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榊神楽萌えスレッド

1 :名無しさんちゃうねん :2003/09/12(金) 23:12 ID:???
よみともに続いて第二弾!
職人さんの降臨に期待します。
やっぱりsage進行でいきましょうか。

勝手に親スレ <あずまんが百合萌えスレ>
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/1044502785/1-100

勝手に姉妹スレ <よみとも萌えスレッド>
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/034618421/l50
 

301 :名無しさんちゃうねん :2004/05/25(火) 21:34 ID:???
待ってましたー!
でも感想は後半見てからにするか。

あと、的を得るは
「的を射る」もしくは「当を得る」が正解だったかと。

302 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:23 ID:???
「Spiritual Light」 第13話「希望の光(後編)」

 雷鳴が5秒ほど鳴り続き、稲妻が部屋を照らし終えても、神楽とジンはお互いに顔を見
合わせたままだった。
 神楽の繰り出した刃はジンの顔を覆っていた甲冑を崩し、素顔を露わにさせた。その正
体に、神楽は唖然とした表情を浮かべた。それはジンによって自分が右肩に攻撃を受けて
血を流していることにも気付かない程だ。
「ち……ちひろ……?」
 ようやく我に返った神楽がたどたどしい口調でジンの素顔と思しき人物の名を呼んだ。
しかし、ジンは何も言わず、黙ったまま神楽を睨みつけている。榊もジンの素顔を見て、
まだ言葉を失ったままだ。
 ジンの刀についた神楽の血がゆっくりと地面に落ち、白いコンクリートの床の一部を赤
く染めた。

「何でだよ、何で千尋がジンなんだよ?」
 ようやく、自分が腕に傷を負ったことに気付き、神楽が左手で傷口を覆った。治癒の術
によって傷口はすぐに癒えたが、まだジンの素顔に対するショックは引いていない。その
せいか、無意識に後ずさりを始めていた。数歩目で、足をとられて転びそうになったが、
駆けつけた榊が抱きかかえてくれたために、転ぶことだけは避けられた。
「大丈夫か……」
「すまない」
 しかし、二人はその場にとどまったまま、ジンの素顔をまだ唖然とした表情のままで見
つめている。
 ジンも、間合いを取るために、少し後ろに下がっていた。

「フッ、確かに私の母体となったのは、千尋という女だ。ジンという名前も千尋の『尋』
という字を『ジン』と音読みに変えただけだしな」
 ジンはどこか自嘲的なニュアンスで「フフフ……」と笑みを浮かべた。神楽も榊もまだ
ショックが大きいために、何も言わず、いや何も言えずにジンを見つめている。
「な、何で千尋がジンに……?なぁ、一体どんな理由があったんだよ!教えてくれよ!」
 ようやく神楽が言葉を口にしたが、声が微かに震えている。

303 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:23 ID:???
「落ち着くんだ……。彼女がジンになった訳じゃなくて、彼女の悪しき魂がジンになった
んだ……」
「いや、それは分かっているけど、でも、何か理由があったわけだろ?一体何があったと
言うんだ?」
 神楽の声がまだ微妙に上ずったままだ。
「フフフ……、そんなに知りたいか?だったら、教えてやる……」
 ジンは神楽と榊のやりとりを聞きながら、「フッ」と小さく笑みを浮かべると、ゆっくり
と口を開いた。

「私は……、私と言っても私の母体である千尋のことだがな、中学生の頃は勉強も運動も
できて、クラスでも目立っていたんだ」
 榊も神楽も千尋とは別の中学校だったため、千尋の中学校の頃の話を聞くのは初めてだ
った。
「その頃は私はクラス内で持て囃されていたのに、高校生になってからはそれが一変した
んだ。入学して間もない頃に、ちよに勉強を教わるハメになってから、私の中の歯車が少
しずつずれていったんだ。まぁ、ちよはその後学年トップになるほどの学力の持ち主であ
ることが分かったから、私の心に刻まれた傷は少しは癒されたがな。ただ、運動でもあれ
だけ自信があったのに、他の奴らにすっかりお株を奪われてしまい、私が目立つ場が失わ
れ、いつしか私のプライドは粉々に砕かれたんだ」
 ジンはしかめっ面を浮かべ、自分の拳をギュッと握り締めた。

「それでお前はジンになったのか?」
「それだけじゃない。確かに、私はプライドが打ち砕かれた上に、クラス内でもあまり目
立たない存在へと姿を落としていった。それはかなり屈辱的だったせいなのか、私の心の中
でどこか卑屈になっている感情が芽生えてきたんだ。『これ以上頑張っても、自分には越
えられない壁がある』ってそう思えたんだ。だから、どこか投げやりな気持ちを持ってず
っと過ごしてきたんだ……。だけど、そんな自分にもまだ救いがあるって思えたことがあ
ったんだ。そう思えたのは、お前がいたからだ、神楽……」
「私が?一体どういうことだよ?」
 ジンに自分の顔を指差されたことで、神楽は一瞬呆気に取られた。
「何事にも前向きで、一生懸命頑張っているお前の姿が眩しかった。そして、羨ましかっ
た。お前の輝いている姿が私にはあまりにも輝いて見えたんだ。もし、神楽のように強い
気持ちで何事にも立ち向かえたらなって何度も思ったもんだ」
 ジンが言葉を飲み込むかのように、一旦は黙り込んだが、すぐさま口を開いた。

304 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:24 ID:???
「だけど、神楽と比べて、なかなか強くなれない自分に不甲斐なさを感じ、いつしか自分が
許せなくなったんだ……。でも、自分の弱さを認めたくなかった……。そのせいか、いつし
か自分にない輝きを持っている神楽に嫉妬をしていたんだ」
 ジンの体が小刻みに震えているのが、神楽や榊の目にも分かった。
「そんなことを思っているうちに、いつしかそんなお前の存在が邪魔に思えてきたんだ。
正直、憎いとまで思えてきた。神楽が一生懸命輝いているほど、私の中の光は色褪せてし
まうんじゃないかって……。これ以上、自分の弱さを加減を認めたくないって、そう思っ
た頃には、私、つまりジンへと変っていったんだ。でも、神楽には感謝しているんだ。こ
うして私がジンとして生まれだからな。あとは、あの日輝いていたお前と輝きを失った私
の立場を逆転させるために、例えこの身がどうなろうとも、お前を、いや、お前だけは必
ず倒す!」
 ジンは両腕を強く握り締めると、天を仰いだ。
「うおおおおお!」
 突然、獣が吠えるような大声を上げると、ジンの体の周りを黒い闇が包んだ。闇によっ
て、ジンの姿が見えなくなったが、一瞬の間を置いて、闇は霧が晴れるように消えていっ
た。だが、神楽や榊の瞳に映るものは大きく変わっていたために、驚きの表情を浮かべる
以外にできることはなかった。

 さっきまで千尋の素顔を晒していたジンの顔が、今度は別のものへと変わっていたのだ。
それはまるで鬼のような形相だ。
「まるで般若のようだ……。さすがに角は生えていないが、ピッタリ当てはまる……。そ
もそも般若は憤怒・嫉妬・苦悩の情を表す鬼女の面のことをさすが、今のジンはまさに般
若だ……」
 まだ引きつった表情を浮かべたまま、榊が呟いた。
「何でだよ、何でこんなことになるんだよ!」
「そんなことを言われても私にも分からない……」
 神楽の問いかけに対して、榊は戸惑いを隠し切れず困惑した表情を見せている。
「さーて、どうするんだ?」
 この状況を楽しんでいるかのようなジンの弾む声に、神楽はキッとジンを睨みつけた。
 しかし、正確には神楽が睨みつけているのはジンではなくなっている。もはや千尋の面
影はない。ただ、今まで以上に邪悪な気配を漂わせた鬼がそこにいるだけだ。神楽も榊も
ジンの漂わす気配に、ただならぬものを感じ、再び刃を作り出した。

305 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:24 ID:???
「さて、まとめてお前らを葬り去ってやる」
 ジンが二人のいる場所へと突進してきた。
「速いっ……」
 そのスピードの速さに思わず、神楽も榊も身をよじらせて、ジンの攻撃を避けることし
かできなかった。あと、一瞬でも遅かったら、間違いなく大怪我をしていたであろう。ジ
ンが振りかざした刀の跡がアスファルトの床に刻まれている。

「何て力だ……。こんな攻撃を受けたら、ひとたまりもないぞ」
 神楽は床に刻まれた刀の跡を見て、軽く動揺しているのを自分自身でも感じた。
「ほぅ、今の攻撃をかわすとはな。だが、次はそうは行かんぞ!」
 ジンが今度は刀を振りかざしてきた。神楽は紙一重で何とかかわすことができた。ジン
の攻撃によって、また床に新しい傷が刻まれている。

「大丈夫か……?」
 榊が神楽のそばに駆け寄ってきた。 
「あぁ、何とか大丈夫だ」
 少し乱れがちの呼吸を繰り返しながら、神楽が小さくうなずいた。
「でも、どうする……?ここまで強い力を持った相手と渡り合えるか?」
「そうは言っても、このまま逃げるわけにも行かないだろう」
「そうだけど、太刀打ちできるのか……?」
 榊の問いに神楽は一瞬答えを詰まらせた。しかし、一呼吸おいてからゆっくりと口を開
いた。

「そんなの分からねぇよ。だけど……」
「だけど……?」
「これだけはハッキリ言えるんだ。これは私の問題だって。私が原因となって千尋がジン
になってしまった以上、私がジンを止めなくちゃいけないんだ。だから、何としてでもジ
ンを倒す!」
「大丈夫なのか……?」
「何とかやってみるさ。もし、ダメだったら後は頼むな」
 神楽はそう言って、榊の肩を軽く叩くと一歩前へと踏み出した。

306 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:24 ID:???
「千尋の心から目覚めた邪悪な魂よ、これ以上この世に止まることは許さなねぇ!私の光
によって今すぐ消えよ!」
 神楽が気力を高めて風を巻き起こすと、ジンの顔を目がけて刃を向けた。
「ほぅ、言うじゃないか。私に勝てるとでも思っているのか?」
「少なくとも、後ろ向きな気持ちで生まれてきたお前なんかに負けたりはしない!私だっ
て自分に自信がなくなったり、プライドを傷つけられたりする時だってあるさ。だけど、
そんなことをイチイチ気にしていたら、次のステップに進めないんだよ!生きている以上、
前を向いて歩かなくちゃいけないんだ!」
「だが、お前の猛虎の舞はすでに封じたはずだ。それでも前を向いて戦うというのか?」
「くっ……」
 さっきジンに猛虎の舞を封じられていたことを思い出し、神楽は唇をかんだ。
「いや、私のこの強い気持ちさえあれば、きっと何かの糸口が見えるはずだ!行くぞ!う
りゃあああああ!」
 神楽がジンに向かって走り出した。ジンは黙ってそれを見ている。

「ふっ、遂にはヤケになって暴走したか。だとしたら、敬意を表して、私からお前に最期
の瞬間をプレゼントしてやる」
「だああああああ!」
 神楽がジンの目の前でジャンプし、ジンの頭上高くから刃を振り下ろそうとしている。
「そんな攻撃、弾き飛ばしてやるわ!」
 ジンが刀を上に構え、神楽の攻撃を受け止めようとしている。榊は何も言わず、無事を案
じながら神楽を見つめている。
「今度こそお前を成仏させてやる!うりゃあああ!」
 神楽が刃を大きく振りかざした。ガキーンという音が部屋中に響いた。再び雷が鳴り響いた。

 稲妻が部屋の中を照らしたときに響いた轟音以外は、何も聞こえなくなった。神楽とジ
ンは互いに刃をぶつけてすれ違った後、背中を向けたまま、黙って立ったままだ。榊は神
楽の背中をただ見つめている。
「うぐっ……」
 神楽が体の支えを失い、その場に手をついてうずくまった。自分の体が鉛にでもなった
かのように、重々しく感じられる。

307 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:25 ID:???
「大丈夫かっ!」
「はぁはぁ……」
 榊がそばへ駆けつけて来たが、言葉を返すことができず、口から出るのは苦しそうなう
めき声だけだ。また、大粒の汗が顔中を濡らしているが、それを拭おうとする気力すら起
きてこない。
「しっかりするんだ……」
 榊が神楽の肩を自分の体で包み込むように抱き寄せてきた。神楽は榊の気持ちに応えよ
うと言葉を発しようと思ったが、まだ乱れ気味の呼吸がそれを阻んでいる。
 
「か、かぐ……ら……」
 ジンのかすれそうな声が後ろから聞こえてきた。神楽は荒い呼吸を繰り返したまま、ジ
ンの顔を見つめた。
「どうし……ても……、か、かてな……いの……か……。おまえ……のちか……ら、いや、
……きも……ちは、そんな……につ……よい……というのか……」
 その瞬間、ジンの体に異変が起き始めていた。体が少しずつ灰となり、ゆっくりと崩れ
ていったのだ。何とか言葉にしていようとしているセリフももはや蚊の鳴くような声に過
ぎず、何て言っているのか神楽にも榊にも分からない。
 やがて、ジンの全身が灰となって崩れ落ち、そのまま宙を舞うと、跡形もなく消えてい
った。

「わ、私……、ジンを倒したのか……?」
 ようやく、言葉を出せるまでに呼吸が戻った神楽が、力のない声で榊に尋ねた。しかし、
まだ小刻みに呼吸を繰り返したままだ。
「あぁ、そのようだ……」
 榊が神楽に微笑みながら呟いた。しかし、神楽は何も言わず、たださっきまでジンがい
た場所を見つめながら、黙っていた。
「神楽……?」
 榊が神楽の名を呼んだが、神楽はそれに気付かずに、ぼんやりと窓から見える雨空を見
上げることしかできなかった。刃を収めた柄を握り締めたまま両手をひざの上乗せ、力な
く正座をするようにへなへなと座りこんだままだ。

308 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:25 ID:???
「ケガとかはないのか……?」
「どうやら、大丈夫みたいだ。特に痛いところも血が出ているところもないようだし。だ
けど、さっき繰り出した一撃で相当量の気力を消費したせいかな、全然立ち上がる力が出
ないんだよ。今はただこうすることしかできないんだ」
「すごい攻撃だった。かなりの気迫だったよ……。きっとジンよりも上回っていたはずだ。
だから勝てたんじゃないかな……」
「なぁ、榊……」
 神楽が榊の顔を向き直し、力のない声で呟いた。
「一つ聞いていいか?」
「あぁ……」
 榊がうなずくのを見ると、神楽は再び空を見上げた。

「もしかして、知らず知らずのうちに私は千尋を傷つけていたのかな?」
「えっ……?」
「私ってガサツだから、もしかしたら知らない間に傷つけていたんじゃないかなって思っ
てさ。もし、そうだとしたら、千尋に何て言って謝ればいいのかな……」
「神楽はただ一生懸命頑張っただけだ……。別に何も悪いことをしたわけじゃない……」
「私だって、本当はみんなが言うほど強くはないんだ。落ち込んだりもするし、泣きたい
ときもある。それでも、どんなに落ち込んでいても明日は必ずやってくるから、明日こそ
は今日乗り越えられなかった自分の弱さを乗り越えなくちゃいけない……って、だから、
どんなときでも前向きに頑張ろうとしただけなんだ」
「そうだったんだ……」
「でも、その私の強い気持ちが、かえって色んな人を傷つけてきたのかな?」
 一粒の涙が瞳をにじませていた。神楽はそれに気付くと、榊に気付かれないように、流
れ落ちる前に右腕で拭い、滴を払い落とすように一度大きく腕を振った。
「そんなことはない……。私は好きだよ、神楽の強い気持ちが……。それにさっき言ってた
じゃないか。『少なくとも、後ろ向きな気持ちで生まれてきたお前なんかに負けたりはしない!』
って。あの言葉は強い気持ちを持っている神楽じゃなきゃ言えないよ……」
 榊が後ろから抱きしめるように両手を神楽の肩の上に乗せた。榊の掌から何とも言えな
い温もりが伝わってきたことで、神楽は心なしか救われそうな気がした。

309 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:26 ID:???
「ありがとう。榊の言葉で少しは気が楽になったような感じがするよ……」
 神楽は見上げていた首をいったん下に向けて、大きく深呼吸をすると、顔を覆っていた、
涙と汗を腕でぬぐい、ゆっくりと立ち上がった。ようやく呼吸も落ち着いてきたが、まだ
足元が少しふらつきがちだ。思わず、バランスを崩しその場に倒れそうになってしまった。

「大丈夫か……?」
 とっさに榊がそばに駆け寄り、神楽の腕をつかむと、自分の肩の上に回し、体を支えた。
「まだ足が震えているみたいだ。ガクガク言っているよ」
 神楽の膝は右へ左へと小刻みに震えていた。榊の目でもハッキリ分かるほどだ。
「無理はしないほうがいい。もう少し休もう……」
「悪いな。もう少しすれば収まるとは思うんだけどさ」
 二人はドアの近くの壁際まで歩みを寄せ、そこで横並びになって座り、窓の外の景色を
見つめた。何も言わずに黙り込んでいたために、部屋の中に沈黙が漂った。さっきまで激
しい戦いがあったとは思えないほどの沈黙だ。雨が少し弱まったせいか、窓ガラスを打ち
付ける雨音も響かなくなっている。

(やっぱり、榊のおかげだ。私がジンを倒せたのは榊がいたからなんだ。だから、榊にち
ゃんと私の気持ちを伝えないと……)
 神楽は無意識に隣で何も言わずに座っている榊に目をやった。榊はまだ自分が見られて
いることに気付かずに、外を見つめたままだ。
「なぁ、榊?」
「どうした……?」
 神楽の呼びかけに反応するように、榊が神楽へと顔を向き直した。
「……ありがとう。榊がいてくれたおかげでジンに勝てたんだ」
「そんな、私は……」
「榊と一緒にいるだけで、私の心は強くなれる気がするんだ。だから、私……」
 神楽はそこまで口にすると、自分でも心なしか顔が赤くなりそうな気配を感じ、思わず
うつむいてしまった。
(でも、この気持ちだけはちゃんと口にしなくちゃいけない。私の気持ちを榊に届けなくちゃいけないんだ)
 そう心に強く決心し、自分に言い聞かせると、再び榊と向かい合った。

310 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:26 ID:???
「榊、私は――」
――ハロー、エブリニャン。
 突然、ちよ父が二人の目の前に現れ、右手を大きく上げた。それを見て、二人はゆっく
りと立ち上がり、ちよ父を見つめた。神楽も立ち上がる力を十分に取り戻したようだ。
「お父さん……」
「だーっ!何だよこんなときに!」
 神楽は思わず大声で怒鳴ってしまったために、榊は何が起こったのか分からずキョトン
とした表情を浮かべている。

