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あずまんがSSを発表するスレッド パート4!!

1 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/05/14(土) 00:04 ID:???
前スレのリンクです。
あずまんがSSを発表するスレッド パート3

http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1081700484/

暴力・猟奇・グロなど読み手を選ぶ内容のSSは以下のスレッドに投下する点は前スレと同じです。

グロまんが大王
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/1081698529/

新しいスレでも、またがんばりましょう。

101 :春の日を歩む2人(12) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:18 ID:???
「佐伯君、忙しいん?」
 春日の質問に沈黙で答える佐伯。
 いや、声が聞こえていない可能性もある。
「そやな。忙しいんやな。うん」
「大阪!!今日は寝坊しなかったんだな」
 急に滝野が春日の側にやってきてその背を叩く。
「なんやの〜・・・私、最近寝坊しとらんやんか」
「そうか〜?ま、どっちでも私は構わないけどな、あははははは」
「笑う門には福来るや。佐伯君も根を詰めすぎたらあかんで。あはははは」
 春日と滝野がケラケラと笑う。
「・・・うるさい」
 低く怒りのこもった声。
 佐伯が滝野と春日を睨んでいる。
「お?なんだなんだ?不機嫌モードか?」
 佐伯が立ち上がる。
 勢いよく立ち上がったために椅子が大きな音をたてて倒れる。
 静まり返る教室。
「や、やる気か?そ、それに・・・大阪は佐伯が悩みがあるからと思っていったんだぞ」
「そんなの、ただの迷惑だ」
「迷惑って、ちょっと言いすぎだろ!」
 滝野が佐伯の襟首に掴みかかる。
「大阪はな、お前のことを」
「ともちゃん、えぇねん。うるさくしてかんにんな、佐伯君」
「けど」
 滝野は不満そうな顔だが春日が黙って座ったため、それ以上は何も言わなかった。
 相変わらずの不機嫌顔で椅子を戻して座る佐伯。
 滝野も水原に連れられて自分の席に戻っていった。

102 :春の日を歩む2人(13) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:19 ID:???
「佐伯」
 長谷川の呼びかけに答えない。
「無視はするな」
「・・・なんだ」
 昼休み、未だに佐伯はチームのオーダーを組んでいる。
「朝のことだ。あれはお前が悪いぞ」
「で」
「でって。だから春日に謝るとか」
 佐伯がもっていたペンを置き、長谷川の方を見る。
「なんで俺が謝らなきゃならないんだ」
「だから」
「俺が悪いからか?ふん、機嫌の悪い俺の横で騒いだヤツラのほうが悪いに決まってるだろ」
「おいおい。それは逆恨みだろ。それにいいのか?春日・・・結構ショックだったみたいだぞ」
 春日のことを言われて黙り込む。
「別に。もう、どうでもいい」
「は!?なんだよいきなり」
「今は逆に春日のあのノホホンとした顔が恨めしく見えるくらいだよ」
「・・・そうかよ。んじゃ、俺が春日にアプローチしていいってことだよな?」
「どうぞ。てか、いちいち俺に聞くな」
 長谷川が振り返る。
 彼らのすぐ側には、春日が立っていた。

103 :春の日を歩む2人(14) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:19 ID:???
 数分前屋上。
「にしても佐伯も心が狭いよな〜」
「あ、でも。朝はともちゃんたちも悪かったと思います」
「なんでだよ。ちよ助はあんなヤツの味方なのか〜〜!?」
 いつものように6人で食事を取る春日たち。
「キャプテンで大変な上に、チームメイトが事故だろ?そりゃ誰でも不機嫌になるだろ」
「あぁ。そういや、野球部の顧問も変わったんだろ?確か古木だったかな。なんかすげー嫌な先生らしいぜ」
「そうやったんか・・・悪いことしてもうたんやな・・・もう一度謝らな」
「大阪いいって、どうせ自分のことしか考えてない頑固親父なんだから」
 滝野はそう言うが、春日の顔は悲しみであふれている。
 顔色もいつにも増して青白くみえた。
「私、やっぱり謝ってくるわ」
 立ち上がり教室に向かう春日。
「ちゃんと謝らな」
 教室に入ると、佐伯はしかめっ面で長谷川を睨んでいる。
 まだ気が立っているせいで声も大きく、春日の耳に佐伯の声が入ってきた。
「今は逆に春日のあのノホホンとした顔が恨めしく見えるくらいだよ」
「・・・そうかよ。んじゃ、俺が春日にアプローチしていいってことだよな?」
「どうぞ。てか、いちいち俺に聞くな」

