世の中のすべての萌えるを。

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スレッドが大きすぎます。残念ながらこれ以上は書き込めません。

あずまんがSSを発表するスレッド

1 :甘露 :2003/02/25(火) 03:20 ID:Vyn779qA
新作、力作、新人、ウェルカム。

201 :天の川 :2003/05/15(木) 06:08 ID:???
「もう・・・大阪にもさよならやなぁ」
 歩が駅のホームでつぶやいた。
 正太の姿はどこにも見当たらない。
―――列車に乗ったら、進行方向の右をずっとみたったれや―――
 正太は歩が転校する前日、そういった。
 親に促されて歩は列車に乗り込む。
 列車が走り出す。歩は言われたとおりに進行方向の右を見ていた。
 スーパー、コンビニ、工場。今となってはなつかしかった。
―――あれは正太君の通ってるがっこ・・・・―――
「う!?」
 歩は思わず口に出してしまった。
 正太の通っている学校のカーテンには、ペンキのようなもので「歩ねえちゃんさよなら!」とかかれていた。
 窓からは正太が手をふっている。
 先生がやってきた。
 正太は逃げる。
―――正太君、私、東京でもがんばってくで!いつか、きっといつか、一緒にネコ飼おうな!―――

202 :天の川 :2003/05/15(木) 06:08 ID:???
「―――さん?大阪さん?どうしたんですか?」
 ちよが大阪を心配そうに見ている。
 もう屋上には誰もいない。
「皆さんいっちゃいましたよ。授業がもう始まります。早く行きましょう!」
 歩はちよに手を引かれて階段を下りていく。
 パンの入っていた袋が、カサカサと音を立てて宙に舞っていった。
 歩が大阪にいたころの回想をしていたことを、今は誰も知る由は無かった。

203 :天の川 :2003/05/15(木) 06:10 ID:???
終わりです。

大阪にすんでいるわけじゃないんで、間違いの指摘はご遠慮ください。
次回作はボンクラーズ登場か!?

204 :名無しさんちゃうねん :2003/05/15(木) 13:40 ID:e4RYlj/2
>>203
お疲れ様。いい話です。
>>198の正太君の行動を見るとやっぱりおませですね。

205 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/15(木) 22:41 ID:???
うわーん!泣きそう!
お疲れです!

206 :名無しさんちゃうねん :2003/05/16(金) 19:41 ID:???
>>197-203(・∀・)イイッ!

207 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:55 ID:???
>>178のつづきです。

 三人とも黙っていた。さっきまで事情を説明していた少女も、壁にもたれて時折それを
補足していた少女も、それを聞いていた少女も。ただ、黙っていた。
その空気の圧迫感に耐えかねて、【神楽】が咳払いをした。それを合図にしたかのように、
【榊】が口を開いた。
「どう……かな」
ややあって、ちよが口を開く。
「……ちょっと、信じられない話です……」
【榊】はうなずいて、
「信じられないのも無理ない……でも、信じてくれなくてもいい」
と言った。
「おい榊、それじゃ説明した意味がねーだろ!」
「すいません、そういうつもりで言ったんじゃないんです!」
残る二人の声が同時に部屋に響いた。
「……いや、こんな話信じろという方が無理だ。ちよちゃんは悪くない。それに、
これは私達が解決しなきゃならないことだ。ちよちゃんが作り話ということで
納得するならそれでいいよ」
二人の気持ちに答えて【榊】が自分の気持ちを伝える。再び沈黙が場を制した。
「でも……」ちよがぽつりと喋りだした。
「榊さん、神楽さんを疑うわけじゃないんですよ! 本当です! それに、その……
さっき話を聞いていたときの榊さんと神楽さん、入れ替わってたって思えば自然ですし……
ただ、本当にこんなことが……」
「私だってびっくりしたさ」と、【神楽】がちよの言葉を受ける。
「目が覚めたら榊だもんな……ともかく、ちよちゃんには余計な心配かけて、
それに嘘ついて家に転がり込んで悪かった。やっぱり私ら帰った方が……」
「い、いえ! ぜひここにいてください! 家に帰っても大変でしょうし……
それに、今日お父さんもお母さんもいなくてさびしいですから!」
ちよが慌てて引き止める。【榊】が、
「いいのか?」
と尋ねる。ちよは、
「はい! とにかく夕ご飯を食べましょう。ご飯を食べながらゆっくりともう少し詳しい
お話を聞かせてください」
と答えた。

208 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:56 ID:???
 【榊】と【神楽】の二人は、自分達が元の体に戻りたいこともちよに話した。
しかし、ちよが実年齢に対して天才的頭脳を持っていても、それを実行する答えを
知っているわけはなかった。
「ちよちゃんでも知らねーかぁ」と【神楽】。
「それはそうだろう……」と【榊】。
「で、でも、戻る方法はきっと見つかります! あきらめないでください!」とちよ。
【榊】は残ったコーヒーを飲み干し、
「うん……明日図書館に行っていろいろ調べてみよう」
と言った。
「……でも、榊さんが神楽さんみたいな喋り方をするのも、神楽さんが榊さんみたいな
喋り方をするのも、なんだか不思議と言うか、おもしろいと言うか……
あっ、ごめんなさい、おもしろがるようなことじゃないですよね……」
「いや、まぁ……私らも最初は結構こーなってるのを楽しんでたしなー。なぁ、榊」
「私は別に……」
 そんなことを話している間に、時計は8時を指していた。
「もうこんな時間ですねー。お風呂の準備は出来てますから、どうぞお入り下さい。
お二人ともお疲れだと思いますし」
ちよが二人に風呂を勧めたが、
「いや、ちよちゃん寝るの遅くなったら辛いだろ。ちよちゃんが先に入ったら?」
「お邪魔させてもらってる私達が一番風呂をもらうのは悪いし……」
と二人は言った。
「じゃあ、すみませんが、私が先に入らせていただきますね。私が出たら、
お二人ともどうぞご自由にお使い下さい」
そう言ってちよは入浴の準備を始めた。

209 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:56 ID:???
 風呂場の中。ちよの次に入浴した【神楽】は、風呂場の鏡に写った自分の姿を見ていた。
もともと榊のものだった体を。もちろん、女同士、同じクラス、そしていっしょに
旅行にもいった仲だ。裸を見るのは初めてじゃないが。
「はぁ……、本当にスポーツやらねーのがもったいない体してるなー」
 そう独り言を言い、改めて鏡の中をまじまじと見つめる。その恵まれた体格と運動能力。
もしも榊のような体に自分もなれたらと何度も思った。その願いはこうして叶うことと
なったわけだが。しかし。
(この体でいる限り、私は「榊」なんだよな……どんなにがんばっても、
「神楽」じゃなくて「榊」として評価されるんだ)
 その現実にため息をつく。戻る方法が分からないということが、さらに気を重くする。
が、とりあえずは今は考えることを止めて鏡の中の今度は顔に注目する。
 やや冷たい印象だが落ち着いた瞳。校内の男女両方に人気だといわれる整った
クールフェイス。そして黒く美しい長い髪。正直、【神楽】も変な意味でなく
カッコイイと素直に思える顔だ。ただ、精神が入れ替わっているためか、普段とは
顔の印象が若干変わっている。榊が普段やっている顔をマネしてみようとやってみたが、
うまくいかない。しょうがないので、いつも自分がやっているようににかっと笑ってみた。
(……以外と……かわいいんじゃん)
普段の榊とは大幅にイメージが違ったが、一瞬ドキドキしてしまう。
(な、何焦ってんだ私は……)
何か榊の意外な面を見たような気分になり、後ろめたさに似た感情さえ感じた。
 神楽は入浴を終えた。……しかし、彼女はその直後再び現実を突き付けられることになる。
「そういやこんなの履かなきゃいけねーんだったな……」
あまりにもファンシーな下着が脱衣所で彼女を待っていた。

210 :84BHHK5c :2003/05/18(日) 23:57 ID:???
 【榊】も【神楽】が上がった後に風呂に入った。普段の自分より短い髪を丁寧に洗う。
ややぱさついてしまった髪。日焼けした肌。それが神楽がいかに努力してきたのかを
雄弁に物語っていると【榊】には思えた。
 【榊】は鏡の中を覗き込んだ。普段はまさに元気という言葉がぴったりくる顔。
だが、いまは【榊】が体の中に宿っているせいか、悪く言えばさめた、良く言えば
落ち着いた顔をしている。
(私じゃ、あんなに気持ちのいい笑顔で笑うことは出来そうもないな……)
快活な友人の笑顔を思い出してため息をつく。その明るさはうらやましいが、
かといって体が入れ替わってもその明るさを身に付けられるわけでもないのだ。
(一生元に戻れなかったらどうしよう……)
 不意に不安が【榊】を襲う。心が落ち着いて涙が止まるまで、【榊】は顔を洗い続けた。
風呂から上がったとき、泣いていたことがちよちゃんにばれないように。
これ以上心配させるわけにはいかないのだ。
 涙が止まって、【榊】は、体を温めるために湯舟に入った。その瞬間、
「ごぼっ?!」
危うく溺れそうになった。背が低いのを忘れて普段の調子で湯舟の中で座り、
ちよの家の風呂が大きいこともあって潜ってしまったのだった。
(……なんとしても、元に戻る方法を見つけよう)
決意を新たにする【榊】だった。

(つづく)

211 :RnRND ◆LBlbquIA :2003/05/19(月) 23:25 ID:???
正直な話、続きが気になる話を書くのは難しいと思う。
すごいです!

212 :ケンドロス :2003/05/19(月) 23:29 ID:???
みんなうまいなぁ。どうしたらそこまでオリジナルの雰囲気を残しつつ
話を作れるか教えてほしいですよ。(アレンジ大魔王)

213 :天の川 :2003/05/20(火) 05:08 ID:???
禿同。
何でそこまでうまく話を作れるんでしょうか?
天賦の才ですね。

214 :天の川 :2003/05/26(月) 21:27 ID:???
―――みんなと会うの、久しぶりですね。元気にしてたかな?―――
 ちよは何年ぶりかにやってきた、前に自分が住んでいた町を歩きながらそんなことを考えていた。
地面には雪がうっすらと積もっている

 日本が冬休みのときにちょうどアメリカの大学も冬休みなので、しばらくあっていない日本の友達のところまで来たのだった。
 ときどき届く手紙には、みんなの身の回りのことが事細かに書かれていた。ゆかりがいっていたとおり、
大学がばらばらになってもよく集まって遊んでいるようだ。
 ことの起こりは約一ヶ月ほど前の、智からの電話だった。
『―――ねぇ、ちよちゃん?こっちの大学はあと少しで冬休みになるんだけど、そっちも冬休みになるかな?もしなるんだったら、
冬休みにちよちゃんちの別荘に行きたいなと思ったりしてね。どうかな?』

215 :天の川 :2003/05/26(月) 21:29 ID:???
『あ、こっちも冬休みなんですよ!解りました、行きます!別荘はあそこじゃなくて、
他の別荘にしましょうか、今度の別荘はスキーも滑れるんですよ。
スキーを持っている人はスキーを持ってきてください。
もってない人は別荘にあるのを貸してあげますから』
『スキー!?わかった!みんなに伝えておく!ゆかりちゃんたちは呼ぶ!?』
『もちろん呼んでください、車はこちらで用意しますので。』
 こんな風に、五分たらずでちよの日本にくるということ、
そしてちよのもう一つの別荘にいくということが決定した。

 ちよは両親が住んでいる家の門の前に着いた。昔は自分も住んでいたが、今は両親しか住んでいない。

216 :天の川 :2003/05/26(月) 21:31 ID:???
「おーい!ちよちゃーん!」
 遠くから手を振っている人がいた。ムードメーカーの智だ。他の四人もいた。
 ちよは五人の近くに駆け寄った。全員変わっていない。榊は相変わらず背が高く、
歩はやはり少しポケーッとしている。
「元気だった!?いやぁ声だけじゃあわからないね!大きくなったなった!」
 自分より十センチほど背が低いちよの頭を、ともがなでながら言った。
 他の四人も、ほほえましい顔をしている。
「あ、ちよちゃん。もうご両親にあいさつは?」
 よみが思いだしたようにちよに尋ねた
「いや、してません。多分いませんよ、二人とも。
仕事が忙しいって言ってましたから」
「あっ!いた!ちーよちゃーん!」
 遠くから二人の人影がこちらに向かってくる。ゆかりとみなもだ。
 二人がちよの近くまで走ってくると、みなもが息を切らしながら謝った。
「ごめんねぇ遅れちゃって。ゆかりがいけないのよ、『新作のゲーム買うんだ!』って、
ずっとお店が開くの待ってるんだもん。挙句の果てに、結局今日は定休日・・・・・まぁいいわ、
積もる話は車の中でしましょうか、外は寒いしね」
 ちよが門を開ける。中にはもう車が置いてあった。ワンボックスカーだ、とても大きい。
 ゆかりが前列の右の席、運転席に座ろうとするのを、榊と歩、
そしてちよが急いで止めたのだった。

217 :天の川 :2003/05/26(月) 21:33 ID:???
見やすくするために文中で改行してみましたが、
一回目が失敗で余計見づらくなってしまいました。

一応続きます。まだここだけでは解らないのですが、ミステリーになる予定です。

218 :名無しさんちゃうねん :2003/05/26(月) 21:50 ID:???
>>217
乙。続き楽しみでつ。

ミステリー?まさか、次々と殺人事件が!?

