世の中のすべての萌えるを。

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あずまんがSS書きの控え室8

1 :名無しさんちゃうねん :2005/09/13(火) 00:21 ID:???
 ストーリーの構成、キャラの造り方、言葉の使い方など、あずまんがのSSや
小ネタを作成する上で困ったことや、悩んでいること、工夫していること等を話し合う
スレです。
 また〜り楽しんでいただければ幸いです。
 ここで新作をUPすることも可です。

★主な注意事項
1. sage進行でお願いします。
2. 対象範囲は「あずまんが大王」及び、連載中の「よつばと」とします。
3. 他人の作品を善意であっても批評しないでください。(自分の悪いところを
教えてくださいというのは可です。)
※その他の注意事項は、>>2以降で記載します。

58 :47 :2006/01/27(金) 22:15 ID:???
携帯からの入力の為、
改行など読みにくいトコロがあったらお許し下さい。

59 :名無しさんちゃうねん :2006/01/29(日) 00:45 ID:???
>>57
お疲れ様でした
これは詩ということでいいんでしょうか
気合いを感じます

「意余りて言葉足らず」の感があります
「言葉」と、さらに「意」について研究していきましょう

60 :57 :2006/01/29(日) 11:45 ID:???
確かに勢いだけで書いてみても駄目ですね。
精進します。

61 :春日歩の大人計画 :2006/03/03(金) 01:34 ID:???
 卒業を目の前にしたある日のことや。
 私の「だいぶしっかりしてきた」という発言は、よみちゃんによってあっさり覆されて
しまった。
 きっとよみちゃんは試験が近いから、イライラしているんやろう。だから、先に合格し
た私を妬んでいるんや。うん、きっとそうに違いない。
 私自身はしっかりしてきたと思っているし、少しずつではあるけど、大人になろうとし
ているって思うんよ。何とかそれを証明させたいんやけど、何かええ方法あらへんかなぁ。
 そんなことを考えていたときやった。

「よみさん、ここらで休憩しませんか?」
 ペンを置いて背伸びをしたよみちゃんを見て、ちよちゃんが切り出したんや。
「ん、そうだな。ずっと勉強してたから、ちょっと目が疲れたよ」
「おっ、いいねぇ。休憩しようぜ。勉強ばっかりだと疲れるからな」
「お前は何もしてないじゃん」
 智ちゃんの言葉によみちゃんの鋭いツッコミが入った。
「では、コーヒーブレイクをしましょう。今、ケーキとコーヒーを持ってきますから」
 ちよちゃんが立ち上がって、部屋を出て行った。
「よみー、良かったな。シュークリームじゃないけど、甘いものを食べることができて」
 智ちゃんが右肘でよみちゃんの脇腹を突っつくと、よみちゃんが、「うるさいなー」と困
った表情を浮かべとる。
 そんなやりとりを見ながら、私はふとあることを思いついた。
 きっと、これなら、私が大人になろうとしていることを証明できるはずや。特に根拠な
んかはないんやけど、私はその思いつきに自信があった。

 数分後、ちよちゃんがトレーにショートケーキとコーヒーを持って戻ってきた。
「はい、お待たせしましたー」
 ウエイトレスのように、コーヒーカップと苺のショートケーキが乗った皿をそれぞれの
前に並べていく。この辺の手際のよさは私も見習わないとあかんな。
「あ、お砂糖はいくつですか」
「はーい、私は3つー」
 智ちゃんが勢いよく手を上げた。

62 :春日歩の大人計画 :2006/03/03(金) 01:34 ID:???
「私はいらない」
「よみー、無理するなよ。本当は苦いくせに」
「最初はそうだったけど、今は平気だ」
「へっ、大人ぶったことしやがって。じゃあ、お前のケーキも私がもらうぞ」
「何でそういう風につながるんだ!」
「まぁまぁ、ケンカしないで下さい」
 よみちゃんと智ちゃんのやりとりに、ちよちゃんは苦笑いを浮かべている。

「あっ、大阪さんはいくつですか?」
「私も砂糖はいらへん」
「ええっ!」
 ちよちゃんが目を見開き、大声を出した。そんなに驚くことないやん。しかも、さっきま
で言い合いをしていたよみちゃんや智ちゃんまで、ビックリした表情を浮かべている。
 何や、みんなして鳩が豆鉄砲を食らったような顔して。そんなに変なことを言ったか?
「大阪、悪いことは言わないからやめとけ」
 冷静さを取り戻したよみちゃんが、少しずれ落ちたメガネを直しながら言った。
「そうだ、お前にブラックは十年早い」
 智ちゃんも珍しく真面目な顔をしとる。せやけど、あんたは私に先を越されたくないか
ら、そんな風に言ってるだけやないのか。
「大阪さん、本当にブラックで大丈夫ですか?」
 ちよちゃんはちよちゃんで、心配そうな表情を浮かべている。
 どうして誰も「大人だね」って褒めてくれないんや? 智ちゃんに至っては「明日は雨
か雪が降るな」なんて呟いとるし。
「大丈夫やって。私だって少しはしっかりしてきたんや。ブラックぐらい飲めるようにな
らんとあかんねん」
 相変わらず心配そうに見つめるちよちゃんをよそに、私はコーヒーを一口飲んだ。

「うえっ……」
 数秒後、私はコーヒーをテーブルの上に吐き出してしまった。
「ほーら、言わんこっちゃない。お前にはまだ無理なんだよ」
 よみちゃんの言葉が冷たく突き刺さった。私はあまりの苦さにむせてしまって、何も言
い返せない。

63 :春日歩の大人計画 :2006/03/03(金) 01:35 ID:???
「大阪さん、布巾を持ってきました」
 ちよちゃんが持ってきた布巾で、こぼしてしまったコーヒーを拭いた。おかしい、こん
なはずじゃなかったのに……。コーヒーってこんなに苦かったんか?
 コーヒーの苦さがまだ口の中に残っている。更にむせて咳き込んだこともあって、少し
涙目になってきた。これが大人になるための試練なんやろうか。何て厳しい試練なんや。
 こんなんやったら、無理に大人にならなくてもええかもしれない。

「うぅ、よみちゃん……」
 涙目のままよみちゃんを見つめる。
「何だよ?」
「あんた、バケモノや。こんな毒のような飲み物を平気で飲むんやから……」
「なっ――」
「大阪。それは違うぞ」
 何か言おうとしたよみちゃんの言葉をかぶせるように、智ちゃんが言った。
「よみだって、平気な顔してブラックを飲んでいるわけじゃないんだ。本当は飲んでいる
ときに『にが』って言ってるんだからさ」
「よみちゃん、本当なん?」
 私の質問に答えてくれない。唇を噛み締めて、智ちゃんを睨みつけているだけや。せ
やけど、その仕草が全てを物語っている。

「大阪さん、別に無理にブラックにしななくたっていいと思いますよ。コーヒーは自分に
合った味わい方を楽しむものだって、テレビでも言ってましたし」
「そうそう、誰かさんと違って大阪は太ってないんだからさ。別に砂糖をたくさん入れた
って問題ないじゃん」
「別に私だって太っていない!」
「じゃあ、よみも無理しないで、砂糖にコーヒーを入れろよ」
「いや、私にはブラックが性に合っているから、ブラックコーヒーでいいんだ!」
「あっ、そう。じゃあ、私たちは砂糖が入ったあまーいコーヒーを味わおうぜ」
「勝手にしろ!」
 こうして、私は智ちゃんに強引に誘われるがままに、砂糖とミルクの入ったコーヒーを
飲むことになった。せやけど、私には砂糖とミルクがたくさん入ったコーヒーの方が合っ
てるみたいや。やっぱり、ちよちゃんの家で飲むコーヒーはこれに限るな。
 でも、ブラックコーヒーが飲めないことで、私が大人になろうとしていることを証明す
る機会が遠ざかってしまった。仕方がないから、また別の方法を探すか。
(終わり)

