え続けていた。
 智は自分の目をこする。しかし『それは』消えない。もう一度目をこする。
しかし視界は一向に変わらない。
 智の脳裏にある単語がよぎった。
―――お化け?―――
「うわぁあ!お化けがでたぁ!」
 智が電気を付け、叫ぶ。

255 :天の川 :2003/06/07(土) 19:30 ID:???
 みんなが「何事か?」とでも言わんばかりの表情ででてくる。
「お化けが!お化けが出たんだ!」
 智が指をさす。しかしそこにはストーブがあるだけだった
 ストーブは今も赤々と燃える炎を灯し続けている。
 上ではやかんがいまだに湯気を立て続けている。
 テーブルの上にはデジタル時計。先ほどと対して時間は変わっていない。
「え・・・?」
「なにもないじゃないか」
 智が呆けた顔をする。暦は智を見下ろしている。
「ばかばかしい。どうせ二日酔いのせいで、幻でも見たんだろ。」
「ちが・・・!私は絶対に見たんだよ!」
「あーはいはい。解りましたよ。」
 智の叫びは、暦の右の耳から左の耳へとぬけていった。
 智が言う「お化け」のことを信じないのは暦だけではなかった。大阪も、ちよも、ゆかりも、みなもも、信じなかった。現実味が薄れすぎている。榊は信じていないというか信じたくない様子だった。

256 :天の川 :2003/06/07(土) 19:36 ID:???
「あ、やかんのお湯、もうなくなってきてますね。代えなくちゃ。」
 ちよは湯気の出が悪くなったやかんを持ち上げ、台所に持っていった。

「絶対見たんだってばぁ・・・」
 テーブルに頬杖をつきながら、智は不機嫌そうに言った。
「あ、誰か、小麦粉一緒にとりに行きませんか?物置にあるのを取りに行くんですが、
扉が重くて・・・」
 ちよが玄関で誰かを誘う。
 智は立ち上がってちよに近づく。
「いいよ、私もいったげる」
 二人はそれから玄関を出た。
 物置は木造だった。スキーが置いてある物置とはまた別の物置だ。
 確かに扉は重かった。二人がかりでやっとあいた。
 智が進んで中に入る。中はホコリくさく、かび臭いにおいがした。スキーのほうと合わせて、
長い間空けていないというのは本当のようだ。
 風が吹いた。物置の中のホコリが舞う。
「げほっ!げほっ!」
 智は咳き込みながら、持っているライターをつけた。
 ドォン!
 炸裂音がした。
 智とちよは無事だ。しかし、物置はどす黒い煙を上げながら燃えている。
「・・・なんだよ・・・」
 家にいたみんなが二人の元へ駆けつけてくる。
 物置は、いまだ燃え続けていた。周りの雪が融けていく。
 全員、いまだ何が起こったのか理解できていないようだった。視線はしっかりと燃えている物置に釘付けである。
 智が地べたに座り込む。腰が抜けたのだろうか。
 先ほどの智が見たという幽霊。そして今回の物置が爆発。何か関連性はあるのだろうか、そして何故このようなことになってしまったのだろうか。名探偵は、現れるのだろうか。

257 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:45 ID:???
>>228のつづきです。

 【神楽】は目を覚ました。暗い部屋。窓とカーテンの隙間からわずかに光が
差し込んでいる。月明かりだろうか。それとも水銀灯の明かりだろうか。
 部屋の中を見回す。そうか、ここはちよちゃんちだっけ。【榊】がベッドで
寝ているちよちゃんと平行して床の布団の上に寝ている。自分はちよちゃんの
足の側、部屋の入り口の方に入り口と直角の向きに寝ている。寝る前、
ちよちゃんが足を向けてしまってすみません、としきりに謝ってたっけ。
気にすることないのにな。こっちは泊めてもらってるんだし。時計を見る。
文字盤の蛍光塗料が光っている。窓とカーテンの隙間の光と相まっていやに
妖しく見える。12時9分。まだ床についてから2時間程度しか経っていない。
疲れていたので普段より早く寝た。疲れていただけあってすぐに寝入ってしまった。
だが、変な時間に目が覚めてしまったようだ。やはりいろいろあって無意識の
うちに眠りが浅くなってしまったのだろうか。私らしくもない。
(ひょっとして!)
 期待の感情が生まれ、慌てて自分で自分の体をまさぐる。だが、自分の頭の後ろ、
長い髪に触れた所で期待は消えた。
(寝て醒めたら、悪い夢だったって、笑い話にできりゃ良かったのにな……)
【神楽】はまだ榊の体に宿っていた。はぁっ、とため息をつき、
「どうしたもんかなぁ」
とつぶやいた。
「起きているのか」
 不意に闇の中から声がして【神楽】は声を上げてしまうかと思うくらい驚いた。
だが、すぐにその声の主の名前が分かった。今、「自分の声」を出せる人物と
言えばあいつしかいない。
「榊こそ、起きてんのか?」
ああ、と闇の中からまた声がした。その声に向かって【神楽】は言う。
「急に目が覚めちゃってな。あんたもそうなのか?」
「いや……全然眠れなくて」
「ずっと起きてたのかよ……不安でか?」
ごそっ、と音がした。【榊】が身じろぎしたらしい。

258 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:46 ID:???
「不安……そうだな。寝ようとするんだけど、考えが止まらないんだ」
「考え?」
「うん、悪いイメージばっかり次々と出てきて」
「そうか……」
 遠くの方から、パトカーのサイレン。たくさんのバイクがエンジンをふかす音。
バカをやってる奴らがいるらしい。気楽なもんだな。私達はこんなに大変な目に
あってるってのに。
「なあ、榊……」
「一生元に戻れなかったら……」
同時に声がした。ひとしきり譲り合った後、【榊】が先に喋ることになった。
「……一生元に戻れなかったら、やっぱり私は、神楽としての人生を生きていく
ことになるのかな」
「どういうことだよ」
「つまり、『神楽』として水泳の大会に出て、『神楽』として大学を受けて、
『神楽』として大学に通って……最後まで、『神楽』で」
「それは……」
「だから、思ったんだ」
数瞬の沈黙。
「神楽の夢を、人生の目標をきちんと聞いておきたい」
「……なんだよそれ」
 榊は何を言ってるんだ。ユメ? モクヒョウ? そりゃ、ないことはないが、
そんなこと聞いてどうするつもりなんだ?
「目標って、大体私見てたらわかんねーか?」
「水泳絡みってことは分かるけど、大体じゃなくて、しっかりと聞いておきたい。
私は『神楽』として暮らしていくんだ。きみが、心も体も『神楽』だった頃、
目指していたもの、それを目指す義務が、私にはあるんじゃないかと思うんだ……」
「義務、だと?」
「たとえば、このままいけば、私は水泳の大会に出ることになる」
「それは……確かに頼んだけど……」
「神楽のやりたいことを、やりたかったことを私はやらなきゃいけない。だって
私は『神楽』なんだから」

259 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:46 ID:???
「……何となく分かってきたぜ。つまり、あんたは私の代わりをやるってのか。
今だけじゃなくて、ずっと」
「そう。だって周りから見れば私は神楽なんだから。今は演じているけど、
いずれ本当の『神楽の人生』を生きなきゃいけない。だから、神楽が実現したいことを
今のうちに聞いておいて、実現できるように……」
「やめろよ!!」
大声を上げてしまった【神楽】。ハッとちよが寝ていたことを思い出した。起こしは
しなかっただろうか?
「……すぅ……すぅ」
 ちよは安らかな寝息を立てていた。改めて、【神楽】は【榊】に小声で抗議する。
「なんでそんなこと考えてんだよ。そんなの、元に戻れなくても自分のやりたいこと
やればいいじゃねーか。つーか今決めたぜ。私はちゃんと自分のやりたいことをやる。
榊の周りの人びっくりさせて悪いが、私は水泳をやるからな。体が何だろうと」
「……その気持ちがずっと続けばいいんだけど」
「何だと? いいかげんにしねーとマジで怒るぞ? そりゃ私は最初人に
ばらすなって言ったさ。でもなぁ、演技するのも1日か、3日か……せいぜい
1週間が限度だ! 一生演技なんてやってられるかよ!! つーか最初にあんたの
言った通りさっさと誰かに話して普段の自分通りにしてりゃよかったぜ……」
「声が大きいよ……」
「あ、悪い」
 【榊】はここで、体を起こし、たいていの人の寝るときの位置取りのように、
部屋の入り口の方に自分の足を向けていた姿勢を、180度ぐるっと回転させた。
入り口側が頭、奥側が足になる。これで天井でなく、神楽に向かい合って話が出来る。
期せずして北枕になってしまったが、話をするだけの間だから関係ないだろう。
向きを変えた【榊】は話を続ける。
「入れ替わってから、何か、肉体的なものじゃなく精神的なもので何か
違和感を感じないか?」
「違和感? わからん」

260 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:47 ID:???
「私……おしゃべりになってないか?」
「え……? あ、ああ、そういえば、普段の榊よりよく喋る感じが……
でもこれぐらい別に何でも……」
「いや、確かにこの異常な状況がさせているのかもしれないが、入れ替わる前より
ずっと喋りやすいんだ。普段は会話が苦手で会話の糸口を探すのに苦労しているのに、
今はすらすら言葉が出てくる。それに、普段の私よりも行動が大胆になっている
と言うか……決断力がある気がする」
「でも、榊は榊だろーが。あれだよ。環境が変わって……火事場のバカ力ってやつ?」
「気のせいならいいんだけど……神楽はなにか気づかないか?」
「別に……なんともねーぞ」
「私が忠吉さんを撫でてたとき、どう思った?」
「入れ替わってるのがばれたらやばいなあ、と」
「自分も撫でたい、とか思わなかった?」
「そりゃ、ちょっとは思うけど……こんなことで何が分かるんだよ」
「いや……ごめん、これじゃ何も分からないな。忘れてくれ」
「だーっ。話を途中で止めるなよ。最後まで言ってみろ」
 【榊】は一瞬考えて、
「全然間違ってるかもしれないけど……」
と話の続きを始めた。
「全然間違ってるかもしれないし、思い過ごしかもしれないけど。私ときみの
体が入れ替わっていることで、運動能力が普段と異なっているのは分かると思う」
「そりゃー、昼間試したもんな」
「けど、それは運動能力だけなのか? 私ときみの、頭脳も入れ替わってるんだ。
私は神楽の、神楽は私の脳を使っていまこうして話している」
「……私の脳を使ったらバカになったと言いたいのか?」

261 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:48 ID:???
 暗闇の中でも、【神楽】がちょっとぶすっとした顔になったのが
【榊】には分かった。
「違う……説明しづらいけど……なんて言ったらいいんだろう。
……私が可愛い物好きなのは、私の脳がそういう風に出来ているから」
「それはあんたの性格だろう」
「性格を作っているのは脳だ。今の神楽の脳は普段は私の思考をしていた。
そこに今神楽が入っている。今の所は神楽の性格が出ているが、そのうち神楽の
考えが私の脳に引きずられないかと言うことだ」
「???」
「脳という器にあわせて、性格の形が変わってしまわないかって心配してるんだ。
今神楽が使っている脳は、『榊的』思考をしやすくなっているから、そのうち
それに合わせて『榊的』に神楽が変わっていってしまうのじゃないかって」
「そうなのか?」
「あくまで私の考えだから、証拠も保証もない。でも、入れ替わってから私が
喋りやすくなったのは事実だ。神楽の脳は、思ったことを口にだすのが得意なんだろうな」
「ほめられてんだかそうじゃねーんだかわからんぞ」
【神楽】はぽりぽりと頭をかいた。
「大事なことだ……ちゃんと自分の思ったことを言えるってことは。私はいつも……」
 一瞬、それまで不安に覆われていた【榊】の顔が、それに加えて、悲しそうな、
寂しそうな顔になった。【榊】はそれを自分で打ち消し話を続ける。
「いや、そんなことはいいんだ。それよりもう一つ。やっぱり性格は外側の影響も
大きいんじゃないのかな。毎日鏡を見るとそこには他人がいる。でも、最初は他人って
ことが分かっていても、そのうち今の自分が本来の自分だった、って思いこむように
なってしまわない保証はどこにもないよ。特に私の場合」
「それは、あんただけじゃなくて私もそーだろーさ」
 そこで【神楽】は改めて感心した調子で、
「でもすげえなぁ。そんなことまで分かるなんて。あんた心理学者か?」
と言った。
「だからあくまで私の勝手な想像だ。あまりあてにならない……。でも、だから、
今の気持ちがずっと続くといいんだけど、と言ったんだ。私だったら、神楽の脳で、
神楽の外見で、ずっと暮らしていくわけだ。そうやって、私はだんだん『神楽』に
なっていくんだと思うんだ。私が消えて、神楽になる。意識して演じようと、
そうでなかろうと。そう思ったから、完全に『神楽』になったときに神楽の夢が
叶っているように……」
「夢を今のうちに聞いておくってわけか」

262 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:48 ID:???
 口を挟んだ【神楽】。【榊】が半泣きでうなずいた。喋っているうちに、
これからゆっくりと自分の中から自分が消えてしまうことを改めて予感して悲しく
なったからだ。しかし、これで納得してもらえたと思った。が。
「そんなんじゃ、教えてやれねーな」
【神楽】の反応に【榊】はびっくりした。
「それって最初から諦めてるだろ。私は諦めねーぞ。何とか戻る方法を
見つけてみせる! たとえ体が元に戻んなくても、私は私のままで生きる!」
 そこまで言って、【神楽】はひと呼吸置いた。【榊】の方にもそもそと
ちょっと近付いて、続ける。
「流されないように、自分をしっかり持ちながら行くさ。最後はダメだったと
しても、最初から諦めるなんて私はしたくねーんだ。だいたい、榊は自分で
これは想像だっていってたじゃないか。必ずそうなるわけじゃねーんだろ?
だから、榊も諦めるな。そういうこと考えたらすっげー不安なのは分かるけどさ。
大丈夫、榊なら出来るさ。私のライバルだからな。だから、もうそんなことは
考えるな。元に戻るってことだけを考えようぜ。」
「ちよちゃんにも同じことを言われたんだ……。きっと元に戻れるから、
元気を出してって……。なのに私はこんなことばかり考えて……」
 【榊】はぽろぽろと泣いていた。【神楽】は何も言わず、
ただ落ち着くのを待っていた。

263 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:49 ID:???
「……ごめん。きみだって話したいことあったのに」
 ようやく【榊】が落ち着いた。【神楽】は軽く笑って、
「かまわねーさ。榊の話すことに比べりゃ、まあ、あれだからな」
と言い、話を始める。
「私の言いたいことってのは、その、なんだ、謝ろうと思ったんだ。
……こんなことになった原因って、私のせいなのかなっって。」
「原因……?」
「私さぁ、実は結構自分の体格とか性格に不満もあってさぁ。なんとか……
榊みたいになれないかって思ったりしてたから。それが、今回叶っちゃったわけだ。
つまり、……私のせいかもしれねーって思ってさ」
 ここまで言って【神楽】は気づいた。慌てて自分に自分でツッコミを入れる。
「あはは、んなわけねーよなぁ。榊みたいになれますようにって思って、本当に
榊になれるなんてあるわけねーよなー。ごめん、変なこと言って」
テレ隠しに笑う【神楽】に、榊が言う。
「それが原因だって思うなら、私だって一緒だよ。私だって神楽はうらやましかった……」
「そうか。あーあ、お互いうまくはいかねーよなー」
「そうだな。でも入れ替わったとしてもうまくはいかない……」
「うん……ま、そんなもんなんだろうな。さて、言いたいことも言っちゃったし、
もう無理にでも寝ちゃおうぜ。明日、っていうかもう今日になってるけど、
戻る方法を探すんだからな」
「ああ」

(つづく)

264 :名無しさんちゃうねん :2003/06/08(日) 09:52 ID:???
>>257-263
やっぱいいっすね。
続きが楽しみだ。

265 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:21 ID:???
>>251-256 ミステリーとしてこれからが佳境ですね。続編が楽しみです。

>>257-263 何か、長編ロマンみたいな感じがしてきました。壮大なスケールですね。

…ってことで、続編です。

266 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:21 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第3章

 4時間目の授業が終わった後、智がちよちゃんや大阪と一緒に、弁当を食べていると、
よみは昼食の弁当を急いで食べてしまい、教室を出て行ってしまった。
 「よみー、どこへ行くんだ?」
 教室を出て行くよみに呼びかけたが、全く反応がなかった。多分、口の中に食べ物を詰
め込んでいたので、聞き取れなかったのかもしれない。
 まぁ、私に隠れて本を読むことはお見通しだけどな。逃げられると思うなよ。
 智は弁当をかきこむ様にして急いで食べてしまうと、よみの足取りを追うことにした。

 「またトイレで隠れて読んでいるんじゃないか」
 智はそう思い、トイレへと向かった。
 しかし、今度はトイレはすべての個室が開いており、よみがここにはいないことがすぐ
に分かった。
 「ちぇっ、ここにはいないか。他を探してみるか」
 智は廊下を何気無しに歩きながら、よみが隠れていそうな場所を探してみることにした。
 「どこだー、隠れても無駄だぞー」
 智はまるで犯人を捜す刑事みたいに、キョロキョロと周りを見ながら、足取りを追った。
すると、廊下の突き当たりに図書室があることに気がついた。

 図書室か。ここにいるかもしれないな…。
 智はそう思いながら図書室に入った。普段、図書室などとは縁のない智にとって、本に
積まれた棚がひっきりなしに立ち並んでいるのを見るだけで、げんなりしそうだった。
 でも、探しているのは参考文献ではなく、メガネをかけた女だ。図書室にいる人を手当
り次第に探れば見つかるだろう。
 智は自分の直感を頼りに図書室の隅から隅まで、よみが隠れていないかを探し続けた。
勉強している人がいる机から、難しそうな本が並んでいる棚まで智はこまめに探したもの
の、目的の探しているメガネをかけた女性の姿はそこにはなかった。

267 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:22 ID:???
 「くそう、ここにもいなかったか。仕方がない、今回は見逃してやるか。まだチャンス
はあるはずだ」
 智は半ば口惜しそうに呟くと、図書室を出て、教室に戻ろうとした。その時だった。
 ちよちゃんと大阪が目の前にいた。そこで、智は二人の下へ駆け寄った。
 「おーい、ちよちゃーん、大阪ー」
 二人は智の姿を見かけると、軽く手を上げた。

 「あっ、智ちゃん。だめですよ、よみさんの読書の邪魔をしたら」
 「いやー、それがよみが見つからなくてな。今回は諦めることにしたよ」
 「それがいいですよ。よみさんだって邪魔されたくないでしょう――」
 まだ、ちよちゃんが話し終えないうちに、大阪がともに向かって話しかけてきた。
 「せや、智ちゃん。一緒に屋上行って涼まへんか?」
 「おっ、いいねぇ。行く行くー」
 「じゃあ、智ちゃんも一緒に行きましょう」
 こうして、3人で屋上へ向かうことになった。
 「屋上、屋上♪」
 智と大阪は陽気に歌いながら、屋上への階段を上がっていった。

 屋上は青空が広がっていたが、暑くもなく寒くもない天気で心地よい風が吹いていた。
 「やっぱり、屋上はええなぁ。屋上で授業してくれればええのに」
 「そうですね。こういう時期なら青空授業とかでも良さそうですね」
 ちよちゃんと大阪がそういう会話をしている一方で、智は屋上の隅のほうで、読書をし
ている一人の女性を見つけた。図書館で見つけることができなかった、メガネの女だ。
 「フフフ…、こんな所に隠れていたのか。待ってろ〜、今行くからな〜」
 智はそう呟いて、まだ自分の存在に気付いていないその女性のところへと向かった。

268 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:22 ID:???
 「よみ〜、こんな所にいたのか〜」
 智は低い声を出してそう言うと、本を読んでいるよみの間近まで顔を近づけた。
 「なっ、何でお前がここに!」
 よみが驚きのあまり手にしていた本を落とした。しかも、そのことさえ気付かない様子
で、あんぐりと口を開いて智を見ている。
 何ておまぬけな顔なんだろう。智は思わず吹き出しそうになった。
 「だめですよ〜、よみさんの邪魔をしちゃー」
 「そうやでー、よみちゃんは探偵なんやから」
 後ろからちよちゃんと大阪が追いかけてきた。

 「屋上で涼もうと思ってきたのに、まさかよみと会うとわな。やっぱり、私たちって運
命の赤い糸で結ばれているんだよ」
 智は自分をたしなめようとする二人の言葉を軽く聞き流し、よみの顔をじっと見つめて、
嬉しそうな口調で言った。すると、即座に
 「そんな訳ないだろ!」
と、よみが大声で反論した。しかも、よみは屋上にいる人が自分に視線を向けているのも
気付いていないくらいだ。
 そんな、我を忘れるほど怒鳴らなくてもいいのに。本当に怒りっぽいんだから。
 智はそんな昔と変わらないよみの仕草がとてもおかしかった。大声で笑いたいくらいだ。

 「あっ、でも屋上で涼もうって言うのは本当ですよ」
 ちよちゃんが智をフォローするように言った。そうそう、今回はたまたまお前とで会っ
ただけで、別に追いかけたわけじゃないんだから、そんな怒らなくてもいいじゃないか。
 大阪、お前も何か言ってやれ。智は横目で大阪を見えた。
 「そうやで。私とちよちゃんが屋上へ行こうとしたら、ちょうど図書室から出てきた智
ちゃんと出くわしてな。一緒に屋上に行こうって呼びかけたんよ」
 そう、お前が誘ってくれなければ、よみとは会わなかったな。サンキュー、大阪。
 智は心の中で大阪に礼を言った。

269 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:23 ID:???
 「トイレにも図書室にもいなかったから、もう諦めてたんだけどな。まさか、こんな所
にいるとはねぇ。よみくーん」
 智は嬉しくてたまらない口調で言った。予想外の嬉しい出来事に感情が昂ぶりを隠せな
かったからだ。
 「なっ…」
 よみの口からまだ絶句の言葉が出てきた。そして、空を見上げ、悩ましげな様子でよみ
は頭を抱えていた。
 フフフ…。お前はくもの巣にかかった蝶なんだよ。もう逃げられないぞ。まぁ、ちょっと脂肪の多い蝶かもしれないけどな。
 智はよみの苦悩する仕草を見て、また勝ち誇った気分になった。

 「じゃあ、ここでであった記念だ。よみが読んでいる本の犯人を教えてあげよう。」
 智はよみに向かって満面の笑みを浮かべた。
 「だめですよー、そんなこと言っちゃー」
 ちよちゃんが智をたしなめた。
 ちよすけー、そんなこと言ったってすんなりと「はい、そうですか」なんて言う智ちゃ
んではないのだー。もう言いたくてたまんないんだもん。
 「犯人は…」
 「アッパーカーッット!」
 智が犯人の名前を言おうとした瞬間、よみが智のあごめがけてアッパーを繰り出した。
ゴスッと言う音とともに智はその場に仰向けになって倒れた。

 「ひぇ〜」
 智は地面に横たわりながらも、目の前では星がちらついているような景色が見えた。
 「油断もすきもない奴め!いい加減にしろ!」
 智はまだ星がちらついている視界から消え去ってゆくよみを目で追うことしかできなかった。

 「うぅ…、よみの奴、いいアッパー持ってるじゃないか」
 智は仰向けのまま、うめき声を上げた。
 「智ちゃん、大丈夫ですか!」
 「智ちゃ〜ん、生きとるかー?」
 二人の心配そうな声が聞こえた。
 「でも、このまま諦める智ちゃんじゃないぞ…。こうなったら意地でも邪魔してやる」
 「いい加減、そっとしておいた方が…」
 ちよちゃんがダラ汗をかきつつ、智の顔を見ていた。しかし、智の目はまだちらついて
いる星とよみを邪魔する気持ちで溢れていた。
(続く)

270 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/11(水) 23:19 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第4章

 放課後、智はすぐさま教室を出て行ったよみの足取りを追おうとしていた。
 よみー、逃げようったって無駄だぞ。絶対捕まえてやる。
 しかし、そんな意気込んでいる智の襟首を突然つかんだ人間が現れた。神楽だ。
 「こら、智!お前も今日掃除当番だろう、サボりなんて許さんぞ!」
 神楽はそう言って、手に持っていた2本の箒のうち1本を智に渡した。
 「なんだよ、神楽はマジメだな。掃除なんてたまにサボったっていいじゃん」
 「智が不真面目なだけだ。ほら、掃除するぞ」
 智は神楽に引っ張られ、しぶしぶ教室の掃除を始めた。

 「くそー、何でこんな日に限って掃除当番なんだー」
 智は箒をぐるぐる回しながら、早く済まそうと適当に掃除をした。
 「智ちゃん、マジメに掃除しないとだめだよー」
と、ちよちゃんに注意されたが、よみを早く追いかけたい一心で気持ちが焦っていた智は
そんな注意など全く聞いていなかった。
 こうして、ようやく掃除が終わると、智は一目散に学校を出た。
 よみのことだ、もう家に帰っているだろう。よし、奇襲をかけてやる。
 智は急いでよみの家まで走っていった。

 10分ほどして、智はよみの家の前についた。
 よみ〜、もう逃げられないぞー。
 智はそう思いながら、よみの家のインターホンを押した。
 「はーい、あら…滝野さんいらっしゃい」
 ドアを開けて出てきたのは、よみの母親だった。
 「暦ならまだ帰って来てないわよ」
 「えっ、そうなんですかぁ?」
 智はそう言いつつも、母親がよみをかくまっていないか確認するため、玄関を見た。し
かし、よみのものらしき靴はなく、まだ帰って来ていないのは事実だと感じた。
 くそっ、まだ帰っていないか。どこへ隠れたんだ?
 「今日は一緒じゃなかったんだ?」
 「ええ。私は今日、掃除当番だったもんで」
 よみの母親の質問に智はそう切り返した。しかし、それは事実でもある。

271 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/11(水) 23:20 ID:???
 「もうじき帰って来るとは思うけど、上がって待ってる?」
 よみの母親はともに上がるように促した。しかし、智は自分が部屋で待ち構えていると、
仮によみが家に電話したときに自分がいることが分かって帰ってこないんじゃないかとい
う懸念が頭をよぎり、断るほうが得策のように思えた。
 「そうですか、ちょっと宿題で分からないところがあったもんで…。また、後で来ます」
 智はそれだけ言うと、よみの母親に一礼して、自分の家の方へと歩いていった。

 む〜、よみめー。どこへ隠れたんだ?
 学校の図書室?いや、下駄箱には上靴しかなかったから、それはないか。ちよすけの家?
うーん、でもちよすけは今日一緒に掃除当番だったから、それもないか。
 近所の公園かな?よし、ちょっと行ってみるか。
 智はそう思うや、すぐさま公園へと走り出した。

 よみめ〜、今度こそ犯人の名前を暴露してやる〜。
 智はその執念に燃えながら公園にたどり着いたが、よみの姿はそこにはなかった。
 うーん、ここにもいなかったか。こうなったら仕方ない。今夜よみの家に奇襲するまで
は自宅待機だ。勝負は今夜だ。ふっ、よみめ。それまで首を洗って待ってろ〜。
 智は不敵な笑みを浮かべて、自分の家へと向かった。
(続く)

272 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/13(金) 23:35 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 最終章(前編)

よみの視点は「SS書きの控え室2」
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1052922310&ls=50
で、お送りしています。

 夜になり、智はよみの部屋の明かりがついているのを確認し、家を出た。
 よーし、今度はよみの部屋へ直撃だ。奇襲をかけて、そのまま犯人の名前を暴いてやる。
あっ、それと、宿題も見せてもらってやる。ふふふ、今に見ていろ。
 智はよみの家のインターホンを押さずに、庭先を周ってよみの部屋の窓に立つと、よみ
の部屋の窓ガラスをノックした。
 少しして、よみがカーテンを開けた。智は窓ガラス越しに映るよみの顔を見て、思わず
ニヤニヤと笑みを浮かべた。
 もう少しで犯人の名前を教えてやるからな、と思うと思わず頬が緩んだのである。

 よみが何も言わずに、窓のロックを外すと、智はひょいと飛び上がり、窓からよみの部
屋へと入った。
 おっと、目的をちゃんと言わないと追い返されるかもしれないな。
 「よみー、宿題教えてくれー」
 智は一点の曇りもない笑顔で言った。ただ、これは嘘ではない。宿題を見せてもらうの
も目的の一つだ。ただ、真の目的は別のところにあるんだけどな。
 智はよみがどことなくよそよそしい態度をとっているように思えた。やっぱり警戒して
いるのか。まぁいい。すぐには言わないでやる。その方が盛り上がるからな。

 「今、宿題解いているところだから、もう少し待っててくれ」
 何だ、まだ終わってなかったのか。じゃあ、待たせてもらうとするか。
 「んじゃ、そうする。お前、あの雑誌の今週号買ったか?」
 「あぁ。その辺にあるだろう」
 智はよみが勉強している机の後ろにあるベッドに横たわり、ベッドの横においてあった
ファッション雑誌を読み始めた。

273 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/13(金) 23:37 ID:???
 よみは宿題を解きながら、自分の好きなラジオ番組を聴いていたため、しばらくは二人
の間に会話がなく、ラジオのDJの軽快なトークが部屋中に響いていた。
 また、こいつはこのラジオ番組を聴いてるのか。本当に好きだね。
 智はそう思いながらも、ファッション雑誌を何気なしに眺めていた。それから、少しし
て、ラジオから最近のヒット曲がかかったとき、智はふとある疑問が頭をもたげ、沈黙を
破るように口を開いた。

 「なぁ、今日の放課後どこに行ってたんだ?すぐいなくなったろ」
 「ん?本屋に行ってた。欲しい参考書があってな」
 よみが智のほうを振り向かず、勉強机に向かったまま、ぶっきらぼうに答えた。
 何ぃ?本屋だって。それは気付かなかった。何で気付かなかったんだ。くそー、よく考
えたら本屋って選択肢ぐらい思いつきそうだったのに…。
 智は唇を噛み締めながら、
「何だ、本屋だったのか?あー、それは盲点だったなぁ」
と、心から悔しそうな声を出した。

 ん、待てよ…。本屋にいたって事はあの本を立ち読みすることもできたってことじゃな
いのか?もしかしたら、もう全部読んじゃったんじゃ…。聞いてみる必要がありそうだな。
 智はベッドから体を起こし、
 「ところで、話は変わるけどさ。あの本どこまで読んだ?」
と、尋ねた。起き上がったときにギィとベッドがきしんだ音がした。

 「まだだ」
 よみが智の顔を振り返ることなく、それだけ言った。
 「まだ読んでないのか」
 智の嬉しそうな様子で言った。思わず、声が弾んでしまった。
 ふぅ、良かった。まだチャンスはあるみたいだな。しかし、バカ正直な奴だ。嘘でも読
んだって言えばいいのに。そうすれば、バラされないかもしれないのにな。まぁ、仮にそ
うだとしても、答えあわせのつもりで言っちゃうけどね。
 智は読みが自分に背中を向けていることをいい事に、意地の悪い笑みを浮かべた。

274 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/13(金) 23:39 ID:???
 「そうか。じゃあ、宿題を教えてくれるお礼に犯人の名前を教えてあげよう」
 智はさっきと同じようなトーンで言った。しかし、普段ならツッコミが入るところなの
に、よみからは何のリアクションもなかった。
 ん、言っちゃっていいのか?言っちゃうぞ。それでいいんだな。まぁ止めても言うけど
な。もう観念したのか?

 「あれ?何だ、止めないのか。言ってもいいのかぁ?言っちゃうぞ?」
 智は早く言いたくてたまらなかった。よみが苦悩する瞬間を目の当たりにしたい、そう
思うと胸の中がウズウズして止まらなかった。
 「犯人は…」
 「ちょっと待て!」
 よみがそう叫んで、智のほうをキッと睨むように見た。

 うおっ!そんな睨まなくても。
 智は思わずその気迫に押されてか黙り込んでしまった。再び、DJの軽快なトークが部
屋中に流れた。
 「それでは、ここでおハガキを一通。ラジオネームが『涙のダイ…」
 ん?ラジオネーム『涙の…』だって。よみの奴、また『涙のダイエット少女』として、
 ハガキを出していたのか。あはははは。こいつはお笑いだ。こうなったら読まれた記念
に、犯人の名前をバラしてやる。

 よみは視線を智からラジオへとずらした。智もそんなよみの動作に合わせるようにラジ
オへと視線をずらした。
 よみのハガキよ、電波に乗って読まれろ。その瞬間、私はよみに犯人の名前をバラすの
だ。ハガキを読み終えた瞬間が、よみにバラす号令となるのだ。
 智の視線はラジオへと釘付けになった。
(後編へ続く)

275 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:16 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 最終章(後編)

 DJはそんな一リスナーの心境などお構い無しに、ハガキを読み続けた。
 「ラジオネーム『涙のダイレクトメール』さんですね。今晩は、いつも楽しく聞いております…」
 何っ?『涙のダイレクトメール』だと!よみのハガキじゃないじゃん。何だよ、人を期
待させておいて、このオチは…。

 智は思わず、がっくりとした表情を浮かべそうになったが、その瞬間、次の企みが脳裏
に浮かんだ。
 その間、ラジオからはDJがラジオネーム『涙のダイレクトメール』がハガキにつづっ
た小話を紹介していた。
 別に読まれた記念じゃなくてもいいや。読まれなくて残念賞として、犯人の名前をバラ
してもいいや。名目なんてどうでもいいか。

 ラジオが別の話題へと移ると、智はよみと思わず視線が合った。よし、今だ。
 「よみ〜、残念だったなぁ。で、残念賞って事でさっき言いそびれた犯人の名前を教え
てあげよう」
 智はよみの顔を指差して宣言した。
 「バカ、やめろ」
 よみはそう言ったまま、少しうろたえいる様子だった。

 ふふーん、そんなうろたえたところで、やめるような智ちゃんではないのだ。かえって、
そんな仕草を見せると余計に言いたくなるんだよな〜。
 智はよみの仕草などお構い無しといった具合に、笑みを浮かべた。
 「犯人は…」
 智の口から遂に犯人の名前が出るときが来た。

276 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:18 ID:???
 「犯人は…」
 遂に智の口から犯人の名前が出るときが来た…はずだった。
 しかし、智はそう言ったまま、黙り込んでしまった。
 あれー、誰だったっけ?えーと…。あいつか、いや違うな。誰だっけ、えーと、うーん
と、えーと、うーんと…。うそー、思い出せない…。
 「犯人は…」
 智は指を突き上げたまま、黙り込んでしまった。
 よみが、智の顔を覗き込むように見た。その次の瞬間だった。

 「へへへ、犯人が誰だったか忘れちゃった」
 智は舌をぺろっと出して、あっけらかんと言った。
 あれー、おっかしいなー。誰だっけ、うーん、さっきまでは覚えていたのになぁ。
まあいいや、よみに聞くか。
 「あれぇ、誰だったっけ?よみ、知ってるか?」
 智は何食わぬ顔でよみに訪ねた。その次の瞬間だった。

 「ダブルチョーップ!!!」
 よみが智の頭めがけて渾身のチョップを繰り出してきた。今日食らった攻撃の中で一番
痛い。思わず涙が出て来そうになった。
 「痛ったー」
 智はもろにチョップを受けた頭部をなでる様に抑えた。
 「そんなこと私に聞くな!」
 よみは怒り冷めやらぬ様子で一喝した。
 そんなに思い切り叩くなよ。それよりも、今の一撃で完全に忘れちゃったよ。犯人は誰
だっけかなー。うーん、胸の中がモヤモヤする…。何か、こう喉元まで出てるのに…。
 必死に思い出そうとしている智に向かって、よみは不敵な笑みを浮かべていた。しかし、
智はそんなよみの笑顔を見る余裕もなく、必死に思い出そうとした。

277 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:19 ID:???
 「犯人の名前を教えてやろうか?本当はもう全部読んだんだ」
 「本当か?」
 良かった。これで思い出すことができる。こうなったら、よみでもいいや。誰だか思い
出さないと今夜は気分よく眠れそうにない。
 頼む、教えてくれ。
 智はよみの顔をじっと見つめた。

 「泣いて頼むんだったら、教えてやってもいいぞ。今日の宿題と一緒にな」
 よみが智を見下すように言った。ついでに鼻であしらうように嘲笑してやがる。
 智は急に自分が主導権を握ったかのようなよみの姿が癪に障った。
 「けっ、誰がそんなこと!」
 智はよみを睨むような表情を浮かべて言った。
 「じゃあ、どうやって犯人を思い出すんだ」
 よみは更に意地悪い表情を浮かべて、智を見ている。

 「それは…」
 智の声が途切れた。確かによみの言うとおりだ。今よみに聞かない限り、犯人を思い出
す手段はない。
 よみが智の下へとにじり寄った。
 今日のところは仕方がない、こうなったら逃げるしかない。

 「よーし、今日のところは見逃してやろう。じゃあな!」
 智はそう言うと、一目散に窓から飛び出して、自分の家へと逃げ帰った。
 くそー、何で肝心なところで忘れるんだ。
 智は悔しさのあまり、夜空に向かって叫びだしたくなる衝動を覚えた。
 その衝動をかろうじて抑えながら、自分の部屋にもどった智は早速、犯人の名前を思い
出すべく、本を探した。

 しかし、本はなかなか見つからなかった。
 「あれっ、何でないんだ…。あっ!ブッ○・オフに売っちゃったんだ!くっ、だめじゃ
ん。調べられる手段がないじゃないか!くけー!」
 智は自分のふがいなさに苛立ちを覚え、思わず叫び声を出してしまった。

278 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:20 ID:???
 智は未だに思い出せない犯人の名前を思い出そうとして、眠れない夜を過ごしたため、
翌朝、寝坊してしまった。
 そのため、普段一緒に登校しているよみに先に学校に行ってもらう羽目になった。
 うーん、誰だっけ…。本当に思い出せない…。
 智は駆け足で学校へと向かいつつも、まだ思い出せない犯人の名前を思い出していた。
 走り続けたおかげで、何とか時間前には学校に着き、智は遅刻は免れた。

 「ふぅ、間に合ったー。よみ、置いてくなんてひどいじゃないか」
 智は教室に入るなり、自分の席よりも先によみの席へと駆け寄った。
 「寝坊する奴が悪い。それより、思い出したのか?」
 「うっ、それは…」
 智はうろたえた表情を浮かべた。
 「だから、頼んだら教えてやるってのに、強情なんだからな、智は」
 「うるせー、誰がお前なんかの頼りになるか!」
 智は両手を上下に振り回して言った。それだけは、それだけは、自分のプライドが許さ
ないんだ。よみにだけは教えてもらいたくはない。まぁ、宿題は別だけどな。

 「昨日あの本を読み返したんだろ?何で思い出さないんだ」
 「あの本はもう読み終えたから、ブッ○・オフに売っちゃんたんだよ。だから、もう持
っていないんだ。だから確かめることができないんだ」
 「ったく、ちゃんと読まないから思い出せないんだよ」
 よみは智を諭すように言った。その口調の思わず智はカチンと来た。

 「なんだよー、お前が早く私に犯人の名前を言わせないからいけないんだぞー」
 その言葉に、今度はよみがカチンと来た。
 「人のせいにするな!お前ももう一度ちゃんと読め!」
 よみがそう言った途端、智とよみの二人の間で小競り合いが始まった。
 「あー、また二人のけんかが始まっちゃいました〜」
 「ほんとに、二人とも元気やなぁ」
 よみと智の小競り合いを見ながら、ちよちゃんと大阪はただ唖然としていた。
(完)

279 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 01:55 ID:???
これザッピングでやる意味あったのか……?

正直、ザッピングだのスレ別進行だのオリキャラ設定だのに注ぐエネルギーを
もっと読んで面白い話を作ることに向けてくれ……と思ってるのは俺だけ?

280 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 02:55 ID:???
これ批評になってるのか……?

正直、批評だの煽りだの荒らしだのに注ぐエネルギーを
もっと読んで面白いレスにすることに向けてくれ……と思ってるのは俺だけ?