――神楽よ。よく、ジンを倒した。実に見事だ。
 ちよ父もまったく我関せずと言った具合に話を進めた。神楽は褒められているのにもか
かわらず、告白のタイミングを逸してしまったことで、ちよ父を睨みつけている。
――神楽、お前は何を怒っているんだ?まぁ、そんなことはどうでもいい。それより、お
前に言っておきたいことがある。
(どうでもいいことあるか!)
 神楽は大声で叫びたくなりそうになったのを、グッとこらえた。

――ジンは確かに千尋の悪しき魂が具現化されたものだが、決して神楽が直接的な原因と
いうわけではない。千尋は自分自身の弱い心に負けそうになってしまったのだが、それで
も神楽の何事にも前向きな姿を見て、そんな自分に打ち勝とうとしてたんだ。
「えっ、そうなのか?」
――あぁ、だから、千尋は神楽にあやかって自分も強くなろうと色々と頑張っていたのだ。
ただ、ジンの言う通り、なかなかそれが実を結ばずに、いつしか心の中に負の感情が芽生
えつつあったらしい。少なからず千尋の心に存在していた苦悩とか嫉妬とかがな。そこへ、
陰魔一族のシュウがつけこんで、悪しき魂だけを抽出し、ジンが生まれたのだ。
「負の感情を……?」
 榊が小さな声で呟いたのを聞いて、ちよ父は榊の顔を見つめ、ゆっくりとうなずいた。
――そうだ。自分自身に対する焦りや苛立ち、絶望や失望、また他の人に対する嫉妬など、
心の奥底に潜む陰の部分によって、千尋の心からジンが生まれ、やがて一人歩きしていっ
たのだ。陰魔一族は他人の心の中にある負の感情、つまり陰の部分である悪しき魂を具現
化して、魔物を作り出そうとしているのだ。それが陰魔一族の狙いなのだ。同時に、陰魔
一族の力の源となるのも負の感情なのだ。さっき、ジンが鬼のような姿に身を変えたもの、
そのためだ。

311 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:27 ID:???
「何だって!人の心の弱みに付け込むだなんて許せねぇ!」
 神楽が思わず拳を握り締めた。
――だからこそ、伝説の巫女の血を引く者として強い気持ちを受け継いだお前達が、その
気高き光の刃で奴らを陽のあたる場所へと導いてやらなくてはいけないのだ。何せ、お前
たちは希望の光なのだからな。
「希望の光?私たちが?」
――そうだ。光が当たらずに苦しんでいる彷徨う魂を救う希望の光となるのだ。それが先
祖代々から伝説の巫女に与えられた役目なのだ。
「何か段々と役目が増えていないか?」
――まぁ、そうかもしれないが、基本的なことは同じだ。だから、お前達の『大切なもの』
である気持ちを見失うことなく、常に強い気持ちを持って臨んでくれ。それが陰魔一族を
倒す大きな力の源となるはずだ。お前達ならきっとできるはずだ!
「分かった。やってみるぜ!」
「はい……」
 神楽が握り拳を見せて、自分の気持ちをアピールした。榊も表情を引き締め、コクリと
うなずいた。
――うむ。期待しているぞ。
 ちよ父がそれを見て安心したかのように何度もうなずいた。

――あっ、それと、神楽に一つ言っておくことがある。
「えっ、私に?」
――さっき、お前がジンを倒したときに大きく刃を振りかざしただろう?あれはお前の新
しい必殺技となりうる。だから、修練を怠らないようにな。
「必殺技?今度は何の舞だよ?」
――いや、お前の属性からして猛虎であることには変わらないのだが、例えて言うなら『猛
虎の舞その2』といった感じになるのだが……。
「何だよ、その2なんて技じゃカッコつかないよ」
――やはり、お前ならそう言うと思ったぞ。だからな、お前の先祖は「猛虎の舞」の後に
それぞれの技の特徴を生かした名前をつけていたんだ。まず、その1だが、刃から繰り出
される波動が虎の雄叫びのように見えたから、「猛虎の舞・咆哮」と呼ばれていたのだ。で、
その2なのだが、刃を大きく振りかざす仕草が、虎が自分の爪で相手を引き裂く様子に似
ていることから、「猛虎の舞・裂(れつ)」と呼ばれていたのだ。

312 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:27 ID:???
「そう言えば、確かに何かを切り裂く様な強烈な雰囲気だった……」
 榊がさっきの神楽の一撃を思い出し、小声で呟いた。
「へぇ、咆哮と裂ね。これで必殺技が2つに増えたってことか。よーし、頑張るぜ!」
――榊、お前にもそれぞれの技の特徴を生かした名前がある。で、今使っている技だが、
あれは「鳳凰の舞・飛翔」というものだ。いずれは2つ目の必殺技を生み出すことがある
はずだから、その時にまた改めて技の名前を言うと思うので覚えておいてくれ。
「分かりました……」
――それでは、さらばだ!
 ちよ父はそう言うとそのまま姿を消し去った。もう目の前にその姿は見えない。ただ、
二人ともちよ父がいた場所をまだ見つめている。
「そうだったのか。ジンを倒すことができたのは新しい技を見出したからなのか」
「新しい技か……。神楽の強い気持ちを見習って私も早く見つけないといけないな……」
「大丈夫、榊ならすぐ見つけられるさっ」
「うん、頑張る……」
 榊が微笑みながら、神楽の顔を見つめた。神楽もそれを見て笑みを返した。

「そう言えば、さっき何を言おうとしていたんだ……?」
 突然、榊から質問され、神楽は一瞬頭の中が真っ白になってしまった。さっきは心の準
備ができていたために言えそうだったのだが、ちよ父に邪魔されてタイミングを逸してし
まった上に、自分の新しい必殺技に芽生えた喜びもあって、そのことに気を取られていた
のだ。そのため、何とか言葉を返そうと思うのだが、なかなか返す言葉が見つからない。
焦りだけが先走りをしているのが自分でも分かる。
「あと、ジンが言ってたんだ……。『神楽が私にただならぬ感情を秘めている』って。もしかし
てそのことなのか……?」
「あっ、それは、その……。何て言うか、つまりだな……」
 神楽はまだ、適当な言葉を探そうとしてしどろもどろになっている。
「でも、嬉しかった。実は私もなんだ……」
「えっ?」
「私も神楽に対して特別な感情を抱いているんだ……。神楽は、私にとってかけがえのない
人なんだ……」
「さ、榊、実は、私……」
 神楽が小声で自分の思いを伝えようとしたが、榊の耳には届いていないらしく、榊はそのま
ま話を続けたため、神楽が黙って榊の話に耳を傾けることにした。

313 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:27 ID:???
「神楽はかけがえのない大切な仲間だ……。同じ悪霊退治をしている仲間として……」
「ええっ?」
 想像したのと違う答えに、思わず驚きの声が口から漏れてしまった。
「だから……、これからも頑張っていこう……」
 榊が神楽の目の前に手を差し伸べた。
(だー、何でこうなるんだよ!でも、榊の気持ちを知ることができたから、良しとするか)
 神楽は自分の思いを伝えることができないまま、榊が差し伸べた手に応えるように手を
握り返した。なんとも言えないぬくもりが榊の手から伝わってきている。
「さて、帰ろうか……?」
「そうだな。ようやく足も回復したみたいだし、もう長居は無用だな」
 こうして、二人はビルを後にすることにした。神楽は今日も自分の想いを口にできなか
ったことに少しもどかしさを感じつつも、榊からかけがえのない仲間だと言われたことが
嬉しくて、どこか心の中が晴れやかな気持ちになるのを感じていた。

 外はまだ小雨が降り続いている。二人は傘を広げ、再び横並びになって歩き出した。
「なぁ、榊。今思ったんだけど、千尋が体育祭で一生懸命頑張っていたのって、やっぱり
自分の弱い心に打ち勝つためだったのかな?」
「そうかもしれないな……。何かに一生懸命励むって大切なことだしな……」
「だとしたら、ケガをして残念だっただろうな。せめて私たちでだけでも励ましてやれな
いかな?」
「そうだな……。何か力付けてあげられることをしてあげないといけないな……。きっと、
それも私たちの大事な役目なんだろうし……」
「よーし、それじゃ、千尋を元気付ける方法を考えようぜ!」
 こうして、二人は千尋を励ます方法を考えながら、家路へと向かった。

(でも、榊がそばにいるから、私はどんなことにも前向きになれるんだ。少なくとも、榊
は私にとって希望の光なんだ……)
 神楽は時折、榊の顔を見上げながら心の中で呟いた。まっすぐに前を見つめている凛と
した榊の表情を見つめているだけで、自分の心の奥底から未知なる力が湧き上がりそうな
気がして、胸の鼓動が高鳴るのを感じながら……。

314 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/05/27(木) 00:28 ID:???
「ジンも倒されてしまったか……」
 蝋燭だけが唯一の明かりとなっている薄暗い部屋で、一人の影が低い口調で呟いた。
「伝説の巫女どもに対して、複雑な感情を抱いている者を、あえて陰魔一族の暗黒四天王
としてやったのに、ジンもゴウも倒されてしまうとは……。奴らはかなりの力を持ち合わ
せているようだな……。くそっ……」
 相変わらず低い口調で呟くと、握り拳を作って衝動的にテーブルを何度も叩いた。
「ご安心くださいませ、シュウ様」
 そこへ、2つの影がシュウのそばへと近付いた。一人は赤い甲冑に身を固め、もう一人は
青色の甲冑に身を固めている。

「おぉ、お前達か」
「暗黒四天王はまだ我々がいます。我々はあんな役立たずとは違います」
「今度は我々にお任せください。必ずやご期待に添えて見せます」
「そうか……。ならば、お前達に託そう。あいつらをただ倒すのではなく、奴らに屈辱を
与えた上で倒すのだ。そして、絶望の果てに朽ち果てさせるのだ!」
「ハッ、分かりました!」
「我々が受けた苦しみを必ずや何倍にもして返してみせる。覚えておれ……」
 シュウが握り締めていた拳を緩めたことで、手元から2枚の写真がこぼれ落ちた。しわくしゃ
になった写真の1枚には榊が、もう1枚には神楽が写っていた。

(第13話 完)

315 :名無しさんちゃうねん :2004/06/09(水) 09:29 ID:0Z.WcJTA
ageておこう。そうしよう。

316 :名無しさんちゃうねん :2004/06/13(日) 22:33 ID:???
なにげにちゃんと読んでます。
続き物は感想書くのがなかなか難しいのでさぼってました。スミマセン。
とりあえず、マヤーさん、おつかれです。
続きよろしくです。

317 :名無しさんちゃうねん :2004/06/23(水) 22:02 ID:???
>メジロマヤーさん
一気に読ませていただきました。なんか、すごい秀作ですね。
榊&神楽、かっこよすぎ!

318 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:15 ID:???
えー、レスをくれた人へ。ありがとうございます。大変身に余る思いです。

そういえば、第13話を書き終えた後に、次回予告書いてなかったな。
とは言え、あの時は本編だけで精一杯だったから、予告まで考える余裕がなかったしなぁ。
そろそろ、予告だけでも書こうかな……と思っているうちに本編を書き上げてしまいました。
前回が長すぎたから、手短にしようと思ってたのにまた長くなってしまいました(苦笑)
そんな訳で、↓から第14話に突入します。

319 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:16 ID:???
「Spiritual Light」 第14話「君のためにできること」

 道路沿いの壁のもたれながら、榊は夕暮れ時のあかね色に染まった空を見上げていた。
視線の先には柔らかい秋の陽射しが差し込んで来て、薄手ではあるがコートを羽織ってい
ると、少し暖かさを感じる程である。
「そろそろかな……」
 見上げていた視線をゆっくりと下ろすと、自分の左側へと視線をやった。一人の少女が
白く大きな犬を散歩しているのが見えた。
 ちよと飼い犬の忠吉さんだ。その姿を見るなり、榊は小さく笑みを浮かべた。

「あっ、榊さーん」
 ちよが榊に向けて左手を高く挙げた。それを見て、榊も胸元で小さく手を振った。
「今日も行きますか?」
「うん……」
 榊は小さく首を縦に振ると、ちよと忠吉さんと横並びになって歩き出し、散歩が始まった。
 榊がちよと一緒に忠吉さんの散歩に同行することは珍しいことではない。さすがに毎日
ではないが、週に何回かはこうして一緒に散歩しているのである。そして、榊にとっては、
この時間は何事にも変えがたい至福の瞬間なのだ。

「やっぱり忠吉さんは涼しい季節の方が過ごしやすいみたいですね」
「そうなんだ……」
 ちよが忠吉さんの話をする度に、榊は忠吉さんの顔をそっと覗き込んだ。白い毛に覆わ
れた無垢な表情を見ると、榊は思わず顔を赤らめ、無意識に自分でも笑みがこぼれている
ことに気付いた。 
 こうしてちよと一緒に忠吉さんの散歩に付き合っていると、来年は受験が控えているこ
とも、悪霊退治をしていることも忘れる程に非常に心が安らぐのである。
「今日はあの公園にでも行きますか?」
「そうだね……」
 自分達の顔を照らす夕陽を見つめながら、2人と1匹は公園へと歩き出した。

320 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:16 ID:???
 公園の中は人影もあまりなく、どこか晩秋の寂しさを漂わせていた。目の前の木々が一
枚ずつゆっくりと黄色く染まった葉を落としているのが見える。
「さて、忠吉さんはここでおとなしくして下さいねー」
 ちよはロープを鉄棒にくくりつけると、隣にある鉄棒につかまり逆上がりの練習を始め
た。榊は忠吉さんの正面を向き、そっと手を差し伸べて頭を撫で始めた。忠吉さんは少し
嬉しそうに榊の顔をじっと見つめている。
「小学生の頃から、なかなか逆上がりができなかったんで、そろそろできるようになりた
いんですよ」
 ちよは鉄棒を睨みつけたまま呟くと、思い切り地面を蹴り上げた。しかし、途中で勢い
を失ってしまい、なかなかうまくいかない。

「榊さんは逆上がりとかできるんですよね?」
 ちよの問いかけに、榊は忠吉さんを撫でた手はそのままで顔だけをちよに向け、「うん」
とうなずいた。
「でも、私だって最初からできたわけじゃないし……。でも、何度も練習を繰り返してい
けばきっとできるはずだよ……」
「そうですか、分かりました。頑張ります!」
 ちよは榊に笑みを浮かべると、再び地面を蹴り上げて逆上がりをしようとした。しかし、
またしても途中で勢いを無くしてしまい、うまくいかなかった。

「なかなかうまくいきませんねー」
「でも、さっきよりはいい感じになっているよ……。もう少しでできる……」
「よーし、頑張らなくちゃ」
 ちよが再び、鉄棒を強く握り締めた。榊も手だけは忠吉さんの頭に乗せているものの、
ちよの逆上がりをじっと見つめている。
 しかし、今回もうまくいかなかった。ちよは鉄棒を握り締めたまま、空を見上げ小さく
ため息をついた。
「何かまだまだ練習不足みたいですねー。でも、できそうな気はするんです」
「うん、段々といい感じになっている……。きっとあと一息なんだよ……」
 鉄棒を握り締めたまま、空を見上げため息をつくちよを見て、榊はそっと頭を撫でて励
ました。

321 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:17 ID:???
「榊さんにそう言ってもらえると、何かできそうな気がします。今度こそはうまくやって
みせます!」
「うん……。頑張れ……」
 ちよがまた地面を蹴り上げて、逆上がりをしようとした瞬間だった。突然、榊の身に悪
寒が襲いかかってきた。

(かなり強い悪寒だ。近くにいるに違いない……)
 どうやら、悪寒は公園の近くにある森の中から来ているようだ。榊はかすかに風で揺れ
る木々を見つめながら、拳を握り締めた。柄を薄手のコートの中に忍ばせてあるので、い
つでも悪霊退治する準備はできている。あとは、森の奥へと向かうだけだ。
「ちよちゃん……」
 あと一息といったところで、勢いを無くし再びちよが地面に落ちるのを待って、榊は口
を開いた。表情も心なしか強張り出している。
「ゴメン、ちょっと行かなくちゃ……」
「もしかして、悪霊退治ですか?」
 ちよの問いかけに榊は首を縦に振った。榊が悪霊退治をしていることを知っていること
もあり、榊の強張った表情を見て全てを察知したようだ。
「そうですか。こんなことしか言えないですけど、頑張ってください」
「ありがとう、ちよちゃん。終わったら、またここへ戻ってくるから……」
 一瞬、ちよに笑みを見せると、榊は森へと通ずる小道へ走り出した。
「ちよちゃんに励ましてもらったんだから、無事に帰ってこなくちゃ……」
 ちよからもらった心強い言葉を胸に抱きしめるように拳を握り締めながら、森の中と踏
み出して行った。

 少しして、開けた場所まで来ると、そこには7体ほどの霊が待ち構えているのが見えた。
霊たちは榊を見るなり、刀を構えて取り囲むように立ち並んだ。
「今すぐ成仏させてあげる……」
 コートの中から柄を取り出すと、即座に刃を作り出した。すでに目の前にいる霊が榊に
襲い掛かろうとしている。
「はっ!」
 霊が振りかざした刀を自分の刃で受け止めると、そのまま刃を横へ振り抜き、脇腹を斬
りつけた。霊はすぐさま気体と化し、宙を舞っていった。

322 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:17 ID:???
 更に、近くにいた2体の霊もすぐさま斬りつけ、残るは3体となった。
「残りは一気に成仏させてあげる……。彷徨える邪悪な魂よ、私の光によって今すぐ消え
よ!」
 自分の気を高め、その場に風を巻き起こすと、腰をかがめた。悪霊たちは刀を構えつつ
も、激しい風の勢いに圧倒されている。
「鳳凰の舞・飛翔!」
 言い終えると同時に、目の前にいる3体の悪霊のそばへと駆け抜け、そのまま刃を振り
かざした。
 一瞬の間を置いて、3体の悪霊はほぼ同時に気体と化していった。

「どうぞ安らかに……」
 大きく「ふぅ」と息をついてから刃を収めると、榊は宙を見上げて、空へ舞っている霊
たちに向けて冥福を祈った。
「よし、悪霊も退治し終えたしちよちゃんのところに戻るとするか……」
 まだ少し息は乱れているものの、自分が戻るのを待っているはずのちよのことを思うと、
早く戻らなくてはいけないという気持ちが先走り、再び公園へと走り出した。
「なかなかやるわね……」
 大きな木の枝の上で榊の背中を見つめる影がいた。だが、榊はそれには気付かなかった。