64 :眠名有 ◆GtfGIppaeU :2006/03/03(金) 14:11 ID:???
乙ですー
結構良かったんですけど……
途中から大阪弁と標準語が混じってますね。
そこを全部大阪弁に統一できてたらよかったなー

65 :insider-1 :2006/03/18(土) 01:15 ID:???
 春休みを目前に控えたある日の放課後の職員室。
 ある目的を胸に秘めた私は、彼女の姿を視界に捕らえ、深呼吸をした。
「やっぱりちよちゃんは戦力になるし、外せないわね。あと、体育祭に備えて榊も入れて
おかなくちゃ……」
 クラス替えに備えて、自分のクラスに入れたい生徒をピックアップしているみたいだ。
この話を切り出すには好都合だと感じながら、すぐそばまで近寄り、彼女の目の前で立ち
止まった。

「谷崎先生」
 私が呼ぶと、彼女は一瞬驚いた顔を見せた。私が声をかけるのが珍しいというのもある
だろう。
「何でしょうか」
 不機嫌そうな声を出し、ピックアップ作業を見られたことが気に入らないといった感じ
で私の顔を怪訝そうに見ている。
「実はちょっと谷崎先生にお話がありまして」
 ずれ落ちた眼鏡を人差し指で直しながら、話を続ける。
「話って何ですか?」
「ここじゃ何ですので、場所を移しましょう」
「別にここでもいいんじゃないんですか?」
「いえ、人に聞かれるとちょっとまずい話ですし。お互いのためにも移動した方がいいと
思うんです」
「はぁ、そうですか。分かりました」
 要領を得ない彼女を無理矢理連れ出すように職員室を出ると、隣の会議室に入った。コ
の字状に並んだ机の一角に彼女を座らせ、私はその横に並ぶ。

「それで、何でしょうか? 話というのは」
「谷崎先生」
 窓からの景色を眺めながら、私は小声で呟いた。午後の光が眩しい。
「以前、休み時間中に学校を抜け出し、買い物に行きましたね」
 振り返ると、谷崎先生が目を見開いて、何でそんな知っているのと言いたそうな感じで
こちらを見ている。

66 :insider-2 :2006/03/18(土) 01:15 ID:???
「しかも、買いに行ったのがゲームソフトとじゃないそうですか。教師たるものがそんな
ことでは、生徒に示しがつきませんよ」
「そ、そんなこと、あなたに関係ないじゃありませんか」
「えぇ、私には関係のないことです。しかし、一教師としてこの由々しき事態を見逃すわ
けには行きません」
 きっぱりと私が言い切ったこともあって、目の前の女性は睨みつけるようにこちらを見
ている。それを和らげるように、私はにこやかな笑みを浮かべた。

「でも、もし私の言う条件を満たしてくれるのなら、この件は私の中で秘密にしておきま
しょう。どうです、飲んでくれますか?」
 彼女からの返事はない。了承したと思い、そのまま話を続ける。
「かお――」
「言いたきゃ、言えばいいじゃない」
 妙に投げやりな口調だが、提案を拒否する上では強烈な一言だ。眼鏡がずれ落ちそうに
なるが、それを人差し指で食い止める。
「その件なら、後藤先生に注意されました。もう、納豆ぐらいにネチネチとね。だから、
今更どーのこーの言われたって、どうってことはないわ。ただ、嫌なことを思い出したっ
てことぐらいかしら」
 どうやら、この話をネタに彼女と取引をするのは不可能なようだ。

「ところで、話ってそのことだけでしょうか? だとしたら、戻ってもいいですか。私も
こう見えて結構忙しいので」
「ま、待ってください。まだ話は終わりじゃありません」
 立ち上がり、会議室を出ようとするのを引きとめるべく、両手を差し出す。露骨に嫌そ
うな顔を浮かべて、彼女が私の顔を睨んでいる。視線の鋭さにひるみそうになるのをこら
えて、話を切り出す。

「谷崎先生、あなた去年の冬に、駅で困っている外国人を見捨てたことがありましたね。
あれは人としてどうかと思いますよ。せっかく海外旅行に来ている人を無下に扱うなんて。
日本人の美しいイメージが崩れてしまいます」
「何でそんなことを知っているんですか……」
 再び目を見開いて、こちらを見ている。覚えているのなら、話が早い。

67 :insider-3 :2006/03/18(土) 01:16 ID:???
「もしかして、見ていたんですか?」
 相手の問いかけに、「ええ」と呟き、一度だけ首を縦に振る。
「あの後、私がボディランゲージで道案内をしてあげましたよ。言葉は通じ合えなくても、
気持ちは通じ合えたはずです。オリバーはそう言ってました」
「言葉が通じなくて、どうしてオリバーと気持ちが通じ合えたって分かったんですか?」
「別れ際に握手をしたからです。彼の手の温もりは人としての温かさそのものなのです。
ただ、私としてはグラマーな女性の方が良かったのですが……おっと、これは関係ないで
すね」
 油断すると女性の話になってしまうのを堪え、再び彼女を見る。何を言いたいのかとい
う苛立ちを感じた表情を浮かべている。

「つまり、谷崎先生が原因で国際問題に発展しそうな事件を私が未然に防いだのです」
「別に私が悪いわけじゃないと思いますが。日本語も満足に話せないのに、日本に来る方
が悪いんだから、当然の報いよ」
 不満を隠すこともなく、ぶっきらぼうに呟くのを見届けた後、再び私は口を開く。
「でも、私が国際問題を未然に防いだのは事実です。つまり、あなたは私に感謝をしなく
てはいけない。しかし、私はそこまでおこがましくはありません。ですから、ここは取引
をしましょう。是非とも、かおり――」
「あっそ、それはどうもありがとうございました」
 一応礼はしているが、投げやりな態度で決して感謝をしているとは思えない。それに、
この話での取引も失敗のようだ。やはり、この手の脅しに屈するタイプではないか。

「これで用は済みましたか? それじゃ、私は失礼します」
「あぁっ! ちょっと待ってください」
 右手を伸ばし、出て行こうとする彼女を引き止める。
 こうなった以上、小細工はやめにしてストレートに勝負した方が良さそうだ。
「すいません、もう一つだけお話があります」
「本当にもう一つだけなんですか?」
 明らかに不機嫌な声だ。しかし、それに構っている暇はない。
「谷崎先生、一生のお願いです!」
 私はその場に跪き、土下座をする準備を整えた。

68 :insider-4 :2006/03/18(土) 01:17 ID:???
「かおりんを私のクラスに譲ってください!」
 叫び声とともに頭を床にこすりつける。
 ほんの数秒ほどなのだろうが、永遠のように長く感じられる沈黙が漂った。聞こえてく
る音は外で鳥がさえずる声と、グラウンドで部活動をしている生徒の声ぐらいだ。

「えぇ、別にいいわよ」
 数秒後に出た意外な一言に、私はぱっと顔を上げて、彼女の顔を見つめていた。
「ほ、本当ですか?」
「えぇ。でも、タダっていうわけにはねぇ。『地獄の沙汰もなんとやら』って言うじゃあり
ませんか」
 彼女が親指と人差し指で輪を作っている。要するにお金が目当てなのか。しかし、その
程度の要求ぐらいなら、大したことはない。
「それはもちろんです」
「そう、それじゃ、とりあえずこれで」
 ピンと伸ばした人差し指が私の目の前にある。これが要求する金額なのだろう。
「そうですか、一万円なら安いものです」
 早速ポケットから財布を出すと、私は一万円札を出し、それを彼女に渡した。
「それじゃ、契約成立ってことでいいですね」
「ええ、良いわよ」
 視線は私にではなく、私が手渡した福沢先生の方をじっと見つめている。
「どうもありがとうございます! 谷崎先生は女神様のようです!」
 何度も何度も礼を繰り返す。そうでもしないと、感謝してもしきれない程だ。
「それでは、失礼します!」
 有頂天のあまり、スキップで廊下に飛び出す。
「あぁ、かおりーん。これで僕と君は一緒だよー」
 歓喜のあまり涙がこぼれ落ちた。しかし、今はこの喜びに浸りたい気持ちもあって、涙を
拭うこともせず、そのまま廊下をスキップで走り続けた。
 私は今、世界中の誰よりも幸せなのだから。
(終わり)