104 :春の日を歩む2人(15) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:20 ID:???
「春日」
 佐伯も春日の存在に気づく。
「あ、あんな・・・朝は・・・ほんまにかんにんな・・・あ、ごめんなさいやった」
 春日の頬を涙が伝う。
「もう。なるべく話かけへんようにするわ・・・今までごめんな」
 佐伯に背を向けると廊下に向かって走り出す。
「佐伯、追えよ」
「いい。言ったろ、どうでもいいって」
「佐伯!!お前、いつからそんなに腑抜けになったんだ。そこまで部活が大事なのかよ!!」
 長谷川が佐伯の襟首を掴み締める。
「何とか言えよ!」
「お前こそ追いかければいいだろ」
「くそっ」
 長谷川は佐伯を離して、背を向ける。
 そして、春日を追って廊下へと出て行った。
「こぼれた水は・・・もう戻らない・・・か」

105 :春の日を歩む2人(16) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:09 ID:???
 佐伯と春日が話をしなくなって数ヶ月。
 冬休みを間近に控えた日。
「さみぃ〜」
 その日、春日は長谷川と一緒に下校していた。
「そやなぁ。長谷川君は寒いの嫌いなんか?」
「あんまり好きじゃないな」
 二人は付き合ってはいない。
 しかし、最近ではこうしてたまに一緒に登下校をするような仲になっていた。
 傍目には付き合っているようにしか見えないのだが、二人の中ではそれは違うものだった。
「今日も見に行くのか?」
「うん」
「風邪引くなよ」
「うん」
 公園の前で春日と長谷川は別れる。
 そして、春日はゆっくりと音をたてないように公園の中心へと向かう。
 そこでは、佐伯が素振りをしていた。
 部活の休みの日は必ずここで素振りをしている。
 そして、それを見つからないように遠くから見るのが春日の日課だった。
「佐伯君」
 佐伯は一心不乱にバットを振る。
 秋大会ではチームが安定せずに惨敗。
 佐伯自身も不調で打撃も守備もボロボロだった。
「へ、へ、へ・・・へーちょ」
 小さなくしゃみ。
 それと同時に、春日は木の陰に隠れる。
「き、気づかれたやろうか」
 木の陰に隠れたために、佐伯の方を見ることが出来ない。
 だが、彼女のほうに近づいてくる気配は全くしなかった。
 春日がゆっくりと木の陰から顔を出して、先ほどまで佐伯の立っていた方を覗く。
「あれ?」
 だが、そこには誰も居ない。
「帰ってもうたん?」
 誰も居ない公園。
 寂しく悲しい気持ちが彼女の胸にこみ上げてくる。
 佐伯の居た場所をもう一度見る。
 すると、先ほどまで彼が鞄を置いていたベンチの上に赤い何かが置かれていた。
「なんやろ。忘れ物かな?」
 近づく春日。
 ベンチの上には赤いマフラーと一枚の紙。
『風邪引くなよ』
 殴り書きのように乱暴にかかれたその文字は、まぎれもない佐伯の字だった。
「佐伯君」
 春日がマフラーと置き手紙を手に取り、胸に抱く。
 ほんのりとしたあたたかみが彼女を包みこんだ。

106 :春の日を歩む2人(17) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:10 ID:???
 春。
 三年生になった春日。
 教室を見渡すが佐伯の姿はどこにも見当たらない。
 クラス替えは二人を別々なクラスへと引き離していた。
 冬の一件以来、挨拶程度は交わすようになった。
 だが、それだけだ。
 昔のように親しく話をすることは無くなった。
「大阪。なにしてるんだ?」
「あ〜・・・うぅん。なんでもあらへんよ」
 そうは言うが、春日の声には元気がない。
 春になり運動系の部活も始動し始めた。
 佐伯の野球部もほとんど休みが無い。
 もう、彼が公園で素振りをすることも無いだろう。
「いけばいいじゃん」
 滝野が寂しそうな顔の春日に向かって言う。
「そんなに寂しいなら行って、自分の想いを伝えてくればいいじゃん」
「えぇんや。見てることが出来れば」
 春日は首を横に振る。
「それに、甲子園行くために頑張ってるんや。邪魔しちゃあかんやん」
「大阪。それは逃げだぞ?そりゃ、私も前は色々言ったけどさ、でも、そんなに好きなら」
 春日の手が滝野の口を塞ぐ。
 そして、もう一度首を横に振った。
「そうか。なら、私たちが出る幕じゃないな。けど、それならもう少し元気を出せ。それじゃあ、同情を誘ってるようなものだぞ」
 滝野の後ろで話を聞いていた水原が口を挟む。
「うん・・・よみちゃんはかなわんなぁ」
 微笑む春日。
 だが、その表情はもの悲しい雰囲気をかもし出していた。