 数分ほどで森を抜け出し、再びちよのいる公園へと戻ってきた。相変わらず逆上がりの
練習をしているちよの姿が見える。
 瞳がちよの姿を捉えたこともあり、榊は思わずダッシュした。別にしようと思ったわけ
じゃないが、体が自然とそうなってしまったのだ。
「あっ、榊さん」
 ちよが逆上がりの練習を一旦止めて、榊に手を振った。忠吉さんも「わん」と一度だけ
大きな声で鳴いた。
「お待たせ……」
 榊はちよの横に並ぶと、小さく笑みを浮かべた。
「おかえりなさい。榊さん、無事でよかったです」
 ちよも榊の顔を見つめたまま笑みを浮かべている。
「ありがとう……。ところで、逆上がりの方は……?」
「もう一息なんですけどねー。なかなかうまくいかないです。あっ……」
 ちよが何かを言おうとしているのを遮るように、榊の背後で一人の女性の声が聞こえて
きた。

323 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:17 ID:???
「あれ〜、ちよちゃんと榊ちゃんや〜」
 声の正体は大阪だった。大阪はちよと榊の姿を見て、右手を上げた。
「宿題で分からないところを聞こうと思って、ちよちゃん家に行こうとしてたんや」
「そうなんですか。でも、ここで会えてよかったですね」
「ふと公園を見たら忠吉さんの姿が見えたんや。それで、もしかしたらちよちゃんがおる
んやないか〜って思ったら、本当にいてよかったわ。まさか、忠吉さんが一人でいるとも
思えんし」
「そ、そうですね……」
 大阪の発想にちよは思わず苦笑を浮かべた。

「せやけど、ここで何をしていたん?」
「忠吉さんの散歩ですよ。榊さんも一緒だったんです。ねっ、榊さん」
 ちよは榊の顔を見つめて同意を求めた。榊もちよの顔を見つめてうなずいた。
「でも、榊ちゃんは公園の奥の森の方から出てこなかったか?榊ちゃんは何をしてたん?」
「えっ……」
 大阪の突然の質問に榊は思わず言葉を詰まらせた。大阪にはまだ自分が悪霊退治をして
いることは告げていないからだ。さすがに事実を話すわけには行かないだけに、何て言え
ばいいか頭の中で言葉を巡らせた。
「榊さんは森の中を散歩してたんですよ」
 事情を察してか、ちよが助け舟を出した。

「そっかー、ちよちゃんが忠吉さんの散歩で公園に来て、榊ちゃんは公園の奥にある森で
散歩かー。榊ちゃんは誰の散歩をしていたんか?」
「えっ、どういうことですか?」
「ちよちゃんは忠吉さんの散歩をしている。これは分かった。せやけど、榊ちゃんが森の
中を散歩していたのに、一緒に連れている犬が見えないんや。もしかして、私には見えな
い犬なんか?」
 大阪の発想にちよも榊も言葉を失い、ダラ汗をかいたまま大阪を見つめた。
「さ、榊さんは一人で森の中を散歩していたんですよ。私の逆上がりの練習に付き合って
もらって、で、ちょっと休憩しようってことになって、その間に榊さんが散歩してたって
ことなんです」
「何や、そうやったんか」
 ちよの説明で大阪は全てを納得したようだ。とりあえずは自分が悪霊退治をしているこ
とが大阪に漏れずに済み、榊はホッと一息ついた。

324 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:18 ID:???
「でも、結局逆上がりはできなかったんですよ。榊さんはあともう少しでできるって言っ
てくれるんですけど、そのもう少しがなかなか遠くて……」
 ちよが鉄棒を見つめながら小声で呟いた。言葉の中に多少悔しさがにじんでいるようだ。
「そうか〜、逆上がりは私も自信ないなぁ」
「榊さん、ごめんなさい。せっかく付き合ってもらったのにできなくて」
「いや、そんな、謝ることはない……」
 ちよが謝ったことで榊はかえって申し訳なさを感じ、正面を向き視線の高さを合わせるよう
にしゃがむと、慰めるようにちよの両肩に手を乗せた。

「なぁ、榊ちゃん。ちょっと教えて欲しいことがあるんやけど」
「えっ、私に……?」
 突然の大阪の申し出に、榊は思わず目を丸くして驚きの表情を浮かべた。
「うん、この前の体育祭で榊ちゃんがリレーのアンカーでゴールして優勝を決めたとき、
榊ちゃんの姿がすごくカッコよく見えたんや。で、このとき思ったんや。私も榊ちゃんみ
たいに足が早くなって、来年の体育祭で活躍したいって。せやから、早く走るコツを教え
て欲しいんや」
「早く走るコツと言われても……。やっぱり普段から練習をすることじゃないかな……。
いきなり早くなれるわけじゃないし……」
「そうか、やっぱり練習をせなあかんか〜。こうなったら、来年の体育祭に向けて足を早
くなれるように特訓するで〜。私も榊ちゃんみたいになるで〜」
「私も早く逆上がりができるように頑張ります」
「ちよちゃん、お互いに頑張ろうな」
「はい!」
 ちよと大阪が向かい合って、お互いに健闘を称えるように握り拳を見せ合った。

「でも、すっかり日が暮れてしまったみたいだし……。今日はもう逆上がりの練習は無理
じゃないかな……」
「そうですね。すっかり暗くなっちゃいましたね。」
 さっきまで空高く輝いていた夕陽はいまはもうビルの間に飲み込まれるようにして、ゆ
っくりと姿を消そうとしている。
「今度こそは成功させて見せますよ。さて、忠吉さん帰りますよー」
 ちよが鉄棒につないだ忠吉さんのロープを外すのを見て、ちよと忠吉さん、それに大阪
と榊が横並びになって沈んで姿が見えなくなっている夕陽を背に歩き出した。

325 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:18 ID:???
 帰り道でちよと大阪が何かを話しているのを何気なしに聞きながら、榊は思案にくれて
いた。
(そう言えば、お父さんが言っていたな……。私と神楽は希望の光だって……。もし、そ
うだとしたら、自分達で決めた目標に向けて頑張っている二人の力になりたい……)
 ちよと大阪は相変わらず話を続けている。忠吉さんもどことなく二人の話に耳を傾けて
いるように見える。
(それに、私も負けないように頑張らないといけないな……)
 榊は二人の姿を見て、自分も頑張ろうと心に誓い、小さく拳を握り締めた。

 翌日の放課後、榊は神楽と一緒に帰ることになり、昨日のことを神楽に話した。
「えっ、大阪に早く走るコツを教えてくれって聞かれたのか?」
 神楽の問いかけに榊は黙って首を縦に振った。
「どうもこの前の体育祭で私が先頭で走っている姿を見て、そうなりたいと思ったらしい
……。でも、ちょっと嬉しかったんだ……。自分の姿を見て他の人に影響を与えることが
できたんだから……」
「その気持ちは分かるよ。部活の後輩が私を目標にして頑張るって言われたら、私だって
嬉しいもん。それに私だって……」
 神楽が何か言おうとしていただが、途中から小声で聞き取れなかったため、榊は話を続
けることにした。
「だけど、早く走れるコツを教えて欲しいって聞かれたんだけど、うまく教えてあげられ
なかったんだ……。とりあえず、練習をすればいいとは言ったんだけど、それで良かった
のかなってちょっと気になって……」
「いいんじゃないのか?やっぱり練習するのが一番だろ?」
「それならいいんだけど、きっと私よりも神楽の方がうまく教えられたんじゃないかなっ
て思って……」
「いや、私も教えるのはあまり得意じゃないんだよな。以前、大阪に早く泳げる方法を教
えて欲しいって言われても、うまく教えることができなかったし。それ以前に、大阪は泳
ぐ途中で沈んでしまうらしいんだけどな」
「そうか……。でも、この前お父さんが言ってたじゃないか……。私達は希望の光だって……」
「あぁ、確かに言ってたな」
「だとしたら、やっぱり目標に向けて頑張っている人にうまくアドバイスを出来ればいい
って思うんだけど、私はそういうのが苦手だし……」
 榊は自分がうまく教えてやれなかったことに対して、少し申し訳なさを感じ視線を下に
向けた。

326 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:18 ID:???
「いや、そんなのは気持ち次第で何とかなるんじゃないか?やっぱり、気持ちが大事だよ」
 神楽が榊の背中を叩いた。力が少し強いせいか、痛みを覚える程だ。
「そうか、やっぱり神楽はすごいな……。本当に強い気持ちを持っているんだから……」
「なっ、何を急に言い出すんだよ。照れるじゃないか」
 突然、神楽の表情が赤らんできた。
「でも、頑張っている人がいると自分も負けちゃいけないって気になるんだ……。だから、
私も少し稽古をしようと思うんだ……。新しい技もまだ見つかってないし……」
 榊は呟きながら、この前の戦いで神楽が新しい技である「猛虎の舞・烈」を繰り出した
瞬間のことを思い出した。神楽の凄まじい気迫がこもった攻撃は今でも榊の脳裏に強く刻
まれている。

「だから、私も神楽を見習ってあんなすごい技を生み出してみたいんだ……。そうすれば、
これからの陰魔一族との戦いも乗り越えられそうな気がするんだ……」
「そうか、そういうことなら私も協力するよ。じゃあ、早速今から稽古するか」
「えっ、今から……?」
「だって、こういうことは早い方がいいだろ?善は急げって言うしさ」
「そうだな……」
「だったら、今から稽古しようぜ!でも、どこがいいかなぁ。あんまり人目の付かないと
ころがいいんだけど……」
 神楽が思案にくれていたちょうどそのとき、二人の体に悪寒が襲いかかった。どうやら、
近くに悪霊がいるようだ。
「おっと……、稽古の前にまずは悪霊退治のほうが先かもしれないな。まっ、仕方ない。
とりあえず、悪霊を退治してから稽古することにしようぜ!」
 神楽の言葉に榊がうなずくと、二人は同時に走り出し、悪寒を感じた発信源へと走り出
した。

 どうやら、現場は昨日と同じ公園のようだ。二人は公園の奥にある森をじっと見つめた。
秋色を漂わせた木々が風に揺れている。
「今日もここか……。最近ここに来ることが多いな……」
「また悪霊騒ぎとかUFO騒ぎとか起きなきゃいいんだけどな。あの騒動が収まるまでしば
らくは変に苦労したし」
「そうだな……。できればそうあって欲しいな……」
 二人はカバンの中から柄を取り出すと、少し急ぎ足で森の中へと入り込んでいった。

327 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:19 ID:???
 悪寒が次第に強くなっていているが、まだ悪霊の姿は見えない。時折、木々が風で揺れ
る音だけがその場に響いている。
 ようやく、視線の先が開けてきた。それと同時に悪寒が更に強まってきた。どうやら、
悪霊はこの先の休憩所にいるようだ。
「どうやら、この先みたいだな」
 神楽の問いかけに榊はコクリと頷いた。
 二人はほぼ同時に握り締めていた柄に力を込め、刃を作りだした。視線の奥で何体かの
悪霊が見える。
「よし、行くぞ!」
 神楽の言葉を合図に走り出そうとした瞬間だった。

「ひーーっ!」
 突然、休憩所の方から女性の叫び声が聞こえてきた。
「もしかして、見られたのか……?」
「と、とりあえず、隠れよう」
 慌てて作り出した刃を収めると、茂みに身を潜めた。
「何でこんなところに人がいるんだ?」
「分からない……。でも、ちょっと面倒なことになったな……」
「どうすりゃいいんだ?できれば早く成仏させてやりたいんだけどな」
「私も早く成仏させてあげたいって言う気持ちは同じだけど、でも悪霊退治をしている姿
を見られるわけにも行かないし……」
「しょーがねーな。ちょっと様子を見るしかないな」
「そうだな……。それしかない……」
 大きな木の幹を背にしながら、榊は休憩所を覗き込んだ。神楽も隣の木の幹を陰にして
覗き込んでいる。

「うわー、何やあんたら!」
 聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「この声ってまさか……」
 榊も神楽もほぼ時を同じくして、その声の主が誰であるかを察知した。そして、その予
測は当たっていた。
 視線の先には悪霊を見て驚いている大阪の姿が見える。驚きのあまり、その場に座りこ
んでいるようだ。

328 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:19 ID:???
「何で大阪がここにいるんだよ!」
「分からない……」
 ただ、視線の先に大阪がいることだけは間違いない。「ひ〜」というどことなく弱々しい
叫びが二人の耳にも届いている。
 悪霊たちは黙ったまま刀をちらつかせて、大阪にじわりじわりと近付いている。大阪は
座りこんだまま、驚きの表情を浮かべている。

「どうする、榊?」
「どうするも何も早く助けないと……」
「そりゃ確かにそうだけど……」
 どうすればいいのか分からず、迷いの見える神楽の声を聞いて榊は、視線を神楽の顔へ
と向き直した。
「神楽が言いたい事は分かる……。だけど、仮に私達の秘密を守れたとしても、目の前で
困っている人を助けられなければ、そんなことに意味はない……」
 榊は神楽の目をじっと見つめたまま、ゆっくりと言葉をかみしめるように呟いた。
「榊……」
「それに、私達の能力は多くの人を悪霊から守るために与えられたものだ……。だから、
自分が大切に思っている人を守らなくちゃいけない……。それが私達の役目なんだ……」
「そうだな」
 神楽の表情に笑みが浮かんでいる。どうやら迷いが消えたようだ。
「行くぞ……」
「おっ、おい、榊!」
 榊は小声で呟くと、そのまま勢い良く休憩所に向けて走り出した。その勢いは神楽でさ
え置き去りにしそうなほどの早さであった。

「うわぁ〜、何をするんや?」
 大阪を取り囲むように悪霊が一歩ずつ近付いている。榊はその姿を目で捉えると、大阪
のいる場所に向けて、全速力で走り出した。
「待てっ!」
 大阪との距離がだいぶ縮まったところで、榊は右足を強く踏み込むと、その反動を生か
して高く跳んだ。

329 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:19 ID:???
 高く跳んだまま、榊は体を左にひねり、それに合わせるように刃を持っている右腕を自
分の体に巻きつけると、テニスのバックスイングのように力強く刃を振り抜いた。その瞬
間、榊の刃が刻んだ軌道からまばゆい光が飛び出し、大阪の近くにいた悪霊数体を目がけ
て襲い掛かった。一瞬のうちに悪霊は気体と化した。
「大丈夫か……?」
 まだ悪霊が何体か残っているため、大阪に背を向けたまま榊は呟いた。
「えっ、榊ちゃん?どういうことなん?」
「理由はあとで話す!大阪はここから早く逃げるんだ!」
 榊を追いかけた神楽もようやく大阪のそばへと到着し、大阪に向けて叫んだ。
「神楽ちゃんまで?なぁ、何をしとるん?」
「だからあとで話すって言ってるだろ!いいから逃げるんだ!」
「逃げるってどこへ?」
「とりあえず、安全なところだから……公園だ!」
「分かった」
 大阪は立ち上がり、すぐそばの小道を抜けて公園へと走り出した。
 それを見届けると榊と神楽は背中合わせに立った。目の前には悪霊がまだ10体以上見える。

「今回はかなり多いな……」
「あぁ、だけど、私達が力を合わせれば大丈夫だ!」
「そうだな……」
 榊が呟いたあと、二人は刃を目の前にいる悪霊たちに向けた。
「今すぐ成仏させてあげる……」
「今すぐ成仏させてやるぜ!」
 ほとんど同時に口から出た叫びとともに、二人は自分達に襲い掛かってきた悪霊たちを
斬りつけた。1分もしないうちに、目の前の悪霊の半分を倒すことができた。ただ、悪霊
が広範囲にわたっているために、榊と神楽の二人のいる距離が少しずつ広まっている。
「はっ!」
 榊が更にもう1体悪霊を倒した直後だった。突然、自分の身に何かが襲い掛かる気配を
感じ取ると、とっさに身をかわした。自分のそばにある木に何かが刺さり、「サクッ」とい
う音が聞こえた。

330 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:19 ID:???
 榊はそれが何かを確かめようとしたが、すぐさま同じように何かが自分の目の前に襲い
掛かってきたので、刃でそれを振り払った。足元には細長く先端が尖ったものがいくつか
落ちている。どうやら針のようだ。
「これは……?」
 自分に襲い掛かっていたものを見て戸惑う榊の目の前に、濃い青色の甲冑に身を包んだ
影が見えた。
「フフフ……。さすがは伝説の巫女の血を引く者ね。今の攻撃を防ぐとは、やっぱり噂の
程はあるようね、榊さん」
「私の名前を……。一体、誰……?」
「あっ、自己紹介が遅れてごめんなさい。私は暗黒四天王の一人・アイ。あなたがゴウを
倒した榊さんね?で、あっちで戦っているのがジンを倒した神楽さん」
 アイが神楽のいる方向を指差した。神楽がまたもう一体の悪霊を倒したのを見届けた後、
榊はアイへと視線を向き直した。甲冑に覆われて顔は見えないが、繊細な声の感じから女
性であることには間違いない。ただ、感情などがこもっていなく、冷たさを感じる。
 更に、邪悪な気が榊の体を突き刺すように漂っている。自然と榊の表情は険しさを増し、
アイをキッと睨みつけていた。

「今日のところはとりあえず挨拶だけでもしておこうと思って来たの。この先私に倒され
る運命をたどる哀れな女性の姿を見届けるためにね」
「そんなことはさせない……」
 榊がアイに向けて刃を構えた。
「あら?随分と強気ね。私をゴウやジンのような役立たずと同じように考えていたら大ケ
ガするわよ。まぁいいわ。それは今度会ったときに証明させてあげるから。それじゃ、そ
れまで残り少ない人生を楽しみなさい」
 アイはそれだけ言うと一瞬のうちに姿を消し去ってしまった。
「どこへ行ったんだ……?」
 アイの姿を探すようにキョロキョロと森の中を見回したが、姿は見えない。
「さかきー!」
 突然神楽の叫び声が聞こえ、声に反応するように振り返ると、目の前には悪霊が刀を振
りかざして立っていた。
 榊は一瞬、驚きを感じたものの、即座に刃を横に振り抜き悪霊の脇腹を斬りつけた。悪
霊はそのまま気体と化し、宙に舞っていった。
 どうやら、これが最後の1体だったらしい。もう榊と神楽の2人だけしかいない。