281 :天の川 :2003/06/14(土) 06:43 ID:???
>>251-256の続きでつ。

282 :天の川 :2003/06/14(土) 06:44 ID:???
 闇。そこにあるものはそれだけだった。
 足は地に付いているのだろうか、それさえも解らない。
 黒い、どこまでも黒い闇が、自分の体を沈めていく。
 必死でふりはらおうとする。しかし抵抗空しく、どんどん闇に飲まれる。
 一筋の光が見えた。前を並んで歩く友人の姿。そこだけ白く光っている。
 追いかける、しかし追いつけない。手を伸ばす、しかし届かない。
 友人は自分に気がつく様子も無い。
 闇が体の半分ほどを覆っていた。顔まで闇が上がってくる。
「うわぁっ!」
 智は、ベッドから飛び起きた。
 体中に汗をかいていた。
「昨日あんなことあったからな・・・・・そのせいか・・・」
 智はすこぶる機嫌が悪いようすである。
 お化けは百歩ゆずって見間違いだとしよう、しかし物置燃えたのは間違いの無い事実なのだ、
智にはなぜか自分だけが不幸な目にあっているような気がしてたまらなかった。
 階下に降りる。事件のせいか、みんなはもうおきていた。
「おはよ、智。昨日は大丈夫だったか?」
「へへっ、まぁね。びっくりはしたけどさ。」
 神楽が心配そうに智にたずねた。

283 :天の川 :2003/06/14(土) 06:45 ID:???
「そうか、ならよかったな」
 ちよは榊、みなもと一緒に朝食を作っている。
 暦は新聞を読んでいた。
 窓の外を見ると、黒ずんだ物置の残骸がある。周りの雪は融けている。
「ともちゃん」
 気がつけば、歩が智の近くに立っていた。
「なにか命狙われるようなことでもしたん?」
 智は仰天し、叫んだ。
「ばっ、なに言ってんだよ!なんで私の命が狙われるんだよー!」
「でも、おかしいとおもわへん?勝手に物置が爆発したんやで?智ちゃんが
火ぃつけた瞬間にやっけ?変やん、そんなの」
 智は言葉に詰まった。他のみんなも、黙っていた。一つの可能性として、
十分可能性があるからこそみんな黙っているのだろう。
「友人が友人を殺そうとするはずが無い」、そう思っているのだろう。
「動機があるとしたら、ちよちゃん、水原、大阪、神楽の四人かしらね。」

284 :天の川 :2003/06/14(土) 06:46 ID:???
 いつの間にかおきていたのか、ゆかりがソファーの上にあぐらをかきながら話し始めた。
みんなが驚いたような顔をしている。みなもはゆかりの元へ、つかつかと歩いていった。
「だってそうでしょ?ちよちゃんと水原は、今までに智になにかしらされて、
それで恨みをもったかもしれない。神楽と大阪は、昨日の一件があるし、
前にもなにかあったかもしれないし・・・・ムガッ!」
 みなもがゆかりの口を押さえ込む。
「あんたはなに言ってんの!?全く。あれは事故、事故なのよ。少なくとも、
私はそう思っている。だいたい、そんな簡単に友達を殺すなんてこと、
できるわけないじゃない!」
 みなもがゆかりに向かって、やや大声で怒鳴った。
「それに、爆弾が作れる人なんて、そんないないわよ。」
 みなもはそれっきり黙った。場の空気も一瞬にして静かになった。
 重苦しい空気が場を包む。
「事故だとしたら・・・」
 暦がつぶやいた。親友の智の命が危険にさらされたことからか、
少し唇が震えていた。
「物理的に考えて、物置が勝手に爆発する、なんてことがありえるのか?ちよちゃん、
あそこには可燃性のある化学薬品とかが入ってた?」
 ちよは首を横に振る。
 暦は「そうか・・・」といって腕を組んだ。

285 :天の川 :2003/06/14(土) 06:47 ID:???
「あそこにあったのは、小麦粉や片栗粉やお米みたいな食料品だけでした。」
「今、思ったんだけど・・・」
 神楽が思い出したように言う。
「智の命が狙われてたわけじゃない・・・・と思う。だってさ、考えてみろよ?
ちよちゃんが智じゃない人を誘ったらどうする?智はこの家にいることになる」
 全員がはっとしたような表情をする。
 視線がいっせいにちよにあつまる。
「じゃあ・・・・狙いは・・・・ちよちゃん?」
 誰ともなしにつぶやいた。
「・・・・」
 場が、またも静かになる。
「あぁ〜っ!うじうじ考えてても仕方ない!物置のは事故!
私が見たお化けは幻!これでいいよ!私もみんなを疑いたくないし、
みんなもみんなを疑いたくないでしょ!?」
 智が耐え切れなくなったように言った。いつも騒がしい彼女には、
この静寂は耐えられなかったのだろう。
「大阪!なにボーっとしてんだ!」

286 :天の川 :2003/06/14(土) 06:48 ID:???
 智が歩の背中を思い切りたたく。
 歩は勢いのあまり、ゆかりが寝転がっているソファーに激突した。
「あ、大丈夫か?」
「わかったぁ!」
 智が倒れている歩を覗き込むと、歩はいきなり顔を上げた。
 歩の頭が、智のあごにぶつかる。ゴツンと言う鈍い音がした。
「いててて・・・なにが解ったって?」
 智があごをさすりながらいった。
「なんで物置が爆発したかに決まってるやん!」
『ええ〜ッ!』
 全員の声がリビング中に響き渡った。別荘が声のせいで少し震える。
 一同は歩の周りに集まった。
「物置が爆発した原因は、智ちゃんやにゃもちゃんが言うてたとおり、事故で間違いない。
ほんでな、なんで物置が爆発したか言うとな、粉塵爆発ってしってる?」
 いきなり歩が話を変えた。
「フンジンバクハツ?」
 智と神楽とみなもとゆかりとが、間の抜けたような声を出した。
榊は解らないのか首をひねっている。暦とちよだけが、
はっとしたような顔をしている。
「やっぱりちよちゃんとよみちゃんは知ってたん?『可燃性のある粉末が、
空気中にある一定量存在していた場合、火気があれば一気に燃え広がる』。
まさにあの物置やね。物置の中はホコリと小麦粉やらの粉末が
いっぱいあったらしいし・・・・ライターつけた瞬間にボンってなったんやろ?」
 智がうなずく。
 一堂は感心したように歩を見ている。
「でも、私が見たお化けは一体なんなの?」
 智が歩に聞いた。
「わかったっていうたやん。安心しぃ」

287 :天の川 :2003/06/14(土) 06:49 ID:???
 歩はそれだけ言って、カーテンを閉めた。光は電気だけだ。
家の中は少し暗くなった。
 歩の姿が見えなくなったかと思うと、歩は台所からヤカンを持ってきた。
やかんをストーブの上に置き、その隣のテーブルに時計を置いた。
 最後に歩がリビングの電気を消す。部屋はだいぶ暗い。
「このまままっとったらええんや」
 五分。変化は現れない。
 七分。いまだに変化は無い。
 九分。智が痺れを切らした。
「これがなんだってのさ・・・あぁ!」
 智の視線の先、いや、全員の視線の先には、あの朝
智が見たお化けと同じものがゆらゆらと浮かんでいた。不定形の物体。
もしくは物質が。
「種明かしをしよか」
 歩はリビングの電気をつける。するとお化けはふっと一瞬にして消えた。
「これがお化けの正体や。」
 ヤカンに入った水が沸騰する、時計の光がヤカンから出てきた水蒸気に映ってお化けのように見える―――種明かしはこんなところらしい。

288 :天の川 :2003/06/14(土) 06:49 ID:???
 全員、驚いた面持ちで歩のことを見つめている。
 歩が倒れる。
 智は急いで歩を抱え込んだ。
「あ・・・智ちゃん、おはよう」
「なにが『おはよう』だぁ、すごい謎解きじゃないか!一体どこでそんなもの知ったんだ!?」
「へ・・・・・?なんのこと?智ちゃんにたたかれて、ソファーに突っ込んで・・・・・そこからずっと記憶がないんやけど・・・」
「・・・・」
 誰かがポツリとつぶやいた。
「本当のお化けが・・・大阪に取り付いた・・・・・・のかな」

 帰り道。車は高速道路を走っていた。運転手はもちろんみなもだ。
 今でもあの歩の名推理の事は分からずじまいらしい。
 みな、一様にお菓子を食べたり楽しく話し込んだりしている。
 ふと、歩が思い出したように叫んだ。
「あ!」
 みんなが一斉に歩のほうを振り向く。
「誰かおらんおもっとったら、かおりん!」
「・・・・・あぁ!」

「榊さーん。みんなー。なんで誘ってくれなかったのかなぁ・・・・?」
 とある町で、そんな大学生の女の子がいたとかいなかったとか。

289 :天の川 :2003/06/14(土) 06:53 ID:???
終わりです。

なんか他の皆さんのSSに比べると見劣りするなぁ・・・・
粉塵爆発の原理って、これで本当にいいんでしょうかね?
詳しいことが解らないので、わかる人がいれば忠告お願いします。

>>272-278
楽しかったです。ザッピングSSははじめてみましたが、面白いですね。
内容とあわせても、二人の日常が上手くかけていると思います。
なんか偉そうににいってしまいましたがすいません。

290 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 09:52 ID:???
>>272-278
ひたすらからかおうとする者とそれから逃げる者ということで
二人の心境の違いがうまく書けていたと思う。
ただオチが弱かったんじゃないかと。

>>289
粉塵爆発についてはこれでいいけど、小麦粉が袋などに入っていない状態で
むきだしになってなければそこまで空気中の濃度は高くならないと思う。
(物置という記述からしてそうはなっていないよね?)

時計の光についてもデジタル時計ひとつでそこまでの光が得られるかどうかは疑問。

いや、実は本当にそうなのかよく知らないし実験もしてないんだけどね。
偉そうなこと言ってスマン

291 :天の川 :2003/06/14(土) 11:58 ID:???
『 風が吹いた。物置の中のホコリが舞う。』
一応このような記述があったのですが、これだけでは流石に無理ですかね?
説明が足りないところがあり、反省。

292 :290 :2003/06/14(土) 13:26 ID:???
>>291
あ、しまった。ちゃんと記述があったんだ。
でもなんで智はライターをつけたんだろう?
灯りのつもりだったのならちゃんとしたものを持っていくべきだと思う。
そこまでに「ライターを持っている」という記述がなかったのでちょっと不自然だった。

ところで「年下の彼氏」っておませな正太君のこと?

293 :279 :2003/06/14(土) 16:30 ID:???
ま、面白いという人もいるか……
煽りや荒らしと同列に扱われるのは不本意だけど
俺もちょっと大人げなかったかもな
気分を害するような感想はもうわざわざ言わないようにするよ

294 :天の川 :2003/06/14(土) 18:42 ID:???
>>292
ええ、もちろん(断言(w
自分は大阪と正太君のカップリング推奨派ですから。
二人のSSも上に書いてたり。
>>187 >>197

295 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 20:30 ID:???
>>293

折れは279の意見に一票入れるぞ。
まあ、凝ったオリキャラ出すのは別にかまわんと思うがな。

296 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 20:38 ID:???
まぁ、好みは人それぞれということで。

自分は別にザッピングがどうのこうの言うわけでもないし、
SS書きさんが楽しければそれもいいかな、と。個人的に言わせてもらえば
ザッピングよりリレー小説のほうが好きですが。
流石に世界観を無視したものはいやですが・・・。(早口でまくしたてるように話す榊さんとか、
黒ちよではなく、素で友達相手に敬語を使わないちよちゃんとか・・・。

オリキャラは小説の進行に必要なら別になんとも。
対して役どころが無いのにでてくるのはどうかと思いますが・・・

297 :A ROSE IN THE RAIN...(1/4) :2003/06/15(日) 01:45 ID:???
5月22日
今日の神楽は少し変だった。
3時間目には体育があり、そこで跳び箱があったのだ。
いつもならクラスで一番の跳躍を見せるのだが、
今日に限って全然跳べないのだ。
それならまだしもちよちゃんや大阪のレベルだ。
さらには着地に失敗し、膝を擦り剥いてべそをかいていたのだ。
この状況にいつものメンバー達は何があったものかと心配したが
彼女は心配無いと言う。

5月23日
この日は智がわけのわからない事を言い出して皆を困らせた。
私は疲れていたのですぐ家に帰って寝た。
後になって気づいたが、今日の神楽は榊以上に無口だった。

5月26日
随分暑くなってきた。
制服は5月いっぱい冬服なのでとても暑い。
早く夏服に袖を通したい。
もちろん、ひとつ小さいサイズがいいな。

298 :A ROSE IN THE RAIN...(2/4) :2003/06/15(日) 01:45 ID:???
5月27日
前からおかしいと思っていた神楽だが、やはり変だ。
どうもこう、人が変わってしまったようだ。
休み時間に手芸の本を読むなどありえない。
智が「何か悪い物でも食べたか?」と言っていた。
私もそう思う。

5月28日
放課後、ちよちゃんと話しこんだ。
彼女も神楽の様子の変化には気づいていたらしい。
明日あたり本人に聞いてみようという事になった。

5月29日
授業中、神楽が黒澤先生に当てられたが返事が無い。
聞くと、彼女は「自分は神楽では無い」、と言う。
黒澤先生は冷静に対応していたが、正直訳がわからない。
しばらくすると神楽も落ち着いたのか問題に答えていたが
少し心配になってきた。
放課後になると彼女は慌てて帰ってしまったので
様子を尋ねる事はできなかった。
動揺していた様子だし、逆に良かったかも知れない。

299 :A ROSE IN THE RAIN...(3/4) :2003/06/15(日) 01:46 ID:???
5月30日
体育の授業があったが、神楽は見学していた。
普段の彼女からは考えられない事だ。
放課後、ちよちゃん、智、私の三人で半ば無理やり彼女を
ファミレスに誘った。
智が名前を呼ぶと神楽は「何故皆は私の事を神楽と呼ぶのか」
と言い放った。口調は非常におとなしく、丁寧だった。
彼女が言うに、自分の名前は「九重 未柚」だと言う。
私は狐に摘まれたような感じがして理解に苦しんだが、
はっとなったちよちゃんが私に耳打ちした。
二重人格というやつではないか、と。
私と智は同時に「まさか」と言ってしまった。

6月2日
今日は榊を当たってみた。
毎日一緒に登校していたらしいのだが、一週間程前から急に
朝会わなくなってしまったらしい。
だが今日に限っては朝から一緒だったと言う。
不思議な事に今日の神楽はまともで元気だった。
今日から始まったプールにも進んで参加し、勢いのある泳ぎを見せた。
さすがは水泳部だ。
神楽は以前のように私達と下校し、何も無かったように会話した。
本当に不思議だったが、彼女の顔はどこか疲れているように見えた。

300 :A ROSE IN THE RAIN...(4/4) :2003/06/15(日) 01:46 ID:???
6月3日
今日もまともな神楽に会える事を期待していたが、
それは見事に破られた。
私が事情を聞こうとすると頑なに拒み、
目に涙を浮かべながら構わないで欲しいと言う。
ちよちゃんが横から「友達なんですから、何でも相談してください!」
と言う。彼女はその言葉を聞いて、
「神楽さんは、皆さんに愛されているのですね。」
とつぶやいた。
ちよちゃんの言っていた事は、案外本当かも知れない。

6月4日
今日、神楽(?)は学校を休んだ。
風邪で病院に行っているらしいが、絶対それは無いはずだ。
見舞いに行くと言って先生にどの病院か聞いたら
教えてもらえなかった。やはりここ最近の神楽の行動と関係があるのだろう。

<続く?>

301 :名無しさんちゃうねん :2003/06/15(日) 09:36 ID:???
↑乙彼! A ROSE IN THE RAIN 続きに期待!

302 :◆bO84BHHK5c :2003/06/19(木) 23:13 ID:???
>263のつづき、いきます。

「あーあ、やっぱり見つかんなかったかー」
「仕方ない。そんなに簡単に見つかるとは最初から思ってなかったし」
 市立図書館に近いマグネトロンハンバーガー。その2階席で、【神楽】、【榊】、
ちよの三人はちょっと遅めの昼食をとっていた。三人は、朝、図書館が開館すると
同時に、入れ替わった魂を元に戻す方法を調べるために図書館の中を駆け回った。
しかし、そんな珍しい事態を解決するための方法がすぐに見つかるはずもなかった。
いや、解決する方法がはたしてこの世に存在するかどうかすら分からないのだ。
「午前中は見つかりませんでしたけど、これからまだ午後がありますから。
がんばりましょう!」
 落胆気味の【神楽】を励まそうと、ちよが言う。その健気さに、【榊】は、ふっ、
と表情をわずかに緩めて、
「ありがとう」
とだけ答えた。【神楽】はバーガーをかじる手を止めて、
「いやー、もちろんがんばるんだけどさ、普段あんなに本に触ることないからさー。
本を探してるだけでロクに読んでないのに何か疲れちゃって」
と照れ笑いなしがら言った。【榊】が、ウーロン茶を一口飲んで、午後の予定を語る。
「……今度は電車で○○医大まで行ってみようと思う。そこの図書館なら何か
手がかりがあるかもしれない」
「おおっ、さすが榊! 目のつけどころが違うなー!! でも大学の図書館って
勝手に入れるのか?」
「入って本を読むだけなら多分大丈夫。さすがに借りることは出来ないだろうけど、
本の名前やコードが分かれば後から探したり注文することだって出来るし」
「へえ、そうなのか?」
「何度か別の大学で調べ物をしたときは特に問題なかったし。見つかってもせいぜい
注意されるぐらいだと思う」
「え? 榊、大学で調べ物とかすんの!? スゲーな!」
改めて自分の友人に驚く【神楽】。

303 :◆bO84BHHK5c :2003/06/19(木) 23:14 ID:???
「いや、大したことじゃない……。その、猫のこととか……」
驚かれてちょっと照れくさくなった【榊】。が、すぐにちよが曇った表情をしている
ことに気付いた。
「ちよちゃん……?」
「あ、あの、榊さんと神楽さんは怪しまれないですけど、私みたいな小さいのが
行くとやっぱり……。すみません、お手伝いできなくなっちゃいましたね」
「いや、ちよちゃん。私たちに付き合う必要ないって! 昨日泊めてもらっただけで
もう大助かりだったぜ。後は私たちでやるから」
 しょんぼりするちよに【神楽】が今度はフォローを入れた。が。
「でも、でも、私もお二人のお力になりたいですから! 私はここの図書館を
隅々まで探します!」
「ちよちゃん……」
あくまで健気なちよに二人の涙腺が緩みかけた時、その雰囲気をぶち壊すでかくて
無遠慮な声がフロアに響き渡った。
「おーっ!! ちよちゃーん!! それに神楽と榊ちゃんじゃーん!!」
 声の主は滝野智。
「大声で騒ぐなよ……。ほんとに迷惑なヤツだな」
「ちよちゃん神楽ちゃん榊ちゃーん。私のポテトちょっとあげるわー。私セット
頼んでしもたんやけど、こんなに食べられへんのやー」
大声の後ろから、水原暦、春日歩──大阪と呼ばれることの方が多い──の二人が
バーガーを載せたトレーを持って歩いてきた。この三人と、ちよ、榊、神楽の三人、
この六人は普段からクラスの仲良しグループで一緒によく行動している。しかし、
この状況ではあまり出会いたい相手ではなかったが。
「おおさかー!! ポテトは私によこせよ!」
 春日──めんどくさいから以下大阪と書く──の言葉に、智は素早く反応した。
その意地きたなく、即物的な反応にさっきまでちよ、【榊】、【神楽】のテーブルを
包んでいた感動的な空気は一瞬にしてふっ飛んだ。それと同時にちよが慌てはじめる。
(あー! あー! どうしよう! どうしよう! 榊さんと神楽さんは
こんな状況なのに、ともちゃんたちが来たらお二人のことがばれちゃう!)

304 :◆bO84BHHK5c :2003/06/19(木) 23:14 ID:???
「あ、あのっ、ともちゃん、そのっ、私たちはもうご飯は食べちゃって、
これからでかけるところで、だからそのっ、もうすぐここは出なきゃいけなくて!」
「ん? なんだよちよちゃーん。どこに出かけるの? ついてっていい? 
買い物もう終わってこれから暇なんだよねー」
 逃げ出そうとするちよとちよの話に興味を示す智。必死の攻防が続く。
さらにそれに大阪のボケ、暦のツッコミが入りますます喧噪に拍車がかかる。
その喧噪の中で、【榊】と【神楽】は冷静に会話していた。
「なあ、榊。どうする?」
「どうするって、昨日きみは元の自分でいくって言ってたじゃないか」
「榊は、それでいいのか?」
「もちろん」
「じゃ、決まりだな」
 それで話は済んだ。【神楽】はちよに向かい、
「ちよちゃん、もういいよ」
と言った。
「え……?」
ちよは困惑した。【神楽】はちよの頭にぽん、と手を置き、
「もういいって。後は私たちがなんとかするから。……しっかし、とも。
おまえバカでかい声出しやがって。他の人に迷惑だろーが!」
と言った。
「へ?」
 智は、普段自分が知っている榊と目の前にいる榊の雰囲気が違うのに気がついた。
普段もの静かで、人に対して怒ったりしているのを見せることのない榊がこんなことを
言っている。とすれば。
(ひょっとして、榊ちゃんマジ切れ!?)
智のたどり着いた決断はそれだった。
「あ、ああー、榊ちゃん、ごめん。怒ったぁー?」
あくまで軽い感じで、へらへら笑いながら謝る。そこへ、
「言っておきたいことがあるんだ」
ずい、と前に進み出る【榊】。その普段の神楽とは違う凛とした雰囲気に、
智だけでなく、暦、大阪も気圧されて立ちすくんでしまった。

305 :◆bO84BHHK5c :2003/06/19(木) 23:15 ID:???
「……と、いうわけだ」
 【榊】が自分達の状況をかいつまんで話した。バーガーショップの一角を
沈黙が制する。その沈黙を最初にぶち破ったのは笑い声だった。
「ぷっ……あはははは!」
「なっ……! よみ! 榊が説明したのに笑うとはどういうことだ笑うとは!」
「いや……あはははは、ははっ! 神楽にしてはよく考えたよ……。あれ? 
もしかしてこれ考えたのちよちゃん? それとも、まさか榊……それはないよなぁ、
あははははっ!」
「考えたって何だよコラ! 変な答えしたら承知しねーぞ!」
「い、いいよ、もういいって……あはははは! それにしても迫真の演技だなー! 
練習にどんくらいかかった? あはははは! しっかし、榊が神楽っぽく話すと
迫力あるなー! そのまま悪役やれるんじゃないか? あははは、ひーっ、
笑い過ぎれ、く、苦ひい……」
「……っめえはっ!!」
 笑い続ける暦と今にも暦に殴り掛かりそうな【神楽】。ちよが慌てて止めに入ろうと
するが全く力不足。【榊】も止めに入るが間に合わないかもしれない。
まさに血の雨が降らんとしたその時、智が口を開いた。
「あのさー」
 なんとなく間の抜けた声に【神楽】は毒気を抜かれた。暦も笑いが止まる。
「あのさー」
その場にいる全員が、次に出てくる言葉を固唾をのんで見守った。
「神楽と榊ちゃんが入れ替わってもさ、胸のサイズって変わんないんじゃん!? 
あれ? ひょっとして榊ちゃんの方がでかいの!? ねえ、そこんとこどうなのよ! 
教えてよ!」

306 :◆bO84BHHK5c :2003/06/19(木) 23:15 ID:???
 突然の大声セクハラ。智の言葉を理解した【榊】と【神楽】はほぼ同時に真っ赤になった。
「ば、ば、ば、ば、バカ野郎!! こんな時に、そ、そんなことを大声で! 
やめろーっ!!」
 【神楽】は叫んだ。
「………………」
【榊】はうつむいてしまい何も言えない。その二人を見比べながら、智が言った。
「ほら、よみ! 見ろよ! 神楽と榊ちゃんの反応を! うつむく神楽に叫ぶ榊ちゃん! 
普段と逆じゃん!」
「あのなぁ……これも演技じゃないのか?」
暦が反論した。すると智が不敵に笑う。そして、叫んだ。
「とおりゃー! 神楽! 大阪! 行くぞー!!」
奇妙なポーズをとる智。そして、【神楽】──今は榊の姿だが──と、大阪を見やった。
何やら変なオーラが出ている。
「31てん!!」
智が叫ぶ。反射的に、
「30てん!!」
【神楽】が続く。最後に、
「42てん」
大阪の気の抜けた声。三人の両手が挙がる。
「3人合わせて103点! ボンクラーズの勝ちー!!」
「………………」
 静寂が店内を包んだ。最初に声を発したのは【神楽】だった。
「バ、バカー!! 何をやらせるんだ!」
「ほら見ろよよみー! あの榊ちゃんがネタのためとは言え、演技とは言え、
こんなことをするかと思うかね!? こいつの中身は真性バカの神楽だー!!」
してやったりという表情で暦に力説する智。榊(の姿)のボンクラーズシャウトを
目の当たりにして数瞬だが放心状態になった暦。バカとは何だと食ってかかる【神楽】、
汗ダラダラのちよ、
(わ、私の体で、私の体であんなこと……。も、もう表を歩けない……)
羞恥のあまり半泣きの【榊】、ハンバーガー屋でお昼食べるとポテトのせいで手が
ヌルヌルになるんよなあ、と自分の世界に入っている大阪。この事態を収拾できるのは、
いち早く放心状態から脱出して現実に戻った彼女しかいなかった。

307 :◆bO84BHHK5c :2003/06/19(木) 23:17 ID:???
「あー、ゴホン。君たち」
「バカにバカと言って何が悪いかー」
「馬鹿はお前だろこのバカともが!」
「あ、あの、さかきさん、しっかりしてください」
「うふふ……そうだ、私は昨日から神楽なんだ……だから榊の体がどんなに恥ずかしい
ことをしても関係ないんだ……うふふ……」
「つままんで食べられるポテトがあったらええのになぁ」
「君たち! ちょっと話を……」
「その言葉三倍返しだー!!」
「なんだとじゃこっちゃ五倍返しだー!!」
「さかきさーん! 気を確かに!!」
「あはは……あの体はもう私とは関係ない……関係ないよ……あはは……」
「そういえば昔ふりかけをかけて食べるポテトがあったと思うんやけど」
 彼女は大きく息を吸い込んだ。
「君たちっ!!!!!!!!!」
叫ぶと同時にバァン!と机を叩く。5人が、彼女に注目した。
「店から、出ないか。皆さんにずいぶんご迷惑をかけたしな……」
 短時間で憔悴した様子の暦の言葉に、改めて全員が周囲の状況を確認する。
奇妙な女子高生一行は、二階席の客の視線を集めていた。一階から見学に来たと
思われる客まで階段にいた。
 6人は、無言で、そそくさとマグネトロンハンバーガーを後にした。店員の、
ありがとうございましたー、というマニュアルどおりの挨拶が、やけに背中に突き刺さる気がした。

(つづく)

ダラダラ続けている上に間が開きましてすみません。
もう少しスレ汚しを続けさせてもらいます。

308 :名無しさんちゃうねん :2003/06/20(金) 22:28 ID:???
>307
Good Job, Good Job!

309 :名無しさんちゃうねん :2003/06/21(土) 05:11 ID:JuVjgVjc
>>308
Me too.
Good Job, Good Job!

310 :あずまんが無人島漂流記 :2003/06/21(土) 06:01 ID:JuVjgVjc
「もう後一ヶ月間はわくわく月間ですよ」
「あはは、大変だ。ガイドブック見る?」
「あれ?用意いいですね」
「あー楽しみだなー」
「きっとめっちゃ楽しいでー!」
「そうですね!」
 そのときは、あんな悲惨な旅行になるとは―――
「夢にも思わなかったのです。」
「妙なナレーション入れるな!」

 そんなこんなで修学旅行当日。
「しかしちょっと緊張するな」
「うん、これだけ人が乗ってるから落ちるかもだ!」
「おおっ!すごいパワーだぁ!」
「機長!?」

 飛行機の中で数時間、神楽と智は飛行機のすごさについて語り合っていたし、
ちよは榊と沖縄にはどんな動物がいるのか楽しそうに話している。
 歩―――これから大阪と呼ぶ―――は、シートでぐっすりと寝ている。ときおり
「あ〜ちよちゃんの髪が〜・・・・取れた・・・」などと寝言を言っている。
 暦―――こちらもよみと呼ぶことにしよう―――は、沖縄のガイドブックを
真剣に見ている。
 不意に、ウウウウという音とともに、スピーカーから声が聞こえてきた。
「只今、JA○416便の左主翼部に異常が発生しました。
お客様は慌てずに救命道具をご着用の上、しばらくお待ちください。」
 場が凍りついた。楽しい雰囲気はどこへやら、
騒ぎ出す生徒で飛行機内は埋め尽くされた。

311 :あずまんが無人島漂流記 :2003/06/21(土) 06:02 ID:???
「皆様、この便は海上に不時着します。シートベルトを外し、添乗員の指示に従って脱出してください。」
 数秒後、六人の乗った飛行機が、大きな音を立てて水面に不時着した。

 ザーザー・・・。
 聞こえるのは波の音だけ。
 日差しが暑い。
―――あ〜・・・そういえば、今日は修学旅行だったなぁ・・・もう起きなくちゃ・・・よみに怒られちゃうよ・・・―――
 智は目を覚ました。しかし目の前あったのは自分の部屋の天井ではなく、雲ひとつ無い青空だった。
「へ?」
 智は思わず間の抜けた声を出してしまう。
 体がびしょびしょに濡れている。とても気分が悪い。
 智が隣に目をやると、隣にはちよが倒れていた。ちよだけではない、よみ、大阪、榊、神楽。仲のいい友達が、全員波打ち際に打ち上げられている。
 そのときようやく智は、自分達の乗った飛行機が墜落したこと、自分がいる場所がどこかの島であることに気がついた。
「ははは・・・・・まさか本当に、私が言ったとおりになるなんて・・・・」
 なんら因果関係はないのだろうが、智は引きつった顔で言った。
 波は規則正しい音を立て、浜に覆いかぶさっていた。

312 :あずまんが無人島漂流記 :2003/06/21(土) 06:04 ID:???
一回目の投稿、間違ってageてしまった・・・。すいません。

続きが思いつかないので、これの続きを書いてくれるという漢がいたら、
続きを書いてくれれば幸い。
自分が続きを思いつけば、それはそれで続きを書こうと。

313 :名無しさんちゃうねん :2003/06/22(日) 23:32 ID:???
おいおい、たのむぜセニョール。

314 :◆bO84BHHK5c :2003/06/23(月) 00:25 ID:???
>>312
面白いテーマだと思うんですよ。ただ、難しいな、と。
自分が書くとバッドエンドになりそうだしなぁ。
それに神榊入れ替えも最後までかかなきゃいけないので……。
リレー形式にするのも面白そうですけど。

315 :名無しさんちゃうねん :2003/06/23(月) 01:24 ID:???
そう遠慮してsageなくてもいいんじゃないかと思うけどね

ところで>>314氏は何気に最近注目度高いけど
コテハンはつけないのでつか?

316 :279 :2003/06/23(月) 02:25 ID:???
さっきちょっと雑談スレを見たら
俺の文句あたりが結構心理的負担を与えてるみたいで
悪い事したかな……と思えてきた。
別に嫌いだとかいうわけじゃないし、
言ったとおり今後は口を慎むようにするから気にしないでほしい。

しかし、作品が不評に終わったから「もうあそこには書き込めない」
という考え方は少し変じゃないかとも思うけど。
別に誰も「書くな」なんて言ってないのに。
それに大体、「スレごとの好き嫌い」なんてものが存在するほど
大阪板のスレは分化してないと思うよ。
「あそこだと嫌われてる」ってのは被害妄想的じゃないかな?

317 :メジロマヤー ◆BBlcy0TYHE :2003/06/23(月) 02:45 ID:???
>>316>>279)氏へ

 多分、そのことに関して言われているのは自分だと思うのでレスします。
 悪いことをしただなんて思わないで下さい。悪いのは自分なんですから。
 実際、正直な意見を聞かせてもらった上で、まだまだザッピングSSを書く
文章力が拙いということを感じたので、もう少し練り直すべきだったと感じ、
自分の未熟さを知るにはいい機会になりました。
 別に嫌われているとは思っていませんが、正直やりすぎたかなという思いが
あり、しばらく控えようと思っただけです。ただSS自体は別のスレでも書いて
いますがw。
 別に思ったことを書き連ねても大丈夫です。そこで受けた叱咤をバネに次の
作品を書き上げていきますから。

318 :名無しさんちゃうねん :2003/06/24(火) 00:58 ID:???
>>312
「はい 点けますよー
 もし今このライターなくしたら火が点けられませんよー」
バッ
「とりゃ!!」 
          そんな悪寒

無人島シチュやりたいと言っておられた某氏は来られるかしらん…

319 :あずまんが無人島漂流記の作者 :2003/07/02(水) 22:09 ID:???
>>310-311
の続きが思い浮かんだので、一応。

320 :あずまんが無人島漂流記 :2003/07/02(水) 22:11 ID:???
「おーい!みんなー!起きろー!」
 智が大声で叫んだ。しかし五人は一向に起きる様子が無い。
 もしや波の音で聞こえにくいのかと思い、智は近づいて先ほどよりも大きな声を上げた。
智の予感は案の定当たった。みんなが、ゆっくりとだが半身を上げた。
「あれ・・・?ここは・・・」
 よみが頭を抑えながら起き上がる。流石にこの事態を一瞬でわかる人物はいないだろう。
いつも智以外のことに対しては冷静なよみでも、だ。
「あ、それは・・・」
 智が「島に漂着した」と言おうとしたとき、他のみんなが一言二言つぶやき始めた。
それによって智は完全に言うタイミングを見失ってしまった。
「おはようございますぅ〜」
 ちよが目をこすりながら立ち上がった。
ここを家かどこかだと勘違いしているのだろうか。
 大阪は目を閉じ、口をぽかんと開けたまま動かなかった。
少し寝息が聞こえてくる。
「智、ここは、どこなんだ?」
 智にその質問を一番最初にした人物は、榊だった。
智ははっとした表情で、今、自分達の身に何が起こっているのかを、口早にかつ、正確に説明した。

321 :あずまんが無人島漂流記 :2003/07/02(水) 22:12 ID:???
 船が墜落したこと。
 自分達がこの島に流れついたこと。
 そしてこれから生き延びなければいけないということ―――
 智と大阪を除く四人の顔色が、見る見る青くなっていく。
「・・・どうする?」
 智が恐る恐る聞いた。
 全員、腕組みをして考える。
「よし」
 少しして、よみが第一声を上げた。
「まず食料、飲み水の確保。あとはこの島の地形を知っておく必要もあるし、
人が住んでいないか知る必要もある。手分けして探すぞ」
 よみの視線の先には、森というよりはジャングルに近い。
「うわぁ、なんかすごいわ、よみちゃん。なんか・・・えーと、なんやっけ?
ト、ト、トム・・・トム&ジェリーやったけ?それみたいや」
 一瞬、五人の目が点になった。もちろん比喩的表現だが。
「いや、それは・・・トム・ソーヤーじゃないのか?少し違うような気もするが・・・」
 よみがすかさず突っ込む。

322 :あずまんが無人島漂流記 :2003/07/02(水) 22:12 ID:???
 そんな二人はお構いなしに、神楽がジャングルを覗き込んでいる。
「うっわ、すげぇ暗い。」
 ジャングルの中は、うっそうと茂った木や枝やツルの類のせいでか、
とても暗かった。昼ごろだというのに夕方、若しくは夜のような暗さだった。
「・・・あれ・・・」
 榊が指差した先には、六人の荷物があった。潮流の関係で、
一緒にここまで運ばれてきたのだろう。しかしこれは大変幸せなことだった。
このなかに食料や着替え、その他の道具が入っているからだ。
 六人は自分の荷物を持った。
「よし、じゃあ、だれが何の仕事をするか、じゃんけんで決めよーぜ」
 神楽が手をグーにしたまま前に出す。
 他の五人も同じようなポーズをした。これは決定ということだ。
「じゃーんけーんぽんっ!」
 島で、女子高生が六人でじゃんけんをしている。この上なくそれがおかしいことだというのは、
彼女らの知ったことではなかった。

323 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:13 ID:???
>>307のつづきです。

「あっついよー。なんでこのクソ暑いのに炎天下の公園に来なきゃ行けないわけ?」
「ああ、私もこんなとこ来たくなかったさ。誰かさんが大声で騒いで、涼しいマグネに
いられなくなったから仕方なく来たんだ!」
「ほんとにしょうがないヤツだね神楽は」
「……あー、神楽、殴っていいぞ」
 言い争う智と暦をまあまあ、とちよがなだめる。いつもの光景のようだった。ただ、
いつもと大いに違うところもあった。
「あ、神楽はこっちか。どうも慣れないな」
 いまだ入れ替わったままの榊と神楽。もちろんこれから再び元に戻る方法を探しにいく
つもりだが、その前に智と暦の二人が話を聞きたがったため、マグネトロンハンバーガー
の近くの公園に来ていた。ここに来る道中、暦は【神楽】と【榊】に、英単語の問題だの、
歴史の問題だのを出題した。そして、それに【神楽】は答えられず、【榊】が答えられる
ことで、二人が入れ替わっていることを納得していた。
「分かることを分からないと言って答えないことは出来るが、分からないことの正解を
言うことは出来ないからな。もしそこまで考えて、神楽が必死に勉強したんだったら
私の降参だ。だまされてやるよ」
 と暦は言い、さらに話を聞きたがったのだ。
「あのさー。私がああやってネタふらなかったら、よみは二人が入れ替わってるの
信じなかったでしょ」
 智がふくれた。
「他にもやりようはいくらでもあるだろうが!」
智を怒鳴りつけておいて、暦は【榊】と【神楽】の方を向かって言った。
「これから、どうするつもりなんだ?」
【榊】と【神楽】はお互いの顔を見合った。
「どうするって、元に戻る方法を探すんだよ」
 ややあって、【神楽】が言った。【榊】も、うん、とうなずく。
「元に戻る方法だと? そんなの見つかるのか?」
暦はあくまで冷静に言い放つ。【神楽】が、さっそく噛み付いた。
「見つかるのかって、なんか見つけない方がいいみたいな言い方だな。やな感じだぜ」

324 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:13 ID:???
きゃあ、もう、よみちゃんったらイヤミ! などとはやし立てる智に軽くチョップを
食らわせておいて、暦が言った。
「そうじゃない。だいたい人の意識が入れ替わるなんて漫画や小説ぐらいでしか聞いた
ことがないぞ。そんなことをちゃんと治す方法なんて、探す見当もつかないじゃないか」
まだ何か言いたそうな【神楽】を抑えて、
「確かにそうなんだ。どこをどう探したらいいのか、誰に尋ねればいいのか、
全然分からない」
と【榊】が肩を落とす。暦はうなずくと、
「まずは、状況を整理して、あの時何があったのか、原因を考えてみたらいいんじゃ
ないか?」
と言った。おおー、と二人も納得した。
「よみちゃん頭ええなー」
 大阪は素直に感心した。だが。
「でも神楽ちゃん。神楽ちゃんは元に戻りたいん?」
 大阪の素直な疑問。智も同調した。
「そうだそうだー! 神楽、榊ちゃんになってればバカがばれないぞー!」
「うるせぇ!」
ぶち切れる【神楽】に関せずに大阪が首を傾げた。
「神楽ちゃん、榊ちゃんがうらやましーって前に言うとったやん。これから神楽ちゃんは
榊ちゃんになれるかもしれんのやで」
 それを聞き、【神楽】も、【榊】も、ああ、と納得した。誰でも考えることは同じ。
だけど。
「それはな、そーゆーのは、うーんと、うまく言えねーけど」
神楽の目が、しばし中空を泳ぐ。
「そーゆーの、結局うまく行かねーし、うまくいったとしてもなんにもなんねーんだよ。
きっと、な」
【神楽】と【榊】が目を合わせ、互いにうん、とうなずきあった。
「なあにそれ! 二人ともなんか見つめあっちゃってあやしーぞー。もしや入れ替わって
からなんかあったな? きゃー! いやん、もう」
はやし立てた智に【神楽】の拳が飛ぶ。ドタバタする二人。まきこまれるちよと
つっこむ暦。大阪はただマイペースに、にっこりと笑うと
「そーなんか」
とだけつぶやいた。
「そうなんだ」
【榊】もつぶやいた。しばしの沈黙。後ろでは相変わらず智と【神楽】が
ドタバタしていた。
「もう一つ、重要なことを聞きたいねん」
「……なんだ?」
 急に真剣な顔をして訪ねる大阪に【榊】も緊張した。
「あんな、結局胸はどっちが大きいん?」
大阪の素直な疑問その2に、【榊】の顔は真っ赤になった。

325 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:14 ID:???
 結局6人はちよの家にやってきていた。
「はぁー。やっとクーラー!」
 智が全員の気持ちを代弁した。何しろ外は暑いのだ。
 アイスティーが各自に行き渡った。一息つきたかったが、あまりのんびりもして
いられない。さっそく暦が質問を始める。
「とにかく、なんでもいいんだよ。気絶する前に、何か変わったことやらなかったか?」
【榊】は黙って首を振り、【神楽】も思い当たる節はない、と答えた。いくつも質問が
続いたが、答えも手がかりも出てこなかった。
「頭ぶつけ直したら直んじゃねーの?」
 智はごろ寝しながら適当なことを言った。そんなことはもうやってる、と【神楽】が
ぶち切れそうになったが、暦が止めた。
「そんなの相手にしてたらもたないぞ。ま、最後の手段でやってみる価値はあるかも
しれないがな。ところで、本当に二人とも何かないのか? この際、変わったこと
じゃなくていいよ」
「別に私は……」
【榊】がうなだれた。だが、【神楽】は、あっと声を上げた。
「そーいや、夢を見た。何で今まで思い出せなかっただろう」
「夢?」
「話してみろ」
 全員【神楽】に注目する。
「うーんとな、猫が出てきた」
「猫?」
「ああ、でもなんか変な猫で……あ」
 【神楽】は大阪がさっきまで枕にしていたぬいぐるみを拾い上げた。
「こんなのが出てきた」
ぬいぐるみを振ってみせる【神楽】に、智が
「それだけ?」
と不満をあらわにする。
「それだけだよ。文句あんのか? あんまり詳しく覚えちゃいないよ」
【神楽】はふてくされた。