107 :春の日を歩む2人(17) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:10 ID:???
 野球部の練習が始まる。
 新しいオーダーにも慣れてきて、やっと打撃と守備が繋がりはじめてきた。
 いや、去年の秋の惨敗をバネに、冬に鍛え直した部員たちの力は秋の何倍もの実力をつけたためかもしれない。
 佐伯のバットも快音を響かせ続けている。
「やってるやってる」
「冷やかしならお断りだぞ。ま、部活に入ることを前提に見学に来てるならいいんだけどな」
「まさか。3年になって部活に入るわけないだろ」
 バックネット裏に立つ長谷川。
 その隣で練習を見る佐伯。
「で、用はなんだ?お前がなんの用も無しにグランドに来るとは思えなんだが?」
「ほれ」
 長谷川がポケットから白い封筒を取り出す。
 表には丸まった字で佐伯様と書かれている。
「俺にはその手の趣味は無いぞ」
「俺もだ。頼まれたんだよ、妹にな」
「妹なんていたのか?」
 封筒を受け取ってポケットにしまう。
「出来の悪い妹だ。んじゃ、練習頑張れよ」
「おう」
 長谷川が校舎の方へと歩いてゆく。
「出来の悪い妹・・・ね」
 佐伯はもう一度封筒を手にとって書かれた文字を見る。
 見覚えのある文字。
 そして、長谷川に妹が居ないことなど、友人である佐伯は知っていた。

108 :春の日を歩む2人(18) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:11 ID:???
「あ〜。懐かしぃ〜」
「神戸!!」
「みなさん、お疲れ様でした」
「いや。疲れるのはこれからだろ」
 神戸駅。
 そこのエントランスに春日・滝野・美浜・水原の4人が立っていた。
 佐伯の所属する野球部。
 地区大会では快進撃を続け、去年の優勝校を破り、ついに夏の甲子園のキップを手にした。
 4人はその応援のために夏休みを利用してここに来ているのだ。
「榊さんと神楽さんは午後にならないと来ませんし、どこかで時間を潰して待ってましょう」
「さんせ〜」
 駅を出て、手近な喫茶店へと足を運ぶ四人。
「いらっしゃいませ。4名様ですね。こちら・・・あ。春日か?」
 店員の男性が春日の顔を見て尋ねる。
「お〜・・・誰やったっけ」
「あら。あんなぁ、3年前まで同じクラスだった俺を忘れんなや。沖や、沖。ほんまに覚えてへんのか?」
「お〜おぉ〜。沖君や。東京弁やからわからんかったわ」
「お前は声と言葉で判断してんのかい」
「あははは」
 彼女が神戸に居た頃の旧友。
 それだけに掛け合いもバッチリあっている。
「沖!!」
「あ、バイト中やった。ごほん。こちらの席へどうぞ」
 沖が春日たちを席へと案内する。
「友達か?」
「うん。沖君ゆうてな、結構一緒に遊んだ仲や」
 4人ではお茶を飲みながら話をする。
 時たま、沖が会話に加わっては、店長に怒られ仕事に戻ってゆく。
「なぁ、よみ」
「うん。大阪の顔。だろ」
 心からの笑顔。
 去年の秋からほとんど見せることの無かった表情。
 春日を心配しているからこそ、今回の応援を計画した滝野と水原にとっては複雑な心境だった。

