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スレッドが大きすぎます。残念ながらこれ以上は書き込めません。

あずまんがSSを発表するスレッド パート3

1 :名無しさんちゃうねん :2004/04/12(月) 01:21 ID:???
あずまんが大王のSSを投稿するスレッドです。
みなさんドシドシ投稿してください。

前スレッド
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/1070830253/


[注意]暴力・猟奇など読み手を選ぶ内容のSSは別スレッドに投下お願いします。

201 :名無しさんちゃうねん :2004/07/08(木) 10:01 ID:UO/PpxrE
…いい流れだ…

202 :( ̄〇 ̄).。oO(眠い名有り) ◆CRIUZyjmw6 :2004/07/08(木) 22:16 ID:???
そーいや、前スレにあったバトロワはどーなったんだ?

203 :名無しさんちゃうねん :2004/07/08(木) 23:32 ID:???
つーか、彼女らが対立する忍びの末裔で、次期天皇を決めるために殺しあうはめに
なったって展開の「あずまんがバジリスク」も続きが待ち遠しい……

204 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 04:00 ID:lViSCE7E
Prologue

「っつーことでさ、今年はココ!」
滝野智は、友人・水原暦の部屋で、目の前のテーブルに広げられたパンフレットの一枚を取り上げて言った。
「ココ!・・・ってなぁ。皆には?」
突き出されたパンフを受け取りつつ暦は答える。
夏になれば旧友達が集まり、泊りがけで遊びに行くという毎年恒例のイベントは、彼女達が高校を卒業して以降も続けられている。
ただ、大学も卒業し社会人となってからは、金銭的、行動的な自由度が増し、中々に本格的な「旅行」へとレベルアップはしていた。
「ぁー、それなんだけどさ。」
言いつつ、智は腕でバツ印を作る。
「今年はみんな来れまっせーん。だって。」

「へ? そうなの?」
さらりと返って来た答えに、暦は些か拍子抜けした。
目の前の智は同じ姿勢で「うん。」とだけ頷く。
が、当然と言えば当然かも知れない。学生時代ならまだしも、もう皆就職やら何やらしているのだ。
ましてや、ある程度は日数を要する「旅行」である。そうそう都合がつく物でもない。
むしろ今まで都合がついてきた方が不思議な位である。
「だから今年はあたしとよみだけ。ま、いいよね。たまにはこんなのも。」
「んー・・・まぁ、来れないものは仕方ないか・・・。私ももう有給の申請出しちゃったしな・・・。」
「そーそー。せめて居るヤツだけでも楽しまないと!」
会話をしつつ、暦は再びパンフに目を落とす。
「で、だ。二人で行くのは良いとして。これは何処なんだ? 聞いた事無い場所だけど。」
パンフに書かれた、文字通り聞き慣れない地名を見、視線を智に移す。
「んー。わかんない。なんか、アメリカ? 写真がスッゲェ綺麗だからそこにした。」
一点の曇りも無い表情で、一点の曇りも無い答えが返って来た。
「・・・は?」
「写真。」
「写真。で、アメリカ?」
「アメリカ。」
「・・・」
「・・・ダメ?」
そんな安直で良いのか、と喉まで出掛かった暦だったが、言うだけ無駄だと解りきっているので敢えて言わずにおいた。
たとえ言ったとしても、あの手この手で根拠の無い反論をされ、結局は不毛な議論(とも呼べない様な言い合い)になるだけである。
安直だから智なのである。
安直で無駄だから智なのである。
その癖、一度決めたらテコでも動きやがらない。

「・・・まぁ、いいよ。智の好きなとこで。」
仕方ないな、の表情を多分に含みつつ。
「お! じゃ決定ね。大丈夫大丈夫。退屈ならそれもまたグーですよ。」
何が大丈夫かは知らないが、相方のOKが出るや否や、智は早速計画練りに入る。
そんな智を横目に、暦は三たびパンフに目をやる。

「『ラクーンシティ』ねぇ・・・。」

205 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 13:09 ID:???
こ、これは一発ネタなのかそれとも続きがあるのか……

206 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 13:32 ID:o2DE/ZMA
なんかすごそう…

207 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 13:38 ID:9.e/9L3w
期待age

208 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 19:05 ID:???
ラクーンシティーって、うろ覚えなんだけど
アンブレラカンパニーがある所?
そうだとしたら、そりゃ期待する罠。

209 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 20:59 ID:lViSCE7E
#1 Spit it out.

「だぁ────ッ! いい加減にしろ! ちゃんと前見ろ! ベタ踏みすんな! つうか運転代われ!」
暦の叫びは、レンタルしたオープンカーから広大なアメリカの大地へと、一片の欠片も残さず吸い込まれてゆく。
「なぁーに言ってんのぉ! 見渡す限りの地平! どこまでも広がる空! そして遥か向こうまで一ッッ直線に伸びる道路!
 これはもう神様がブッ飛ばせって言ってるねッ! 間違いなく!」
叫ばれた当人は悪びれもせずこう言い、片手ハンドルのままアクセル全開である。
「んな神様いねぇ! 大体何キロ出してんだよ!」
「よみは大げさなんだって。80キロ位しか出てないじゃん。やっぱ古い車だとこん位なのかねぇ?」
確かに、今乗っているビートルのオープンは旧車といえば旧車だが。問題はそういう事ではなく。
が、そこで暦ははたと気付く。そうか、こいつ・・・。
「あ、あのなぁ智。このメーターは『マイル』表示なんだ。って事は今は80マイル、だよな? 
 それを『キロ』に換算すると・・・え、ひ・・・160キロ!?」
暗算をする暦の顔から血の気が引く。
「あ、そんな出てたんだ? へー。」
特に気にする様子も、アクセルを緩める気配すらも無く、智はラフな運転姿勢のままだ。
「へー。じゃないッ! 頼む、マジで運転代われ。」
「ダーイジョーブデース! こんな所じゃ事故りようも無いって!」
「そういう問題じゃねぇ────ッ!」

・・・

「・・・ったく、お前はさぁ・・・。」
どうにかこうにか運転を代わった暦は、心なしか少しやつれた顔で隣を見やる。
実は先刻、事故りようが無いと言ったそばからハンドル操作を誤り(直線道路でどう誤るのか疑問ではあるが)、
隣接していた小麦畑で派手にスピンしたのである。幸い、車も本人達も大事は無かったが。
「へへ・・・まぁ、いーじゃん。無事だし。」
相変わらずこの暴走女の辞書に『反省』という言葉は無い様だ。
「良くねーよ。車押し出すのどれだけ時間食ったか。おかげで日も暮れちゃったじゃないか。」
「そんな、どーせ観光は明日からなんだしさー。今日の分は明日取り返せばいいじゃん!」
そういう事を言ってるんじゃ──と言いかけた矢先。
「あっ、ちょっ、ちょっと停めて! 今何かあったよ? ほら、右側!」
気勢を削がれた暦だが、言われる通り車を停める。
今度は何を・・・と言い終わらない内に、智は車を降りてその『何か』のもとへ走って行く。仕方なしといった様子で、暦も後へ続く。
「コレは・・・」
「標識だな。ひしゃげて潰れてるけど。えっと・・・『ラクーンまで後5マイル』だってさ。もうすぐだな。夕食に間に合えばいいけど。」
「あ、やっぱそこなんだ?」
途端にニヤッとする智。
「な、う、うるさいな。ただ時間的にだな・・・」
「はーいはい。じゃぁよみちゃんが晩ゴハンに間に合う様に、あたしが運転して行きましょー。」
「それはダメだ。マジで。」
「えー。」
「えー。じゃない! ほら、行くぞ。」
言いながら、再び車に乗り込む二人。



彼女達はまだ、知らない。
知る由も無い。

210 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 22:05 ID:W6ANzVz.
続編キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!

211 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 22:27 ID:???
ラクーンシティって時点で展開がミエミエなんだが。

212 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 22:32 ID:???
ミエミエとかいうのは視点がずれてるような。

213 :しゅ :2004/07/10(土) 22:32 ID:LTXdRQQY
今度テレビでやるんで楽しみですw

214 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 22:46 ID:???
二人のやりとりはうまいしきちんと話の根幹ができあがってるみたいだけど、
ただ一つだけ。

80マイルは約128キロです。

215 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 23:38 ID:???
文書上手いなー。でも、このまんまだと……グロい展開にっ!?
よみのオッパイが齧られちゃうよ〜・゚・(ノД`)・゚・。

216 :名無しさんちゃうねん :2004/07/10(土) 23:57 ID:???
ん、ずれてる。
○○○が絡むのは見えてるけど、どういうふーに絡むのかは見えないでしょ。
せっかく良作がきたんだから変なこと言って作者のやる気削がんといて。

>>213
テレビ?

217 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 00:50 ID:???
ラクーンシティってなに?
なんで皆知ってるんだぁあぁーヽ(`д´)ノ

218 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 01:01 ID:???
>>217
〜〜って何?って思ったらその言葉でGoogle検索するのが基本。

219 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 01:09 ID:???
ラクーンシティと言ったらバイオハザードしかないだろ。
残酷ネタならグロまんがスレでやってくれ。

220 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 04:12 ID:???
バイスシティーならいいかな?

221 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 16:38 ID:Gtc9yu0I
いや、ゴッサムシティーだろう。

222 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 17:13 ID:???
どの辺からがグロ?
頭カチ割ったり内臓ぶち撒けても具体的な描写が無ければOK?
それとも血が出たらアウト?