326 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:14 ID:???
「うーん、これじゃ夢診断ってワケにもいかないか」
「そーですねえ」
暦とちよが困った顔をした。困った顔をしながら暦がなんとなく部屋の中を見回すと、
【榊】の様子のおかしいのに気がついた。
「榊?」
 【榊】の顔は驚愕の表情で固まり、目はじっとぬいぐるみを見つめている。突然、
【榊】の目が光った。
「神楽っ!!」
そう叫ぶと、【神楽】の肩をテーブル越しに引っ掴んだ。
「神楽、このぬいぐるみなんだなっ! いつ見たんだ!!」
 突如取り乱した【榊】に、一同は呆気にとられる。
「さ、榊。どうした? ぬいぐるみ……」
「大体でいいっ! その夢をいつ見た?!」
暦の言葉も【榊】に聞こえていなかった。【榊】の声はすでに金切り声に近くなっている。
「あ、あの、気絶から目が覚めるちょっと前……」
【神楽】がおずおずと答えた。それを聞いたきり、こんどは【榊】は黙り込んでしまった。
【榊】の沈黙が場を圧倒し、誰もしゃべれない。そして、【榊】はあることを思い付いた。
戻るための方法を。
(確証はない。そもそも都合よく「あの方」に会えるか分からない。それでも、やってみる
しかない!)
 【榊】は、
「来い!!」
と叫んで、【神楽】の手を引っ張り廊下に連れ出す。呆然とした4人だけが部屋に残される。

327 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:15 ID:???
「榊、なんだっていうんだ。どうしたんだよ。落ち着いてくれよ、頼むからさー」
 【神楽】もどうしたものかさっぱり分からない。ただ、【榊】が取り乱すのを見て、
不安になっていた。
「神楽、一緒に寝よう」
 【榊】のこの言葉に、【神楽】は自分が絶望の底に突き落とされたような気がした。
とうとう【榊】が参ってしまったと思うと泣きたくなってきた。
「榊、いいよ、もう休もう! 疲れてるんだよあんたは。早く戻ろうなんて言わない。
だから、だからしっかりしてくれよぉ……」
【榊】はしまった、と思った。自分は説明をしていない。これじゃ、心配されるのも
無理はない。焦っちゃダメだ、焦っちゃダメだ。だが、気は急いて止まらない。
「神楽、きみの夢に出てきたという、その猫、私もよく知っているんだ。きみがその猫の
夢を見た時、私は何をしていたか。きみと、保健室で寝ていたんだ。昨日の晩も私は
きみと同じ部屋で寝ていたが、ちよちゃんもいたし、体の方向がそろっていなかった。
方向をそろえればあるいは……」
 【榊】は説明したつもりだが、【神楽】には理解できるはずもなかった。
「なあ榊。マジでもういいよ。少し休んで、そうだ、気分転換にテレビでも」
「聞いてくれっ!!」
【榊】が【神楽】の肩を掴み、目を見据える。【神楽】は、本来の自分の瞳に
射すくめられた。喉が渇く。暑くて出たわけじゃない汗が、首筋をすっとつたい落ちる。
「……元に、戻れるかもしれない」
 【神楽】を射すくめたまま、静かに【榊】が言った。空気が張りつめ、息が
詰まったかのように苦しく感じられる。やっとのことで、【神楽】は言葉を絞り出す。
「マジ……か」
「正確には戻してもらう……それはこの際どうでもいい。ただ、絶対じゃない。戻れるか
どうかは分からない。でも、きみがその夢を見たのなら、あの方に頼るしかない。
……いや、猫なんだけど……と、とにかくだ。二人で同じ夢を見ればいい」
【神楽】は決意した。何のことやらさっぱりだが、ウソやおちゃらけは言ってない。
それは断言できる!
「よく分からんが、信じる」
「……よし」
 そう言うと、【榊】はドタドタと、ちよたちを残してきた部屋に駆け込んだ。
しばらくして、問題のぬいぐるみを抱えて出てきた。
「寝室を借りた。少しでも可能性を増やすように、このぬいぐるみも借りた。行こう」
「ああ」
 二人は寝室の一つのベッドの中に潜り込んだ。
「眠るんだ」
「分かった」
 【榊】は必死に意識を闇の中に落とそうとし、【神楽】は一心不乱に羊を数えた。
 数十分後、寝室には二人の寝息だけが響いていた。

328 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:15 ID:???
(ここは……)
 何もない、だだっ広い空間に【神楽】は立っていた。相変わらず、体は榊の体だった。
目の前に、もう一人人物がいる。
「榊……」
本来の自分の姿をした少女だった。
「神楽もちゃんと来れたか。ここまではいいとして、はたして、来てくれるかな……」
 【榊】はつぶやいた。すると。
「もう来ているよ」
 いつの間に現れたのか、奇妙な猫がそこにいた。ぬいぐるみと同じ形の猫が。
「え?! なに?!」
 驚く【神楽】に、【榊】は
「失礼のないように……」
と言って、本題に入ろうとした。
「あのっ……」
「いやぁ、言わなくても分かるよ。戻りたいんだね」
 猫の声に、【榊】は力強くうなずく。
(こいつ何者? 動物? 人間?)
 【神楽】はあぜんとしていた。が、
(いや、戻してくれるならこいつの正体、誰だっていい。頼もう!)
と思い、
「戻してほしい!」
と叫んだ。
「うん、私はずっと見させてもらっていたんだよ。君たちは、自分達の力で、自分達の
答えにたどり着いた……。実にすばらしい! そう、たとえ色が変わるとしても、
自分は大切に……ああ、こっちの話だよ。いや、いつも私は皆の悩み事を聞くだけ
だったのでね。解決もしてあげた方がいいんじゃないかと思ってやったんだが……
とんだ誤算だったよ。神楽君の悩みを聞いてあげている時、榊君は夢の中でも
気絶していてねぇ。赤いものを食べ過ぎるから……げふん、ああ、なんでもないよ。
……くれぐれも詮索するんじゃないよ。とにかく、焦って願いを叶えてしまったから、
こうなってしまったんだ。君たちが戻りたがっているのは分かってたんだが、
昨日の晩はちよもいたからねえ。早く君たちがお膳立てをしてくれればすぐにでも
出て来れたんだよ。私は多忙なのに……猫なのに……多忙でっ……!」
 妙な猫の体色が目まぐるしく変わる。

329 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:16 ID:???
「す、すみません! 気がつかなくて……」
あわてて【榊】が頭を下げた。つられて【神楽】も頭を下げる。
「い、いやー。いいんだよ。謝らなければいけないのは、勝手なことをした
こっちの方なんだから。そう私が勝手なことをしたばっかりにね。事実、神楽君は私に
悩みを話してくれただけなわけで、肉体を入れ替えてくれなどとは一言も言って
ないわけだが……。しかし私としてはこれが出来る限りの最大限の努力だったわけで! 
人の苦労が報われないというのはっ……! しかし私は猫な訳だが! そもそも神楽君も
榊君に一言の相談もなしで……!」
一度静まったかに見えた変な猫だったが、再び色が代わり妙な音を立てる。
「か、神楽! 謝れ! お父さんに謝るんだ!」
「あ、ええと、その、すみませんでした!!」
 あまりに無気味な猫と、【榊】の剣幕に慌てて【神楽】が最敬礼をした。
「はあ、はあ、うん、本来謝るのはこっちなんだよ。別に怒っているわけじゃ
ないんだが。ああ、話が脱線してしまったね。戻らなければいけないわけなんだが……」
 ようやく落ち着いた妙な猫が、これまた妙なものを取り出す。それはいわゆる家電用
電気コードだった。だが、コード部分の途中二個所が、ビニールがなく導線がむき出しに
なっている。
「君たちはこの、金属が出ている部分を持ってくれないかね? ビニールがはがれている
金属の部分だ。くれぐれも、間違えないで欲しい」
そう言うと、妙な猫は【榊】と【神楽】に向けてコードを差し出した。
「え? これが何で?」
 【神楽】は首を傾げた。しかし、【榊】に
「言う通りにするんだ。せっかくのチャンスなんだ」
と諭され、納得はしなかったがそれぞれコードの導線がむき出しの部分を握った。
「それではじっとしててくれたまえ。くれぐれもコードを放してはいけないよ……」
 そう言うと、妙な猫はおもむろに、いつからあったのか、なぜか空中にぽつんと浮かんで
いるコンセントにコードのプラグを差し込もうとした。
「うわーっ!! バカ! バカ! 何やってんだよ!!」
【神楽】が驚いてコードを手放してしまった。

330 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:16 ID:???
「コードを放してはいけないと言ったではないか……」
 奇妙な猫は、やれやれ、といった感じで神楽をたしなめた。
「こ、こんなの握ってたら感電するだろ!!」
【神楽】がつめよったが、動じずに奇妙な猫が言う。
「しかぁし、これが元に戻る一番手っ取り早い方法なんだ。くれぐれもコードを放しては
いけないのは、放すと危険だからなんだよ」
「放すと……」
「危険?」
 【榊】と【神楽】が聞き返した。
「私がコンセントにこれを差し込んで、その後もしどちらかが放してしまうと
危険なんだ。放した方が、じゃなくて相手の方がね。……相手の精神が、
入るべき体がなくて」
奇妙な猫は、コンコン、とコンセントを叩いた。
「こっちに吸い込まれてしまうかもしれないんだ。だから、終わるまでちゃんとコードを
握っていて欲しいんだ」
 【神楽】は言葉を失った。つまり、一歩間違えれば、さっき【榊】の心が自分のせいで
なくなってしまったかもしれなかったのだから。そして、【榊】がコードを放して
しまえば、自分の心がなくなってしまう。相手の心を殺してしまうかもしれないし、
自分の心が殺されてしまうかもしれない。その恐怖に、【神楽】はすくんでしまった。
(どうしよう……)
【神楽】が唇を噛んだ、その時だった。
「……神楽」
 声のした方を見下ろすと、いつも見上げていたヤツがいた。
「……放さない」
【榊】の手に、きゅっと力がこもるのが分かった。
(そうだった。何をビビってたんだ。私は、あんたに遅れをとるわけにはいかない)
【神楽】も、コードをしっかりと握りしめた。
(そして、あんたなら。信じられるぜ)
妙な猫の目を見据えた。
(私だって放すもんか!! この勝負、乗った!!)
「やってくれ!!」
 【神楽】の声からややあって、プラグがコンセントに差し込まれた。
「ああっ!」
「くっ!」
 コードを握りしめたまま、二人の意識は薄らいでいった。

331 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:16 ID:???
 ベッドに寝ている二人の少女。そのうちの一人、背の低い方の少女が目を覚ました。
彼女は、しばし天井を見つめた後、ゆっくりと起き上がり、隣で寝ている少女を
ぼんやりと見つめた。数秒の後、寝ている少女を見つめる背の低い方の少女の大きな目が、
さらに大きく見開かれ、そして。
「あ、あ、あ……」
 背の低い方の少女は、口をぱくぱくさせながら自分の全身を手のひらでべたべたと
触り回った。そして、いきなりベッドから飛び下りると、きょろきょろと
部屋中を見回す。小さな置き鏡を見つけ、少女はそれを手に取り覗き込んだ。
「ふ、ふふふ……はは……あはははは!」
 背の低い方の少女の口から小さな笑い声がもれ、それがどんどん大きくなっていく。
その笑い声に、背の高い方の少女が起こされた。二人の少女の目が合った瞬間、
背の低い方の少女がベッドに駆け寄り、飛び込み、そして背の高い方の
少女に抱きついた。
「榊! 戻ってる! 戻ってるよー!!」
 背の高い方の少女に抱きついて大はしゃぎの背の低い方の少女。背の高い方の少女が
悲鳴を上げた。
「……神楽、苦しい! 痛い! やめて神楽! 神楽! ……神楽?」
背の高い方の少女は、目の前の少女の顔をまじまじと見つめる。
「そうだよ榊! 戻ったんだよ! 私達元に戻ったんだよ!」
 背の低い少女、いまは体も心も正真正銘の神楽の声に、こちらも体も心も
元に戻った背の高い少女、榊は、
「ああ……」
とつぶやくと涙を流した。
「あはははは! よかったー! よかったー! 戻ったよぉ榊!」
神楽も、榊を抱きしめたまま、笑い、そして泣いた。そして、そのまま二人は
しばしの間抱き合ってお互いの体に戻れた喜びを噛み締めあった。
 ばん! 不意に扉が大きな音とともに開かれ、どやどやと少女達がなだれ込んできた。
「どうしました?!」
「大声がしたけど、何かあっ……」
 暦が、何かあったのかと訊こうとして、そのまま固まった。他の三人も、
同様に固まった。四人の目は、ベッドのうえで固く抱き合っている二人に
釘付けになっていた。

332 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:17 ID:???
「あー」
 固まっていた四人のうちの一人、大阪がようやく声を出した。
「邪魔してもうたみたいやな……がんばってや」
大阪はくるっと向きを変え、部屋を出て行こうとする。
「お幸せにー」
「女同士は絶対ダメだなんて固いことは言わないが、もう少し場所と状況を考えた方が
いいんじゃないのか?」
「あ、あの、どういうイミ……?」
残りの三人も次々にに部屋を後にしようとする。ようやく自分達が誤解されていることに
気がついた榊と神楽があわてて四人を引き止める。
「ち、違う……!」
「バカ! そんなんじゃねえ! 私たち元に戻ったんだよ!」
 神楽のその言葉に、
「ほ、本当ですか?」
とちよが振り向き、二人に駆け寄った。
「ああ、本当だぜ! ほらほら!」
 神楽はベッドから飛び下り、腕をぶんぶん振り回してみせた。榊は涙をぬぐい、
床にひざ立ちになってちよの肩に両手を置くと、
「ちよちゃん……ありがとう」
と言い、ちよを抱きしめてまた涙を流した。
「榊さん、神楽さん……。私もうれしいです」
ちよも涙を流した。心地よい、安堵の空気が部屋には満ちていた。窓の外には、
夏の夕暮れが静かにたたずんでいた。

333 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:18 ID:???
「どうだ? 体の調子は?」
「問題ない。そっちは?」
「快調快調! いやー、メシのうまいことうまいこと!」
 翌日、二人は学校の正門にいた。日曜日なので授業はないが、
神楽は水泳部の練習がある。もちろん、榊は来なくても良かったのだが、
やはり改めて元に戻った喜びを二人で感じたくて、神楽の登校に付き合うことにしたのだ。
「なあ、榊」
 神楽は榊の横顔を見上げた。そう、榊は自分にとって「見上げる」存在に戻ったのだ。
そんな感慨に浸るが、不思議と以前の見上げていた時のような焦りや、
劣等感は起こらなかった。
「せっかくここまで来たんだから、ちょっと泳いでいかないか?」
神楽は握った手の親指で背後に見えるプールを指差した。
「ごめん。いつもすまないとは思ってるけど」
榊は、静かだが、しっかりした意志を感じさせる声で神楽に詫びた。
「いや、いいんだよ。榊がそんなこと思わなくてもさ。ま、黒沢先生はちょっと
残念がるかもしれねーけど」
 神楽は頭の後ろで手を組み、空を見上げた。夏の空がいっぱいに広がっている。
まだ九時にもなっていないのに、太陽は校庭をからからに焼き、熱風が二人をなでていた。
だが、本当の夏はまだこれからだ。
「榊。ありがとうな。あんたの冷静さがなかったら、私はきっと
とんでもない目に遭ってたと思うんだ。本当に助かったぜ。へへへ」
 榊に向かい、神楽が白い歯を見せて笑った。
「私もお礼を言うよ。神楽のおかげで、私は諦めなかったんだ。
本当に、本当にありがとう」
 榊は背の高さでこそ神楽を見下ろしていたが、その視線は見下ろすと言う表現が
似合わないほどの優しさをたたえていた。
「困った時はお互い様だな。しっかし、あんだけ短い間だったのに、
まるで何か月も自分の体から離れていたような気分だなー」
「ああ。だけど、普通の生活の何か月分も、大事なことが分かったような気がする」
 二人は花壇の前まで歩き、そこでしばらく夏の花を眺めた。会話はなかったが、
二人はゆったりとした満足感に包まれていた。

334 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:18 ID:???
「神楽……本当に覚えていないのか?」
 急に花壇を見つめていた顔を上げて、榊が尋ねた。
「うん。最初に見たって私が言ったらしい夢も、二人で戻る直前に見たって夢も、
全然覚えてねーんだけど。まあ、私は昔から夢とかあんまり覚えないタイプだから」
神楽は、奇妙な猫の夢を全く思い出せなくなってしまっていた。
入れ替わっている間の記憶の中で、そこだけが抜け落ちてしまっていた。
「そうか」
 無理に思い出す必要もない。思い出したくなったらその時思い出すだろう。
そう考えて、榊はそれ以上奇妙な猫の夢の話をするのをやめた。
「そろそろ時間だ」
 神楽が立ち上がった。
「行ってくる」
神楽が手を挙げた。榊も立ち上がり、黙って手を挙げた。すれ違い様に、
二人の間でパン、とハイタッチの音がした。それだけで良かった。
 神楽の後ろ姿を見送ると、榊は正門の方に向けて歩いていった。

335 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:19 ID:???
「ま、私にとって理想的だからって、何もかも幸せってことはないんだよな」
水泳部の部室に向かう道筋で、神楽はぼそっとつぶやいた。こんな当たり前のことに
今回のことがあるまで気付かなかったのかと、自分につっこんで苦笑いをする。
 それでも、体格に恵まれた人の感覚と言うものを身をもって知れたこと、
これだけでも大きな収穫だ、と神楽は思った。本来なら絶対に知ることのできない、
ライバルの肉体を知ることができた。そして、精神も。
「榊は、榊のやりたいこと、やり方があるんだ」
 それを無視して、自分の好きなことを押し付けがちだった私を、少し反省しよう。
そして。
「私は、私のやり方で、私らしくやってみせるさ」
決意はできた。後は前に進むだけだ。
 その一歩を踏み出そうと、部室のドアに手をかけた時、後ろから声がかかった。
「神楽センパーイ! おはようございますー!」
「おう、西山。おはよー」
西山部員が駆け寄ってきた。神楽が一人なのを見ると、小首を傾げた。
「あの……榊先輩は……」
「ああ、やっぱり断られた。仕方ないさ。榊だって大変なんだ」
「神楽先輩……やけにあっさりしてますねー。いつも一度断られると二、三日は
悔しがってるのに……」
 驚く西山部員に、
「私だっていつまでもうじうじしてられないんだよ」
と笑いながら言い、
「さて、がんばろうぜ」
と扉を開けた。
「あ、先輩、忘れるところでしたー」
 更衣室で着替えを終え、さて、プールサイドに上がろうかという時に、西山部員が
紙袋を取り出して神楽の前に差し出した。
「頼まれていたものですー」
 神楽は、紙袋の中を覗き込んで、呆気にとられた。
「何だこれ?」
「ねここねこグッズとー、その他もろもろですがー」
紙袋の中には、ファンシーグッズがいっぱいつまっていた。軽いめまいを覚えつつ、
神楽が紙袋を突き返す。

336 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:20 ID:???
「こんなもの頼んだ覚えはないぞ」
「え? 忘れたんですかー? おととい、もらおうって言ったじゃないですかー。
限定品や非売品もたくさん入ってるんですよー」
西山部員が怪訝そうな顔をした。神楽は記憶をたどった。おととい、おとといだと……?
「あーっ!! 榊だな!!」
 思わず大声で叫んでしまった。辺りにいた部員が一斉に神楽に注目する。
「あのー、榊先輩がどうかされたんですかー?」
「いや、なんでもない……」
(榊、人の体で何やってたんだよぉ! そりゃ私もあんまり人のことは
言えねーけどさ……)
心の中でそう愚痴る神楽に、西山部員は紙袋を押し付けるようにして、
「これからもいいのあったら持ってきますから、楽しみにしてて下さいねー!
じゃー、私はこれでー。大会、頑張って下さいねー!」
と部員みんなに聞こえるような大声で言うと、他の部員とともにさっさとプールサイドに
上がっていってしまった。
「ちょ、ちょっと待て!」
誰も待ってくれなかった。
(恨むぞ榊……。どーすんだよこれ!)
 ただ一人更衣室に取り残されて神楽は困り果てた。ため息をつきながら、
なんとなくねここねこグッズの一つを取り出して、手のひらに乗っけて眺めてみた。
「悪くはないかもな……」
 神楽は、紙袋を自分のロッカーに押し込むと、一つ深呼吸をして、
自分の向かうべき戦いの場に上がっていった。

337 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:20 ID:???
 榊は、正門に向かって歩きながら、自分の手を見つめた。神楽のものに比べて、
格段に大きな手。この大きな体が大嫌いだった。でも、この体を人に渡しても、
何の解決にもなりはしなかった。
(小さい体に生まれたかったなんて考えるのは、逃げでしかなかったのかもしれない)
そして、自分の嫌いな体をうらやんでいた友人を想う。
(この体が神楽を苦しめていたのなら、私はその分だけ、この体で頑張らなければ)
 引っ込み思案で、ただ夢見がちで、自分の作った自分のイメージに縛られ、
おびえていた。だけど。
「少しずつ……少しずつだけど、諦めずに、逃げずに」
 無口で、かわいくない体に戻ってしまったけれど、そうすれば、もう少し、
神楽に、みんなに、自信を持って向き合えるかもしれない。
拳にきゅっと力を入れ、小さく掲げた。まだ手の中には、神楽の手の熱さが
残っているように思えた。
 いきなり、風が榊を追い越し、榊の行く手を塞ぐように止まった。
何事かと目を丸くする榊を指差し、風たちが怒鳴る。
「見つけたぞ榊君!」
「やっぱり犯人は現場に戻ってくるのね!」
 目の前にいきなり現れた夏用のトレーニングウェア姿の男女に見覚えがなく、
榊は尋ねた。
「あの……すいません、どこかで会いましたか?」
その榊の台詞に、女子の怒りが爆発した。
「あんた、あれだけのことをしておいて忘れたですってえ! ますます許せないわ!
ほんとに何様のつもりよ!」
キーキーとわめく女子を抑えて、男子が一歩進み出た。 
「改めて自己紹介をしよう。俺が男子陸上部の部長、こっちが女子陸上部の部長だ。
榊君、君はおととい、陸上部の練習に乱入し、女子陸上部を完敗させた上、
男子陸上部の何人かの部員も破った。練習中に勝手に神聖なトラックに入るだけでも
許しがたいが、多くの部員を破ってくれたおかげで我が部の士気はがたがたに
落ちている。俺たちは、正直な話君が憎い! だが、悔しいが君の力は俺たちからしても
うらやましいほどだ。味方に付けばどんなに強力なことか。だから恥を忍んで
お願いする! 俺たちと一緒に走ってくれ! そうすれば今までのことは水に流そう!
心配しなくても今からでも秋の大会には……」

338 :◆bO84BHHK5c :2003/07/09(水) 20:21 ID:???
 男子陸上部長の長台詞を聞きながら、榊は頭を抱えた。神楽がやったというのは
すぐに見当が付いた。ああ、あのとき意地でも保健室を飛び出した神楽を
止めておくんだった。
「さあ、ここに名前を書くんだ!」
 気がつくと、目の前には入部届けが突き出されていた。男女陸上部長は殺気だっていて、
断れば血の雨が降りそうな勢いだ。
「え……あの、その……」
 それでも、勇気を振り絞って榊が拒絶の言葉を口にしようとした時だった。
「ぐほおっ!!」
 砂埃と悲鳴が上がり、男子陸上部長が2メートルぐらいふっ飛んだ。
「な、なに!?」
突然のことに、女子陸上部長が動揺する。砂埃の中から聞こえてきた声は、
榊には良く聞き覚えのある声だった。
「榊さーん!! ご無事ですかー!!」
「か、かおりん!?」
 かおりんは、例によって榊を監視していて、そして榊のピンチに駆け付けたのだった。
男子陸上部長に助走をつけたドロップキックを見事決めたのだが、かおりんの
口の端からは血がたれていて、どう見てもかおりんの受けたダメージの方が大きかった。
しかし、かおりんは気合いで立ち上がっていた。
「あ、あんたなによ! こんなことしてただですむと思ってるの?!」
ようやく我に帰った女子陸上部長がかおりんを威嚇した。だが、かおりんは
それを完全に無視して榊に向かってしゃべり出した。
「ああ、榊さん……。本当にご無事で良かった! 榊さんの言葉使いが
悪くなってたのも、榊さんが冷たくなったのも、みんなこいつらにたぶらかされていた
せいなんですね! でももう大丈夫ですよ榊さん! 私は榊さんのためなら
この命を投げ出す覚悟だってできているんです! 悪の陸上部は、天文部の誇りと
私の想いにかけて、必ず退治して御覧にいれます! さあ、覚悟しなさい陸上部!」
 かおりん対女子陸上部長の激しい攻防が始まった。榊はいよいよ頭が痛くなってきた。
「榊さん!!」
「榊!!」
「榊君!!」
 榊を目指して伸ばされた三つの血みどろの手。榊は、それにくるりと背を向け……。
全力で走り出した。後ろから叫び声と悲鳴が聞こえるが、振り向かないことにした。
(逃げないって決めたけど)
 榊は走りながらプールの方に目をやった。
(こういうのからは逃げてもいいよね、神楽)
プールには既に水しぶきが上がっていた。



339 :名無しさんちゃうねん :2003/07/10(木) 00:12 ID:???
お疲れ様です。気持ちがすれ違う序盤、互いの心を分かり合う中盤、
ドタバタになりながらも解決へと向かっていく終盤、とにかく面白い話でした。

個人的には夢に出てきたちよ父も好きです。かの人物のわけわからない
言動を全くイメージを壊すことなく作り出せたのは本当にすごいと思います。

340 :名無しさんちゃうねん :2003/07/10(木) 05:39 ID:???
本当にお疲れです。
自分も>>339氏と同じような意見です。
あと、個人的には最後の神楽のみ、榊のみのその後もよかったです。

あぁ、だれかが保管庫作業してくれたら・・・

341 :◆bO84BHHK5c :2003/07/10(木) 23:04 ID:???
読んでいただき、感想までいただきありがとうございます。
既に書いてしまったものに自分であれこれ言うのは
あとだしジャンケンみたいでちょっとかっこわるいですが少しだけ。
当初は、序盤のドタバタスラップスティックのノリで最後まで行くつもりだったんですが
途中からシリアスに振れてしまいまして。そのおかげで話がえらく長くなって
スレを大量消費してしまいまして。その点は申し訳なかったなと。
まあおかげで書きたいことは大体書けたので良かったです。
あと、ちよ父はジョーカーみたいに強力だなと思いましたね。さすが夢の中の
住人だけあります。その分使い過ぎには気をつけなくてはと思いますが。

ところで、2ちゃんねるの漫画サロンのスレに神楽とよみの入れ替えSSが
あるって話を見たんですが、つい最近まで2ちゃんねるのSSスレはほとんど
見てなかったうえ、今そのスレは読めないのでどんな話か分からないんですよ。
どんな話だったのか知ってる方います? 神楽よみの組み合わせなんて
正直考えたこともなかった。

それはともかく、元ネタ知らないとつまんない小ネタ一つ行かせてもらいます。

342 :◆bO84BHHK5c :2003/07/10(木) 23:05 ID:???
『宇宙家族あずまんが大王』

暦 「さて、そろそろご飯の支度でもしようかな。ちよ、晩ご飯は何が食べ……」
ちよ「あ、おかあさん。もうすぐ晩ご飯ができますよー。えーと、最近揚げ物とか
   肉料理が多かったんで、それじゃ健康面でどうかと思いまして。
   今日はカレイの煮付けにしました。あとほうれんそうの白和えと、
   シジミの澄まし汁を作ったんですけど……。あっさりしすぎてますか?」
暦 「……え? あ、ああ、ありがとう。大したもんだよ。
   そうか、もう晩ご飯を作ってくれてたんだな。偉い偉い。じゃ、私は……」
ちよ「それと、お風呂場とトイレを掃除しておいたんですが、ごめんなさい、
   お風呂場のカビが落ちませんでした。あのー、今度塩素系の洗剤を
   買ってきてもらえますか?」
暦 「は、はあ、そりゃあどうも……。ちよ、手伝ってくれるのはうれしいけど、
   そんなに一日中家事をしなくてもいいんだよ。子供は子供らしく……」
ちよ「はい、宿題はほとんど終わらせました。あとで国語の音読を聞いて
   チェックしてもらえませんか? そういう宿題なので」
暦 「……あ、ああ! そうだね、いくらでも聞いてあげるよ。ちょっとおかあさん
   庭に出てくるよ。すぐ戻るからね」

343 :◆bO84BHHK5c :2003/07/10(木) 23:06 ID:???
暦 「うう……。家事、しつけ、勉強、いつも全て完璧だ……。
   母親としての立場がないな……。まったく、誰に似たのやら……。
   ああ、本当の子じゃなかったんだよな。宇宙船が衝突して(以下略)」
榊 「こんばんは」
暦 「おお、榊。パトロールか?」
榊 「うん。保安官をやる以上、ちゃんと責任は果たさないと」
暦 「いつもすまないな榊。ああ、ちよちゃんが夕食を作ったんだ。食べていけよ」
榊 「え……。でも、家族のだんらんを邪魔するのは悪い気が」
暦 「邪魔になんかならないって。大勢いた方が楽しいし、それにちよちゃんだって
   榊が来ると喜ぶんだぞ」
榊 「そうか。それじゃお言葉に甘えて……」
智 「ただいまー」
暦 「おお、ペットのリスの智ちゃん。いままで掃除の手伝いもせずどこを
   ほっつき歩いていた!」
智 「いいじゃん、掃除なんてめんどくさいよー!」
暦 「うるさい。それじゃちよちゃんに示しがつかないだろうが!」
智 「なんだよー。だいたいペットが掃除なんかする必要あるの? そもそも
   何で私がペットな訳?」
榊 「あっ、あのっ! ペットが嫌ならやっぱり私と交代しないか?」
智 「そうだそうだ! 前々から言ってるだろ! 私が保安官でICPOなのが
   お似合いだって!」
榊 「リス……いや猫も捨てがたい……ハムスターなんてどうだろう……」

344 :◆bO84BHHK5c :2003/07/10(木) 23:06 ID:???
暦 「ダメだ! 今さら変わったらちよちゃんがおかしいと思うだろう! 情操教育に
   よくない! それにな、榊。気持ちは分からないでもないが、榊が
   保安官をやらなかったら、いざってときにここを、ちよちゃんを、
   守れないんだよ」
智 「私がチョップで」
暦 「守れるかっ! 榊、ほんとにすまん。厄介ごとを押し付けてばかりで……」
榊 「いや、謝らなくても。私がちよちゃんにできることと言ったら、これぐらいしか
   ないから。私もわがままだった。……そうだ、ペットになれないなら、
   せめて今度からヘルメットに猫耳をくっつけて猫耳パトロールに……」
暦 「ま、まあその辺は好きにしてくれ……。ところで、宿六はどこにいるんだ?」
智 「そこにいるじゃん。ほら、木にぶら下がってる」
暦 「……あんた、そこで何してる?」
大阪「みの虫。夏の風物詩や」
暦 「なんでみの虫が夏の風物詩なんだ。ったく、あんたも少しは父親の威厳って
   ものをな」
大阪「みの虫が成長するとクワガタになるのです」
暦 「あー、期待したのが間違いだった」

345 :◆bO84BHHK5c :2003/07/10(木) 23:07 ID:???
智 「ねー、前から思ってたんだけど、大阪が父親って思いっきり
   ミスキャストじゃないの?」
暦 「ああ、そうだな。あの時最後に決めた役だからな。実は余り物なんだよな」
智 「父親なら、私の方が良かったんじゃない? そしてよみと甘い夫婦生活を
   ……ハァハァ」
暦 「……ハァハァ、と、とも……って萌えちゃったじゃねえか! そ、そうしたいのは
   やまやまなんだが……。今さら配役を変えようとすると、離婚してペットと
   再婚することになっちゃうだろう。それは……」
ちよ「みなさーん。ご飯冷めちゃいますよー! あの、ところで何の話なんですか?
   リコンってどう言う意味ですか?」
暦 「い! いやー、なんでもないんだよ! すぐに行くから。今日は榊お姉ちゃんも
   一緒にご飯食べるからね」
ちよ「わーい! 榊お姉ちゃん大好き! 今日はカレイの煮付けなんですよー!」
榊 「それはおいしそうだ。ちよちゃんが作ったのか。偉いな」
ちよ「たいしたことじゃありません。それじゃ、こちらにどうぞ」
榊 「ああ、今行く。……やっぱりその話は後にした方がいい。ちよちゃんに
   聞かせちゃいけない」
暦 「そうだな。悪かった。演じる限りはちゃんとやらないとな……」
智 「じゃあ、ペットと子持ち主婦の不倫、ってことで」
暦 「それがダメだって言ってるんだろうが!」
大阪「つくつくほーし。つくつくほーし」

つづかない

346 :339 :2003/07/10(木) 23:37 ID:???
>>342-345
元ネタは「カールビンソン」でしょうか?
よく覚えてないですけどおもしろいですよ。出番は少ないけど、大阪のボケが好きです。
神楽が登場しないのがちょっと残念。

>その分使い過ぎには気をつけなくてはと思いますが
ジョーカー(ちよ父)を使いこなせる人はそんなにいないと思います。

>漫画サロンのスレに神楽とよみの入れ替えSSがある
2ch漫画サロンの方にSSってあったんでしょうか?
アニメサロンのよみともスレの小ネタで「よみと神楽の入れ替わり」というのは
ありましたが。

347 :名も無きSS書き ◆v4K6TB303w :2003/07/11(金) 01:55 ID:???
>>342-345

このネタって読み手によってウケるウケないが,
非常に分かれる難しいネタですね…。
私はディスプレイの前でリスの智ちゃんをイメージして,
顔を覆って震えてましたが。w

(大阪がお父さんなのは私的にビーンボールで面白かったです。
ちよちゃんと合体してガンキャノン/タンクになったり,
ちよちちと忠吉さんと合体してデンドロビウムになるのでしょうか,今から期待です。
あと,かおりんが誰の役になるかが既になんとなく読めてきたような…。w)

348 :amns ◆FqzSak5tNk :2003/07/11(金) 02:55 ID:???
長編乙でした。入れ替わりで生じる事態のディテールの細かさ、
キャラクターが崩されるスキャンダラスな面白さ、
そして騒動を通じてお互いを知り友情を深める二人。(ちょっぴり百合風味も)
面白うございました。
実は私も、2ちゃんの方で榊神楽ペアのSSばかり書いてるのですが、
このペアでやる書き手は、つい最近まで他にほとんどいない状態でして。
人の作品をじっくり楽しめるのは嬉しい機会でした。

ちなみにご質問の件ですが、漫画サロンの前神楽スレに
「某所に榊と神楽がひょんなことから互いの体が入れ替わってしまうSSがあったが
 入れ替わったのが智と神楽だったらどーなるんだろうか? 」
「大阪 IN 神楽  『ええなぁ〜、おっぱい、ええな〜』
 と、憧れの巨大な胸を得て、ついつい揉むのに没頭してしまう大阪。」
「にゃもちゃんが神楽に入ったら
 にゃも『こ、この肉体を使えば、男なんか…』」
「ちよ IN 神楽  『たっ、大変です!血が!血が!』」
といった一連のネタが載り、
それを受けてアニメサロンのとも・よみスレ6(これも今読めない)にも

神楽 in よみ
いつものようによみの家に泊まりに来たとも
神楽 「おまえらってよくこうやってお泊まりしてるのか?」
とも  「は?しょっちゅうしてるじゃん。それよりさぁ、よみぃ…」
神楽 「うわっなにするんだ、とも!やめろー!」

といったネタが出たのです。
つまり、そもそもは本作の影響によるものというわけです。

349 :名無しさんちゃうねん :2003/07/12(土) 14:03 ID:???
そういえばどっかのスレで(ここなのか2chなのかすら覚えていない)
「あとやってないのは精神入れ替わりネタと記憶喪失ネタくらいなものか」
というレスがあったような気がする。

というわけで誰か「記憶喪失ネタ」をどうぞ。

350 :◆bO84BHHK5c :2003/07/14(月) 01:14 ID:???
レスして下さった皆さん、サンクスです。

>>346
神楽はやっぱり、

神楽「やっと見つけたぞ榊! 傭兵時代の決着、つけさせてもらうからな! 勝負だ!」
榊 「……?」
神楽「もしかして、私覚えてない?」
榊 「うん」

こんな感じで。いや私もうろ覚えですが。でも思いつきの単発ネタなので
出番ないですね……。

>>348
>入れ替えネタ
そうだったんですか。神榊以外の入れ替えも面白そうですね。
>にゃも『こ、この肉体を使えば、男なんか…』」
にゃもちゃん生々しすぎだ(w

>>349
記憶喪失小ネタ

大阪「ここはどこー? 私は誰ー?」
智 「あんたの本名は大阪よ!」
大阪「せやったんかー。大阪といいます。よろしゅーたのみまんがなー」
暦 「変なこと信じ込ませるな!」

やっぱりつづかない

351 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/20(日) 02:37 ID:???
>>349
それちょっと考えてみます。
前からSSに挑戦してみたかったので。

んー、じゃあ智を記憶喪失にしてみようと思います。
待っててください…

352 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/20(日) 04:27 ID:???
 「よみさん、ともちゃんが…ともちゃんがー!」
 「大丈夫だよちよちゃん、目立った傷もないし…きっと明日には元気になってるさ」
 泣きじゃくるちよちゃんにそう言い聞かせて、私はなんとか冷静さを保っていた。
智が交通事故にあって病院に運ばれたのは、
ちよちゃんの別荘から帰ってすぐのことだった。

 下り坂を自転車で全力疾走し、そのまま軽トラックに横から突っ込んだらしい。
自転車はバラバラだったが、
乗っている本人は上に放り出されて頭を打つ程度で済んだ。
まったくあいつらしい事故だった。
こんな騒ぎを起こすのも程度の差こそあれ、一度や二度では無かった。
しかし…
扉一枚隔てた手術室に向かって、祈りを込めて呼びかける。
 (大丈夫だ、今度だってどうってことないさ。そうだろ智?)

 「よみちゃん、ちよちゃん、榊ちゃんと神楽ちゃんが来たでー」
 廊下の向こうから、2人を引き連れて大阪が戻ってきた。
神楽は水泳部の練習から大慌てでやってきたようで、
髪の毛を濡らしたままこちらに駆け寄ってきた。

 「智は大丈夫なのかっ!ここか?この中にいるんだなっ!」
 神楽がそう言って手術室のドアを開けようとする。
 「おい、神楽!今はまだ…」
 私とちよちゃんが驚いて止めようとすると、榊が神楽を引き止めてくれた。

 「あっ…そうかごめん。慌てて…」
 心配のあまり判断力を失った神楽に比べると、榊は随分落ち着いて見えたが、
さっきから目が潤みっぱなしだった。普段の感情の表しかたから考えれば、
これが彼女にとっての激情に当たるのだろう。

353 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/20(日) 05:38 ID:???
 「よみちゃん、ともちゃんのお父さんとお母さんには、まだ連絡つかへんの?」
 「あ、ああ。ちよちゃんの別荘の行ってる間に、智の両親が実家に帰っててね、
 後から智も行くはずだったんだけど…この事故だ」
 「そらまずいなあ、ともちゃんが良くならんと連絡つかへんとちゃうか?」

 緊急時にも関わらず、大阪は冷静だった。
必死で平静を装う私とは違い、他のメンバーにもしきりに声をかけては
みんな落ち着かせようとしてくれている──ように見える。
大阪のことだけに本当の所どうなのかは、よく分からないが…

 「そうだ、水泳部で黒沢先生いっしょだったろ?先生には伝えてきたのか?」
 ようやく落ち着いてきたらしい神楽に聞いてみる。
 「あ…ああ、後からゆかり先生連れていっしょに来るって言ってた。
 そろそろ来るはずだと思うけど…」

 「おーい、皆の衆ー。元気かにゃーー?」
 「ゆかり先生!」
 弾かれたようにその場にいた全員がゆかり先生に駆け寄った。
 「うぇっ、ひぐっ…ゆかり先生!ともちゃんがぁ」
 「はいはい、ちよちゃん泣かないの。大丈夫だから。
 あの子が交通事故くらいでどうにかなるわけないでしょ?」
 ぶっきらぼうで薄情にも感じられる言葉だったが、パッと場の雰囲気が明るくなった。

 「ちょっとゆかりー、置いて行かないでよー」
 後から黒沢先生が息を切らせてやってくる。
よく見るとゆかり先生も汗だくだった。
普段通りに振舞ってはいるが、よっぽど急いでここまで来たのだろう。

354 :名無しさんちゃうねん :2003/07/20(日) 09:28 ID:???
おつかれ。いい感じで始まってますな。続きに期待大。

手術中のドア開けようとする神楽には藁。いかにも神楽や。

>  「大丈夫だよちよちゃん、目立った傷もないし…きっと明日には元気になってるさ」

目立った傷ないのに手術ってのは、逆にヤバいと思われ。脳内出血?