(オマケ)
「あれ、私は千円のつもりで言ったんだけどな。まぁ、木村も喜んでたみたいだし、別に
いいか」
 ゆかりは思わぬ形で転がり込んできた一万円札をじっと見つめ、再び笑みを浮かべた。

69 :風児 ◆iQwkicAw :2006/03/18(土) 17:30 ID:???
かおりん・・・ゆかり的相場1000円・・・

報われねえw乙です。

70 :眠名有 ◆GtfGIppaeU :2006/03/18(土) 22:18 ID:???
三年生のいけいけかおりんのあれですかー
キムリンとゆかりちゃんの会話に笑わせていただきましたwww


乙です

71 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:02 ID:???
魔法少女暦ちゃん 「Wing」

水原暦が初めて魔法を使ったその夜、勉強している暦の前に再びあの天使の恵那が現れた。
ステッキから出てきたのは言うまでもない。

「さっきはごめんなさい。お姉ちゃんに呼ばれてて」
「いやそれは気にしていない。それよりも恵那だったっけ?君は一体どこから来たんだ?」
「魔法の王国マジカルランドからだよ」
「マジカルランド?それと同じ名前のテーマパークがあったな」
しかし暦はそれ以上の事は気にしなかった。偶然の一致などはよくある事である。
気がつけばタメ口になっている恵那。しかし暦は別に気にしなかった。

「で、私に何か用?」
「正式にそのステッキの使用者に選ばれたからあなたに便利なアイテムを届けにきたの」
と言って指輪らしきものを二つ渡された。

「これは?」
「ひとつはあなたにもうひとつは使い魔の人に渡してください。
これを持ってるとどんなに遠くにいても連絡がとれるんです」
「ともとどこにいてもか。何か用もないのに呼び出されそうで嫌だな」
「その心配はないです。召喚が出来るのは基本的に主であるあなたの方だけです」
またまた敬語で話す恵那。それを聞いて暦はホッとなる。

「それを聞いて安心した。連絡手段としては確かに持っていた方がよさそうだ。
ありがとう」
暦は素直に指輪を受け取った。

「あと使い魔さんが使える能力だけど・・・・・・・」
そこにまたも携帯電話が鳴り響く。

「もしもし。あっ風香お姉ちゃん。え?どうしてそんな事になってるの!?」
何やら切迫した事態になってるようだが、どうせ大した事じゃないんだろうなと暦は心の中で思った。

「すいません、ちょっと風香お姉ちゃんが大変なんでこれで失礼します!」
「あ、ちょっと!使い魔の能力は・・・・・・・」

72 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:04 ID:???
暦が引き止める間もなく、恵那天使はまた消えてしまった。

(あいつ、どうやら二人の姉がいるみたいだな)
と暦はわりかしどうでもいい事を考えていた。
結局いくら待っても恵那天使は戻ってこなかったので、暦はそのまま眠る事にした。

翌日になって、暦はいつものように登校する。

「おっはよーよみ!元気してたか!」
「おはようとも。お前ほどじゃないけどな」
そして今日もハイテンションで挨拶してくる智。暦もいつものように軽く流す。

「あ、そうだ。恵那天使からこれもらったんだ」
と言って暦は智に昨夜もらった指輪を手渡した。

「何だ、これ?」
「私達の連絡手段に使う為のものらしい。これを使えばどこにいても連絡がとれるそうだ」
「へー携帯電話よりも便利なのか?」
「お前、そりゃ魔法のアイテムで携帯に負けてちゃ立つ瀬ないだろ」
「それもそっか。どこにいてもか」
「言っておくけど、魔法絡み以外では絶対に使うなよ!」
「うー!」
機先を制され、智はふてくされる。

「おはよう!二人共、何やってるの?」
そこにショートカットの髪型の少女が話しかけてきた。クラスではよく一緒になって話す千尋である。

「お、おはよう千尋!」
「千尋、聞いてよ。あたし達さあ〜マホ・・・・・・むが」
喋ろうとした智の口を慌てておさえる暦。

「何すんだよ!」
「バカ!いきなり魔法のことなんて話して信じてくれると思うか!?
大体魔法の事が分かったら、いろいろまずい事になるかもしれないだろ!とりあえず黙っておけ!」
文句を言う智の首ねっこを掴んで暦は手早く話した。

73 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:05 ID:???
「ちぇっ、考えすぎだと思うけどな。まあいいよ、そうしとくか」
「どうしたの?二人共」
不思議そうに千尋は二人を見た。

「あ、いや何でもないんだ!何でも!!」
と手を振ってごまかす暦。だが、千尋は智と暦が同じ指輪をしていることに気付いた。

「もしかして・・・・・・二人ってそんな関係だったの!?いつも一緒にいるからもしかしてと思ったけど・・・・・・・」
「はあ?」
千尋の突拍子のない言葉に唖然となる二人だったが、千尋はまだ続ける。

「いいの!分かってるから!!そういう事ならいう訳にはいかないもんね!
頑張って二人共!!応援してるよ!あ、もうこんな時間だ!早くしないと遅刻するよ!」
言いたいことを言って千尋は走り出してしまった。

「千尋、あいつ絶対何か勘違いしてるぞ」
「まあ、魔法の事はバレてないみたいだしいいんじゃねーの?」
暦、智も後に続いた。

(おーいよみ。聞こえるか〜)
(バカ!授業中に使う奴があるか!)
(そうは言ってもぶっつけ本番で使うより、試しに使ってみたほうがいいだろ)
(まあそれはそうだが、これ以上は使うなよ)
この指輪を使うと、どうやら装着した相手の心の声がそのまま脳に伝達されるようである。
もちろん声を出しても通じる。この後智はこれをやってゆかりに頭をはたかれた。
教科書でだが・・・・・・・

「授業中いきなり大声だすなっての!!」
「あった〜ちっとは手加減してよ、ゆかりちゃん」
そんな事をしているうちにあっという間に下校時間となった。

「学校にいるときに何も起こらなかったな。つまんねーの!」
「いる時にトラブル起こったら、対処しにくくてしょうがないぞ!」
退屈そうに欠伸をする智に暦はそう言った。

74 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:06 ID:???
そんな訳で二人は一旦別れて帰宅する事になるのだが・・・・・・

(よみ!・・・・・・よみ!)
勉強している暦の頭の中に智の声が響いてきた。
どうやら指輪を使ってテレパシーを送っているらしい。

(どうしたんだよ!魔法を使う時以外は使うなって言っただろ!)
(ちょっとやばい事になっててさ!魔法使いになって来てくんねーか!)
どんな理由が分からないがあの智がやばいというくらいだから緊急事態なのだろう。

(分かった!すぐ行く!)
暦は通信を終えて、ステッキを取り出した。

「メタモルフォーゼ!」
暦が叫ぶと、暦は魔女の姿となった。何かを念じるとステッキがほうきに変化した。

「ベタだけど、これがあると魔女って感じがするな。あいつも呼び出しておくか。
我の呼びかけに応えよ!」
暦はほうきにまたがって空を飛んだ。召喚魔法を唱えたらしく使い魔の姿になって智が現われた。
猫のような姿だ。智は暦の肩の上に乗る。

「うわ!びっくりした!いきなり使い魔にされて気付いたらよみが前にいるんだもん!」
「そんなことより、ここまでしたんだからくだらない理由だったら承知しないぞ!」
「分かってるって!とりあえずあっちに向かってくれ!」
「分かった!」
智の指差す方向を目指して飛んでいく。