223 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 17:17 ID:???
書き手の意図や文章表現に関係なく
読み手がグロいと思ったらグロ

224 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 21:53 ID:???
>>223
マジか?それってどんだけメルヘンな世界に住んでるんだよw
具体的な描写がなければOKなんじゃねーの?
バイオってグロの位置には属さないもんだと思ってたけど。
グロまんが大王のスレにいけばバイオのグロさなんて糞みたいなもんだろ
あそこはマジで恐い・・・・

225 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 23:01 ID:???
バイオハザードは十分グロテスクだと思うけどな。
それにバイオレンスとかも問題になりうるだろうし。

でも、智が遊園地のアトラクションみたいに
ゾンビをブチ殺していくコメディだったら結構面白いかもしれん。

226 :一発ネタ :2004/07/11(日) 23:04 ID:???
ちよ20歳の誕生日。
帰国した彼女を、高校時代の仲間達が祝う。

とも「ちよちゃん、20歳おめでとー!」
榊「……おめでとう」
神楽「あのちよちゃんも、もう成人か。早いもんだな」
よみ「これでもう子供だなんて言われないですむよな」
大阪「そうやなー。もう、年上やからって、大きい顔できへんなー」

ちよ「そんなことないですよー。私はまだ20歳だけど、みなさん四捨五入したら30じゃないですか」

そして5人に芽生える殺意。

END

227 :名無しさんちゃうねん :2004/07/11(日) 23:17 ID:???
>>226
ワラタ

228 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 00:38 ID:???
>>226 GOOD JOB !!
               ∩
               ( ⌒)      ∩_ _
              /,. ノ      i .,,E)
             ./ /"     / /"
   _n  グッジョブ!! ./ /_∧  / ノ'
  ( l    ∧_∧ / / ´∀`)/ / _∧     グッジョブ!!
   \ \ (´∀` )(       /( ´∀`)      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ   カレ | ̄      \    ( E)
       / オツ /   \   ヽフ チャソ / ヽ ヽ_//

229 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 04:44 ID:???
がちゃがちゃ言ってる人にこのss

ヴァイスシティー

ちよはとうとうエスコバル国際空港に降り立った。
「このへんは治安が悪いらしいから気を付けなきゃ」
忠吉さんと荷物を受け取って、アメリカの知り合い
を探してロビーへ。
「わんわん!」
「どうしたんですか?」
「わん、うぅぅぅーー」
忠吉さんがこんなにするのはよっぽどのことです。
「わかりました。逃げましょう」
私たちは逃げ出しました。

「忠吉さん、どうする? 」



しまった、空港のミッションで巻き込まれて殺すつもりだったのに。
ごめんなさい。書き捨てで。

ちよちゃん、殺せないよぉ。忠吉さんも。

230 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 12:24 ID:???
がちゃがちゃ言ってる人にこのss

パラダイスシティー

アメリカにいるちよちゃんのある日の日記。

「○月△日 火曜日。

 私がいる町はアメリカの片田舎ですけど,
今日,有名な役者さんのサイン会がショッピングセンターであるというので,
忠吉さんと一緒に見に行きました。
その役者さんは子役時代からのベテランさんだそうですけど,
背はわたしよりちっちゃくてかわいかったです。
10人くらいかな?結構ならんでいましたけど,
私もちゃんとサインをいただけました。

 サイン会のついでにお買い物をしようとショッピング街の方へ歩いたら,
なにやら会場に手投げ弾が投げ込まれたみたいです,
大きなどかーん!という音が聞こえました。
さすがアメリカです,大阪さんの言ってたとおり,
ちょっと間違えれば殺されちゃうかもしれませんでした。
それでも,何事も無かったかのようにサイン会は続けられてました。すごいです!」

231 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 12:38 ID:???
>>226
ちよ「あー冗談ですよー。アメリカンジョークですよー」

232 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 22:09 ID:9EaXRx1c
違和感。
暦が街に入って最初に感じたものはそれだった。
外国の街になど来た事が無いから、こちらではこういう雰囲気の所も有るのかも知れない、
などという考えが頭を過ぎったが、それにしては何かが不自然だ。
何か、嫌な感覚のするものが身を包む。
それは智も同様であるらしく、不安げに周りを見渡している。
「ねぇ・・・」
不安そうな表情のまま、智が口を開く。
「なんか、静かだね・・・。人がいない・・・。」

そう。違和感の一つはそれなのだ。
夜中、というにはまだあまりに早い時間だし、第一、週末である。いくら片田舎の街とはいえ、人が全く見当たらないというのは。
にも関わらず、街灯やショーウィンドウのアップライト、ビルの照明などは煌々と灯っている。
「・・・お祭りとかかな? なんかもうスッゴイ大きいヤツで、みんなそこに行ってるとか・・・。」
得体の知れぬ不安を払拭したいのか、智は楽観的な話を振る。
「そんな雰囲気じゃないだろう・・・。静か過ぎるよ。それにお祭りだったら、逆にみんな通りに出たりするんじゃないか?」
智の感じている不安は解るし、そういう見方に逃げてしまいたい気もするが、
周囲の重く、何処かしら澱んでいる様な空気はそうさせてくれない。
辺りを見ても、有るのは何も答えぬ街の明りと、闇。

「あ! あそこ、ほら!」
不意に智が沈黙を破った。指を差す先にあるのは────交差点の向こう。ガソリンスタンドだ。
「見えない? 人いるじゃん! ほら、アレの陰!」
言われる通り、暦もスタンドの方を見つめる。
ポンプと給油装置の陰になって全体は見えないが、確かにその後ろで屈み込んで何かをしている人がいる。
若干の安堵。店員だろうか。
「んっだよもー・・・。ちょっと行って聞いてくるよ。今日何の日なのかとか。」
そう言って車を降りようとする智を、暦は片手で制す。
「待て待て、お前英語喋れないだろ。私が行くよ。」
「・・・あ。」
不気味な緊張から解放されたせいか、肝心な所が抜けている智。
そんな相方を見てクスリと笑うと、暦は車を降りてスタンドへと向かう。

「えと・・・Excuse me・・・?」
言いかけて、暦は口をつぐんだ。
臭い。何だ、これは。酷い臭いだ。
思わず給油装置の前で立ち止まり、鼻と口を手で覆う。
「あの・・・」
言葉を繋ごうとしたその時、屈んだまま『何か』を続けていた『人』が、ゆっくりと上体を起こした。

233 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 23:24 ID:???
おお、続きが来た。
期待しとります、頑張ってください。

234 :名無しさんちゃうねん :2004/07/12(月) 23:28 ID:???
((((((゚Д゚;)))))))なんとなくコワイ

235 :名無しさんちゃうねん :2004/07/13(火) 00:06 ID:???
だが>>232
GOOD JOB !!
               ∩
               ( ⌒)      ∩_ _
              /,. ノ      i .,,E)
             ./ /"     / /"
   _n  グッジョブ!! ./ /_∧  / ノ'
  ( l    ∧_∧ / / ´∀`)/ / _∧     グッジョブ!!
   \ \ (´∀` )(       /( ´∀`)      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ   カレ | ̄      \    ( E)
       / オツ /   \   ヽフ チャソ / ヽ ヽ_//

236 :名無しさんちゃうねん :2004/07/13(火) 00:53 ID:???
(終わり)とか(続く)とか書けよ
書き込んでいいのか迷うだろ

237 :名無しさんちゃうねん :2004/07/13(火) 01:05 ID:???
>>232
いいなぁ。緊迫感がうまく演出されてる。

238 :名無しさんちゃうねん :2004/07/13(火) 18:42 ID:b5OrmSvQ
以下(>239)の投稿は、読む人によっては嫌悪を感じる内容かも知れません。
ダメな人は超スルー。
おながいします。

239 :名無しさんちゃうねん :2004/07/13(火) 18:44 ID:b5OrmSvQ
『人』が立ち上がり、体をこちらへ向けた。強くなる臭い。
「・・・っ!」
暦は目を見開き、声にならない声を上げる。
顔や、袖口から見える手は腐肉の様に変色し、そこかしこがただれ、めくれている。
目は油膜を張った様に濁り、口から何か赤いものが垂れ出ている。
一瞬、何かの冗談なのかと思った。質の悪い。何の為に。
しかしその考えは、暦が辛うじて視線を泳がせた先、『人』が手にしている物を見る事によって打ち消された。
───人間の、腕。
御丁寧に切り口をこちらに向けて。
そして、その下方。ポンプの脇。

肉塊。

恐らくは、人間だったであろう物。

暦の思考はそこで止まった。彼女の、状況に対する『理解の範囲』を超えたのだ。
もう、解らない。何が。どうして?
『人』は持っていた物を取り落とした。どちゃっ、という嫌な音がする。
反応して、暦の肩がびくっ、と微かに震える。
だが、それ以上の行動は出来なかった。動かない。体が。
瞳の無い濁った目で暦を凝視すると、『人』は緩慢な動きで近づき始める。
やばい。
頭のどこかで、警鐘が鳴る。

このままここに居るのは、やばい。

解っている。だが。
体は竦んだまま。
『人』は、スロウではあるが確実に近づいて来ている。
駄目だ。もうすぐ、触れる。その赤黒く、腐った様な腕が────。
その刹那。

「よみーっ! 何か解ったー?」
暦を引き戻したのは、他ならぬ智の声だった。

240 :名無しさんちゃうねん :2004/07/13(火) 23:06 ID:???
コエーーー!!!
けど
GOOD JOB !!
               ∩
               ( ⌒)      ∩_ _
              /,. ノ      i .,,E)
             ./ /"     / /"
   _n  グッジョブ!! ./ /_∧  / ノ'
  ( l    ∧_∧ / / ´∀`)/ / _∧     グッジョブ!!
   \ \ (´∀` )(       /( ´∀`)      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ   カレ | ̄      \    ( E)
       / オツ /   \   ヽフ チャソ / ヽ ヽ_//

241 :小麦 ◆UDON. :2004/07/14(水) 00:08 ID:???
ID:b5OrmSvQ様
お疲れ様です。感想は完結するまで控えますが、楽しみにしております。

ところで、題名と通しNo.をつけてもらえませんか?
間に別レスが入ると分かりづらいですし、
もう一度読みたいときに探すのが手間ですので。

242 :名無しさんちゃうねん :2004/07/14(水) 00:39 ID:???
>>241
超了解。
御指摘頂戴致し升。

タイトルは「(SIC)」。
以後、名前欄に入れ升。

現時点では、
>>204 序章
>>209 ♯1(1)
>>232 〃 (2)
>>239 〃 (3)
であり升。

愚作に目を通して下さる方々。多謝でアリマス。

でもクソ長くなりそうな事は内緒です。

243 :(SIC) ◆0eFuOEl8Rc :2004/07/14(水) 19:07 ID:5ZJ3E8JY
我に返り、たじろぎながらも後ずさる暦。
再始動する思考。
千切れた人間の腕。地面に有る赤い塊。酷い臭い。こいつは何だ。
智の声がした。来ている? こっちに? 車を降りて?