355 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/20(日) 13:31 ID:???
> 目立った傷ないのに手術ってのは、逆にヤバいと思われ。脳内出血?

皆に智を心配させるのが楽しくって、深く考えてませんでしたー。
辻褄合わせるために調べてきますね。

356 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/21(月) 00:52 ID:???
手術は1時間ほどで終わった。
智の両親の代わりに、黒沢先生とゆかり先生が医者の説明を受けている。

「智のやつ、頭を手術したんだよな…大丈夫なのか?」
「もしかしたら…後遺症が残るかもしれない…」

 嫌な汗が体を伝う───ガチャ
不意にドアを開けて、先生達が戻ってきた。

「どうやら大丈夫みたいよー。経過を見るために2、3日入院は必要らしいけどね」
 ゆかり先生の言葉を聞くと、ほっとした顔で、それぞれが顔を見合わせた。

「さあ、今日はもう遅いし、安静にしてなきゃいけないから帰りましょうね。
 みんなも心配して疲れちゃったでしょう?」
 黒沢先生がそう言われて、まだ目を赤く腫らしたままのちよちゃんが答える。
「はい、わかりました。それじゃあ明日みんなでお見舞いに行きましょう」
「おお!そうだなちよちゃん、明日あいつの喜びそうなもん沢山持っていってやろう!」
 さっきまであれだけ元気の無かった神楽は、顔一杯に笑顔を浮かべていた。

「良かったなー榊ちゃん、智ちゃんなんともないんやねー」
「うん…本当に良かった」 

 気が付くと視界が歪んでいた。
今まで抑えていたものが一気に溢れ出して、涙が頬を伝っている。
言葉も無く、ただただ涙を流しつづけて、一つだけこう思った。
(こんなところ、智には見せられないな)

357 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/21(月) 10:10 ID:???
翌日

まだ朝早い時間に病院に着いてしまったが、すでに大阪と神楽が先に来ていた。
「お、よみも来たのか?じゃあちょっと早いけど様子見に行こうか」

 病室のドアを開けると、ベットから上半身を起こしている智が見えた。
まだ頭に包帯が巻いてあり痛々しい。

「おーい智ー」
「智ちゃーん、大丈夫やったかー?」
「どうしたんだ智?ぼーっとして
 あ、腹へってんだろ、お見舞いにバナナ持ってきたぞー!」

 智は不思議そうな顔をしてこちらを見ている。
「どうしたんだ、智?バナナがそんなに珍しいのか?」
 神楽がしきりに声をかけるが、いまいち反応が薄い。

「あ、あのう…」
「どうしたんだよ智?」
「い、いや大したことじゃないんだけど…」
「なんだよ、他に食べたいもんでもあるのか?」

「智って、誰?」

「はぁ、何言ってんだよ智。ほら、バナナだぞー、あーん」
「あなた…誰?」
「智…どうしちゃったんだよ、神楽だよ神楽」

「分からない…」
 半分泣き顔の、本当に困ったような顔で智はそう言った。

358 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/07/21(月) 20:28 ID:???
 本当に何言ってんだ…いくら智でも…
いや智だからこそ、こんな顔してこんな冗談をやるはずがない。

「智、何も覚えてないんだな?」
 ─コクン
「自分の名前は?」
「覚えてないけど、智…っていうのが私の名前でしょう?」
 と言うことは、当然…
「…私のこともか?」
「ごめんなさい、分からないよ…」
 智はそう言って、申し訳なさそうにうつむいた。

「お前は滝野智、私は水原暦だ…なあ、本当に覚えてないのかよ」
「あなたが水原さんで、そっちの人が神楽さんね?」
 水原さん──頭をガツーンとやられた気分だった。
子供の頃から「よみ」「とも」と呼び合ってきた、
その相手の口から突然、「水原さん」
頭では理解しているつもりでも、感覚がついていかなかった。

「あなたは何ていうの?」
 智はそう言うと、後ろに立っていた大阪に向かって声をかけた。
「えっと、私は春日歩いいます…智ちゃん、私のことも覚えてへんの?」
「ごめんなさい春日さん、本当に何も覚えてないの」
 智の返事を聞いた途端、大阪が大きく目を見開いた。
「ちゃうねん!私は大阪やねん
 …ひどいやんかぁ、智ちゃんがつけたあだ名やのに…」
 大阪の気持ちは痛いほど良く分かった。
もう忘れてしまったけど、初めに私を「よみ」って呼んだのは、
あいつだった気がする…

359 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 11:11 ID:???
初めまして! 職人さんのSS毎日楽しみにみてるッス!
昨日某スレに触発されて 「かわいそうな智ちゃんシリーズ」 を書いてみましたー。  
自分 書き始めなんでいろいろ未熟なところがあると思うッス。

もしお時間があればッスけど、添削・アドバイス等よろしくっ!

360 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 11:12 ID:???
キーンコーン カーンコーン

終了のチャイムが鳴り、智ちゃんの大好きなお弁当の時間がやってきました。
今日のお昼ご飯は大好きなお母さんが作ってくれたカレーです。 箸をつけようとする
智ちゃん、 そこへかつての親友だった暦さんが現われました。
 暦「くせっ! 誰だ? カレーなんか食ってるのは」   智「ご、ごめんなさい」
智ちゃんイジメのリーダー、暦さんは一瞬顔を顰めましたが、やがて普段の偽善じみた
表情に戻りこう言いました。
「いや、いいんだ。 …………。 それより智。 そのカレー、もっとおいしくして
やろうか?」   「え…………?」
暦さんはにやりと笑うと、黒板消しを持ち出し、お弁当の真上でおもむろに
はたきだしました。 白い煙が舞い上がります。 咳き込む智ちゃん、 たちまちカレーの上
に白やら黄色やらのチョークの粉が降り積もります。 なにがなにやらわからず、智ちゃん
の大きな瞳には涙がにじんでいきました。
(そんな……せっかくお母さんがつくってくれたのに) 目の前にあるのは白くカビが
生えたようなカレー。 涙する智ちゃんの姿をみて、暦さんは何が愉快なのか高笑いをしています。
「はっはっは! うまそうだなあ、智 」
「おお〜まっしろや〜、 ひそいりカレーやで〜」
「白墨は左脳にいい。 これで馬鹿も少しは治るだろう………」
「ともちゃん、 残したらいけませんよ〜」
暦さんたちに無理やり白墨カレーを食べさせられる智ちゃん。 口の中に広がる
粉の苦さに耐え、涙を流しながら胃の中に押し込みます。 吐き気が何度も
もよおしてきますが、気の弱い智ちゃんは逆らうことさえできません。
「オラァ! ちゃんと食えよ!」
ひぐっ………… なんで私ばっかり………… こんな目に…………

嗚呼、可哀相…………

361 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 13:22 ID:???
シリアスな物語が展開される中、スレの空気も読まずに可哀相シリーズを続ける自分。
嗚呼、傍迷惑…………
-----------------------------------------------------------------

可哀相な智ちゃん 〜一年生〜 
(一巻 P.008)

今日は転校生、天才少女のちよちゃんがやってきました。

「あらあら 早速教えてもらってるのね? 解らないことがあったらちゃんと聞くのよ」
さっそく智ちゃんとお勉強している姿をみて、谷崎先生が声をかけます。
でもおかしいですね。 声をかけた先にいるのは智ちゃんの方です。

谷崎先生はちよちゃんを向いてききました。
「どう? ちゃんと教えられる?」
「いえ〜、理解力がなくてこまってますよ〜」
(…………。)
「でもすごいわね。 このバカが解るように教えられるなんて」
「あの、天才ですから」
(…………。)

複雑な表情の智ちゃんをよそに、先生とちよちゃんは罵詈雑言の限りをつくします。

「まあでも、ちよちゃんもあまり近寄らないようにしなさいよ。 バカが移るから」
「それもそうですね〜」
そういってちよちゃんは、教えていたノートを投げ捨てました。
智ちゃんに声もかけず、頭のいい暦さんの方へいってしまいます。

「ま、まって…………」
床に落とされたノートには [連立一次方程式] という文字がぽつりと浮かんでいます。

転校早々ちよちゃんに見捨てられる智ちゃん。
馬鹿代表のようなゆかりちゃんにさえ阿呆呼ばわりされる智ちゃん。
かてて加えて、教えてもらっていた一次方程式はいまだわからないままです。

362 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 13:24 ID:???
がんばんなきゃ…………ちよちゃんに……呆れられないように…………
ノートを拾い上げ、必死で見直そうとする智ちゃん。 でも書かれている文字列は
智ちゃんにとって理解不能な暗号の列です。 何もわからない自分に
もう惨めすぎて笑うしかありません。

わたしって…………どうしてこんなにばかなんだろう………………
どうしようもないことに自虐する智ちゃん。 お勉強ができなくても悪くないのに。


嗚呼、可哀相…………

363 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 13:29 ID:???
(一巻 P.064)

今日は体育の時間。バレーボールです。
体育が苦手なともちゃんはサーブを誤ってちよちゃんにぶつけてしまいました。

「ちっ、ちよちゃんごめん…………」
急いで謝るものの、 声の小さな智ちゃんの言葉は、誰にも届いてくれません。

暦「ちよちゃん! 大丈夫か!」
かおりん「智! なにやってんのよ」
ちよ「ふぇ〜ん、いたいよ〜」
大阪「幼児虐待や。 精神障害者のすることやで」
榊「…………最低だな」

すっかり悪者になってしまった智ちゃん。 クラスメートの冷たい視線が
繊細なこころをもった智ちゃんにグサグサと突き刺さります。

どうして…………どうしてわたし不器用なんだろ…………

この事件によって大阪さんや榊さんにも嫌われ、ついに友達がいなくなってしまいます。
話す相手がいなくなった智ちゃん。 クラスでは孤立し、庇ってくれる人もなくなりました。
こうして智ちゃんに対する陰湿なイジメが始まるのです。

嗚呼、可哀相…………

364 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 13:34 ID:???
(一巻 P.009)

「ともちゃん、 進路希望の紙あつめますよ」
「うん、はいっ」  ワラ半紙を受け取るちよちゃん(日直)。
(どれどれ、智ちゃんの進路希望というものを覗いてみましょう)
つい盗み見してしまうちよちゃん。 先生以外みてはいけない決まりなのですが、
そもそもそんな決まり守る奴なんていないのです。

[希望職業記入欄]  滝野 とも

1. あいしーぴーおー
2. 仮面ライダー
3. 大とうりょう

(バカなんですねぇ……) 智ちゃんの席を振り返り、蔑んだ視線を送るちよちゃん。
この情報はそくざに暦さん等へ送られ、格好のウケネタとなります。
よみ   「はっはっは、 ICPOだってよ! ガキかこいつ」
かおりん「これを本気で書いてるからすごいわねー」
ちよ   「大統領くらい漢字で書けないんですか?」
大阪 「ほんま、あほとちゃうんか」
榊    「…………(……プッ!)」

(そんな…………わたしはただ…………あこがれてたから…………)

純粋な夢を散々笑われ、改めてバカと認識されてしまう智ちゃん。
しょうらいのゆめ=あいしーぴーおーという構図ができあがり、
彼女のバカは誰もが認めるところとなりました。

そしてこの日から、 「智ちゃん」 はバカの代名詞として用いられるようになったのです。

嗚呼、可哀相…………

365 :名無しさんちゃうねん :2003/07/25(金) 13:44 ID:???
>>364
「大とうりょう」を「大棟梁」とかにすると更に面白いかも。
暦「ギャハハ、こいつ大工にでもなるつもりかよ」
歩「ともちゃんこの字なんて読むのん?」
ちよ「とうりょうを誤変換したんですか?ともちゃんバグってますね」

366 :半開きの傘 :2003/07/25(金) 13:46 ID:???
(アニメ 運動会)

体育祭の日が近づいてきました。
ゆかり先生のクラスどんな汚い手をつかっても勝利を収めなければなりません。
3組には榊さんや水原さん、千尋さんをはじめとする運動神経抜群の選手が
あつまっているのまず優勝できるでしょう。 ですが、一つ問題があります。

「でも足をひっぱるのがいるな…………」

暦さんの声に、クラスメートが一斉に智ちゃんを振り返ります。
智 「ふぇっ?」
大阪「ともちゃん、体育大会の日欠席してくれへんか?」
よみ「お前が来るとクラス順位が落ちるんだよ。 榊が代走すれば優勝できるのに」
ちよ「わたしたちのために、休んでほしいです……」
カオリン「いっそのこと学校来れなくしちゃおっか?」
千尋「さんせー」  
その声を合図に、智ちゃんを囲みかかる暦さんたち。
床に押し倒されたともちゃんは、5人がかりで殴る、蹴るの暴行をうけます。
明らかに運動神経ならちよちゃんや大阪さんのほうが劣っているのですが、
それを気にしたらおわりです。 彼女たちはただ殴る理由がほしいのだけなのですから。
残酷だと思ってはいけません。 実際、智ちゃんを殴るとせーせーするのですから。
バキッ、ゴスッ、ドカッ…………
(いたい、いたいよ…………助けて…………)

袋たたきに遭う智ちゃん。 やさしい筈の榊さんも、今は人陰に隠れ含み笑いを
うかべています。 「ひぐぅ………」 ついに口から血を吐いて失神してしまう智ちゃん
もはや彼女を助けてあげる人などどこにもいないのでしょうか。

嗚呼、可哀相…………

367 :名無しさんちゃうねん :2003/07/26(土) 20:58 ID:???
それなりにワラタ

368 :かさ :2003/07/31(木) 08:29 ID:???
長い上まとまりがないレスを掲載したことに深く謝罪。
スリムアップをこころみるテスト。


(5)体育祭1

とも(どうしよう…………私のせいで負けたら……)
目に涙をためる智ちゃん。 その肩がそっとたたかれました。
とも「! 榊さん」
榊「…………」

とも(もしかして、榊さんは励ましてくれるのかな……)
榊「今からでも遅くない。 早退しろ」


榊さんにそういわれ、智ちゃんは大変なショックをうけてしまいます。 まあどうせ
体育祭でも足をひっぱって苛められるであろう智ちゃん。そんな未来を見透かした
榊さんの一言が、智ちゃんの心に深く突き刺さります。

うう………わたしなんて…………怪我して早退しちゃえばいいんだ……

自分を責める智ちゃん。 他の人が苛める前に、自分で自分をいじめて何になるというのでしょう。 嗚呼、可哀相

369 :かさ :2003/07/31(木) 08:30 ID:???
(6)体育祭2

『滝野、今からでも遅くない。 早退しろ』
倉庫の陰で一部始終をきいていたかおりんは、 榊さんへのご奉仕としてある強攻策に
でます。 なんと、智ちゃんを部室に連れ込み監禁し半殺しの暴行を加えてしまうのです。
涙を飲みつつ殴るかおりんですが、やっているうちに楽しくなってしまいました。
蹴られ殴られる智ちゃんは 意識が朦朧としていきます。

かおりん「ああ、榊さ〜ん、榊さんのために頑張りますから」
〃   「榊さん、…………さかきさぁん、(´Д`)ハァハァ」
〃   「智! 榊さんの活躍を見るため、アンタには死んでもらうわよ」
〃   「ああ、目に浮かぶわ、たなびく黒髪、白い足………もう、何だってできる!」
すっかり興奮してしまったかおりん。 こうなった彼女はもう誰にも止められません。
智ちゃんはとっくに気を失っているのですが。 智ちゃんのつややかな肌が傷つけられていきます。
嗚呼、可哀相…………

370 :かさ :2003/07/31(木) 08:30 ID:???
(7)ゴキブリ騒動

授業中にゴキブリが発生。 誰かがかん高い悲鳴を上げます。
「うわぁーゴキブリだー!」 「キャー、こ、こっちくるー」 「誰か退治しろ!」
映画さながらの大混乱に包まれる教室。 そんな中 場を収集せんとする一人の英雄があらわれました
「まかせて!」
最近めっきり出番のなくなった千尋さんです。 手に教科書をもち、普段目立たない分ここぞとばかりに
はりきっています。 いま、ぶりっ子の入った掛け声とともに教科書が振り下ろされました。
バンッッ!

こうして見事ゴキブリは退治され、教室はもとの穏やかさを取り戻したのです。
嗚呼、よかったね

371 :かさ :2003/07/31(木) 08:33 ID:???
千尋「ゴメン、智の教科書使っちゃった♡」
智(!)
ゴキブリの体液がねっとりとこびりついた、異臭のする教科書を手渡される智ちゃん。

そんな智ちゃんに みんなからの罵声が浴びせられます。
ゆかり「ぎゃーよるんじゃねー!」
よみ 「汚ないぞ、智」
大阪 「ゴキブリテキストや〜」
カオリン「ちょっと寄らないでよ、くさいわね」
榊 「…………(ゴキブリ女。かわいくない)」

ひどい………… ひどいよ………… 千尋さん…………

智ちゃんはこれから一年、ゴキブリ付きの教科書を使わなければならないのでしょうか。
嗚呼、可哀相…………

372 :かさ :2003/07/31(木) 08:35 ID:???
 ∧||∧
(  ⌒ ヽ智ちゃんファンに頃される前に、反省の意をこめて逝ってきます
 ∪  ノ
  ∪∪

373 :なも ◆v4K6TB303w :2003/07/31(木) 09:59 ID:???
     ||
   ∧||∧
  (  ⌒ ヽ
   ∪ ノ
    ∩∪∩
    (・∀・| | ウヒョー
     |. |
   ⊂⊂____ノ

374 :なも ◆v4K6TB303w :2003/07/31(木) 10:06 ID:???
 ∧||∧     ∧||∧
(  ⌒ ヽ   (  ⌒ ヽつ ズレタ…一緒に吊ってくる…。
 ∪  ノ    ∪  ノ
  ∪∪     ∪∪

375 :名無しさんちゃうねん :2003/07/31(木) 12:14 ID:???
>>372-374
何をやっとるんだ、あんたらは。

376 :名無しさんちゃうねん :2003/08/04(月) 14:24 ID:???
>>352-358
続キボン。

377 :名無しさんちゃうねん :2003/08/04(月) 21:37 ID:???
漏れもキボン!

378 :名無しさんちゃうねん :2003/08/04(月) 22:14 ID:???
折れもボキン!

379 :ケンドロス :2003/08/04(月) 23:22 ID:???
俺も

380 :名無しさんちゃうねん :2003/08/06(水) 00:12 ID:???
come on!
come on!

381 :名無しさんちゃうねん :2003/08/08(金) 16:52 ID:???
集え

382 :名無しさんちゃうねん :2003/08/09(土) 20:56 ID:???
智チャンより滝野さんのほうがいいなぁ

383 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/08/11(月) 21:03 ID:???
書いたままほっといてすみません。
土日にはなんとか頑張ります

384 :名無しさんちゃうねん :2003/08/12(火) 02:06 ID:???
私的には智ちゃん可哀想シリーズの続きもお願い申し上げたい所存

385 :名無しさんちゃうねん :2003/08/14(木) 19:47 ID:???
がんばれー
 負けるなー

386 :名無しさんちゃうねん :2003/08/17(日) 08:13 ID:???
>>384 禿同

387 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/08/17(日) 19:18 ID:???
 私の名前は、滝野智。病院で目を覚ましたときには、
そのことすら覚えていなかった。病院での味気ない食事を終えて
一人になると、今日会った人達の事を思い出していた。

 神楽さん。
笑ったり、困った顔や悲しい顔をしたりと、感情の通りに次々と表情を変える人。
始めに私に呼びかけ、近づいて来たときにはとびきりの笑顔。
私が戸惑っていると次に、どうしたら良いのか分からないといった困った顔。
そして最後に、今にも泣き出しそうな悲しい顔。
彼女にとっては私の無事を喜ぶつもりでここに来たはずなのに、
とてもがっかりさせてしまったようで、本当に申し訳ない。

 水原さん。
私と彼女は小学校からの同級生だそうだ。
今日来てくれたメンバーの中では一番私をよく知っている人で、
現在の状況での彼女の存在はとてもありがたい。
突然のことで今日のところは何も聞けなかったけれど、
明日になったら色々とたずねてみようと思う。

 春日さん。
大阪さん、で良いのだろうか?
私がつけたあだ名らしい。まさかとは思うが、大阪の人だから「大阪」なんだろうか?
おっとりして見える彼女だったが、「春日さん」と呼びかけた時の反応は、少し怒って
いるようにさえ見えた。知らないこととはいえ(知らないこと自体が問題なわけだが)
彼女には悪いことをしてしまった。

388 :Mizuma ◆ICPOMk2.Mg :2003/08/17(日) 19:54 ID:???
 ちよちゃん。
可愛らしい小さな女の子。
私に記憶が無い事をあらかじめ水原さん達に聞いてきたみたいだったが、
やはり私が彼女を知らないことを伝えるとショックを隠せない様子だった。
始めは沈んだ顔をしていたけれど、それでも健気にこう言ってくれた。
「大丈夫です、ともちゃんは絶対思い出せます!命かけます!」
 体全体を使って、精一杯私を励まそうとしてくれているのがよく分かった。
とても、いい子だなあ。

 榊さん。
背の高い、やさしい目をした人だった。
「心配ない…大丈夫だから…」
 私の髪を撫で付けながらそう言ってくれた。そうしていると、ぼーっとなって
何かを思い出しそうになった。
─そうだ、おかあさん。榊さんと一緒に居るとお母さんのイメージが湧いてくる。
私の親とは水原さんがなんとか連絡つけてくれると言ってくれていたので、
もうじき会えるとは思うけれど、今は顔も思い出せない。
どんな人だろう、榊さんのような優しい人だと良いのだけれど。

─コンコン。
「入るわよー」
ガチャ。
病室の扉を開けて、一人の女の人が入ってきた。
「とーもー。大丈夫かぁー?」
そう言ってこちらに歩いてくる。この人は…?ひょっとして…!
「あ、あの…お、お母さん?」
─瞬間。
「だっ!誰がお母さんかぁあああーーー!」

389 :名無しさんちゃうねん :2003/08/18(月) 10:23 ID:???
記憶をなくしてもボケは変わらないんですね。
続きに期待!

390 :389 :2003/08/18(月) 10:29 ID:???
ちょっと思いついた記憶喪失小ネタ。


神楽「おぼえてない… おぼえてないね」
榊 「うん…」


……記憶喪失ネタじゃねえし。

391 :ネコ物語 :2003/08/18(月) 13:38 ID:???
かみネコ視点でSSを作ってみるテスト。
荒削りで、オリジナルの部分も多々ありますが、なにとぞご勘弁を。

392 :ネコ物語 :2003/08/18(月) 13:49 ID:???
『吾輩は猫である。まだ名は無い』
 どこかの子供がそんな言葉を言っていた。かなりうろ覚えだが。
 小説かなにかの一文らしいが、まぁ、実際、それは嘘だ。いくら野良猫といえど、
名前くらいは持っている。もちろん人間につけられた名前ではない名前が。
 よく俺を触りに来る女―――榊といったか―――は、俺のことを勝手にかみネコと呼びやがる。
 どうやら人間に対して、俺たちの言葉は通じないらしい。あいつらの言葉は
俺たちネコにはわかるのに・・・不便なもんだ。
 もちろん、俺の名前はかみネコなどでは断じてない。
 俺は仲間内からはグレーと呼ばれていた。毛の色がグレーだかららしい。月並みだが、
なかなかいい名前だと自分では思っている。それをかみネコなどと呼びやがって、
あの女め。
 そう考えていた刹那、人間の気配と匂い。嗅覚は犬のほうが遥かにいいと聞くが、
ネコだって悪くは無い。人間の匂いくらいは楽に判別できる。
 かすかに殺気に似たものも感じられる。結論は一つ、榊だ。
 逃げようと思えば簡単に逃げられる。だが、できるだけ近くまでおびき寄せ、
噛み付く。神楽だか言う女が一緒にいるとひどい目にあったことがあるが、
今日は運良くいないらしかった。

393 :ネコ物語 :2003/08/18(月) 13:55 ID:???
 いまだ!
 心の中でそう叫び、女が伸ばした手に噛み付く。歯が女の手に食い込み、
少しばかり血の味がした。
 苦痛に顔をゆがませながらも、女は俺の頭をなでようとしてくる。いろいろな意味で、
すごい執念とは思うが・・・。
 もう片方の手が近寄ってきたのを確認すると、きびすを返して塀の上を走り去る。
 遥か後方には女の姿があった。
「なんでいっつも噛み付くんですか?」
 今の出来事を見ていたのだろう。黒いネコが声をかけてきた。見覚えがある顔。
名前は確か・・・クロといったか。
 こちらも俺と同じような名前のつき方なのだと、ふと思う。
「何のことだ?」
 即答し、はぐらかす。
「とぼけないで下さい。あの髪の長い女性のことですよ」
 厳しい追及の言葉がクロの口から発せられる。
「・・・それなら、お前は憎くないのか?」
 無意識だった。無意識に出た言葉が、それだった。

394 :ネコ :2003/08/18(月) 14:31 ID:???
これから続きますが・・・どうなんでしょうね?
本当にかみネコ、なんて呼ばれているわけでもないでしょうし、
第一グレーとかクロなんていい加減すぎたかも・・・と後悔気味。

395 :名無しさんちゃうねん :2003/08/19(火) 00:58 ID:???
一人ずつ抱きしめてキスしてやりたいぜ
がんばれ!

396 :ネコ物語 :2003/08/21(木) 12:30 ID:???
「俺は人間の都合で、生まれてすぐに捨てられた。お前だって、色が黒いってだけで、
忌み嫌われてきたじゃねぇか。それで、人間を憎まずにいられるのか?」
 自分自身では全くといっていいほどわからなかったが、このときの口調は、
とても憎憎しげな口調で今の言葉を言ったのだろう。クロの表情から。
それとなく感じた。
「そりゃあ、人間を心の底から好き、全く憎んでいないって言ったらウソになる。
それでもグレーは、あの人に強く当たりすぎだよ!あの人は何もしてないでしょ?」
 クロが、訴えるように言ってきた。一歩も引き下がるつもりなどないらしい。
 俺とクロとの間に、火花が散ったように見えた。
「俺を飼ってた奴らと、同じ臭いがするんだよ。魚みたいな臭いが、な」
 少し自虐的に笑い、塀の上に上った。下でクロがなにか言ってくるが、
気にしない。
「人間なんか、大嫌いだ」
 俺はそういっていた。

397 :ネコ物語 :2003/08/21(木) 12:39 ID:???
 それから数週間が過ぎた。
 いなくなったボスの変わりに、俺がボスになった。
 いつものように、いつもの道路を渡る。ボスになったことで浮かれていたのだろうか、
それともいつも渡っているので安心しきっていたのか。右から来る車に、
気がつかないままだった。
 車はスピードを落とそうとはしない。俺の姿が見えないからか、
はたまた俺のような野良猫の命など、どうなってもいいと思っているのだろうか。
 反射的に体が動く。が、間に合わない。
 次の瞬間、感じたものは痛み。体中が軋むような痛み。
 周りの人間が、俺を囲んでみている。だが、助けようとはとはだれもしない。
わかり切っていたことだ。
 類先日起こった出来事が、走馬灯のように思い出される。

398 :ネコ物語 :2003/08/21(木) 12:50 ID:???
 下校途中のあの女と、そのクラスメートのちよだかいう女を、
部下と一緒に追い詰めたときだ。
 いきなり、目の前に何かが立ちはだかった。自分たちの似たような外見だったが、
全てが少し違っていた。
「お前ら、この人に手ぇ出したら、承知しねぇぞ!」
 体中の毛を逆立てて、敵意をむき出しにしている自分たちの前にいる動物、
イリオモテヤマネコはそういった。
 思わずひるみそうになったが、こらえて言い返す。
「お前みたいな種族が、なんでこんなところにいる?それに、
お前らだって人間のせいで絶滅しそうなんだろ?なんで人間を庇う?」
 警戒しつつ、俺は尋ねた。俺が話している最中も、
相手の雰囲気は変わらなかった。
「そんなこと関係ない。この人は、誰よりもやさしい。それだけで十分だ。
さぁ、早くこの場から消えろ!」

399 :ネコ物語 :2003/08/21(木) 12:54 ID:???
 敵意にくわえて、殺意が言葉に混じってくる。
「ちっ。おい!逃げるぞ!」
 大声を上げると、部下はいっせいにばらばらになる。
 すぐに俺の視界から、女達とイリオモテヤマネコは消え去った。

 最後の最後まで、あのイリオモテヤマネコは敵意を消さなかったな。
それほどまでにあの女たちを護りたいのだろう。
『この人は誰よりもやさしい』か。いいモンだな。
 視界がぼやけていく。体中が痛い。
「大丈夫か!?」
 聞きなれた声が聞こえた。

400 :ネコ物語 :2003/08/21(木) 12:56 ID:???
一応ここまで、ということで。

っていうか、かみネコ妙に博識!(汗(苦笑
さて、マターリペースで逝きたいです。
でも無理かもしれませんね。

401 :名無しさんちゃうねん :2003/08/21(木) 16:36 ID:???
お、いい感じになってきましたね。
続きに期待してますよ。

>っていうか、かみネコ妙に博識!
こういうのって動物を主観にした話における永遠の課題ですよね。

402 :名無しさんちゃうねん :2003/08/21(木) 23:01 ID:???
>>400
折れも続きに期待してます。

> っていうか、かみネコ妙に博識!(汗(苦笑

ネコは童話や民話でも知恵ある気まぐれ者として描かれることが多い。
だから普通なんだよ、ニガワラすることじゃない(w

今後、マヤーと再び会話する場面とかあるといいな、とリクエストしたりしてみるテスト。

403 :名無しさんちゃうねん :2003/08/25(月) 22:42 ID:???
期待アゲ・・・・・・すると怒られるので、期待サゲ♪

404 :名無しさんちゃうねん :2003/08/25(月) 23:15 ID:???
記憶喪失の続ききぼんぬ

405 :名無しさんちゃうねん :2003/08/26(火) 01:12 ID:???
大阪父が、物体ぶらさげて大行進の続きがよみてぇ〜

406 :さかちー :2003/08/26(火) 02:49 ID:???
>>405
それって「控え室」の方では?

407 :ネコ物語 :2003/08/26(火) 20:08 ID:???
聞きなれた声の主である榊の姿が、かすんだ視界の向こうにわずかばかり見える。
だが、姿がはっきりと定まらない。隣に誰かがいる。ツインテールで、
小さい・・・・。ちよ、か・・・。
 榊はおもむろに俺の体を持ち上げ、走り出す。
 くそっ!俺に触るんじゃねぇ!
 いつものように噛み付こうとするが、体が動かない。代わりに、
痛みだけが体中を貫く。
 だんだんと意識が暗闇に落ちていく中で、『絶対に助けてやる』という言葉だけが
俺の耳に届いていた。

 気がつくと、そこは柔らかい布の上だった。
 体中はまだ痛い。それこそ動かせないくらいに。視界が霞んでいないということは、
体調が少しは回復したということだろうか。
 キィ・・・。
 ドアが開いた。このとき初めて俺はここがどこかの一室ということに気がついた。
「ほれ、起きたみたいじゃ」

408 :ネコ物語 :2003/08/26(火) 20:14 ID:???
 白髪白ヒゲの白衣を着たじいさんが顔を出し、俺を指差した。続いて、
榊とちよがこちらを覗き込む。
 二人はなにか礼をいい、俺の体を抱き上げる。
 必死に名手抵抗しようとするが、体中が痛くてそれどころではない。
 榊は俺を抱きかかえたまま、ちよと一緒に歩く。二人は並びながら、
俺の体調や怪我などについて話し合っていた。
「大丈夫ですかねぇ?かみネコさん。」
「・・・大丈夫。絶対に、大丈夫。」
 榊は俺の顔を見ながら言った。
 気がつけば、俺の目の前には大きな家があった。とても大きな家。
豪邸である。
 表札には『美浜』と書かれている。どうやらここがちよの家らしい。
これには流石の俺も驚きを隠せなかった。
 そのまま、門を空けて家の中へ入っていく。途中では大きな白い犬が、
こちらをじっと見ていたことが気がかりだった。

409 :ネコ物語 :2003/08/26(火) 20:24 ID:???
 榊は俺をタオルを敷いたダンボールの中へ置き、
ちよと一緒にどこか―――まぁたぶん台所だろう―――に消えた。
「ザマァねぇな。」
聞き覚えのある声。そう、忘れもしない、あのイリオモテヤマネコの声だった。
 はっとして振り向くと、矢張りそこにはイリオモテヤマネコがいた。
「お前、どうしたんだ?」
 答えない。無視して体を丸くする。
 榊とちよが、こちらの部屋に戻ってくる。
「マヤー、今日は榊さんが泊まりますからね。かみネコさん、怪我してますから
仲良くしてくださいよ?」
 ちよの口から出た言葉に、思わず自分の耳を疑う。
 冗談じゃねぇ!榊と、さらにあのイリオモテヤマネコの野郎と一晩一緒だって!?
 イリオモテヤマネコ―――マヤーという名前らしい―――は、
とても嬉しそうな表情をしていた。それほどまでにあの榊と一緒にいたいのだろう。

410 :ネコ物語 :2003/08/26(火) 20:29 ID:???
「ま、そういうことらしい。お前も怪我してるんだから、
少しは養生したほうがいいんじゃねぇか?もう気がついているとは思うが、
お前を助けたのは俺の主人の榊さんと、友達のちよちゃんだ。一度礼くらい、
言っておきな。」
 顔は榊のほうに向けたまま、マヤーが言った。言い返そうとは思ったが、
全てがあいつのいうとおりなので、何も言うことが出来ない。第一、
怪我のせいで満足に動くこともできないので、養生しているしかないというのも
また事実である。
 俺は観念し、目を瞑った。病院で寝てはいたが、詳しく言うと、
あれは寝ていたではなく気絶していただ。それに疲れもたまっていたので、
大分眠かった。
 ゆっくりと、俺はまどろみの中へ落ちていった。

411 :ネコ物語 :2003/08/26(火) 20:31 ID:???
今回はここまでです。
>>402
>今後、マヤーと再び会話する場面とかあるといいな、とリクエストしたりしてみるテスト。
リクエストを受けてみる、というテスト。

あと一回か二回投稿して終わるかと思われ。

412 :ネコ物語 :2003/08/30(土) 17:30 ID:???
 夜中に、目が覚めた。あたりは真っ暗だったが、
ネコにはそんなこと関係ないのでよく見通すことが出来る。
 ふと、体が動くことに気がついた。体力が回復すると共に傷も癒えたのだろうか。
まぁ理由などはどうでもよかった。ただ、体が動くのであれば、
この家からさっさとオサラバすることができるのだ。
 俺はダンボールの中から飛び出す。
「行くのか?」
 不意に声がかかった。マヤーだ。
「ああ。これ以上人間なんかと一緒にいたくないんでな。」
 振り向かずに答える。相手が今どんな表情をしているのか、全くわからない。
「そうか。俺には野良猫の気持ちなど分からないが・・・
人間というのはいいものだぞ。少なくとも、榊さんとちよちゃんは、な。」
 マヤーが発した言葉を、一つ一つ吟味していく。
「そうか。俺には飼い猫の気持ちなど分からないが・・・
少なくとも、お前は幸せそうだな。」
 言葉を真似て、言い返す。多分、このとき、おれは笑っていたのだと思う。
 俺は空いている小窓を見つけると、真夜中の外へと飛び出していった。

413 :ネコ物語 :2003/08/30(土) 17:33 ID:???
 数週間後。
 俺の目の前には、矢張りとでも言うべきなのだろうか、榊がいる。ゆっくりと、
毎度おなじみの行動で、俺の頭をなでようとしてくる。
 俺は榊の手に噛み付―――かなかった。
 榊の手が俺の頭に触れ、恐る恐るなでていく。嬉しさのあまりか、
少しばかり呆けているように思えた。
「ったく・・・助けてもらった礼だ」
 言葉が通じないのを承知でいう。この言葉は、本当に榊に対して言った言葉か、
それとも、自分自身に言った言葉か。
 答えは、わからなかった。
 マヤーが、「ほら、人間っていいもんだろ?」と笑っているような、
そんな気がした。

END

414 :ネコ物語 :2003/08/30(土) 17:36 ID:???
あ〜終わりました。
次回はどうしようか・・・。
よみさんがでてくるSSってよみともしか見かけないから、
よみさんで恋愛物でも書いてみようかな・・・。
若しくはちよちゃんで・・・。

少なくとも恋愛物にチャレンジしたいと思ふ、今日この頃。

415 :名無しさんちゃうねん :2003/08/30(土) 20:54 ID:???
ネコ物語、乙かれ〜。
マターリとしていい話でした。やや展開がありきたりな感もありましたが。

>そうか。俺には野良猫の気持ちなど分からないが・・・
・・・・・・って、マヤー。あんた野良どころか野生猫だったクセに(w

416 :ネコ物語 :2003/08/31(日) 05:47 ID:???
>やや展開がありきたりな感もありましたが

うーむ、そうですか・・・ありきたりですか・・・・。
マヤーのセリフは置いといてくださいと願ってみる。

417 :名無しさんちゃうねん :2003/09/07(日) 00:43 ID:???
器本

418 :名無しさんちゃうねん :2003/09/11(木) 12:46 ID:???
智の処女喪失SSの続きキボンヌ〜

419 :名無しさんちゃうねん :2003/09/12(金) 06:16 ID:1b92vc.2
どっかのスレだかは忘れたんだが、
あずまんがバトルロワイアルをやってみたら面白そうだなという書き込みがあった。
それで、それをしようとか考えてはいるのだが、
これをネタで許してくれるのだろうか?という疑問があったりする。
そこのところはどうなのだろうか?
意見を聞きたいので、返事をくれたら嬉しい。

あずまんがバトルロワイアル、面白そうだなと思った同士はいないかな?

ついでにageとく。

420 :名無しさんちゃうねん :2003/09/12(金) 06:21 ID:???
>>419
この辺でやってみればいいのでは?

一行小説リレー「あずまんがバトルロワイヤル」
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/038927164/
あずまんが漂流教室ってどんなストーリー?
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/034479650/

421 :名無しさんちゃうねん :2003/09/14(日) 18:48 ID:???
修学旅行で食中毒事件発生!!なSSキボンヌ

422 :名無しさんちゃうねん :2003/09/14(日) 19:22 ID:???
>>421
ここはキボンヌスレではないが、断る。

423 :名無しさんちゃうねん :2003/09/14(日) 22:32 ID:???
>>421
それはどう面白い話に持っていくのか至難の技だな
書きゃいいってもんじゃないからな

424 :名無しさんちゃうねん :2003/09/14(日) 23:51 ID:???
>>421はスカトロマニアですじょ!