331 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:20 ID:???
「どうぞ安らかに……」
 刃を収めると、榊は空高く消えていった悪霊たちの冥福を祈った。
「どうやら、全員退治することができたみたいだな!」
「あぁ……」
 神楽の弾むような声が聞こえてきたが、榊はアイのこともあり、そう返事するだけに止
まった。また、足元が少しふらつき気味だったため、中腰の姿勢で両手をひざの上に置き、
何度も荒々しく呼吸を繰り返した。かなり気力を使い切ったようだ。鼓動が早く脈打って
いるのが自分でも分かる。
「どうしたんだ?表情がさえないみたいだけど」
「ちょっと気力を使い過ぎただけだから、心配いらない……。だけど、新しい敵が出てき
たみたいだ……」
 榊はまだ呼吸が少し乱れがちではあるものの、神楽にアイのことを説明した。それを聞
いて、神楽も表情を引き締めた。
「そうか、だったら尚更負けるわけには行かないな!あっ、そう言えば、榊。さっき大阪
を助けようとしたときに何かすごい技を出してなかったか?」
「えっ……?」
 神楽に指摘されて、初めて自分でも知らないうちに新しい技を繰り出していたことに気
が付いた。

「どうやら、助けなきゃって思ったら体が自然とそうなってしまったらしい……。でも、
そのおかげで分かったこともあるんだ……」
「何だよ?」
「自分が大切に思っている人のために何かをしたいって、そう思う気持ちが私に新しい技
をもたらしたんだって……」
――その通りだ。
 突然、ちよ父が上空から舞い降りてきた。

「お父さん……」
――榊よ。お前の言う通りだ。自分が大事に思っている人を守ろうとすることで、更なる
力を発揮できるのはお前も分かっているだろう。だが、それと同時に自分を支えてくれる
人のために何かをしたいという気持ちもお前の力を引き出す源となっているのだ。だから、
その気持ちを決して忘れないように。
「分かりました……」
 榊はゆっくりとちよ父に向けて頷いた。

332 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:20 ID:???
――ちなみに、さっきお前が繰り出した技なのだが、あれは鳥が螺旋を描くように空を飛
ぶ様から「鳳凰の舞・螺旋」と呼ばれていたものだ。きっとこれからのお前にとって大切
な技となりうるから、修練を怠らないように。
「はい……」
「榊、よかったじゃん!新しい技が見つかって」
「あぁ……」
 榊を称えるように神楽が肩を叩いた。榊は神楽の顔を見つめ、笑みを返した。
――それと、陰魔一族はだいぶ力を取り戻しつつある。これから更に悪霊が力をつけて手
強くなってくるし、もしかしたら他の人にも危害を加えるかもしれん。色々と大変かもし
れんが、これからも頼むぞ!
「はい、分かりました……」
「おう!やってやるぜ!」
――それでは、さらばだ!
 ちよ父はそのまま宙を舞ってどこかへと消えていった。榊は空を見上げたが、もう姿は
どこにも見えない。

「さて、大阪に事情を説明しなくちゃいけないな」
「あぁ……」
 神楽の言葉を聞いて、榊は見上げていた顔を神楽へと向けた。どこか戸惑いを秘めた神
楽の顔が見える。
「できることなら秘密にしたかったんだけど、そういう訳にも行かないもんな。事情はあ
とで話すって言っちゃったし」
「でも、あの時はそうするしかなかった……。神楽の選択は間違っていない……」
「なぁ、何て言えばいいかな?」
「ありのままを話すしかない……。そして、例えどんなことになろうとも、私たちはそれ
を受け入れなければならない……。それじゃ、行こうか……」
「もう気力は回復したのか?」
「まだ完全ってわけじゃないけど、もう心配ないと思う……」
「そっか、じゃ、行くとするか」
 これからどうなるのか不安な気持ちを抱えたまま、榊と神楽は森の中の小道を抜けた。
公園に戻ると、ベンチに座っている大阪の姿が見える。

333 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:21 ID:???
「ちょっと話があるんだけど……」
「さっきのことなん?」
 大阪が尋ねると、榊は首を縦に振った。しかし、何て言えばいいかまだ考えあぐねてい
ただけに、榊も神楽もお互いの顔を見合わせたまま黙り込んでしまった。
 少しして、榊がゆっくりと口を開いた。
「実は私と神楽は、かつてこの街に蔓延っていた陰魔一族を倒した伝説の巫女の血を引く
者なんだ……」
「えぇー!榊ちゃんと神楽ちゃんって親戚だったん?」
 大阪の突飛な発想に、榊は思わず言葉を失った。

「いや、違う……。伝説の巫女は2人いて、それぞれの血を引いているんだ……」
「何や、そういうことか〜」
「で、再び陰魔一族が蘇ろうとしていているんだ……」
「だから私達が奴らを再び倒し、また奴らに操られている悪霊を成仏させてやらなくちゃ
いけないんだ。さっき、大阪に襲い掛かってきたのがその悪霊たちだ」 
 神楽も榊の言葉に続いた。大阪は二人の説明を聞いて、しばらく黙り込んだ。何かを考
えているようにも見える。再び、沈黙がその場に響いた。
 榊と神楽は、大阪がどんな言葉を返すのか不安な面持ちで見つめていたため、沈黙が漂
っている時間がやけに長く感じられた。
 どんなレッテルを貼られるのかは分からないが、自分達で決めて出したことなのだから
後悔はしない。そう決めていても、どういう反応をしてくるかと思うと、言葉にできない
不安を隠しきれなかった。
 目をつむったまま思案にくれていた大阪が目を見開いた。ゆっくりと榊と神楽の顔を見
つめている。
 榊も大阪の顔をじっと見つめ返した。神楽も同じだ。少しして、大阪が口を開いた。

「悪霊退治ができるなんて、ええなっ」
「えっ……?」
 予想だにしなかった大阪の返答に榊も神楽も呆気にとられた。
「そっかー、悪霊退治できる力があるから、二人とも運動神経が抜群なんやな。何かうらやま
しいな。せやけど、私だって負けへんで〜。榊ちゃんみたいになるって決めた以上、
私ももっと鍛えて悪霊退治できるくらいに頑張ってみるわ。今に見ときや〜」
 もはや、返す言葉も見つからず、ダラ汗を流して呆然とするしかなかった。ただ、変な
レッテルを貼られずに済み、その件に関してはホッと胸をなで下ろした。

334 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:21 ID:???
「だけど、大阪はあそこで何をしていたんだ?」
 気持ち的に一安心したこともあり、神楽が尋ねた。
「あんな〜、私マツタケ食べたことがないねん」
「へっ?マツタケ?」
「せやから、あそこにマツタケがないかなって思って、探そうと思ったんや」
「あの森にはマツタケは生えていない……。もっと山奥に行かないと……」
「そやな。だけど、幽霊が出てきたもんやから、びっくりしてもうた。まさか、こんなことになるとは思わんかったわ〜」
 大阪の話を聞いて、二人は再びダラ汗を流した。
「まぁ、だけど、これからは私達が大阪を守るから安心してくれ!それが私達の任務だか
らな!」
「ありがとう。せやけど、二人がピンチのときは私が守ったる。困ったときはお互い様や
からな」
 笑みを返しながら答える大阪を、二人はもう黙って見つめることしかできなかった。


 数日後、再び公園でちよが逆上がりの練習をすることにした。榊は忠吉さんの隣に寄り
添ってちよを見守っている。神楽と大阪も固唾を飲んでちよを見つめている。
「今度こそ成功してみせますよ」
 ちよが力強く鉄棒を握り締めた。
「ちよちゃん、ちょっと待って……」
 榊がちよの横へと近付き、そっと耳打ちした。
「あっ、ありがとうございます。頑張ります!」
 ちよは笑みを浮かべながら、礼を言った。
「それじゃ行きますよ!」
 鉄棒を握り締め、ちよが力強く地面を蹴った。

 数秒後、ちよが夕陽に照らされた鉄棒を一回転して再び着地した。大成功だ。
「やった、やりましたよ!」
 喜びの声を出して両手を高く上げたちよに向けて、3人は拍手をした。忠吉さんもちよを
称えるように「わん」と大きな声で鳴いた。
「やったな、ちよちゃん。おめでとう!」
 大阪がちよのそばに駆け寄り、褒め称えた。

335 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/07/13(火) 01:21 ID:???
「なぁ、榊。さっき、何てアドバイスしたんだ?一発でうまくいったじゃん!」
「いや、単に『自分の事を大切に思ってくれる人が喜んでくれるって思いながらやればい
い』って言っただけだ……」
「それだけ?何か技術的なアドバイスとかじゃないのか?」
「いや、何も……。私が『鳳凰の舞・螺旋』を編み出したときのように、自分の支えにな
ってくれる人がいるって思えば、不思議と力が出てくるんじゃないかと思って……」
「あぁ、そうかもしれないな。私だって榊がいるから頑張れるんだからさっ」
「えっ……?」
 神楽の言葉に反応するように、榊が神楽の顔を見た。
「だって、私にとっては榊が一番大切な人なんだよ。だから、榊のために頑張ろうって思
ったから、悪霊退治だって今までやってこれたんだ」
「そうか、私もそうだな……」
 榊と神楽はお互いを見つめあったままである。神楽の表情がどことなく赤く見える。

「わん!」
 忠吉さんが榊と神楽を見つめて吠えている。まるで「そんなところで見つめ合っていな
いで、ご主人様をもっと褒めてよー」といった感じだ。
「そうだね、今日の主役はちよちゃんだ……」
 榊はちよに向かって走り出し、笑みを浮かべた。
「まっ、今日のところは仕方ないか」
 神楽も後に続いた。
 こうして、喜びに沸き返る4人と1匹の笑い声が、秋晴れの空の下に響き渡った。
(第14話 完)


(次回予告)
「これ以上お前にそんな思いをさせたくはないんだ!」
 力が入っているせいか、思わず大きい声が出てしまった。知らず知らずのうちに拳も握り締めている。
「お願いだから邪魔をしないで……」
 しかし、返ってきた答えはあまりにも冷たかった。
 神楽はそれでも何か言おうと思い、言葉を探そうとしたが何も出てこなかった。ただ、
自分自身に歯がゆさを感じるのみだ。

336 :名無しさんちゃうねん :2004/07/18(日) 11:18 ID:???
いくらなんでもさがりすぎなのであげますね

337 :名無しさんちゃうねん :2004/07/18(日) 11:25 ID:???
このSS見てるとプリキュアを思い出すな。
もちろんこっちの方がずっと先にできた話なんだけど。

338 :名無しさんちゃうねん :2004/07/18(日) 11:43 ID:???
下がってよし!

339 :名無しさんちゃうねん :2004/07/26(月) 08:33 ID:???
 あずキャラにアクション物は似合わない、という意見もあるようですが、それを聞くと逆にやる気が沸いてくるのは何ででしょう?
どうも。アクション物を書こうとしている、あるいはもう書いている者です。よろしく。
 決めぜりふ、戦い方の工夫、必殺技。かつてそんな提案をしたこともありました。聞き入れてくれたのは嬉しい限りです。こちらが意図していたこととは、やや形を変えてはいましたが、それがオリジナリティなんでしょうね。
 さて。
 今後のますますのご発展をお祈りして、一言居士。
 
>榊は小さく首を縦に振ると、ちよと忠吉さんと横並びになって歩き出し、散歩が始まった。
>榊がちよと一緒に忠吉さんの散歩に同行することは珍しいことではない。さすがに毎日
>ではないが、週に何回かはこうして一緒に散歩しているのである。そして、榊にとっては、
>この時間は何事にも変えがたい至福の瞬間なのだ。

 ここだけではないのですが、同じ語句の多用は避けた方がよいです。くどさを感じさせてしまいます。(と、私は考えます)

『榊は小さく首を縦に振ると、ちよと忠吉と一緒に横並びで歩き出した。彼女にとって、この幼い少女と共にその愛犬の散歩をすることは、珍しいことではない。さすがに毎日ではないが、
週に何回かはこうして一緒に歩いているのである。この時間は榊にとって、何事にも変えがたい至福の時だった。』

 私であれば以上のような文にします。

 とはいえ、当たり前の話ですが、私の意見が絶対的に正しいわけでもありませんし、貴方自身の色も大事です。取り入れるか、入れないかは、完全に書き手の意志によります。では、またいずれ。

340 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2004/08/04(水) 02:07 ID:???
メジロマヤーさんおつかれさまです。
とうとう歩さんにまで知られてしまいましたけど、彼女らしいリアクションで
ホッとしました。
榊さんの新技かっこいいです。
ただ「ダラ汗」って言葉の多用が少し気になりました。

ともあれ、同じアクションもの(ベクトルかなり違いますが)を書いてる
者として応援してます。次回も期待してます

341 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 01:57 ID:???
現在、新作を書いていますが、ほぼ完成しました。明日にでも投下できると思います。
で、レスを見てたら、色々と言いたいことがあるんだけど、めんどくさいのでちょっとずつ
返事していきたいと思います。

>>336 >>338
このスレはエレベーターではありません。

>>337
白と黒だなんてぶっちゃけありえな〜い。
でも、プリキュアなら黒は神楽でいいとして、白はイメージ的には大阪かなぁ。

>>339
>あずキャラにアクション物は似合わない、という意見もあるようですが、それを聞くと逆にやる気が沸いてくるのは何ででしょう?
→知りません。こっちは気ムラなもんで、書きたいときは書くし、書かないときは書かないというスタイルなので。
>こちらが意図していたこととは、やや形を変えてはいましたが、それがオリジナリティなんでしょうね。
→私は人の期待になど応えない&応えられないので、そんなことを望んでも無駄です。
あくまでも、あずまんがの雰囲気を損ねないように書くのみです。それが自分のモットーですから。

>>340
これってアクションものなの?自分ではこの作品はアクションだと思っていないんだけど……。
作風もベクトルもかなり違うしなぁ……。多分別物だと思うよ。

342 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 02:12 ID:???
>>339のレスで毒を吐いたことを反省しつつ、もう一言だけ。
実はまだこのSSの方向性が定まっていません。試行錯誤の途中なのです。
だから、まだアクション物とはっきり決めたわけでもないわけで……。
あと、自分のSS書きとしての方向性もちょっと模索気味なので、色々と悩んでいたりします。
書いていくうちに見出せればいいんだけどなぁ。

343 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:07 ID:???
「Spiritual Light」 第15話「Heart's cry」

 冷たい北風の吹く日曜日の昼下がり、神楽は少し困惑した表情を浮かべながら、繁華街
からの帰り道を歩いていた。ついさっきまで自分の身に起こったことを振り返ると、どう
してもそういう表情になってしまうのだ。
 それでも、神楽の脳裏には自分の身に起こったことがひとつずつ無意識に蘇ってくる。
 欲しいCDがあったので街中へ行ったものの売り切れて見つからなかったこと、大きい
荷物を持っていた人に手助けしようと思ったら、外国人だったため言葉が通じず悪戦苦闘
したこと、しかもそれを担任の谷崎ゆかりに見られてしまったこと、挙句の果てにはゆか
り先生が見本を見せようと話しかけた相手がドイツ人だったため、思わず一緒に逃げてし
まったことなど、思い出す度に顔から火が出そうなほど恥ずかしい思いが胸の中で駆け巡
っている。

「あー、参ったなぁ。何か意味もなく疲れちゃったよ」
 外の風が冷たいこともあり、両手をコートのポケットに突っ込んだまま、あまり人気の
ない道を歩いていた。すると、目の前に背の高い一人の女性が見える。
「おっ、榊じゃん」
 神楽は榊の近くに駆け寄り、声をかけようとしたが、どうも榊の様子がおかしい。
「あれ?なんか変じゃないか?」
 少し近付いてみると、猫に右手を噛まれて慌てふためいている榊の姿が見える。
「何やってんだよ!大変じゃないか!」
 神楽は榊のそばへ駆け寄ると、そのまま自分の右手を高く掲げた。

「こらっ」
 神楽は榊の手を噛んでいる猫の頭を思い切り強く叩いた。パンという乾いた音が一瞬だ
け響いた。
 榊と叩かれた猫が神楽の顔を見つめている。神楽も猫の顔を睨みつけている。
「こらっ。かんじゃダメだろ」
 自分にとってかけがえのない榊に噛み付いたこともあり、思わず叩く手に力が入ってい
るせいか、パンという乾いた音が頭を叩く度にきれいに響いている。
 少しして、叩かれることに恐れをなしたのか、猫はそのままどこかへと逃げ去ってしまった。

344 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:07 ID:???
「まったくあーゆー猫はちゃんとしつけないとダメだ。叩いてわからせねーとな」
 神楽は榊の手を噛んだ猫の逃げ去った方向を睨みつけた。しかし、もう視界には猫の姿
は見えない。
「で、でも……」
 そんな神楽の姿を榊は少し引け気味に見ている。
「話せばわかってくれる……」
「わけねーだろ」
 戸惑いながら榊が呟いた言葉に、神楽は間髪入れずに反論した。

「大体、猫が人間の言葉を理解できるわけねーじゃん」
 榊が参考書を買いに行く途中だったため、神楽はまだ家に帰る気分でもなかったことも
あって、一緒に付き合うことにした。榊は治癒の術を使ったことで、手の傷跡や噛まれた
跡はすでに消え去っていたが、まだ時折猫に噛まれた箇所を押さえている。
「でも、だからと言っていきなり叩くのも……」
「だって、テレビでそうした方がいいって聞いたことがあるんだよ」
「そうだけど、あんまり私はそういうことをしたくない……。きっと話せば分かってもら
えるはずだし……」
「だから、そんな訳ないだろ。大体同じ人間だって言葉が通じなくて大変なこともあるん
だからさ」
 神楽は不意にさっきの外国人とのやりとりを思い出していた。なかなか言葉が通じず、
苦労したことでどうも恥ずかしさがこみ上げてくる。思わず俯きがちになってしまった。

「えっ、どういうことだ……?」
「あっ、いや、何でも……」
 事情を説明するのも面倒だし恥ずかしいので、はぐらかす事にした。
「でも、気をつけてくれよな。榊は前にも猫に噛まれてケガしたことがあったじゃないか。
やっぱり悪霊退治をしている身としてはケガをするわけにも行かないからな」
「すまない……」
「それに、榊に何かあったら……」
 神楽はさっきの件は恥ずかしくて言えなさそうだが、自分の胸の内なら言えそうな気が
したため、さりげなく言おうとした。しかし、直後に邪魔が入った。

345 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:07 ID:???
「うっ……」
「何でこんなときに!」
 二人の身に悪寒が襲いかかってきたのだ。しかも、かなり強い。どうやら近くにいるよ
うだ。
「でも、行かなくちゃ……」
「そうだな。こういうこともあろうと柄は一応持ち歩いているしな」
 神楽は懐から柄を取り出し、榊に見せた。榊も懐に忍ばせた柄を神楽に見せている。
「よし、行くか!」
 お互いの顔を見つめ、確かめ合うようにうなずくと、二人は自分達が悪寒を感じた場所
へと駆け出した。