109 :春の日を歩む2人(19) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:11 ID:???
 並んで歩く沖と春日。
 榊たちと合流するために店を出たのだが、丁度、沖のバイトの終わりと重なったために彼も一緒することとなった。
「ふぅん。春日のとこの学校が甲子園でるんか。えぇなぁ」
「沖君とこはでとらんのか?」
「あ〜、無理や無理や。俺んとこ弱いんよ」
 二人だけ先を歩く。
 数歩送れて榊、神楽が合流したメンバーが歩いている。
「どうよ、あの二人」
「どうもこうもないだろ。ま、私たちがこれ以上は首突っ込む必要もないだろ」
「そうですね」
 6人が泊まるホテルの前まで歩いてきた。
 最初から最後まで春日は沖と楽しく話を弾ませていた。
「じゃあ、春日、また明日な」
「ほなな〜」
 沖が押していた自転車にまたがり走り出した。
「明日?」
「大阪、明日って佐伯の試合だぞ?応援に行かないのか」
「大丈夫や。沖君、球場まで送ってくれるさかい。応援には間に合わせるで」
 笑顔でホテルに入る春日。
 残りのメンバーは先ほど以上に複雑な顔つきだった。
「私帰ろうかな」
「はっ!?何言ってんだ、とも」
「だってさぁ」
「でも、甲子園に出るのすごいから・・・春日さんと佐伯さんのこと抜きでも」
「そうそう。応援するだけしようぜ」
「そうですよ。それに、勝ったら佐伯さんと一緒に喜びましょう」
 あまり高校野球に興味の無い滝野は未だに渋い顔をしている。
 少しだけギクシャクした感じのまま、その日は過ぎていった。

110 :春の日を歩む2人(19) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:12 ID:???
「ついに試合だ。一戦負ければ終わりだからな。死ぬ気でやれ」
 野球部の顧問が檄を飛ばす。
 ぶっきらぼうで、乱暴な言葉遣いのため誤解されがちだが、生徒想いの先生だ。
「大丈夫だ。俺たちは強い。行くぞ」
『お〜!!』
 佐伯の掛け声にあわせ、部員たちも声をあげる。
 場所は彼らが泊まっていた旅館のロビー。
 旅館の従業員や他の客も彼らを応援してくれる。
 客の中には同じ高校の生徒がちらほら。その中に長谷川の姿もあった。
「よっ」
「来てくれたのか、サンキュ」
「そりゃ、甲子園だもんな。でだ。あいつらも応援に来てるぞ」
「あいつら?」
「・・・出来の悪い妹たちさ」
 それを聞いて佐伯はバツの悪そうな顔をする。
「嫌なのか?」
「まさか・・・無様な姿は見せられないなと思って」
 一瞬、佐伯は何かを考え込む。
「そういうことだ。頑張れよ。試合も春日も」
「・・・おう」
 それだけを言うと佐伯はバスに乗り込む。
「やっぱり、あれは春日だったんだ」

111 :春の日を歩む2人(21) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:13 ID:???
 球場の前。
 選手を乗せたバスが止まる。
 バスを降りる佐伯。
「よっ。応援に来たぞ。ふっふっふ、感謝しろ」
「リラックスしていけよ」
「今日は頑張ってください」
 滝野たちが降りたすぐ側に立っている。
「当たり前だ。目指すは優勝!」
「おぉぉ。頼もしいぜ」
「・・・大丈夫。佐伯さんたちは・・・勝てる」
 佐伯の前に立つ5人の少女。
「春日は?」
「あ、あの。ちょっと寝坊しちゃって」
「・・・昨日一緒だった男か?」
「なんでわかるんだ!?佐伯エスもご」
「バカ。なんで、そんなこと言うんだよ」
 水原が滝野の口を塞ぐ。
「やっぱそうか」
「昨日、私たちを見つけたらな声をかけてくれればよかったのに」
「ん。まぁ、楽しそうに笑ってたし。まぁいいかなって」
 苦笑する佐伯。
「本当にいいのか?」
「ん?」
「本当にいいのか?だって、大阪も佐伯も」
「いいんだ・・・俺は彼女を笑わせてあげれなかったから。滝野、ごめんな。あと、心配してくれてありがと」
「バカ・・・言う相手が違うだろ」
 滝野がうつむく。
 他の4人も同じだ。
「んじゃ。会場に入るよ。頑張るから、応援してくれよ」