425 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

426 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

427 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

428 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

429 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

430 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

431 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

432 :へーちょ :へーちょ
へーちょ

433 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:39 ID:???
うーむ…久しぶりにあずまんがだけのSSを書いたからうpしに来たけど、
残念ながら食中毒ネタじゃないなぁ…(;´ー`)スモソ。

とりあえず暇つぶしにでもどうぞです。

434 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:39 ID:???
【冬とハワイと別荘と…】

暖かい日差しが恋しくなる季節、冬。

季節風でもある空風が街を通り過ぎるたび、人々は寒さに身体を縮こまらせては夏を懐かしんだ。<br>
学校を目指して住宅街を歩く女性とて例外ではなく、寒そうに身体を縮こまらせたあと、隣を歩
いている連れらしき女性に捲し立てた。

「さむっ!!どうしてこんなに寒いのよ!?」

そんな相手の態度が日常茶飯事なのか、ロングヘアーの女性は素晴らしいタイミングで返事した。

「1月だからだろう」「うー でも、1月でも暖かいところはあるよね!?」
「ああそうだな」「差別だ―!」「それは違うだろ…」

あきれた様子の友人をよそにタコさんウィンナーにも似た愛くるしい髪形の女性はしばし考え込
んでいたが、やがて人差し指をぴんと伸ばすと連れの友人に提案した。

「そうだ!よみ、今からハワイ行こう!ハワイ」「寝言は寝て言え」
「だってさー ハワイだったらあったかいじゃん!ね、行こうよー」
「…学校はどうするんだ?」「ハワイの学校に通う!」「ハワイは英語が使えないと無理…」

その後も学校に着くまで常夏の国が二人の間を行き来していた。

「おはよう」「ちよちゃんに榊ちゃん、おっはよー!」
「あ、よみさん、それにともちゃんおはようございます!」「…おはよう」

SHRまでゆとりがあるせいか教室はまだらに埋まっており、学生達はそれぞれのグループで雑
談をしていた。学校に着いたよみと智も一年からの友人であるちよと榊に近づいていった。

「今日も寒いですねー」「そだな。お、ちよちゃんのペン可愛いな」

よみはちよの机に置いてあったねここねこのキャップが着いているカラーペンを手に取って眺め
た。よみに褒められてちよのおさげが嬉しそうにぴょんと動いた…感じがした。

「えへへー それはですね、駅前の…なんですよ…」「へー…今度…」
「ね、榊ちゃん 私と一緒にハワイに行かない?」

唐突に智の口から出た単語に思わず榊は聞きなおした。

「…ハワイ?」「そ!ハワイ!常夏の国で勉強しよう!」「え、えっと…」
「おーい榊、バカの相手なんかするとおまえもバカになるからやめとけやめとけ」

435 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:40 ID:???
ずいっと近づいて返事を求める智。返事に困った榊が目を白黒させていた時、教室の扉からショ
ートカットの女性が左右に手を振りながら二人に近づいて行った。

「出たな勝負バカ!」「なんだとー この本物のバカ!」
「神楽の方がバカだもーん 神楽さんはこの前のテスト何点でしたっけ?」

途端に顔を真っ赤にして神楽は智に食いついた。

「う、うるさい!それにおまえだって私と2点しか変わらないだろ!」
「2点でも私の勝ちだもーん」「ぐっ…」「バーカバーカ」「ぐぐっ…」「あの、その…」
「どっちもどっちだろう…」「あ、あはは」

よみの適切な表現にちよは肯定とも否定とも言えない引きつった笑顔になった。榊は榊で、両脇
で火花を散らしている智と神楽を止めようと両者をおろおろと見つめた。そんな二人の緊迫を打
破するいつもの頼もしい存在が教室の扉を開けた。

「神楽ちゃんにともちゃん、楽しそうやなー 私もまぜてー」
「大阪 おまえも神楽に言ってやれ!」「何て言えばいいんやー?」「バー…うー!うー!」

素早く智の口を塞いで神楽は大阪に確認した。

「大阪 おまえは友達だよな!な!」「私と神楽ちゃんは友達やでー」

大阪の言葉を合図に智が神楽の手に噛み付いたり、神楽が智の頭に拳を振り下ろしたりするいつ
ものじゃれあいが始めるのを大阪は見守りながら、今日の原因をちよに尋ねた。

「大阪さんおはようございます」「おはようさんやー」
「ちよちゃん、あの二人は何の話をしてたん?」
「え?えーっと…」「ハワイだろ」

すかさず助け舟を出してくれたよみの船にちよは乗り込むことにした。

「そ、そうです!ハワイの話です!」「ハワイかー 行ってみたいなー」

その言葉に反応し、智は神楽とのじゃれあいを中断して大阪の両手をぶんぶんと振り回した。

「やっぱそうだよなー!!よし!大阪も私と一緒にハワイに行こう!」「そやなー…」
「はーい!おまえら朝のショートホームルームの時間だよん♪」

にこやかにうなずく大阪と二年三組の担任教師である谷崎ゆかりが姿を現したのはほぼ同時であ
った。そしていつも通り学校の授業が始まった。

436 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:40 ID:???
「すぅー…すぅー…」

朝の一時はもっとも睡魔が人を誘惑する。睡魔に誘われて安らかな寝息をたてている大阪にゆか
りは、丸めた教科書を己の手に叩きつけながら怒鳴った。

「こぉら大阪!!」「ひゃ、ひゃい!?」「人の授業中に寝るな!」
「先生、私はねておらんでー…ねてません…ねてませn…ねてま…すいませんー ねてました」

次の国語の授業でつまらなそうに教科書を眺めていた智は、読めない漢字を見つけて少し離れた
席にいるにも関わらず神楽に尋ねた。

「神楽ーあのさ、この漢字何て読むの?」「おまえ、こんなのも読めねーのか?」
「そのとおり!」「自慢するなよ…それは『ただわれどくそん』だ!」
(神楽さんも間違ったこと教えてるわね…っは!そうよこの手を使えば!!)

答える神楽も神楽で、胸を張って智に間違えた答えを教えていた。二人のやりとりを苦笑しなが
らで聞いていたかおりんの目に、不意に希望の光が宿った。

「あ、あの榊さん!!」「…?」「この漢字何て読むんでしょうか!?」
「かおりん、その漢字はげん…」「シャーッ!!」

親切な千尋にかおりんは威嚇でお礼を告げた。休み時間。すべての希望が消え失せたように机に
ぐったりとうつ伏せたままかおりんは呟いた。

「はぁ…結局榊さんに聞けなかったよぅ…」「ところでかおりん、何か質問はあるかい?」
「勝手に教室に入らないでください!!それに、かおりんって呼ばないでください!!!!」

最近よく教室に響く聞くかおりんの魂の声を聞きながら、よみはちよに話しかけた。

「ちよちゃん、すまないけど、今日の宿題を見せてくれないか?」「はい、いいですよー」
「どうぞ、よみさん!…でも、よみさんが宿題を忘れるなんて珍しいですねー」
「つい、昨日のラジオに聞き入っちゃってさー…」「ラジオ、ですか?」

ラジオという単語を耳にした途端、どこからともなく智が忍び寄ってよみの前で昨日一緒に聞い
ていたラジオの内容を口にした。

「次のリクエストソングは涙の…」「うるさいバカとも!」

437 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:40 ID:???
穏やかに流れるいつもどおりの日常の時。その一瞬一瞬を彼女達はいつもどおり過ごしていった。
授業も終わり、放課後の教室から開放された学生達は徐々に姿を消していき、気がつけば、いつ
ものメンバーだけが教室に残っていた。

「うーん 今日も一日終わったー」

そんな中、智は開放感に満たされたのか、大きなあくびをした。鞄に荷物を詰めていた神楽は智
のあくびを見て今朝の仕返しとばかりに話しかけた。

「智ってさー あくびをする時すっげー変な顔になるな」

一瞬むっとした表情になった智であったがすぐに意地の悪い笑みを浮かべて反撃した。

「神楽だって胸でかいじゃん」「む、胸は関係ないだろ!」

再びトマトのように真っ赤になって胸を手で隠した神楽と離れて智は一同に、次の三連休の予定
を聞き始めた。

「ところで今度の三連休あるじゃん。みんなどうすんの?」
「私はコタツざんまいの休日の予定やー」「そっかそっかー…榊ちゃんは?」
「私は…読みたい本があるから…」「休日も読書とはさすがだな榊!」

智の言葉から立ち直った神楽が、本の苦手な自分とは全然違う榊に羨望の視線を浴びせた。もっ
とも榊が読む本は神楽がイメージするような難解な本ではなく、猫の本であったりする。それは
さておき、智は突進してきた神楽にも尋ねてみた。

「神楽は?」「部活だ!」「え!?冬もプールで塩素を拾うの?」「走るんだよ!!」
「よみさんはどうするんですかー?」「私は授業の予習復習だな。ちよちゃんはどうするんだ?」
「私ですか?私は…家の掃除でもしようと考えています!」

智は自分だけ予定がないので不満げに口をふくらませた。

「何だよー みんな遊ぼうよー ハワイに行こうよー」
「こんな寒い中で遊ぶのか?」
「むー」

438 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:40 ID:???
よみの言葉に難しい顔をして智は黙り込んだ。口を閉じた智に代わって大阪が一同にナイスプラ
ンを提案した。

「ほなら、ちよちゃんの別荘で遊べばいいんちゃう?」「お、大阪…あったまいいー!!」

素直に感嘆の声をあげた智に神楽が尋ねた。

「でも、3日間も何すんだよ」「うーん…トランプ!」
「却下。ちよちゃんもそう思うよな?」「ちよちゃんはそう思わないよね!?」

智の回答はあっけなくよみの前に散った。振り返ったよみと智はちよに同意を求めた。ところが
不思議なくらいにちよはにこにこしながら隠し技を出した。

「大丈夫です!実は別荘の近くに景色がとってもきれいなスキー場があるんです!」
「スキー場だとーー!!ちよすけそれホントなの!?」

どこから聞きつけたのかゆかりはちよの身体を乱暴にゆすった。衝撃に目をまわしながらもちよ
は律儀にゆかりも誘った。

「は、はいー…良かったらゆかり先生も一緒に行きませんか?」
「よっしゃーー!腕が鳴るわー!にゃもに教えてくるね!」

風と共に去っていったゆかりの行動力に一同はしばし呆然としていたが、やがて恐ろしい予感に
気がついた大阪がぽつりと告げた。

「ジャンケン負けられへん…」

かたかたと震えだすちよの身体の音だけが、教室を満たして静かに消えていった…

439 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/16(火) 05:42 ID:???
しまた。いつもの癖で無駄に横に長くしてしまった…_| ̄|○

ま、愛嬌ということで勘弁してください。
これからもこのスレが発展することを影からこっそり見守っていますヾ(´ー`)ノ

440 :名無しさんちゃうねん :2003/09/16(火) 06:15 ID:???
>>434-438
お疲れ様です。
ちよちゃんにとってはハワイの方が幸せだったかも……。

441 :名無しさんちゃうねん :2003/09/17(水) 00:07 ID:???
ただわれどくそんって…
いくら何でもそんなやつ大学行けるかよ。
世の中なめとんか。

442 :うちゅー ◆ZzAZUxozdw :2003/09/17(水) 18:00 ID:???
>>441
元はギャグ漫画やでー
それゆーたら「くさび」の大ボケかました大阪が
大学に受かる道理ものーなってまうやん。

443 :◆f.SwudF.K6 :2003/09/17(水) 21:35 ID:???
>>441
そうか…高校の頃にこんな間違いをしたことがあるのは俺だけか…
_| ̄|○

444 :名無しさんちゃうねん :2003/09/17(水) 21:41 ID:???
神楽「ちょっと聞いていいか?唯我独尊はいいとして…我孫子をガソンシって
 読んじゃうのはありがちだよな?」

445 :紅茶菜月 ◆5xcwYYpqtk :2003/09/20(土) 01:55 ID:???
>>443
特に、気にすることもないのでは?
読み方が分からない言葉なんて、人によって違うから。

446 :告知 :2003/09/21(日) 04:08 ID:???
ラウンジに新スレが立ちました。

SS書きの編集会議室
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/azuentrance/1064083852

作品を作る上での相談や、その他SS関係の雑談などに、
お気軽にご利用ください。
(「SS書きの控え室」よりもさらに軽く話し合える、
 「雑談スレのSS書き版」といった位置づけで考えています)

447 :名無しさんちゃうねん :2003/09/22(月) 00:55 ID:???
まだまだ物足りないぜ

448 :うちゅー ◆ZzAZUxozdw :2003/10/01(水) 00:27 ID:???
パソコン整理してたらこんなの出てきた。
たぶんラウンジの雑談で即興したやつなので、
SS発表スレではまとまってはないと思う……

449 : :2003/10/01(水) 00:28 ID:???
真相 (創作+原作3巻85P)

 年末年始の休みを利用して、よみは北海道に来ていた。
「……なぜ?」
 目の前で牛が枯草をはんでいる。
 糞尿の臭さが鼻をつく。
「なぜ私が!」
 スキを持ち上げて叫んだ直後、まきあげた枯草にくすぐられた牛のくしゃみをまともに受けた。

「どーしたんべメガネなんが真っ白にしてぇ?」
 尋ねたのはメガネをかけた老婆である。
「……いや、ちょっと」
「さっさど洗ってこい」
「はい」
 沈んだ気持ちで洗面所に行く。メガネを取り、顔を洗う。顔をタオルで拭き、さらにメガネを拭きながら鏡に映る自分を見つめる。
「うう……なんでこんなことに?」

 本当ならこの顔は今頃笑みにたっぷりと彩られていたはずだ。それがなぜ、田舎で牛と牛と牛と牛と……
「キー!」
「うるせーよ、よみちん」
「いてっ」
 頭を小突かれた。
「叔父さん」
 振り向くと、やはりメガネをかけた男がいた。
「あんだー、もう終わったんだべ?」
「はい」
「東京住んどると要領がよぐなるんだな」

450 : :2003/10/01(水) 00:28 ID:a.bRnuRE
 叔父さんはげらげら笑いながら去ってゆく。よみはさらに命じられた仕事を色々とこなしてゆく。
「よぐ働くなー」
「力もある、みんな正月休みでいなくなって、助かるわー」
 入れ違いに2匹のメガネ唐変木が笑って話しかけてくる。牧場の息子どもだが、肉の食い過ぎでちょっと体重がありすぎる。
(……父さんに騙された!)
 温泉、かわいいキタキツネ、おいしい料理――
(騙された! 騙された!)
 かっこよくなったという従兄弟たち――
(本当は働き手が欲しかっただけじゃないか!)
 晩になると全員で食卓を囲む。全員がメガネをかけている。
 ペットの猫まで目の周囲がメガネ柄だ。
「ザ・メガネ一族!」
 よみは溜まらず叫ぶと、粉雪降る外へと走り出た!

 牧場の周囲は真っ暗だ。街灯もない。田舎田舎、ど田舎だ。
「キツネ……温泉……かっこいい男の子……おいしい料理……」
 いつのまにか道に迷っていた。
(しまった!)
 もしかして追いかけてくれると、秘かに期待していたのかも知れない。
(いや、あいつらに限ってそれはない!)
 よみはなんとなく想像してみた。

『あれー、よみちゃん出ていったべ』
『きっとこの鍋が美味しがったんだー』
 そしてまた黙々と食べ始めるメガネども――

451 : :2003/10/01(水) 00:28 ID:a.bRnuRE
 そういえば、牛舎の牛たちもなぜか多くが目の回りが……
「メガネいやー!」
 よみはメガネを取って、思わず暗闇に投げてしまった。
 メガネはたちまち雪に吸い込まれ、消えた。地面に落ちる音はしない。当然だ、雪がすべてを吸収してしまう。
「……メガネのバカー! 北海道のバカー!」
 よみは不満を思いっきり叫んだ。すべては雪が吸い込んでくれる。誰も聞いていない――

 いつのまにかそいつはいた。
「……バカー!」
「くー」
「ば……?」
 可愛い声のしたほうに涙を拭いて向いてみると、そこに見慣れぬ動物が1匹いた。
「……なあおまえ、もしかして」
「くー」
「キタキツネ……?」
「くー」
 毛深くて小さくてもこもこしているそいつは、ゆっくりとよみの足元に来て、その側を通過したと思ったらすこし離れてまた近づき、離れて――を繰り返した。
 興味深くてしばらく観察していたが、よみはそいつが気に入った。
「エサが欲しくて、しかし媚びるのはいやで……なかなか複雑なやつだな、おまえ」
「くー」
 そいつはまた鳴いた。
「そうかそうか、ほれ、チョコレートだ」
 よみは秘かにくいしんぼなのだ! 口が寂しいときの携帯食料には事欠かない。プライドと体重が気になるので間食は適度にセーブされている。
「くー」
 そいつはおいしそうにチョコを食べた。
「そうかそうか」
 よみはそいつの頭を撫でようと思ったが、やめた。そうしてはいけない気がした。自分なら、嫌だ。だからこいつにはしない。
「なあ私に似てるきみ」
 よみはそいつに微笑みかけた。

452 : :2003/10/01(水) 00:28 ID:a.bRnuRE
「くー!」
 そのとたんだった、突然そいつが高く鳴いて、一目散に走り去ったではないか。
「……なぜ?」
 直後、雪の中からなにかの音が響いてきた。
「スノーモービル?」
 牧場に来た初日に聞いた。乗れるかと秘かに期待していたが、翌日から連日の労働で失望して今に至っている。その存在もすっかり忘れていた。
 やがて雪の中からヘッドライトの光が生まれ、スノーモービルはよみを確認するとまっすぐやってきて、すぐ側に止まった。

 男だった。手になにか筒状のものを持っている。メガネがないので良く見えない。
「おい、命は大丈夫か?」
(命が? ――どういうこと?)
「熊いなかっただ?」
 声の主を思いだした。よみを牧場まで乗せたバスの運転手だ。
「え……あの……熊?」
「親子連れの熊だべ。バカなガキが迷子の小熊を追ってしまっで、母親が怒っただ。生憎ガキは軽傷で済んだが、まだこの辺にいるはずだべ」
「うわ……」
 怖くなって震えてしまう。男が持っているのは猟銃なのだ。
「だがらおまえ、さっさとけえれ」
「でも道が」
「あちらだ」
 男が指すほうは、ぼんやりとして見えない。
「えと……あの」
「近いだ、じゃな」
 男はさっさと行ってしまった。
 まっくらな中に、よみは1人取り残された。
「あの……見えないんですけど」

453 : :2003/10/01(水) 00:29 ID:a.bRnuRE
 そのときだった、またあの声。
「くー」
 丸い獣がやってくる。
「まだいたの?」
「くー」
 その子はよみのズボンの裾に食いつくと、引っ張り出す。
「え、こちらに? あの……熊がいるんだって」
「くー」
 よくわからないが、どうも連れて行きたいところがあるらしい。
「わかった、わかったよ」
 大人しくついてゆく――数分してある木の裏につくと、そこで蠢く鼻息。音が、妙に大きい。
(なんだろう? まるで牛みたいに大きい動物の……まさか、熊!)
「ぐー」
 その動物が、大きな声で鳴いた。「くー」の大きい版だ。その変な音に、よみは沸き上がりかけていた恐怖がやわらぐのを感じていた。
「……わかったわかった、チョコあげるよ」
 よみは板チョコを取り出し、残りすべてを近くに投げた。
「ぐー」
 その大きい――おそらく熊らしいもの――はゆっくりと歩くと、チョコをむしゃむしゃと食べて「ぐふふ」とまた面白い声で鳴いた。
「そうか、美味しいか?」
「ぐふふっ」
「くー」
 小熊も親熊からチョコを貰って、美味しそうに食べている。
「よかったな……」
 ふっと、よみは自分の意識が遠のくのを感じた。
(あ……れ?)

 気が付くと、布団の中だった。
 叔父さん一家は私が牧場の前で倒れていたと言って、よかったよかった、ごめんごめんと言うばかりだった。
(……どうやら、助けられたみたいだね)
 熊の親子は、よみを運んでくれたのに違いない。

454 : :2003/10/01(水) 00:29 ID:a.bRnuRE
 その後よみの待遇は大きくかわった。もちろん主目的が労働力確保だったので仕事はしたが、いろいろと楽しい経験を出来た。充実した正月をすごし、東京に帰った。

 年明けの初登校。
 いつもの連中、いつもの時間、いつもの場所。
 心地よい。
 そんな空間を満喫し、家に帰った。
(けっきょく、熊の親子のことは言えなかったな……)
 そもそも「旅行」自体が嘘である。北海道にいた期間は1週間以上に及ぶ。真実の多くをオミットし、楽しいことしか語っていない。
(それが私らの間じゃ似合ってるからなあ)
 仲間内ではけっこういろんな話をするはずだが、なぜかみんな幸せなことしか語らない。本当はいろんな悩みとか問題とかがあるはずなのに、智からして高校にあがってからは幸せ者のふりをしているように思えてならない。
 いや、それはそれでいい。
 仮面かもしれない。虚構かもしれない。
 だが、それは皆が望んでいることなのだ。

 不文律。

 その細いバランスの上で語らい、どつき合い、楽しい思い出だけを凝縮させてゆく。
(私たちはピエロなのかも知れない――そんなのでもいい。それを望んだ者だけが自然に惹かれ合い、演じているんだから)
 演じていれば、それが真になるだろう。どうせ残るのは凝縮だけだ。

 ふとテレビをつけると、北海道で暴れ熊親子射殺のニュースが映っていた。
「あのときの……」
 小熊は助かったようだが、動物園に送られたらしい。
「…………」
 なんだかやるせない気分になってテレビを切る。

455 : :2003/10/01(水) 00:29 ID:a.bRnuRE
 あの熊は、暴れているのも真実だろう。だが、よみに見せた面も真実なのだ。表裏一体、どちらを見るかで気分も、世界も、人も、すべてが変わる。
「そう……これでいいんだ」
 よみは自然に流れ出た涙を拭った。
(なんだか拭ってばかりだな)

 よみは葉書を出して、すらすらと書き始める。
「涙のダイエット少女です。このあいだ北海道で……」
 これはメルヘンだ。おそらく採用されることはあるまい。
 だけど実際に起こったことだ――
 信じる信じないなど、誰にも求めない。
 だからせめて、文章にしておきたい。
 チョコレート好きな熊の親子のことを……

456 : :2003/10/01(水) 00:30 ID:a.bRnuRE
サル (創作)

 あるところに1匹のカエルがいた。
「げこげこ。げこげこ」
 そのカエルは実は菜食主義者だった。
 かえるは思った。
(あー、植物食べたい)
 だけどカエルは肉食だった。肉食なのに菜食主義なのは謎だ。
「げこげこ(こうなったら人間になろう)」
 そうすれば寿命が長くなるし、植物も食べられる。
 カエルは天才チヨチャンメデスのところに行った。
「あー、カエルちゃんですー。かわいいー」
 ちよちゃんは10歳だけど天才なのでギリシャで博物学者をやっている。
「げこげこ(ぼくを人間にしてください)」
「なにいってるんですかー?」
「げこげこ(人間にーーー)」

「わかりましたー。魔法で変身させてあげますよー」
「げこ(なぜに?)」
 チヨチャンメデスはいきなり魔法の(好きな名前を入れてください)を取り出すと、呪文を唱えた。
「(好きな呪文を入れてください)!」
(好きな効果を入れてください)
 カエルは見事、人間になった!
「きゃー、男の子だったんですねー。隠してくださいー」
 顔を真っ赤にする女の子を見て、素っ裸のカエル(人間版)は興奮した。
「おお! 人間に性的に興奮している! 人間になれた!」
 カエルは今まで沐浴に来た女性の裸を見てもなにもなにも感じなかった。それが今、下半身が反り立っている!
 絶倫だぞ。だけど10歳にはちょっとやばい!
「あんなー先生ー?」
 そこにちょうど、オオサカリアナが入ってきたのだ。
「うわっ! うわっ! ロリコンや、痴漢や!」

457 : :2003/10/01(水) 00:30 ID:a.bRnuRE
 カエルはやばいと思った。
(そうだ、ぼくは人間になって、植物を食べるんだった!)
 すぐに室内にあった観葉植物にがぶりつき、いきなり食べ始めた。
「この人、変態さんや」
「……元がカエルなだけに、ダメですねー」
「カエル?」
「はい、人間になりたいって私に言ってきたカエルさんですよー」
「さすがはちよちゃんや。不可能はないねんなー」
「そうです。天才なんです」
 そんな会話を横目に、カエルはあまりの不味さに食べたものを吐き出した。
「……ぶえー、苦くてまじーや」
「カエルさん、あなたはどうして人間になりたかったんですかー?」
「はい、それは――」
 カエルは理由を説明した。
「ふーん、そんでなあ、いつまでその棒を立たせてるん?」
 それはギンギンに立ったままだ。カエル自身もちょっとイヤだ。
「……なぜか縮みません」

「よし、切ったらええねん」
 オオサカはいきなりハサミを取り出した。

 じょき。

458 : :2003/10/01(水) 00:30 ID:a.bRnuRE
「ぐわあああああー!」
 辺り一面血の海だ。
「よかったなー、これで世界は平和になったでー」
「あ……ありがとうございました」
「……普通、礼なんて言わないと思いますけどー」

 こうしてカエルはカエサルとして一生を生きた。
 彼のちんちんがなかったというのは誰も知らない事実だ。

「あんなあ、ギリシャが舞台って話おかしーやん。ローマ帝国やでー?」
「……適当に書いてますからねー」

 しまった、「サル」ということでオナニーしっぱなしでそう名付けられたってほうが面白かったか。
 というわけで題名はサル(意味なし!)。

459 :楊痣 ◆5KxPTaKino :2003/10/05(日) 05:26 ID:???
お、なつかしい

460 :。。。 :2003/10/17(金) 23:02 ID:G5/cOCEU
.....

461 :名無しさんちゃうねん :2003/10/27(月) 18:57 ID:???
秋の風物詩といえば「可哀相な智ちゃん」。 ふと書き込んでみる。


いじめられっこの滝野さん。 夏休みの別荘旅行にはちゃんと連れて行ってもらえたのでしょうか?

(美浜邸前にて)
よみ「榊さんを呼んだのはちよちゃんだな」
ちよ「はい、 こないだ図書館で会ったから誘ったんです」
よみ「それはいい。 よく誘ってくれたな」

よみ「しかし誰だ! 智の馬鹿を呼んだのは!」
暦さんの一喝に、びくっと身体を縮こませる滝野さん。

とも「ごめんなさい。 やっぱりわたし、帰ったほうが……」
榊 「滝野…………、そんなことない。 滝野には来て欲しくて、私から頼んだんだ」


ちよ(よみさん、よみさん)
よみ(ん?)
ちよ(雑用と荷物持ち係が必要だって、榊さんが提案してくれたんです)

ちよ(かおりんさんがいれば、榊さんの一声でどんな重労働でも引き受けてくれるんですが、
   彼女はあいにく天文部でこれません。 それでともちゃんを)
よみ(なるほど、こいつならいいパシリになるな……)

462 :名無しさんちゃうねん :2003/10/27(月) 18:58 ID:???
よみ「あー智、悪かった。 そんなに泣くな、友達だろ? みんなで旅行なんて、あたりまえじゃないか」
とも「え………… ともだち……?」
よみ「そうだ。 高校入って以来、私たちはいつも一緒だった。 旅行に行くんならちゃんと智も呼ばなくちゃな」
とも「…………」
大阪「せやからなー、ちょっと荷物持ってくれへん?」
とも「え…………」
大阪「だめなん? ともだちやのに」
とも「う、うん、わかった。 いいよ」
榊  「私のも頼む」
暦  「レジャーシートに花火、スイカも持ってくれ」

ゆかり「智ー出発するぞー。 車のれー」
とも「は、はいっ」

ゆかり「んー、おまえらは来ないのかー?」
よみ「そっちは7人分の荷物でいっぱいですから。 私たちは黒沢先生の車でいくことにします」
ゆかり「そうかー…………チッ、せっかく私の運転テクニックをみせられると思ったんだけど」
よみ (ハハ)



嗚呼、可哀相

463 :名無しさんちゃうねん :2003/11/03(月) 21:40 ID:???
口から吐いた煙が連なるよう昇っていく。
俺は道ばたにウンコ座りしながら、ボーッそれを眺めていた。
不良、DQN、ヤン造、色々呼び名はあるが、共通するのは半端ものだということ。
俺はそんな中でもさらにしょうもない、中途半端な小僧だった。
下らない親、下らない先公、下らないダチ、そして下らない俺自身。
そんな全てに嫌気がさすとき、俺はよくここへきた。
住宅街の一角、普段あまり人も通らない妙に寂れたあたり。
ひっそりしたその隅で一人ヤニをふかすのが唯一の楽しみだった。
ところがある日、そんな俺の静かな楽しみをかき乱すやつがあらわれた。

(――あいつは確か…)
バカでかい女。同じクラスの榊とかいうやつだった。
無口で何考えているか解らない。むしろスケバンのような風格まである。
顔も悪くないしけっこうすげえ体してるんだが、そのどことなく近寄りがたい雰囲気のため、
敢えて声をかけたり、手え出そうとする野郎は皆無だった。
(何やッてんだ、あいつ?)
立ち止まって何かじっと見ている。何かと思ったら、なんのことはない、ただのネコだった。
道の反対側のはじっこの、コンクリート塀の上。
榊は丸くなってねているネコを、まるで睨み付けるかのようにじっと見据えている。
おかしな事に緊張しまくって、あれじゃ本当にガン飛ばしているみたいだ。
そうして、おそるおそる手を伸ばしたが…
カプッ。
なんと、急に起きたネコに手をくいつかれてやがる。
俺は思わず吹き出してしまった。
「――つぅッ!」

464 :名無しさんちゃうねん :2003/11/03(月) 21:41 ID:???
「――よぉ、災難だったな。」
「!?」
物陰から出て、笑いをかみ殺しながら近づくと、指をおさえて身をかがめていた榊は
跳ね起きるように首をもたげて、俺に警戒の視線を送ってくる。
「お前ネコ好きなんか。なんか意外だよな」
俺は警戒心を解こうと極力フレンドリーに語りかける。
「だけどそんなんじゃ、ネコがおびえちまうだろ。こうするんだよ。」
チッチッと舌を鳴らした。
数メートル先まで逃げていたネコが、ミャ?と反応する。
おいでおいでするとすぐに近づいてきたネコを、ひょいとつまみあげる。
俺はどういうわけか、ガキのころからネコに好かれるたちだった。
マタタビ臭いんじゃねえかとよくからかわれてむかついたもんだが。
榊は、何かとてつもなく不思議なものでもみたかのように、ポカンとしてこっちを見ている。
「ほら?」
「えっ?」
「なでて見ろよ。」
榊はびっくりして、俺とネコの顔を見比べて逡巡するようだったが、やがておずおずと手を差し出した。
ゆっくりとネコの頭をなでる。
「あっ」
榊はびっくりしたように自分の掌をみつめた。
その間に、ネコがぴょんと俺の腕から飛び降りてどこかへいく。
「なんだよ。お前もしかして、ネコ触ったの初めてなのか?」
榊は黙ってこくん、とうなづいた。
「よかったじゃねえか。」
「…うん。」

465 :名無しさんちゃうねん :2003/11/03(月) 21:41 ID:???
それから俺達はよく会うようになった。例の静かな道ばたで。
榊は散歩がてらネコをさわりによく出歩くのだそうだ。最も、なぜかネコに嫌われるそうだが。
榊は本当に無口な女だった。だが、思っていたのとは全然違う、静かで、だけどやさしい女だった。

「大分慣れてきたな。」
「――うん。」
はじめは榊の手にめざしのように噛みついていたネコたちも、
俺があやしながらだっこさせると、次第次第、榊の愛撫に身を任せるようになった。
「あの、」
「ん、なんだ?」
はにかむようにうつむきながら、ぽつりという。
「その…ありがとう」
俺はがらにもなく照れてしまい、大げさな声を出した。
「止せよ。こっぱずかしいだろが」
榊はクスクスと笑う。

ネコとじゃれあう彼女は本当に幸せそうで、それを見ている俺も、なぜだか体の芯がぬくもっていくように感じた。
いつしか、俺は榊と会う放課後のしばしの時間を惜しむほど、二人で過ごすときを愛おしむようになっていた。

466 :名無しさんちゃうねん :2003/11/03(月) 21:42 ID:???
そんなある日。
「――島崎くん、ちょっと。」
放課後、鞄を掴み揚げて帰ろうとすると、女子に止められた。
こいつは同じクラスの女子で、「かおりん」とかいうくだらねえあだ名で通っている女だった。
妙に榊にくっつきたがるので、レズではないかともっぱらの噂だった。
「何だよ。こんなとこに呼び出して。タリい話だったら勘弁しねえぞ、オイ」
俺にいかにもめんどくさそうな態度に「かおりん」は一瞬怯んだようだったが、
すぐに意を決したように口を開いた。
「あなた、榊さんとはどういう関係なの。」
「……別に。ただの顔見知りだよ。」
「ウソ!あなた榊さんのことが好きなんでしょ?」
「うっせえな。何だッてんだよ。てめえには関係ねえだろ!」
「あるわよ。あなたなんかにつきまとわれて榊さん迷惑してるのよ!」
「何だと…?」
俺は咄嗟に彼女の襟首を荒々しく掴んでいた。
「オイ!どういうことだ、コラ!」
「あ、あなたみたいな不良と一緒にいるから、榊さん大学の推薦もらえないかもしれないのよっ!
あなた、一年生のとき散々暴れ回っていたでしょ!職員会議で、榊さんもあなたみたいな素行不良の生徒なんじゃないかっていう先生がいて…。
ゆかり先生がそういってたんだから!」
「……」
ストンと腕の力が抜けた。何だって?ゆかりのやつ、そんな話生徒にしゃべるんじゃねえよ。
いや、そんなことより、榊が俺のせいで―――?
「かおりん」は目にうっすらと涙を浮かべている。
「榊さん、獣医さんになるのが夢なのよ。あんたみたいな不良のせいで、台無しになったらどうするの!」
まだ何か喚いていたが、耳には入らない。俺はふらふらと部屋を出た。

ドガッ!ドガッ!ドガァ!

壁に蹴りをぶち込む。やかましく割れる音がして、ベニヤ板の掲示板にひびが入った。
「――くそったれ」

467 :名無しさんちゃうねん :2003/11/03(月) 21:47 ID:???
「――ねえ。」
「……」
訥々と、榊は珍しく自分から口を開いた。
「友達のみんなは島崎君のこと、怖い人だっていうんだ。」
夕日を浴びて。俺達は例の場所に二人並んで座っていた。
「だけど、私はそう思わない。そうは思わないよ。だって…島崎君はネコに好かれてるから…」
すこしためらって、榊は言葉を続けた。
「だから、だからきっと、島崎君は本当は優しい人なんだって…」
――――榊。
――――俺は、
俺はいきなり榊の肩を掴むと、無理矢理に押し倒した。
「きゃっ!?」
俺は榊のしなやかな身体を押さえつけると、力いっぱい豊満な胸をつかむ。
「いやっ!やめろ!…突然何を!?」
「ヤラせろよ。」
荒々しい息を榊の顔に浴びせながら、乱暴に乳を揉み上げる。
「いいだろ一発くらい。俺のこと好きなんだろ?」
「やっ…はなせ…!」
首を激しく振り、いやいやする榊を無視して、弾力のある胸の感触を思う存分に楽しむ。
そうしておいて、俺は力任せに榊の制服の胸元を引き裂く。
「いやぁぁぁッ!」
榊は普段のハスキーな口調からは想像できないほど、甲高い声で泣き叫んだ。
俺はかまわずに、純白のブラをむしり取ると、スカートの中から下着に手を伸ばすが・・。
「ぐっ!」
榊の強烈な蹴りが不意に鳩尾に入って、俺は堪らず転倒した。
胸をかきあわせ後ずさりしながら、榊は怒りと悲しみのこもっためで俺を睨み付ける。
「どうして…どうして!?」
「バカな女だな。まだ解んねえのか。俺はハナっからお前の身体だけが目当てだったんだよ。」
俺はぺっ、と痰唾を吐き捨てた。
「ちょっとやさしくしてやりゃすぐヤラせてくれるだろう思ってたんだがよ…。」
榊はまるで瘧にでも掛かったかのようにがたがたと震えている。大きく見開かれた瞳に浮かぶのは驚愕と悲しみと…。
「とっとと失せろ!お前みたいなつまんね根暗女はうんざりなんだよ!」
「……っ!」
弾かれたように、榊は駆けていった。大粒の涙をこぼしながら…。

(――これでいいんだ。)
俺は思い出の場所に別れを告げた。

468 :名無しさんちゃうねん :2003/11/03(月) 22:05 ID:???
コピペかよ!

469 :名無しさんちゃうねん :2003/11/04(火) 22:16 ID:???
どこの?

470 :名無しさんちゃうねん :2003/11/04(火) 23:41 ID:???

ttp://www2.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1059493130/

415辺りから始まるヤシ。

471 :名無しさんちゃうねん :2003/11/16(日) 05:50 ID:???
泣いた

472 :眠い名有り :2003/11/18(火) 22:50 ID:ajyACpYU
自分もSS書いてみました!
あまり上手ではないと思いますが読んでくれたら幸いです。

473 :眠い名有り :2003/11/18(火) 22:53 ID:ajyACpYU
そこに智が、
大阪「と〜〜も〜〜」
私「何だよ?」
大阪「あれっ、何言おうとしたんだっけ?ところで何話してたん?」
何言いたいかわすれたぁ?恐るべし天然ボケ・・・
神楽「いや、こいつがさぁ、お前の行動が少しおとなしくなったなぁ・・って。」
大阪「そう思うん。智?」
私「ん?まぁ、少しおとなしくなったかな・・・ってな。。」
大阪「そんなわけないで〜〜元気満々や〜〜〜。」
神楽「確かに、智の次に殺しても死なないように無駄に元気だからなぁ。」
私「何だと!?」
大阪「確かにそうやねぇ〜〜〜」
私「大阪ぁ〜〜〜〜〜」
いつものような普通の一日・・・・・・
この日もそんなふうに普通にすぎると思っていた・・・・・

474 :眠い名有り :2003/11/18(火) 22:54 ID:ajyACpYU
その日の帰り道、私と大阪は二人っきりで歩いていた。
大阪「うっ・・・こほっ!こほっ!」
私「どうした?」
大阪「ううん、なんでもない。あっ!それより、忘れもんしてきてもーた!ちょっと取りに行ってくる!」
たったったっ・・・・
前にもこんなことがあったような気がする。いつもならまた天然ボケか、で済ませていたのだが、今日は胸騒ぎがした。
心配になって大阪を追った。あいつは足が遅いのですぐに追いつけた。
私「お〜〜い、大阪ぁ。」
大阪「こほっ!こほぉっ!」
せきをしているみたいだ。
私「大阪、走ってむせたのか?おおさ・・・・!!!!!」
そこには口を押さえた大阪がうずくまっていた。それだけでは問題ないんだけど、手の間から血が垂れていた。
私はどうすればいいかわからなかった・・・・けど、とにかくこんなときは救急車!119だ!そう思い、携帯を取り出した。
大阪「まって、智ちゃん・・・・電話しんといて・・・・」
私「何言ってんだよ!吐血してるのに・・・もたもたしてたら死ぬかもしれないんだぞ!」
大阪「死ぬかもやない・・死ぬんや。」
私「えっ!」
ショックのあまり携帯電話を落としてしまった。
私「嘘だろ!大阪!!」
大阪「本当や。医者にに行かんくても自分の命は自分がよくわかるんや。私はもう、先は長くない・・・・」
嘘みたいだ・・・・大阪はあんなに元気だったのに・・・・どうして、どうして黙ってたんだ!!!
大阪「お願いがあるんや。皆に黙っといてくれへんか?」
私「何でだよ!お前・・・もうすぐ死んじまうんだぞ!皆に別れを言わずに死ぬ気か!?」
大阪「もう死んでまうから黙っててほしいんや。最期まで皆の笑顔を見ていたいから・・・・」
私「大阪・・・・」
大阪「でも・・・グスッ・・・智ちゃんは私が変わったのわかっとったんやね。いつものようにしようとしてたんに・・・」
大阪が泣いていた・・・・気づくと、私もいつの間にか泣いていた・・・・・
私は大阪を抱きしめた。
私「大阪、じゃぁ、約束してくれるか?最期まで精一杯生きてくれるって・・・・最期まで笑顔でいてくれるって・・・・・」
大阪「ああ、約束する。」
私達は抱き合ったままそのまま泣き続けた・・・

475 :眠い名有り :2003/11/18(火) 22:55 ID:ajyACpYU
今日は眠いのでここまで。。
続編は明日書く予定〜〜〜〜〜

476 :名無しさんちゃうねん :2003/11/18(火) 23:27 ID:???
>475

がんがれ〜♪

477 :眠い名有り :2003/11/19(水) 18:44 ID:78IIk9JQ
>>476
アリガト〜〜
ちなみに題名は
「最期まで笑顔でいたいから・・・・」
です。書くの忘れてた。。
大阪死亡時の物語がまだ出来上がってない・・・・
完成にはしばらくかかりそう。。

478 :眠い名有り :2003/11/19(水) 18:44 ID:78IIk9JQ
あれから三日。
私は教室の机でうつむいていた。いつもなら神楽やよみとバカやってるところだけど、そんな元気はなかった。
大切な友人を失ってしまう・・・・そんなことを思い出したくない。何も考えたくなかった。
ちよ「どうしたんですか?ともちゃん。最近変ですよ。」
私「ちよすけ・・・・・」
大阪の死など考えてもいないんだろうなぁ・・・・こいつ(ちよ)は大阪の死が忘れそうなくらい屈託のない笑顔だ。
私「ちよすけ・・・・・私の何処が変だ?」
ちよ「変ですよ。いつもなら騒いでるのにここ数日、何か暗いですよ。何か嫌なことでもあったんですか?」
私「ああ、誰にも言えないことなんだけどな・・・・」
ちよの顔がだんだん暗くなってきたのに気づく。
ちよ「でも、私そんな暗いともちゃん見たくありません!大阪さんみたいにいつも笑ってて元気なともちゃんがいいです!」
私「ちよすけ・・・・・・」
私は大阪を見た。神楽とよみとしゃべってる。とてももうすぐ死ぬとは思えない・・・・
何でだよ!何でそんなに笑ってられるんだよ!!お前・・・もうすぐ死ぬんだぞ!そう言いたかった。
その時、大阪のあの言葉を思い出した。
      もう死んでまうから黙っててほしいんや。最期まで皆の笑顔を見ていたいから・・・・
そうだよな。あいつ、皆の笑顔が見たいんだもんな。私が、皆を心配させてどうするんだよ。大阪はあんなにがんばってるのに・・・・ 私だって大阪の笑顔見ていたよ・・・・・
自分に言い聞かせた。
私「ちよすけ・・・・・」
ちよ「なんですか?」
私「ありがとう。」
ちよ「???」

その日の昼休み、私は大阪達と話していた。大阪に最期まで笑顔でいてほしいから・・・・・

479 :眠い名有り :2003/11/19(水) 18:46 ID:78IIk9JQ
大阪死亡のところはもうチョい時間がかかります。。
早く完成させないと。。

480 :眠い名有り :2003/11/19(水) 19:43 ID:78IIk9JQ
>>473
おおぉ〜〜っと、ミス発見!
>そこに智が、
これ、ミスです。(始めは大阪が主人公で死ぬのは智の方にしようとしていたので。)
その部分修正↓