 どうやら、発信源は橋の真下にある河川敷のようだ。短く刈られた冬枯れの草地に足を
踏み入れると、取り囲むように悪霊が立っているのが見えた。見渡す限り10体以上といっ
たところだ。
「どうやら、お出ましのようだな」
 神楽が小声で呟くと、榊が反応するように小さく頷いた。同時に二人は懐から柄を取り
出し、刃を作り出すと悪霊たちを睨みつけた。
「私は後ろの霊を倒すから、榊は目の前にいる奴を頼む」
「分かった……」
「それじゃ、そろそろ行くとするか」
 神楽が榊の背後に立ち、目の前にいる悪霊に刃を向けた。
「今すぐ成仏させてやるぜ!」
「今すぐ成仏させてあげる……」
 二人がほぼ同時に繰り出した言葉とともに、目の前に立っている悪霊目がけて刃を振り
かざした。数の上では悪霊のほうが優位に立っているが、実力差は歴然としている。二人
はほとんど一瞬のうちに、目の前にいた悪霊の半分を斬りつけ、成仏させていた。
 今残っているのは、神楽の目の前にいる2体と榊の目の前にいる1体のみだ。

「はっ!」
 榊が縦に刃を振りかざし、残る1体を斬りつけた。
「おっ、榊はもう全部倒しちゃったのか。よーし、だったら私もパパッと片付けちまうか」
 榊が残る1対の霊を倒し、冥福を祈っているのを見届けると、神楽は目の前にいる霊を
睨みつけ、そのまま前に踏み込んだ。

346 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:08 ID:???
「食らえ!猛虎の舞・裂!」
 ×の字を描くように神楽が斜めに立て続けに刃を振りかざしながら、悪霊の横をすり抜
けていった。悪霊は2体ともすぐさま灰と化し、宙へと舞っていった。しかし、神楽の目
の前にはもう1体の霊が見えた。しかし、さっき倒した悪霊とは雰囲気が違う。若干悪寒
は感じるものの、邪悪な気配までは感じられない。
「待って!」
 その霊は神楽が刃を振り上げているのを見て、手を目の前に差し出した。
 神楽は刃を高く掲げたまま、何とか振り下ろすのを必死に食い止めた。踏み込んだ足を
急に止めたため地面をズズッと引きずるような音が響いた。

 視線の先には若い女性が見える。白い装束を着ていることから幽霊であることには間違
いない。だが、こっちに向かって攻撃してきそうな気配は感じない。
「ごめんなさい……」
 肩までまっすぐに伸びた黒髪と、それとは対照的な色白の肌をした女性は神楽を姿を見
て、小声で謝った。神楽は刃を収めた柄を握り締めたまま、女性の顔を見つめている。
「お前は一体?」
「私、淡島深雪(あわしま・みゆき)と言います……」
「いや、そうじゃなくて……」
「あっ、ごめんなさい。実は私、3ヶ月前に事故にあって命を落としたのですが、成仏でき
ずにこの世にとどまっているのです」
「なるほど、そういう事だったのか」
「どうしたんだ……?」
 冥福を終えた榊が神楽の元へとやってきた。
「あっ、榊。実は悪霊じゃない幽霊がいたんだ」
「悪霊じゃない幽霊……?」
 神楽の言葉の意味がよく分からず、榊は不思議そうな表情を浮かべたが、深雪の姿を見
て事態を理解した。
「そう言えば、この世に何かの未練を残して亡くなった人の魂が成仏できないまま、この
世をさまようという話を聞いたことがある……。きっと、何か思い残したことがあるんじ
ゃないのか……?」
 榊は深雪の顔を見つめて呟くと、深雪は小さく縦に頷いた。

347 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:08 ID:???
「私はここで健吾……、あっ、ごめんなさい、健吾って言うのは付き合っている彼のこと
なんですけど、ここに彼が来るのを待ち続けているのです」
「待ち続けているって、3ヶ月もか?」
「はい……。健吾はミュージシャンで、よくここで演奏をしていたんです。で、私はここ
で彼の応援をしていたんです。でも、健吾が1年前に『外国で武者修行してくる』って言
って、アメリカに行っちゃったんです」
「へぇ、そうなんだ」
「そう言えば、ここで演奏している人を見た覚えがあるな……。確か少し髪の長い男の人
だったような……」
「はい、それが健吾です。健吾は旅立つ前に『1年後にまたここに戻ってくる』って約束し
たんです。だから、私もそれまで待っているって約束したんです。そして、その約束の日
まであと3日なんです。だから、せめて約束の日を迎えるまではここで待ち続けていたい
んです。約束は守れなかったけど……、だけど、彼に、健吾にもう一度会いたいんです」
 深雪が訥々とした口調ながらも、一生懸命に語る言葉を二人は黙って聞いていた。
「お願いです。それまでは私を成仏させないで下さい!あなた達が除霊をしている人だと
いうことは十分承知しています。だけど、もう一度だけでいいですから、彼に会わせて下
さい!お願いします!」
 深雪は反復運動をするかのように何度も頭を下げた。神楽と榊はお互いの顔を見合わせ
て、お互いに思案にくれているようだ。
 しばらくの間、その場に沈黙が漂ったが、神楽がゆっくりと口を開いた。
「そこまで頼まれたら、断るわけにもいかないな。分かったよ」
「本当ですか?」
 深雪は嬉しそうな顔を浮かべながら、何度も礼を繰り返した。
「いいのか……?」
 榊が神楽の耳元で呟いた。
「仕方ないだろ。無理矢理成仏させるよりも、この世に残した未練を果たして成仏した方
がいいだろう?」
「それもそうだな……」
「本当にありがとうございます!」
 深雪は榊と神楽の顔を交互に見つめて、まだ礼を繰り返している。
「さて、悪霊退治も終えたし、帰るとするか?」
 榊がうなずくのを見て、神楽は深雪に手を振った。深雪は再び深く礼をした。

348 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:08 ID:???
――おーい、ちょっと聞いてくれ。
 自分達を見つめる深雪の視線を感じなくなるところまで歩いたところで、突然ちよ父の
声が聞こえてきた。だが、姿が見えないことからテレパシーを送っているようだ。
「お父さん……?」
――悪霊退治ご苦労。あと、今回の淡島深雪の件でちょっと伝えてたいことがあるんだが。
「何だよ、あんなに頼んでいるんだから、聞き入れたっていいじゃないか。何か問題ある
のかよ?」
――いや、全く問題ない。実はお前達の祖先はこの世に未練を残したままの霊に対して、
未練を果たす手助けをすることで成仏をさせていたんだ。今回神楽がとった行動もそれに
似たようなものだ。
「じゃあ、大丈夫なんだな」
――あぁ、現段階ではな。
「現段階って……?」
 榊が不思議そうに尋ねた。

――その件については後で話すとして、お前達は3ヶ月前に起こった事故を知っているか?
「3ヶ月前の事故?それが今回の件と関係があるのか?」
「そう言えば、確かこの上の橋で女子高生が車に轢かれたって事件があった……。確か、
被害者は私達と同い年のはず……」
――そうだ。その被害者が淡島深雪なのだ。
「えっ、そうだったのか?」
「神楽はあまり新聞とか読まないのか……?」
「うーん、その日によるかな。寝坊した日だと読まないからなぁ」
「なるべく新聞は読んだほうがいい……」
「ゴメン、明日からは気をつけるよ」
 榊に指摘されて神楽は照れくさそうに頭をかいた。

――まぁ、新聞の話は一旦置いといてくれ。彼女は事故に遭って命を落とした後、魂だけ
が自身一番思い入れ強い場所、つまりはあの橋の下に縛り付けられた状態にいるのだ。つ
まり彼女は3ヶ月もの間、1人でずっと恋人を待ち続けてきたのだ。きっと色々と辛い思い
をしているはずだ。
 ちよ父の言葉を聞いて、神楽は3ヶ月もずっと一人で待ち続ける自分の姿を想像してみ
た。しかし、自分ではどうにも耐えられそうになさそうに感じられた。

349 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:09 ID:???
――今の彼女を支えているのは、恋人である武内健吾に会えるという期待だけだ。しかし、
彼女が今、胸に持ち合わせている期待が打ち砕かれ、絶望の淵に立たされたとき、陰魔一
族が彼女に襲い掛かってくるだろう。そして、彼女は悪しき化身として、悪霊に身を落と
す可能性があるのだ。
「陰魔一族の悪霊になるってことか?」
――そうだ。彼女の心が絶望で支配されたら、そうなる可能性は高い。だから、それだけ
は防いでくれ。
「分かった。彼女を陰魔一族に何かさせるもんか!なっ、榊」
 神楽は自分の胸を叩いた。榊は神楽の横で小さくうなずいた。
――心強い言葉が聞けて良かった。では、頼んだぞ。
 その言葉を最後にちよ父の声は聞こえてこなくなった。

「そんなに辛い思いをしていたのか、何とかして力になりたいなぁ」
 遠くに離れた見える橋の下の景色を見つめながら神楽が呟いた。
「でも、私達にできることは恋人が来るのを祈ることぐらいしかできないな……」
「よく考えたらそうだな」
「恋人と再会できればいいんだけどな……」
「約束の日まであと3日か。きっとかなり待ち遠しいんだろうな。私だって水泳大会の直
前は待ち遠しかったりするから、何となく気持ちは分かるよ。まぁ、うまくいくことを信
じようぜ!」
「うん、そうだな……」
 二人は橋の下にいると思われる深雪に向けてもう一度手を振り、彼女の願いが叶うよう
に祈った。


 3日後――
 オレンジ色の夕陽がビルの隙間に吸い込まれそうになっている頃、神楽は一人で家路へ
と歩いていた。視線の向こうに少し眩しい太陽が見える。
 今日は、水泳部のミーティングがあり、榊は先に帰ってしまったため、1人での帰宅にな
ってしまったのだ。
「あー、冬は日が沈むのが早いなぁ。こんな時間でもう夕陽が眩しいんだもんな」
 自分の顔を照らす夕陽を見つめながら、小さくため息をついたとき、ふとあることを思
い出した。深雪のことである。

350 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:09 ID:???
「あっ、そう言えば今日が約束の日だったな。ちゃんと再会できてりゃいいけどな。ちょ
っと様子を見に行こうかな。ここからだとそんなに遠くもないし。よーし、スタート!」
 思うよりも体が先に動いたせいか、気が付いたときには橋の下へと夕陽を背にダッシュ
をしていた。

 7〜8分ほどして、神楽は橋の下の河川敷が自分の視界に入ってきたのが見えた。しかし、
目の前の光景には人の気配が感じられない。
「あれ?いないのかな?」
 キョロキョロと辺りを見回しながら、ゆっくりと橋の下の鉄柱まで近付くと、川の近く
に深雪がしゃがんでいるのが見えた。視線もどこか俯きがちだ。
「おーい、どうしたんだ?」
「あっ、どうも……」
 神楽は深雪に向けて手を振った、声に反応するように深雪も神楽の顔を見つめたが、す
ぐにまた俯いてしまった。表情も前と比べるとどことなく暗い。
「もしかして、まだ来てないのか……?」
 神楽の問いに深雪は黙って小さくうなずいた。神楽は何か悪いことを聞いてしまった気
がして、思わず唇を引きつらせて苦い表情を浮かべてしまった。

「いや、でもこれから来るんじゃないのか?何時に来るとかは言ってなかったんだろ?」
 とりあえず、何かフォローしたほうがいいと思い、とっさに言葉を口にしたが、深雪は
俯いたまま何も返事をしてこない。
(マズい、何とかしなくちゃ……)
 しかし、頭の中が妙に働かなくなり適当な言葉が出てこない。妙に焦る気持ちに自分自
身気付いてはいるが、何も言葉が出ない以上、どうすることもできない。

「健吾はいつも4時にはここに来て演奏を始めたの……」
 焦る神楽に気をとめる様子もなく、深雪が小さな声で呟いた。
「えっ、4時?」
 深雪の言葉に反応するように、神楽は自分の腕時計を見ると、針は既に4時半を過ぎて
いる。
「やっぱり、もうここには来てくれないのかな。私がこの世からいなくなってしまったら
もう約束なんてどうでもいいってことなのかしら。私は自分が幽霊になっても待ち続けて
いると言うのに……」
 深雪のすすり泣くような声が聞こえてきた。しかし、神楽は何て言って励ませばいいか
分からず、ただ深雪の泣く様を見ることしかできない。

351 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:09 ID:???
「もう一度健吾に会いたい……」
 もし、自分が健吾と知り合いであれば、引きずり出してでも連れて来るところだが、自
分と健吾には接点がない以前に、どんな人物かすら分からない。自分にできることのなさ
に神楽は思わず唇を噛み締めた。それでも、何とか深雪を励まそうと必死に言葉を探し続
けていたが、何も出てきそうにない。
「でも、私はここから出ることができないの。私にできることはこの場所で健吾を待つこ
とだけ……。そんなの淋しい、淋しすぎるわ」
「そ、そうだけど……」
「ねぇ、どうすれば私はこの場所から抜け出して、健吾を探しに行けるの?」
 深雪の問いかけに神楽は言葉を詰まらせた。この場から抜け出すことは不可能だという
ことをちよ父からこの前聞いたものの、その事実を今の深雪に言うのははばかれるからだ。
しかし、嘘でもその場しのぎでもいいから何か深雪に言わなくちゃいけないと思い、再び
頭の中で言葉を捜し始めた。

「そんなの簡単よ」
 突然、神楽と深雪の前に一人の影が立ちはだかった。青い甲冑を着ている影は「フフフ
……」と笑みを浮かべながら、強烈な気を漂わせてこっちを見ている。神楽はその姿を見
て、榊が前に言っていたアイだということに気付いた。
「お前か、アイって奴は?」
 アイを睨みつけながら、神楽はカバンの中から柄を出した。いつでも刃を作り出せる体
勢をとるためだ。
「あっ、あなたには自己紹介をしていなかったわね。確かに、私が陰魔一族・暗黒四天王
の1人、アイよ。でも、今回はあなたに用がないの」
 アイは神楽の横をすり抜けると、深雪の目の前に立った。

「ねぇ、あなたの魂を陰魔一族に捧げるって誓ったら、あなたはこの場から抜け出すこと
もできるし、どこにだって行けるわ」
「ほ、本当ですか?」
「えぇ、本当よ」
 深雪の問いかけに、アイは笑みを浮かべながらうなずいた。
(まずい、今のままだと深雪が陰魔一族になってしまう。止めなくちゃ……)
 アイと深雪の姿を交互に見ながら、神楽は焦りの色を濃くしていた。それでも、何て言
うかは頭の中で定まっていないが、とにかく何か言わなくちゃいけないと思い、ゆっくり
と唇を開こうとした。

352 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:09 ID:???
――神楽、聞こえるか?
 ちょうどそのとき、ちよ父の声が聞こえてきた。姿は見えないので、テレパシーを送っ
ているようだ。
「何だよ、今それどころじゃないよ」
――もちろん分かっている。だが、アイは幽霊を陰魔一族に変えることのできる力を持っ
ているのだ。何としてでも淡島深雪を陰魔一族にするのを阻止するんだ!
「それぐらい、分かってるよ!」
――いいか。淡島深雪が陰魔一族になると言うことは、彼女は悪霊となってしまうのだ。
つまりは、今までの理性や良心を失って恋人である武内健吾に襲い掛かる恐れがある。そ
れに、悪霊となってしまえば、お前が彼女を直接自分の刃で斬りつけなくちゃいけないの
だ。いいか、必ず阻止してくれ。今それをできるのはお前しかいないのだ!頼んだぞ!
「えっ、ちょっと待てよっ」
 しかし、ちよ父の言葉はそれを最後に途切れてしまった。
「こうなった以上、私が何とかしなくちゃいけないのか。やるしかないな」
 榊がまだこの場に来ていないため、深雪を引き止めることができるのは自分しかいない。
神楽は一度大きく深呼吸をすると、深雪とアイをじっと見つめ、二人に近付くべく歩みを
寄せた。

「さぁ、陰魔一族に忠誠を誓うのよ。そうすれば、あなたは自由になれるわ」
 アイが深雪の目をじっと見つめながら呟いた。
「はい、私は――」
「待てっ!」
 深雪の言葉を遮るように神楽が大声で叫んだ。
「ちょっと、邪魔しないでもらえるかしら」
「うるせぇ!お前こそ邪魔をするな!」
 キッとアイを睨みつけた後、神楽は深雪の顔を見つめた。
「深雪、確かにお前は辛い思いをした。3ヶ月も一人で待ち続けたその辛さは計り知れない
と思う。だけど、それはお前が恋人である健吾を愛しているから耐え切れたんだろ?それ
を全部無駄にする気か?」
「でも、結局健吾は来なかった。私の存在なんてもう消されてしまったのよ……」
「そ、そんなことはないって」
「あるわ」
 神楽の「ないって」の部分を上塗りするようにアイが横槍を入れた。

353 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:10 ID:???
「いい、あなたはもう裏切られたの。捨てられたのよ。悔しいでしょう?許せないでしょ
う?だから、復讐してやればいいのよ、あなたのその手でね。フフフ……」
「バカなことを言うな!深雪、お前の健吾に対する気持ちは本物だったんだよな?」
 まくし立てるような神楽の言葉に深雪はゆっくりとうなずいた。
「だったら、復讐しようだなんてバカなことは考えるな。大体、おかしいじゃないか。何
で本気で愛した人を傷つけなくちゃいけないんだよ。待つだけでも辛いのに、あてもなく
探すだなんてもっと辛いじゃないか。何でそんな辛い選択をするんだよ……。しかも陰魔
一族の悪霊になってしまったら、その人を傷つけようとさえするんだぞ……」
 一呼吸置いて、神楽は言葉を続けた。

「これ以上お前にそんな思いをさせたくはないんだ!」
 力が入っているせいか、思わず大きい声が出てしまった。知らず知らずのうちに拳も握り締めている。
「お願いだから邪魔をしないで……」
 しかし、返ってきた答えはあまりにも冷たかった。
 神楽はそれでも何か言おうと思い、言葉を探そうとしたが何も出てこなかった。ただ、
自分自身に歯がゆさを感じるのみだ。

「もう、これ以上待つなんて無理よ。私は自分で探しに行きたいの……」
「でも……」
「いい加減にして!説得は失敗したのよ。今度は私の番」
 ずっとまくし立てたことで少し息切れ気味の神楽に向けて、アイが勝ち誇ったように笑
みを浮かべた。
「まぁ、当然の結果よね。それが人間の感情のなせる業なのだから。それじゃ、新たなる
陰魔一族の誕生に向けて儀式を行うから、そこで黙って見てなさい。神楽さん」
 アイは微笑みながら青く光る刃を作り出した。
「これで彼女の魂に残る最後の良心を斬りつけさえすれば、完成よ!」
 刃を天高く掲げると、それを深雪の胸元目がけて振り下ろした。しかし、アイの一撃は
深雪には届かなかった。神楽が深雪の目の前に立ちふさがり、刃を防いだのだ。