「見えてきた!ほら、あそこだよ!」
智が指を指したので、暦は高度を下げてその場所に向かう。
目に入ってきたのは小さな女の子が木の上からさかさまに落ちそうになっていたのだった。
近くに引っかかった風船がある事から、どうやらその風船をとろうとして落ちそうになっているらしい。

「うわ!確かに大変な事になってるな!てかお前助けようと思わなかったのか?」
「そんな事言ったって、登ろうとすると何か木がみしみしっていうから、
下手に登ったらヤバいんじゃないかって思ったんだよ!」
暦に言われて智は言い返す。

75 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:09 ID:???
そうこうしている内に、少女がぶらさがっている枝は強度を失いつつある。
木の高さから言って落ちたら怪我は確実だろう。

「とにかく助けなきゃ!」
「でも魔法を使ってるのを見られたら」
暦が魔法を使うのを躊躇ったその時、ついに枝が限界を迎えて折れた。
少女はまっさかさまに落ちる。
考えるより先に智は飛び出していた。

(もしあたしが飛べたらな)
そんな事を考えた時だった。突然智の体が光だし、背中に羽が生えたのだ。
智は少女を救い上げてからそれに気付いた。

「何だこれ?あたしの背中に羽が生えている!」
智自身がそれに驚いていた。

「ふぅ、あいつ心配させやがって。さて風船は?」
暦が振り返ると今のショックでか、風船は空へと舞い上がっていく。

「仕方ない魔法を使うとするか」
暦は一度地上に降りてから、ホウキをステッキに戻し魔法を唱える。

「我は望む。我が指し示した物を我の元へ!」
暦がステッキで風船を指すと、風船は姿を消して暦の手の中に現われた。

「おーすげえ。まほうみたいだ〜」
助けられた女の子は緑色の髪をしており、後ろに髪をふたつにして結わえている。
とても元気そうな少女だった。

「まあ、そんな感じかな」
「ほら、風船。もう手を離すんじゃないぞ」
「おーたすかった!もうゆうがたになったからかえる!とーちゃんしんぱいするからな!
ありがとう!ネコとまほうつかいさん!」
その少女はとびっきりの笑顔を見せた後に、風船を持ってとても早いスピードで駆け抜けていった。
あっとういう間に少女の姿は見えなくなった。
ちなみに魔法を使うところは見られていない。少女は格好を見てそう言っていたのだ。

76 :魔法少女暦ちゃん 「Wing」 :2006/04/19(水) 02:11 ID:???
「なあよみ!あたし飛んだよ!空を飛んだんだよ!すっげー!!」
少女が見えなくなった後、智は大興奮しながら暦に言った。
暦に抱きついてきてはしゃぎまくる。ちなみに背中の羽は今はもう無くなっている。

「こ、こらやめろとも!あんまりくっつくな!!」
暦はそんな智を引き剥がしながら、説明書を取り出す。

「あたしが飛びたいって思ったらあたしの背中に羽が生えたんだ」
「多分使い魔であるともの能力は今みたいに強く念じた事に応じて、
それをなす為に必要なものを具現化するんだろうな」
「よーするにあたしの思った事を形にしてくれるんだ!」
「そういうこったな。でも気をつけた方がいいぞ。
こういうのって使えば何かしらの負担がかかるだろうからさ」
「そーいや何だか妙に眠いや」
と、智は目をこする。その時智はここに誰かが近づいてくるのに気づいた。

「よみ!早く戻ろうぜ!千尋がこっちに来てる!」
「マジか!急いで戻ろう!」
智に言われて暦は変身を解いた。智も元の姿に戻る。それからしばらくして千尋が本当にやってきた。

「あれ?よみにとも。こんなとこで何してんの?」
「あたし等はちょっと散歩かな。千尋は?」
「私はちょっと買い物行っててその帰りなの」
「そ、そうなんだ。じゃあ私達急ぐんでこれで」
と逃げるようにこの場を去る智と暦。

「あ、ちょっと二人共!変なの」
千尋が止める間もなく二人はいなくなった。千尋はそんな二人に首を傾げたが、すぐに自分もここを後にした。

「どうやら使い魔になってるときは感覚が通常より敏感になるみたいだな」
「おかげで助かった。あーそれにしても今回はともちゃん大活躍だぜ!」
「バカ言うな!私の魔法あってだろ。それより憧れのホウキにまたがって空を飛ぶことが出来るなんて夢のようだな」
「前は尻餅ついたんだよな」
「う、うるさい!」
顔を真っ赤にして怒鳴る暦。
その後智と暦は互いに笑いながら帰り道を歩くのだった。 

77 :ケンドロス ◆KPax0bwpYU :2006/04/19(水) 02:13 ID:???
魔法少女シリーズ、すっごく間が空きましたが
第二弾でした。最初は千尋に戻るとこを見られるように
しようかと思いましたが、二回目でそれは早すぎると思ってやめました。
基本的に魔法を使うシチュエーションを考えるのが一番悩みますね。
では

78 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/04/19(水) 20:11 ID:???
乙ですー

こんどはよつばも登場ですか。
とーちゃんとかあさぎさんもこの後登場するんでしょうか?
期待してますー

79 :名無しさんちゃうねん :2006/05/17(水) 03:20 ID:???
停止?

80 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 21:45 ID:ez-Y/yZGnYc
勝手に投下!

81 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 21:45 ID:ez-Y/yZGnYc
【願い】(あずまんが大王4巻131ページ参照)

 部落差別は今の時代も続いている。地方のローカルな地域で、一人だけ東京生まれがいるとみんながその一人を何気なく都会生まれでかっこいいと思うことと理論は同じだ。
 私の育った地は昔から忌み嫌われていた。貧困と差別と暴力だけが隠れて村を支配していた。私の家も町からは嫌われていた。
 父ははやくして亡くなり貧しい生活の中、母は死にもの狂いで仕事をして私を育ててくれた。朝から畑で農作業をして、疲れきった体にムチを打って夜遅くまで内職をしていた。それでも貧しい生活だった。
 私の十何回目かの誕生日の朝、母が私に僅かなお金を与えてくれた。
 『ごめんね、お母ちゃん本当に忙しくて、あんたの誕生日のお祝いもしてやれないけど……これ、少しばかりだけど、なにかあんたのためになるものを買いなさい。』
 そういった母に私は『お母ちゃん、ありがとう。』と一言だけ言った。
 母がくれた硬貨ばかりの僅かなお金は、母の手垢がついて、錆びていた。毎日の農作業のため土もついて汚れていた。だが私にとってそれはどんなにかけがえのないお金だったか計り知れない。
 私は隣町まで歩いていって、色んなお店を長く見ていた。このお金で買えるものはそう多くなかったが、それでも今日は特別な感じがして本当に楽しかった。
 花屋さんの前を通りかかった私の目に映ったのは、色鮮やかな花の苗だった。
 『そうだ、これを買って帰ろう。お母ちゃんもどんなにか喜んでくれるだろう。』そう思った。
 苗をひとつだけ買って私は帰途を急いだ。もう空は暗くなっていた。
 私の家まであと何十メートルかまで来た時に、私の家が騒がしいことに気付いた。妙な不安を感じて私が急いで家に駆け込むと、そこには布団に横たわった母がいた。
 『お母ちゃん!!』
 そういって私は母に駆け寄ると、近所で私達と同じように部落差別をうけている仲間のおじさんが私にいった。
 『母ちゃんな、あいつらの子供に石投げられたんや! 見てみい、血いでとる……バイキン入って母ちゃん倒れてしもたんや!』
 今でいう破傷風だった。体に元々疲労が溜まっていた母にとって致命的だった。