駄目だ。来ちゃ駄目だ。こいつは。

目は『人』から逸らさず、首だけ振り返りつつ智へ知らせようとする。
暦自身が陰になってしまい、智の位置からこちらの状況は見えていない。
「智ッ! こっちに・・・ッ!?」
言いかけて、暦は再び驚愕する。
『人』に固定した視線の向こう、「Rest & Car pit」とロゴの書かれた硝子張りの建物の中。

────『人』が『群れて』いる。

目の前に居るのと同じ様に、ただれた体と、瞳の無い目を持つ『人』が。
今まで気付かなかったのか、視界の外からそこに入って来たのか。解らない。
そして視線の先の事態を信じたくない。体が僅かに震え始める。

「よーみー! どーしたー?」
さっきよりも近くで聞こえる声。
そうだ。智。
「く、来るなッ! 戻れッ!」
再び収拾のつかなくなり始めた思考を無理矢理捨て、暦は叫んだ。

『人』が一瞬動きを止める。
建物の中の『人』達が、一斉にこちらを向く。
暦の背筋に、ぞわりと何かが走る。
「智ッ! 車に戻れッ! 早く!」
もう一度叫び、駆け出す暦。

逃げなければ。早く。
ビリビリと感覚がそう告げる。

244 :(SIC) :2004/07/14(水) 19:11 ID:5ZJ3E8JY
#1 (4)

我に返り、たじろぎながらも後ずさる暦。
再始動する思考。
千切れた人間の腕。地面に有る赤い塊。酷い臭い。こいつは何だ。
智の声がした。来ている? こっちに? 車を降りて?

駄目だ。来ちゃ駄目だ。こいつは。

目は『人』から逸らさず、首だけ振り返りつつ智へ知らせようとする。
暦自身が陰になってしまい、智の位置からこちらの状況は見えていない。
「智ッ! こっちに・・・ッ!?」
言いかけて、暦は再び驚愕する。
『人』に固定した視線の向こう、「Rest & Car pit」とロゴの書かれた硝子張りの建物の中。

────『人』が『群れて』いる。

目の前に居るのと同じ様に、ただれた体と、瞳の無い目を持つ『人』が。
今まで気付かなかったのか、視界の外からそこに入って来たのか。解らない。
そして視線の先の事態を信じたくない。体が僅かに震え始める。

「よーみー! どーしたー?」
さっきよりも近くで聞こえる声。
そうだ。智。
「く、来るなッ! 戻れッ!」
再び収拾のつかなくなり始めた思考を無理矢理捨て、暦は叫んだ。

『人』が一瞬動きを止める。
建物の中の『人』達が、一斉にこちらを向く。
暦の背筋に、ぞわりと何かが走る。
「智ッ! 車に戻れッ! 早く!」
もう一度叫び、駆け出す暦。

逃げなければ。早く。
ビリビリと感覚がそう告げる。

245 :名無しさんちゃうねん :2004/07/14(水) 19:12 ID:5ZJ3E8JY
スイマセン。
チンコ切ります。

246 :名無しさんちゃうねん :2004/07/15(木) 13:24 ID:???
連投キター!

247 :名無しさんちゃうねん :2004/07/15(木) 21:20 ID:???
               ∩
               ( ⌒)      ∩_ _
              /,. ノ      i .,,E)
             ./ /"     / /"
   _n   ガンガレ!! ./ /_∧  / ノ'
  ( l    ∧_∧ / / ´∀`)/ / _∧     ガンガレ!!
   \ \ (´∀` )(       /( ´∀`)      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ   ガッ| ̄      \    ( E)
       / ガン /   \   ヽフ ッテ / ヽ ヽ_//

248 :(SIC) :2004/07/16(金) 00:06 ID:chszZmi.
#1 (5)

智は道路を挟んだ向こう側で立ち止まっている。
戻れ、と言われてきょとんとしている様だ。
「どしたの? 何か・・・」
当然の質問を投げかけられるが、答えている暇は無い。
智が言い終わらないうちに、手を引っ掴んで強引に走り出させる。
「わっ! ちょっ・・・」
「いいから! 来い!」
話は後だ。とにかく、ここから離れなければ。
自然と視線は車へ向く。交差点の手前。点けっ放しにしていたヘッドライトが僅かな安堵をもたらす。
旧車のワーゲンと、人影。────人影?
暦の足が止まる。
そしてその人影が何であるかを認識した瞬間。
その顔には絶望とも驚愕とも、恐怖ともいえる表情が浮かぶ。
一人や二人ではない。
緩慢な動きと、街灯に照らされたその姿。
同じだ。
「え・・・何・・・」
訳の解らないままだった智の顔も、暦の視線を追った先に有るものを見、みるみる恐怖を湛えたものへと変わる。
車には近づけない。ここから離れられる、唯一とも言える術であるのに。
どうする、と周りを見渡す暦はしかし、更なる絶望へと突き落される。

『人』がそこかしこから出て来ているのだ。皆一様に、こちらへ向かって。
路地から、建物の中から、街の明りが照らし切れない、夜の闇の中から。
いつの間に。

こわい。こわい。こわい。
解らない。どいつもこいつも。
一体何が。

また恐怖に溺れそうになったその瞬間、硝子の割れる派手な音が背後から聞こえた。
びくりと体を震わせ、振り返る。
ガソリンスタンドの『群れ』が出て来ている。

「な・・・あ・・・」
引き起こる事態に、智は混乱しかかっている。
このままではまずい。どこでもいい、逃げなければ。
こわい。こわいけれど。
「智ッ!」
「え、あ・・・何・・・?」
「走るぞ! 離すな!」
掴んだままだった智の手を強く握り直すと、暦は『人』の湧いていない路地目がけて走り出した。

249 :名無しさんちゃうねん :2004/07/16(金) 02:01 ID:???
>>(SIC)の作者様
おっしゃっていた通り、かなりの長編に
なりそうですね。
でも今のところ、だれた展開と言うか文章に
なってないのが素晴らしいと思います。
このままのテンションで突っ走ってください。
題名(SIC)の意味するところが私にはまだ解らない
のですが、変なところでばらさずに然るべき時に
発表してください。と私は望みます。

250 :名無しさんちゃうねん :2004/07/16(金) 23:13 ID:???
あ〜SIC氏ってば、別のスレでとも×よみのエロエロSS投下中の人
と同一人物だろ〜?隠したってわかるんだぞぅ。

251 :名無しさんちゃうねん :2004/07/16(金) 23:15 ID:???
>>250
つーか隠してないしw

252 :(SIC) :2004/07/17(土) 20:32 ID:???
>249
こういうとちょっと心苦しいですが、誤解されたままなのもアレなので一応。

タイトルに意味は無いです。ばらすばらさないとかでなくて。
サブタイも然り。それっぽいアレをアレしてアレなだけなのです。
深いとこなんて全然無いんです。
スイマセン。
チンコ切ります。

>250 251
本当は隠そうとオモタのです。
でも自爆です。
チンコ切ります。

253 :名無しさんちゃうねん :2004/07/18(日) 14:31 ID:???
切りすぎw

254 :名無しさんちゃうねん :2004/07/18(日) 14:55 ID:???
何本あるんだ、藻前のチンコわ(w

255 :名無しさんちゃうねん :2004/07/19(月) 14:18 ID:Cirbiiy2
>>254
それはあたかもとかげのしつぽのやうに・・・

256 :(SIC) :2004/07/19(月) 18:40 ID:556LULJY
#2 Everything ends. (1)

路地に一歩踏み込んだ途端、二人の足はまたもや止まる事を余儀無くされる。

まばらに転がる死体。壁に突っ込んで潰れた車。辺りにぶち撒けられた血糊。
「ひっ・・・!」
智は思わず暦の腕にしがみつく。
一体何だというのだ。あいつらにしろ、この光景にしろ。
異常だ。
ここは、異常だ。
他に形容のしようが無い。
愕然としながらも、暦はちらりと後ろを振り返る。
だめだ。もう引き返す事も出来ない。
ここを行くしか、ない。

意を決して再び走り出す。

次々と目に飛び込んで来る死体や、蠢く『人』。
街の構造が入り組んでいる上、そこここで事故車や崩れた壁が行く手を阻む。
さしずめ(まさに、と言うべきか)、『地獄の迷路』だ。
どこか、安全な場所は。一時的でも良いから、身を隠せる場所は。
まさかこのままずっと走り続ける訳にもいかない。
ないか。どこかに。
物陰や、潰れた車の中などでは駄目だ。
目を走らせつつ、何個目かの角を曲がった左側。
果たしてそれは有った。