112 :春の日を歩む2人(22) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:14 ID:???
「あかん。試合はじまってしまうやん。もう行くで」
「春日」
 沖が春日の腕を掴む。
「好きや」
 沖がバイトしているあの喫茶店の中。
「え?」
「お前のことが好きなんや」
 沖が春日を見つめる。
 手を離し、立ち上がる。
「私」
「高校卒業したら、東京に俺も行く。そしたら・・・一緒に暮らさへんか?」
 彼女の肩を掴み抱き寄せる。
「ぁっ」
「幸せにする。だから」
「・・・沖君・・・私・・・」

113 :春の日を歩む2人(23) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:15 ID:???
 高く打ち上げられた白球は、その勢いを落とし、外野のミットに収まる。
「すまん」
 アウトになったバッターが戻ってきて一言つぶやく。
 ネクストバッターサークルに居る佐伯。
 彼に対して言ったものだった。
 最終回にして0対1。ツーアウト。ランナーは2塁。
 守りに特化した相手チーム。
 最初の緊張していたスキをつかれ、1点を取られた。
 対し、佐伯たちはこの回のツーベースヒットを除いてはヒットは出ていない。
 佐伯も三振とゴロで打ち取られている。
 そんな状況で佐伯がバッターボックスに入る。
「ま、初出場にしてはよくやったほうじゃないか?」
 キャッチャーが佐伯に対して言う。
 このチームの心理作戦の一つだろう。
 最初からキャッチャーはバッターに対してボソボソ囁きかけていた。
「俺たちは去年ベスト8まで行ってるからな。負けても恥じじゃないさ」
 冷静を装っている佐伯も、集中力はすでに無いに等しい。
 それほどまでに、初出場とキャッチャーの心理攻撃。そして、春日のことが彼を追い詰めていた。
 ピッチャーが振りかぶってボールを投げる。
 バットは空を裂き、ボールはキャッチャーミットに収まる。
「す〜・・・は〜・・・」
 深呼吸するがあまり変わらない。
 第二球。
 ボールがバットの上部をかする。
 高く上がったボールはそのまま、バックネット裏に落ちていった。
 ツーストライク。
 ピッチャーにとっては最高の。バッターにとっては最低のカウント。
 佐伯の頭に去年の地区大会がよぎる。
 春日の応援を受け、ホームランを打ったあの試合を。

114 :春の日を歩む2人(24) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:15 ID:???
「今日はさすがに来ないか」
 バットを握り、ピッチャーを凝視するがなかなか投げてこない。
 審判の方を見ると、タイムの構えを取っている。
「ん?」
 審判がタイムを指示しながら見ている先。そちらは、佐伯たちのベンチの方だ。
 佐伯もバットを構え直しながらそちらを見る。
「な!?」
 佐伯の目に映ったのは、一人の少女がチームメイトに抑えられている姿だ。
「放してぇな。応援するんや」
「だから、ここは部外者以外は立ち入り禁止だ。応援するなら客席で」
「ダメや。もう、時間ないやんか。応援したら、すぐに戻るさかい」
 春日歩。
 少女は目に涙をため、顧問の先生に懇願している。
「・・・春日!!」
 佐伯が叫ぶ。
 ベンチに背を向け、バットを片腕で高く高く上げている。
 誰もがその動きを止め佐伯に注目する。
「ありがとう」
 バットを構え直し、ピッチャーを睨む。
 ベンチの騒動が納まりタイムが解ける。
 地区大会とは違って冷静なピッチャーだ。
 何事もなかったかのように、先ほどと同じテンポでボールを投げる。
 しかし、佐伯は先ほどとは違った。
 集中力を取り戻した佐伯のバットは、ボールを芯でとらえ快音を響かせる。
 青い甲子園の空に白球は吸い込まれていった。

115 :春の日を歩む2人(25) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:15 ID:???
「おめでとう」
「ありがと」
 球場の外で春日と佐伯が顔をあわせる。
 長谷川と滝野のお膳立てだ。
「春日のおかげで勝てたよ・・・これで、2度目だな」
「えへへ。私は勝利の女神やもん」
 ほんのりと染まった頬。
「・・・そういや、一緒だった男は?」
「あ〜、しっとるんや。沖くんな・・・告白されたんや」
 黙り込む二人。
 セミの鳴き声だけが耳に入ってくる。
「そ、そうか」
「えぇんか?」
「え?」
「私が、沖君と付き合ってえぇんか?」
 うつむいた春日の顔は佐伯からは見えない。
「昨日。春日の顔を見てたら。すごい笑顔だったから」
 また、沈黙が二人の間に訪れる。
「なら・・・私・・・行くわ・・・沖君・・・待ってるさかい」
 佐伯に背を向け歩き出す春日。
 一歩。また一歩とゆっくりと歩き出す。
「・・・っ」
 背中から抱きしめる佐伯。
 目を瞑り背中を預ける春日。
「行くな」
「・・・うん」
「俺でいいんだよな」
「うん」
「いらいらしてると、好きな子でも八つ当たりしちゃうような男だぞ」
「えぇよ。人間だれでもそうやねん」
「巨人ファンだぞ」
「あかん。それだけは許されへん」
 そう言うと、春日が振り向く。
 見つめあい、微笑む。
「キス・・・してくれたら許したる」
「んっ」
 目を瞑り、近づく顔。
 交わされる口付け。
「佐伯君・・・好きやねん」