82 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 21:45 ID:ez-Y/yZGnYc
 私は朝晩つきっきりで看病をした。どうしていいのかわからずに言葉もでないくらいに高熱に病む母の額に冷たく濡らした手拭いを当てることと、有り合わせで栄養のない食事を作ることしかできなかった。
 虐げられている身分で医者も診に来てなどくれないし、その医者に払う金もないまま、私の疲労も限界が来ていた。私は夜長に最後の母の額に手拭いを乗せるとそのまま力尽きて眠ってしまった。
 朝になって目覚めてみると、母は穏やかに息を断っていた。私は疲労と悲哀の中、母に、母のため、母のくれたお金で買った花の苗を瞑った瞳の前に、だしてみせた。
 『……母ちゃん喜ぶと思うて、母ちゃんから貰ったお金でこの花買ってきたんよ……なあ、母ちゃん、キレイな花やな……なあ……母ちゃん、何とかゆうてや……母ちゃん!!!!』

 私は貧困が、差別……差別がこんなにも憎たらしいものかと思った。それからは自給自足で生活をしながら時間があるとそれだけおじさんがくれた本や町に捨てられた本を拾って勉強した。
 母の今わの際に一輪の花も見せてやれなかったことが、どんなときも私の背中を押して勉強させた。差別への憎しみが私の背中を押した。
 私が大学にでも入っていたなら、私の家は頭のいい子がいると思われてこんなにも酷い差別は受けなかったろう。私が稼げるほど優秀なら母にこんなにも負担をかけることはなかったろう。
 そんな思いだけが私を押した。押されてここまで来たのだ。



 「どうしたの、あなた?」
 「……ん……? あ、いや……長い夢を見ていたようだ…………。」
 「大丈夫かしら? 今日はあそこの神社にお詣りに行くって言ってらっしゃったけど、行けるかしら?」
 「ああ、大丈夫だ……。」



 「頼むぞー五百円――」

 ――チャリン パサ

 (一万――!?)

 「うわぁ! 一万円でなにを……」

 ――パン パン

 「――世界人類が平和でありますように」
 「何ィ!? 一万円でそんな願いでいいのか――!?」

 「これ以上何を望むというのです?」

 (――これ以上……何を、何を望むと……)

終わり

83 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/06/11(日) 21:59 ID:???
乙ですー。

いやー、木村先生苦労したんですねぇ……

84 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 22:09 ID:???
>>80-82
お疲れ様です
・・・でも、上げちゃダメですよ・・・

85 :名無しさんちゃうねん :2006/06/11(日) 23:07 ID:???
すーぱーさげついでに、SSスレって3つあって1つの方向性は大体わかるんだけど
この控室スレとSSを発表スレの違いがよくわかんないんですよね、どういう判断で使い分ければいいのか

86 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/06/11(日) 23:13 ID:???
>>85
基本的に控え室はsage進行なので、長いやつ。
発表スレが短めのやつですかね。

87 :名無しさんちゃうねん :2006/06/12(月) 00:01 ID:???
>>80-82
全米が泣いた・・・いやマジで泣いた。
人に歴史あり。


でも下げようね・・

88 :名無しさんちゃうねん :2006/06/12(月) 00:05 ID:???
>>83-87
あ〜、すいませんです。気づきませんでした……

89 :名無しさんちゃうねん :2006/06/14(水) 01:42 ID:???
>>80-82
乙です、いや〜なんというか壮絶。
ラストの木村先生のセリフは重みがありますね。

「ご飯が食べれられる事が一番の幸せ」っていうやなせたかしの言葉を
思い出しました。

90 :古文の時間 〜1時間目〜 :2006/06/22(木) 23:05 ID:???
 「……ハァ……」

 ――ガラガラ

 「あっ……せ、先生……」
 「まったく、凄い雨ですなあ。今日は傘を忘れてしまいまして、帰るに帰れないのですよ。」
 「そ……そうですか……」
 「榊くんも、そういった事情ですか?」
 「え……いや……あの、そうです……」
 「フム、私の通った小学校では、傘を忘れた子のために黄色い傘を常備していたものですが……
 やはり高校にないというのは……いかにも社会人になるに連れて、自分の失敗を自分で取るということを暗に伝えているような気がしますなあ。」
 「…………」
 「しかしまあ、小学生もなかなか立派なものです。小学生の子が傘を忘れるよりも、教師が忘れて借りていくほうが多いというのですから。
 もしかしたら社会人になりきれていない教師の方々のためにあるのかもしれませんな。いやこれは傑作だ!」
 「そう……なんですか……フフッ……なんだかおかしいですね……」
 「……やはり人は笑っているほうがいい。女性に限らず、男性だって。」
 「あ…………」
 「なにか悩み事でも……? 私でよければ……」
 「……いえ……別に……」
  「うら若い女子高生が、放課後の教室でひとり、ため息をついているなんて、悩み事がないほうが不自然ですな。」
 「…………」
 「やはり、私では役不足ですか。谷崎先生や黒沢先生のほうがいいみたいですな。」
 「い、いえ……別にそんな……」
 「なら話してくれますね?」
 「あ……その……いえ、ただの思い過ごしかも……」
 「そういったほのかな心配事を聞くのも、教師の仕事です。それができないようでは、教師をする資格などありませんよ。」
 「……あの……私の……友達のことなんですけど……」
 「わかりました、どうぞ気が楽になるように吐き出してみなさい。」
 「……私は……みんなの中で……その……浮いている気がして……」
 「…………」
 「私は面白い話もできないし……愛想笑いもできない……ただいるだけで、その場をシラケさせてしまっているような……そんな気が……」
 「…………」
 「このあいだも……ちよちゃんの別荘に行ったんですが……やっぱり私は、なんか打ち解けてない気がして……」
 「…………」

91 :名無しさんちゃうねん :2006/06/22(木) 23:05 ID:???
 「でも……別に、もっと優しくしてほしいとか、そういうことじゃなくて……ただ……誰にも必要とされないのが……嫌で……」
 「…………」
 「……私は……中学校で……友達いなくて……浮いてて……だから……だから……またあの時みたいに戻るのが……とても怖くて……」
 「…………」
 「あんなに誰かと仲良くなったのなんて初めてで、どうしたらいいのかわからないまま……また誰からも必要とされなくなっていく気がして……」
 「…………」
 「その……それが心配で……先生……?」
 「……今日のお昼は、スーパーのお寿司でした。」
 「えっ……?」
 「妻が風邪気味でね。仕方なく買ってきたのです。」
 「…………」
 「スーパーのものといっても、なかなかおいしいものです。榊くんはお寿司といったら何から食べますかな?」
 「あの……やっぱり……いえ……忘れてください……今の話……」
 「榊くんはお寿司といったら何から食べますかな?」
 「あの……何があるかわかりませんので……」
 「まあ一般的にですよ。」
 「……ヒラメか……タイ」
 「なかなかいい選択ですな、君は敷居の高いお寿司屋さんでも粗相なく食べられそうだ。」
 「あの……それがなにか……?」
 「私も最初は味の薄くて鮮やかな白身から食べますな、寿司は得てしてそういう趣向になっています。」
 「…………」
 「君は美浜くんに誘われたのでしょう? 無論、別荘へのことですが。」
 「え……? あ……はい……図書館で偶然……」
 「ふむ。それで、君はお寿司を普通にそのまま食べるんですか?」
 「……??? あの……え……? いや……その、まあ……そうですが……」
 「それは不思議な話ですね……君は醤油は嫌いなのですか?」
 「え……? あ、いや……醤油なんて普通についてるものだと……思って……」
 「そう、当然、誰もがそう思いますなあ。当たり前過ぎて気付かないんです。君も、それと同じですよ。」
 「え……?」
 「君の存在があまりにもあの子たちに浸透してるんですよ、だからこそ、そこにいるのが当たり前過ぎて、みんなが君に気をつかわないんですよ。」
 「…………」
 「君が欲しいのは、気を使ってくれる優しい友達ですか? それとも気を使わなくて済むような親しい友達ですか……?」
 「…………」
 「私は、生徒に気を使われる先生には……なりたくないですね。」
 「…………」