「私の目の前でそんなことはさせねぇ!」
 アイの振り下ろした刃の衝撃が大きかったせいか、少し後ずさりをしている。それに自
分の刃もグイグイと押されそうなため、ちょっとでも気を抜くと攻撃を受けそうな程だ。
それでも、深雪を守るために歯を食いしばりながら必死にこらえた。

354 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:10 ID:???
「どうしても私の邪魔をしないと気が済まないの?まぁ、いいわ。ついでだし先にあなた
を倒してあげる」 
「そうはいくか!」
 神楽は刃を力いっぱい振り上げると、アイの胴体を目がけて横に斬りつけた。しかし、
アイが後ろへ跳んだため、刃は空を切った。
「くそっ!」
「なかなかいい太刀筋ね。さすがにジンを倒しただけのことはあるわ。だけど、私を倒そ
うだなんて10年、いや100年は早いわ」
 アイは小さく笑みを浮かべながら、神楽の顔を目がけて挑発するように刃を向けている。
「ほぉ、言うじゃないか。だったら、今すぐ倒してやらぁ!」
 神楽は柄を強く握り締めて、自分の気を高めた。

「ねぇ、何で私のためにそこまでするの?」
 神楽の背後で深雪が小声で呟いた。
「ん?どういうことだ?」
 神楽は首を少しだけ後ろに向けて、深雪の顔を見た。
「何で見ず知らずの私なんかために……?別に私がどうなろうとあなたには関係ないじゃ
ない。なのにどうして?」
「そういうことじゃないんだ。私は深雪がずっと愛する人を待ち続けた強い気持ちに感動
したんだ。一人で待ち続けるだなんて大変だったろう?でも、きっと深雪を支えている強
い気持ちが心の中にあったからこそ、今まで耐えてこられたんじゃないのか?」
「それはそうだけど……」
「だったら、その強い気持ちを決して捨てようとするな!今まで頑張ってきた自分を否定
するようなことはやめるんだ!」
 深雪は何も言わずに黙っているのを見て、神楽は続けた。
「私も好きな人はいるんだけど、なかなか思いを伝えることができなくて苦しんでいるん
だ。でも、深雪は違う。私よりも強い気持ちがあるから、自分の思いを伝えようとして例
となってもこの世に残っているんじゃないか」
「うん……」
「でもな、陰魔一族になったら、お前のその純粋な思いは跡形もなく潰されてしまうんだ。
今までのような気持ちじゃいられなくなるんだよ!だから、諦めるな!諦めるなんてこと
はいつでもできるんだ。もう少しだけ頑張ってみようぜ!」
 次第に言葉に熱を帯びてきたせいか、体が深雪の正面に向かっていた。それに思わず身
振り手振りが大きくなってきているのを自分でも感じ取っていた。

355 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:10 ID:???
「このくだらない演説はいつまで続くのかしら?いい加減飽きたわ。それに、敵に背中を
向けるとは一体どういうつもり?」
 アイが冷めた口調で呟いたのを聞いて、神楽は再びアイと向き直した。
「別にどうもこうもねぇよ」
「まぁいいわ。そろそろその娘を我が一族の仲間に加えたいから、さっさとケリをつける
わよ!」
「待ってください!私……、私、ここで待ち続けます。だから、陰魔一族にはなりません」
「み、深雪!」
 神楽の表情に笑みが浮かんだ。

「ちょっとどういうこと?こんな陳腐なセリフに心惑わされたというの?」
「陳腐なセリフとか言うな!私の気持ちが通じたんだよ!」
「私、健吾が来ないことが不安でちょっと気を取り乱していたみたい。でも、神楽さんの
おかげで迷いが吹っ切れたわ。私、ここで健吾が来るのを待ち続ける。だって、私は健吾
のことを愛してる。だから、愛している人の言葉を信じなきゃ……」
「そうだ、その通りだ」
 笑みを浮かべる神楽の横でアイは拳を握り締め、肩を震わせていた。
「屈辱だわ、こんな屈辱を受けるだなんて……。許さない!こうなったら、力づくでも斬
りつけてやるわ!」
 アイが自分の刃を深雪に向けたまま、刀を持っていない手を高く上げた。それを合図に
突如草むらから悪霊がぞろぞろと現れ、神楽と深雪を取り囲んだ。

「さぁ、その小娘を倒してしまいなさい!」
 神楽はとっさに深雪の前に立ち、攻撃を防ぐ構えを見せた。とは言え、自分ひとりだけ
なら問題ないのだが、目に見える範囲内だけでも10体以上いる悪霊から深雪を守りながら
戦い抜けるかどうかは自信がなかった。しかし、目の前の悪霊が自分に襲いかかってきて
いる以上、迷っている暇がないことも事実だ。
 自分に襲い掛かってきた悪霊をサッと斬りつけながら、辺りを見回した。悪霊が次から
次へと自分に襲いかかろうとしている。
「くそっ、何でこんなにいるんだよ」
 目の前の悪霊の多さに思わず歯を食いしばりながら、襲い掛かるそぶりを見せる悪霊を
睨みつけた。また1体の霊が襲い掛かってきたが、それもすぐさま斬りつけた。ただ、気力
が少し減ってきたのか呼吸が乱れてきている。

356 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:11 ID:???
「あらあら、そんなことで最後まで守り抜けるのかしら?でも、最後まで頑張ってね。で、
疲れきったところで私がトドメをさしてあげるから」
「ふざけるな!そんなことさせるか!」
 呼吸がまだ乱れ気味ではあるが、神楽は声を大にして叫んだ。
「その強気がどこまで持つかしらね?お前達、やっておしまい!」
 深雪に危害が及ばないように注意しながら、神楽は襲い掛かってくる悪霊たちを何とか
斬りつけていった。しかし、次第に呼吸が激しさを増していることに、自分でも気が付い
ていた。
「くそー、キリがねぇな……。でも、負けるわけにはいかねーんだ!」
 まだ目の前には多くの悪霊たちが立ちはだかっている。神楽は一度俯いて、大きく深呼
吸をし、それから再び顔を上げた。
 そのとき、神楽の目の前に更に立ちはだかる影が現れた。影は自分の持っている刃から
赤い光を飛び出したことによって、悪霊を何体か斬りつけていった。神楽は自分よりも少
し背が高く、腰まで伸びた長い髪をなびかせた影の姿を見て、思わず笑みを浮かべた。

「さ、榊!」
「遅れてすまない……」
 榊は神楽の横に並ぶと、目の前にいる悪霊とその後ろにいるアイを睨みつけた。
「いや、榊が来てくれればもう大丈夫だ。よし、一気に片付けてしまおうぜ!」
「分かった……」
 言葉の通り、榊が来た後の勝負はほとんど一瞬で片付いてしまった。気が付いたときに
は、取り囲んでいた悪霊は全て成仏させ、残るはアイだけだ。
 
「さて、残るはお前だけだ!」
 神楽がアイの顔を目がけて刃を向けた。榊もアイを睨みつけている。
「フッ、あなた達の実力はとくと見させてもらったから、今日のところはそれに免じて見
逃してあげる」
 アイはそう言うと、その場から姿を消した。
「何を言って――」
 神楽はアイに言葉を投げかけようとした瞬間、急に左の頬に激しい痛みが走っているこ
とに気付いた。左手でそっと触れると指先に真っ赤に染まった線が見える。

357 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:11 ID:???
「何だよ、これは……?」
「ほ、頬に傷が……」
 何が起こったかを確かめるように、頬を何度もさすっているうちに自分でも知らない間
に傷が刻まれていることに気付いた。神楽は次第に痛みを覚え、思わず顔をしかめた。ま
た、傷口に触れた手が真っ赤に染まっている。
「大丈夫か……?」
 榊が神楽の傷口に自分の左手を当てたことで、神楽の傷口や痛みはすぐに癒えた。しか
し、神楽は自分が知らぬ間に攻撃を受けたことに少し苛立ちを感じていた。
「フフフ……。どう、私の刃の切れ味は?」
 二人の背後でアイが勝ち誇ったような口調で呟いた。
「お前、いつの間に!」
「これが私の実力のほんの一部よ。まっ、今日のところはそのぐらいで見逃してあげるけ
ど、今度はそれ程度のケガじゃ済まないわよ。じゃあね」
 アイは笑みを浮かべたまま、自分の体を気体に変えてどこかへと消えていった。

「くそっ!」
 神楽は自分が攻撃を受けたこと、またその攻撃を自分の知らない間に受けてしまったこ
とに苛立ちを感じ、拳を握り締めて自分の太ももを叩きつけた。
「どうやら、かなりの実力のようだ……。これは気を引き締めていかないと……」
「くそっ、油断した。だけど、今度はあいつを倒してやる!」
 神楽はまだ怒りが収まらない様子で、拳を握り締め、歯を食いしばったままアイがさっ
きまでいた場所を睨みつけている。

「あっ、あの……」
 背後で深雪が申し訳なさそうに呟いたのを聞いて、神楽はようやく我に返り、深雪の顔
を見つめた。深雪は穏やかそうな表情を浮かべている。
「あっ、ゴメン……」
「神楽さん、ありがとうございます。もうちょっとで不安に負けて、私、とんでもないこ
とをするところでした。でも、神楽さんのおかげで誤った選択をしないで済みました。本
当にありがとうございます」
 深雪は何度も神楽におじぎをした。神楽はちょっと照れくさそうに頭をかきながら、深
雪を見つめた。

358 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:11 ID:???
「まぁ、でも、良かったよ。これでもう大丈夫だろ?」
「はい……」
「じゃあ、後は恋人が来るのを待つだけだな?」
 神楽の問いかけに深雪は何も返事をしなかった。それどころか神楽の話を全く聞いてい
る様子になかった。

「おい?聞いてるのか?」
 しかし、深雪は驚きの表情を浮かべたまま、神楽の顔を見つめている。いや、正確には
神楽の後ろに立っている影を見つめて驚きの表情を浮かべているようだ。
「どうしたんだよ?」
 神楽と榊が後ろを振り返ると、そこには襟足まで伸びた髪をなびかせ、黒のジャケット
を羽織った背の高い男が立っていた。また、肩にはギターケースをぶら下げている。
「け、健吾……?」
「深雪!」
「えっ、この人が深雪の待っていた健吾って人か……?」
 神楽は深雪に尋ねたが、深雪はまた神楽の質問には答えずに、健吾のもとへと駆け出し
た。健吾も深雪を受け入れるように両手を広げている。深雪が健吾のそばに近付くと、二
人は再会の喜びに言葉もなく抱擁した。

「逢いたかった……。ずっとずっと逢いたかった……」
「俺もだ……。でも、こうして逢えるとは思わなかった……」
「嬉しい……。また健吾に逢えるなんて……」
 深雪の言葉にならない涙声が神楽や榊の耳にも届いている。
「よかったよな、榊」
「うん……」
 再会を喜ぶ二人を見つめて、神楽は心の底から祝福するように笑みを浮かべた。そこへ突然、
榊が神楽のセーラー服の袖を引っ張った。
「何するんだよ……?」
 まだ神楽の話は途中であったが、榊が神楽の肩に手を差し伸べて、首を横に振った。ど
うやら、二人の邪魔をしてはいけないという無言のサインのようだ。
「そうだな。邪魔しちゃ悪いよな」
 神楽は「よかったな」と微笑みながら一言だけ呟き、榊も何も言わず笑みを浮かべたままその場
を後にした。深雪と健吾の再会を喜ぶ抱擁はまだ続いている。

359 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:12 ID:???
「でも、健吾が来なくて深雪がかなり落ち込んでいるときは、何て言って励ませばいいか
分からなくて、本当に焦ったよ」
 神楽は榊にさっきまでの深雪とのやりとりを説明しながら、横並びになって河川敷に沿
った道を歩いていた。
「そんなことがあったんだ……」
「あぁ、しかもアイが邪魔に入ったから、話がややこしくなっちゃったしなぁ。でも、何
とか深雪に私の気持ちが届いてよかったよ。あの時は本当に必死だったもん。自分の心の
叫びを聞いて欲しいってさ」
「話せばわかってくれるさ……」
「確かにそうだな。でも、猫に言っても無駄だと思うけどな」
 神楽が笑いながら、榊の肩を叩いた。榊は少し引け気味に神楽の顔を見ている。
 ちょうどそのとき、背後から、ギターを奏でる音と澄み切った声高いが聞こえてきた。
恐らく健吾が歌っているのだろう。
 ギターの調べに乗って聞こえてくる歌は、スローバラードでどこか胸に響く切なさを持
っているように思えた。

「ちょっと待てよ!」
 神楽は健吾が歌っている曲を聴いた瞬間、思わず歩みを止め、後ろへと振り返った。
「どうしたんだ……?」
「いや、この曲聴いたことがあるんだ」
 神楽はギターを弾きながら、熱唱している健吾の顔を見つめた。健吾の曲はサビの部分
の入ったところだ。
「思い出した!この曲、私がこの前買おうと思ってたら、売り切れてたやつだ!確か、Ken
って歌手の『Deep Snow』って曲だ」
「あっ、その曲なら聞いたことがある。何か今ヒットしている曲だって……。アメリカから帰っ
てきた男性歌手のデビュー曲らしい……」
「そうだよ。部活の後輩から教えてもらって、いい曲だなって思ってたんだよ。まさか、
この曲を歌っているのって健吾だったのか?確かに、アメリカ帰りだからな。でも、ちょ
っとビックリだよ」
 二人は歩みを止めたままの姿勢で、健吾が熱唱する姿をずっと見つめていた。健吾が熱
唱しているそばでは、深雪が笑みを浮かべながら健吾を見つめている。

360 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/08/07(土) 23:13 ID:???
 数分後、健吾が歌い終え、深雪が大きく拍手をしたとき、突然深雪の体に異変が起きた。
深雪の体から蛍が飛び交うような小さな光の粒が飛び出してきたのだ。最初はほんの一粒
だったが、次第に粒は数を増し、宙へと舞っていった。それと同時に深雪の体も次第に透
き通っているように見える。
「深雪……?」
 神楽が深雪の名前を呼びかけた直後、深雪の体は霧が晴れるように姿を消し、そのまま
空へと舞い上がっていった。健吾が淋しそうな表情を浮かべたまま空を見上げている。

「どうやら、未練を果たしたことで成仏できたのかもしれない……」
「それって、深雪の魂は消えてしまったってことなのか?」
「あぁ、そうだろう……。でも、彼女の魂が消えても、彼女は生きている……。さっきの
曲『Deep Snow』ってタイトルだったろう……?それって、Deep(深い)とSnow(雪)
で、つまりは深雪さんのことを歌っていたんじゃないのかな……?」
「そうだな、榊の言う通りかもしれないな。例え魂が消えてもこの曲がある限り、深雪は
きっと生きている。私もそう信じたいな」
 神楽は空を見上げ、姿が見えなくなった深雪の冥福を祈った。榊も同じように空を見上げている。

「思いが届いてよかったな」
 冷たい風が吹き付けていることにも気を留めず、神楽は暗くなり始めた空を見つめた。
瞳から不意に涙がこぼれていたが、それを拭おうとはしなかった。空を見上げ、冥福を祈ることが
深雪に対して自分ができる最大限の供養だと思ったからだ。
(私も自分の思いを大切な人に告げられるように頑張るよ)
 一瞬だけ榊の顔をチラッと見た後、再び空を見上げると、小さな粉雪が降り注いでいるのが見えた。
(第15話 完)

(次回予告)
「どうしたんだ、榊?」
 見つめられていることに気付いた神楽が、不思議そうに尋ねた。榊は神楽の顔をじっと見つめながら、
表情を引き締めた。
「私……、負けたくない……」
 知らず知らずのうちに、自分の手をギュッと握り締めていた。力が入っているのか腕が小刻みに震えて
いるようだ。

361 :名無しさんちゃうねん :2004/08/08(日) 21:15 ID:???
今回の話は、神楽が敵に実力負けしたり霊の説得に成功したりと
いつもよりメリハリがあったと思います。
新たな敵は手ごわい相手のようですが、はたして2人は3年生まで
戦い抜いていけるんでしょうか。

362 :339 :2004/08/09(月) 13:25 ID:???
 何かが気に障ったようですね。まあ、お互い敵意はないということで穏便にすませましょう。

 色々言いましたが、作品自体はあなたのオリジナルですので、これまでのは名無しの戯言
として扱ってくれて結構です。余計な口出しは無用ということなら、おっしゃってくれれば
以後は静かにしています。
では、これで最後になるかもしれませんが、また一言。

 前回文章表現のところについて指摘なんてしましたが、結局それは個人の色ということで
いいのかもしれません。同じ単語の連続は、多くの文学作品でも見られることですし。
 それよりは、作品の見所や自分の強みをもっと前面に押し出していくことのほうが重要でしょう。
 この話において何がセールスポイントとなるのか……熱い戦闘シーンなのか、神楽と榊の
心の交流なのか……そこにはかなりの力が注ぎ込まれて良いはずです。個人的にはこれまでの
内容はやや淡泊に感じるのです。全体的に。(地の文が説明臭いところがあったことも要因の
一つかもしれません)
 貴方自身の長所を出すことも大切です。自分の持ち味は何でしょうか。これだけは
負けないという何かが一つあると、それが発揮された場合、まんべんなくできる人よりも
良い作品ができます。
無難に終わるより、どこか突出していた方がいいとは思いませんか?

 えらそうなことを言いましたが、期待していればこその発言です。今回の話はよくできていて、
特に突っこむ部分もなかったように思います。(毎回ちよ父が浮いているように見えるのは、
仕様ですよね?実際レビテーションしてますけど)
 今後のさらなる成長を祈りつつ、では、またいずれ。

363 :名無しさんちゃうねん :2004/08/26(木) 01:18 ID:9ovUovUM
メジロマヤーさん最高
!