116 :春の日を歩む2人(26) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/15(水) 09:45 ID:???
 春。
 卒業と入学。別れと出会い。
「・・・またな」
「ぃゃゃ」
 駅のホーム。
 春日の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
 佐伯が春日を抱きしめる。
「毎日電話する」
「ほんまに?絶対の絶対に?」
「あぁ。同じ日本なんだ。月に一回は歩の所に遊びにくるよ」
「・・・二回や」
「わかった」
「大学卒業したら、雄一の所にいってえぇ?」
「あぁ。待ってる」 春。
 卒業と入学。別れと出会い。
「・・・またな」
「ぃゃゃ」
 駅のホーム。
 春日の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
 佐伯が春日を抱きしめる。
「毎日電話する」
「ほんまに?絶対の絶対に?」
「あぁ。同じ日本なんだ。月に一回は歩の所に遊びにくるよ」
「・・・二回や」
「わかった」
「大学卒業したら、雄一の所にいってえぇ?」
「あぁ。待ってる」
 佐伯は春日の身体を離すと彼女の手をとる。
 そして、ポケットから取り出した小さなリングを薬指にはめ込む。
「そうしたら。結婚しよう」
 今度は春日の方から抱きつく。
「幸せや」
「あぁ。俺もだよ。じゃあ・・・行ってくる」
「頑張ってな。あ、浮気したらあかんよ」
「んっ。愛してる」
 身をかがめ、キスをする。
 長く、しかし二人にとっては短いキス。
「いってらっしゃい」
 佐伯が電車に乗り込む。
 それと同時に閉まるドア。
 彼女は想い人の居なくなったホームで一人、また涙を流した。
 嬉しさ。悲しさ。待ち遠しさ。寂しさ。
 そんな感情が彼女の胸を締め付けていた。

(完)

117 :限界 ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/15(水) 09:50 ID:???
どうも。長かった割にはあまりメッセージ性もなにもない作品?
中途半端な終わり方に見えている人も多いかと思います。
本当はこの後。大阪が大学を卒業して結婚するまでの2年間の話も考えてはあるんですが。
とりあえず止めます。
ひょっとしたら第2章として書くかもです。

・・・最終話。崩れた!?
同じ文章が2回・・・あうあう。2行目から14行目は飛ばして読んでください。
ごめんなさい。

118 :名無しさんちゃうねん :2005/06/15(水) 22:16 ID:???
いや、お疲れさまでした。
今後も頑張ってください。

119 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/06/16(木) 04:59 ID:???
珍しい大阪の純愛ストーリー…
切ないです

120 :名無しさんちゃうねん :2005/06/19(日) 02:58 ID:???
>>117
続きがあるのなら、最後までウプすべし! SSスレにテーマに沿ったSSをウプすることに、何も、誰も遠慮を
することはない。……だろ?
評価を求めるのなら、それからだ。