219 :大阪@大阪編第一回(1/3)byなも ◆K6TB303w :2003/05/29(木) 01:22 ID:???
 「ボレロって…ホンマかわえぇなぁ…。」

 自室で,学校へ行く準備のさなか,春日歩はボレロに袖を通しながらつぶやいた。
小さいころからあこがれていた「ボレロ」。セーラー服が覇権を利かせ,
ブレザーがその勢力を伸ばしている女子高生の制服の中でも,
ボレロは採用している学校が少ないだけに,格別の扱いだ。

 そのボレロを制服として採用している名門進学校,「菊仙女学院」。
難関と言われる名門へと,ほぼ奇跡に近い合格を,
彼女は二人の親友とともに果たした。
今まで努力した結果が,現在の今に至っている。
そんな満足感に浸りながらも,学校への準備を着々と進めていく。

「歩〜,はよしないと純ちゃんとまーやちゃん来るで〜。」
「はいはいは〜い。」

 台所からおかあちゃんの声がかかる。
中学校の頃はいつもおかあちゃんのこの声で起こしてもらっていた。
だけど高校に入ってからは,今まで,学校に行く日は自分からちゃんと起きている。
こんな小さな事の積み重ねが,高校に受かった実感を盛り上げていくものだ。

 ダイニングへ行くと,既に妹の翔が4人がけのテーブルについて,
朝ご飯の白味噌汁をすすっていた。
手間がかかる二つの編み込みお下げを結い終わり,
糊で直線的なラインのシルエットを持つ,
洗い立てのセーラー服を着込んでいた。
つい先月まで,歩が着ていたセーラー服のお下がりだ。

220 :大阪@大阪編第一回(2/3)byなも ◆K6TB303w :2003/05/29(木) 01:22 ID:???
 この春から中学生になる翔の現在の体格は,
比較的成長の遅い歩とほとんど同じで,身長も,座高も,ウェストも,
ただ,胸のサイズが歩に輪をかけて小さい以外は,
それでこそ双子と見間違えるほどそっくりだ。

 歩も翔の隣に席につき,箸を手にとり,
小鉢に盛られたほうれん草のおひたしに箸を伸ばした。
アジのひらき,ほうれん草のおひたし,白味噌汁。
関西系味付けを好むの春日一家の朝は大抵は和食から始まる。
ただ,歩も翔も寝坊した日は早く摂れるトーストやシリアルで済ませる事もある。

 あめ色に漬かった奈良漬をかじりながら翔は黙々とご飯を口に運ぶ。
藍く飾り絵の施された男性用の大きめのお茶碗を右手に,
少々長めの朱色の塗り箸で,テンポよくご飯を平らげる翔。
ウサギのプリントのついた子供用のお茶碗を左手に,
カエルのプリントの入ったプラスチックの箸でご飯を食べる歩。

 容姿,体格こそ似ている二人であるが,
性格や趣向など,ほとんど中身は別物といっても差し支えは無いかもしれない。
食事だってその一つだ。早食い,大食いで辛いもの好きの翔に比べて,
歩は甘い物好きで食が細い。だから時々,歩が妹に間違われることもある。

221 :大阪@大阪編第一回(3/3)byなも ◆K6TB303w :2003/05/29(木) 01:23 ID:???
「PLLLLLLLLLLLLLLLL!」

 電話から,無機質な電子音がダイニングに響き渡る。
昨日水に漬けておいた食器を洗っていたおかあちゃんが手を止め,
エプロンで水気をふいて壁に掛けてある受話器を取る。

 「はい,春日です。」

 先ほどまで歩と翔を送り出す朝の修羅場に身を投じていたとは思えない,
社交的な明るい声でおかあちゃんは電話に出た。

 「あ,おとうちゃん?…うん…わかった…歩と翔にもゆうとくわ…はい〜。」
 「おとうちゃんから?」

 おかあちゃんに負けず劣らない明るい口調で,翔がおかあちゃんに問い掛けた。
おとうちゃんは最近は出張続きで家に帰ってこない,
たとえ帰ってきたとしてもほとんど夜遅く。
だから歩や翔とはぜんぜん親子の会話を持つ機会が無い。
歩も翔もおとうちゃんの事が好きという,ほぼ理想的な父娘関係なので,
今現在の状態みたいに親子の会話が持てないのは非常に残念だ。
だからこそ,おとうちゃんからの電話の内容が気になるし,
電話口から聴くには,歩と翔にも何かメッセージがありそうな雰囲気だ。
おかあちゃんは受話器を静かに置いて口を開いた。

 「おとうちゃん,今日は5時ぐらいに帰ってこれるって。
久しぶりに歩と翔と話ができるんやって。」
 「きゃほ〜!」

 満面の笑顔で,翔は隣の歩にハイタッチを求める。
素直に笑顔で応じる歩。乾いた音がキッチンを駆け抜ける。
そして何事も無かったのかのように,再び食事に戻る二人。

 「ごちそうさま!」

 まったく同じタイミングで歩と翔が最後の味噌汁のひとすすりをした後,
テーブルから離れ,翔はソファーにおいてある真新しい学生カバンを手に,
歩は同じくソファーにおいてある背掛けカバンを背に少し遅れて玄関へと向かった。

222 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:01 ID:???
『THE FIRST CONTACT』 ACT1

「なあなあ、よみちゃん。」
昼休み、大阪が私に語りかけてくる。またくだらない事を言い出すのかと思ったら
違った。

「よみちゃんはともちゃんとどんな出会い方したん?」
「あ、それ私も聞きたいです。」
いつの間にか大阪の横にはちよちゃんがいた。ともは・・・神楽に肩叩きをしよう
として、狙いがずれ思い切りチョップをくらわしていた。

「ともとの出会いか。」
そこから私の記憶が遥かな過去へと飛んだ。

ともと会う前の私はどちらかというと、無口で大人しかった。クラスメイトで
いうと榊に近い感じだった。でも、私の場合榊と違い『暗い』をイメージさせる
ものだ。
とにかく勉強だけにしか関心を持たず、他の物事はかなり冷めた目で見ていた。

当然クラスの中では浮いた存在だった。対照的にともは今と変わらず明るくやんちゃ
で、男子と殴り合いの喧嘩をしたりもしていた。
でも、ともには人を惹きつける魅力があったらしく文句言いながらもみんな
慕っていた。

「お前いつも退屈そうだな。あたしと一緒に遊ばない?」
いつもの様に私が次の授業の予習をしている時、ともは私に話しかけてきた。
これが私ととものファーストコンタクトだった。

223 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:04 ID:???
『THE FIRST CONTCT』 ACT2

「悪いけど、お断りします。私にそんな暇はありませんので・・・・」
この頃の私は口調も今以上に棘があった。はっきり言えばともを見下していた。

「滝野さん、あなたもそんな事をしている暇があったら勉強でもなさったら?」
「バーカ、勉強なんてのは授業受けりゃいつでも出来んだろーが!!でも遊ぶ
のはすっげぇ限られる。だから、遊ばないと損だっての」
ともは私の嫌味な言葉にも負けないくらいの、とびっきりの嫌な顔をした。

「さっきも言ったでしょ!!断るって!!」
「いいから来いよ!!絶対面白いっての!!」
「嫌よ!!」
「人が誘ってんだから来いよ!!」
私も智も苛立ってきて口調が荒くなる。

「嫌だってんだろ!!離せ、バカ!!」
「へ〜優等生のあんたでもそんな口聞くんだ。意外だよ。」
その言葉に私の中で何かが切れた。

優等生のあんたでも・・・・何だか物凄くバカにされた気がして許せなかった。
気が付くと私はともにアッパーカットをくらわせていた。床に倒れるとも。

「いってぇ!!やりやがったなぁ!!」
ともも立ち上がり殴りかかってくる。取っ組み合いの喧嘩になり、先生が来るまで
私達はずっと喧嘩していた。先生が事態を収めた時も私達は互いにそっぽを向いていた。
これが最初の出会い。最悪の出会いだった。
でも何故か、それ以降私はともの存在が無視出来なくなった。

224 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:07 ID:???
THE FIRST CONTACT ACT3

アレ以来私達は顔を合わすたびに嫌味を言い合っていた。

「あら、滝野さん今日も熱心に遊ぶのかしら?」
「水原さんこそ、今日もお勉強ですか〜?」
お互いに毒を吐いた後、そっぽを向く。そんな毎日だった。だけど、不思議と
悪い気はしない。そして、ある日あの事件が起こった。

私の事を嫌ってる奴がいた。当然、こんな性格だったのだからともでなくても
ムカついているのもいるだろう。しかし、そいつらはともと違い陰湿な手口を
使ってきた。

私はその日、係の仕事があって少し教室を離れていた。私が教室に戻ってきた
後、机がすごい事になっていた。机の上には何か落書きがしてあり、ご丁寧に
「死ね」だの「バカ」だの書いてあった。ゴミとかも置いてあった。
俗に言ういじめである。しかし、私は呆れるだけで特に何の感慨も沸かなかった。
クラスの連中が冷たい目で見るのも今に始まった事ではない。
ただ、ともだけは何かを考えこむような顔をしていた。

当然、こういうのは日を増すごとにエスカレートしていった。椅子の上に画鋲が
あったり、下駄箱に訳の分からないものを入れられたり、机を持ってかれたり・・・
さすがの私もこうしつこいと頭に来る。誰がやってるか見当つくだけに余計に腹立つ。

で、極めつけは事故を装ってバケツ一杯の水を被せてきた奴がいた。私が見当を
つけていた犯人『平井百合子』だった。こいつは優等生だが、その裏で気に入らない奴を
徹底的に仲間と一緒に陰湿にいじめる女だった。

「あら、ごめんなさい水原さん。大丈夫でしたか?」
こいつ、よくもぬけぬけと・・・その後ろでニヤついている平井の仲間。
もう我慢できずに殴りかかろうとしたその時、それより早くともが平井を殴っていた。

「せこい事ばっかしてんじゃねーよ!!バーカ!!」
ともの声が教室中に響いた。

225 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:11 ID:???
THE FIRST CONTACT ACT4

殴られた平井は目を白黒させていた。得体の知れないものを見るかのような目
でともを見ていた。私もこの展開に呆然としてしまい、ただ事態を見守るだけだった。

「な、何をなされるの、滝野さん!?」
「バレバレだっつーの!!お前、事故に見せかけてこいつに水ぶっかっけてた
けど、それがせこいって言ってんだよ!!」
ひょっとしてこいつ私の事をかばってるのか?が、次の瞬間ともはありえない行動に出た。

「どうせやるなら、堂々とやれよな!!」
ともはそう言って、思い切りバケツ一杯の水を平井の頭から被せた。私同様水びたしに
なる平井。その後、ともは自分にも水をぶっかけた。

「くぅー!!気持ちいい!!お前等もやってみろよ。気持ちいいから!」
と、どこからか持ってきたホースを手にして平井の仲間達に水をぶっかけた。
もちろん、その時連中は逃げようとしていた為何人か関係ない奴が巻き添えを
くらっていた。
もう無茶苦茶だった。教室は水浸しになり、ともはこっぴどく先生に怒られた。
しかし、その顔は全く反省していなかった。
この事件以来、平井はいじめをしなくなった。ともにやられた事がよっぽど
こたえたのだろう。でもそれ以上に厄介な事になる事を私もともも知るよしもなかった。

帰り際、私はともを捕まえて何故あんな事をしたのか聞いた。

「そりゃあお前、不満があるのに正面から文句言わないであんな陰湿な事
やってる奴見たら、誰だってムカつくだろ?」
どうやらともは最初にあったいじめの時から平井だと見当をつけていたらしい。

「だからって教室を水浸しにしなくてもいいだろ!!」
「えー、やっぱこういうのはほらみんな水浴びた方がいいじゃん。ほら、旅は
道連れって言うだろ?」
「・・・・・・・・」
駄目だ。こいつ訳分からない。でも同時にこいつの事が嫌いじゃなくなってく
自分がいた。何でだろう?他の奴が同じ事をしたらムカつくはずなのに、ともだと
許せてしまう。

「ま、まあでも一応お礼は言っておかないとな。ありがとう。」
「気にすんなよ。あたしら友達だろ?」
ともの口から信じられない言葉が出た。

226 :ケンドロス :2003/05/29(木) 02:13 ID:???
THE FIRST CONTACT ACT6

「友達?」
「そーだよ。あたしがそう決めたんだから、今からよみはあたしの友達だ。
嫌だって言ってももうこれは決まった事なんだ。」
こーゆう所は昔から変わってない。私はその言葉を心の中で反芻した。友達・・・

「仕方ないな。そう言うなら私もお前の友達だ。でも何でよみなんだよ。私は
暦だぞ。」
「言いづらいからよみなの。あたしの事もともって呼べ。」
「分かったよ、とも。」
「よーし。じゃあ帰るか、よみ。」
その日、私は初めてともと一緒に帰った。初めての友達が出来た日の事だった。

「ってこんなとこかな。」
「・・・・・うう。」
いつの間にか榊が目の前にいて、感動したらしく泣いていた。その横には神楽を
伴ったとももいた。どうやら話に夢中でみんながいる事に気付かなかったようだ。

「そう、あたしがいなけりゃよみはずっと暗い奴でいたんだ。それをあたしが
救った。さあ、こんなあたしに惜しみない賞賛を。」
「まあ、そうとも言えるな。」
「ともちゃん、見直したのですのだ。」
「エエ話やな〜」
「へ〜ともにしちゃいいことしたじゃん。」
うんうんと頷く榊。

「な、何だよ〜!みんなで褒めるなんて何かおかしいぞ。あたしを騙そうとしてん
のか!?はっ、その手にはのらねぇもんね〜」
全員に褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、顔を真っ赤にしながらともは
その場を駆けていった。
あいつが照れるなんて珍しいなと私は思った。そういえば、友達って言った時も
照れてったっけ。