ここは病院、大阪はまだ意識が戻らないみたいだ。
ピッピッピッピ・・・・
機械の音が虚しく鳴り響く
大阪「ん・・・・・ぁ・・・智ちゃん・・・」
私「大阪・・・」
意識をと取り戻したみたいだ。よかった・・・・最期に皆に会ってほしいしな。
ふと思い出していた・・・・あの日のこと・・・大阪の病気を知った日。

    最期まで笑顔でいたいから・・・・


という始まりの予定でした。

481 :眠い名有り :2003/11/19(水) 20:28 ID:78IIk9JQ
さらにタイプミス発見(汗
>>478
>私だって大阪の笑顔見ていたよ・・・・・
「い」が抜けております。ハイ。
これかは確認してから投稿せねば。。

482 :ケンドロス :2003/11/19(水) 20:30 ID:???
すいませんもうひとつだけ指摘させて下さい。
最初の文で大阪が智の事を呼び捨てにしてます。
ちょっと気になったもので・・・

ともあれ続き頑張って下さい

483 :さかちー :2003/11/19(水) 20:43 ID:???
>>481
ならばそこでもちゃんと確認を……

人が死ぬ話ならば雰囲気が大事なので、
そういったミスは痛いです。
経験を積めば>>482のようなものを含めた
ミスは減っていくでしょう。
続きに期待しつつ見守っております。

484 :眠い名有り :2003/11/20(木) 15:52 ID:0n9uHbv2
ご迷惑おかけしました。
一応、このスレに修正版(内容的にはあまり変化してないので見なくて結構です。)
あと、題名変更しました。

修正版

ここは病院、大阪はまだ意識が戻らないみたいだ。
ピッピッピッピッ・・・・
機械の音が虚しく二人きりの部屋に鳴り響く・・・・
大阪・・・ 死ぬな。皆に会ってくれよ・・・・ あいつらに最後の別れくらいさせてやってくれよ・・・・
そんな願いが通じたのだろうか・・・・
大阪「ん・・・・・ぁ・・・ 智ちゃん・・・」
私「大阪ぁ・・・」
よかった・・・・ 意識をと取り戻したみたいだ。涙があふれてきた。
そんな時、ふと思い出していた・・・・ あの日のこと・・・ 大阪の病気を知ったあの日のことを・・・


        最期まで笑顔でいてほしいから・・・・


その日、私は神楽といつものように話していた。
私「なんかさぁ、このごろ大阪おとなしくないか?」
神楽「そうか?」
すると
大阪「と〜〜も〜〜」
私「何だよ?」
うわっ、噂をすればなんとやらだ。
大阪「あれっ、何言おうとしたんだっけ?」
何言いたいかわすれたぁ?恐るべし天然ボケ・・・
大阪「ところで何話しとったん?」
神楽「いや、こいつがさぁ、お前の行動が少しおとなしくなったなぁ・・・ って。」
大阪「そう思うん?」
私「ん?まぁ、少しおとなしくなったかな〜〜〜・・・ってな。。」
大阪「そんなわけないで〜〜元気満々や〜〜〜!」
神楽「確かに、智の次に殺しても死なないように無駄に元気だからなぁ。」
私「何だと!?」
大阪「確かにそうやねぇ〜〜〜」
私「大阪ぁ〜〜〜〜〜!!」
いつものような風景・・・・・・
この日も普通にすぎると思っていた・・・・・ そんなふうにすぎてほしかった・・・・

485 :眠い名有り :2003/11/20(木) 15:52 ID:0n9uHbv2
その日の帰り道、私と大阪は二人っきりで歩いていた。
大阪「うっ・・・こほっ!こほっ!」
私「どうした?」
大阪「ううん、なんでもない。あっ!それより、忘れもんしてきてもーた!ちょっと取ってくる!」
たったったっ・・・・
前にもこんなことがあったような気がする。いつもなら、また天然ボケか、で済ませていたのだが、今日は胸騒ぎがした。
心配になって大阪を追った。あいつは足が遅いからすぐに追いつけた。
私「お〜〜い、大阪ぁ。」
大阪「こほっ!こほぉっ!智ちゃん来んといて!」
せきをしているみたいだ。 でも、何で来ちゃいけないんだ・・・
そんな疑問を抱きつつ大阪に近寄った。
私「来るなって何だよ?大阪、走ってむせたのか?おおさ・・・・!!!!!」
そこには口を押さえた大阪がうずくまっていた。それだけでは問題ないんだけど、手の間から血が垂れていた。
私はどうすればいいかわからなかった・・・・ けど、とにかくこんな時は救急車!119だ!そう思い、携帯電話を取り出した。
大阪「まって、智ちゃん・・・・ 電話しんといて・・・・」
私「何言ってんだよ!血を吐いてるのに・・・ もたもたしてたら死ぬかもしれないんだぞ!」
大阪「死ぬかもやない・・・ 死ぬんや。」
私「えっ!」
ショックのあまり携帯電話を落としてしまった。
私「嘘だろ!大阪!!」
大阪「本当や。医者にに行かんくても自分の命は自分がよくわかるんや。私はもう、先は長くない・・・・」
嘘みたいだ・・・・ いつもあんなに元気だったのに・・・・ どうしてだよ・・・ どうして黙ってたんだ!!!
大阪「お願いがあるんや。皆に黙っといてくれへんか?」
私「何でだよ!お前・・・もうすぐ死んじまうんだぞ!あいつらに別れをしないで死ぬ気かよ!?」
大阪「もう死んでまうから黙っててほしいんや。最期まで皆の笑顔を見ていたいから・・・・」
私「大阪・・・・」
膝に熱い水滴が落ちた。大阪が泣いていた・・・・ 気づくと、私もいつの間にか泣いている・・・・・
大阪「でも・・・ グスッ・・・ 智ちゃんは私が変わったのわかっとったんやね。いつものようにしようとしてたんに・・・」
私は大阪を抱きしめた。
私「大阪、じゃぁ、約束してくれるか?最期まで精一杯生きるって・・・・ 最期まで笑顔でいるって・・・・・」
大阪「うん、約束する。」
私「大阪ぁ・・・・」
何でこいつが死ななきゃならないんだ!何で・・・  できれば、私が代わって死んでもいい。そう思った。
私達は抱き合ったまま泣き続けた・・・

486 :眠い名有り :2003/11/20(木) 15:53 ID:???
あれから三日後・・・
私は教室の机でうつむいていた。いつもなら神楽やよみとバカやってるところだけど、そんな元気はなかった。
大切な友人を失ってしまう・・・・ そんなことを思い出したくない。何も考えたくなかった。
ちよ「どうしたんですか?ともちゃん。最近変ですよ。」
私「ちよすけ・・・・・」
大阪の死など考えてもいないんだろうなぁ・・・・ こいつ(ちよ)の屈託のない笑顔は私から大阪の死を忘れさせるくらいだ。
私「ちよすけ・・・・・私の何処が変だ?」
ちよ「変ですよ。いつもなら騒いでるのにここ数日、何か暗いですよ。何か嫌なことでもあったんですか?」
私「ああ、誰にも言えないことなんだけどな・・・・」
ちよの顔がだんだん暗くなってきたのに気づく。
ちよ「でも、私そんな暗いともちゃん見たくありません!!大阪さんみたいにいつも笑ってて元気なともちゃんがいいです!」
私「ちよすけ・・・・・・」
私は大阪を見た。神楽やよみとしゃべってる。とてももうすぐ死ぬとは思えない・・・・
何でだよ!何でそんなに笑ってられるんだよ!!お前・・・もうすぐ死ぬんだぞ!そう言いたかった。
その時、大阪のあの言葉を思い出した。
      もう死んでまうから黙っててほしいんや。最期まで皆の笑顔を見ていたいから・・・・
そうだよな。あいつ、皆の笑顔が見たいんだもんな。私が・・・・ 私が、皆を心配させてどうするんだよ。大阪はあんなにがんばってるのに・・・・
私だって大阪の笑顔見ていたいよ・・・・・
私「ちよすけ・・・・・」
ちよ「なんですか?」
私「ありがとう。」
ちよ「???」

その日の昼休み、私は大阪達と話していた。いつもと同じように。大阪に最期まで笑顔でいてほしいから・・・・・

487 :眠い名有り :2003/11/20(木) 15:54 ID:???
これにて、改正版は終わり。。
調べてみたら、文法的におかしなところがありすぎたので、一気に修正させていただきました。
これから、続編です。

488 :眠い名有り :2003/11/20(木) 16:13 ID:0n9uHbv2
あの出来事から一週間。私は大阪に一つの提案をした。
私「大阪、旅行にに行かないか?大阪とか、」
大阪「ん〜〜?そんなダジャレおもしろくないで〜〜〜」
私「違う。本当に行かないかって、聞いてるんだ。二人きりで・・・・」
大阪「どうしたん?いきなり・・・」
私「お前の思いでも場所に一緒に行きたいんだ。だって、お前・・・・」
大阪「でも、私お金・・・」
私「お金なら私が出す。お前へのプレゼントだ!」
大阪「ありがとな、智ちゃん。」
私「お前、大阪の前は神戸で、その前は和歌山だったよなぁ。どこにする?」
大阪「もちろん大阪や!」

その週の日曜日、私達は大阪に向かった・・・
アナウンス「大阪ぁ〜〜〜〜大阪ぁ〜〜〜〜。神戸方面にお行きの方は・・・・・」
大阪「おおぉ〜〜〜私のことアナウンスしとるで。」
私「ば〜か。それより、どこに行く?」
大阪「それはこっちのセリフや。ここは私の庭みたいなもんやで〜〜〜どんどん行こか〜〜〜〜!うっ、こほっ、こほっ・・・」
こいつ、顔では笑顔見せてるけど、やっぱり苦しいんだよな・・・
私「大丈夫か!?」
大阪「心配ない。それよりも早よ行こ〜〜〜」
それから二人でいろんなところに行った。大阪ドーム、通天閣、大阪城・・・・
今までの中で一番楽しい旅行だった・・・・大阪が死ぬことなんてすっかり忘れていた・・・
そして、日も暮れかけて・・・・
私「そろそろ帰ろうか・・・日も暮れてきたし・・・」
大阪「待って、最後にどうしても連れて行きたいところがあるんや。」
そう言って大阪は私の手を引っ張っていった・・・

489 :眠い名有り :2003/11/20(木) 16:14 ID:???
このあと、大阪が倒れる予定・・・ですが、その場所を考えていない。
文章できてるのに・・・・
大阪で夕日のきれいな場所を探してます。
見つけ次第また続けます。

490 :眠い名有り :2003/11/20(木) 23:17 ID:xbEZWUck
大阪につれられて来た所。瀬戸内海に面している海岸。
東京とは比べ物にならないほど綺麗な海だ。その海に夕日が輝く。
私「本当に綺麗だな。」
大阪「ここね。東京に行く前日に見つけたんよ・・・・ 私な、ここ・・・」
?「おっ、お前ら!!」
いきなり後ろから聞きなれた声が・・・
大阪「ゆかり先生!?なんでここに!?」
ゆかり「にゃもも一緒だよ〜〜〜」
にゃも「ああ〜〜〜、春日さんに滝野さん!」
私「なんでこんな所に!?」
ゆかり「ここねぇ〜〜昔私達が旅行したときに「先生になろう!」って約束した場所なのよ。」
にゃも「そうよ。久しぶりに大阪に来たからよろう!って話になってね。貴方達は?」
大阪「私達も旅行や。な〜〜〜。」
私「ああ。」
ゆかり「あ、私達ちょっと用事があるから。じゃぁね。」
にゃも「えっ、ちょっと!?ゆかり?」

にゃも「(ヒソッ)ちょっとゆかり、なんなのよ。」
ゆかり「だって、私達お邪魔虫でしょう。二人っきりにしてあげようよ。。」
にゃも「ゆかりって、変なところで気を使うね。でもそんなこと言うなら盗み聞きとかやるわけないよね〜〜」
ゆかり「(チッ!)ううん!そんなことする分けないじゃない。さぁ、行こう。」

491 :名無しさんちゃうねん :2003/11/20(木) 23:22 ID:???
>>489
大阪に到着してから行ってる場所が大阪環状線の内側ばかりなので
やはりここは、日本一の天保山などは……。

492 :眠い名有り :2003/11/20(木) 23:28 ID:JowFqbmU
私「さっきなんて言おうとしたんだ?」
大阪「あ、え?」
私「私なここ・・・って言ってただろ。」
大阪「ああ、ここな、私が決心した場所ねんよ。」
私「決心?」
大阪「ああ、好きな人できたら一緒にここに夕日を見に来るって。」
私「えっ?ええっ!?」
大阪「もう死んでまうから言わせてな。私、智のこと大好きや!」
私「大阪・・・」
大阪「今まで恥ずかしかったけど、今なら言える。智は私のこと好き?」
私「私も・・・大阪のこと好きだよ!私、今日旅行から帰ったら言おうと思っていた。」
大阪「智ちゃん!なら私の気持ち伝えさせて!」
私「なっ、おおさ・・・」
大阪はいきなり自分の唇を私の唇に重ねてきた。
ほんの一瞬、本当に一瞬なのに永遠の時間に感じた・・・・
大阪「私の気持ち伝わった?」
私「もう、十分わかった。」
大阪「よかったぁ。私死んでもうたら智ちゃんにこの気持ち・・・ ごほっ、ごほっ、ごほぉっ!」
私「大阪、おい!大阪!!」
気絶している。今まで何度も発作のようなものはあった。でも気絶なんてしたことはない。最悪の事態を考えてしまう。
ゆかり「おお〜〜い、智ぉ〜〜大阪ぁ〜〜〜」
丁度いいところにゆかり先生が・・・
私「ゆかり先生!!大阪が・・・大阪が倒れたんだ!!救急車呼んで!早く!!!!」

数分後、救急車が来た。病院についたら、すぐに大阪は手術室へ運ばれた。私は大阪が死なないように祈った。
それから、しばらくして医者に「よくこれだけの病気の巣で旅行ができたものですね。今晩が山でしょう」って言われた。
病室に入って私はゆかり先生とにゃも先生に皆を呼んでくれと言った。
そして今にいたったんだっけ・・・・

493 :眠い名有り :2003/11/20(木) 23:32 ID:JowFqbmU
>>491スミマセン、もう書いちゃいました。
面倒なので海が見えれば言いやって。

この場面、かなり苦労しました。
実は「好きな人」の部分は「一番の友人」のはずでしたが、
某友人に小説書いてるといったら(注意:小説の内容は友情物で人が死ぬとしかいっていません)、
「愛がないとなぁ・・・」って言われたので、試行錯誤して文章作りました。(笑)
友情物はともかく恋愛物は初めて。しかも女同士・・・・・
かなり苦労して作りましたが、例えなどが変かもしれません。
ビシバシ指摘してください(笑)

494 :名無しさんちゃうねん :2003/11/21(金) 00:50 ID:???
せっかく書いているのに、その先の展開を自分でばらしてしまうのは
もったいない……。

495 :さかちー :2003/11/21(金) 01:00 ID:???
俺も>>494に同意です。
「読んでもらおう」という気持ちは伝わってきますが、
「読ませる」という気持ちも大事ですよ。

496 :名無しさんちゃうねん :2003/11/21(金) 01:02 ID:???
とりあえず

>私「私なここ・・・って言ってただろ。」

最後の「。」はイラネ。会話をカギ括弧で閉じる寸前の「。」は入れないのがルール。

497 :名無しさんちゃうねん :2003/11/21(金) 03:53 ID:???
すでに指摘されたが、大阪は基本的にちゃん付けで人を呼ぶ。
>大阪「今まで恥ずかしかったけど、今なら言える。智は私のこと好き?」
特にこの台詞は字面だけだと大阪っぽくないので、そういう細かいことが重要。

点は3の倍数にする。本来は三点リーダ「……」の形で使う。
ただし、これを実践してる人は少ないので気にしなくてもいい。
あるいは点の数で沈黙の長さを表現しているのかもしれない。

>>490最後の行から
>そんなことする分けないじゃない
誤字。

医者の台詞
「よくこれだけの病気の巣で旅行ができたものですね」
発言者が医者なだけに、変わった言い回しは避けたほうがよかったかも。
単純に、「こんな体で」とか。


>>493でも誤字があるけど、たとえ読むのが恥ずかしかろうと自分で何度も
読み返して確認するべき。下手すると雰囲気をぶちこわしにすることになる。
ネタバレもやりすぎは好ましくない。

せっかく書いて発表するのだから、自分の作品を大事にしてほしい。
指摘が多すぎるけど、当人のできうる限りいい作品にしてもらいたいと思う。


そして最後に……
この板では女の子同士の恋愛など、むしろ普通なので気にしなくていいw

498 :眠い名有り :2003/11/21(金) 12:42 ID:???
ご指摘ありがとうございます。
誤字やちゃん忘れ・・・・
かなり見直したんですが・・・・(汗)

医者のセリフに関しては「はだしのゲン」のセリフを使ってみました(笑)
では続き〜〜〜

499 :眠い名有り :2003/11/21(金) 13:46 ID:???
大阪「智ちゃん・・・ 泣いとるん?」
私「大阪・・・ よかった・・・ なぁ、約束してくれないか?」
私は大阪に泣きながら言った。
私「私も大阪のことが好きだ。だから・・・ 私の前だけでもいいから、素直になってくれないか?」
大阪の目が潤んでくる。
大阪「智ちゃん・・・」
私「私、我慢しているお前を見たくないんだ。泣きたいときは泣いてくれよ・・・」
大阪「うわぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!智ちゃん!」
大阪が泣き出した。私は大阪を抱きしめて、涙を拭いた。
大阪「私、本当は怖かったんや・・・ 死にたくなかったんや!でも、でも・・・ 皆を悲しませたくないから・・・」
私「もう、いいよ。もう大阪は十分苦しんだよ・・・ だから、最期くらいは我慢しないで泣けよ・・・」
大阪「ぐすっ!智ちゃん・・・ ありがとな・・・ 本当にありがとな・・・」
私「大阪ぁ・・・」
しばらく沈黙の時が流れた・・・
大阪「そういえば、私に「大阪」ってあだ名つけてくれたの智ちゃんやったね。」
私「ああ、ごめんな・・・ 勝手につけちゃって・・・」
大阪「ううん、私が・・・ ごほっ!春日歩よりも気に入っとる名前や・・・」
声が弱々しくなってきている・・・ 大阪の命が消えていく・・・ そう感じた
私「大阪・・・っ」
大阪「ありがとな・・・ 最高のプレゼントや・・・ごほっ!ごほっ!こほぉっ!」
大阪の手の間から血が流れる・・・ まだかよ!早く来いよあいつら!大阪が死ぬんだぞ!!
ドタドタドタ!
何人もの足音が聞こえる。やっと来た!

500 :眠い名有り :2003/11/21(金) 13:48 ID:eTWW08Tg
神楽「大阪ぁ!!大丈夫か!!」
よみ「大阪!!」
ちよ「大阪さん!」
私「まだ大丈夫だよ。早く・・・」
皆来た。ちよも、よみも、神楽も、榊も、かおりんも、ゆかり先生も、にゃも先生も・・・・
そして・・・皆泣いている・・・
大阪「皆、来てくれたんか・・・ ありがとな・・・」
よみ「大阪の馬鹿!!なんで黙ってたんだ!」
大阪「よみちゃんは私が笑ってるよりも泣いていたほうがいいん?」
よみ「泣いてほしくなんかない!!!笑っててほしいに決まってるじゃないか!!」
大阪「同じや。私も皆に笑っててほしかった。」
神楽「大阪・・・少しは自分の心配をしたらどうなんだよぉ・・・」
大阪「ごほっ!ごほっ!!」
神楽「大丈夫か!」
ちよ「大阪さん、グスッ、死んじゃ嫌だよ!!」
大阪「皆に一人一人別れを言いたかったんやけど・・・ もう、そんな時間はないみたいや・・・」
私「大阪ぁ・・・」
大阪「皆ぁ、約束してくれへんか?私の分まで生きてくれるって・・・私を皆の心の中でずっと生きさせてくれるって・・・」
榊「大阪・・・そんなの当たり前だろ。友達なんだから・・・」
かおりん「そうですよ・・ ぐすっ!大阪さんの分まで生きますよ!」
大阪「ありがとぅ・・・・ごほっ、ごほっ・・・」
にゃも「春日さん!」
ゆかり「大阪!死ぬな!!」
大阪「もう、お迎えが来てもうたみたいやな・・・ さよならや・・・ じゃぁなぁ・・・ み・・ん・・・な・・・」
大阪のまぶたが閉じていく・・・
私「大阪・・・ 最後に言わせてくれ・・・ もし、私が死んで、お前にあっても・・・ 笑顔でいてくれるか・・・」
大阪「ああ、笑顔で待っとるで・・・」
ピーーーーーーーーーーーー
機械の音が鳴った・・・大阪は死んだんだ・・・
ちよ「大阪さん・・・ うわぁぁぁぁーーーー」
神楽「くっ・・・ 大阪ぁ・・・」     
榊「ぐすっ・・・ 大阪・・・」
よみ「大阪・・・ 何で死んだんだよ・・・」
私はよみに言った。
私「大阪は死んでない・・・ 私達の心の中で生きてる・・・ だから・・・ 笑顔でいようよ・・・ なっ。」
でも・・ そう言ってる私自身も泣いていた・・・
私は心の中で大阪に言った。
大阪・・・ 約束守るよ。大阪の分も生きる・・・ だから・・・ それまではいつも笑顔でいて・・・ 泣きたいときは泣いてくれ・・・
その時、
          「ああ、わかったで・・・」
って、聞こえた。大阪は死んでいるけど確かに聞こえた。
私は大阪の顔を見た。
その顔はあいつらしく笑って死んでいた・・・ まるでまだ生きているようだった・・・・

501 :眠い名有り :2003/11/21(金) 13:50 ID:eTWW08Tg
ふい〜〜〜一応終わりました。
でも、このあと完結編を書く予定です。
またでき次第投稿します。

502 :名無しさんちゃうねん :2003/11/21(金) 21:20 ID:???
げぇ〜〜っ口付けられちゃったよ!
病気伝染ってないだろうな〜

503 :眠い名有り :2003/11/21(金) 22:03 ID:vw34bD9o
>>502
大丈夫。智はこのあと・・・

まぁ、いろいろありますから。

504 :眠い名有り :2003/11/21(金) 22:24 ID:vw34bD9o
最期まで笑顔でいてほしいから・・・・完結編 私の選択

大阪が死んでから四日目の放課後、私は教室にいた。花の入った花瓶を大阪の机に置いていた。
大阪の席に座って豪雨の空を見ながら、大阪が死んでからのことを思い出していた。
通夜、葬式、火葬、墓入り・・・
暗いことばっかりだ。でも私はできるだけ大阪の側にいるようにしていた・・・
よみ「あ、ここにいたのか・・・」
私「お前ら・・・」
そこには皆がいた・・・大阪を除いて・・・
私「何しに来たんだよ。」
あ、また涙が・・・ もう泣かないって決めてたのに・・・
神楽「何泣いてるんだよ!お前らしくねぇよ!いつものお前はどうしたんだよ!!泣くなって言ったのお前だろ!!」
ちよ「そうですよ。大阪さんは私たちの心の中で生きてるんですよね。だったら何で泣くんですか!」
私「わかってるよ・・・わかってるけど・・・」
何もなかったらそう思えたのかもしれない・・・ でも、告白されてからそう思えなくなっていた・・・
大阪・・・ 助けてくれよ・・・

ガガーーーーン!!
雷の音、かなり近い・・・ いや、もしかしたら・・・・
よみ「何だ!?」
榊が廊下に出る。
榊「大変だ!廊下が燃えてる!!」
ちよ「うそ!?じゃぁ、さっきの雷は・・・」

505 :名無しさんちゃうねん :2003/11/21(金) 22:56 ID:???
おお、黙示録の世界が始まるのか!

506 :眠い名有り :2003/11/22(土) 14:22 ID:44Td4DIA
私「逃げよう!」
私は一目散に走った。
私に続いて榊、よみ、神楽、かおりん、ちよと続く。
私たちは火災が起きている廊下を進む。
あの角を曲がれば階段・・・ そして、曲がって階段に着いた瞬間・・・
        あかん!智ちゃん!跳ぶんや!!
!?大阪!?空耳かと思ったが、大阪を信じて跳んだ。
ドドオォォォォォォォーーーーーー・・・・
私の真下で爆発が起こった。爆風で吹き飛ばされた。
私のすぐ後ろの廊下が崩れている。この下は調理室。きっとガス爆発だろう。跳んでなかったら今ごろ・・・
皆、向こう側に取り残されてしまった。とてもじゃないけど・・・ 飛び越せる距離じゃない。
神楽「智ぉ〜〜〜〜〜〜!!」
神楽がちよを投げてきた。
私は慌ててちよを受け取る。
神楽「先に逃げろ!私たちは後から行く!」
私達は階段を下りて、玄関に着いたけど・・・
ちよ「智ちゃん・・・?何やってるの、早く逃げようよ・・・」
私が立ち止まったのは、廊下の向こうにある階段が燃えているのを見たからだ。
これじゃぁ・・・ 皆逃げれないじゃないか!!
私「ちよ、お前だけ逃げろ。」
ちよ「えっ!?」
私「私、あいつら助けに行く!」
ちよ「あっ、智ちゃん!?」
私は来た道を戻っていった・・・

507 :眠い名有り :2003/11/22(土) 17:05 ID:DfppmVNI
もう嫌だ!もう仲間を失いたくない!私の心の中はそれだけで一杯だった。
そんなことを思いながら、私は崩れた廊下にいた。
向こう岸は火の海だ。でも私は行かなきゃならない。でも、どうすれば・・・
ふと天井を見渡すと、鉄のパイプが通っていた。あれをわたれば。
近くにあった棚の上に乗って、パイプに触った。
私「熱っ!!!!」
かなりの熱、指の皮が剥がれた。これじゃぁ、とてもわたれない。
ふと、ある考えが思いついた。
倉庫にあるロープを持ってきて、私がパイプをつたって向こう岸に行って、ロープを落とせばみんな助かる。
手がボロボロになった私を除いて・・・
死ぬのは怖いよ・・・ でも・・・ 友達を失うほうがもっと怖かった。私が死んでも、皆が生き残ってくれるならそれでいい・・・
大阪、ごめんな。お前の分まで生きれそうにないや・・・
     ええよ、私のことやない、智ちゃんのことや・・・ 智ちゃんが正しいと思うならそれでええ・・・
また大阪の声が響いた・・・ 大阪の声で私は決心した。
ロープを持って、再び、崩壊した廊下に来た。

ロープを体に巻きつけて、私は意を決して、パイプを掴んだ。
ジュウウウゥゥゥゥゥゥゥ・・・・
私「あっ熱いっ・・・くっ・・・」
灼熱感と激痛が手を包む、しかし諦めない。もう片方の手もパイプを掴んで渡っていった。
皮膚と肉が焼け爛れ、剥がれていく・・・ でも、気にしてなかった。もう、命は捨ててたから・・・
やっとのことで向こう側についたときは、手が使い物にならなくなっていた。
皮膚はもうなく、肉が焦げて、ひどい所は骨まで見えていた・・・
私は激痛に耐えながら、廊下を進んでいった・・・

508 :眠い名有り :2003/11/22(土) 20:33 ID:W8srxoss
注意:独り言のようなところには「」がついてません。
いちいち言ってると「」だらけになってしまうので。

509 :名無しさんちゃうねん :2003/11/22(土) 22:25 ID:???
これは智視点で書かれているSSなんで地の文=智の心の声、なわけですから
独り言にいちいち「」つけなくていいんですよー。

つーか、智視点でなくても、普通は独り言を「」で括りませんぞ。

510 :眠い名有り :2003/11/23(日) 21:15 ID:hiTClMUc
進んでいったら、その先は炎と煙で一杯だった。
まずい・・・ どうやって進む?
そう悩んでいたとき・・・
ちよ「智ちゃ〜〜ん?どこですかぁ〜〜〜?」
今来た道の奥からちよすけの声が聞こえた。
私は走りながら答えた。
私「ちよすけ〜〜〜〜〜!どこだ〜〜〜〜〜!」
そして、崩れた廊下に戻った。
ちよ「智ちゃん!!」
真下にいた。
私「ちよすけ!逃げろって言っただろ!!」
ちよ「私だって、もう皆と別れたくないんです!!だから、私にも手伝わせてください!」
私「ちよすけ・・・・」
そうだよな。別れは皆つらいよな・・・
それに、私だけじゃあの先は進めない。天才の力を借りよう。
私「ちよすけ〜〜〜〜この先は煙で一杯で行けそうにない!何かいい方法はないか!?」
ちよすけはしばらく考えて、
ちよ「ハンカチをください!」
私はハンカチを落とした。
ちよ「あと、私がそっちにいければいいんですけど・・・」
私「それは任せろ!!」
ちよは側の水溜りにハンカチを浸した。その間、私は体に巻いていたロープをほどいて、下にたらした。
私「ちよ!お前ロープ登れるか!?」
ちよ「・・・無理です。」
仕方ない・・・ 手が使えるかどうかわからないけど・・・
私「ちよ!ロープに掴まれ!あとは私が引き上げる!」

511 :眠い名有り :2003/11/23(日) 21:16 ID:hiTClMUc
>>509
ありがとうございます。

512 :シーサーやいびーみ? :2003/11/24(月) 16:27 ID:yI1H9XwM
大阪が死んだときマジ泣きしてしまった・・・

513 :きわむ :2003/11/24(月) 19:59 ID:58V8Mef2
この気持ち、痛いほどわかるぜ。

514 :名無しさんちゃうねん :2003/11/24(月) 20:32 ID:???
普通にキモイだろ。ちゃんと言ってやれよ。
無責任だなあ。

515 :きわむ :2003/11/24(月) 20:55 ID:58V8Mef2
スマソ

516 :眠い名有り :2003/11/24(月) 21:28 ID:SZurFdJQ
>>512-513
ありがとうございます!!

517 :眠い名有り :2003/11/24(月) 21:29 ID:SZurFdJQ
私「ぐうぅぅ・・・くっ・・・」
手に激痛が走る。いくらちよが軽いといっても、手の傷がさらに抉られてしまう。でも、やっとのことで、ちよを引き上げた。
ちよ「智ちゃん、はい、ハンカ・・・智ちゃん!その手!!大丈夫ですか?」
ちよはすでにハンカチで口と鼻を隠している。ギャングみたいに。
私「大丈夫だ。それより、ハンカチ口に巻くんだろ。悪いけど巻いてくれないか?こんな手だから・・・」
ちよ「嫌です!」
えっ、ちよ・・・
ちよ「大阪さんの時に一番傷ついてたのも智ちゃんだったじゃないですか。
    智ちゃんはこれ以上傷ついてほしくありません!ここからは私だ・・・」
パアァァーーーーン!!
私はちよを叩いた。ちよが驚いた表情でこっちを見る。
私「馬鹿やろう!!お前だって皆を助けたいから来たんだろ!!私も同じなんだよ!!」
そして、優しく言った。
私「なぁ、早く巻けよ。こんなことしてる間にあいつら死んじまうかもしれないから・・・」
ちよ「ごめんなさい・・・ 智ちゃんの気持ちも考えないで・・・」
ちよは私の顔に濡れたハンカチを巻いた。
私「もういいよ。行こう。」
私達は炎と煙の中を進んでいった・・・

518 :眠い名有り :2003/11/24(月) 21:47 ID:SZurFdJQ
炎と煙の中、私達はさまよった。皆を探して・・・
      智ちゃん!こっちや!!
大阪!?またあの声・・・ やっぱりあいつ、私達のこと見守ってくれてたんだ・・・
私「ちよ、こっちだ!」
ちよ「えっ!?」
私は図書室に入った。本の満載された戸棚がものすごい勢いで燃えている。その奥に・・・
私「いた!!」
燃え盛る部屋の奥に皆がいる。ゆかり先生とにゃも先生もいる。そういえば今日はにゃも先生の当直だった。
私「お前ら!無事かぁ〜〜!?」
神楽「智ぉ〜〜!早く来てくれ!」
私とちよはすぐに向かった。
行ってみると、皆気絶していた。榊と神楽とゆかり先生を除いて・・・
皆私達と同じようにハンカチをつけていた。神楽を除いて。
私「神楽?お前ハンカチは!?」
神楽「かおりんにあげたよ。それよりも・・・」
私「ちよ、ハンカチを取って、神楽につけてやってくれ。」
ちよ「えっ!でも!」
私「いいから!私よりもこいつのほうが煙吸ってるんだぞ!!」
ちよは私からハンカチをとり、神楽に渡した。神楽はハンカチをつけた。
ゆかり「ちょっと智!!その手!?」
榊「智!?大丈夫か!?」
私「あっ、気にするな。それより皆を早く・・・!!!!!」
私達が入ってきた入り口、それが唯一の出口でもあった。
その側に立っている業火に包まれた本棚が倒れかかってるのだ。
まずい・・・

519 :眠い名有り :2003/11/24(月) 21:59 ID:SZurFdJQ
私は無意識のうちに走り出していた。最悪の直感が当った、本棚が倒れる・・・
私「うわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーー!」
ガッ
私は左腕で受け止めた。しかし、炎は容赦なく私の腕を焼いていく。
さらに、左足にも炎が触れ、燃えていく。
灼熱の業火と灼熱感と激痛が私を包み込んでいく・・・
私「ぐわぁぁぁ・・・ っっっっっっ!!!」
榊「智ぉ〜〜〜〜〜!!」
私「だっ、大丈夫だ!!それよりも・・・ 早く・・ 皆を運べ!いつまで・・・ もつか・・ わからねぇ!」

神楽「早く運ぼう!早くしないとあいつの努力を無駄にしちまうからな。」
榊「そうだな・・・ あれっ!  すまない、体が・・・」
ちよ「いいですよ、煙を吸い込むとそうなったりしますから。それよりも、早く!」
神楽が榊を、ゆかり先生がにゃも先生を、ちよがかおりんを運ぶ・・・

早くしてくれよ。私が力尽きる前に・・・ 私が死ぬ前に皆を運び出してくれ。

520 :眠い名有り :2003/11/24(月) 22:01 ID:SZurFdJQ
>>519
わかりにくいですが、榊は体が動かないが、意識はあるということです。

521 :きわむ :2003/11/24(月) 23:42 ID:58V8Mef2
またしても感動して泣いてしまったZE!
てゆーか智ちゃん好きだー!!!!!!!!

522 :シーサーやいびーみ? :2003/11/25(火) 18:34 ID:hjFHEfT6
先がすごい気になるー!!

523 :眠い名有り :2003/11/25(火) 19:42 ID:UkO/nGe6
ありがとうございます!
がんばって続きを書こうと思います!

524 :眠い名有り :2003/11/25(火) 19:44 ID:UkO/nGe6
神楽「よし!大丈夫か榊?」
榊「ああ、私のことは気にしないで、早く皆を!そうじゃなきゃ智が・・・」

私「あああっ・・・くぅっ・・・!!」
炎は容赦なく私を覆っていく。神経がやられたのかな?もう左腕からは熱さも痛みも伝わってこない。左足も、ほとんど無いに等しい。

ゆかり「ちよ!早く!」
ちよ「私は大丈夫ですから、早くよみさんを!神楽さんだけじゃぁ・・・」

私はよみを見た。本棚の下敷きになっている。あれじゃぁ、二人で持ち上げることは可能だけど、誰がよみを出す?ちよじゃ無理だ。
そう思っている時、
ガクッ
あれ、力が抜けていく・・・ 私は改めて自分を見た。左腕と左足はすでに黒こげだ。
力が入るどころか、立っていられるのも不思議な状態・・・
気が遠くなってきた・・・ 煙を吸いすぎたのかな・・・ だめ・・ だ・・・ 意識が・・・

525 :眠い名有り :2003/11/25(火) 19:45 ID:UkO/nGe6
ここは・・・ どこだ?
私はいつの間にか草原にいた。辺り一面に青々しい野原だ。太陽が降り注いでいて、寝転がるととっても、気持ちよさそうだ。
ふと見ると向こうに小川が流れている。何かに誘われるように私は小川へ歩いていった・・・
小川の向こうに人影が見える。よく見て、私は思わず声をあげた。
私「大阪!!」
紛れもなく、死んだはずの大阪が小川の向こうにいる!
じゃぁ、私も死んだんだ。ってことは、この川は三途の川ってやつか。
私はためらうことなく小川の側に行って、小川を越えようとした。
大阪「だめや智ちゃん!智ちゃんはまだ死んだらあかん!思いだすんや!智ちゃんは・・・」
私は思い出した。そうだ。私は火事の中で燃えた本棚を支えて、そのまま気を失ったんだっけ・・・
大阪「智ちゃんはまだこっちに来ちゃいけんのや!だからすぐ戻って!」
私だってそう思った。でも、お前と会うと・・・
私「私だってそう思うよ!でも・・!でもっ!!お前と別れたくねえよ!やっとまたお前に会えたのに!!」
大阪と一緒になれるなら、もう死んでもいい。そう思った。
大阪「なら、そのためによみちゃんも、神楽ちゃんも、ゆかり先生も見殺しにするんか!?
   今動けるのは、ちよちゃんと、神楽ちゃんと、ゆかり先生や。ちよだけじじゃ、榊とかおりんとにゃも先生を運べん。
   だから智は、このために皆を道連れにするのと同じやで!そんな智ちゃん私いやや!」
・・・そうだよな。私は私のためだけじゃなくて、皆のためにも生きなきゃならないんだよな。
私「そうだな。私が間違ってた。すぐ戻るよ!」
大阪「そうや、それでいつもの智ちゃんや!さぁ、早く戻って!」
私「ああ、わかった!」
私は戻ろうとして、ふと足をとめた。
私「大阪、見守っててくれてありがとう!お前がいなかったら今ごろ・・・」
大阪「ええんや。友達で、一番好きな人やから・・・」
私「大阪・・・ じゃぁな!」
私はまた戻った。私のため、大阪のため、そして、皆のために・・・・

526 :眠い名有り :2003/11/25(火) 20:03 ID:UkO/nGe6
このごろ思ったけどSSのわりには結構長い・・・

527 :眠い名有り :2003/11/25(火) 20:03 ID:UkO/nGe6
このごろ思ったけどSSのわりには結構長い・・・

528 :眠い名有り :2003/11/25(火) 22:07 ID:obrh9oog
上間違い。二度押してしまった。

529 :名無しさんちゃうねん :2003/11/26(水) 00:08 ID:???
ちょっとグロいです。

530 :眠い名有り :2003/11/26(水) 18:31 ID:WGCMASAI
>>529
ああ、手の部分ですね。
あれ、書いた後で思いました。。

531 :シーサーやいびーみ? :2003/11/26(水) 18:51 ID:biz7se9w
芥川賞もらえるんじゃないですか?
この作品は。

532 :眠い名有り :2003/11/26(水) 21:05 ID:???
>>531
そんなに簡単に取れたら苦労しません(笑)

533 :眠い名有り :2003/11/26(水) 22:14 ID:yMXaGx3.
私「う・・・ ぁ・・・」
目が覚めた。気絶したけどまだ支えてたみたいだ。でも、もう限界だ・・・
私「さ・・・ 榊ぃ・・・」
榊「何だ。」
私「頼むよ。動いてくれよ・・・ お前以外動けそうなやつはいない・・・お前だけが頼りだ・・・」
榊「ごめん・・・ ごめんな・・・ でも、私は・・・」
私「大丈夫だ。お前ならできる。あいつらを助けて・・・!!!!」
もうだめだ、左手だけじゃもうもたない!!かまうか!どうせもう使えない手だ!!
私「くそっ!!」
右手も炎の中に突っ込む。体勢の関係から、右足にも炎が当る。激痛と灼熱感が倍増・・・いや、それ以上になった。
でも、私は耐えた。大阪と皆の期待を裏切らないために・・・
私「榊ぃ。頼む!!お前ならできるさ。」
榊「うん、試してみる。」
榊が力をこめているのがわかる。手が少し動いた。そして、腕が動きはじめる。
私「榊!掴まれ!」
私は右手を差し伸べる。手が燃えてるので、壁に打ちつけて火を消してから、だ。
榊「でも、お前の手が・・・」
確かに私の手はボロボロだ。榊が掴まれば・・・ でもよみを助けるためならかまうもんか!!
私「いいから!掴まれ!お前が立たなきゃ皆死ぬんだ!」

534 :眠い名有り :2003/11/26(水) 22:18 ID:yMXaGx3.
榊「うん。すまない智・・・」
榊が私の手を掴む。
私「くっ、いいぞ!その調子だ!」
榊「智、ごめんな。」
私「いいよ。全然大丈夫だ。」
本当は激痛が伝わってきた。でも、榊を心配させたくなかった。
そして、とうとう榊が立った。
私「よっしゃぁ!いいぞ榊!」
榊「すまない、智・・・」
私「いいから、皆のところに早く!」
私はまた両腕で本棚を支えて、榊に言った。

535 :眠い名有り :2003/11/27(木) 19:58 ID:CrdjFbTI
よみ「ぅ・・・うぁ・・・」
神楽「よみ、大丈夫か!?」
よみ「神楽・・・私は死んでないのか・・・?」
神楽「ああ、死んでない、まだ生きてるよ!だからがんばれよ!!」
よみ「ああ。」
榊「それより、早くよみを運ぼう。」
神楽「榊!立てるのか!」
榊「ああ。智のおかげで。
  それより、私と神楽で棚を持ち上げるから、ゆかり先生はよみを引っ張って。早くしないと智が・・・」
よみ「智・・?あいつ逃げたんじゃ・・・」
よみがこっちを向いた。
よみ「!!!!智ぉ!!!」
私「私は大丈夫だから・・・早く!!」
ゆかり「わかったわ。さぁ、やるわよ!」
神楽「榊、行くぞ!せーの、1、2の、3!!!」
棚がゆっくり持ち上がる。そして、ゆかり先生がよみを引きずり出す。
榊「さぁ、行こう。」
ガラン!ガラガラ・・・・・
真上から鉄骨が落ちてくる!
よみ「智ぉぉぉ〜〜〜〜〜〜!避けろ〜〜〜〜〜!!」
でも、私は避けなかった。だって、私が避けたら・・・

536 :眠い名有り :2003/11/27(木) 20:02 ID:CrdjFbTI
ズン!
私「っっっっ!!!・・かはっ・・く・・ぁぁ・・・!!!かはっ!かはっ!ごほぉ!!」
一瞬の衝撃、そして激痛。さらに喉の奥から血が湧き上がってくる・・・
振り向かなくてもわかった。私の腹から鉄骨が突き出ている。鉄骨が突き刺さったんだ・・・
ただでさえつらいのに、これじゃぁ・・・早く!もう持たない!
その時、榊が私の横に来た。
榊「お前ががんばってるんだもんな。私だって!」
榊が炎の中に手を入れようとする。
私「榊、お前の手はまだ健康だろ!だから、私を支えてくれないか?これならお前、怪我しないしな。」
榊「ごめんな。智・・・」
榊は私の背中を押してくれた。かなり楽になった。ありがとう、榊。
そして、神楽とゆかり先生がよみを持って、こっちに来る。
よみ「智・・・お前・・・」
私「よかった。無事だったんだな。よみ。」
よみ「馬鹿やろう!人の心配してる場合かよ!!死ぬなよ!智!!」
私「大丈夫だよ。私は殺しても死なないような奴なんだろ。」
私は皆に微笑んだ。
榊「智、もういい!」
しゃべってる間に、よみ達はもう私を通り越していた。榊に引っ張られて、私はやっと炎から出られた。
そして、倒れた。手足は火傷でほぼ炭になっていて、腹部は鉄骨が貫通している・・・ 生きてるのが不思議なくらいだ。
死んじゃうのかな、私・・・そう思った。でも、何か嬉しい。皆が助かったからかな・・・
大阪・・・約束どおり、皆を守ったぞ。

537 :無題 :2003/11/27(木) 22:12 ID:???