121 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:33 ID:???
「はぁ。もうあかん」
「どした?」
 大学の食堂のテーブルにつっぷす春日。
 同じテーブルについてオムレツを食べる滝野が聞く。
「雄一が恋しい」
「昨日、会ったばかりだろ」
「だからやねん。毎日でも会いたいんや」
「重症だな」
 大学に入学して3ヶ月。
 過去にも似たようなことはあったが、今日の春日はいつにもまして暗い。
「そら、ともちゃんは彼氏が近くにおるからえぇわ。遠距離の辛さなんてしらんもん」
「そうだけどさ。でも、佐伯も同じように苦しみながら頑張ってるんだろ」
「………多分」
「なら、大阪も頑張らないと」
「そやな。がんばらな」
 春日が顔をあげる。
 先ほどよりは明るさを取り戻したようだ。
「そうだ。今週の日曜にさ、よみ誘ってデパートにいかねぇか?新しい水着でも買おうぜ」
「よみちゃんか。久しぶりやな」
 高校卒業を境に春日たちはバラバラになった。
 水原は春日たちとは別な4年生の大学。美浜はアメリカに留学。榊は北海道で獣医師を目指し、神楽は他県の体育系大学へ。
 一緒なのは春日と滝野だけだ。
 佐伯雄一。彼は、スポーツ推薦で、関西にある大学へと進学していた。
「変わってないぜ」
「そか。楽しみにしとるわ」
 幼馴染の滝野と水原。進む道は違えどその関係は変わらなかった。
 もっとも、お互いに出来た恋人のせいで昔ほどの関係ではないのだが。
「………元気だせよ」
「おおきにな、ともちゃん」

122 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:33 ID:???
 日曜日。
 春日は一人デパートの中を歩いていた。
「あかん。暇や」
 水原はサークルの会合。滝野も前日に急にキャンセルになっため、一人で来ていた。
「家に居たほうがよかったやろか」
 当初の目的であった水着売り場の前を通り過ぎる。
 横目でチラリと見たが、買い物をするような気分ではなかった。
 10分くらい売り場を見て、エレベーターに乗る。
「かえろ」
 珍しく空いているエレベーター。
 乗っているのは春日の他に一人の男性のみ。
「……春日?」
「え?」
 不意に男に声をかけられ振り返る春日。
 型の古いエレベーターがゆっくり下がり始める。
「沖君」
 沖和雅。春日の旧友で去年、一度再会した青年。
「買い物か?」
「そやで。沖君はなんでここにおるん?」
「大学はこっち来る言ったやん」
 沖の顔が険しくなる。
 沖は一度春日に告白した。
「一度は振られたけど、忘れられへんかったんや」
 結果は彼の言ったとおり。
 春日は沖の下を離れ、佐伯と想いを遂げた。
「私は……?」
 エレベーターが止まる。
 表示は1階を指しているが、ドアが開かない。
「あかん。どのボタンもきかんで?」
「どういうことや?」
「故障やろか」
 沖が非常用通信ボタンを押すと、係員の声が返ってくる。
 どうやら、機械のトラブルで止まってしまっているらしい。
 10分ほどで1階に下ろすとのことなので、それまでおとなしく待つことになった。

123 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:33 ID:???
「あ〜、今日は厄日や」
「そうか?俺にとっては嬉しいで。春日と一緒におれるんやからな」
「沖君」
「ほんで、春日の彼氏は今日はきいへんのか?」
 春日の頭に佐伯の顔が浮かぶ。
 今頃は大学のグラウンドで野球の練習をしているだろう。
「近くにおらんのや。遠くの大学に行って」
「なんや。そうなんか。俺なら、春日を置いてどっか行ったりせぇへんで?」
「ちゃうねん。雄一は、そんなんやあらへん」
「春日」
 沖が春日に近づく。
 それにあわせて春日も下がるが狭いエレベーターの中。すぐに追い詰められてしまう。
「あかんよ」
「……俺を見てはくれへんのか」
 春日を抱きしめる沖。
「あかん。私は」
「俺は春日が好きやねん。一生幸せにする」
 幸せ。
 その言葉が春日の頭に響く。
「私は」
 沖の顔が春日の顔に徐々に近づく。
 涙を流すが、はっきりとした否定を表さない春日。
「好きや」
 春日の涙が零れ落ちる。
 彼女の脳裏にフラッシュバックする佐伯の顔。
 そして、一つのシルバーリング。
「ダメや」
 もう少しで唇が触れ合いそうな瞬間。
 春日は両手で沖を拒絶する。

124 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:34 ID:???
「春日」
「かんにんな。けど、私には雄一しかおれへんのや」
 そう言って、左手を見せる春日。
 その薬指には綺麗に光る飾り気の無いシルバーリング。
 丁度その時、エレベーターのドアが開いて店員が入ってくる。
 エレベーターから降ろされる二人。
「春日。幸せか?」
「……幸せや。あまり会えへんことは寂しいけど、その分、会った時は心が張り裂けるくらいに幸せなんや」
「そうか」
 店員の謝罪を受け、粗品を受け取る。
 そして、二人は外に出た。
「春日」
「え?」
「幸せにならんと、あかんからな」
 それだけを言うと沖は走って行ってしまう。
 人ごみの中、すぐに春日の視界からその姿は消えてなくなる。
「沖君」