THE FIRST CONTACT   終

227 :84BHHK5c :2003/05/29(木) 07:37 ID:???
>>210の続きを少し。

  【榊】が風呂から上がり、髪を乾かしていると、ちよが牛乳を手に近付いてきた。
「えっと、さかき、さん、お風呂はいかかでしたか?」
「ああ、いいお風呂だった。ありがとう。ごめん、ドライヤーを勝手に
使わせてもらってる。本当にすまない。妙なことに巻き込んで、その上何から
何までお世話になって」
「いえ、いいんですよそんな。遠慮なさらないでくださいね。
……でも、そうやってお話しされるのを聞くとやっぱり榊さんなんですね」
「ああそうか、ちよちゃんから見れば私は神楽なんだよね……」
「さ、榊さん!! 大丈夫ですよ!! きっと元に戻れます!!
ですから元気を出してください!!」
「……ありがとう、ちよちゃん。そうだな、弱気になっちゃいけないな……」
不意にちよがふわぁっ、とあくびをした。
「あっ、すみません……」
「いいよ、私達に付き合って無理に起きてることはないよ。あとは私達で
片付けるから、ちよちゃんはもう休んだら?」
 そこに【神楽】がやってきた。
「あー、私も眠いや。今日本当にいろいろあってさー、疲れちゃったぜ。
榊ぃ、今日はもう寝て明日いろいろ考えよーぜ」
「神楽さん、お休みになられますか。すみません、私の寝室にぎゅうぎゅう詰めに
なっちゃいますけど……」
「いーっていーって。泊めてもらえるだけでもすげーありがたいぜ。それじゃーお休み!」
 そこまで言って寝室に向かう【神楽】を見ていた【榊】があることに気づいた。
「待って。髪はちゃんと乾かしたのか?」
「え? てきとーにタオルで拭いといたけど。てゆーかこんなに
暑いんだから自然に乾くだろ」
それを聞いた【榊】は顔色を変えて【神楽】の後ろに回り、
【神楽】の髪──つまりもともと榊のものだった髪を手に取りながらじっくり見た。
「な、なんだよ榊。どうしたんだ?」
【神楽】のその言葉も【榊】の耳には入らなかった。
 【榊】の目の前には、湿ったままの、ちょっと痛んでしまった髪。
気を使ってたのに……。そういえば【神楽】は水泳の後もろくに乾かして
なかった気がする。うかつだった……。

228 :84BHHK5c :2003/05/29(木) 07:38 ID:???
「そこに座って」
 【榊】が低い声で言う。
「なんだよぉ榊、私はもう眠い……」
「いいからそこに座って」
有無を言わさぬ声だった。
 【榊】が長い黒髪を丁寧に乾かしていく。途中痛んだ箇所を見つけるごとに
がっくりしながら。そういえば。
「……ちゃんとトリートメントはしてくれたのか?」
「え? 別に。普段もしてねーし」
はぁっ、とため息をつく。ついでに聞いておこう。
「洗うときはどうやって洗ってる?」
「へ? がーっ、がーっ、ばーってな感じで。長いから大変だったぜ」
ちゃんと教えないと分かってくれそうもない。今日やり直せと言うのは
ちよちゃんに迷惑もかかるし無理だが、明日からはちゃんとしてもらわないと。
「いいか? 少なくともお互いの体に戻れる希望のあるうちは、髪を洗うときは……」
髪を乾かしながらくどくどと説明をはじめる【榊】。途中で眠いのと
飽きてきたのとで【神楽】が口を挟んだ。
「なあ、めんどくさいしさー、髪切っちゃっていいか?」
「そんなことをしたらコロ……い、いや、頼むから切らないでくれ」
「おい! 今殺すって言いかけただろ!! 殺すって言いかけたな!!」
「い、言ってない……。とにかく、大事にしてくれ……」
 言い合う二人に苦笑しながらちよがフォローを入れる。
「神楽さん、『髪は女の命』って言うくらいですし、もうちょっときちんと
ケアしないとダメですよ。神楽さんのご自分の髪も、どうせ水泳で痛むからって
言わずにケアしてあげると結構違うと思いますよ」
「そっか。元の体に戻ったら考えてみようかな」
そう言った【神楽】に、
「『今の体の髪』も、くれぐれも、大切にしてくれ。くれぐれも、だぞ」
しっかり念を押す【榊】。その鬼気迫る表情におびえる【神楽】。
ちよは「あはは……」と愛想笑いをするしかなかった。

(つづく)

229 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:28 ID:???
>>227-228
榊さんが長い髪にこだわっていることが表現されているところに
リアリティを感じました。続きが気になりますね。

以下のSSは「20の倍数がSSを書くスレ」に書いたものの転載です。
ttp://www.miyataku.net/test/test/read.cgi/azuentrance/1052231734/
ケンドロスさんの書いた>>222-226「FIRST CONTACT」とは
対になる作品です。

230 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:33 ID:???
1/6
「みじめだわ……」
平井百合子は物憂げにつぶやいた。
その切れ長の瞳が見つめるものは、ふたりの女生徒。
昼食の喧騒が響く教室のなかで、いっそう騒がしい2人。
滝野智と水原暦である。
「そのコロッケおいしそー! いただきー!」
「こらっ! 人のおかずをとるんじゃねえ! 返せ。」
今日も楽しげにケンカしている。
それを見つめながらに思う。
あそこで滝野さんとじゃれ合っているのが自分であったならと。

231 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:34 ID:???
2/6
2ヶ月前のこと。
百合子は智に告白した。
そしてきっぱりと拒絶された。
あまりにもストレートな返事に衝撃はあったものの、
その事は百合子の気持ちを変える要因にはなり得なかった。
百合子は智のその屈託の無さをこそ愛していたから。
むしろその一件は百合子が智に執着する気持ちを強める結果となった。
それからしばらくはただ智を見つめるだけの日々が続いた。
その一方で、智は暦と顔を合わせる事が多くなった。
暦は迷惑そうな態度をとりつつも、よく笑うようになった。

232 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:35 ID:???
3/6
当然、百合子は暦に嫉妬の炎を燃やした。
智が自分を受け入れてくれなかった原因は暦なのだと。
暦をいじめの標的にする事は造作も無い事だった。
初めはささいないたずら書きだった。
しかし、それは瞬く間に増えていき、しまいには暦の机はひどい有様に
成り果てていた。
椅子の画鋲、下足入れへの悪戯、自分は直接手を下すことなく、
暦へのいじめは次第にエスカレートしていく。
もはや自分では止めようが無かった。
そしてついには、自ら事故を装って暦にバケツの水を浴びせたのだ。
ずぶ濡れになった水原の姿を見るのは痛快だった。
だがその痛快な気分は長くはなかった。
次の瞬間には智に殴られている自分の姿があったからだ。
「暦」ではなく「智」に殴られたのだ。

どこで間違ったのだろう。自分は智と仲良くなりたかっただけなのに。

233 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:36 ID:???
4/6
なぜ私は滝野さんに惹かれるのだろう。

滝野さんと最初に会ったときは単なる馬鹿だとしか思えなかった。
でも、しばらく見ているうちにそれだけじゃないと気づいた。
滝野さんはいつでも思いつくままに行動していた。
あの暴走ぶりは計算してできることではないだろう。
普通じゃない。
だから水原さんも彼女と一緒にいるときは建前抜きに本音で語っていた。
二人がストレートに感情をぶつけ合う姿が羨ましかった。

234 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:37 ID:???
5/6
私が失敗したのは、あの二人を理解していなかったから。
二人の仲を引き裂く事しか考えていなかったからだ。
あの二人は、利害を超えた素直な感情で繋がっている。
だから私も自分に素直になってただ飛び込んで行けば良かったのだ。
だから、もう迷わない。
私は、自分の欲しいものは必ず手に入れる。
ウジウジしているなんて、私らしくない!
そう決意して、立ち上がった。

235 :ツインテール ◆YOSAKAKI :2003/05/29(木) 15:37 ID:???
6/6
「滝野さん、水原さん、ごきげんいかが?」
昼食を済ませたばかりの二人に話し掛ける。
水原さんは怪訝そうな目で私を見ている。
滝野さんは敵意を剥き出しにして私を睨んだ。
私は怯むことなく、堂々と言い放つ。
「早速ですけれど私、あなたがた二人を友達にすることにしましたから。」
突然の言葉に二人ともあっけにとられている。
「最初っからこうすれば良かったのですわ!」
二人の肩に両腕をまわして、そっと二人に頬擦りする。
水原さんの柔らかい感触と滝野さんの体温が心地よい。
二人は逃げ出そうもがくけれど、しっかりと首を抱えているから逃げ出せない。
クラスの全員がイケナイものを見るような目で私たちをみつめてる。
「わ、私にはそんなシュミはないぞ〜!ホントだぞ〜!」
「私を巻き添えにするな!」
「あら、滝野さんったら照れちゃって!」
クラスの全員が私の行動に驚いている。
喧騒のなかで誰かが「百合組……?」とつぶやいた。

智「百合ちがう〜!」
暦「百合じゃねえ!」

236 :名無しさんちゃうねん :2003/05/30(金) 07:11 ID:???
うっかり殺すと言いかけた榊。
普段もの静かなだけに髪に対するこだわりのつよさがよく分かる。
(・∀・)イイ!!

237 :天の川 :2003/05/31(土) 05:07 ID:???
 車がちよのもう一つの別荘につく。地面は一面雪に覆われ、
別荘を囲んでいる山を見ればスキーをしている人が何人も見当たる。
「本当に白銀の世界ね」
 みなもが感心したようにつぶやく。他も感想は同じらしく、小さく歓声を上げている。
 ちよは別荘の鍵を取り出した。
 よみが智を抑えている。いつかの夏休みのようなことにはなりたくないのだろう。
 ギィ・・・。
 すこしきしんだ音を立てながら、別荘のドアが開いた。
「おぉ!やっぱり広い!」
 神楽が別荘の中を見回しながら叫んだ。どうやら二階建てのようで、
一階のリビングの真ん中にはストーブが置いてある。ストーブの近くには
木でできた大きいテーブルが置いてあった。
「一応気をつけてくださいね、ここは結構古いらしいですから。
私のおじいちゃんのころからあるって聞いてます。」
「早くスキーいこ!スキー!」
「はやっ!」

238 :天の川 :2003/05/31(土) 05:08 ID:???
 もはやジャンパーとスノーズボンを着ている智とゆかりが、玄関で手を招いている。
 よみとみなもは呆れたような顔をしながら自分達も一式を着込み始めた。
 スキーをやったことのある、もしくはスキーの道具を持ってきたのはちよ、
よみ、みなもの三人だけであった。
 ちよは残りのスキーを持っていない五人を連れて、別荘の裏手にある木造の物置まで連れて行った。
扉についている南京錠を外す。こちらの扉もきしんだ音を立てながら開いた。
 だいぶ長い間開かれなかったのか、大量のホコリが宙を舞った。
「どれでも好きなのとっていってくださいね。自分の身長と同じくらいか、
それより高いほうが滑りやすいです。」
 なるほど、「どれでも好きなの」というだけあって、物置の中は
数々のスキーで埋め尽くされている。
「ちよちゃーん、こっちにある物置はなんやのん?」
 いつのまにか外にでていた歩が、少し離れたところにある、
もう一つの同じような木造物置を指差していった。

239 :天の川 :2003/05/31(土) 05:09 ID:???
「あ、そっちには食料などが入ってます。それよりも大阪さん、スキーを選んでください」
 歩は物置へ向かった。しかし、雪で滑って転んだ。
 歩の顔は雪まみれになっている。
 ゆかりは「寒い寒い」と文句を言っている。
 みなもはゆかりに「寒いのは当たり前じゃない!」といいながらカイロをわたしている。
 神楽は大阪を起こしに行った。
 榊は動物でも探しているのだろうか、辺りをきょろきょろと見回している。
 智は姿が見当たらない、遠くのほうで雪だるまでも作っているのだろう。
 暦は雪だるまを夢中になって作っている智を、腕組みし、呆れたような顔をしながら見ていた。
 ちよはこの光景をほほえましそうにみていた。
 全員、この時点ではだれも事件などが起こるとは予想していなかっただろう、
あんな奇怪な事件が起こるということは・・・。

240 :天の川 :2003/05/31(土) 05:17 ID:???
>>214-216の続きでつ。

いつもの文章構成力のなさに加え、期末テストまじかということが、
文章のダメさにさらに拍車をかけています。

241 :天の川 :2003/06/03(火) 20:49 ID:???
 一行はスキー場についた。ゆかりと歩はスキーを担いで歩いただけでへばっている。
 スキーを履く手順や、すべるときの格好など、その全てを三人で教えた。
全員が理解するまで約一時間かかった。
 自分達のほかにも、利用客は何人もいた。しかしあまり狭くは感じない、
それだけこのスキー場が広いのだろう。
 榊と神楽は持ち前の運動神経のよさでとても上手に滑っていた、
初心者とは思えない腕前だ。もはやちよ、暦、みなもの三人と同じくらいの上手さである。
 一面の銀世界で華麗にスキーをすべる少女達に、自然と視線は集まる。
しかし視線の先の少女達は、そんなことに気づかない様子でスキーをしている。

242 :天の川 :2003/06/03(火) 20:50 ID:???
 智は「うりゃー!」や「ちょいやー!」などの奇声を発しつつ
斜面を登るのに苦労しているようだ。
 ちよたちがリフトに乗っていると、不意にリフトが止まった。
歩が降りられなかったのだろうか、係員に何か注意を受けている。
「大阪さーん、大丈夫ですか?」
 ちよが歩に声をかける、ほかの全員は「やれやれ」というような顔をしている。