364 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2004/08/26(木) 23:56 ID:???
新作読みました。
原作の展開を絡めつつ、独自な展開の持っていき方がうまいと思います。
私の場合はかなり強引に持って行くしか出来ないので。
新たなる敵アイはこれまでの敵と比べても陰湿でかつ実力も高い事から、
底知れぬ不気味さが漂っていますね。
健吾の曲が深雪の事を歌っているのも個人的にツボでした。
個人的には異形の形をした悪霊も出てきてほしいと思ったり。
では。

365 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/05(日) 00:49 ID:???
新作はほとんど出来上がり、現在は推敲中なので近日中には投下できると思います。
でもって、せっかくなのでレスをくれた人にレスを返したいと思います。

>>361
>はたして2人は3年生まで 戦い抜いていけるんでしょうか。
2人は大丈夫だと思うけど、書いている人次第です。
色々と問題が山積みだし、戦い抜けるのか自分でも分かりません。

>>362
>何かが気に障ったようですね
本当ならこういうことを言いたくないのですが、何が気に障ったかを言うと(一応敵意はないので)、
こっちが苦心して考えたアイデアを、あたかも「自分がアドバイスした→自分の手柄」のように言って
いるように見えたのが、腹に据えかねたために、思わず毒を吐いてしまいました。申し訳ありません。
まぁ、「能無しの分際で余計な口出しをするな」とおっしゃってくれれば、今後は口を挟みませんので。
ただ、指摘通り中身が薄いことは自分でも感じており、正直今後どうすればいいのか頭を悩ませています。
一応は「榊と神楽の悪霊退治を通じての心のつながり」がメインなのですが、どうも乖離している気が……。
少なくとも前作(第15話)はあずまんがである必要性があまり感じられないので……。

>>363
そんなに褒めても何も出ないよ。
でも、サーターアンダギーぐらいならあげるよ。ノ○

>>364
>個人的には異形の形をした悪霊も出てきてほしいと思ったり。
そんなものを出したら、夜眠れなくなっちゃうので無理です。
ゾンビとか出したら、バイオハザードになっちゃうしw

366 :名無しさんちゃうねん :2004/09/05(日) 19:53 ID:???
Kenの『Deep Snow』聴きたい…

367 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:13 ID:???
>>366
歌詞を掲載しようかと思ったのですが、JASRAC(日本音楽著作権協会)の許可が下りませんでした。
1つだけ言うとすれば、「切ない」ってことぐらいかな。

↓から新作に入ります

368 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:13 ID:???
「Spiritual Light」 第16話「誰がための祈り」

 冬休みに入って間もないある日、榊と神楽は街中から少し外れたところにある緩やかな
坂道を歩いていた。二人はこれからある場所へと向かう途中である。
「今日は思ったよりも寒くなくてよかったな」
「そうだな……。とってもいい天気だし……」
 神楽の会話に相づちを打ちながら、榊はガードレールから見える街の景色に目をやった。
天気がよく、空気が澄んでいることから、景色が鮮やかに映えている。
「あっ、やっと着いたな」
 神楽がある場所を指さしたので、榊は視線を景色から神楽の指先へと移した。視線の先
にはまっすぐにそびえる石段とその奥には大きな鳥居が見える。

 話は数日前に遡る。
「榊、ちょっと話があるんだけどいいか?」
 冬休みに入る直前、榊は一緒に下校をしていた神楽からこう切り出され、突然だったこ
ともあって、一瞬驚きの表情を見せた。
「あのさー、正月ってヒマか?」
「今のところ、予定はない……」
「そっか、だったらさー」
 榊は神楽がどんな話を切り出すのかと思い、少し緊張した面持ちで次の言葉を待った。
「一緒にアルバイトしないか?」
「アルバイト……?」
 予想だにしていない言葉に、榊は思わずオウム返しのように聞き返してしまった。
「あぁ、実は正月に神社でアルバイトをしてたんだ。親父が郊外にある神社の神主さんと
知り合いでさ。神社で絵馬を売ったり、お守りを売ったりする仕事をな。で、この前、神
主さんから電話があってさ、今年もやらないかって言われたんだよ。それで、榊も一緒に
どうかなって思ってさ」
「そうなんだ……。でも、私に勤まるかな……」
「大丈夫だって。ガサツな私でさえ大丈夫だったんだから、榊なら問題ないって。それに、
その仕事は神社だけに巫女の格好をして働くんだ」
「巫女の格好……?」
 神楽の顔をじっと見つめたまま榊が問い返すと、神楽は大きく首を縦に振った。

369 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:14 ID:???
「そう、巫女の格好だよ。そりゃ、神社だからな」
「そうか……」
「去年はMTBを買うためのお金を稼ぐための小遣い稼ぎぐらいにしか思ってなかったん
だけど、今年はちょっと違うんだ。自分が伝説の巫女の血を引く者だと分かったこともあ
るし、ご先祖様にあやかって一生懸命働こうと思うっているんだ。だから、榊も誘おうと
思ったんだよ。なぁ、一緒に働こうぜ!」
 一生懸命力説する神楽を見て、榊は小さく頷いた。断る理由はないし、神楽の言うよう
にご先祖様にあやかりたいという気持ちが心の奥底にあるからだ。
「よーし、それじゃ決まり!じゃあ、今度神社に一度挨拶に行こうと思うから、榊も一緒
に行こうぜ!話はちゃんと通しておくからさ」
「うん……」
「よーし、それじゃ頑張ろうぜ!」
 神楽が握り拳を作って張り切っているのを見て、榊も拳を握り締めながら一生懸命頑張
ろうと心の中で誓った。

 そして今、神社の目の前に立っている。
 葉が落ちて枝だけとなった木々の間を通る石段を、二人は一段ずつゆっくりと駆け上が
っていった。やがて視線の先に境内が見え、その奥には神社の本殿が見える。
「あー、ここに来るのも久しぶりだな」
 神楽が感傷に浸るような口調で呟いた。榊はこの神社に来るのは初めてであるため、思
わず辺りをキョロキョロと見回した。すると、境内で掃除をしている一人の巫女と目が合
ってしまい、思わず一礼してしまった。
「あら、神楽さんじゃない?」 
 榊と目が合った巫女が二人のそばへとゆっくりと近づいてきた。背中までまっすぐ伸び
た黒髪をなびかせ、凛としたたたずまいをしている。
「あっ、伊万里さん。お久しぶりです」
「知り合いなのか……?」
「あぁ、去年すごくお世話になった人なんだ。伊万里さん、こっちは私と同じクラスで親
友の榊です」
「あら、初めまして、榊さん。柚木伊万里(ゆずき・いまり)と申します」
 伊万里は一礼すると、榊の顔を見て微笑みかけた。その一点の曇りもない澄んだ笑みに
榊は思わず見とれそうになったが、ふっと我に返り慌てて一礼をし、それから自己紹介を
した。

370 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:14 ID:???
「実はまたここで働かせてもらうことになったんです」
「神楽さんは一生懸命頑張ってくれたから、また手伝ってくれると本当に助かるわ」
 伊万里に褒められたことで、神楽は少し照れくさそうに頭をかいている。
「それで、今日は挨拶に来たんです。今、神主さんは?」
「宮司なら社務所にいると思うわ。私が案内してあげる。一緒にいらっしゃい」
 伊万里に促されて、神楽と榊は後に続いた。

 築年数がかなり経っているのか、歩くたびに床がきしむ音を立てる社務所の廊下を奥ま
で進むと、伊万里は奥の扉をノックした。少しして、「どうぞ」という低い声がしたため、
扉を開けると、そこには初老の男性がいた。
「宮司、神楽さんと榊さんをお連れしました」
 二人は伊万里に促されるままに部屋に入ると、中では宮司が何かの作業をしていたらし
く、机の上に色々な書類が置かれているのが見える。
「いやー、いらっしゃい」
 宮司が笑顔で二人を出迎え、机のそばにある応接用と思われるソファに座るように、手
を差し出した。
「今年もよろしくお願いします。あと、こっちがこの前電話で言った榊です」
「あっ、榊と申します……。よろしくお願いします……」
 榊は自己紹介をすると、深くおじきをした。
「まぁ、そんなにかしこまらなくてもいいから。そんなに緊張したら、お守りを買う人も
かしこまっちゃうからね」
 宮司が深い皺を刻ませて笑みを浮かべた。榊も笑みを返そうとしたが、どうも笑顔がぎ
こちない。

「それじゃ、早速仕事の説明でもさせてもらおうかな」
「私はお茶を用意しますね」
 伊万里が部屋を出たのと同じくして、宮司からの説明が始まった。
 話の内容は絵馬やお守りを売る仕事を正月3が日の朝から夕方まですることなど前に神
楽から聞いた内容とほぼ同じであったが、そこから更に細かい説明が進められた。
「まぁ、大体はこんなところかな。神楽さんは前もやっているから、初めての榊さんをフ
ォローして下さい」
「はい、分かりました」 
 神楽が力強く返事すると、ちょうどそこへ伊万里がお茶を持って、戻ってきた。

371 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:14 ID:???
「二人とも、一緒に頑張りましょうね」
 お茶を出しながら、伊万里は二人に微笑みかけた。神楽は力強くうなずき、榊はまだ少
し戸惑いがちに小さく首を縦に振った。
「あっ、そうだ。せっかく来たんだから、装束の試着でもして行ったらどうかね?」
「あら、それはいいですわね。当日いきなり着ておくよりも、少しでも着慣れておいた方
がいいと思うわ」
「うむ。それがいい」
「それじゃ、お茶を飲んだら試着しましょう」
 こうして、神楽と榊が何か言う間も与えぬままに、勝手に話が進んでしまった。二人は
お茶を飲んだ後すぐ、伊万里に促されるままに障子張りの和室に案内された。
「それじゃ、これを着てもらおうかしら」
 伊万里が二人に巫女の装束を渡した。あとは伊万里の言われるがままに着替え、数分後
には二人は純白で汚れなき白衣と緋色の行灯袴に身を包んでいた。

「あら、とっても似合うわ。二人とも素敵よ」
 伊万里が手を叩いて二人を褒めた。神楽と榊はお互いの顔を見つめたまま、照れた表情
を浮かべている。
「何か照れくさいな……」
「私は久しぶりだけど、照れくさいのは一緒だよ」
「でも、神楽は何か凛としてかっこいいよ……」
「榊だって、かっこいいじゃん」
 神楽に褒められたことで、榊は更に顔を赤らめた。また、巫女装束に身を包んだ自分の
姿を鏡で見ると、いつもと違う自分の姿に違和感を覚えてしまう。

「榊さんは髪が長いからあとは水引を巻けば大丈夫ね。で、神楽さんは今年も垂髪をして
もらうわね」
「あっ、はい」
「垂髪って何だ……?」
「あぁ、巫女は髪を長くしなくちゃいけないんだ。榊は髪が長いから問題ないけど、私は
短いから、付け毛をしなくちゃいけないんだ」
 神楽が自分の後ろ髪をかき上げながら呟いた。

372 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:15 ID:???
「何か大変だな……」
「まっ、仕方ないさ。去年もそうだったしさ」
「それじゃ、垂髪は今度来たときにするとして、今日はこんな感じかしらね。でも、少し
でも着こなしたほうがいいわね」
「あっ、あの……。ちょっとお聞きしてもいいでしょうか……?」
 榊はちょうど伊万里と視線が合ったこともあり、ゆっくりと口を開いた。表情が心なし
か強張っているのが自分でも分かる。

「あら、何かしら?何でも聞いてちょうだい。分からないことは早めに解決したほうがい
いと思うから」
「実は……、アルバイトをするのは今回が初めてなので、色々と不安があるんです……。
ちゃんと勤めることができるのかって……。こんな私でも大丈夫でしょうか……?」
「大丈夫よ」
 伊万里が間髪入れずに答えた。答えるのがあまりにも早かったため、榊は少し驚いて目
を大きく見開いた。
「多分、さっき宮司から説明を受けたときに、巫女はあまり取り乱したり、慌ててはいけ
ないって言われたんじゃないかしら?」
 伊万里の問いかけに榊は首を縦に振った。それが自分を不安にさせている一因でもある
からだ。学園祭のねここねこ喫茶でウエートレスをしたときでさえ、お客が増えて思わず
慌ててしまったことを振り返ると、どうしてもうまくこなせるかという不安に苛まれてし
まうのだ。

「確かに年始はたくさんお客さんが来るから大変と言えば大変だけど、思いやりの気持ち
を忘れなければ大丈夫よ」
「思いやりの気持ち……ですか?」
「そう、巫女にとって何が一番大事かというと、人を思いやる気持ちなのよ。人は何かし
らの願い事を持って神社にやって来るのよ。そして、その願いが叶うための心の拠り所と
して絵馬やお守りを買う人がいるの。その人のために、私達ができることは願いが叶うよ
うに心の底から願うことなのよ。だから、手渡しするときにその人の願いが叶いますよう
にって、私達の思いも添えて渡すぐらいの気持ちや思いやりを届けてあげられればそれで
大丈夫だから、心配いらないわ」
 伊万里が再び榊に向かって微笑みかけた。何ひとつ曇りもない澄んだ笑みだ。榊はその
笑みに思わず引き寄せられそうな気がした。

373 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:15 ID:???
(そうか、私が大切にしていることと同じなのか……)
 伊万里の顔を見つめながら、榊は人を思いやることが巫女にとって大切なことだと分か
り、思わず言葉にもならない程に小さな息をこぼした。それから、伊万里の笑顔を再び見
つめた瞬間、自分の中で不安めいたものが不意に弾け飛んだような気がした。
「あっ、ありがとうございます……。おかげで不安が消えました……」
「そう、それは良かったわ。それじゃ、頑張りましょうね」
「はい!」
 榊は伊万里から励ましを受けたことで、ようやく緊張がほぐれ笑みがこぼれた。
「あら?いい笑顔を持っているんじゃない。あとは、その笑顔と真心を持って接すれば大
丈夫よ」
「はい、ありがとうございます……」
「よーし、頑張ろうな、榊!」
 神楽が榊の右肩を軽くぽんと叩いた。榊は神楽の顔を見て力強くうなずいた。

 1月1日――
 やはり、元旦だけあって、神社は初詣に来た人で溢れかえっている。そして、おみくじ
や絵馬、お守りを買う人の波が絶え間なく続き、榊と神楽はほとんど休む間もなく、その
対応に追われていた。
 こうして、時間を気にする余裕すらなく、二人の勤務時間が終わった。
「二人ともお疲れ様。今日はもうあがっても大丈夫よ。また明日もよろしくね」
 伊万里がねぎらいの言葉をかけたが、ずっと接客に追われてくたくたになってしまい、
榊はただ小さく「はい」と返事することしかできなかった。

「すっかり疲れちまったな」
 神社から家路に向かう帰り道で、神楽が苦笑いを浮かべながら呟いた。
「ここまで大変だと思わなかった……。でも、何とか伊万里さんが言ったことはできたん
じゃないかって思うんだ……」
「思いやりの気持ちか?」
「あぁ」
 神楽の問いに、榊は神楽の顔を向いて、大きく首を縦に振った。それから再び前を向く
と、ゆっくりと口を開いた。

374 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:15 ID:???
「色々と慌ただしかったけど、絵馬やお守りを渡すときにその人の願い事が叶うようにっ
て思いを込めて手渡すことはできたんだ……。きっと、私達のご先祖様もそうやっていた
んじゃないかな……」
「そうかもしれないな。あれ?あそこにいるのは……」
 神楽が前から歩いてきている女性を指さした。榊がその方向を見ると、こっちに向かっ
て歩いてくるかおりんの姿が見える。

「あっ、榊さん!明けましておめでとうございます!」
 かおりんは榊のそばまで来ると、何度もおじぎを繰り返した。
「明けましておめでとう……」
「そこの神社へ初詣に行ってたんですか?」
「いや、そうじゃないんだ……」
「実は私達、そこの神社で巫女のアルバイトをしてたんだ」
「ええっ!榊さんが巫女のアルバイトですって!」
「そう。私と榊はあそこの神社でお守りや絵馬を売ってたんだー。でも、人が多くて大変
だった――」
「榊さん、本当なんですか?」
 神楽の言葉を打ち消すかのような大声で、かおりんが榊に尋ねた。榊は何も言わず、一
度だけコクリと首を縦に振った。

「何ですって、榊さんの巫女姿……、あぁ、とても麗しいお姿なんでしょうね。私も一度
拝見したいです!」
「だったら、明後日までは働いているから、昼間に来れば大丈夫だよ」
「そうなんですか?だったら、今初詣に行こうと思ったけど明日にします!で、榊さんの
ためにお守りを100個買います!」
「いや、そんなに買わなくてもいい……」
 興奮気味に盛り上がるかおりんを見て、榊はちょっと引け気味にしか見ることができな
かった。
「それじゃ、明日また神社に行きます。千尋も誘いたいんだけど、彼女ったら、文化祭で
ちよちゃんのペンギンの着ぐるみを作ってから何か衣装作りに凝っているみたいなんです
よ。だから、誘っても来るかどうか分からないけど、私は必ず行きますから!それじゃ、
私はついでに夕陽の写真を撮ろうと思っていたので、ここで失礼します。また明日会いま
しょう!」
 かおりんは再び榊に一礼すると、手を振りながら神社へと歩いていった。

375 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:16 ID:???
 しかし、かおりんはしばらくは榊の顔を見つめたまま、手を振り続けていた。かれこれ
100メートル近くは手を振り続けたままだ。もし、このまま見つめていたらずっと手を振り
続けていそうな程だ。
「さて、私達も帰ろうぜ」
「そうだな……」
 神楽がきっかけを作ったことで、いつまでも手を振り続ける状態から抜け出し、再び家
路へと歩き出した。

「そうか、千尋は衣装作りに凝っているのか」
「よかったじゃないか……。何かに励むってことはそれだけで生きがいがあるってことだ
し……」
「あぁ。これでジンを生み出したときのような心の闇は消えたはずだろう」
「そうだね……。でも、この調子でいろいろな人を助けることができたらいいな……」
 榊は一度歩みを止め、日が傾きかけたことで淡いピンク色に染まった空を見上げながら
呟いた。
「おい、どうしたんだ?急に立ち止まって」
 少し前を歩いていた神楽が立ち止まり、不思議そうな表情を浮かべて後ろへ振り返った。

「いや、夕陽がきれいだなって思って……」
 榊は空を見上げたまま答えた。それを見て、神楽も同じように空を見上げている。
「こんなにきれいな夕陽を見られただけでもなぜか嬉しいんだ……。今日一日頑張ったか
ら、余計にそう思えるのかもしれないけど……。それに、この夕陽を見たら、何か心が洗
われて、明日も頑張ろうって気になってきたんだ……」
「そうだな、その調子で明日も頑張っていこうぜ!」
「うん……」
「よーし、それじゃ家に帰って明日に備えてゆっくり休むかな。そして、多くの人の幸せ
を願おうぜ!」
 神楽が力強く握った拳を突き出した。
「よし、明日は今日よりも、もっと頑張ろう……」
 榊も大きくうなずいた後、拳を強く握り締めて心に誓った。