「あなたは…!」
榊が驚きの声を漏らす。
「ははっ……お久しぶりです、榊さん。」
戸を開くと高校時代の友達が立っていた。印象も少し変わっていたが、泥まみれでびしょ濡れになっており、
ところどころきり傷も見られた。
「とにかく、あがって。すぐにお湯を沸かすから。」
シャワーを浴び、榊の服を着せてもらって、それでようやくかおりは人心地ついたようだった。
しかし、その顔に刻み込まれたような焦燥と不安のこわばりは抜けなかった。
「一体、突然どうしたんだ?」
もう、高校を卒業して何年もたっている。榊は獣医大を卒業し、研修医として動物病院の助手をしている。
仲の良かった友達とも、もう何年もあっていない。榊はときどきあのころを思い出してはせつなく甘酸っぱい記憶に浸るのだったが、
昔の面影を残したかつての友人がいきなり現れたことには、まるで夢でみた人が不意に目の前に現れたようで、戸惑いを隠せなかった。
「実は私、今はフリーのジャーナリストをやってるんです。」
「かおりんが……」
そういえば、彼女は天文部で、カメラの扱いにも長けていたっけ。記憶の底をさらう。
「大学でて、やりたいことをみつけて、はりきってたんですけどね。ちょっとドジ踏んじゃって……。」
「………」

538 :無題 :2003/11/27(木) 22:14 ID:???
かおりの話は大体このようなものだった。自分の先輩であり、よく面倒をみてくれていた同僚が行方不明になった。
彼はそのころ危ないスジの取材を手がけていたらしい。この国の首都にあるアジア最大の歓楽街。最近そこで勢力を伸ばしつつある、
外国系のマフィアの実態調査。その途中、突然消息を立ったのだ。かおりの手には原稿が残されていた。彼が姿を消す前に残した…。
「それで、私気になって深入りしちゃったんです。そしたら、誰かに狙われ始めて……」
俯き、か細く震えはじめる。心のそこから恐怖しているようだった。
「自宅も危なくて、警察も当てにならないし、私、誰も頼りに出来なくて。それで以前、榊さん地元紙に出てたでしょ?
主席で大学獣医学部卒業したって。今度取材しようとおもって調べてたんですよ。それで、ついここへ…。」
「………」
「ご、ごめんなさい!こんなことに巻き込んで。邪魔だったらすぐ出て……」
榊は黙って首を左右に振る。
「気にしないで。ここでよければずっといてくれていいんだ。」
「榊さん……」
トコトコと、変わった毛並みの猫が近づいてきた。
「おいで、マヤー。」
マヤーは榊のひざの上にのっかると丸くなる。
「榊さん、猫飼ってるんですね。」
「うん、ずっと夢だったから。ペットOKのマンションを見つけるのは大変だった。
――かおりん、疲れてるだろう?先に寝るといい。そこのベッド使って。私は床で寝るから。」
「そ、そんなこと出来ませんよ!私が床で寝ます。」
榊も頑として譲らなかったが、結局はその晩二人で一緒のベットで寝ることとなった。夜も更け、静寂があたりを支配する中、
二人は同じ床で一夜を過ごす。何かに怯えるように寄り添って。

539 :無題 :2003/11/27(木) 22:15 ID:???
「――私、榊さんに憧れてたんです。」
「え?」
「かっこよくて、凛々しくて、そのくせ物静かで優しくて……。」
「そんなこと……無いよ。」
暗闇の中、隣でかおりがぶんぶんとかぶりを振るのがわかる。
「ううん。榊さんは本当に素敵で…。それで私、榊さんに負けないくらいかっこよくなりたくて。
もちろん、私なんかじゃそんなのとても無理だけど、何かやりたいことみつけて、一生懸命努力して、
そうしたら、いつかきっと、榊さんに負けないくらい輝くようになれるって。そうしてまた榊さんと会えればいいなって…。
でも、私なんかやっぱり駄目ですよね。こんなことになって…。榊さんに迷惑かけて…。」
榊の腕が伸びてかおりをぎゅっと抱きしめた。
「ふぁ!さ、榊さん…?」
「かおりんは駄目なんかじゃない。今だって十分輝いているよ。一生懸命やって傷ついて。だけど、私はそんながんばってるかおりんが好きだな。」
「榊さん…」
榊の腕の中でかおりが震えた。二人はそのまま夜があけるまで抱き合っていた。

540 :無題 :2003/11/27(木) 22:18 ID:???
「ただいま――」
榊は買い物にいった帰りだった。かおりと二人分の食材と生活雑貨を揃えなければならない。
マヤーのキャットフードも切らしていた。
(変だな……?)
返事がない。かおりはマヤーと留守番しているはずだった。
リビングに足を踏み入れる。
そこで、彼女は奇妙なものを目にした。
(ぬいぐるみの切れ端?)
ぬいぐるみの腕のようなものが転がっている。一個だけではない。頭も――
「ひっ!?」
それはぬいぐるみではない。
マヤーの頭部だった。切断されたマヤーの肢体だった。
内臓を垂れ流した頭部も転がっていた。
「あ…あぁ……」
(ウソだ……ウソ……ウソ……)
何かが急に背中に襲いかかってきた。鋭い痛み。腕をねじ上げられ、口を封じられて床に押し倒される。
そして目にした。押入れのなかにいるかおりを。喉をパックリとさかれたかおりを。
「むぐううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
隠れていた男たちが出てくる。腐った魚のような目をした男たちが。何やら喋っていたが、首筋に衝撃が走り、榊は気を失った。
彼女は知る由もないが、男たちは福建方言でそいつもなかなか上玉だ、はやく咥えさせたいだとか、さっきの女は歯を建てやがったから
首を掻っ切ってやったが、そっちは期待できそうだとか、そいつは薬漬けにして外国に売り飛ばそうだとか、マニアの上客がいて、
手足を切断してダルマさんにすれば高く売れるだろうとかいう内容のことを話していたが、やがて黒いビニールの袋にかおりの遺体と
榊を包むと、外に止めてある車に詰め込んだ。

541 :眠い名有り :2003/11/27(木) 22:48 ID:/f2PFmB.
>>537-540
うお!新作!!
相変わらず幸薄なかおりんですね。
ああ、榊さん。これからどうなるんでしょうねぇ。。
他のメンバーも出てきてほしいデス。続編が楽しみ・・・

542 :うちゅー ◆ZzAZUxozdw :2003/11/28(金) 00:00 ID:???
完全に小説ですねこれ。

543 :名無しさんちゃうねん :2003/11/28(金) 00:24 ID:???
わーい楽しいぞ。

544 :無題 :2003/11/28(金) 17:55 ID:???
>>537-540の続き

半年が経った。

今、一人の女性がデスクについて何やら調べものをしている。年のころは23、4。小柄だが、スーツの良く似合う凛とした女性である。
「おい、滝野。何を調べている」
「ああ、先輩。ちょっと行方不明事件を」
滝野智はディスプレイから目を離して、中年の刑事に返事をする。智は婦人警察官になっていた。
高校のころはICPOになりたいなどとふざけ半分にいっていた。そのときの友人の誰一人、
本気になどしなかっただろう。ただ一人、彼女自身を除いては。
「行方不明?――あぁ、そうか。お前の学生時代の友人が自宅マンションから行方不明になったってな。
まだ解決してないんだよな…」
黙って再びディスプレイを凝視する。はじめ事件を聞いたとき、智は愕然とした。テレビでみる警察ものに憧れて、
ICPOとまではいかないまでも、刑事課に配属される本物の警察官になることができた。しかし、自分の身近な人たちが
事件に巻き込まれるとは思いもしなかったのだ。すぐに飛んでいって、捜査に加わりたかった。
だが、管轄というものがあるということで、あきらめざるを得なかった。捜査が遅々として進まない中、
智は一人かつての友の行方を案じていた。
「それはともかく、仕事だ。いくぞ」
「へーい」
その日の仕事は、新宿でのひき逃げ事件の聞き込みだった。刑事は二人一組で行動する。
中年の刑事は新入りの智の教育係を兼ねていた。
「おい、今日はもう本署へ帰れ。俺は野暮用がある」
「はぁ」
パトカー乗っていっていいのかなとも思ったが、まぁいいかとキーを差し込んだ。
ネオンがきらめく中、車を走らせる。

545 :無題 :2003/11/28(金) 17:57 ID:???
「ったく、こんなとこで一体何の用なんだろうね、あのおっさん。――あれ?」
すれ違った瞬間、確かにみた気がした。すぐに振り向く。
しかし、人ごみにまぎれて見分けがつかなかった。
「榊…?」
車を停め、人ごみを掻き分けて進む。
――いた。
長い黒髪が目に付く。間違いない。後姿しか見えないが、女性が二人組みの男にはさまれるようにして連れて行かれている。
「待て、そこの!」
必死に声を張り上げるが、けたたましい騒音に阻まれて、届くことはなかった。やがて、人ごみにもまれる中、見失ってしまう。
「榊…どうして…?」

(榊のマンションは何者かによって踏み荒らされた痕跡があった。彼女が行方不明になったのは、何らかの事件に巻き込まれたからである可能性が高い。)

その晩、智は眠れない夜を過ごしていた。
(――榊)
学生時代の懐かしい思い出が胸をよぎる。思い出せば、あのころが一番充実していたかもしれない。
よみ、大阪、ちよちゃん、神楽、そして榊――。あれだけ素のままの自分でいられて、それで一緒に過ごせた友人は
後にも先にも彼女たちしかいなかった。やがてそれぞれの道を行きはじめ、顔を合わせることも無くなった今も、
彼女たちとの思い出は、智の心の一番大切なところにしまいこんである。あたかも、色あせていくあのころを惜しむかのように。

(待ってろ。この智ちゃんが助けてやるよ、榊――)

546 :無題 :2003/11/28(金) 18:00 ID:???
翌々日。智は例の場所を歩いていた。今日は非番である。行方不明の榊をみたことをすぐに本署に知らせるべきかもしれなかったが、
まだ知らせていない。いかんせん確信が出来ずにいたのである。それに、何より、また蚊帳の外に置かれるのは御免である。
一人で真相を掴みたい。その思いが強くて、それでこのあたりをうろついていたのだ。

「ねぇねぇ、そこで何してんの?暇だったら話だけでもきいてくんない?」

(――またか)

これで三人目である。きょろきょろしながら私服でぶらついている彼女は、ナンパ待ちか田舎から出てきたばかりの小娘にみえるらしい。

「うっせー、失せな……」

途中で口をつむぐ。

(この男…)
目の前にいるチャラチャラした男。間違いない。一昨日みた男だ。

「でさ、俺ってこういうものだけど――」

智は口車に乗ってやることにした。

「痛えっ!てめえっ、なんのつもりだ!?」

小一時間ほど後。ホテルの部屋で、男は智に腕を取られてねじ伏せられていた。智はこうみえても逮捕術には自信がある。

「あんた、一昨日女を連れていたでしょ。黒い、ロングヘアの女。あいつをどうした?」

「あぁ?ふざけたことぬかしてるんじゃねぇよ、マジでぶっ飛ばすぞ!」

獰猛に凄んでみせる男の背中に冷く硬い感触が押しつけられた。署から勝手に持ち出したニューナンプ拳銃である。
ゆっくりと撃鉄を引く。

「そっか――。じゃ、死んでもらうしかないよねー」

547 :無題 :2003/11/28(金) 18:02 ID:???
勿論、本気で撃つつもりはないが、拳銃の効果は覿面だった。男は油紙に火がついた如くペラペラと喋った。智は飛び出すと、公衆電話を探して走りまわる。
「すぐに、本署へ連絡を――」
「おい滝野、そこで何をしている」
振り向いた。先輩の中年刑事だった。
「あっ、先輩――」
途中で、一瞬言いよどむ。中年の刑事は、いつになく険しい顔をしていた。まるで智を睨むかのようである。
「今日は非番だったな。こんなとこで何をしている」
そうだ。このことを知らせなければ。智は堰を切ったように喋り説明した。行方不明の友人を見かけたこと。彼女は外国マフィアともつながりのある犯罪組織に監禁されていること。
重要な参考人を確保したから、本署へ至急連絡をとろうとしているということ。
「それで、もう連絡はしたのか」
「それが、肝心なときに携帯の電源切れちゃって」
実は例の男と揉みあったときに、携帯を水の中に落としてしまったのだ。今日はあくまで公務ではないのだから、パトカーも無く無線も使えない。
「――そうか」
彼は何やら考え込んでいたが、しばらくして切り出した。
「実は、その組織は四課と組んで内偵中なんだ。極秘にな。」
「え?」

548 :無題 :2003/11/28(金) 18:03 ID:???
「一昨日も、そのことで出ていた。それでな、そのことは署に連絡しないでくれないか?」
「どうしてですか?」
「言っただろ。極秘だって」
智は納得の行かない顔である。中年刑事は声をすこし落として、
「ここだけの話だがな。うちのなかに内通者がいるみたいなんだよ」
「ええっ!?」
「信じたくないが、事実だ。情報が筒抜けになっている。このことは署長と俺としか知らないんだが。
とにかく、秘密裏に捜査を進めねばならん。それで、今おまえにそのことを知らされるとまずいんだ…」
「そんな!じゃあ、榊は、私の友達はどうなるんですか?」
「心配するな。もう証拠は大方掴んでる。応援は要請しておいた。今夜踏み込もう。ついて来い」
智の顔がパッと輝いた。
「はいっ!」
その建物まで、車で走る。組織のボスはわずかな人数でここに来ているという。
今なら踏み込めるはずだと。
(あぁ、この瞬間。この瞬間のために、あたしは刑事になったんだ)
銃を両手に構えながら階段を駆け上がる。まるで昔テレビみたFBI の女性捜査官のようだ。
(榊、待ってろよ。あたしが今助けてやる――!)
扉を蹴って踏み込んだ。
「銃を捨てろ!」

549 :無題 :2003/11/28(金) 18:05 ID:???
室内にいた男たちが手を挙げる。
ベッドにうつぶせになっている長い黒髪の女性は――。
「榊!」
「――なんだ、知り合いか」
上半身裸で、タバコをふかしている男が声を出す。平然とベッドに腰掛けている。

「動くんじゃない!」
その男に拳銃を向ける。
「物騒だな、ねえちゃん。」
「榊をどうした?」
「女、裸にしてすることは一つだろ」
「両手を組んで跪け!」
「そう、怖い顔するなよ、ねえちゃん」
「さっさと跪け!さもないと――」
言い終わるか言い終わらないかのうちに、智の体がビクンと痙攣した。力が抜けて膝を折る。
後ろには中年の刑事が立っていた。硝煙の立ち昇る銃を智に向けながら。

「あっ?」
疑問の声と同時に、コフっと赤黒い血の塊を吐いた。

550 :無題 :2003/11/28(金) 18:07 ID:???
「言っただろ、内通者がいるって」
中年の刑事は、抑揚の無い声で呟く。
「なんで?」
そう言おうとした智の口から言葉は紡がれない。変わりに口から溢れだすのは多量の血。
口に手を当て咳き込みながら、むせるように血を吐く智の前で、ベッドに腰掛けた男が漏らしはじめる。

「最近は暴対法のお陰でやりづらくね。外国系のヤツらにやられっぱなしさ。連中は日本の流儀が通じないだけたちが悪い。
御国とジュクの秩序を守るためには、お巡りさんとも仲良くしなくちゃならないのさ」
弾は智の肋骨の下から入ってわき腹から抜けている。出血量からして肝臓を貫通しているのは間違いない。
痙攣が、だんだん弱弱しくなってくる。
「せっかく助けに来たのに、残念だったな。そいつは人違いだよ。似てるだけで、ただの家で娘さ。ま、どの道この女は駄目だよ。
シャブ漬けになっちまっている。もう、自分が誰かも分からないみたいだぜ。思わぬ掘り出し物だったんだが、そろそろ中東の方に
でも流すことにするよ。なんだったら、バラして臓器密売でもわるくない。そういや、たぶんお前がいってた女だと思うが、同じように
バラされたらしいだぜ。確か、福建系の流氓が人体売買ブローカーに流したって話だ。とうの昔にな」
「お前がここを突き止めたときはゾッとしたぞ。だが、携帯の電源が切れてたとはな。つくづくお前も間抜けだな。
――おや、もう死んでしまったのか?」

ベッドに腰掛けた男がうなずく。
「それじゃ、ご苦労だったな」
そのとき、ベッドの上の女性がなにやら声を出す。
「あーうー」
もう、人の言葉は喋れないようだった。
智の虚ろな瞳はそれを聞くともなしに聞いていたように見えた。

551 :眠い名有り :2003/11/28(金) 18:38 ID:SFC80TM6
>>544-550
ああ〜〜バットエンドになるのかなぁ〜〜〜

それよりも、自分も続き書かなきゃ。。
>>484-536の続き〜〜
がんばるぞー!!

552 :眠い名有り :2003/11/28(金) 19:09 ID:SFC80TM6
神楽「くそっ!行き止まりかよ!!」
私達が来た道は崩れて通れなくなっていた。
榊「炎がこないだけましさ。それより、智、大丈夫か?」
智「あ、ああ、大丈夫だ。」
私はピースして答えた。けど・・・嘘だ。もう喋るだけでも激痛が走る・・・
よみ「智・・・」
ふと見ると、よみが泣いてるのがわかった。
私「よみ・・・泣いているのか?」
よみ「当たり前だろ!お前本当に馬鹿だ!!何でそんなになるまで無理したんだ!」
私「友達だからだ。それ以外に理由がいるか?」
ちよ「智ちゃん・・・」
神楽「まずい、煙が来た。もう逃げられないぞ・・・」
榊「ごほっ!ごほっ!!」
ドサッ!
ちよ「榊さん!!」
神楽「大丈夫だ。まだ生きてる!」
無理も無い。私が、半強制的に立たせたんだから・・・
ちよ「よみさん!しっかりして!!」
よみも気絶していた。骨折もしてるからな・・・

553 :眠い名有り :2003/11/28(金) 19:11 ID:SFC80TM6
神楽「今度は私が助ける番だよな・・・」
神楽が私の口にハンカチを巻く。
私「神楽!それはお前がつけろ!だって、私は・・・もう・・・」
死んじゃうから・・・
そう言いたかった。けど、言葉にならなかった。やっぱり死ぬのは怖い・・・
神楽「馬鹿野郎!!最後まで諦めるなよ!!最後の最後まで諦めるなよ!!」
・・・そうだ、さっき大阪にも言われたっけ。
私「ああ、神楽ありがとう。がんばるよ。最期まで・・・」
神楽「ああ、そうしてくれ・・ごほっ!ごほっ!ごほっ!!」
私「神楽!?大丈夫か!?」
気絶したみたいだ・・・でも、息はあった。
ちよ「ごほっ!ごめんなさい。智ちゃんが一番つらいのに・・・」
私はちよの頭を撫でながら行った。
私「いいよ。お前らもつらいんだから・・・ちよ?」
ちよも気を失っていた。
一人になった私は思い出していた。
走馬灯のように思い浮かぶ私の人生。
よみとの出会い。中学、そして高校。皆との出会い、思い出。一番つらかった大阪の死。・・・全部懐かしかった・・・
そういえば、人って死ぬ前に人生を思い出すって言うよな・・・ やっぱり私、死んじゃうのかな・・・
でも、後悔はしていない。皆が生きている。そして、私も皆の心の中で行き続けられる。
そんなことを思うと、死の恐怖はなくなっていった・・・

554 :メロン名無しさん :2003/11/29(土) 12:42 ID:???
ラストスパート! がんがれ〜

555 :シーサーやいびーみ? :2003/11/29(土) 13:01 ID:9LsqTf8Y
あれ?意識のある人いるの?

556 :眠い名有り :2003/11/29(土) 13:58 ID:???
>>555
いないよ。

557 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:46 ID:???

 智は震えていた。顔は蒼ざめ、脂汗を流している。
 この日、智は上の空であった。教室に入っても、そんな調子が続く。
やがて朝の予鈴が鳴り響き、授業が始まる。しかし、そんなものは智の頭に入らない。

 あの晩、智は山の中にいた。近所にある山。さびれた住宅地の最奥に裾野を広げている山。
むしろ、山の裾野にまで住宅地が食い込んでいるといった方が良いだろう。そんなどこにでもあるような、
名も無い山の奥深く。智は息を殺してそれを見つめていた。

 穴を掘っている。顔ははっきりとは見えない。フードをかぶったやや細めの人物が、穴を掘っている。
ザッ、ザッ、というスコップの音が、闇の中、木霊するように響いた。

(一体、何をやっているんだ?)

 智は訝しがった。だが、これだけは分かる。決して、自分が隠れていることを知られてはならないと。
智の危険を知らせる本能がそう告げていた。その人物が、何やら陰から引きずり出した。黒い、大きなビニール袋のようだ。
なにか重たいものが入っているらしい。力任せに引っ張ると、地面に投げ出した。その瞬間、みた。袋から勢いよくはみ出したものを。
――すなわち、脳みそを垂れ流した人間の頭部を。

「うわっ!」

 ――しまった、と思ったときには既に遅い。フードを被った人物が、はじけたように振り向いた。
 スコップを手に猛まじい速さで智に向かってくる。殺気がこめられた、あの凄まじい目。 あの目がすぐ目の前にまで…。

558 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:46 ID:???

「うわあああぁぁぁぁぁ!!!!!」

 教室の生徒が一斉に振り向いてくる。気がつくと、智は自分の席に突っ立っていた。
ようやく我に返る。自分は教室で授業を受けていたのだと。教室にしらけた空気が流れた。
「す、すいません。寝ぼけてましたぁ!」
 慌てて席につく。クスクスと、どこかから女子のあざ笑う声が聞こえてくる。さすがに、今回は智もばつが悪い。
「まったく、智は能天気でいいわね」
 女教師のいやみに、ドッと哄笑が巻き起こる。智は俯いて聞いていた。

「気を取り直して…。えーと、あれ、今日、ちよちゃんどうしたの。分からないだって?じゃ、次は…」

559 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:46 ID:???

(はぁ、今日は散々だったな)
 トボトボと帰路についた。夕日の中、智は一人で歩いていた。

(あっ、そういえば。帰りに寄るところがあるんだっけ)
 ふと思い出して、ポケットの中に手を突っ込む。

「あれ…、ない?」

 必死になってまさぐりはじめる。ポケットを裏返したり、上着を脱いでひっくり返してみたりするが、一向にみつからない。

(無い! 生徒手帳が無い!!)

 智の顔から次第に血の気がぬけていく。
確かに昨日、ポケットに財布と一緒に入れてあったはずなのだ。それがないということは――。

「まさか、落とした…?」

 ――あの場所に。

 間違いない。あのとき、逃げるうちに落としたのだ。生徒手帳には智の住所氏名と写真とが記載されている。
もし、あいつが拾っていたら――

気がつくとあたりはすっかりと暗くなっていた。ぞっとする。いつのまにこんなに日が暮れたのだろう。
黄昏はとうに追い払われて、闇がすぐそこまで忍び寄っていた。恐怖の始まりが…。

 誰かの足音がした。自分を追って。まっしぐらに自分を目指してくる足音が

560 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:47 ID:???

「ひ、ひぃ!」

 智は走り出した。
(助けて! 誰か助けて!)

 恐慌をきたし、涙・鼻水を垂れながして、ひたすら走りに走った。いつもの無鉄砲で気の強い彼女の面影は無い。ただ、走った。
――しかし、足音は追いかけてくる。どこまでも、智を追って。

 いつまで走り回っていただろう。もう、3時間は走っているようにも思われるし、まだ30分そこそこしか経っていないような気もする。
わずかな街灯が照らす闇の中、走り回り、逃げ惑ううちに、方向感覚も、時間感覚も失われてきた。自分が誰なのかさえ薄らいでくる。

 ただ、恐怖だけが後ろから追ってきた。その恐怖が、ひしひしと伝わってくる恐怖が、しだいしだい距離を縮めるたびに、
自分の内なる感情が突き抜けていくのを感じた。智は、ほとんど笑いながら走っていた。

「きえエエエエエエエエエエエエ!」

 闇夜の中、ぼんやりと明かりが見える。――交番だ。あそこに駆け込めば助かる!
 しかし、智は通り過ぎた。ある感情に歪んだ顔で。

(あたしは、警察にはいけない。助けを求めることはできない。だって――)
 その感情とは――、

(あたしは、ちよちゃんを殺したんだから!)
 即ち――――狂気。

561 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:47 ID:???

あの晩、智は死体を埋めに来たのだ。自分が殺したちよの死体を。ほんの些細な事故だった。

 ガードレール上の、段差になっているところ。下は十数メートルほどのコンクリートの断崖だった。
いつものように、高いところが苦手なちよを脅かしてやろうと、かるく押しただけだった。

それが洒落にも冗談にもならないことに気づいたのは、下で砕けて脳を散乱させたちよの頭をみたときだった。
しかし、智は少しも絶望しなかった。 かえって、どうしようもないくらいの愉悦がこみ上げてくるのを感じた。

憎んでいたのだ。私は、ちよのことを。そのことに気づき、智は胸がすっとするように感じた。

頭が良く、天才で、大金持ちで、家庭にも恵まれ、 友人にも親しまれ、謙虚なそぶりで、ひとなつっこく、
誰からも好かれ、将来を約束された、あの糞餓鬼。あの糞餓鬼を

ブチ殺してやりたい、 虐め殺したい、なぶり殺してやりたい、犯り殺したい、殴り殺したい、蹴り殺したい、刺し殺したい、突き殺したい、
撃ち殺したい、轢き殺したい、 焼き殺したい、絞め殺したい、斬り殺したい、バラバラに殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、
殺したい、殺したい、殺したい、 殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、
殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、 殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい、殺したい!

 密かに心のそこから渇望し続けていたのだ。そのことを知り、腹のそこから笑いがこみ上げてきた。
 愉快で愉快でどうしようもなかった。

「ひゃはあぁははっはあっはあははははああっはああ!」

智は絶頂のかなたにいた。恐怖が彼女の殻を壊し、狂喜の生々しいエネルギーを解放させていた。
いつもは小出しに、 日常の暴走した振る舞いという装いで発散させていた狂気を。

562 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:48 ID:???

 目の前に石ころが転がっていたらしい。彼女は派手に転んだ。
 腕や顔をすりむき、血が噴き出す。しかし、そんなことは意に介さない。

「ひっひっひっ、ひひひひ」

 うずくまり、しばらく痙攣したように笑っていた。意識は次第に沈静化してくる。いや、鈍化といった方がよいだろう。
あのとき、本当ならすぐに警察に駆け込むべきだったのだ。だが、それには、あの山であんな時間に自分が何をしていたか
説明しなければならない。 そんなことをすれば、ちよを殺したことまでばれてしまうのは目に見えていた。それで、一人で
怯えていなければならなかった。彼女は今、恐怖から解放されつつあった。――狂気によって。

「――滝野さん。そんなとこで何してるの」

 ぼんやりと、智は振り向いた。

「黒沢せんせい?」

 黒沢みなもが立っていた。微笑みながら。

563 :くろまんが大王 :2003/11/29(土) 18:48 ID:???

「どうしたのよ、いったい。ああ、手だって擦りむいてるわ。顔だって。こっちいらっしゃい」
ぼんやりと、言われたままにみなもに近づく。みなもが智を抱きとめるようにして手を伸ばす。

手にはハンカチが――

瞬間、智は喉にあついものが走るような衝撃をうけた。次の瞬間には視界が赤一色に染まった。
みなもはナイフを隠し持っていた。智の喉は真一文字にぱっくりと裂かれていた。

「だめよ、覗き見なんかしちゃ。」
まるでやんちゃな男子生徒を叱るような口調でいう。例の微笑みを浮かべながら。

「あ…ぁ……」

智は口をぱくぱくとさせて何かいおうとしていたが、声にならない。喉から噴水のように血を噴き出しながら、
ただ、ヒューヒューと風を切る音がするだけだった。

「滝野さんが悪いのよ。本当だったらあなたは殺さずにすんだのに。よりによって、あんなところをみられるなんて。
彼ね、とってもいい人だったのよ。だけど浮気性だったの。それで、つい殺しちゃったのね。でも大丈夫よ。
ゆかりもたまに嫌な相手を殺してるから。私たち、協力しあってアリバイ工作は完璧なのよ。それで今度、二人で
木村を殺そうって話になってね。あなたのお陰で良い予行演習になったわ。――あら、もう死んじったの。」

みなもは智が聞いていないことを知ると、智の死体をまるで粗大ゴミでも扱うかのように黒いビニール袋に詰め込んだ。
その晩、例の山には新しい穴が掘られた。三つ目の穴が。

564 :眠い名有り :2003/11/29(土) 20:46 ID:yMNTRO.M
おお、さらに新作!!
自分もそろそろ完結させなきゃ。。

565 :眠い名有り :2003/11/29(土) 21:32 ID:yMNTRO.M
私「う・・・ぁ?」
気がつくとまだ瓦礫の上だ。
でも何でだろう、体が妙に軽い。フワフワ浮いてるような感じだ。
ちよ「智ちゃん・・・」
私「神楽!ちよ!生きてるな!!」
神楽「ああ、皆も、大丈夫だ。」
よく見ると皆寄り添っている。この調子なら皆大丈夫だ。
よみ「う・・ぁ・・智・・・っっ!」
私「大丈夫か?骨折れてるんだろ、無理するな。」
よみ「お互い様だろ。」
気がつくとよみが泣いている。神楽も、ちよもだ。
私「どうしたんだよぉ!皆助かったんだろ!何で泣くんだよ!!」
ちよ「だけど・・・だけど、だけどぉ!」
かおりん「いや、何でも無いんです。煙がちょっと・・・」
その時、榊とちよの間からが焦げている髪の毛が見えた先。
私「なぁ、その髪・・・榊の?」
榊「うん、ちょっと焦げちゃって・・・」
ゆかり先生が思いつめたように泣きそうな声で言った。
ゆかり「智・・・自分の手を・・・見てみろ。」
言われたとおり、私は手を見た。
火傷がなくなっている。足の火傷も。腹に刺さった鉄骨も・・・
私「嘘っ!?何で?何で!?」
よみ「そうじゃない。手を・・・私の顔にかざして見てくれ。」
ちよ「よみさん!!」
よみ「いいんだ。それが・・・智のためには一番いいと思う。」
神楽「私も・・っっ!同じ意見だ。」
どうしたんだよ!?そう思いつつ手をよみにかざした。
私は目を疑った。手によみの顔が映ったんだから。いや、映ったんじゃない。透けている。私の体が透けている!
じゃぁ、私は・・・私は・・・!!!

566 :眠い名有り :2003/11/29(土) 21:33 ID:yMNTRO.M
私「なぁ、こんなの嘘だろ!冗談じゃ・・・!!!」
私は神楽の肩を掴もうとした。でも・・その手は・・神楽をすり抜けた。
神楽「できれば・・・言いたくなかったんだけどな。私だってこんなこと信じたくない。」
私「じゃぁ・・・じゃぁ、榊。お前の・・・」
榊「ああ、私のじゃないよ。グスッ!でも・・お前には見せられない!」
やっぱり、この中で榊以外、あの場所に髪が出ることは無い。じゃぁ、あの髪の毛は・・・!!
私「皆、もういいよ。だから・・・ちよ。そこどいてくれないか?私だって、本当のことを知りたい。」
榊は動けないからちよに動いてもらおう。もう覚悟はできている。きっとそこには・・・
ちよ「うん。ぐすっ!」
ちよがどいた。
やっぱりそうだった。そこには「私」がいた。いや、「私だったもの」と言ったほうがいいな。
手足はもうボロボロで、腹には鉄骨が突き刺さっている。よくこれで生きてたもんだよな・・・
でも・・・そんな状態なのに・・・笑ってる。
よみ「本当に・・・お前らしいよな。大阪と同じように笑って死ぬなんて・・・」
そうだ・・・大阪もこんな気分だったんだろうな・・・つらいけど・・・皆を悲しませたくなかったんだろうな・・・
あの時はわからなかったけど、今ならあいつの気持ちがわかるような気がする。
    智ちゃん・・・とうとう死んでもうてんな・・・
私は振り向いたそこには私の一番愛している人・・・大阪がいた。

567 :眠い名有り :2003/11/29(土) 21:35 ID:yMNTRO.M
私「!!」
よみ「うそっ・・・」
神楽「大阪・・・本当に大阪なのか!?」
大阪「ああ、正真正銘私や!」
私「大阪ぁ!!うわぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!」
私は大阪に抱きついて、泣いた。今度は通り抜けなかった。霊同士だからかな・・・
やっぱり、大阪と一緒にいると、自分に正直になれた。
大阪「智ちゃん・・・・」
私「大阪ぁ!会いたかった!お前といないと私・・・素直になれないから・・!」
大阪「智ちゃん・・・!私もや!本当は、智ちゃんと会ったときにすごく嬉しかったんよぉ!
   でも、素直になれんくて!!ごめんな!智ちゃん!」
私「いいよ。私だって、お前がいなきゃぁ、皆を助けることはできなかった!ありがとう、大阪!」
大阪「智ちゃん!!」
しばらく時がたった・・・数分のようにも数時間のようにも感じた。
私は自分と大阪の涙を拭きながら言った。もうわかってたから・・・
私「行こうか、大阪」
大阪「えっ。」
私「私はまだ三途の川渡ってないからな。」
大阪「でも、いいん?皆と・・・」
私「ああ、別れをすませてからいこう。ここは私たちの居場所じゃないから・・・」
私はよみ達のほうに歩いていった。

568 :シーサーやいびーみ? :2003/11/30(日) 11:44 ID:t7s4McxM
智ーーーーーーー!!!!

569 :名無しさんちゃうねん :2003/11/30(日) 12:40 ID:???
あぁ、切ない……でも、いいSSです……。

570 :きわむ :2003/11/30(日) 20:16 ID:WAYZkE0.
マジ泣きした。

571 :眠い名有り :2003/11/30(日) 22:18 ID:/8lO0HLY
>>568-570ありがとうございます!
え〜〜自分のいきつけサイトが潰れてしまったので6番目だったこのサイトが5番目になったので、結構書き込む時間が長くなると思います。

572 :名無しさんちゃうねん :2003/12/01(月) 09:47 ID:???
ところで、「無題」と「黒まんが大王」の作者って同じ人?
「無題」って続くの?
続かないのなら、あらすじだけでも、今後の展開教えて!

573 :名無しさんちゃうねん :2003/12/01(月) 12:34 ID:???
>>572
同じ奴です。あれで簡潔です。
ちなみに>>463-467を書いた香具師も漏れです。

574 :名無しさんちゃうねん :2003/12/01(月) 12:41 ID:???
>573
わお! レスくれたよ! ありがとう!
ところで、ずいぶん仕事が早いけど、話っていくつかストックしてるん?
(昔書いたとしても、掲載したらそれはとんでもないことになりそうだけど)
(いや、似たようなSSに手をつけた自分が抱くほんのわずかな好奇心)

575 :名無しさんちゃうねん :2003/12/01(月) 13:14 ID:???
>>574
たまたま勢いに乗っていただけです。

>昔書いたとしても、掲載したらそれはとんでもないことになりそうだけど

これってどういう意味かよく分からなかったのですが。

576 :名無しさんちゃうねん :2003/12/01(月) 15:03 ID:???
>>575
ん、はっきり書かなくて戸惑わせてしまったようで。
昔の場合、ほのぼの系・萌え系のSSがたくさん出ており、
なおかつスレの住人もそれを望んでいたのではないかと。
そうなると、「死」や「グロ」が伴う作品はおのずと敬遠され、
荒らしを呼び……うーん、勝手な推測ですか?
もしかしたら書いたのはいいけど、自ら封印していたのではないかと邪推していたもので。
では、今後のSS活動頑張ってください。

577 :名無しさんちゃうねん :2003/12/01(月) 16:34 ID:???
>>576


578 :眠い名有り :2003/12/01(月) 19:17 ID:24hzXeLY
続編だ!!
とうとう智が天国へ・・・
でも、まだ最後じゃないです。次で最後の予定。

579 :眠い名有り :2003/12/01(月) 19:18 ID:24hzXeLY
私「皆、今まで迷惑かけたね。一人ずつ謝らせてくれないか・・・わっ、別れも、こめて・・・」
皆泣いている、大阪も、私も・・・
私「榊・・・」
榊「何だよっっ・・・」
私「あのさ、っっ、前にマヤー怒らせちゃったことあったよね・・・ごめん」
榊「そっ、そんなの気にしてないよ。お前も、っっ、気にすることないさっっ。」
私「そう・・ごめんな。

  かおりん、お前榊のこと好きなんだろ。」
かおりん「っ、はい、そうです。」
私「じゃぁ、がんばって榊にアタックしてけよ!応援してるぞ!」
かおりん「はっ、はい。ありがとうございます。っっ滝野さん・・・」

ちよ「う゛・・・どもぢゃん!!」
私「ちよ・・・今までいじめたりして・・・本当にごめんな。」
ちよ「ううん、ぐすっ!いいですよ。どっ・・・ともちゃん・・・逝かないでよぉ!」
私「悪いな。わっ、私だって・・死にたくないけど・・・ 私はこれでいいんだよ。これでな・・・」

神楽「智ぉ・・・本当に逝っちまうのか!?死なないでくれよぉ!」
私「神楽、なぁっ、っぐすっ!泣くなよお前らしくないぞっっ・・!あと、今度のインターハイがんばれよ!」
神楽「ああっっ!絶対優勝してやるっっ!!」
私「いいぞ!その調子だ!!

  ゆかり先生、にゃも先生。」
にゃも「滝野さん・・」
私「今まで調子に乗って迷惑かけてすみませんでした。」
ゆかり「そんなことはないわよ。わっっ、私達だって貴方のような明るい生徒を持ててよかったわ・・・」
私「先生、今まで本当にありがとうございました!」

580 :眠い名有り :2003/12/01(月) 19:20 ID:24hzXeLY
私「よみ。」
よみ「なんだよっっ!お前っ・・・」
私「長い間ありがとう。今までお前に何回も迷惑かけてきたよな。ごめん!!でも、今までありがとう!!」
よみ「馬鹿やろう!礼を言うのは私のほうだよ!今まで落ち込むこともあったけど、お前の明るい顔が全部忘れさせてくれた!
   智!お前がいなかったら私っっ・・・!本当に今までありがとう!」
私「ああ、よみ、ありがとう・・・!長い間お前といれて本当によかった!