 一体、何時間スキーを滑っていたのだろうか。もう日が暮れかけ、
だいぶいた利用客もずいぶんと減った。
「・・・戻りましょうか。暗くなると危ないですし。おなかも空きましたしね」
 ちよがゴーグルを外し、振り向きざまにみんなに提案した。
「あ〜疲れた〜」
 ゆかりがふらふらした足取りで歩く。しかしゆかりはスキーを一時間も滑ってないのだ。
みなもがそのことを指摘すると、
「わたしゃああんたのように馬鹿みたいに体力はありませんからねぇ」
といった。みなもは不機嫌そうである。

243 :天の川 :2003/06/03(火) 20:52 ID:???
 別荘に戻ると、全員床に腰を下ろした。
「はぁ〜やれやれ。疲れた〜」
 智が手をうちわのようにしながら扇ぐ。智だけではなく、他のみんなも汗だくで、
ズボンとTシャツ一枚という格好だ。
「榊ぃ、明日はスキーで勝負しようぜ!」
「まぁた神楽の勝負癖がでた」
「なに!」
 神楽の言葉に智が横槍を入れる。
 ちよはおろおろしながら、榊は表情には出さないが、心の中でおろおろして、
二人のケンカを見ていた。
 少し鈍い音がし、智が床に突っ伏している。神楽のアッパーカットが智のあごに炸裂したのだ。
「いつ〜・・・・それよりも、ナイスアッパーカット!よみのにも負けないくらいよかったぞ!」
 智は殴られたことも忘れ、ただただ親指を神楽に向けて突き出し、神楽を賞賛していた。
 神楽は間の抜けた表情で、智を見ている。
「おーい!よみー!神楽がお前の十八番を奪ったぞ!」
 智が台所にいた暦に声をかける。暦は智のそばにより、アッパーカットを智にお見舞いした。
「なにが『お前の十八番』だぁ!」
 智はまた、あごの痛みとともに床に突っ伏することになったのだった。

244 :天の川 :2003/06/03(火) 21:00 ID:???
またまた続きでつ。
事件が起こるのはあと少しの予感。

245 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/04(水) 07:36 ID:???
「Zapping SS・結末の行方」

 このSSは同時進行で、智とよみの二人を別々の視点で描くザッピングSSです。

 「SS書きの控え室2」
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1052922310&ls=50)ではよみの視点、

「SSを発表するスレッド」
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1046110813&ls=50)では智の視点でお送りします。

246 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/04(水) 07:39 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」第1章

 休み時間、智は大阪と話をしている様子のよみを見つけた。
 「さーて、またよみをからかってやるか〜」
 智はそう思いながら、よみの近くへと近付いた。
 どうやら、よみは何か本を読んでいるようだ。なになに、『東万ヶ岳の殺人』だと?聞い
たことがあるぞ。えーと…、そうだ。前にちよちゃんから教えてもらった本だ。でも、途
中を読むのが面倒くさくて最後の犯人のところだけ読んだんだっけな。ほぅ、よみは今そ
の本を読んでいるんだ。
 智はよみと大阪のそばで二人の会話を聞いていた。

 「大体どの辺りまで読んでいるん?」
 「うーん、真ん中辺りかな。これから物語が佳境に入って来て面白いところなんだ。も
う、犯人が誰なのかドキドキものだよ」
 何だと!…ってことは、よみはまだこの本の犯人を知らないんだな?これは面白そうだ。
 智は不敵な笑みを浮かべ、
 「おっ、よみー。お前、その推理小説を読んでいるのか?」
と言って、よみのすぐそばへと近付いた。

 よみが自分を見て、迷惑そうな顔をしていた。
 智はよみが何を考えているのかは大体察しが付いている。前に、よみが推理小説を読んでいるのを邪魔した前科があるからだ。
 「今、すごくいいところなんだ。悪いけど今はこの本を読ませてくれ」
 よみが自分の方を見向きもせずに言った。
 お前がそういう態度を取るほどこっちは邪魔したくなるんだよなー。しかも、その本の
犯人を知っているだけにさっ。
 「別にいいけどよ、その小説私ももう読んだんだー」
 智は何気なしにボソッと呟いた。
 「なっ、なんだって!」
 その言葉によみは相当驚いているようだ。本当にリアクションが素直な奴だ。

247 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/04(水) 07:40 ID:???
 「だって、その小説、ちよちゃんに教えてもらったんだろ?私もちよちゃんに教えても
らって、その本読んだんだよ。いやー、面白かったなー」
 「おい!絶対に犯人が誰だか言うなよ!」
 よみの口調は必死だった。そりゃそうだろう、犯人の名前を言ったら、それでもうこの
話の興味は尽きてしまうんだからな。でも、それをしたいんだよなぁ〜。
 智はいたずらっ子のような意地の悪い笑みを浮かべた。

 「うーん、どうしよっかなー。言うななんて言われると、余計に言いたくなちゃうんだ
よなー。犯人はー…」
 「ダブルチョーップ!!!」
 智が犯人の名前を言おうとした瞬間、よみのチョップを頭部に食らってしまった。かな
り本気なのか、いつもよりも数倍痛かった。
 「絶対に言うな!言ったらただじゃ済まさないぞ!」
 「痛たたた…。もう、ただじゃ済んでないだろう」
 智はチョップを食らった頭をおさえながら言った。しかし、内心ではもう少しこのネタ
でからうことができそうだと感じていた。
(続く)

248 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/07(土) 00:52 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第2章

 次の休み時間、よみの姿が教室になかった。
 よみめー、逃げやがったか。
 でも、あいつは甘ちゃんだ。お前がどこに隠れているかなど、この智ちゃんにはお見通
しなのだ。お前の考えはワンパターンだからな。
 どうせトイレだろう。中学のときに私が邪魔をして、よみがトイレで隠れて本を読んで
いた事を忘れたのか。
 まぁ、そうやってまた同じ事を繰り返すんだから、あいつは面白いんだけどな。よし、
トイレでからかってやるか。
 智は確信を胸に教室を出て、トイレへと向かった。

 トイレのドアを開け、智は中へと入った。しかし、中には誰もいなかった。扉が閉めら
れた奥の個室以外は。
 ははーん、よみはここに隠れてるなー。
 智はゆっくりとよみが隠れているはずの個室へと歩き出し、ドアをノックした。
 しかし、無愛想にノックをし返す音が聞こえた。
 ふっ、私をトイレを使おうとしているほかの女生徒と勘違いしているのか。まぁいい。
 智はまたノックし返した。しかし、同じようなノック音が返ってきただけだった。
 ふっ、私だと全く気付いてないなんて、何ておめでたい奴だ。
 智はそう思いながら、よみが中に入っている個室のドアににじり寄った。

 「よみ〜、そんなところに隠れても無駄だ〜。出てこ〜い」
と、低い声で叫んだ。
 「なっ、何でここがわかったんだ?」
 智がそう言った直後、よみの少し焦った声が返ってきた。智はよみのそんな焦った声を
聞いて、思わず笑みがこぼれた。昔のことを忘れて同じことをしていたのだからな、こい
つはお笑いだといった具合に。

249 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/07(土) 00:53 ID:???
 「お前がトイレに逃げ込んで、本を読むなんてお見通しだ〜。お前は本当にワンパター
ンだなぁ。中学のときにも同じ事をしたのを忘れたのか?」
 智がそう言った後、まだしばらく沈黙が続いた。しかし、少しして、
 「くっ…」
と、ドアの中で悔しがっているよみの声が聞こえた。
 智はよみに対して勝った気分がした。さーて、もっとからかってやるか。

 「出てこないのか〜。3秒以内に出ないと犯人の名前を言うぞ。さーん」
 ドアの中からは何の反応もなかった。このまま言ってしまってもいいのか?
 「にー」
 おや、徹底的にシラを切るつもりか?お前はもう包囲されているんだ。早く出てこない
と犯人の名前を言っちゃうぞ。

 「いー…」
 その瞬間だった。突然ドアが開くとともに、間近にいた智の頭にぶつかり、ゴンという
音が響いた。
 「痛ってー…」
 智はあまりの痛さに、額をおさえてうずくまった。
 「バカタレが!天罰だ!」
 智がうずくまっている間に、よみはそう言い捨てて、トイレから出て行った。
 智はフラフラと立ち上がり、まだ痛みの残る頭をおさえながらよみが出て行ったトイレ
の入り口のドアを見つめた。
 「くそー、不意打ちとは卑怯だぞ!このままで終わると思うなよー」
と、叫びながら。
(続く)

250 :天の川 :2003/06/07(土) 19:24 ID:???
>>246-249乙です。

自分も負けないように投稿。

251 :天の川 :2003/06/07(土) 19:26 ID:???
「さぁ!酒飲むか!」
「あ、そういえば皆さん二十歳になったんですよね。お酒がのめるんですか」
 智がビール瓶を持って立ち上がる。ちよはそれを見て思い出したようにいった。
 ちよはもちろんだがまだ二十歳ではない。したがってビールの代わりに
オレンジジュースをコップに注いでいた。
 智はみんなのコップにビールを注いでいく。よみは「いいよ、自分でするから」と、
お酌を拒否している。ゆかりのコップをみなもが奪い取っている。
「かんぱーい!」
 掛け声とともにグラスがぶつかるときの澄んだ音がする。
瞬く間にさまざまな質問が飛び交った。ちよからみんなに対する質問と、
みんなからちよに対する質問が交互に行きかう。
 スキーをしたせいか、ものすごい勢いで料理が減っていく。まずピザが消え、
続いて野菜炒めが消え、コーンスープが消え、から揚げの最後の一つが無くなり、
ビールも底を付き、話す話題もなくなったとき、自然と片づけが始まった。

252 :天の川 :2003/06/07(土) 19:27 ID:???
「・・・もうこんな時間ですか・・・・」
 ちよが目をこすりながら、テーブルの上においてあったデジタル式の置時計を見る。
電光色の文字は十二時を示していた。
「もう眠くなったの!まだまだ子供だねぇ!こっどもーこっどもー」
 智がいつぞやのように歌らしきものを歌いだす。ちよの顔が険しくなっていく。
 ゆかりはソファーで眠っている。
「ちよちゃん、相手にしなくていいぞ」
 暦が忠告した。
 みなもと榊はもくもくと皿を洗っている。歩は皿を割る可能性があるからということで、
台所には立たせてもらえていない。
「あ、そうだ。ちよちゃん、そういえばね、大阪に彼氏ができたんだよ」
 智が思い出したようにいった。
 一瞬、時が止まった、もしくは空気が凍りついた。全員歩と智のほうを振り向く。
眠っていたゆかりまで起きだし、歩のほうを見ている。
「・・・・」

253 :天の川 :2003/06/07(土) 19:28 ID:???
 気まずい沈黙が流れた。
「とーもーちゃーんー!あ、あれは彼氏ちゃうよ!ただの幼なじみやて。
少し下なんやけどな、大阪からこっちの学校に編入したいうてたし、
家もそんな遠くないから、一緒に買い物いっただけやていうたやないか!」
 歩が顔を真っ赤にして叫ぶ。
「いや、でも、あれはどう考えても・・・だって一緒に・・・」
「とーもーちゃーんー!」
 歩がものすごい剣幕で智を睨む。
「ご、ご、ごめん・・・」
 智はしゅんとなった。
 ゆかりはみなものそばにいき「元教え子に先を越されたね」などとささやいている。
 暦とちよは、空いた口が塞がらない様子だった。
 ストーブの上に置かれたばかりの、保湿を促すための水が入っているやかんから
湯気が出始める。
「もぉ!ちゃうっていうてるやんかぁ!」
 歩が顔を真っ赤にして否定した。その叫び声は、みんなの笑い声に吸い込まれていった。

254 :天の川 :2003/06/07(土) 19:30 ID:???
―――あ〜頭いて〜・・・・夕べは呑みすぎたかなぁ・・・今何時だ・・・?
うわ!まだ六時かよ・・・・眠くないな・・・おきよう―――
 頭を抑えながら、智が二階の自分の部屋と割り当てられた部屋から出てきた。
まだ誰もおきていないらしく、今は殆ど真っ暗だった。カーテンが分厚いせいなのだろうか。
 智が見たもの。それは、居間の中心近くに浮かぶ物体。いや、
物体ではないのだろうか。『それ』は少し黄緑色がかった色をしており、空中に浮いていた。
そして常に形を変え続けていた。
 智は自分の目をこする。しかし『それは』消えない。もう一度目をこする。
しかし視界は一向に変わらない。
 智の脳裏にある単語がよぎった。
―――お化け?―――
「うわぁあ!お化けがでたぁ!」
 智が電気を付け、叫ぶ。

255 :天の川 :2003/06/07(土) 19:30 ID:???
 みんなが「何事か?」とでも言わんばかりの表情ででてくる。
「お化けが!お化けが出たんだ!」
 智が指をさす。しかしそこにはストーブがあるだけだった
 ストーブは今も赤々と燃える炎を灯し続けている。
 上ではやかんがいまだに湯気を立て続けている。
 テーブルの上にはデジタル時計。先ほどと対して時間は変わっていない。
「え・・・?」
「なにもないじゃないか」
 智が呆けた顔をする。暦は智を見下ろしている。
「ばかばかしい。どうせ二日酔いのせいで、幻でも見たんだろ。」
「ちが・・・!私は絶対に見たんだよ!」
「あーはいはい。解りましたよ。」
 智の叫びは、暦の右の耳から左の耳へとぬけていった。
 智が言う「お化け」のことを信じないのは暦だけではなかった。大阪も、ちよも、ゆかりも、みなもも、信じなかった。現実味が薄れすぎている。榊は信じていないというか信じたくない様子だった。

256 :天の川 :2003/06/07(土) 19:36 ID:???
「あ、やかんのお湯、もうなくなってきてますね。代えなくちゃ。」
 ちよは湯気の出が悪くなったやかんを持ち上げ、台所に持っていった。