『Lucy´s Cafe』と書かれた看板の出された、小さな店。
入り口は開け放たれている。周りに『人』も見えない。
「あそこだ! 入るぞ!」
振り向かないまま智に言い放つ。
「・・・はぁッ・・・は、ぁ・・・っ?」
智の息が上がってきている。とにかく、入るしかない。落ち着かせなければ。
入り口へ飛び込む。中にも『人』は居ない。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
膝に手をつき、肩で大きく息をする。智はその場にへたり込んでしまった。
が、ほっとしたのも束の間。暦ははっとした様に顔を上げると、踵を返して両開きの扉を勢い良く閉める。
そのまま、そこらに散乱していた椅子を掴み、乱暴に扉の前へ積み上げる。
更に店内を見回し────有った。
カウンターを飛び越え、壁に取り付けられたスイッチ盤を手当たり次第に押した。
ふっ、と訪れる闇。
「ひゃっ!」
智が軽い悲鳴を上げる。
「・・・大丈夫だ。明りを消しただけ。」
そう言ってカウンターを跨ぎ、暦は据付けられたスツールに腰を下ろす。
「ふぅっ・・・。」

ようやくの安堵。
訪れる静寂。

257 :名無しさんちゃうねん :2004/07/19(月) 20:57 ID:ccBWblFI
>>256
「グロまんが」の方で書きなさい

258 :名無しさんちゃうねん :2004/07/19(月) 21:11 ID:???
内臓がどうとか
目が飛び出してどうとか書くんならイヤだけど
まぁいまのままならいいんじゃない?
実際面白いしね

259 :名無しさんちゃうねん :2004/07/19(月) 21:36 ID:???
>>256
せめてsageで書き込んだほうがいいと思う。目立ちたいのはわかるけどさ。

>>258
自分がそう思っていても、みんなが同じように思っているとは限らない。

260 :(SIC) :2004/07/19(月) 22:22 ID:???
>256を投稿する前に、内容が読み手を選ぶものであるという注釈を
書き込まなかった事を、深くお詫び致します。
申し訳有りませんでした。

以降、投稿の際には十分注意し、>239や>256の様な、
見る方によっては嫌悪を感じる内容である際は、
事前に注釈を書き込み、sageで投稿する様に致します。

願わくば、このスレッドに投稿を続けることを御了承頂きたく思います。

261 :名無しさんちゃうねん :2004/07/19(月) 23:37 ID:???
>>259
や、グロまんがの方には俺は行って欲しくないな・・・・
あそこはレベルが違うもの。とても今の内容と同じ系列としては扱えないよ・・・・
そんでもって俺的には新作投下の時はあげてほしいと思うけど、メルヘンな方々もいることだし
まあ、sageで書けというのは仕方ないと思う。しかし、「目立ちたいのはわかるけど」とか職人を煽るような真似は辞めて欲しい。
続きを心待ちにしている人もいるってことをお忘れなく。

262 :【滝野家のイヌの話 1/5】 :2004/07/20(火) 00:13 ID:???
 おーい、ちよちゃーん!
 やっほー、何だ、忠吉の散歩か?
 よぉ、忠吉。久しぶり。元気にしてたか? ……って、何とか言えよ! お前
はいつも愛想が無いなあ。まあ、いいや。

 そういやさあ、ちよちゃん。うちのペットの話はしたことあったっけ? ちよ
ちゃんも、何度も会ってるよね。
 ペットって言うよりも、もう我が滝野家の一員だな。滝野智&クロ。兄弟みた
いなもんだよ。っていうか、うちの場合、ちょっとペットとしての分をわきまえ
てないってとこがあるかもな。やたら生意気で、こっちのことを主人とも思って
ないようなとこもあってさー。ほら、イヌってさ、グループ内の上下関係に敏感
じゃん。相手がイヌだろうと人間だろうと。わかるんだよ、態度を見てると。あ
いつが何を考えてるか。
 忠吉ぃ。お前も、ちよちゃんなんかより、ずっと強いだろう。立場逆転も夢じ
ゃないんじゃないか? ……あはは。冗談だよ冗談。

263 :【滝野家のイヌの話 2/5】 :2004/07/20(火) 00:14 ID:???
 うちじゃ、学校から帰ると散歩の時間なんだ。
「クロー、散歩に行くぞー!」
 以前はそれで大はしゃぎで駆けてきたもんだけど。最近じゃ、少し面倒くさそ
うな態度を見せやがるんだぜ。そのくせ、いざ、散歩に出るとおおはしゃぎでさ。
そりゃ気合入った散歩だよ。まさに真剣勝負。向こうが全力疾走して引きづられ
るかと思えば、こっちがダッシュして暴走することも……ああ、もちろんいつも
じゃないよ、いつもじゃ。普段は、ちゃんと一緒に散歩してるよ。
 まったく、本当は一緒に散歩に行くのが楽しくてしょうがないくせに。まあ、
そういうふうに素直にならないところも、可愛いと言っちゃ可愛いんだけどさ。

 近頃はあいつ、ひとりで勝手に遊びに行っちゃうことも多いんだけどね。ちゃ
んと家には帰って来るから、心配はしないんだけど。

264 :【滝野家のイヌの話 3/5】 :2004/07/20(火) 00:14 ID:???
 あいつが滝野家に来た時のことは、今でもハッキリ覚えてるよ……なーんて言
えると格好いいんだけどさー。実は、よく覚えてない。あははは。だって、もう
我が家の一員であることがあたりまえみたいで、ずーっと前から一緒にいるよう
な気がするから。向こうもきっと、同じこと考えてるんじゃないかな。
 それで、さっきも言ったけど。主人に従おうって気が全く見えないのが、ちょ
っと困りもの。しつけとか食事の世話とかは、みんなお母さんがやってくれてる
から、お母さんには行儀いいんだよ。でも私はもう友達っていうか、それ以下っ
て言うか、見下していると言うか……下手すると、自分の方が御主人様だとか勘
違いしてるかもしれないぞ。
 なあ、ちよちゃん、許せねーと思わない?

 でも、やっぱり生意気でも可愛いもんだよな。困ってるとこ見ると、助けてや
りたくなるもの。
 あいつが野良犬に絡まれてたのを見た時は、思わず庇ってやったこともあった
よ。いや、もうその時は無我夢中でさー。気がついたら飛び出してたの。今から
思うと、よくあんな勇気が出たもんだ。逆に、最近は、こっちが近所のカラスに
いじめられてたのを、助けてもらったこともあったりするけどね。
 ……あ、いや。ガラにも無いこと話しちゃったな。

265 :【滝野家のイヌの話 4/5】 :2004/07/20(火) 00:14 ID:???
 え、何? ちよちゃん。何か言いたそうだね。

「クロは、本当にいつも元気ですねー。やっぱり、ともちゃんに似たのかな」

 おいおい、ちよちゃん。そういう突っ込みを入れるところじゃないでしょ。私の
話、聞いてないの?
 もしかして、言葉が通じてないのかな? それじゃ、さっきから延々と喋ってた
私が馬鹿みたいじゃないか。

「おおーーい! クロー!! (……ぜー、はー、ぜー、はー)」

 ……あ、ともちゃんだ。
「ともちゃーん。クロがこっちに逃げて来てますよー!」
「(ぜー、はー……)あー、ちよちゃん。ありがとう……」
 息を切らせてフラフラになりながら、ともちゃんは私たちのところに駆け寄っ
てきた。
 ちよちゃんは、私の首輪のヒモをともちゃんに手渡して、彼女に言う。
「ともちゃん、ダメですよ。散歩の時は、ちゃんとヒモを持ってでないと」

266 :【滝野家のイヌの話 5/5】 :2004/07/20(火) 00:15 ID:???
「いや、わかってんだけどさ、こいつが急に走り出すから、ついうっかり離しち
ゃって……この馬鹿イヌが!」
 なんだと、この馬鹿人間が!
「何ぃー、言ったなこいつ!」
 言い返すともちゃんに、ちよちゃんが尋ねる。
「ともちゃん、言葉わかるの?」
「そりゃあ、わかるさ。長いつきあいだもの。こいつ今『この馬鹿人間が!』と
か言ったに決まってる。この馬鹿クロ!」
 やかましい。ペットである身をわきまえろ、この馬鹿とも! もう散歩に連れ
て行ってやんないぞ。
「そうか、そっちがその気なら、私にも考えがあるぞ。私を御主人様として認め
ないなら、エサは抜きだー!」
 そんなのあるか! お母さんに言いつけてやる!!

「……忠吉さん。あの2人、やっぱり仲がいいんですねえ。さ、私たちは行きま
しょうか」


 ともちゃんは、楽しい奴だ。こいつが家族にいて、よかったと思う。
 ただ、少し贅沢を言えば、少しは主人であるこの私・滝野クロに敬意を払って
欲しいものだ。

滝野家のイヌの(語る、滝野智の)話・終

267 :名無しさんちゃうねん :2004/07/20(火) 04:22 ID:???
>>262-266
ともちゃん視点の話だと思わせつつ、実はクロが主役だったというオチがいいですねー。
実際、飼い犬が言うことを聞かないというのは
自分のほうが偉いと思っているからだ、と聞いたことがあります。
ちよちゃんは忠吉さんにケーキをあげない、などきちんとしつけをしていましたが
ともちゃんはしつけというより、ただ遊んでいるだけなんだろうなと感じますね。

268 :(SIC) :2004/07/20(火) 18:38 ID:???
#2 (2)

これから、どうしよう。
朝になるまで待つ? 待ってどうなる? 状況が変わる保証なんて無い。
いや、それよりも。ここで一体何が起こったのか。
あの『人』達は何だ? あの悲惨な光景は何だ? もう、この街全部がそうなのか?
こんなのはまるで、昔観たB級映画の様だ。
モンスターが溢れ、人々は逃げ惑い、食われる。
自分達も? 嫌だ、そんなのは・・・。