92 :名無しさんちゃうねん :2006/06/22(木) 23:06 ID:???
 「勿論、味を引き立てるための醤油が、自己主張しすぎて濃すぎたりしたらダメです。しかし、薄すぎては物足りない。」
 「…………」
 「君が自分を浮いていると感じるのならば、地に足をつけばいい。君の価値を決めるのは君ですよ。君が自分の価値を高めるなら、君の味わいも一層浸透することでしょう。」
 「…………」

 「さあ、雨もやんだようですな、私はそろそろ失礼致しましょう。愛する妻が待っていますのでね。」
 「あの……先生……」
 「なんでしょうか?」
 「私は……その、先生のこと……誤解してたみたいで……」
 「誤解などしていませんよ、アレもいつもの私の通りです。包み隠さずがモットーですので。誤解していたと思っていたのが誤解ですよ。何かあったらまた相談に乗ります。」
 「でも……私なんかに……こんな……」
 「女子高生とか好きですから!! ハハハ! いやこれは傑作だ!」
 「……フフッ」
 「君は笑っていたほうがかわいいですな。」
 「え……! あ、あの……その……あ、ありがとうございました……失礼します……」

 ――タッタッ

 「ハハハ、若いとはいいものですなあ!」

 ――ガラガラ パタン

 「フム……キレイな青空だ……雲に隠れていない青空は美しい……」

 「止まない雨などないのですよ……」

 《終》

93 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/06/23(金) 00:32 ID:???
うおおおお!
マジで乙。
キムリンらしさを消さずに、ここまでヒーローなキムリンが書けるとは……

94 :名無しさんちゃうねん :2006/06/23(金) 21:29 ID:???
二時間目も書いてます!!

95 :名無しさんちゃうねん :2006/06/25(日) 21:38 ID:???
>>94
久々の良作ですね・・キャラが崩れてないのがすごい。
二時間目も期待しています。

96 :名無しさんちゃうねん :2006/06/26(月) 22:50 ID:???
 
テスト

97 :名無しさんちゃうねん :2006/07/16(日) 23:20 ID:???
二時間目はまだでつか? >94のレス見て以来、ずっと正座して待ってるのですがw

98 :名無しさんちゃうねん :2006/08/04(金) 01:11 ID:???
>>94
今更読ませてもらったのですが、木村先生の含蓄ある言葉に感動しました。
短い作品の中でこれほどの感動できる話を書けるなんてすごいですね。
続編が完成する日を心待ちにしています。

99 :ひねくれ者 :2006/08/05(土) 00:29 ID:???
 遂に、私は驚愕の事実を手に入れた。
 それは、テレビを見ていたときに、ひょんなことから知ったんや。まさか、しゃっくり
を止めるツボがあるなんて、そんなん知らんかったわ。
 せやけど、これを知った以上、この前のようにしゃっくりが止まらなくなって、大変な
目に遭わなくても済むんや。もう、あんな思いをするのは嫌やからな。
 
 これで私は他の人とはちょっと違う知識を得たんや。「まめちしき」が一個増えたわ。豆
と関係ないから、豆の知識やないけどな。
 よし、早速効果があるか試してみるで……って、しゃっくりが出てないのに、ツボを突
いてもしょうがないわ。
 ほんなら、しゃっくりを出せばええんやな……って、ここで私は重大なことに気付いた。

 しゃっくりってどうやって出せばええのん?

 よく考えたら、くしゃみやあくびと違って、しゃっくりって自発的に出そうと思って出
せるもんやない。自分の意思とは関係ないときに出るもんやないか。
 計画は最初のところでつまずいてもうた。しかも、自分の力じゃどうすることもできへ
んやないか。
 こうなったら、自分で辛いものを食べて、しゃっくりを出すしかない。効果を試すため
にはこういう犠牲も必要や。

 そういうわけで、私は台所から唐辛子を持ってきたんや。
「この前はよみちゃんの激辛唐辛子コロッケを食べてしゃっくりが出たんやから、ワサビ
よりは唐辛子がええかもしれないな。せやけど、あんな死にそうな思いはしたくない。今
回は少なめにしてみるか」
 キャップを開け、少しだけ手の平に乗せてみる。赤い小さな塊が、私の目の前にある。

100 :ひねくれ者 :2006/08/05(土) 00:29 ID:???
「これを飲めば、しゃっくりが出るはずや。そう、これを飲めば……」
 頭の中では分かっているんやけど、それを飲む勇気が湧いてこない。呼吸が小刻みに震
えとるのが自分でも分かる。それに、赤い魔物が手の平で踊っているように見えるんや。
「せやけど、しゃっくりを出さなあかんのや!」
 意を決して、赤い魔物を一気に口の中に入れた。

 数秒後に、出たには出たんや……。
 涙が、両方の目からとめどなく溢れ出とる……。せやけど、今の私にそれを止めること
はできへん……。
 あと、咳もさっきから出まくっとる……。むせて咳き込んだことで、息苦しくてかなわ
んわ……。
 まさにこの世の地獄や……。
 私は今、何でこんなことをしたのかっていう後悔が、頭の中でぐるぐると渦巻いとる。
しかも、その渦で目が回りそうや。

 それなのに、肝心なしゃっくりはちっとも出てこないやんか。作戦は失敗や。
「何でや、あんだけ唐辛子を口の中に入れたのに、何で出てこないんや……?」
 涙が止まらへん。唐辛子の辛さで泣いとるのか、しゃっくりが出てこない悔しさで泣い
とるのか自分でも分からへん。せやけど、涙をぬぐうこともできないほどにショックを受
けていることだけは、紛れもない事実や。

「あかん、ほんまにしゃっくりは出とらへん。もしかして、もっと唐辛子を食べないとあ
かんかったんか……? せやけど、これ以上やったら、私は死んでまう。これ以上の唐辛
子なんてあかんわ」
 結局、私はしゃっくりを止めるツボを突く実験、並びにしゃっくりを出す実験を諦める
ことにしたんや。むしろ、今は涙を止めるツボを教えて欲しいわ。
 それにしても、出たときは止まらなくて私を困らせたのに、出て欲しいときには全然出
てくれずに、私を困らせるなんて、しゃっくりは本当にひねくれ者や……。

(終わり)

101 :27GETTER ◆mRZMzGA.po :2006/08/05(土) 01:02 ID:???
>>99-100
お疲れです。

うわwww
大阪さんの喋り方とか、行動とかがイイww
確かに、しゃっくりって自分だと出来ませんしねw

102 :名無しさんちゃうねん :2006/08/18(金) 12:48 ID:???
いい感じの流れだな。

103 :眠名有 ◆h8AqQULsMs :2006/08/18(金) 13:53 ID:???
>>99-100
遅くなったけど
乙ですー

大阪さんらしさがとてもでていますねw

104 :名無しさんちゃうねん :2006/10/15(日) 02:17 ID:???
就職試験に明け暮れて二時間目書くの忘れてました! すいません

105 :名無しさんちゃうねん :2006/10/20(金) 16:33 ID:???
>>104
試験に受かってからで良いって・・自分の人生が一番大事。

106 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2006/10/28(土) 11:34 ID:???
>>90
無粋かも知れへんけど一応指摘しとくな。
「役不足」ゆーんは役の方が不足しとるねんでー。
キムリン古文の先生なんやからそういうのはきちんとしとると思うねん。

107 :693 :2007/04/29(日) 00:45 ID:???
長谷川小説です。良かったら改善すべき点などを教えてください。
ttp://so.la/test/read.cgi/oosaka/1074518861/697-706

108 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:22 ID:???
 窓から見える暮れかけの空には真っ白な月が浮かんでいる。

「行かなくちゃ」
 誰に言うわけでもなく、自分の胸に言い聞かせるように呟くと、力任せにドアを開けて、
外に飛び出した。
 少しだけ夜の冷たさを感じるそよ風が体に吹き付けている。
 これから自分がしようとしていることを考えると、風が妙に胸に沁みて、もどかしい気
分になってくる。
 