「絶対見たんだってばぁ・・・」
 テーブルに頬杖をつきながら、智は不機嫌そうに言った。
「あ、誰か、小麦粉一緒にとりに行きませんか?物置にあるのを取りに行くんですが、
扉が重くて・・・」
 ちよが玄関で誰かを誘う。
 智は立ち上がってちよに近づく。
「いいよ、私もいったげる」
 二人はそれから玄関を出た。
 物置は木造だった。スキーが置いてある物置とはまた別の物置だ。
 確かに扉は重かった。二人がかりでやっとあいた。
 智が進んで中に入る。中はホコリくさく、かび臭いにおいがした。スキーのほうと合わせて、
長い間空けていないというのは本当のようだ。
 風が吹いた。物置の中のホコリが舞う。
「げほっ!げほっ!」
 智は咳き込みながら、持っているライターをつけた。
 ドォン!
 炸裂音がした。
 智とちよは無事だ。しかし、物置はどす黒い煙を上げながら燃えている。
「・・・なんだよ・・・」
 家にいたみんなが二人の元へ駆けつけてくる。
 物置は、いまだ燃え続けていた。周りの雪が融けていく。
 全員、いまだ何が起こったのか理解できていないようだった。視線はしっかりと燃えている物置に釘付けである。
 智が地べたに座り込む。腰が抜けたのだろうか。
 先ほどの智が見たという幽霊。そして今回の物置が爆発。何か関連性はあるのだろうか、そして何故このようなことになってしまったのだろうか。名探偵は、現れるのだろうか。

257 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:45 ID:???
>>228のつづきです。

 【神楽】は目を覚ました。暗い部屋。窓とカーテンの隙間からわずかに光が
差し込んでいる。月明かりだろうか。それとも水銀灯の明かりだろうか。
 部屋の中を見回す。そうか、ここはちよちゃんちだっけ。【榊】がベッドで
寝ているちよちゃんと平行して床の布団の上に寝ている。自分はちよちゃんの
足の側、部屋の入り口の方に入り口と直角の向きに寝ている。寝る前、
ちよちゃんが足を向けてしまってすみません、としきりに謝ってたっけ。
気にすることないのにな。こっちは泊めてもらってるんだし。時計を見る。
文字盤の蛍光塗料が光っている。窓とカーテンの隙間の光と相まっていやに
妖しく見える。12時9分。まだ床についてから2時間程度しか経っていない。
疲れていたので普段より早く寝た。疲れていただけあってすぐに寝入ってしまった。
だが、変な時間に目が覚めてしまったようだ。やはりいろいろあって無意識の
うちに眠りが浅くなってしまったのだろうか。私らしくもない。
(ひょっとして!)
 期待の感情が生まれ、慌てて自分で自分の体をまさぐる。だが、自分の頭の後ろ、
長い髪に触れた所で期待は消えた。
(寝て醒めたら、悪い夢だったって、笑い話にできりゃ良かったのにな……)
【神楽】はまだ榊の体に宿っていた。はぁっ、とため息をつき、
「どうしたもんかなぁ」
とつぶやいた。
「起きているのか」
 不意に闇の中から声がして【神楽】は声を上げてしまうかと思うくらい驚いた。
だが、すぐにその声の主の名前が分かった。今、「自分の声」を出せる人物と
言えばあいつしかいない。
「榊こそ、起きてんのか?」
ああ、と闇の中からまた声がした。その声に向かって【神楽】は言う。
「急に目が覚めちゃってな。あんたもそうなのか?」
「いや……全然眠れなくて」
「ずっと起きてたのかよ……不安でか?」
ごそっ、と音がした。【榊】が身じろぎしたらしい。

258 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:46 ID:???
「不安……そうだな。寝ようとするんだけど、考えが止まらないんだ」
「考え?」
「うん、悪いイメージばっかり次々と出てきて」
「そうか……」
 遠くの方から、パトカーのサイレン。たくさんのバイクがエンジンをふかす音。
バカをやってる奴らがいるらしい。気楽なもんだな。私達はこんなに大変な目に
あってるってのに。
「なあ、榊……」
「一生元に戻れなかったら……」
同時に声がした。ひとしきり譲り合った後、【榊】が先に喋ることになった。
「……一生元に戻れなかったら、やっぱり私は、神楽としての人生を生きていく
ことになるのかな」
「どういうことだよ」
「つまり、『神楽』として水泳の大会に出て、『神楽』として大学を受けて、
『神楽』として大学に通って……最後まで、『神楽』で」
「それは……」
「だから、思ったんだ」
数瞬の沈黙。
「神楽の夢を、人生の目標をきちんと聞いておきたい」
「……なんだよそれ」
 榊は何を言ってるんだ。ユメ? モクヒョウ? そりゃ、ないことはないが、
そんなこと聞いてどうするつもりなんだ?
「目標って、大体私見てたらわかんねーか?」
「水泳絡みってことは分かるけど、大体じゃなくて、しっかりと聞いておきたい。
私は『神楽』として暮らしていくんだ。きみが、心も体も『神楽』だった頃、
目指していたもの、それを目指す義務が、私にはあるんじゃないかと思うんだ……」
「義務、だと?」
「たとえば、このままいけば、私は水泳の大会に出ることになる」
「それは……確かに頼んだけど……」
「神楽のやりたいことを、やりたかったことを私はやらなきゃいけない。だって
私は『神楽』なんだから」

259 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:46 ID:???
「……何となく分かってきたぜ。つまり、あんたは私の代わりをやるってのか。
今だけじゃなくて、ずっと」
「そう。だって周りから見れば私は神楽なんだから。今は演じているけど、
いずれ本当の『神楽の人生』を生きなきゃいけない。だから、神楽が実現したいことを
今のうちに聞いておいて、実現できるように……」
「やめろよ!!」
大声を上げてしまった【神楽】。ハッとちよが寝ていたことを思い出した。起こしは
しなかっただろうか?
「……すぅ……すぅ」
 ちよは安らかな寝息を立てていた。改めて、【神楽】は【榊】に小声で抗議する。
「なんでそんなこと考えてんだよ。そんなの、元に戻れなくても自分のやりたいこと
やればいいじゃねーか。つーか今決めたぜ。私はちゃんと自分のやりたいことをやる。
榊の周りの人びっくりさせて悪いが、私は水泳をやるからな。体が何だろうと」
「……その気持ちがずっと続けばいいんだけど」
「何だと? いいかげんにしねーとマジで怒るぞ? そりゃ私は最初人に
ばらすなって言ったさ。でもなぁ、演技するのも1日か、3日か……せいぜい
1週間が限度だ! 一生演技なんてやってられるかよ!! つーか最初にあんたの
言った通りさっさと誰かに話して普段の自分通りにしてりゃよかったぜ……」
「声が大きいよ……」
「あ、悪い」
 【榊】はここで、体を起こし、たいていの人の寝るときの位置取りのように、
部屋の入り口の方に自分の足を向けていた姿勢を、180度ぐるっと回転させた。
入り口側が頭、奥側が足になる。これで天井でなく、神楽に向かい合って話が出来る。
期せずして北枕になってしまったが、話をするだけの間だから関係ないだろう。
向きを変えた【榊】は話を続ける。
「入れ替わってから、何か、肉体的なものじゃなく精神的なもので何か
違和感を感じないか?」
「違和感? わからん」

260 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:47 ID:???
「私……おしゃべりになってないか?」
「え……? あ、ああ、そういえば、普段の榊よりよく喋る感じが……
でもこれぐらい別に何でも……」
「いや、確かにこの異常な状況がさせているのかもしれないが、入れ替わる前より
ずっと喋りやすいんだ。普段は会話が苦手で会話の糸口を探すのに苦労しているのに、
今はすらすら言葉が出てくる。それに、普段の私よりも行動が大胆になっている
と言うか……決断力がある気がする」
「でも、榊は榊だろーが。あれだよ。環境が変わって……火事場のバカ力ってやつ?」
「気のせいならいいんだけど……神楽はなにか気づかないか?」
「別に……なんともねーぞ」
「私が忠吉さんを撫でてたとき、どう思った?」
「入れ替わってるのがばれたらやばいなあ、と」
「自分も撫でたい、とか思わなかった?」
「そりゃ、ちょっとは思うけど……こんなことで何が分かるんだよ」
「いや……ごめん、これじゃ何も分からないな。忘れてくれ」
「だーっ。話を途中で止めるなよ。最後まで言ってみろ」
 【榊】は一瞬考えて、
「全然間違ってるかもしれないけど……」
と話の続きを始めた。
「全然間違ってるかもしれないし、思い過ごしかもしれないけど。私ときみの
体が入れ替わっていることで、運動能力が普段と異なっているのは分かると思う」
「そりゃー、昼間試したもんな」
「けど、それは運動能力だけなのか? 私ときみの、頭脳も入れ替わってるんだ。
私は神楽の、神楽は私の脳を使っていまこうして話している」
「……私の脳を使ったらバカになったと言いたいのか?」

261 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:48 ID:???
 暗闇の中でも、【神楽】がちょっとぶすっとした顔になったのが
【榊】には分かった。
「違う……説明しづらいけど……なんて言ったらいいんだろう。
……私が可愛い物好きなのは、私の脳がそういう風に出来ているから」
「それはあんたの性格だろう」
「性格を作っているのは脳だ。今の神楽の脳は普段は私の思考をしていた。
そこに今神楽が入っている。今の所は神楽の性格が出ているが、そのうち神楽の
考えが私の脳に引きずられないかと言うことだ」
「???」
「脳という器にあわせて、性格の形が変わってしまわないかって心配してるんだ。
今神楽が使っている脳は、『榊的』思考をしやすくなっているから、そのうち
それに合わせて『榊的』に神楽が変わっていってしまうのじゃないかって」
「そうなのか?」
「あくまで私の考えだから、証拠も保証もない。でも、入れ替わってから私が
喋りやすくなったのは事実だ。神楽の脳は、思ったことを口にだすのが得意なんだろうな」
「ほめられてんだかそうじゃねーんだかわからんぞ」
【神楽】はぽりぽりと頭をかいた。
「大事なことだ……ちゃんと自分の思ったことを言えるってことは。私はいつも……」
 一瞬、それまで不安に覆われていた【榊】の顔が、それに加えて、悲しそうな、
寂しそうな顔になった。【榊】はそれを自分で打ち消し話を続ける。
「いや、そんなことはいいんだ。それよりもう一つ。やっぱり性格は外側の影響も
大きいんじゃないのかな。毎日鏡を見るとそこには他人がいる。でも、最初は他人って
ことが分かっていても、そのうち今の自分が本来の自分だった、って思いこむように
なってしまわない保証はどこにもないよ。特に私の場合」
「それは、あんただけじゃなくて私もそーだろーさ」
 そこで【神楽】は改めて感心した調子で、
「でもすげえなぁ。そんなことまで分かるなんて。あんた心理学者か?」
と言った。
「だからあくまで私の勝手な想像だ。あまりあてにならない……。でも、だから、
今の気持ちがずっと続くといいんだけど、と言ったんだ。私だったら、神楽の脳で、
神楽の外見で、ずっと暮らしていくわけだ。そうやって、私はだんだん『神楽』に
なっていくんだと思うんだ。私が消えて、神楽になる。意識して演じようと、
そうでなかろうと。そう思ったから、完全に『神楽』になったときに神楽の夢が
叶っているように……」
「夢を今のうちに聞いておくってわけか」

262 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:48 ID:???
 口を挟んだ【神楽】。【榊】が半泣きでうなずいた。喋っているうちに、
これからゆっくりと自分の中から自分が消えてしまうことを改めて予感して悲しく
なったからだ。しかし、これで納得してもらえたと思った。が。
「そんなんじゃ、教えてやれねーな」
【神楽】の反応に【榊】はびっくりした。
「それって最初から諦めてるだろ。私は諦めねーぞ。何とか戻る方法を
見つけてみせる! たとえ体が元に戻んなくても、私は私のままで生きる!」
 そこまで言って、【神楽】はひと呼吸置いた。【榊】の方にもそもそと
ちょっと近付いて、続ける。
「流されないように、自分をしっかり持ちながら行くさ。最後はダメだったと
しても、最初から諦めるなんて私はしたくねーんだ。だいたい、榊は自分で
これは想像だっていってたじゃないか。必ずそうなるわけじゃねーんだろ?
だから、榊も諦めるな。そういうこと考えたらすっげー不安なのは分かるけどさ。
大丈夫、榊なら出来るさ。私のライバルだからな。だから、もうそんなことは
考えるな。元に戻るってことだけを考えようぜ。」
「ちよちゃんにも同じことを言われたんだ……。きっと元に戻れるから、
元気を出してって……。なのに私はこんなことばかり考えて……」
 【榊】はぽろぽろと泣いていた。【神楽】は何も言わず、
ただ落ち着くのを待っていた。

263 :84BHHK5c :2003/06/07(土) 21:49 ID:???
「……ごめん。きみだって話したいことあったのに」
 ようやく【榊】が落ち着いた。【神楽】は軽く笑って、
「かまわねーさ。榊の話すことに比べりゃ、まあ、あれだからな」
と言い、話を始める。
「私の言いたいことってのは、その、なんだ、謝ろうと思ったんだ。
……こんなことになった原因って、私のせいなのかなっって。」
「原因……?」
「私さぁ、実は結構自分の体格とか性格に不満もあってさぁ。なんとか……
榊みたいになれないかって思ったりしてたから。それが、今回叶っちゃったわけだ。
つまり、……私のせいかもしれねーって思ってさ」
 ここまで言って【神楽】は気づいた。慌てて自分に自分でツッコミを入れる。
「あはは、んなわけねーよなぁ。榊みたいになれますようにって思って、本当に
榊になれるなんてあるわけねーよなー。ごめん、変なこと言って」
テレ隠しに笑う【神楽】に、榊が言う。
「それが原因だって思うなら、私だって一緒だよ。私だって神楽はうらやましかった……」
「そうか。あーあ、お互いうまくはいかねーよなー」
「そうだな。でも入れ替わったとしてもうまくはいかない……」
「うん……ま、そんなもんなんだろうな。さて、言いたいことも言っちゃったし、
もう無理にでも寝ちゃおうぜ。明日、っていうかもう今日になってるけど、
戻る方法を探すんだからな」
「ああ」