落ち着いて来れば、今までの状況に対する疑問が次々と頭の中に溢れてくる。
暦が思考と疑問の渦に飲み込まれそうになったその時。

「・・・ひっ、く・・・うっ・・・」
智が泣いている。
恐怖と混乱が、今になって押し寄せて来た様だ。
無理もない。あれだけのものを見せられて、何も感じない方がどうかしている。
そう考えると、意外に冷静な自分は、もうどこかが麻痺してしまっているのか。
などと思いながら、暦は智の向かいに座り込む。
取り敢えず、考えるのは後回しだ。
智をなだめてやらなければ。

「どうした?」
出来るだけ穏やかな声を掛けてやる。
「っ・・・こわっ・・いよ・・・何っ、あれっ・・・」
しゃくり上げながら、ぽろぽろと涙をこぼす智。
「大丈夫。ここまでは来ないよ。入り口も塞いだし、電気も消してある。外からは解らない。」
即席に築いたバリケードなど、万一押し寄せられでもしたらすぐに破られてしまうだろうが、そんなことは口に出さない。
まずは安心させてやる事が先決だ。
「ひっぁ・・・うあぁ・・っ・・・!」
暦の胸にうずくまり、智は本格的に泣き出してしまった。
背中に腕を回し、優しく撫でてやる。
「怖かったよな? でも、もう大丈夫。大丈夫だから・・・。」
「・・・ふぇっ・・・うん・・・うん・・・」
一段落するまで抱いていてやろう。

269 :名無しさんちゃうねん :2004/07/20(火) 21:17 ID:???
おー、待ってました!
雰囲気がちとアレっぽくなってるような気がするけどw
こっからどういう方向へ向かっていくかはわからないけど続き待ってます。

270 :名無しさんちゃうねん :2004/07/20(火) 21:33 ID:???
ちょっと百合っぽいよn(ウワーオマエラナニヲスルー
ね?d(・∀・)

271 :名無しさんちゃうねん :2004/07/21(水) 04:47 ID:???
(SIC)さんへ。
老婆心ながら、トリップ付けられた方が良いと思いますよ。
なりすましが出現しないとも限らないし。
現に私が>>268の続きを百合路線で書き殴ってやろうかと
一瞬思いましたから。
今後の展開にも期待しています。

272 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:24 ID:um9lRKYk
梅雨明け夏日

 
 水曜日、学校の水泳部の帰り、ウォークマンを聞きながら
愛車のクロスバイクを家に向かい走らせていた。
いつもと同じ、MDの三曲目に入ったところで我が家に着く、
誰もいない部屋の明かりを付けカバンをフックにかけ、シャツを脱ぎ、
ジーンズに着替えて夕食の買い物に出かける。
親からの仕送りが着たばかりなので少し豪勢に行こうと、
コンビニではなく近くのスーパーへと向かった。
計算外の安売りにより、数日分の買い物をしてしまったが、
いい買い物の部類に入ったのでまあよしとしよう。
 家の近くの曲がり角に差し掛かったとき
見覚えのある制服と後姿を目にした・・・・・・特徴的なクセッ毛、
直視するのが恥ずかしくなるほどのスタイル、同じ水泳部の神楽さんだ。

 「神楽さん!」
名前を呼ぶときょろきょろしていた彼女は
ビクッとしてこちらを向いた、いつもの曇りない笑顔ではなく、
どこか焦って、本心を誤魔化そうとしている笑顔で。

 彼女は隠し事をするのが苦手だ、部活で顧問の黒沢先生が
熱で倒れ、偶然居合わせた神楽に、みんなに心配かけないようにと
急な用事で帰ったと嘘の連絡を伝言されたときも、口では言わなかったが
どう鈍い奴が見ても何かあったと解るような雰囲気を体から発していた、
それでいて、彼女なりに相手を気遣い、必死に隠そうとする行動が
とても可愛らしく好感が持てた。

273 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:26 ID:um9lRKYk
 三年間も一緒の部活だと余計に解ってしまう
 「よう!・・・・・○○・・」
言葉の最初と最後があからさまに勢いが違う
「家こっちだっけ?寄り道でもしたの?」
「いや・・・そういうわけじゃないんだけど・・・○○は?」
目をそらし、不自然に頭を掻きながらの返答に
多少の違和感を覚えるも、大事でもなさそうなので
深く干渉しないようにした。
「ん?別に、夕食の買い物、家そこだから」と言い終るか
終わらないかで
「ああ!そうかあ!そうだった!」
「そうだった???・・・って?」
呆気にとられているとハッとして。
「いやいやなんでもないですよ?」
手をブンブン振って大げさなリアクションをとる
「・・・・・・・・・じゃあ・・・気をつけて」
あからさまに可笑しな空気を回避すべく、そういい残すと
さっさと退散した・・・・・・・・・・・妙な胸騒ぎがする・・・・
角を曲がり、家に入る前に一度振り返ると神楽さんが
ニコニコと手を振っている・・・・・・・・胸騒ぎが嫌な予感へ昇進した。

 ・・・・・・まあ・・・気にしないことにしよう。
家について少し経ったら急に雨が降ってきた、夕立だか普通雨だか
解らないけどとにかく凄い勢いだ。
神楽さんが気になったけど、ウチの窓からは見えないし、
駅も近いからまあいいか。
今日までだったレンタルのホラー映画を食後に見るため
セットしておき、買って来た飲み物を冷蔵庫に冷やしておく。
夕飯の準備でもしようと、買い物袋をガサゴソとやっていたら
ベルが鳴った・・・・・・・雷も一緒に・・・・

274 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:29 ID:um9lRKYk
ム〜・・・少し考えたが、即座に思い浮かんだ考えが
必ずしも当たるとも限るまい、と、ドアを開ける。
  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 第六感と言うか、話の流れというか、とにかくやるせない気持ちになった
案の定神楽さんがそこに立っている、そして顔を真っ赤にして言った。
「○○頼む!少し雨宿りさせてくれ!!」
・・・・雨足が更に強くなった。
 
 多少の抵抗はあったが少し考えてこの雨じゃ仕方ないので
とりあえず家に上げてタオルを渡した。
「サンキュー、マジで助かった!」
髪と顔を拭きながら顔を赤くして靴を脱いだ。
「あ〜、ずぶぬれじゃないか、風呂かしてやるから
入ってこいよ、風邪引くぞ」
「え・・・いいっていいって!」
考えてみれば男の家で風呂に入るって言うのは結構なものだ。
だがそのときの水の中に一回入ったみたいな彼女の
格好を見たらそんなこと気にしてる場合ではない。
「いいから、そこ入って右」
「え・・・・あ・・・ああ」
「服はハンガーにかけておけな、あと、その・・・し、下着とかは
しょうがないから洗濯機の最速ってボタン、そこ押すと
小さいものだと十五分くらいで洗濯乾燥してくれるから」
俺も口に出して恥ずかしかったが彼女もらしかった少し顔を赤らめて
「解った、ありがとうな」
背中でお礼を受けて脱衣所をあとにした。

275 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:29 ID:um9lRKYk
 考えてみればものすごい事をしているのかもしれない。
同級生の女子を一人暮らしの家に連れてきて(この場合は違うが)
風呂に入れているのだ。
・・・・・・・・・マズイ、別にこれといってまずくないけどマズイ。
とりあえず、着る服を探そう、下着姿はよくない・・・・・・・・
・・・だー!!クソ!
一瞬想像しそうになった、アブねえ。
洋服ダンスを漁って不自然ではないものを懸命に選ぶ。
考えてみれば男物なのだからどれだった自然ではないが。
黒いシャツとベルトつきのジーンズを取り、そこでミスに気付く。
脱衣所に置きに行かなければならない・・・・・・・・・・
これは結構大きな問題だ、先に渡しておくんだった・・
心から後悔したが、まあ仕方が無い。
代えの服を置いてくるだけだ、そう、それだけだ。
 入りなれているはずの脱衣所のドアがやけに神聖に感じる。
もちろん脱衣所と風呂場の間に扉はあるが、すりガラスだ。
まずここでノックが必要だろう。
コンコン「か、神楽さん、着替え適当に選んだからここに置いておく」
彼女もびっくりしたようだが意外と普通に
「ああ、悪いな」
作戦成功
つ、疲れた、これからどうなるんだ。

「出たぞーお風呂ごちそーさん!」
「・・・・・お疲れ」
「なんだよ〜○○、結構いい家に住んでるじゃん!」
服のチョイスはよかったみたいだ、少しストリート系だが彼女には似合っている
本人も(うわ〜、なんかかっこいいな!)と気に入ったようだ。
時間も時間だったので夕食を食べて行けと言って
一心不乱に雑念を捨てるべく料理に集中している俺を
横目に神楽さんは部屋を観察している。

276 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:30 ID:um9lRKYk
 
先日作ったビーフシチュー(寝かせてあとでと楽しみに取っておいたもの)
とアサリのパスタ、あとシーザーサラダとフランスパン。
一人暮らしには豪勢過ぎる・・・・絶えず手を動かしていたい
というのもあったが、女の子が来たということに対しての悲しい見栄だ。
まあ美味そうに出来たので合格。

神楽さんが部屋の探検を終えたのと同時に完成
ドンっとサラダボールを中央に置き
「あがりっ」
「うっわあ〜!すげえじゃん○○!料理得意なのかよー!
ウッまそう!」
「美味い物好きで一人暮らしだとこうなる」
「へえ〜スゲエなぁ、いいにおいがしたたからさ〜」
「味は保障しないぞ?口に合うかどうかわからんが
腹減ってんだろ遠慮なく食え」
「おう!いっただっきまーす!」

「マジで美味そうに食うな・・・」
「だってメッチャ美味いぜこれ!」
半分呆れていたが、この笑顔は料理人冥利に尽きる。
「ほれ、お代わりあるからそう慌てるな」
「あ・・・う、うん」
恥ずかしそうに手を止めるので、慌てて
「ま、まあ、俺も早食いなんだけどな、アスリートの悲しい性だ」
食事の手を早める
「だよな〜アタシもさ、よく榊やちよちゃんに注意されるんだけど
どうもクセでさ〜」
「体には良くないらしいがこうやって食うのも美味い」
「だよな〜!サッスガ、解ってんじゃん○○!」
慌てて食べてたのと肩をバンバン叩かれたので少しむせた。