 夕方になると榊がちよと一緒に忠吉さんの散歩に出かけることをかおりんが知ったのは、
つい昨日のことだった。
 散歩コースも散歩する時間帯もほぼ固定しているらしく、午後七時ごろに最終目的地で
ある街の景色が一望できる小高い丘のある公園に行けば、確実にいるとのことだ。
 これほどの有力情報を手に入れた以上、みすみすと見逃す手はない。

――七時に公園に行こう
 今朝から、かおりんの脳裏にはその思いだけが支配されていた。
 最愛の人・榊と逢えるひとときを心待ちにしながらも、なかなか進まない時計の針に苛
立ちが隠せなかった。いっそのこと自分が時計の針を進めてしまいたいという衝動を堪え
ながらも、今日の授業を終え、天文部の部会も半ばうわの空の状態でやり過ごした。

 時計の針は六時四十分を過ぎたところだ。ここからなら歩いて十分ちょっとで公園に着
く。そんなに急がなくても七時には十分に間に合うはずだ。
 頭では分かっている。しかし、気持ちが既に走り出して制御がきかなくなった状態では、
どうにも抑えきれなかった。
 不意に、前を歩いていたスーパーの袋を両手に提げている主婦を足早に追い越していた。
 もしかしたら、もう来ているのかもしれない。そうすれば、一分でも、いや、一秒でも
長く一緒にいられるかもしれない。
 そんな淡い期待が脳裏をかすめ、歩みを緩めることを許さなかった。
 最初のうちは早歩きだったのが、次第にジョギングするぐらいのスピードになっている
のが自分でも分かった。
「逢いたい、榊さんに早く逢いたい……」
 一歩踏みしめるたびに強くなる思いは、次第に歩幅だけでなく心臓の拍動も加速させて
いる。
 居ても立ってもいられない思いに急かされてか、最終的には全力疾走に近い状態になった。

109 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:23 ID:???
 結局、公園の入り口に着いたのは六時五十分過ぎと、十分もかからずに到着してしまった。
 今まで全力で走り続けたこともあって、さすがに丘の上までの坂道を走るほどの余裕は
残されていなかったため、ここからは歩くことにして少しでも呼吸を整えることにした。
 そうでもしないと、あまりにも高鳴る鼓動に心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
 車一台が通れるほどの道幅がある遊歩道を歩きながら、丘の上に愛しき女性がいること
を考えてみた。それだけで、胸の奥が焼け焦げてしまいそうな気分だ。
 逢うことができたら、いや、絶対に逢えるのだから、逢ったらどんな話題をしようか、
そして、どうやって自分の想いを伝えようか、頭の中でそればかりが駆け巡り、言葉の形
成を妨げている。
 思考回路がショートしかけているだけではなく、小刻みに指が震えている感覚も自分自
身で認識できた。

――どうしよう、このままだとうまく言葉を伝えられないかもしれない。
 一瞬だけ、帰ろうかという気持ちが芽生えたが、この瞬間を心待ちにしていたのだから、
そんな勿体ないことはできない。
 小刻みに震える呼吸を必死に隠しながら、ようやく丘の頂上にある展望台にたどり着いた。

 今のところ、それらしき人影はない。
 まだ来ていないのだろうか。展望台にある時計の針は六時五十五分だし、ちょっと早か
ったようだ。
 目当ての人が居なかったことで、妙に肩の力が抜けてしまったこともあり、近くのベン
チに腰を下ろすことにした。
 夕陽は遠くの山の彼方へと姿を隠し、街の景色はゆっくりと濃い青に染まろうとしてい
る。その真上に半分だけの月がポツンと浮かんでいる。
 まるで自分の満たされない心のようだ。きっと空の上に浮かんでいるのが私の心の半分
で、そして、欠けてしまったもう半分は、親愛なるあの人が持っているはずだ。
 一度、深く息を吸い込んだ。少し肌寒い空気が体に入り込んだことで、冷静さを取り戻
せた気がする。
 今度は頭の中で伝えたい言葉を反芻することにした。
 単に「好き」という言葉だけでは片付けられないほど、幾重にも積み重なった想いをど
う伝えたらいいのか、どれだけ心に響くメッセージを届けらえるのか、ひたすら頭の中で
イメージしてみたものの、なかなか上手く言葉に出てこない。

110 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:23 ID:???
 ただ、初めて出逢った頃から、知らず知らずのうちに膨らんでいった恋心が胸を締め付
けるだけだった。
「最初のうちは、もっともっと榊さんのことを知りたいと思っていただけなのにな……」
 苦しさを感じた胸の内を支えるように、きゅっとセーラー服の胸元をつかんだ。
「いつの間にか知れば知るほどに、今度はもっともっと近付きたいって思うようになった
んだっけ……」
 しかし、現状はなかなか近付くことができず、遠くで憧れの視線で見つめるのが精一杯
だった。
「本当はもっとそばに居たいのに……」
 踏み出せない自分の心の弱さに気持ちが沈んでいくのを感じた。しかし、落ち込んでい
る場合ではない。あと数分後にはここに本人が来るのだから。

「今日こそ私の想いを伝えなきゃ!」
 想いを新たに立ち上がると、ふと遠くで誰かが話している声が聴こえた。
「もしかして?」
 無意識に近くにあった木の陰に身を隠すと、そっと声の主が自分の思っている人かどう
か確認してみた。

「あぁ、榊さんだ……」
 正確には愛犬の忠吉さんと忠吉さんのリードを持ったちよがいて、隣に榊が歩いている
のだが、かおりんの視界は榊しか捉えていなかった。
「制服姿も凛々しくて素敵だけど、ブルージーンズに長袖のシャツという私服もサマにな
ってて素敵。何を着てもかっこいい」
 やかんを乗せたらすぐに沸騰するんじゃないかというぐらいの勢いで、頭の中の温度が
高まっていくのを感じた。だが、一つ問題があることにも気付いた。
「どうしよう、何て挨拶すれば。それになんでここにいるのか説明しないと……」
 別のことに頭を支配されていたこともあって、肝心なことを忘れていた自分の迂闊さに
唇を噛んだ。
 しかし、迷っている場合ではない。
 意を決して、勢いよく前に一歩踏み出すと、二人と一匹の間に自らの姿を現した……
まではよかったが、「こここここ、こんばにゃー」と言葉がおかしくなってしまった。
 加えて、若干緊張している分も手伝って、声が裏返っている。

111 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:23 ID:???
「こんばんはー。こんなところで逢うなんて奇遇ですね」
「そ、そうだね」
 ちよと会話しているはずなのに、視線は常に榊にロックオンされたままだ。視線に気づ
いたのか、榊も軽く会釈した。
――あぁ、榊さんが私だけに挨拶をしてくれたぁ。
 それだけで、今日ここに来てよかったと心から実感できた。ちょっとでも気を抜いたら
喜びのあまり失神してしまいそうだ。
「きょ、今日はほら、空がきれいで、月もきれいで、だったらちょっと夜空でも眺めよう
かなと思って、こ、ここに来たんですよ。私、天文部ですし」
「そうなんだ……」
 榊が空を見上げている。視線の先にはさっき見上げた半分の月が相変わらず所在なげに
漂っている。

 いつも物憂い顔で空を見上げている美しい顔立ちが間近に迫っている。
 教室でしか見られない顔を、今見ているのは私だけなのだ。
「あっ、榊さーん」
――しまった。もう一人いたことを忘れていた。一人で榊さんをじっと見ていたいけど、どうやっ
てそれをすればいいの? さすがにちよちゃんに席を外してとは言えないし……。

 しかし、その悩みはすぐに解決した。
「近所の愛犬家の方も散歩に来ているみたいなので、ちょっと挨拶してきますね」
「あぁ、分かった……」
 ちよが「忠吉さん、行こう」と呼びかけて、その愛犬家と思しき少し恰幅のいい女性の
ところへと走っていった。
 榊はそれを見て小さく手を振っている。
――あぁ、何て幸運なの? やっぱり日ごろから行いがいいとこういうときに千歳一隅の
チャンスが巡ってくるのよね。
 心の中で何度もガッツポーズをしながら、再び榊の顔を見た。
 今度はお互いに視線がぶつかった。ちょっと気まずさを感じたため、不意に視線を月へ
とずらした。