(つづく)

264 :名無しさんちゃうねん :2003/06/08(日) 09:52 ID:???
>>257-263
やっぱいいっすね。
続きが楽しみだ。

265 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:21 ID:???
>>251-256 ミステリーとしてこれからが佳境ですね。続編が楽しみです。

>>257-263 何か、長編ロマンみたいな感じがしてきました。壮大なスケールですね。

…ってことで、続編です。

266 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:21 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第3章

 4時間目の授業が終わった後、智がちよちゃんや大阪と一緒に、弁当を食べていると、
よみは昼食の弁当を急いで食べてしまい、教室を出て行ってしまった。
 「よみー、どこへ行くんだ?」
 教室を出て行くよみに呼びかけたが、全く反応がなかった。多分、口の中に食べ物を詰
め込んでいたので、聞き取れなかったのかもしれない。
 まぁ、私に隠れて本を読むことはお見通しだけどな。逃げられると思うなよ。
 智は弁当をかきこむ様にして急いで食べてしまうと、よみの足取りを追うことにした。

 「またトイレで隠れて読んでいるんじゃないか」
 智はそう思い、トイレへと向かった。
 しかし、今度はトイレはすべての個室が開いており、よみがここにはいないことがすぐ
に分かった。
 「ちぇっ、ここにはいないか。他を探してみるか」
 智は廊下を何気無しに歩きながら、よみが隠れていそうな場所を探してみることにした。
 「どこだー、隠れても無駄だぞー」
 智はまるで犯人を捜す刑事みたいに、キョロキョロと周りを見ながら、足取りを追った。
すると、廊下の突き当たりに図書室があることに気がついた。

 図書室か。ここにいるかもしれないな…。
 智はそう思いながら図書室に入った。普段、図書室などとは縁のない智にとって、本に
積まれた棚がひっきりなしに立ち並んでいるのを見るだけで、げんなりしそうだった。
 でも、探しているのは参考文献ではなく、メガネをかけた女だ。図書室にいる人を手当
り次第に探れば見つかるだろう。
 智は自分の直感を頼りに図書室の隅から隅まで、よみが隠れていないかを探し続けた。
勉強している人がいる机から、難しそうな本が並んでいる棚まで智はこまめに探したもの
の、目的の探しているメガネをかけた女性の姿はそこにはなかった。

267 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:22 ID:???
 「くそう、ここにもいなかったか。仕方がない、今回は見逃してやるか。まだチャンス
はあるはずだ」
 智は半ば口惜しそうに呟くと、図書室を出て、教室に戻ろうとした。その時だった。
 ちよちゃんと大阪が目の前にいた。そこで、智は二人の下へ駆け寄った。
 「おーい、ちよちゃーん、大阪ー」
 二人は智の姿を見かけると、軽く手を上げた。

 「あっ、智ちゃん。だめですよ、よみさんの読書の邪魔をしたら」
 「いやー、それがよみが見つからなくてな。今回は諦めることにしたよ」
 「それがいいですよ。よみさんだって邪魔されたくないでしょう――」
 まだ、ちよちゃんが話し終えないうちに、大阪がともに向かって話しかけてきた。
 「せや、智ちゃん。一緒に屋上行って涼まへんか?」
 「おっ、いいねぇ。行く行くー」
 「じゃあ、智ちゃんも一緒に行きましょう」
 こうして、3人で屋上へ向かうことになった。
 「屋上、屋上♪」
 智と大阪は陽気に歌いながら、屋上への階段を上がっていった。

 屋上は青空が広がっていたが、暑くもなく寒くもない天気で心地よい風が吹いていた。
 「やっぱり、屋上はええなぁ。屋上で授業してくれればええのに」
 「そうですね。こういう時期なら青空授業とかでも良さそうですね」
 ちよちゃんと大阪がそういう会話をしている一方で、智は屋上の隅のほうで、読書をし
ている一人の女性を見つけた。図書館で見つけることができなかった、メガネの女だ。
 「フフフ…、こんな所に隠れていたのか。待ってろ〜、今行くからな〜」
 智はそう呟いて、まだ自分の存在に気付いていないその女性のところへと向かった。

268 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:22 ID:???
 「よみ〜、こんな所にいたのか〜」
 智は低い声を出してそう言うと、本を読んでいるよみの間近まで顔を近づけた。
 「なっ、何でお前がここに!」
 よみが驚きのあまり手にしていた本を落とした。しかも、そのことさえ気付かない様子
で、あんぐりと口を開いて智を見ている。
 何ておまぬけな顔なんだろう。智は思わず吹き出しそうになった。
 「だめですよ〜、よみさんの邪魔をしちゃー」
 「そうやでー、よみちゃんは探偵なんやから」
 後ろからちよちゃんと大阪が追いかけてきた。

 「屋上で涼もうと思ってきたのに、まさかよみと会うとわな。やっぱり、私たちって運
命の赤い糸で結ばれているんだよ」
 智は自分をたしなめようとする二人の言葉を軽く聞き流し、よみの顔をじっと見つめて、
嬉しそうな口調で言った。すると、即座に
 「そんな訳ないだろ!」
と、よみが大声で反論した。しかも、よみは屋上にいる人が自分に視線を向けているのも
気付いていないくらいだ。
 そんな、我を忘れるほど怒鳴らなくてもいいのに。本当に怒りっぽいんだから。
 智はそんな昔と変わらないよみの仕草がとてもおかしかった。大声で笑いたいくらいだ。

 「あっ、でも屋上で涼もうって言うのは本当ですよ」
 ちよちゃんが智をフォローするように言った。そうそう、今回はたまたまお前とで会っ
ただけで、別に追いかけたわけじゃないんだから、そんな怒らなくてもいいじゃないか。
 大阪、お前も何か言ってやれ。智は横目で大阪を見えた。
 「そうやで。私とちよちゃんが屋上へ行こうとしたら、ちょうど図書室から出てきた智
ちゃんと出くわしてな。一緒に屋上に行こうって呼びかけたんよ」
 そう、お前が誘ってくれなければ、よみとは会わなかったな。サンキュー、大阪。
 智は心の中で大阪に礼を言った。

269 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/08(日) 23:23 ID:???
 「トイレにも図書室にもいなかったから、もう諦めてたんだけどな。まさか、こんな所
にいるとはねぇ。よみくーん」
 智は嬉しくてたまらない口調で言った。予想外の嬉しい出来事に感情が昂ぶりを隠せな
かったからだ。
 「なっ…」
 よみの口からまだ絶句の言葉が出てきた。そして、空を見上げ、悩ましげな様子でよみ
は頭を抱えていた。
 フフフ…。お前はくもの巣にかかった蝶なんだよ。もう逃げられないぞ。まぁ、ちょっと脂肪の多い蝶かもしれないけどな。
 智はよみの苦悩する仕草を見て、また勝ち誇った気分になった。

 「じゃあ、ここでであった記念だ。よみが読んでいる本の犯人を教えてあげよう。」
 智はよみに向かって満面の笑みを浮かべた。
 「だめですよー、そんなこと言っちゃー」
 ちよちゃんが智をたしなめた。
 ちよすけー、そんなこと言ったってすんなりと「はい、そうですか」なんて言う智ちゃ
んではないのだー。もう言いたくてたまんないんだもん。
 「犯人は…」
 「アッパーカーッット!」
 智が犯人の名前を言おうとした瞬間、よみが智のあごめがけてアッパーを繰り出した。
ゴスッと言う音とともに智はその場に仰向けになって倒れた。

 「ひぇ〜」
 智は地面に横たわりながらも、目の前では星がちらついているような景色が見えた。
 「油断もすきもない奴め!いい加減にしろ!」
 智はまだ星がちらついている視界から消え去ってゆくよみを目で追うことしかできなかった。

 「うぅ…、よみの奴、いいアッパー持ってるじゃないか」
 智は仰向けのまま、うめき声を上げた。
 「智ちゃん、大丈夫ですか!」
 「智ちゃ〜ん、生きとるかー?」
 二人の心配そうな声が聞こえた。
 「でも、このまま諦める智ちゃんじゃないぞ…。こうなったら意地でも邪魔してやる」
 「いい加減、そっとしておいた方が…」
 ちよちゃんがダラ汗をかきつつ、智の顔を見ていた。しかし、智の目はまだちらついて
いる星とよみを邪魔する気持ちで溢れていた。
(続く)

270 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/11(水) 23:19 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 第4章

 放課後、智はすぐさま教室を出て行ったよみの足取りを追おうとしていた。
 よみー、逃げようったって無駄だぞ。絶対捕まえてやる。
 しかし、そんな意気込んでいる智の襟首を突然つかんだ人間が現れた。神楽だ。
 「こら、智!お前も今日掃除当番だろう、サボりなんて許さんぞ!」
 神楽はそう言って、手に持っていた2本の箒のうち1本を智に渡した。
 「なんだよ、神楽はマジメだな。掃除なんてたまにサボったっていいじゃん」
 「智が不真面目なだけだ。ほら、掃除するぞ」
 智は神楽に引っ張られ、しぶしぶ教室の掃除を始めた。

 「くそー、何でこんな日に限って掃除当番なんだー」
 智は箒をぐるぐる回しながら、早く済まそうと適当に掃除をした。
 「智ちゃん、マジメに掃除しないとだめだよー」
と、ちよちゃんに注意されたが、よみを早く追いかけたい一心で気持ちが焦っていた智は
そんな注意など全く聞いていなかった。
 こうして、ようやく掃除が終わると、智は一目散に学校を出た。
 よみのことだ、もう家に帰っているだろう。よし、奇襲をかけてやる。
 智は急いでよみの家まで走っていった。

 10分ほどして、智はよみの家の前についた。
 よみ〜、もう逃げられないぞー。
 智はそう思いながら、よみの家のインターホンを押した。
 「はーい、あら…滝野さんいらっしゃい」
 ドアを開けて出てきたのは、よみの母親だった。
 「暦ならまだ帰って来てないわよ」
 「えっ、そうなんですかぁ?」
 智はそう言いつつも、母親がよみをかくまっていないか確認するため、玄関を見た。し
かし、よみのものらしき靴はなく、まだ帰って来ていないのは事実だと感じた。
 くそっ、まだ帰っていないか。どこへ隠れたんだ?
 「今日は一緒じゃなかったんだ?」
 「ええ。私は今日、掃除当番だったもんで」
 よみの母親の質問に智はそう切り返した。しかし、それは事実でもある。

271 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/11(水) 23:20 ID:???
 「もうじき帰って来るとは思うけど、上がって待ってる?」
 よみの母親はともに上がるように促した。しかし、智は自分が部屋で待ち構えていると、
仮によみが家に電話したときに自分がいることが分かって帰ってこないんじゃないかとい
う懸念が頭をよぎり、断るほうが得策のように思えた。
 「そうですか、ちょっと宿題で分からないところがあったもんで…。また、後で来ます」
 智はそれだけ言うと、よみの母親に一礼して、自分の家の方へと歩いていった。

 む〜、よみめー。どこへ隠れたんだ?
 学校の図書室?いや、下駄箱には上靴しかなかったから、それはないか。ちよすけの家?
うーん、でもちよすけは今日一緒に掃除当番だったから、それもないか。
 近所の公園かな?よし、ちょっと行ってみるか。
 智はそう思うや、すぐさま公園へと走り出した。

 よみめ〜、今度こそ犯人の名前を暴露してやる〜。
 智はその執念に燃えながら公園にたどり着いたが、よみの姿はそこにはなかった。
 うーん、ここにもいなかったか。こうなったら仕方ない。今夜よみの家に奇襲するまで
は自宅待機だ。勝負は今夜だ。ふっ、よみめ。それまで首を洗って待ってろ〜。
 智は不敵な笑みを浮かべて、自分の家へと向かった。
(続く)

272 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/13(金) 23:35 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 最終章(前編)

よみの視点は「SS書きの控え室2」
http://www.patipati.com/test/read.cgi?bbs=oosaka&key=1052922310&ls=50
で、お送りしています。

 夜になり、智はよみの部屋の明かりがついているのを確認し、家を出た。
 よーし、今度はよみの部屋へ直撃だ。奇襲をかけて、そのまま犯人の名前を暴いてやる。
あっ、それと、宿題も見せてもらってやる。ふふふ、今に見ていろ。
 智はよみの家のインターホンを押さずに、庭先を周ってよみの部屋の窓に立つと、よみ
の部屋の窓ガラスをノックした。
 少しして、よみがカーテンを開けた。智は窓ガラス越しに映るよみの顔を見て、思わず
ニヤニヤと笑みを浮かべた。
 もう少しで犯人の名前を教えてやるからな、と思うと思わず頬が緩んだのである。

 よみが何も言わずに、窓のロックを外すと、智はひょいと飛び上がり、窓からよみの部
屋へと入った。
 おっと、目的をちゃんと言わないと追い返されるかもしれないな。
 「よみー、宿題教えてくれー」
 智は一点の曇りもない笑顔で言った。ただ、これは嘘ではない。宿題を見せてもらうの
も目的の一つだ。ただ、真の目的は別のところにあるんだけどな。
 智はよみがどことなくよそよそしい態度をとっているように思えた。やっぱり警戒して
いるのか。まぁいい。すぐには言わないでやる。その方が盛り上がるからな。