277 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:31 ID:um9lRKYk

 優雅とは言えなかったが会話も弾んだので楽しかった。
二人でご馳走様を済ませる。
「デザートはスイカでいいか?」
「おう!やった!好物」
「そりゃ良かった」
神楽さんに洗い物をやってもらい僕はスイカを切った。
四分の一のスイカを二人で分けて食べながら 
「しかしさ〜ホントすげえよな○○は」
スイカをかじる涼しげな効果音を立てながら彼女が言う
「だからたいした事無いって、自然とこうなるもんだ」
「え〜でもアタシはこんなにテキパキ出来ないよ」
「そうでもないと思うぞ?神楽さん努力家だし、
何でも楽しんでやろうとするだろ?大事なのはそこだよ」
彼女は少しほうけたようだが、急に目をキラキラさせて
「○○!今いいこといった!その通りだ!
そ〜なんだよ、そこが大切なんだよ、よ〜しがんばるぞ!」
よく解らないが気合が入ったようだ。
 
 一息ついたのでふと聞いてみた
「ところでさ、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?」
「ん〜?、う〜ん」
「大体なんで家に帰らなかったんだ?」
一通り食べ終わってから話し始めた
「実は・・・・ちょっと進路の事で親ともめちゃってさ、ホラ、アタシ
勉強出来ないからさ親父も時期も時期だから焦っちゃってて」
「でも体育大学行くとか」
「うん、アタシはそうしたいんだけど、水泳だけでやっていけるかとか
だんだんアタシの水泳を馬鹿にするようなこと言い出してさ」
「あ〜」
「そんで、親父の頭が冷えるまで家を出てきたわけなんです」
「ふ〜ん」
「そしてどっかで時間つぶそうとしてたら雨が降ってくるだろ〜」
「天気予報見ないのかよ」
「う・・・・」

278 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:32 ID:um9lRKYk
彼女の勢いだけで行動するというパターンはだいぶ前から知っていたので、
まあ、呆れたというよりこれからどうするかと考えた。
「とりあえず親御さん両方ともめちゃったわけじゃないんだろ?
連絡とって帰ったほうがいいんじゃないか?」
「いや〜そうなんだけどさ〜」
「一人娘が出て行っちゃって雨も降ってるし心配してないわけ無いだろ、
ホレ、送っていってやるから連絡しとけ」
「う〜・・・」
しぶしぶと電話機に向かい家にかけた。
どうやら母親が出たらしい
「あ・・お母さん?・・・・うん友達の家・・・うん、ご馳走になった・・・・は?
・・ちょ、ちょっと・・・・へ?・・・え〜あ〜、うん・・・・いやいや大丈夫だけどさ
・・・・え〜・・・・だって・・・・解ったよ、じゃあ」ガチャン
 
 これ以上ないくらい事が思い通りに進まなかったのは
話を聞かなくてもよく解った。
恐る恐る聞く
「・・・・・・・・で・・・・どうだった?」
「・・・・・・・」
「神楽さ〜ん?」
・・・・・・・・・・・・・・パン!
その猫騙し(だと思った)に思わず目を瞑ってしまったが、
神楽さんは頭も下げていた。
「○○!!」
「は、ハイ!」
「泊めて!」
「・・・・・・・・・・!?」
雨はやむ気配がなかった。

279 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:33 ID:um9lRKYk
  
 時間が止まっていたが、先に沈黙を破ったのは僕だ。
「ちょ!まっ、だって」
日本語になっていなかった
「頼む!母さんにさ、言われたんだよ、
お父さん頭冷えるまで一晩かかりそうだからって
それに少し心配させてやりなさいって」
「だからって!・・・」
「頼むよ、ほかの友達の家行くのも恥ずかしいし
○○一人暮らしだろ?」
いや、俺が問題としているのはまさにそこなんだが
「だ〜か〜ら〜」
「それに○○なら安全だって友達も・・・」
「な!?」ガーン
「ぁ・・・ゴメン、ホラお前紳士だから!」
 確かに俺は女性に慣れていない、というか緊張する。
三年同じ部活だった神楽さんでやっと軽口が叩けるほどだ。
だがそれはビビッているだけでなく自分としては敬意みたいなものだ。
しかし水着姿を直視できないのも事実、そういわれても仕方がない。
「いや、い〜んだけどさ」
故意ではなくドデカイため息がでた
「あ〜ん、機嫌直せって、謝るからさあ!」
「いや別に機嫌損ねてないって、解ったよ
そういうことなら仕方がない、雨もやまないしな」
「マジで!?助かったよ〜本当にアリガトな!!」
「いやいいって、ただし条件がある、見たい番組があったら諦めろ
今日までに見なきゃいけない映画があるんだ」
「OKOK!別にないからいいって、じゃあ一緒に見ようぜ〜」
「ああ」
神楽さんはテンションが上がり、俺は下がった。
「ところで何見んの?」
「ん〜、これ」
「!!?」
「呪怨2〜」
「お・・・おう、見ようぜ!」
どうやら得意ではないらしい、ちょっとニヤリ
「では、上映中はお静かに」

280 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:33 ID:um9lRKYk

 やはり神楽はホラー映画が得意ではないらしい、
だが一宿の礼儀としてか好奇心か(おそらく後者だが)
隣に座っておとなしく見ている。
冒頭部分では普通だったが、だんだんと恐怖演出が
増えてくるにつれてしぐさが変わってきた。
普段からは想像しにくい可愛らしい短い悲鳴を上げたり、ビクッとしたり、
映画製作者の理想のリアクションを取る神楽さんを見ているのは
ある意味映画を見るよりも面白かった。
後半僕も熱中してしまったため気付かなかったが
いつの間にかシャツの袖をつかまれていた。
 上映終了
いつの間にか雨もやんでいた
「ふ〜」
とお互いにそろって種類の違うため息をついた。
少し残っていたお茶を飲み干し、神楽さんを見た。
何やらごしごしと顔をこすっている。
「神楽さん?」
「ん?ちょ、ちょっと待ったな?」
「はいはい」
泣くほどだったかな?
 片づけを済ましてDVDをケースに戻す。
「返してくるけど一緒に行くか?」
「行く」
意外なほど即答だった。
鍵をかけ、愛車を出す。
「めんどいから二人乗りで行こう」
「・・・・・・」
「お〜い」
「スッゲェ・・・・なにこれ!かっこいいじゃん!」
全く色々なものに興味を示すな
「ん?自転車好きなのか?」
「うん!今MTB買おうと思ってる」
「ほ〜、まあ明るいときにまたゆっくり見せてやるよ」
「マジ!?絶対だからな!」
「わ〜かったって、乗り心地は悪いだろうけど後ろ乗って」
「うん、失礼しま〜す」
「じゃ、出発

281 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:35 ID:um9lRKYk


「ほ〜流石に早いもんだなあ」
「う、うん」
「アタシが今乗ってる奴はギアもないからさあ、もう遅いの何の」
「う、うん」
「・・・・・どした?」
「・・・・・・・・・安全運転を心がけているから
そんなにしがみ付かなくていいよ・・・」
背中の感触で頭が真っ白になる
「!!・・・・・ゴ、ゴメン」
「い、いや謝ることじゃない」
空気が重くなって気まずくなってきた辺りでレンタルショップに着いた。
 スタンドを下ろして鍵をかける、顔を赤くした神楽さんがついて来る。
いずれにせよ気まずい、こちらから話題を出さねば
「す、少し見ていっていい?」
「あ、ああ、どうぞ」
返却し終えた後、新作の映画とCDを一通りチェックする、
神楽さんにお勧めの映画などを話して店を出る。
彼女は再び自転車を目にすると、よほど気に入ったらしく
見入っている、店の照明で明るく照らし出されているフォルムは
持ち主の俺でさえうっとりしてしまう。
「綺麗だなあ」
神楽さんが正直な感想を述べる
「一応洗車してるからね、帰りは乗ってみる?」
「え?、だって・・・いいのか?転びでもして傷つけたら」
「神楽さんなら大丈夫だろ、それに傷とかなら簡単に直せるから、
実は少し走りたいんだ、嫌ならいいけど」
「とんでもない!じゃあお言葉に甘えて」
「最初はなれないから気をつけてな」
「うん、やったぁ♪」
鍵をはずして簡単な説明をした。

282 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:35 ID:um9lRKYk
 
「ひゃー速ぇえ!」
二、三度曲がる練習をしたら家に向かう直線で思いっ切り飛ばした。
流石スポーツ万能、もうコツをつかんだらしい。
俺が走っている道を往復して楽しそうに走っている。
車の通りは少ないので危険は少ない。
 家に着いたらお互いに汗をかいていた。
「あ〜〜!最っ高!気分良かったー!」
「・・・・ぜ〜・・・、ぜ〜・・・・」
「おい〜大丈夫かよ○○〜」
やや不満そうに聞いてくるが、なかなか呼吸が整わない
「ちょ、ちょっと飛ばしすぎてませんでしたか?・・・」
先に家に着かれても彼女は鍵を持っていないし、
待たせるのもなんだったので必死についてきたのだ。
「あ〜・・・いや〜ちょっと楽しくってさ!」
「あ・・・そう・・」
車庫に自転車を戻し、家に入るとやっと落ち着いた。
「疲れた〜、寝るとこ作っとくから歯磨いてきなよ」
「悪いね」
「歯ブラシは下の戸棚に使い捨てのが入ってるから使って」
「解った〜」
さて、居間に予備の布団と毛布を用意する。
こういうときは殺風景で物がほとんど置いていないと
楽でいい。
僕はいつもの寝室で寝ればいい
高校生にこんな住処を与えてくれた叔父に感謝。
 神楽さんが戻ってきたので
「即席だから寝心地は悪いだろうけど我慢してくれな」
「いやいやとんでもない、ところで○○」
「ん?」
「この自転車の雑誌見ていい?」
「ああ、自由に見てくれ、俺は風呂〜」
「サンキュー」