  ・・・もういいだろ、私も・・逝かなきゃいけないから・・・大阪。逝こう。」
大阪「ああ、皆永遠のお別れや・・・さよならや、皆。」
私「じゃぁな、元気でな!!」
私達の足元から光が立ち込めて、私と大阪を包んでいく・・
最期に私は泣きながら別れを言った。
私「こっ、こんな別れ方をしなきゃいけないなんて思ってもみなかったけど・・っぐすっ!
  短い間だったけど、お前らとの思い出は一番の思い出だ!!本当にありがとう!!」
大阪「私もや!皆と会えて本当によかった!!ありがとな〜〜〜!!」
ちよ「智ちゃん、大阪さん!!」
榊「大阪っっ、智ぉ!!」
よみ「智!!大阪!!お前のこと忘れないからな!!!」
私「ああ!私も絶対忘れない!!絶対だぞーーーー!!」
神楽「ああ!絶対だ!!!」
かおりん「さよなら!滝野さん!!大阪さん!!」
大阪「皆〜〜〜!!!ありがとな〜〜〜!!」
視界が光に包まれたとき、最期に私は言った。
私「もし、こっちにこれたら、お前らのこと見守ってるからなーーー!いつまでもお前らの側にいるから!!!」

581 :眠い名有り :2003/12/01(月) 19:21 ID:24hzXeLY
さぁ、最後で最終回!!
がんばろーーー!!

582 :眠い名有り :2003/12/01(月) 21:21 ID:24hzXeLY
>>581
ミス。
>さぁ、最後で最終回!!
当たり前ですね・・(汗
次回で最終回・・・
のミスでした・・・
ちなみに次の小説はちよを主人公に使う予定。

583 :きわむ :2003/12/01(月) 22:08 ID:DDsBgc7k
次の小説も楽しみにしています。

とりあえず最終回はやくみて〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!

584 :名無しさんちゃうねん :2003/12/02(火) 09:00 ID:???
辛気くさくなくてよい別れですね。すみません、ありきたりなことしか言えませんが、とにかく最後まで頑張ってください。期待してます。

585 :シーサーやいびーみ? :2003/12/02(火) 18:17 ID:8T.OLfHA
あずまんがらしさがここにもでていますね。
悲しくお別れするのはあずまんがらしくありませんもんね。
がんばってください。

586 :シーサーやいびーみ? :2003/12/02(火) 18:19 ID:8T.OLfHA
すんません。ちょいまちがいました。
最後をつけるのわすれてました。
では、改めて、
さいごまでがんばってください。

587 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:45 ID:m3D4aZDs
さぁ!最終回だ!!

588 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:45 ID:m3D4aZDs
視界から光が消えていく・・・
私「ここは・・・あの三途の川だな。」
前にも来たことがあったからすぐにわかった。
大阪「智ちゃん、ええんか??この橋を渡ったら、ほとんどの人に、声も聞こえないし、姿も見えん。
  今まで見たいに皆と話すこともできなくなるんや。誰かを迎えに来るとき以外はな・・・」
私「ああ、いいさ。あいつらなら心でわかってくれると信じてるから・・・」
大阪「そうやな。さぁ、智ちゃん。」
私は大阪と手をつないだ。意を決して私は渡った・・・

あれから、やっぱり心残りでこの世に戻ってきた。
そしたら、私の葬式だった。
ちよ「ぐすっ・・智ちゃぁん・・・」
皆、喪服を着て泣いていた・・・
私は改めて自分の・・・今まで自分だった体を見た。
よくがんばってくれたよな。無茶してたのに、私の無茶に耐えてくれた。ありがとうもう一人の私、そしてさよなら・・・
私の体はその後火葬されて、墓に入れられた。新しい墓だ。中には大阪も眠っている。
大阪が手紙として書いてたみたいだ、新しい墓がほしいって。
そのことを知っていた私は、死んだらあの墓に入りたいって言ってたっけ・・・
私はふわふわ浮きながら私の体に別れを告げた。自分の葬式を見るってのは、なんか不思議なもんだった・・・

589 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:47 ID:m3D4aZDs
私達の高校生活最後の日。本当なら私達も卒業していたはずだ・・・
私「あれ!?」
卒業者名のところに「滝野 智」って書いてある。あ、「春日 歩」もある!
大阪「私達の名前があるね・・・」
私達は不思議に思いながら壁をすり抜けて教室に入った。
私達の席はすぐにわかった。花瓶と私達の写真が置いてあったから・・・私と大阪は隣同士だ。
よみが私達の席の側で泣いていた。
よみ「智、大阪・・・ よかったな。お前も一緒に卒業だな・・・ゆかり先生とにゃも先生に感謝しろよ・・・ぐすっ!
   お前達も卒業できるようにしてもらえて・・・」
そうか、あの二人が私達を卒業させてくれたのか。
榊が花を持ってきた、神楽も、ちよも、かおりんも、そして二人の先生も・・・
神楽「後で卒業証書、お前らの所に持っていくからな。」
ちよ「私はアメリカ行きますけど、智ちゃんのことは忘れません!!」
にゃも「お盆にまた貴方達のとこ行くから・・」
あ・・また涙が出てきた。・・・ありがとう、皆!またお盆に会おうな!


大阪「智ちゃん?おーい。」
私は大阪に起こされた。夢を見てたみたいだ。
私「ん・・ぁ、大阪。そうか、今日は・・・」
大阪「そうや、はよ行こな〜〜。」
今日はお盆。私達が里帰りする日だ。久しぶりにこの世に行く。皆が墓参りに来てくれるはずだ。

590 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:50 ID:m3D4aZDs
ミーーーーンミンミンミーーーーー・・・
蝉の声が鳴り響く。夏真っ盛りと言った感じだ。私達は私達の墓の上で浮いていた。あいつらを待って・・・
ちよ「こっちですよ〜〜〜」
あ、あいつらが来た!私達は地面に下りた。
よみ「久しぶりだな。智、大阪。」
よみが私達の墓に水をかけてくれた。
神楽がトロフィーを見せる。
神楽「ほら、インターハイ優勝したぞ!お前との約束守ったからな!!」
神楽・・・覚えててくれたのか。
ちよ「智ちゃん、大阪さん・・・」
ちよが線香を立てる。
ちよ「二人とも、私達の心の中で生きてます。だから・・離れてても・・・たとえ、いる世界が違っても・・・ いつも皆一緒です!」
私「ちよすけ・・・」
マヤー「ミャーーー」
榊「ほら、智、マヤーは怒ってないぞ。それに、ほら。」
私「クロ!!」
私の代わりに世話しててくれたのか・・・
榊「葬儀の時に私に懐いてしまってな・・・あと・・・」
かおりんが榊に抱きつく。
かおりん「私達、今一緒に暮らしてます!」
全員「え゛っ!!」
もちろん、全員が驚く。榊の顔がみるみる赤くなっていく。
かおりん「大学が同じなんで、二人で同じアパートに住んでます!」
榊「ああ。まぁ・・・」
大阪「ほんまに大胆やなぁ・・」

591 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:51 ID:m3D4aZDs
ゆかり「お〜〜〜!お前らぁ!!」
にゃも「皆早いのね〜〜。」
よみ「あ、先生。」
ゆかり「ほら、私たちも土産だ。智と大阪に。」
神楽「あっ、卒業証書。」
にゃも「ほら、皆。枝持ってきて・・・」
ちよ「え?何で?」
にゃも「いいから。」
皆が枝を持ってくる。ゆかり先生はその上に卒業証書を置いた。
神楽「そうか、この世のものじゃぁ、あいつら持てないもんな・・・」
ゆかり「5ヶ月遅れの卒業証書だ。大阪、智。」
シュッ!ボウッ・・・ボオォォォォォ・・・・
にゃも先生が枝に火をつける。そして、卒業証書が炎に包まれていく・・・
神楽「智っ、大阪っ。みんなお前達に励まされたんだ。ありがとな。」
ちよ「いつまでもっ!ふっ、二人のこと忘れませんよ!」
ゆかり「大阪〜〜〜〜!智〜〜〜〜!お前らはっっ、最高の生徒だったぞ〜〜〜!!」
にゃも「天国でも元気にしてるのよ〜〜〜!!」
榊「お前のおかげで、私達は幸せだ!ありがとう智!」
かおりん「大阪さん!滝野さん!また来年も来ますから!」
よみ「いつになるかわからないけど!私がそっちに逝くまで・・・っ!それまで待っててくれよ!」
皆が泣く・・・。でも、今までの涙とは違う。今からの私達の未来、それがまじった涙・・・
どう言えばいいかわからないけど・・・これは別れの涙じゃない。それは確かだ。
私と大阪の上から紙が落ちてきた。卒業証書だ。私達はそれを拾った。
私「ありがとう・・・皆・・」
大阪「智ちゃん・・・私達、いい友達と先生をもって幸せやったなぁ。」
私「ああ、最高の人生だったよ・・・」

592 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:52 ID:m3D4aZDs
いつの間にか日が暮れて、辺りが暗くなってきていた。
にゃも「それじゃぁ、そろそろ・・・」
ちよ「あっ、蛍ですよ!」
神楽「本当だ・・・」
ふわりふわりと明るい光が飛んでいる。綺麗だ。
かおりん「なんか、滝野さんや大阪さんや・・たくさんの魂が帰っていくみたいですね・・・」
榊「ああ、本当、そうだよな。」
ゆかり「きっと、あいつらも私達のこと見てるんじゃない。」
よみ「きっと・・・見ててくれますよ。私たちのこと。」
ちよ「きっとじゃないです!絶対見てますよ。だって、・・・いつまでも私たちの側にいて、私達を見守ってるって言いましたから!」
私「ちよ・・・」
やっぱり聞こえてたんだ。よかった・・
ふと、ちよがこっちを向いた。
ちよ「あっ!」
よみ「どうした、ちよ?」
ちよ「今、大阪さんと智ちゃんが見えたような気がしました。」
よみ「・・・そうか。私も見たかったな。あいつらの顔・・・」

蛍はゆっくり飛んでいく。私達の魂のように・・・私達の心を静めるように・・・



               最期まで笑顔でいてほしいから・・・・
                      〜Fin〜

593 :眠い名有り :2003/12/02(火) 21:56 ID:m3D4aZDs
え〜〜〜やっとこさ終わりました!
できれば感想を書いてくれると幸いです。
本編より完結編のほうが長いじゃないか!というツッコミはよしてください。

さて、次回作なんですが候補がありまして、
@記憶喪失、そのまま記憶を取り戻さず、新しい人生を歩む。
A記憶喪失、悲惨な過去を思い出し、それと戦いながら生きる。
B皆が自分を守って死んでいく・・・
C二人の心と体が入れ替わる。
え〜〜こんだけが候補としてます。。
主人公はちよの予定でしたが、あやふやです。上記の中から選んでもらえたら嬉しいです。

594 :名無しさんちゃうねん :2003/12/02(火) 22:15 ID:???
大阪板ってSSの保管庫あらへんの〜?

595 :眠い名有り :2003/12/02(火) 22:30 ID:rJYQ1kjU
>>594
あったらいいなぁ〜〜

596 :シーサーやいびーみ? :2003/12/02(火) 23:19 ID:8T.OLfHA
永久保管庫とか。

597 :名無しさんちゃうねん :2003/12/02(火) 23:21 ID:???
永代供養とか……

598 :きわむ :2003/12/02(火) 23:28 ID:tBLeRAYY
いい小説です。何回も泣かされました。最終回もかなり感動てき
でした。これからもがんばってください。

ちなみに次回作は
「記憶喪失、悲惨な過去を思い出し、それと戦いながら生きる」がいいです。

599 :名無しさんちゃうねん :2003/12/03(水) 12:38 ID:???
>>593
乙!
あなたが一番書きたいモノを垣田前。

600 :名無しさんちゃうねん :2003/12/03(水) 13:49 ID:???
>>593
入れ替わりネタはこのスレですでに榊と神楽が
入れ替わっているからかぶる部分が多くなるだろう。
書くとしたらそれに気をつけるべきだ。

601 :名無しさんちゃうねん :2003/12/03(水) 16:02 ID:???
個人的には榊とちよすけが変わっているのが面白いと感じるが。

602 :眠い名有り :2003/12/03(水) 18:09 ID:NOfg61a.
あ〜〜〜すみません、Aは一応死が入ります。
言うの忘れてました。
あと、主人公が変わる可能性もあります。

603 :眠い名有り :2003/12/03(水) 18:51 ID:0723N6rk
>>599
自分の書きたいものは上から順番ですが、そんなに差はありません。
だから、リクエストで、@かAで迷ってるところ。。

604 :眠い名有り :2003/12/03(水) 20:44 ID:vQjZSGCg
↑ミス@かAかCで迷ってます。

605 :名無しさんちゃうねん :2003/12/03(水) 21:58 ID:ljMDiLPY
4番の心が入れ替わるとゆうやつでともとちよの心が入れ替わるなんて
どうでしょうか?

606 :眠い名有り :2003/12/03(水) 22:13 ID:vQjZSGCg
入れ替わり、主人公については秘密。(フフフ
>>593
今のところ@0A1B0C1(2?)ですね。
でも、入れ替わりは前作並みに長くはならないと思う・・・
二位を次々回作にしよう。

607 :ケンドロス :2003/12/04(木) 00:02 ID:???
>>606
自分も別のスレで入れ替わりの話書いた事あります。
ただし、ここのスレほど深刻ではなく組み合わせも歩と榊でした。
という訳で誰と誰が入れ替わるかが楽しみなので4

608 :名無しさんちゃうねん :2003/12/04(木) 00:14 ID:???
マヤーと忠吉さんが入れ替わり……

609 :八八艦隊司令大阪さん :2003/12/04(木) 04:20 ID:???
マヤーと榊さんが・・・

610 :名無しさんちゃうねん :2003/12/04(木) 08:59 ID:???
全部書いてくれというのは反則か。
いや、いずれ全部書くのか?

611 :眠い名有り :2003/12/04(木) 17:47 ID:WRRzL3W6
今のところ@0A1B0C2(5?)ですね。
>>610
@Aは記憶喪失までのストーリーは同じです。
ABもかぶる可能性が高い・・・
C短いと思う・・・

612 :眠い名有り :2003/12/04(木) 17:59 ID:WRRzL3W6
一応次は入れ替わりで書こうと思うのですが、前作の本編並み(本編よりも完結編のほうが長い物語なのだ!(笑))
の長さで終わると思います。

613 :名無しさんちゃうねん :2003/12/05(金) 09:03 ID:???
ryoukai,tanosimini mattemasu.

614 :眠い名有り :2003/12/05(金) 17:00 ID:ZUA412DY
え〜〜今回は入れ替わりネタなので、主人公(私と使う人物)はいません!!
では・・・

615 :眠い名有り :2003/12/05(金) 17:13 ID:ZUA412DY
ここは教室なにやら智が本を読んでいる。
よみ「珍しいなぁ。お前が本とは・・・」
智「ふっふっふ・・これで私もちよすけを越える天才だ〜〜〜〜〜!!」
よみ「はっ?」
ちよ「ところで何の本ですか?」
     黒魔術
よみ「アホか!」
神楽「馬鹿決定だな。」
智「うるさい!!お前らは本当にこの黒魔術の恐ろしさを知らない・・・」
よみ「どんな恐ろしさだか。」
智「成功させたことだってあるぞ。例えば、よみに太れ太れと言ったら本当に!!っっっっっ!!」
よみ「貴様ぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜」
神楽「よみ・・・そのくらいで止めとけよ・・」
智「けほっ、けほっ!くそ〜〜〜そんなら証明してやる!!」
そう言って黒い飴玉のようなものを取り出す。
智はそれをかじって、
智「ちよ!こっち向け」
ちよ「なんですか?」
ポイ!
さっきの飴玉(?)の残りをちよの口に向かって投げた。しかし途中で二つに割れてしまったのだ。
そして、一つはちよの口へ・・
ちよ「(ガリッ!)けほっ!けほっ!何するんですか〜〜〜!」
そして、もう一つは・・・
大阪「ふぁぁぁ〜〜〜〜(パク!)ん?なんやこれ?」
智「あ〜〜〜〜〜!!!」
よみ「どうした?」
智「実は・・あ・れ・・・何か・・・眠く・・・(バタッ!)」
神楽「寝ちゃったよ。」
よみ「ちよ、大阪、お前ら一体・・・」
ちよ「すやすやすや・・・・・」
大阪「ふにゃ〜〜〜〜〜〜」
神楽「結局、睡眠薬か?あれ。」
よみ「さぁ?」

616 :眠い名有り :2003/12/05(金) 18:32 ID:MxtcHwB2
智「ん・・・ん〜〜〜〜!」
よみ「おお智、起きたか。」
智「あ、よみさん。私は一体・・・」
二人「へっ!?」
二人が驚いたのは無理もない。声と喋り方がまるでちよなんだから・・・
大阪「う・・・あ? うわぁ〜〜〜〜〜〜!!私!!?」
そう言って智を指差す。
智「何言ってるんですか!?私はちよですよ!大阪さん!寝ぼけないでください!」
大阪「何言ってんだ!?私は正真正銘滝野智だ!それに誰だお前!私のニセモノか!?」
ちよ「ふぁ〜〜〜?どうしたん?皆?あ・・・もう一人私がおる。まだ夢みたいやなぁ〜〜」
大阪「ちょっとちよ!どうしたんだよ!まるで声も喋り方も大阪じゃないか!」

617 :眠い名有り :2003/12/05(金) 18:44 ID:MxtcHwB2
ちよ「へ?智ちゃん・・・私のきぐるみでも着とるんか?よくできとるな〜〜でも、私そんなでかくないでぇ〜〜」
大阪「違う!私はきぐるみなんか着てない!!」
よみ「と・も・か・く。一体何がどうなってんだ!?」
神楽「こんなことになったのはお前のあの変な薬のせいだろうな。一体何作ったんだ、お前?」
大阪「その・・・その人の能力をコピーできる薬・・・」
よみ「本当に問題ばっか起こす奴だな!」
智「まず、状況を整理しましょう。つまり・・・私と智ちゃんと大阪さんが入れ替わったってことですか?」
大阪「そうみたいだな。ったく〜〜」
智「では、こういうことになりますね。」
智(の中のちよ)は図を書いた。

体: 私  ・大阪さん・智ちゃん
心:大阪さん・智ちゃん・ 私

智「こういうことになりますね。」
大阪「そうなるな・・・って大阪?何やってんだ?」
ちよは机の上からジャンプしてる。
ちよ「いや、ちよちゃんのこれ(髪)で飛べるかな〜〜〜思て。」

618 :名無しさんちゃうねん :2003/12/06(土) 13:36 ID:???
こう来ましたか。さて、どんな展開になるのか。

619 :シーサーやいびーみ? :2003/12/06(土) 18:26 ID:Y1N3wfMU
二人だけかと思ったけどまさか三人だとは・・・

620 :眠い名有り :2003/12/06(土) 19:43 ID:???
注意:名前は身体のほうを使います。

ゆかり「さぁ!今日も・・・なんだ!こりゃぁ!!」
ゆかりが教室に来て驚いたのも無理はない。なんと教室にいるのは神楽、よみ、ちよ、智、大阪、榊だけなのだから。
ゆかり「なんなのよこれ!」
よみ「このごろ風邪流行ってますから・・・」
ゆかり「そうか・・・で、お前らだけ。」
榊「私もいますよ・・・」
神楽「あ、榊・・・!!どうしたんだぁ!!」
榊の体中には引っかき傷や噛み後が・・・
榊「ちょっとね・・」
ちよ「そんなことより、早よ保健室行かなぁ・・」
ゆかり「は?どうしたちよ?大阪の真似か。」
よみ「そっ、そんなことより、早く榊を保健室に!」
ゆかり「そうだな!おい、榊、こっち。」
再び教室は彼女らだけに・・・
ちよ「はぁ〜〜大変やなぁ・・・」
智「それよりも、どうしたら戻れるか、です。智ちゃん、その本に何か書いてないんですか?」
大阪「え〜〜〜っと・・・」

621 :眠い名有り :2003/12/06(土) 19:44 ID:???
>>620
>なんと教室にいるのは神楽、よみ、ちよ、智、大阪、榊だけなのだから。
あ、榊は教室にいなかったね・・・

622 :眠い名有り :2003/12/06(土) 22:27 ID:???
大阪「え〜〜〜っと」
そう言って大阪(智)は本をめくる・・・
大阪「載ってない!」
智「もう一回作って飲めばもとに戻るんじゃないですか?」
大阪「おお、ちよすけ!グッドアイディア!」
よみ「それが一番かもね。」
大阪「もう一個持ってるぞ。ほら。」
よみ「だったら早く出せ!」
大阪「(ガリッ!)はい智。」
智「(パクン!)はい、大阪さん。」
ちよ「ああ?何〜〜〜〜?(パク!)」
大阪「ふぁ・・・また眠くなってきた・・・」
智「私もです〜〜〜・・・」
ちよ「ふぁぁ・・・・何なん・・この飴・・・」
〜数分後〜
ちよ(大阪の声で)「ふぁ・・・」
ちよ(智の声で)「わ!私と大阪!今度はちよか!!」
ちよ(本物)「違います!私が元に戻って・・」
ちよ(大阪の声)「私変わっておらへんなぁ〜〜・・」
ちよ(三人の声)「えっ!?」
ちよ(智)「ちょっと、ちよと大阪、黙っててくれないか。」
ちよ(ちよ)「はい。」
ちよ(大阪)「わかったで〜〜〜」
ちよ(智)「結局、三人の心がちよの体に入っちゃったのか・・・。どうするんだ、天才?」
ちよ(本物)「・・・わかりませんよ。」
ちよ(智)「第一、もう一回飲めってったのお前だろ!」
ちよ(本物)「そんなぁ〜〜〜(泣)」
よみ「そもそも事の発端はお前だ。」
ちよ(智)「うるさい!そんなの関係あるか!!」
神楽「あるだろ。」

623 :眠い名有り :2003/12/06(土) 23:07 ID:???
三重人格のちよだ〜〜(笑)
さぁ、どうやって戻そうかな・・・(←まだ決めてないんです(笑))

624 :名無しさんちゃうねん :2003/12/07(日) 01:22 ID:???
>>623
おおっ、これは新しい!やり方次第では面白くなりそうだ。
……あれ、ともと大阪の体はどうなっちゃったの?

625 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:55 ID:???
(たぶんグロあり)

626 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:55 ID:???

「ようやくついたみたいだな」
「すげーっ! 一面真っ白だよ」
「この辺りは雪が数メートル積もることもあるそうですよ」

ワゴンが停まり、一同は真っ白い大地に降りたった。雪が靴のそこで押し固められて音をたてた。目の前には大きな屋敷が雪にうずもれて佇んでいた。
古い、わらぶき屋根の木造建築である。伝統的な平屋造りだが、敷地が広く屋敷自体も巨大で、その200年に渡る絶対的地位を象徴するようであった。

「今日はとりあえず一泊して、スキーは明日からにしましょう」
「賛成」
「開きましたよ〜」
「うわっ、めっちゃ広いな〜」

戸口から衝立の向こうに廊下が延々と伸びているのが見えた。
途中の部屋、さらに横の通路が何箇所も十字に交わって、遥か奥まで続いている。
智、暦、大阪、榊、神楽の四人は冬休みを利用して北陸にあるちよの別荘に遊びに来ていた。

627 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:56 ID:???

「ほんとに、全部使っていいのか」
「はい。今は管理人のおじいさんが住んでるだけですから」
「かくれんぼできるぜ、かくれんぼ!」
「お前は子供だな」
「何を〜! あんたの瞳はもう子供のころの輝きを失っちまってんだよ〜」
「まったく、何いってんだか」

「ねえ、そのおじいさんは?」
屋敷には誰もいないようだった。
「迎えに出てくるはずなんですけど……」

背後で物音がした。
「うわっ!」
一同は声を上げた。驚きというよりは、不気味さやおぞましさ、
そして恐怖を感じてのことだった。後ろにはいつのまにか老人が立っていた。

628 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:56 ID:???

「……ようやく来たか」
それだけいうと、老人は玄関から上がっていった。一同は顔を見合わせていたが、やがておずおずと老人の後を追って屋敷にあがっていく。
醜怪な老人だった。不恰好なほど大きな鼻が顔の真ん中に乗っかっているが、あばただらけで汚らしく、
全体的にしわがれた顔に三白眼が小さな裂け目から外を覗いていた。

「部屋の見取りはさっき言った通りだ。わしはこの部屋にいる。あんたらはどの部屋でも自由に使ってくれ」
そういうと、襖をあけて中の一室に消えて入った。一同の間をややしらけた雰囲気が包み込んだ。
「――今の人が?」
「はい。近所の農家の人で、今は畑仕事をやめて、住み込みで屋敷の管理をしてるんです」
「なんか気色悪い人やな〜」
「確かに。ちょっと気持ち悪かった」
「そんなことより、はやく荷物運ぼうぜ」

気を取り直して、めいめいが手荷物を提げて屋敷を歩きまわる。
部屋数は一同の人数の十倍はある。それぞれ好きな場所に陣取った後、いろりのある部屋に戻ってきた。

629 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:57 ID:???

「わ〜っ、いろりだよ! 私はじめてみる」
「私も」
「今日はお鍋ですよ〜」
「うおおっ! カニだカニ!」
「今夜はごちそうだな」
「あんたは北海道で喰ってきただろ。喰うなよ」
「何いってんだよ!」
「よし、榊、どっちがたくさん食べるか競争だ!」
「…食べ物はゆっくり噛んでたべなきゃだめだ」
「いっただきまーす!」

「あ〜喰った喰った」
一同は食事を終えると、いろりを囲んでとりとめもない話に花を咲かせた。
友達同士、一緒に泊りがけで遊びに来たときの楽しみだった。

630 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:57 ID:???

「あ〜喰った喰った」
一同は食事を終えると、いろりを囲んでとりとめもない話に花を咲かせた。
友達同士、一緒に泊りがけで遊びに来たときの楽しみだった。

「それにしても、ちよちゃん家がこんな山奥に、こんなでかい別荘持ってるなんてな〜」
「確かに。別荘というか屋敷だぞ」
「ここは、もともとお祖父ちゃんが住んでた家なんですよ」
ちよが語り始めた。
「うちは、もともとここら辺の庄屋さんだったそうです。それがお祖父ちゃんの
ときから東京で事業をはじめて、今はここにはこの屋敷が残っているだけだそうです」
「へー、そうだったのか」
「そういえば、私のお祖父さんもここら辺り出身だって」
「神楽が?」
「じゃあ、案外親戚同士だったりして」
「別にそんなんじゃないよ」

「……吹雪いてきたな」

不意に、一人がぽつりと漏らした。先ほどからゴー、ゴーという吹雪の音がどんどん大きくなってくる。
たまに、吹き抜けになった高い天上が、ギシッ、と軋む音をあげた。

631 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:58 ID:???

「もしかして、寒波がきてるんじゃ」
「天気予報だと大丈夫だといってたけどな〜」
「山の天気は移り変わりやすいんだよ」

「――こんな晩は出るかもしれんな」

突然、声がした。

「うわっ!」
みると、管理人の老人がいつの間にか立ちつくしていた。

「な、なんですか?」
「なんですかとはあるまい。わしもいろりに当たらせてくれよ」
「……」
老人はいろりばたに腰を下ろした。

「あのぅ、さっき出るとかいってましたよね。なんなんですか、それ?」
気まずさに耐えかねたのか、神楽が老人に尋ねた。

「このあたりの伝説だ」

老人はそれだけいうと、それっきり黙りこくっていた。
やがて立ち上がると、そのまま去っていった。

632 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:59 ID:???

「……なんだったんだ、あれ?」
「ねぇ、ちよちゃん知ってる? その伝説とかいうの?」
「……ええ」

「なぁ、ちよちゃん、教えてくれよ。 その話が気になるんだ」
ちよは気が乗らなそうであった。あいまいに頷いてお茶を濁そうとする。
しかし、神楽にしつこくせがまれ、それで仕方なく口を開いた。

「怖いお話ですよ。いいんですか?」
「おっ、怪談か。良いじゃんそれ」

「……わかりました」

ちよは語り始めた。低く暗い声で。

「――昔、この家にそれは美しい娘がいたそうです」

みんなは耳を傾けていく。

633 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 01:59 ID:???

「その美しさは近隣の村々にも聞こえるほどでした。その娘は、年頃になり、どこか家柄の良い家にお嫁にいくことになったそうです。
ところが、その娘には想い人がいました。相手は近く集落の男でした。娘がたまたま外を通りかかったとき、二人は出会ったのだと。
二人はたちまち恋に陥りました。そうしてついに将来を誓い合う仲になったのだそうです。でも、それは許されぬ恋でした。なぜなら、男は貧しい小作人の子だったからです」

その場はいつの間にか静まり返り、ただ吹雪の音だけが響いていた。

「娘の父親はことを知ると烈火のごとく怒りました。そうして何度も男と合わせないようにしようとしました。しかし、娘は一向にいうことを聞こうとしません。
業を煮やした地主は娘からの手紙を偽って男をおびき寄せると、若い衆を集めて袋叩きにしてしまいました。そうして、吹雪の中、雪に放り込んだそうです。
……夜が開けると、男は跡形も無く消えていました。娘はこのことを知ると嘆き悲しみました。彼女はその男と引き離すため、この屋敷のどこかにある
一室に幽閉されていたのだそうです。男が死んだ翌日、家の者がみつけると、彼女も血を吐いて死んでいました。――それからです、出るようになったのは」

静寂が、辺りを支配していた。

634 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 02:00 ID:???

「こういう吹雪く晩になると、足音が聞こえてくるそうです。雪を踏みしめる足音が。そうして、朝になると、いつのまにか家の者が一人いなくなっているそうです。
一人、また一人と。そして、雪の中には確かに跡が残っているのだそうです。点々と続く血の後が……。多くの村人は半信半疑でしたが、
実際、その後、村には奇妙な疫病がはやったそうです。大勢がばたばたと倒れ、死んで行きました。やがて付近の人々は男の祟りだと噂しあうようになりました。
男が悪霊となって災いをなしているのだと。結局、その疫病が原因で村の皆は散り散りになり、この辺りも寂れていったんだそうです……」

ちよが語りつくした、そのとき――突然、奇声が轟いた。

「くきぃええええええええ!」


「うわあっ!」
「きゃああっ!」

何人かが悲鳴を上げる。

635 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 02:00 ID:???

「プッ、ププ、ぎゃははははは!」
智が腹を抱えて笑い転げた。

「ひゃはははははは、ビビってるよ、マジビビってる! あんたら、もうサイコ―!」

「あー、びっくりした! この!」
「お前は調子に乗りすぎだ!」
「智ちゃん、ひっどいな〜。あたし心臓が止まるかと思ったで〜」
「……びっくりした」

智は気にせず笑い転げている。
「バーカ、バーカ」


「ごめんなさい。私がこんな話をするから脅かしてしまいました」
「ちよちゃんは悪くないよ」

やがて、笑いが収まると、再び皆は静まり返った。

「……それじゃ、もうお開きにすっか」

結局、その場は盛り下がってしまったのだ。老人の出現とその話によって。
めいめいは後味の悪さを残しながら、自分の部屋に引きこもっていった。

636 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 02:01 ID:???

――水の音がした。

智はうっすらと目を開けた。智は寝付けないでいた。皆の前でふざけてみたものの、あの話が気になって眠れないでいた。
その上、さっきからずっと、ポタポタという水が滴る音が暗闇の中を透き通るように響いてくる。
目が醒めた中、ただその音をじっと聞いていた。

「ああっ! うっとおしいな、もう!」

智は布団をけって立ち上がると、懐中電灯を手に襖を開けて部屋の外に出た。
何も見えない中、足元の廊下だけが明かりに照らされて黄色く光る。
他の皆はもう寝入ったのだろうか、屋敷の中は静まり返っていた。

「音はあっちからか」

智は、ただ一人で歩いて行く。さすがに怖くはあるが、すっかり目が醒めて、あの音が気になってしょうがない。
とにかく、音の原因を確かめて消しておく必要があった。ふと誰かを起こそうかと思ったが、みんなを脅かした手前
怖がってるようで決まりが悪い。一人暗い廊下を歩いていった。木目板の軋む音が吹雪の音と共に静かな廊下に響きわたった。

637 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 02:02 ID:???

「この辺、あやしいな……」

音源がどんどん近づいてくる。台所の方らしい。そのとき、何かが動いた。
智は、はっきりと見た。暗闇の中、影が通り過ぎていくのが。智は慌てて追おうとした。
しかし、何かに掴まれてたように、台所の戸口で立ち止まった。
なぜだか、そこがどうしようもなく気になってしかたがなかったのだ。
あるいは、智の無意識が危険を察知したのかも知れなった。
そのことが智の命を救った。

「一体、何が?」

例の、水の音がする。どうも蛇口をしっかり締めていないらしい。
懐中電灯の明かりを無造作にそっちへむける。そして、映し出した。
――そこにはちよがいた。首をワイヤーで絞められ、目玉を飛び出させて死んでいるちよが。
ちよの首は、あまりに強い力で絞められたのか、ほとんどちぎれかかっていた。
人間が、どうしたらこんな恐ろしい表情になれるのだろうか。ちよの顔は地獄の苦痛のただなかで固まっていた。

「あ……ぁ……」
智が、二歩、三歩後ずさりし、へたり込んだ。

「うわあああああぁぁぁぁぁぁっ!!」

吹雪の中、けたたましい悲鳴が木霊した。

638 :暗い雪の底で :2003/12/07(日) 02:05 ID:???
訂正>>626

×「今日はとりあえず一泊して、スキーは明日からにしましょう」
○「今日はとりあえず一泊して、スキーは明日からにしよう」

639 :眠い名有り :2003/12/07(日) 10:09 ID:???
>>624
睡眠中です。
>>638
続編ありますか?

640 :名無しさんちゃうねん :2003/12/07(日) 19:16 ID:???
>>639
然り

641 :眠い名有り :2003/12/07(日) 21:47 ID:???
続編です!

642 :眠い名有り :2003/12/07(日) 21:48 ID:???
神楽「それで、お前達・・・他の人格が出てるときも意識があるのか。」
ちよ(大阪)「あるで〜〜。言ってること考えとること全てお見通しや〜〜〜」
よみ「でも、それじゃぁ自分の考えてることも全部丸見えなんだな。」
ちよ(智)「それよりも私と大阪の体をどっか運ぼう。」
ちよ(本物)「そうですね。じゃぁ・・・」
ちよ(三人)「おわぁぁぁ〜〜〜〜!」
ドテッ!
ちよ(三人?)がこける。
ちよ(智)「何だぁ〜〜〜〜!?体が思うように動かんぞ!」
ちよ(大阪)「痛いなぁ・・・・」
ちよ(本物)「三人の意思がまじるわけですから、動かないのは当たり前です。全員の呼吸が一致しないと・・・」
ちよ(智)「ちょっと、三人で話し合いするから。」
よみ「どうやって?」
ちよ(智)「心の中で。」

ちよの心の中

ちよ「それより、どうするんですか?このままじゃ不便で仕方ないですよ。」
大阪「私はこのままでいいで〜〜」
ちよ「私は嫌ですよ。」
智「別にこの方がいいかもな。慣れれば不便じゃなくなるかもね。」
ちよ「そんなぁ〜〜〜〜(泣)」

643 :眠い名有り :2003/12/07(日) 21:59 ID:???
よみ「で、話し合いの結果どうなったんだ?」
ちよ(智)「このままでいる!!」
神楽「はっ?」
ちよ(智)「だって、宿題とかテストとかちよにやってもらえるし。なぁ、大阪。」
ちよ(大阪)「おお、そこまで考えとったんか〜〜〜。流石やなぁ。智ちゃん」
ちよ(本物)(・・・・(ぐすっ))
ちよ(智)「すぐ慣れるさ!ちよすけ。もともとこうしたのはお前だ。」
神楽「責任転換するなよ・・・」
よみ「じゃぁ、智、大阪。この体いらないな。じゃぁ、こーだーーーー!!」
よみが智の顔にラクガキをしていく。
神楽「楽しそうだな。じゃぁ私も!」
神楽は大阪の顔にラクガキを・・・
ちよ(智)「うわぁ〜〜〜お前ら!!!」
ちよ(大阪)「よしてなぁ〜〜〜」
ちよ(本物)「あ、ちゃんと息を合わせないと!!」
ドテッ

644 :眠い名有り :2003/12/07(日) 22:36 ID:???
この作品・・・やっぱ友情物にしよう!
そんなに長くはしません。

ついでに
>>626
>智、暦、大阪、榊、神楽の四人
5人では?

645 :名無しさんちゃうねん :2003/12/08(月) 05:03 ID:???
>>644
そうだった。誤字指摘サンクス。

646 :名無しさんちゃうねん :2003/12/08(月) 05:29 ID:???

「包丁、果物ナイフ、金属バッドにアイスピックか……まあ、ないよりはずっとマシだな」
武器が皆の手に行き渡る。
金属バッドなどの長柄は暦や智、大阪が持ち、包丁や果物ナイフなど扱いの危険なものは
運動神経のよい神楽と榊に手渡された。榊はちよちゃんが死んだショックからまだ立ち直れて
いないのもあり、もとより暴力を好まない性癖でもあって、最初は刃物を持つことを嫌がって
いたが、暦に強く説得されてしぶしぶ手に取った。
「これからは必ず二人一組で行動すること。何をするにも、絶対に一人になってはならない。トイレにも必ず二人一組でいく。夜寝るときは交代で不寝番をたてよう」
「よみちゃん、あたしら五人やから、一人あまるで」
「そのときは、三人組になるようにしよう」
「それで、とりあえずこれからどうする?」
「ジジイを探そう」
暦は皆を見渡した。

647 :名無しさんちゃうねん :2003/12/08(月) 05:30 ID:???
失礼、誤爆>>646

648 :暗い雪の底で :2003/12/08(月) 05:43 ID:???
>>625-638の続き

「だめだ! 通じない!!」
「こっちもだ」
よみが携帯を手に首を振った。

「ちよちゃん……ううっ、ちよ……ちゃん……」

隣の部屋で、榊がちよの傍らに腰をおろして泣いている。仰向けに横たわるちよの顔には
白い布がかけられていた。もう、彼女が起き上がることは二度と無い。

「――とにかく、管理人の爺さんを探そう! あいつ、どこいったんだろう」
「……いや、待て、神楽。少し慎重になったほうがいい」
「どういう意味だ?」
「つまり、怪しいんじゃないのか、あのジジイが」
「なに……?」

649 :暗い雪の底で :2003/12/08(月) 05:44 ID:???

暦はいわくありげな面持ちで口を開いた。
「あいつは昨日の晩から姿を見せていない。部屋に行ってももぬけの殻だった。
この雪では外に出ることさえ不可能なはずなのに、だ。ということは、まだ屋敷のどこかにいるはずなんだ」
「ああ、そういうことになるな」
「――では、あのジジイはどうして姿をみせないで、隠れるようなまねをするんだ?」
「あ……」
よみが、眼鏡を指で押し上げた。
「考えられるのは、あいつが犯人じゃないかということだ」
そのとき、大阪と智が戻ってきた。
「おーい、駄目だったで」
ふすまを開け、大阪が智と一緒に部屋に入ってくる。

650 :暗い雪の底で :2003/12/08(月) 05:45 ID:???

「管理人室の電話は使えんようになっとった」
「使えないって……一体なぜ?」
「どうも電話線が切れとるみたいなんや。ツーツーいう音すらもせんで」
「なっ!?」
二人が声を漏らす。
「やっぱり、私も駄目だった」
智がいう。頭には雪の粉が載っていた。
「すごい吹雪だ。それに屋敷のまわりは完全に雪で埋もれていて、とても外に出られそうにはない」
首を左右に振る。
「たとえ出られたとしても、一番近い民家まで1キロはあるんだろ。それじゃ、とても助けを呼ぶなんて無理だ」
「そんな……じゃ、私たちは……」
「ああ」
暦が頷いた。
「私たちは、閉じ込められた」

651 :暗い雪の底で :2003/12/08(月) 05:47 ID:???

その場が水を打ったように静まり返った。ますます激しくなっていく吹雪が窓ガラスを叩く。

「――とにかく、みんなで固まろう。バラバラになったらまずい!」
智がいつになく神妙な面持ちでいう。
「そうだ! そうしよう」
皆が頷く。
「あそこの部屋がいいだろう。それから、食料などもまとめて運んでおこう」
暦の指示で皆は荷物を手に手に一室に集まった。二十畳ほどある、
一番大きな部屋である。部屋の真ん中に寄り添うように布団を敷き、
まわりにファンヒーターと電気ポッドを置いてコンセントに繋ぐ。
持ってきていたカップめんとお菓子も周りに積み上げた。

「冷蔵庫のものはどうするよ?」
「慎重になった方がいいだろうな……。毒を盛られている可能性がある」

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