 「今、宿題解いているところだから、もう少し待っててくれ」
 何だ、まだ終わってなかったのか。じゃあ、待たせてもらうとするか。
 「んじゃ、そうする。お前、あの雑誌の今週号買ったか?」
 「あぁ。その辺にあるだろう」
 智はよみが勉強している机の後ろにあるベッドに横たわり、ベッドの横においてあった
ファッション雑誌を読み始めた。

273 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/13(金) 23:37 ID:???
 よみは宿題を解きながら、自分の好きなラジオ番組を聴いていたため、しばらくは二人
の間に会話がなく、ラジオのDJの軽快なトークが部屋中に響いていた。
 また、こいつはこのラジオ番組を聴いてるのか。本当に好きだね。
 智はそう思いながらも、ファッション雑誌を何気なしに眺めていた。それから、少しし
て、ラジオから最近のヒット曲がかかったとき、智はふとある疑問が頭をもたげ、沈黙を
破るように口を開いた。

 「なぁ、今日の放課後どこに行ってたんだ?すぐいなくなったろ」
 「ん?本屋に行ってた。欲しい参考書があってな」
 よみが智のほうを振り向かず、勉強机に向かったまま、ぶっきらぼうに答えた。
 何ぃ?本屋だって。それは気付かなかった。何で気付かなかったんだ。くそー、よく考
えたら本屋って選択肢ぐらい思いつきそうだったのに…。
 智は唇を噛み締めながら、
「何だ、本屋だったのか?あー、それは盲点だったなぁ」
と、心から悔しそうな声を出した。

 ん、待てよ…。本屋にいたって事はあの本を立ち読みすることもできたってことじゃな
いのか?もしかしたら、もう全部読んじゃったんじゃ…。聞いてみる必要がありそうだな。
 智はベッドから体を起こし、
 「ところで、話は変わるけどさ。あの本どこまで読んだ?」
と、尋ねた。起き上がったときにギィとベッドがきしんだ音がした。

 「まだだ」
 よみが智の顔を振り返ることなく、それだけ言った。
 「まだ読んでないのか」
 智の嬉しそうな様子で言った。思わず、声が弾んでしまった。
 ふぅ、良かった。まだチャンスはあるみたいだな。しかし、バカ正直な奴だ。嘘でも読
んだって言えばいいのに。そうすれば、バラされないかもしれないのにな。まぁ、仮にそ
うだとしても、答えあわせのつもりで言っちゃうけどね。
 智は読みが自分に背中を向けていることをいい事に、意地の悪い笑みを浮かべた。

274 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/13(金) 23:39 ID:???
 「そうか。じゃあ、宿題を教えてくれるお礼に犯人の名前を教えてあげよう」
 智はさっきと同じようなトーンで言った。しかし、普段ならツッコミが入るところなの
に、よみからは何のリアクションもなかった。
 ん、言っちゃっていいのか?言っちゃうぞ。それでいいんだな。まぁ止めても言うけど
な。もう観念したのか?

 「あれ?何だ、止めないのか。言ってもいいのかぁ?言っちゃうぞ?」
 智は早く言いたくてたまらなかった。よみが苦悩する瞬間を目の当たりにしたい、そう
思うと胸の中がウズウズして止まらなかった。
 「犯人は…」
 「ちょっと待て!」
 よみがそう叫んで、智のほうをキッと睨むように見た。

 うおっ!そんな睨まなくても。
 智は思わずその気迫に押されてか黙り込んでしまった。再び、DJの軽快なトークが部
屋中に流れた。
 「それでは、ここでおハガキを一通。ラジオネームが『涙のダイ…」
 ん?ラジオネーム『涙の…』だって。よみの奴、また『涙のダイエット少女』として、
 ハガキを出していたのか。あはははは。こいつはお笑いだ。こうなったら読まれた記念
に、犯人の名前をバラしてやる。

 よみは視線を智からラジオへとずらした。智もそんなよみの動作に合わせるようにラジ
オへと視線をずらした。
 よみのハガキよ、電波に乗って読まれろ。その瞬間、私はよみに犯人の名前をバラすの
だ。ハガキを読み終えた瞬間が、よみにバラす号令となるのだ。
 智の視線はラジオへと釘付けになった。
(後編へ続く)

275 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:16 ID:???
「Zapping SS・結末の行方‐sight of Tomo‐」 最終章(後編)

 DJはそんな一リスナーの心境などお構い無しに、ハガキを読み続けた。
 「ラジオネーム『涙のダイレクトメール』さんですね。今晩は、いつも楽しく聞いております…」
 何っ?『涙のダイレクトメール』だと!よみのハガキじゃないじゃん。何だよ、人を期
待させておいて、このオチは…。

 智は思わず、がっくりとした表情を浮かべそうになったが、その瞬間、次の企みが脳裏
に浮かんだ。
 その間、ラジオからはDJがラジオネーム『涙のダイレクトメール』がハガキにつづっ
た小話を紹介していた。
 別に読まれた記念じゃなくてもいいや。読まれなくて残念賞として、犯人の名前をバラ
してもいいや。名目なんてどうでもいいか。

 ラジオが別の話題へと移ると、智はよみと思わず視線が合った。よし、今だ。
 「よみ〜、残念だったなぁ。で、残念賞って事でさっき言いそびれた犯人の名前を教え
てあげよう」
 智はよみの顔を指差して宣言した。
 「バカ、やめろ」
 よみはそう言ったまま、少しうろたえいる様子だった。

 ふふーん、そんなうろたえたところで、やめるような智ちゃんではないのだ。かえって、
そんな仕草を見せると余計に言いたくなるんだよな〜。
 智はよみの仕草などお構い無しといった具合に、笑みを浮かべた。
 「犯人は…」
 智の口から遂に犯人の名前が出るときが来た。

276 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:18 ID:???
 「犯人は…」
 遂に智の口から犯人の名前が出るときが来た…はずだった。
 しかし、智はそう言ったまま、黙り込んでしまった。
 あれー、誰だったっけ?えーと…。あいつか、いや違うな。誰だっけ、えーと、うーん
と、えーと、うーんと…。うそー、思い出せない…。
 「犯人は…」
 智は指を突き上げたまま、黙り込んでしまった。
 よみが、智の顔を覗き込むように見た。その次の瞬間だった。

 「へへへ、犯人が誰だったか忘れちゃった」
 智は舌をぺろっと出して、あっけらかんと言った。
 あれー、おっかしいなー。誰だっけ、うーん、さっきまでは覚えていたのになぁ。
まあいいや、よみに聞くか。
 「あれぇ、誰だったっけ?よみ、知ってるか?」
 智は何食わぬ顔でよみに訪ねた。その次の瞬間だった。

 「ダブルチョーップ!!!」
 よみが智の頭めがけて渾身のチョップを繰り出してきた。今日食らった攻撃の中で一番
痛い。思わず涙が出て来そうになった。
 「痛ったー」
 智はもろにチョップを受けた頭部をなでる様に抑えた。
 「そんなこと私に聞くな!」
 よみは怒り冷めやらぬ様子で一喝した。
 そんなに思い切り叩くなよ。それよりも、今の一撃で完全に忘れちゃったよ。犯人は誰
だっけかなー。うーん、胸の中がモヤモヤする…。何か、こう喉元まで出てるのに…。
 必死に思い出そうとしている智に向かって、よみは不敵な笑みを浮かべていた。しかし、
智はそんなよみの笑顔を見る余裕もなく、必死に思い出そうとした。

277 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:19 ID:???
 「犯人の名前を教えてやろうか?本当はもう全部読んだんだ」
 「本当か?」
 良かった。これで思い出すことができる。こうなったら、よみでもいいや。誰だか思い
出さないと今夜は気分よく眠れそうにない。
 頼む、教えてくれ。
 智はよみの顔をじっと見つめた。

 「泣いて頼むんだったら、教えてやってもいいぞ。今日の宿題と一緒にな」
 よみが智を見下すように言った。ついでに鼻であしらうように嘲笑してやがる。
 智は急に自分が主導権を握ったかのようなよみの姿が癪に障った。
 「けっ、誰がそんなこと!」
 智はよみを睨むような表情を浮かべて言った。
 「じゃあ、どうやって犯人を思い出すんだ」
 よみは更に意地悪い表情を浮かべて、智を見ている。

 「それは…」
 智の声が途切れた。確かによみの言うとおりだ。今よみに聞かない限り、犯人を思い出
す手段はない。
 よみが智の下へとにじり寄った。
 今日のところは仕方がない、こうなったら逃げるしかない。

 「よーし、今日のところは見逃してやろう。じゃあな!」
 智はそう言うと、一目散に窓から飛び出して、自分の家へと逃げ帰った。
 くそー、何で肝心なところで忘れるんだ。
 智は悔しさのあまり、夜空に向かって叫びだしたくなる衝動を覚えた。
 その衝動をかろうじて抑えながら、自分の部屋にもどった智は早速、犯人の名前を思い
出すべく、本を探した。

 しかし、本はなかなか見つからなかった。
 「あれっ、何でないんだ…。あっ!ブッ○・オフに売っちゃったんだ!くっ、だめじゃ
ん。調べられる手段がないじゃないか!くけー!」
 智は自分のふがいなさに苛立ちを覚え、思わず叫び声を出してしまった。

278 :メジロマヤー ◆lcy0TYHE :2003/06/14(土) 00:20 ID:???
 智は未だに思い出せない犯人の名前を思い出そうとして、眠れない夜を過ごしたため、
翌朝、寝坊してしまった。
 そのため、普段一緒に登校しているよみに先に学校に行ってもらう羽目になった。
 うーん、誰だっけ…。本当に思い出せない…。
 智は駆け足で学校へと向かいつつも、まだ思い出せない犯人の名前を思い出していた。
 走り続けたおかげで、何とか時間前には学校に着き、智は遅刻は免れた。

 「ふぅ、間に合ったー。よみ、置いてくなんてひどいじゃないか」
 智は教室に入るなり、自分の席よりも先によみの席へと駆け寄った。
 「寝坊する奴が悪い。それより、思い出したのか?」
 「うっ、それは…」
 智はうろたえた表情を浮かべた。
 「だから、頼んだら教えてやるってのに、強情なんだからな、智は」
 「うるせー、誰がお前なんかの頼りになるか!」
 智は両手を上下に振り回して言った。それだけは、それだけは、自分のプライドが許さ
ないんだ。よみにだけは教えてもらいたくはない。まぁ、宿題は別だけどな。

 「昨日あの本を読み返したんだろ?何で思い出さないんだ」
 「あの本はもう読み終えたから、ブッ○・オフに売っちゃんたんだよ。だから、もう持
っていないんだ。だから確かめることができないんだ」
 「ったく、ちゃんと読まないから思い出せないんだよ」
 よみは智を諭すように言った。その口調の思わず智はカチンと来た。

 「なんだよー、お前が早く私に犯人の名前を言わせないからいけないんだぞー」
 その言葉に、今度はよみがカチンと来た。
 「人のせいにするな!お前ももう一度ちゃんと読め!」
 よみがそう言った途端、智とよみの二人の間で小競り合いが始まった。
 「あー、また二人のけんかが始まっちゃいました〜」
 「ほんとに、二人とも元気やなぁ」
 よみと智の小競り合いを見ながら、ちよちゃんと大阪はただ唖然としていた。
(完)

279 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 01:55 ID:???
これザッピングでやる意味あったのか……?

正直、ザッピングだのスレ別進行だのオリキャラ設定だのに注ぐエネルギーを
もっと読んで面白い話を作ることに向けてくれ……と思ってるのは俺だけ?

280 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 02:55 ID:???
これ批評になってるのか……?

正直、批評だの煽りだの荒らしだのに注ぐエネルギーを
もっと読んで面白いレスにすることに向けてくれ……と思ってるのは俺だけ?