283 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:37 ID:um9lRKYk
  
 風呂から上がった、いつもなら暑いのでトランクスと
Tシャツだが今日はそうもいかん。
ジーンズはいて寝るのはいささか窮屈だが我慢しよう。
「じゃあオヤスミな」
「うん、オヤスミ〜」
寝室にいってベッドに入る頃神楽さんが電気を消す音がした。
・・・・・・・目を瞑ってから意外と早く眠れたが、
感じた違和感に脳が再起動した。
時計を見るとまだ十一時回ったところだ。
時計から目を離し視線を泳がせているとありえないものを目にした。
・・・・・!!
なぜか布団の中に神楽さんがいて目があった。
恥ずかしそうに照れ笑う彼女にとりあえず聞いてみた
「な・・・・何をしている?」
「え?・・・い、いや・・・ハハ・・」
自分の布団であることを確認して
「ん〜〜っと・・・これは夢か?」
この質問は自分の頭がだいぶ混乱している事を示していた
「あのね!えっと・・・最初は大丈夫だったんだけど・・・
今日見た映画思い出しちゃったらなんかだんだん怖くなってきちゃって・・」
「・・・・・アンタ今年で何歳になる?・・・」
「し、仕方ないだろ!ホントはあ〜いうの苦手なんだから・・」
「ちがくてな?いくらなんでも男の布団に入ってくるなってこと!」
「・・・・・・」
「年頃の女の子が気軽にやっていいことじゃあるまい」
「・・・・・・・・・・」
「まったく、泊まりに来ただけで反則なのに布団に入ってくるってのはもう・・」
「・・・・・・・だって・・・」
「いいから、解ったからもう寝ろ、明日も学校だろうが、オヤスミ!」
「・・う・・うん」
神楽さんから反対方向を向いたもののなかなか眠れない
当たり前か、女の子とこんなに接近するのも珍しいのに
同じ布団で寝ているんだ。

284 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:38 ID:um9lRKYk
「・・・○○?・・・・・」
「・・・」答えなかった、しかし彼女は続けた
「・・・どこでも良かったわけじゃないよ?○○だったからなんだ」
「・・・・」
「アタシだって緊張したんだよ?男の人の家にいくのだって初めてだったんだから」
「・・・・・」
「実はな?さっき会った時本当は○○の家探してたんだ」
「・・・・・」確かに一回水泳部の打ち上げで家の前をみんなで通ったことがある
「でもどうしても思い出せなくて
諦めようとしたときに、会っちゃうんだもん、びっくりしたよ、それに安心もした」
「・・・・・・」
「寝てるのか?・・・いいや、聞いててくれ」
「・・・・」どうしようか物凄く悩んだ
「いきなり来ちゃってゴメンな?迷惑だったろ
でも、アタシもメッチャ参ってて・・・どうしても○○に会いたかったんだ、
アタシ・・・・・○○が好きだよ・・・」
これ以上狸寝入りしているのは男として恥じる
寝返りをして彼女の目を見つめた、
驚くほど近かったが不思議と慌てなかった。
一方彼女はびっくりして顔を真っ赤にした
「・・・ずりぃな・・・起きてたのかよ」
「ああ・・」
「・・・困らせちゃったな・・・忘れてくれ・・」
言葉をさえ切って言った
「無理だよ」
決意が決まると腹が据わる。
そんな気がしてたし解ってもいた、
しかし俺自身の小さな自尊心が認めるのを拒んでいたんだ。
その事に責任を取らなきゃいけない、彼女は心を隠さなかったのだから。
「俺も神楽さんが好きだ」

285 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:38 ID:um9lRKYk
「!?」
「ごめんな、俺鈍感だからさ、自分の感情も気付けなかったんだ
でも女子の前だと緊張しちゃう俺がなぜか神楽さんだと自然になれるんだ」
「・・・・・・」
「言葉にするのは難しいなあ、でもな?はっきり言える俺は神楽さんが大好きだ」
彼女の瞳から雫が浮かぶ
「・・・・ゴメン・・・嬉しいのに涙が・・」
「ああ」
「ホントはね、ダメだと思ったんだ、友達関係でしかいられないかなって・・」
「悪かったなあ、俺そういう態度とってたよな」
「いや、違うんだ・・・・なんか・・・一定の距離以上行けなくて」
「あ・・・いや・・ハハ・・俺も実は恥ずかしがってたんだ」
「うん、だから凄く嬉しいんだ」
その直後の行動は自分でも驚いた。
俺は言葉をさえぎるように自然に神楽に口づけをした、
とても自然に、静かに、そっと。
そんなに長い時間でもないキスだったが、
ゆっくり離してみると神楽はとても幸せそうに目を閉じていた。
「なんだか自分の中のつっかえが取れたみたいだよ」
「うん、ちょっとびっくりした」
「もう何も怖くない、君も俺と同じ事を想ってくれてるから」
「うん、うん・・」
「・・・ホラ・・もうこんなことも出来る」
目の前にいる涙を流す愛しい人をそっと抱き寄せた。

286 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:39 ID:um9lRKYk


朝目を覚ますと程よく出かける時間の一時間前だった
隣に寝ている神楽を見る。
可愛らしい寝顔を目覚ましにし、そっとカーテンを開け
伸びをする。
いい寝起きだ。
朝食の準備を始め、途中の時間で身支度をする。
味噌汁があと少しで出来るところに彼女が目を覚ました。
猫のように布団を抜け出すと元気に挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう、もうすぐメシできるから顔洗ってきな」
トテトテと洗面所に向かい水音を立てている。
準備が整ったので制服を持っていく。
「アイロンかけておいたから」
「おお!クリーニングしたてみたい!」
「大げさな・・メシ出来たから早く着替えてこいよ」
「オッケー」

 
「じゃあ行くか」
「うん」
いつものように鍵を閉めるが今日は自転車では行かない。
「またアレ乗らしてな!」
「ああ、でも二人だとたまには歩くのもいいけどな」
「そうだな!」
梅雨も明けたな、今日も暑いや。



                Fin

287 :ちょっとお邪魔します :2004/07/21(水) 13:43 ID:um9lRKYk
いきなりの乱入まことに申し訳ありませんでしたm(_ _)m
見ての通り二週間ほど前からチョコチョコと書いていたのですが
流石に時期がずれたらイヤだなと思いまして(もう結構ずれてますが)
長々と失礼しました。
PS、福山雅治さんのスコールという曲を聞きながら書いたのでかなり影響されてますw

288 :名無しさんちゃうねん :2004/07/21(水) 14:02 ID:???
激しくイイ!!(・∀・)
GOOD JOB !!
               ∩
               ( ⌒)      ∩_ _
              /,. ノ      i .,,E)
             ./ /"     / /"
   _n  グッジョブ!! ./ /_∧  / ノ'
  ( l    ∧_∧ / / ´∀`)/ / _∧     グッジョブ!!
   \ \ (´∀` )(       /( ´∀`)      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ   カレ | ̄      \    ( E)
       / オツ /   \   ヽフ チャソ / ヽ ヽ_//

289 :(SIC) ◆O6Cxn3h7aQ :2004/07/21(水) 18:04 ID:???
御忠告感謝。トリプ付けます。

#2 (-)

「智・・・『怖いの』取ってやろうか?」
言うなり暦は、智の唇を奪った。
「んぅ・・・ッ!?」
あまりに突然の事に、智は目を丸くして驚く事しか出来ない。
抱きとめる手はTシャツの中へ入り、器用にブラの留め金を外す。
こんな状況下で何を、と暦自身思ったが、智の泣き姿に欲jy

すいませんウソですごめんなさい。悪乗りし過ぎますた。

290 :(SIC) ◆O6Cxn3h7aQ :2004/07/21(水) 18:07 ID:???
#2 (3)

「落ち着いた?」
「んっ・・・うん・・・」
まだ鼻をすんすんさせているが、さっきよりは大分落ち着いてきた。
「その・・・ごめんね・・・」
「え?」
急に謝られても、暦には見当がつかない。泣いた事を言っているのか?
「あたしが、こんなとこ行くなんて言わなきゃ・・・」

あぁ、その事か。と、暦は合点がいった。
確かに、ここに来ると言い出したのは智だった。昼間は景色が綺麗なんだっけか。
「それは言いっこなしだ。智を責めたりなんてしてないから。
 それに、こんな映画みたいな体験は滅多に出来るもんじゃないからな。帰ったら皆に話してやらないと。」
智の頭にぽんと手を置いて、努めて明るく答えてやる。
実際、こうなったのは智の責任だ、などとは露ほども思っていない。
「その為には、ここを出なきゃ。ちゃんと、二人で。な?」
励ましも込めて、暦は智に力強く言ってやる。
「そう、だね・・・そうだよね・・・うん・・・!」
伝わったのか、智の顔に幾分元気が戻って来る。

くぅ。

途端、智の腹が鳴った。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・ふふ、お腹減った?」
「あ・・・ははは。うん。」
微笑む暦と、照れ笑いをする智。
そういえば、昼から何も食べていない。

「待ってて、何か探してくるよ。」
暦は立ち上がり、カウンターの裏へと向かう。
壁のスイッチ盤とは別系統の電源なのか、奥に業務用の、四面ガラス張りの冷蔵庫がぼんやりと光を放っている。
中にはコーラとミネラルウォーター、密封パックのスウィートポテトが幾つか。
「まぁ、こんな事態だ。お代はいつか。」
ガラス戸を開けて、中の物を取り出す。
────と。三段組まれた棚の一番下。雫受けの上。

ビニールに包まれた何か。

「・・・?」
不審に思いながらも、暦は指でつまみ上げる。
「手帳・・・?」
何故、こんな所に?
隠すにしたって、ガラス戸を開ければすぐに見えてしまう。
「あ・・・。」
逆に、見つけさせる様に? ここを開けた誰かに、見て貰う為に?