376 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:16 ID:???
 1月2日――
 昨日に比べ人も少なくなってきたことや、仕事に慣れてきたこともあってか、榊はだい
ぶ精神的に余裕を持って取り組むことができた。お守りを渡すときにも笑みを浮かべられ
るほどになってきている。
 昼過ぎにかおりんが来て、本当にお守りを10個ほど買っていった以外は大きなトラブル
もなく、順調に1日を過ごすことができた。
 午後4時を過ぎた頃、伊万里から「今日はもうあがっても大丈夫」と言われたことで、
二人のこの日の仕事は終わった。

 二人は更衣室代わりになっている障子張りの和室へと続く廊下を横並びになって歩いて
いた。
「今日はいい感じにできてよかった……」
「私も昨日とは違っていい感じにできたし、何かようやく慣れてきたって感じがするよ」
「この調子で、もっと多くの人の幸せを願いたいな……」
「あぁ、私達で力を合わせて頑張っていこうぜ!」
 神楽が言い終えたとき、ちょうど和室の前に来たので、障子のそばに立っていた榊がゆ
っくりと開け、部屋の中に入った。
「あっそうだ、今日はカメラを持ってきたんだー。せっかくだから、写真取ろうぜー!」
 神楽は自分の荷物の中からインスタントカメラを取り出すと、笑みを浮かべ、榊の顔を
目がけてシャッターを押すまねをした。
「それはいいな……」
「でも、せっかくだから、外で取りたいな。その方が雰囲気も出るし。神社の奥の林だっ
たら、人目に付くこともないし、いいんじゃないかな?」
「じゃあ、そこまでちょっと移動するか……」
「よし、行こうぜ!」
 こうして、二人は社務所を出て、神社の奥にある林へと行くことにした。

 奥の林へは、社務所の裏口からの細い道を使うことで、人目に付くこともなくすぐに行
くことができた。間もなく少し開けた場所までたどり着いたので、二人はここで写真を撮
ることにした。
「よーし、ここでいいや。榊、撮るぞー」
 神楽は近くにある木の前に立っている榊にカメラを向け、シャッターを押した。
「じゃあ、私も撮るよ……」
 今度は榊がさっきまで自分が立っていた場所にいた神楽に向けて、シャッターを押した。

377 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:16 ID:???
「おっ、サンキュー。これはいい記念の写真になるな。あとは、できれば二人で写ってい
る写真が欲しいんだけどなぁ。でも、この写真にはセルフタイマーがないし、どうしよう
かな?」
「誰もいないし、ちょっと無理だな……。仕方がないから、社務所に戻って誰かに撮って
もらうとしよう……」
「かおりんがいれば頼めたんだけど、しょうがないな。それじゃ、社務所に戻って――」
 そのときだった。突然、二人は自分の体に悪寒が走るのを感じだ。

「どうやら、近くにいるみたいだな……」
「そのようだ。だったら、ついでに今年最初の悪霊退治と行くか!一応これは持ってきて
いるからな!」
「私も一応持ってきた……」
 神楽が榊の顔を見つめながら懐から柄を取り出したのを見て、榊も神楽へと顔を向き直
しつつ自分の柄を取り出した。お互いの視線がぶつかった。
「よし、それじゃパパッと片付けてしまおうぜ!」
 神楽の言葉に、榊は表情を引き締めてコクリとうなずくと、二人は悪寒を感じた場所へ
と向かった。

 悪寒の発信源は二人がいた林から更に奥に進んだところだが、特に目立ったものはなく、
ただ木が随所に点在しているだけだ。だが、木の陰からは強い邪気を秘めた悪霊の姿が何
体も見える。
「どうやら、お出ましのようだな」
「そのようだ……」
「今日はちょっといつもと違う格好だけにうまく立ち回れるかどうか分からないけど、大
丈夫だよな?」
「でも、私たちのご先祖様だってきっと同じような格好で戦っていたはず……。それなら、
私達だって大丈夫……」
「あっ、そうか。よーし、それじゃ、私は右側にいる悪霊を倒すから、榊は左側を頼む」
「分かった」
 二人は自分が持っている柄を強く握り締め、刃を作り出すと、それを目の前に立ってい
る悪霊に向けた。

378 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:16 ID:???
「今すぐ成仏させてあげる……」
「今すぐ成仏させてやるぜ!」
 その言葉を皮切りに二人は左右に散り、目の前の悪霊を斬りつけた。
「どうやら、何とかなりそうだな。それに、心なしか気力がみなぎってきそうだよ」
 神楽の弾む声が榊にも聞こえてきた。榊もちょうど、同じことを考えていた。巫女装束
を着ている事で、身も心も引き締まる思いが強まり、今までにない力が発揮されそうな気
がするのだ。

「はっ!」
 榊は木の幹に見え隠れする悪霊を、赤い光がまばゆく光る刃で素早く斬りつけた。
「行くぞ!鳳凰の舞・飛翔!」
 自分の周りにいた数体の悪霊も即座に斬りつけ、あっという間に自分に襲いかかろうと
してきた悪霊を全て倒すことができた。

「だりゃー!」
 一方の神楽も、青白い刃を光らせている柄を両手に握り締め、力強い太刀捌きで目の前
の悪霊を斬りつけた。
「食らえ!猛虎の舞・烈!」
 更に、襲い掛かってこようとしてきた悪霊も凄まじい勢いで斬りつけたことで、こちら
もすぐさま悪霊を全て倒してしまった。
 こうして、ものの数分で二人を取り囲んでいた悪霊を全て成仏させることができた。

「どうぞ、安らかに……」
 榊は木の枝に取り囲まれた空を見上げながら、冥福を祈った。
「ふぅ、一丁上がり!でも、やっぱりいつもと違う格好だと落ち着かないな。特に、この
後ろ髪がなー」
 神楽が自分の後ろ髪を結んでいる垂髪を指で撫ぜながら呟いた。
「でも、何かいつもよりも気力がみなぎっていた気がするんだ……」
「あぁ、確かにそうだな。やっぱり、伝説の巫女の血を引くものとしてはこの格好が一番
合っているのかな?」
 白衣も袴も強く締めているため、衣装が乱れることはなかったが、神楽は自分の袴を乱
れていないかどうか確かめていた。榊はその様子を黙って見ているうちに、ふとあること
が脳裏をよぎった。

379 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:17 ID:???
(やっぱり、私達のご先祖様はすごいな……。制服よりもこの巫女装束の方が動きづらい
はずなのに、この姿で戦い続けてきたんだもんな……。それに昨日と今日、私たちがひっ
きりなしにしていた仕事だって、キチンとこなしていたはずだし……。まだまだ私はご先
祖様には及ばないのかもしれない……。でも……)
 榊は一度、視線を地面に下ろし、自分が着ている袴や白衣をじっと見つめた。それから、
一旦深呼吸をしてから、再び視線をまっすぐに向き直した。視線の先には刃を収めた神楽
の姿が見える。すると、不意に神楽がこっちを向いたために目が合ってしまった。

「どうしたんだ、榊?」
 見つめられていることに気付いた神楽が、不思議そうに尋ねた。榊は神楽の顔をじっと
見つめながら、表情を引き締めた。
「私……、負けたくない……」
 知らず知らずのうちに、自分の手をギュッと握り締めていた。力が入っているのか腕が
小刻みに震えているようだ。

「おい、どうしたんだよ、急に?」
「いや、私達のご先祖様って、私達がやってきたことを全てこなしてきたんだよな……?
そう思うと、私達が昨日と今日やっただけで、大変だなんて口にしちゃいけないんじゃな
いかって思ったんだ……」
「あぁ、なるほど」
「それに、ご先祖様がいるから私達が今の力を授かっている訳だし、私たちはその力をも
っと生かして、成仏できずにいる悪霊を成仏させてあげなきゃいけないんだなって思った
んだ……。そうしたら、何か負けちゃいられないなって……」
 そこまで言うと、榊は大きく呼吸を繰り返した。自分が抱えていた気持ちを吐き出したことで、
不意に息が出てきたようだ。激しい息遣いが、乾いた空に響いている。

「……そうだな。この力を生かして、陰魔一族に立ち向かっていかないとな」
「私達にもできるよな……?」
「うん、その気持ちさえあれば、きっとできるはずだ!よーし、負けないように頑張らな
くちゃな!」
 神楽が榊の肩を軽く叩いた。榊はそれに応えるように小さくうなずくと、神楽が自分の
肩に乗せた手の上に自分の手を乗せた。

380 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:17 ID:???
「だから、共に力を合わせて頑張っていこう……。そうすれば、きっと陰魔一族にも負け
ないし、ご先祖様にも恥ずかしくない姿を見せることができるはずだ……」
「あぁ、新しい年を迎えたことだし、気持ちも新たに頑張っていこうぜ!」
 榊も神楽もお互いの顔を見つめると、気持ちを確かめ合うように首を縦に振った。
「それじゃ、明日もこの調子で行くぞ!」
「うん……」
 二人は同時に空を見上げた。オレンジ色の夕陽が視線の先に見え、降り注ぐ光が自分達
の顔を照らしているように思えた。

 1月3日――
 だいぶ慣れたこともあって、榊も神楽も順調に仕事をこなせるようになってきた。ご先
祖様に負けないようにがんばると言う思いが原動力となっているのが大きいようだ。こう
して、テキパキとこなしていくうちに夕方になり、二人の勤務時間は終わりを迎えた。
 
「二人ともご苦労様。一生懸命頑張ってくれたから、本当に助かったわ」
 仕事が終わった後、和室でくつろいでいた榊と神楽に向けて、伊万里が笑みを浮かべて
労いの言葉をかけた。
「疲れたでしょう。はい、お茶どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……」
 湯飲み茶碗を伊万里から受け取ると、榊は冷ますために息を吹き、一口飲んだ。入れた
てのせいかとても熱い。

「でも、二人ともいい働きぶりだったわ。もし、良かったらまた来年もどう?」
「ありがとうございます。でも、来年は受験がありますし、さすがにちょっと……」
「あっ、そうか。大学受験があるんだもんね。それは残念だわ」
「でも、再来年でもよかったら、またここで働きたいです……」
「あら、榊さんと神楽さんならいつでも大歓迎よ。私の目から見ても本当に心をこめて売
っているように見えたし、それどころか、二人が何かの守り神のように見えたのよね」
「えっ、守り神ですか……?」
「私の思い込みなのかもしれないけど、それだけ神々しい雰囲気を醸し出しているように
見えたの。まぁ、何でかって言われても、私にも分からないんだけどね」
 伊万里の突拍子もない発言に榊も神楽も一瞬呆気にとられた。しかし、伊万里はそれを
気に留める様子もなく話を続けた。

381 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:17 ID:???
「でも、もしかしたら、二人とも巫女が天職かもしれないわ。だからって訳じゃないけど、
その気になったらいつでも働いて欲しいくらいだわ。ねぇ、将来ここで働くってのはどう
かしら?二人ならきっといい巫女になれると思うわ」
「えっ、そうですか。どうしようか、榊?」
 神楽が照れ笑いを浮かべながら榊の顔を見つめている。榊もそこまで褒められたことで
少し照れた表情になっている。

「でも、私は叶えたい夢というか、将来絶対なりたい職業があるんです……。伊万里さん
の気持ちはありがたいんですけど……」
「あらっ、そうなの?こっちの方こそごめんなさい。別に無理強いはしないから。ただ、
二人が今後もこの仕事を手伝ってくれると嬉しいなって思っただけなの」
 伊万里はそう言うと頭を深く下げた。榊はそれを見て自分も頭を下げると、伊万里を謝
らせたことをかえって申し訳なく思った。

「ところで、神楽さんは?」
「私は今はまだ、もっと水泳で頑張りたいってことしか考えられないです」
「あら、そう。でも、私は二人なら自分の描いた夢を叶えられるって信じているわ。二人
にはそれだけの力があると思うの。これも何でかは分からないけど、私も応援しているか
ら、頑張ってね!」
「はい!」
 二人がほぼ同時に返事した。表情にも笑みがこぼれている。
「あと、お守りが欲しかったら、いつでもここで買っていってね。一番効くお守りを用意
して待っているから!間違っても他の神社で買わないようにねっ」
 ただ、この伊万里の発言にはさすがに苦笑をする以外になかった。

「何か過ぎてみればあっという間だな」
 神社からの帰り道、灰色の雲に覆われた空を見ながら神楽が呟いた。榊はそれを見て小
さくうなずいた。自分も同じ事を考えていたからだ。
「でも、色々とかけがえのないものを得た気がする……」
「私もそう思うな。もしかしたら、本当に巫女が天職なのかもしれないなっ」
「もしかしたら、そうかも……。それと、誰かのための幸せを祈ることが、私達にとって
大事なんだって思えたんだ……。微力でもいいから、誰かの支えになれればそれがいつか
は私達の幸せにつながるんじゃないかって……」
「はぁー、榊はすげーなー。そこまで考えていたのか」
 神楽が少し驚いた様子で、かつ尊敬に近い眼差しで榊の顔を見つめた。

382 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/06(月) 00:18 ID:???
「でも、その祈りは多くの人に向けたものだけじゃない……。同時に神楽への祈りも
含まれているんだ……」
「わっ、私にも?」
 驚いたせいか神楽の声が少し裏返っている。榊はそれには気を留めずに話を続けた。
「実はちょっと参拝をしてきて、神楽が水泳でインターハイに出られるように祈ってきた
んだ……。去年は惜しいところでダメだったけど、今年はきっと出られるはずだ……」
「榊……、ありがとう。榊が応援してくれるなら百人力だよ。だから、今年こそは絶対に
インターハイに出てみせる!約束するよ!」
「あぁ、期待しているよ」
 神楽が握り拳を見せて、自分の意気込みをアピールしたのを見て、榊は穏やかな笑みを
浮かべた。

「よーし、だったら私も榊が描いている夢がいつか実現できるように祈るよ!」
「ありがとう……。神楽が支えてくれるならきっと大丈夫だ……」
「だから、今年はお互いの夢が叶えようぜ!それと、悪霊退治も頑張って行くぞ!」
「うん」
「よーし、そうと決まれば、張り切って行くぞ!」
 神楽が突然、右手の甲を向けて榊の目の前に突き出してきた。
「えっ……?」
「いや、スポーツとかで気合を入れてやるポーズがあるじゃん。あれをやりたいんだよ」
「あっ、なるほど……」
 事の次第を理解したため、榊は神楽の右手の上に自分の右手を乗せた。

「よーし、今年も気合入れて頑張っていくぜ!陰魔一族なんかに負けないぞ!おーっ!」
 神楽がまくし立てるように叫ぶと、右手を高く空に突き上げた。突き上げた拳の先に見える
空からは降り始めたばかりの粉雪が舞っている。
「榊、お互いに頑張っていこうぜ!」
「あぁ」
「そして、今年も勝負だ!今年こそは勝ち越してやるからな!」 
「そっちの方は、お手柔らかに……」
 空からは次第に粉雪が強く降り注いでいる。しかし、二人はそれを気に留めることなく
自分達の祈りが揺るがないように空を見つめ続けた。
(第16話 完)

注:次回予告は諸事情によりありません。理由は追って説明します。

383 :メジロマヤー ◆xSrSaKAKI6 :2004/09/09(木) 01:26 ID:???
 何をどう間違えたのかは知らないけど、容量の限界を450KBだと思い込んでおり、もうこのスレには
投下できないと思っていたのですが、どうやら勘違いしていました。最大500までだったし。
 でも、500KBまで大丈夫であれば、あと1〜2話ぐらいは投下できそうだし、もうちょっと書いてみるかな。
で、そこまで行ったら、その時にまた考えればいっか。とりあえず、次回の予告です。

(次回予告)
「どこにいるんだよ……」
 言葉にできないほどの不安が自分の中に襲い掛かってくる。何とかそれを必死に振り払
おうとしても、焦る気持ちだけはどうしても抑えることができない。
 不意に窓の外に目をやると、空に満月が輝いているのが見える。しかし、今は夜空に見とれている暇などない。
 神楽はもう一度深呼吸をして心を落ち着かせると、再び暗い廊下を走り出した。

384 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2004/09/30(木) 01:10 ID:???
>>383
お疲れ様です。榊さんと神楽と伊万里さんのやりとりがいいなぁと思いました。
互いの夢が実現する事を祈りあうとことか。力強く決意する神楽にそれを優しく
微笑みかける榊さんがらしくてよかったです。あとかおりんも相変わらずでした(w
では次回作も期待しています。

385 :名無しさんちゃうねん :2004/10/13(水) 00:22 ID:???
二人ともかーいーよ(;´Д`)ハァハァ

386 :大阪 :2004/10/17(日) 02:04 ID:mI4GL4yY
この話って一体何話まで続くんかなぁ?
私の出番はあらへんの?
私の忘れ物能力も使ってや〜

387 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 02:23 ID:???
書くのはともかく、ageるのは不愉快だな。

388 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 02:23 ID:???
sage

389 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 02:25 ID:???
sagare

390 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 08:56 ID:???
自己満SSスレは地下に沈んでろと言いたい
こういうのを不愉快に思ってる奴は多いんだしな

391 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 09:09 ID:???
…いや、いくらなんでも そのセリフはにんげんとしt

392 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 10:39 ID:???
>>386のせいですーぱーさげ

393 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 12:03 ID:???
別にageるくらい何でもないと思うのだけど。
そのあたりの話題は↓で出ているので、自分の意見が正しいと思うのなら書き込んでみれば?

http://www.moebbs.com/test/read.cgi/azuentrance/1076610111/454-464

どういう結果になるかわからないけれど、大阪板の空気、流れ、方向性とかいったが
見えてくるかも。

394 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 12:33 ID:???
下げる

395 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 13:43 ID:???
たかだかageたくらいで何ムキになってんだか。
嫌いならスルーするなり見なければいい話なのに・・・・・・・
>>390みたいに思うのは勝手だが、それをこうして書くのは人として
どうかと思うぞ。不愉快なら見なければいい話なのに、わざわざ見て不愉快に
なるその態度が分からない。上にあって目に入ったのなんて理由にならんぞ。
神経過敏になりすぎなんだよな。

396 :大阪城公園 :2004/10/17(日) 14:29 ID:???
ss不愉快な人何人ぐらいいるんでしょう?てことでsage

397 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 14:29 ID:???
これ意味あるの?

398 :へーちょ :2004/10/17(日) 14:37 ID:???
スーパーさげ
>>395
いやなら見なけりゃ医院です、見なけりゃ。
SSからあずまんがに戻ってきた私にとっては、それを貶されることのほうが不愉快。


399 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 14:47 ID:???
>>395
では無いが、好きじゃないのでスーパーさげ

400 :名無しさんちゃうねん :2004/10/17(日) 14:57 ID:???
そのつもりがなくてもですね、
ここで言い争うと、半分荒しになってしまいますよ。
それを目的にしているわけではないでしょうから、移動しませんか?

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