281 :天の川 :2003/06/14(土) 06:43 ID:???
>>251-256の続きでつ。

282 :天の川 :2003/06/14(土) 06:44 ID:???
 闇。そこにあるものはそれだけだった。
 足は地に付いているのだろうか、それさえも解らない。
 黒い、どこまでも黒い闇が、自分の体を沈めていく。
 必死でふりはらおうとする。しかし抵抗空しく、どんどん闇に飲まれる。
 一筋の光が見えた。前を並んで歩く友人の姿。そこだけ白く光っている。
 追いかける、しかし追いつけない。手を伸ばす、しかし届かない。
 友人は自分に気がつく様子も無い。
 闇が体の半分ほどを覆っていた。顔まで闇が上がってくる。
「うわぁっ!」
 智は、ベッドから飛び起きた。
 体中に汗をかいていた。
「昨日あんなことあったからな・・・・・そのせいか・・・」
 智はすこぶる機嫌が悪いようすである。
 お化けは百歩ゆずって見間違いだとしよう、しかし物置燃えたのは間違いの無い事実なのだ、
智にはなぜか自分だけが不幸な目にあっているような気がしてたまらなかった。
 階下に降りる。事件のせいか、みんなはもうおきていた。
「おはよ、智。昨日は大丈夫だったか?」
「へへっ、まぁね。びっくりはしたけどさ。」
 神楽が心配そうに智にたずねた。

283 :天の川 :2003/06/14(土) 06:45 ID:???
「そうか、ならよかったな」
 ちよは榊、みなもと一緒に朝食を作っている。
 暦は新聞を読んでいた。
 窓の外を見ると、黒ずんだ物置の残骸がある。周りの雪は融けている。
「ともちゃん」
 気がつけば、歩が智の近くに立っていた。
「なにか命狙われるようなことでもしたん?」
 智は仰天し、叫んだ。
「ばっ、なに言ってんだよ!なんで私の命が狙われるんだよー!」
「でも、おかしいとおもわへん?勝手に物置が爆発したんやで?智ちゃんが
火ぃつけた瞬間にやっけ?変やん、そんなの」
 智は言葉に詰まった。他のみんなも、黙っていた。一つの可能性として、
十分可能性があるからこそみんな黙っているのだろう。
「友人が友人を殺そうとするはずが無い」、そう思っているのだろう。
「動機があるとしたら、ちよちゃん、水原、大阪、神楽の四人かしらね。」

284 :天の川 :2003/06/14(土) 06:46 ID:???
 いつの間にかおきていたのか、ゆかりがソファーの上にあぐらをかきながら話し始めた。
みんなが驚いたような顔をしている。みなもはゆかりの元へ、つかつかと歩いていった。
「だってそうでしょ?ちよちゃんと水原は、今までに智になにかしらされて、
それで恨みをもったかもしれない。神楽と大阪は、昨日の一件があるし、
前にもなにかあったかもしれないし・・・・ムガッ!」
 みなもがゆかりの口を押さえ込む。
「あんたはなに言ってんの!?全く。あれは事故、事故なのよ。少なくとも、
私はそう思っている。だいたい、そんな簡単に友達を殺すなんてこと、
できるわけないじゃない!」
 みなもがゆかりに向かって、やや大声で怒鳴った。
「それに、爆弾が作れる人なんて、そんないないわよ。」
 みなもはそれっきり黙った。場の空気も一瞬にして静かになった。
 重苦しい空気が場を包む。
「事故だとしたら・・・」
 暦がつぶやいた。親友の智の命が危険にさらされたことからか、
少し唇が震えていた。
「物理的に考えて、物置が勝手に爆発する、なんてことがありえるのか?ちよちゃん、
あそこには可燃性のある化学薬品とかが入ってた?」
 ちよは首を横に振る。
 暦は「そうか・・・」といって腕を組んだ。

285 :天の川 :2003/06/14(土) 06:47 ID:???
「あそこにあったのは、小麦粉や片栗粉やお米みたいな食料品だけでした。」
「今、思ったんだけど・・・」
 神楽が思い出したように言う。
「智の命が狙われてたわけじゃない・・・・と思う。だってさ、考えてみろよ?
ちよちゃんが智じゃない人を誘ったらどうする?智はこの家にいることになる」
 全員がはっとしたような表情をする。
 視線がいっせいにちよにあつまる。
「じゃあ・・・・狙いは・・・・ちよちゃん?」
 誰ともなしにつぶやいた。
「・・・・」
 場が、またも静かになる。
「あぁ〜っ!うじうじ考えてても仕方ない!物置のは事故!
私が見たお化けは幻!これでいいよ!私もみんなを疑いたくないし、
みんなもみんなを疑いたくないでしょ!?」
 智が耐え切れなくなったように言った。いつも騒がしい彼女には、
この静寂は耐えられなかったのだろう。
「大阪!なにボーっとしてんだ!」

286 :天の川 :2003/06/14(土) 06:48 ID:???
 智が歩の背中を思い切りたたく。
 歩は勢いのあまり、ゆかりが寝転がっているソファーに激突した。
「あ、大丈夫か?」
「わかったぁ!」
 智が倒れている歩を覗き込むと、歩はいきなり顔を上げた。
 歩の頭が、智のあごにぶつかる。ゴツンと言う鈍い音がした。
「いててて・・・なにが解ったって?」
 智があごをさすりながらいった。
「なんで物置が爆発したかに決まってるやん!」
『ええ〜ッ!』
 全員の声がリビング中に響き渡った。別荘が声のせいで少し震える。
 一同は歩の周りに集まった。
「物置が爆発した原因は、智ちゃんやにゃもちゃんが言うてたとおり、事故で間違いない。
ほんでな、なんで物置が爆発したか言うとな、粉塵爆発ってしってる?」
 いきなり歩が話を変えた。
「フンジンバクハツ?」
 智と神楽とみなもとゆかりとが、間の抜けたような声を出した。
榊は解らないのか首をひねっている。暦とちよだけが、
はっとしたような顔をしている。
「やっぱりちよちゃんとよみちゃんは知ってたん?『可燃性のある粉末が、
空気中にある一定量存在していた場合、火気があれば一気に燃え広がる』。
まさにあの物置やね。物置の中はホコリと小麦粉やらの粉末が
いっぱいあったらしいし・・・・ライターつけた瞬間にボンってなったんやろ?」
 智がうなずく。
 一堂は感心したように歩を見ている。
「でも、私が見たお化けは一体なんなの?」
 智が歩に聞いた。
「わかったっていうたやん。安心しぃ」

287 :天の川 :2003/06/14(土) 06:49 ID:???
 歩はそれだけ言って、カーテンを閉めた。光は電気だけだ。
家の中は少し暗くなった。
 歩の姿が見えなくなったかと思うと、歩は台所からヤカンを持ってきた。
やかんをストーブの上に置き、その隣のテーブルに時計を置いた。
 最後に歩がリビングの電気を消す。部屋はだいぶ暗い。
「このまままっとったらええんや」
 五分。変化は現れない。
 七分。いまだに変化は無い。
 九分。智が痺れを切らした。
「これがなんだってのさ・・・あぁ!」
 智の視線の先、いや、全員の視線の先には、あの朝
智が見たお化けと同じものがゆらゆらと浮かんでいた。不定形の物体。
もしくは物質が。
「種明かしをしよか」
 歩はリビングの電気をつける。するとお化けはふっと一瞬にして消えた。
「これがお化けの正体や。」
 ヤカンに入った水が沸騰する、時計の光がヤカンから出てきた水蒸気に映ってお化けのように見える―――種明かしはこんなところらしい。

288 :天の川 :2003/06/14(土) 06:49 ID:???
 全員、驚いた面持ちで歩のことを見つめている。
 歩が倒れる。
 智は急いで歩を抱え込んだ。
「あ・・・智ちゃん、おはよう」
「なにが『おはよう』だぁ、すごい謎解きじゃないか!一体どこでそんなもの知ったんだ!?」
「へ・・・・・?なんのこと?智ちゃんにたたかれて、ソファーに突っ込んで・・・・・そこからずっと記憶がないんやけど・・・」
「・・・・」
 誰かがポツリとつぶやいた。
「本当のお化けが・・・大阪に取り付いた・・・・・・のかな」

 帰り道。車は高速道路を走っていた。運転手はもちろんみなもだ。
 今でもあの歩の名推理の事は分からずじまいらしい。
 みな、一様にお菓子を食べたり楽しく話し込んだりしている。
 ふと、歩が思い出したように叫んだ。
「あ!」
 みんなが一斉に歩のほうを振り向く。
「誰かおらんおもっとったら、かおりん!」
「・・・・・あぁ!」

「榊さーん。みんなー。なんで誘ってくれなかったのかなぁ・・・・?」
 とある町で、そんな大学生の女の子がいたとかいなかったとか。

289 :天の川 :2003/06/14(土) 06:53 ID:???
終わりです。

なんか他の皆さんのSSに比べると見劣りするなぁ・・・・
粉塵爆発の原理って、これで本当にいいんでしょうかね?
詳しいことが解らないので、わかる人がいれば忠告お願いします。

>>272-278
楽しかったです。ザッピングSSははじめてみましたが、面白いですね。
内容とあわせても、二人の日常が上手くかけていると思います。
なんか偉そうににいってしまいましたがすいません。

290 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 09:52 ID:???
>>272-278
ひたすらからかおうとする者とそれから逃げる者ということで
二人の心境の違いがうまく書けていたと思う。
ただオチが弱かったんじゃないかと。

>>289
粉塵爆発についてはこれでいいけど、小麦粉が袋などに入っていない状態で
むきだしになってなければそこまで空気中の濃度は高くならないと思う。
(物置という記述からしてそうはなっていないよね?)

時計の光についてもデジタル時計ひとつでそこまでの光が得られるかどうかは疑問。

いや、実は本当にそうなのかよく知らないし実験もしてないんだけどね。
偉そうなこと言ってスマン

291 :天の川 :2003/06/14(土) 11:58 ID:???
『 風が吹いた。物置の中のホコリが舞う。』
一応このような記述があったのですが、これだけでは流石に無理ですかね?
説明が足りないところがあり、反省。

292 :290 :2003/06/14(土) 13:26 ID:???
>>291
あ、しまった。ちゃんと記述があったんだ。
でもなんで智はライターをつけたんだろう?
灯りのつもりだったのならちゃんとしたものを持っていくべきだと思う。
そこまでに「ライターを持っている」という記述がなかったのでちょっと不自然だった。

ところで「年下の彼氏」っておませな正太君のこと?

293 :279 :2003/06/14(土) 16:30 ID:???
ま、面白いという人もいるか……
煽りや荒らしと同列に扱われるのは不本意だけど
俺もちょっと大人げなかったかもな
気分を害するような感想はもうわざわざ言わないようにするよ

294 :天の川 :2003/06/14(土) 18:42 ID:???
>>292
ええ、もちろん(断言(w
自分は大阪と正太君のカップリング推奨派ですから。
二人のSSも上に書いてたり。
>>187 >>197

295 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 20:30 ID:???
>>293

折れは279の意見に一票入れるぞ。
まあ、凝ったオリキャラ出すのは別にかまわんと思うがな。

296 :名無しさんちゃうねん :2003/06/14(土) 20:38 ID:???
まぁ、好みは人それぞれということで。

自分は別にザッピングがどうのこうの言うわけでもないし、
SS書きさんが楽しければそれもいいかな、と。個人的に言わせてもらえば
ザッピングよりリレー小説のほうが好きですが。
流石に世界観を無視したものはいやですが・・・。(早口でまくしたてるように話す榊さんとか、
黒ちよではなく、素で友達相手に敬語を使わないちよちゃんとか・・・。

オリキャラは小説の進行に必要なら別になんとも。
対して役どころが無いのにでてくるのはどうかと思いますが・・・

297 :A ROSE IN THE RAIN...(1/4) :2003/06/15(日) 01:45 ID:???
5月22日
今日の神楽は少し変だった。
3時間目には体育があり、そこで跳び箱があったのだ。
いつもならクラスで一番の跳躍を見せるのだが、
今日に限って全然跳べないのだ。
それならまだしもちよちゃんや大阪のレベルだ。
さらには着地に失敗し、膝を擦り剥いてべそをかいていたのだ。
この状況にいつものメンバー達は何があったものかと心配したが
彼女は心配無いと言う。

5月23日
この日は智がわけのわからない事を言い出して皆を困らせた。
私は疲れていたのですぐ家に帰って寝た。
後になって気づいたが、今日の神楽は榊以上に無口だった。

5月26日
随分暑くなってきた。
制服は5月いっぱい冬服なのでとても暑い。
早く夏服に袖を通したい。
もちろん、ひとつ小さいサイズがいいな。

298 :A ROSE IN THE RAIN...(2/4) :2003/06/15(日) 01:45 ID:???
5月27日
前からおかしいと思っていた神楽だが、やはり変だ。
どうもこう、人が変わってしまったようだ。
休み時間に手芸の本を読むなどありえない。
智が「何か悪い物でも食べたか?」と言っていた。
私もそう思う。

5月28日
放課後、ちよちゃんと話しこんだ。
彼女も神楽の様子の変化には気づいていたらしい。
明日あたり本人に聞いてみようという事になった。

5月29日
授業中、神楽が黒澤先生に当てられたが返事が無い。
聞くと、彼女は「自分は神楽では無い」、と言う。
黒澤先生は冷静に対応していたが、正直訳がわからない。
しばらくすると神楽も落ち着いたのか問題に答えていたが
少し心配になってきた。
放課後になると彼女は慌てて帰ってしまったので
様子を尋ねる事はできなかった。
動揺していた様子だし、逆に良かったかも知れない。

299 :A ROSE IN THE RAIN...(3/4) :2003/06/15(日) 01:46 ID:???
5月30日
体育の授業があったが、神楽は見学していた。
普段の彼女からは考えられない事だ。
放課後、ちよちゃん、智、私の三人で半ば無理やり彼女を
ファミレスに誘った。
智が名前を呼ぶと神楽は「何故皆は私の事を神楽と呼ぶのか」
と言い放った。口調は非常におとなしく、丁寧だった。
彼女が言うに、自分の名前は「九重 未柚」だと言う。
私は狐に摘まれたような感じがして理解に苦しんだが、
はっとなったちよちゃんが私に耳打ちした。
二重人格というやつではないか、と。
私と智は同時に「まさか」と言ってしまった。

6月2日
今日は榊を当たってみた。
毎日一緒に登校していたらしいのだが、一週間程前から急に
朝会わなくなってしまったらしい。
だが今日に限っては朝から一緒だったと言う。
不思議な事に今日の神楽はまともで元気だった。
今日から始まったプールにも進んで参加し、勢いのある泳ぎを見せた。
さすがは水泳部だ。
神楽は以前のように私達と下校し、何も無かったように会話した。
本当に不思議だったが、彼女の顔はどこか疲れているように見えた。

300 :A ROSE IN THE RAIN...(4/4) :2003/06/15(日) 01:46 ID:???
6月3日
今日もまともな神楽に会える事を期待していたが、
それは見事に破られた。
私が事情を聞こうとすると頑なに拒み、
目に涙を浮かべながら構わないで欲しいと言う。
ちよちゃんが横から「友達なんですから、何でも相談してください!」
と言う。彼女はその言葉を聞いて、
「神楽さんは、皆さんに愛されているのですね。」
とつぶやいた。
ちよちゃんの言っていた事は、案外本当かも知れない。

6月4日
今日、神楽(?)は学校を休んだ。
風邪で病院に行っているらしいが、絶対それは無いはずだ。
見舞いに行くと言って先生にどの病院か聞いたら
教えてもらえなかった。やはりここ最近の神楽の行動と関係があるのだろう。

<続く?>

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