数本のペットボトルとパック、それに謎の手帳を抱え、暦は智の元へと戻った。

291 :名無しさんちゃうねん :2004/07/21(水) 18:41 ID:???
今回はあんまり怖くなくてイイ!!
GOOD JOB !!
               ∩
               ( ⌒)      ∩_ _
              /,. ノ      i .,,E)
             ./ /"     / /"
   _n  グッジョブ!! ./ /_∧  / ノ'
  ( l    ∧_∧ / / ´∀`)/ / _∧     グッジョブ!!
   \ \ (´∀` )(       /( ´∀`)      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ   カレ | ̄      \    ( E)
       / オツ /   \   ヽフ チャソ / ヽ ヽ_//

292 :名無しさんちゃうねん :2004/07/22(木) 00:43 ID:???
>>287
♪私恋をしている 悲しいぐらい

そんな純情な神楽さんに萌え。

>>290
手帳の中身は!?(・∀・)ワクワク

293 :名無しさんちゃうねん :2004/07/22(木) 01:29 ID:???
>>272-286
とても良いお話だったんですが………

神楽タンの唇を奪うとは許せん! 
チクシヨー○○、羨ましすぎるぞ。

>>290
今回は静かでしたね。嵐の前の静けさ? 台風の目の中?

294 :(SIC) ◆O6Cxn3h7aQ :2004/07/22(木) 18:38 ID:???
#2 (4)

【1/5】
何故こんな事になったのか、原因は解らない。起こっている事が信じられない。
街は今、『屍者』で溢れている。
始めはどの程度だったのかも解らない。気付けばそこらじゅう『屍者』だらけだ。
外部との通信も出来ない。電話が通じない。街の機能が麻痺してしまった。


【2/5】
『屍者』は生者を襲う。人間でも動物でも見境い無しだ。
噛み殺されれば、そいつも『屍者』になる。ねずみの様にどんどん増える。
向かいのケリー婆さんと、修理屋のダンもやられた。
まともな住人はどれぐらい残っているのか。確かめようも無い。

息子は無事だろうか。


【3/5】
街が急に静かになった。どうしたのだろう。
怖くて外に確かめに出る事が出来ない。


【4/5】
息子が飛び込んで来た。
顔色が酷く悪い。大丈夫だろうか。

ともかく、息子が無事なら、こんな街にもう用は無い。


【5/5】
もしこの手帳を取り出し、読む事の出来る人が居たら、
とにかく一秒でも早く、この地獄から逃げる事だ。
細かい事情は省くが、警察署の地下駐車場に私の車が有る。
街から出る手段が無い場合は、それを使って欲しい。
リアガラスに大きく『Lucy´s Cafe』と書かれているから、すぐに解るはずだ。
この街の住人として出来る、せめてもの事だ。

息子が呼んでいる。もう行かなければ。

神の御加護を。

.                           Lucy・B・Oldman.

295 :名無しさんちゃうねん :2004/07/23(金) 15:38 ID:???
おぉ〜(*´∀`*)
なんか本格的っていうか
すげー、すげー面白い

296 :名無しさんちゃうねん :2004/07/23(金) 20:45 ID:???
おもしろいよ〜

297 :(SIC) ◆O6Cxn3h7aQ :2004/07/24(土) 19:06 ID:???
#2 (5)

記された言葉はそこで終わっていた。
智に読んで聞かせていた、暦の声も止まる。
最後のページには、警察署への地図と、テープで貼り付けられた車のキー。

沈黙が二人を包む。
この街で何かが起きて、住人達は『ああ』なった。あの『人』達は。
この手帳の主が記す通り、死人───『屍者』なのだ。

「ねぇ・・・。」
智が問いかける。
「・・・あぁ。」
開かれたページを見つめたまま、暦は答える。

街全てが、死んでいる。

薄っすらと、だが否定的に想像していた事が、現実として突き付けられた。
しかし同時に、願ってもないチャンスでもある。
これからどうすれば良いのかと思っていた矢先に、あっさりと先が開けたのだから。
「行く・・・?」
不安げに智が聞く。
その不安の原因が何なのか、暦には手に取る様に解る。
自分だって同じ不安を抱いている。

警察署、と手帳には書かれていた。
つまりは。
ここを出て、警察署まで行かなければならないのだ。
見知らぬ、屍者どもの巣食うこの街の中を、自らの足で。
チャンスは不意に現れた分、中々その尻尾を掴ませてはくれない様だ。
でも。

「行くしか、ないよ。」
意志を確立させる。

第一、乗って来た車の元へは戻る事が出来ないのだ。
どこをどう、どのぐらい走って来たかなんて、あの状況で憶えていられる訳は無い。
それに引換えこちらは、目的地がはっきりしている。
どのみち外へ出なければならないのだったら、こちらを選ぶ方が遥かに賢明というものだ。
他に手立ては無い。ここにだって、いつまでも居られない。

「・・・うん・・・。」
智は伏目がちに返事をする。
先程までの恐怖を思い起こしたのか、手にしたペットボトルをぎゅっと握る。
「怖いのは解る。私だって怖いよ。
 でも、行かなきゃ。さっきも言ったろ? こんな所からは、早く出なきゃ。」
智の両肩に手を置き、今一度励ます様に言う。
嫌がれば、ふんじばってでも連れて行くつもりだし、もとより暦の中には『智を置いていく』などという選択肢は無い。
二人で、帰るのだ。絶対に。

298 :(SIC) ◆O6Cxn3h7aQ :2004/07/25(日) 01:22 ID:???
#3 Skin ticket. (1)

強い意志を感じさせる暦に諭され、智の目からも徐々に恐怖の色が消える。
「・・・そう、そうだったよね。うん、ごめん・・・何か・・・」
「そんな、謝る事じゃない。・・・さ、そうと決まれば、行こう。」

二人は立ち上がる。

暦は地図に記された道順を頭に叩き込む。
もとより、素直に辿り着けるとは思っていない。
この店に来るまでに目にしてきた様に、あちこちで『通行止め』が起きているだろう。
だが方向と位置さえ把握しておけば、ある程度は廻り道をしたって何とかなる。
窓に寄り、外を覗う。

────居る。
真正面に二人、右側の角に四人。
ゆるゆると、『屍者』が徘徊している。
一人や二人ならやり過ごせるが、初っ端からかち合う人数にしては多い。
表からは出られない。
「・・・裏口から行こう。」
窓から離れ、潜めた声で言う。
カウンターへ入り、キッチンの奥へ。

「こっちは・・・」
ひし形にデザインされた覗き窓から、再び外を見る。
「・・・大丈夫みたいだ。」
視界の範囲に、『屍者』の姿は無い。
そろりと扉を開け、半身だけ乗り出して周囲を見回す。
「行くぞ・・・って、何だそれ。」
振り向いた暦の目に止まったのは、智が握るデッキブラシ。キッチンで見つけたのか。
「や、何か武器がいるかなって・・・。」
言われてみれば確かに。この先、身を護る物は必要だろう。
デッキブラシ程度でも無いよりはマシか。
「・・・OK。行こう。」

外へ踏み出す。
頬を撫でる、湿気を多分に含んだ夜の空気。
室内に居たせいで、殊更身に纏わりつく様な感じを覚える。

かたん、と扉が閉まる。
向かうべくは、警察署。

299 :(SIC) ◆O6Cxn3h7aQ :2004/07/25(日) 16:06 ID:???
#3 (2)

ツイている、と言うべきか。
途中何度か『通行止め』にあったものの、二人はここまでまともに『屍者』と遭遇する事無く、足を進められていた。
この街に来た時や、カフェから外を見た時でさえわらわらと居たというのに、ぱたりと姿を見なくなった。
出遭わなければ出遭わないで、それに越した事は無いのだが。

「あと半分くらいかな?」
「多分な。」
腹を括って出てみたは良いが、こうまで何も無いと気が緩むというか、拍子抜けがしてしまう。
始めの内こそ警戒をして歩いていたものの、次第にこの存外の状況に『慣れ』が生じてくる。

「これだったらさぁ、あたし達の車に戻る方が早かったかもね。」
さっきまでのしおらしさは何処へやら、デッキブラシを肩に乗せて、智が呑気に言う。
「あぁ、かもな。」
こういう切り替えの早さは見習うべきかもな、などと思いながら暦は返す。
薄らぎゆく危機感には気付かぬまま角を曲がり、少し進んだその先。

「うわ・・・。」
「・・・酷いな、これは。」
何十tは有ろうかという馬鹿でかいトレーラーがへの字に折れ曲がり、両脇の建物に頭と尻を突っ込んで道を塞いでいる。
巻き込まれたのか、フロント部と左前輪に、パトカーが後ろ半分を呑み込まれている。
「・・・また廻るか。」
「んー、これは流石のともちゃんでもなぁ。」
くるりと振り返り、引き返そうとする智。

一拍置いて、からん、とデッキブラシが落ちる音。

「どした?」
暦が智を見やる。

血の気の引いた顔で、今しがた来た道の先を見詰めている。

「?」
暦はそのまま振り返り、智の見詰めている先に視線を合わせる。
百m程先。


悪寒が走る。
頭が熱くなる。
束の間消えかけた恐怖が、蘇る。




『屍者』の、群れ。

300 :名無しさんちゃうねん :2004/07/25(日) 16:07 ID:x4Kb64Rg
早く続きキボンヌ。

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