112 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:24 ID:???
「今夜の月は上弦の月と言って、新月から満月へと向かう途中の状態なんです」
「へぇ、そうなんだ……」
「月が向かって右半分だけ見える状態が上弦の月で、左半分だけのときは下弦の月という
んですよ」
 月を見つめながら、何か納得したかのように榊がうなずいている。
「大体正午ごろに昇って、夕方に南中して、深夜は西の空に沈んでいくんです。今はこれ
から段々西へと傾いていくところですね」
「すごいね、何でも知っているんだ……」
「いいえ、大した事はありません」
 予期せぬ形で褒められたことで思わず両手を振りながら謙遜した。実際、天文部の先輩
からの受け売りだということもあるが、それ以上に尊敬する人から「すごい」という言葉
が出たことだけで、恐れ多い気分だった。

「この月はあと一週間もすれば、満月へと変わっていくでしょう」
「そうか……。余り月の変化を気にしたことがなかったけど、そういうことを知るとちょ
っとずつ変化を見たいって気になるな……」
 ちょっとだけいいムードになってきた。今なら自分の想いを言えそうな気がする。
「あの、榊さん……」
 ふと愛しき人の名を呼んだ。怖くて顔を直視できないが、名前を呼んだことでこっちを
見ている気がする。
 一瞬だけ、沈黙が場を支配した。
――言わないと、このチャンスを逃したらいつ言うのよ。弱気になっている場合じゃないわ。
不安も怖さもあるけど、それを勇気に変えていかないと。
 しかし、やっぱり顔を直視することはできず、月を見つめたままの状態で口を開いた。
「この月は引力によってやがて満ちて大きな円を描く時が来ると思います。でも、私の心
はずっと欠けたままなのです。私にも欠けた心を満たす引力が必要なのです」
 榊は何も言わず、黙って話を聞いている。心臓が徐々に高鳴っているのを感じた。

「私の引力となるのは、大切な人が私のそばで微笑んでくれることなのです。そうするこ
とで、愛しくてかけがえのない喜びが得られて、生きる強さが得られるのです」
 ふと視線を落とした、遠くのビル街のあちこちに灯りが点り始めている。
 心臓はさっきよりも高鳴っている。このままだと榊にも聴こえるんじゃないかと思うほ
どの大きさだし、それに比例して早くもなっている。

113 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:24 ID:???
「だから、この際言っちゃいます。榊さん、私はあなたの――」
 正直、ここから先のどんな言葉を口にしたのか、全く記憶になかった。ただ、一つだけ
言えることがある。

「おーい、榊ちゃーん!」
 突然現れたけたたましい叫び声によって、完全にかき消されたことは確かだった。
――と、ともぉー。何てことしてくれるのよ……。
「お前、声でかすぎ」
 気持ちを代弁するように、暦が呟いた。
「あっ、かおりんもいるじゃん」
 人の気も知らずに、呑気に挨拶をしている智の何も考えていなさそうな顔が妙に腹立た
しくなり、思わず視線がきつくなった。
「おい、大丈夫か? 顔色良くないみたいだけど」
 そりゃ、せっかくのいい場面を台無しにされたら顔色だって悪くなるじゃない、と言っ
てやりたかった。
 だが、一気に緊張の糸が切れてしまって、今となっては貧血に近い状態だし、倒れそう
になるのを必死にこらえるのが精一杯なので、せめてもの抵抗として睨みつけるのが限度
だった。

「あっ、二人も来てたんですか」
 愛犬家との挨拶を終えたちよも戻ってきて、榊が忠吉さんの頭を撫でている。
 ちよだけでなく、智と暦の二人も来た以上、もはや榊と二人っきりになれるチャンスは
限りなくゼロに近かった。
――せっかくのチャンスだったのに……。
 薄れそうになる意識の中では、あと一歩で告白できなかった自分の運のなさを嘆くのが
関の山だった。

「ちよちゃんの家に行ったら、忠吉さんの散歩に出かけたって聞いてさ。ここじゃないか
と思ったらなぁ、予想通りだったってわけ」
「なぁ、花火持ってきたんだけど、一緒にやらない?」
 智が持っていたコンビニの袋から花火を取り出した。

114 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:24 ID:???
「それは別にいいですけど、ここは花火禁止ですから、別のところでやりましょう」
「よーし、そうと決まれば、全員早速開始!」 
「お前は元気だなー」
 智と暦が先頭に立って歩き出した。ちよも「行きましょ」と呼びかけ、忠吉さんのリー
ドを持って歩き出した。
「私たちも行こうか……」
「そ、そうですね」
 今日どころか明日の分のエネルギーを使い切った気分になったせいか、全身を脱力感が
襲っている。並んで歩くのが精一杯で、何かを話そうという気分にはなれなかった。
 今はただ榊と一緒に歩けることで、ささやかな幸せを感じる以外に何もできそうになかった。

――自分の気持ちは伝えられなかったけど、榊さんと一緒に帰れるだけまだ幸せなのかな。
 愛しき人と並んで歩ける。遠巻きに見つめることしかできない学校生活から比べると、
それだけでも十分進歩している。ステップアップはしているはずだと、自分自身にそう言
い聞かせることにした。

「ところで、さっきの話なんだけど……」
「えっ……」
 体が一瞬のうちにぎゅっと凝縮する気分になった。まさか、さっきの話の続きができる
のか? 願ってもないチャンスの到来に、再び体に力が入るのを感じた。
「さっきのあの話……」
「は、はい……」
「さっきの……」
 夜の冷たい風が熱を持った頬に吹き付けてきたが、今はそれを感じる余裕はない。繰り
出される次の言葉を待つこと以外に今の自分にはできることはないのだ。

「月の話、とても面白かった……」
「あっ、そのことですか」
 途端に体の力が抜け、さっきの脱力状態よりも更に力が抜けて、その場にしゃがみこん
でしまいそうだった。

115 :月を見上げて :2009/07/11(土) 15:25 ID:???
「また今度、聞かせてもらえないかな……」
「えっ、いいんですか?」
 一度は尽きかけた気持ちがまた湧き上がってきた。
「星座とかってロマンチックな話が多いから、もっと知りたいなって思って……」
「は、はい! 私でよければ喜んで!」
 左手をぐっと握り締めて、小さくガッツポーズを作った。

――告白はできなかったけど。これで榊さんと一歩お近付きになれたわ!
 今日は帰ったらまずは天文の資料を片っ端から調べよう、そして、ロマンチックな話を
収拾して、今度会ったときの話題にしよう、頭の中で次から次へと行動計画が目まぐるし
く動いている。
 できることなら、今すぐ帰って調べたいけど、これから一緒に花火ができるのだから、
それを楽しむことにしよう。
 
――榊さん、好きです。
 心の中で、叫んでみた。当然、隣を歩いている女性には届いていない。それでもよかった。
 今はただ、そばにいられる喜びをかみしめるだけで十分だ。そう、今はまだこれで。だ
けど、心の中でもう一度叫んでみだ。
――今度こそはきっと私の思いを伝えますから、その時は私の気持ちを受け取ってくださいね。

(終わり)

116 :名無しさんちゃうねん :2009/08/07(金) 02:01 ID:???
>>108-115
かおりんの微妙な恋心が伝わってきますね。
榊さんの一言に一喜一憂する姿がとても良かった。

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145 :名無しさんちゃうねん :2010/02/21(日) 20:24 ID:???
何があったか知らんが
マルチポストはやめろ、
このタクランケ。

146 :rwLuFETxvwYpwI :2012/05/21(月) 12:39 ID:???
Geez, that's unbleievbale. Kudos and such.

147 :mrrzmZykryJbKyHr :2012/05/23(水) 00:17 ID:???
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