125 :限界 ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 11:58 ID:???
えっと、春の日を歩む2人の第2章です。
のっけからやってしまいました。
タイトルNoが、全部(1)orz
本当は(1)〜(4)です。
これにめげずに更新するので、長い目で見守っていてくれると幸いです。

126 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:05 ID:???
ズル‥‥ズル‥‥。
後左足を引き摺る音と降り注ぐ雨の音が耳障りだ。

………痛ぇ…。
動かすたびに脳に衝撃が走り地面の赤い跡が数を増やす。

とにかく痛ぇ、足が…全身がいてぇ…。
これが俺の足かって思うほどいてぇ…でも結局は俺の足だからいてぇ…。
何故こんなに足が痛いのか、何故こんなを説明すると一時間前の事、
といえども一言で済む。

今日他所の野良猫が俺の喧嘩を吹っかけてきやがった。
「チチッ…あいつ…5匹で襲いやがって……」
最後には俺が勝ったが俺も全身ボロボロ、特に足の怪我が酷い。
もし今犬にでも襲われたりすれば一たまりも無い。

ドサリッ

127 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:06 ID:???
背中が雨に晒されているらしく凍えそうだ。
「?」
気が付くと俺のすぐ目の前に地面があった。
地面にうつぶせのまま倒れている。
体を起こそうとするが両手両足への命令が全く伝わらない。
感覚も無くなってきている。

自分の血が小さい水溜りを濁した。

ああ…突然だが…俺も…か。

思えば色々な事があったよな…
今まで人間のデマかと思っていた走馬灯とか言う物が頭をめぐる。
実際にあるんだな…。

俺を包んだお袋の暖かい体に…
兄弟はみんな優しい白猫だった事…
お袋の優しい笑顔…
姉貴や妹は一匹だけの雄である俺を差別もせずに優しくしてくれた事…

そして───

128 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:07 ID:???
ある日俺だけが目を覚ますとダンボールに居て
理由は俺が黒かったと言う事…

────走馬灯は続く────

すぐに飢えて天敵に襲われた痛み…
そこに駆けつけてくれたマル兄貴の大きい後ろ姿…
マル兄貴の背中を付いて行った時の兄貴の男らしさ…

そして───

129 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:07 ID:???
そして
人間を憎むきっかけとなったお袋、そして姉妹の死体…
お袋達をボロ雑巾のようにしたクズみてぇなクズども…
金髪、歯が抜けた顔、ガキ…
そして気が付いたら金髪の足に噛み付いた事、

────走馬灯でも記憶に無い事は思い出せないらしく
そこからの走馬灯は無い────

気が付いたらマル兄貴の背中に乗っていた事、
マル兄貴のあの時のたくましい背中、
俺と同じ位傷だらけだった兄貴、
誰一人として俺を責めなかった仲間達、

そして…

そして…

あの、人間。
そうだ、あの人間あの女。

130 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:08 ID:???
体が揺すられる感覚に声も聞こえる。
誰だ?
そうかあいつだ。

「…み……こ」
走馬灯が続いている…。

「…み…ねこ! かみねこ!」
記憶には無い姿だ。
人間は慌てている。
雨の中傘もささず、全身を濡らして。

「しっかりしろかみねこ!」
まだ感覚の残る体を暖かい───まるでお袋の腹のような───
───マル兄貴の背中のような───
そんな気持ちになれる物に包まれている。

131 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:09 ID:???
そういえば一度だけこいつに撫でられた時、
気持ち悪いと思った。
今思えば…それは嫌悪では無く…安d…

「頑張って!今病院に…」
走っているらしく多少ゆれているがそんな事は気にならない位に安心出来た。
「他の野郎には…知らせられないな…」
まさか人間を憎む自分が幻覚の中とは言え、人間なんかに抱かれて
落ち着いてるなん…て。

「かみねこ…?」
人間の腕がこんなに温かいなんて知らなかった…。

132 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:09 ID:???
「かみねこ!!」
もしそうだと知ってるなら…仲間が…居る以上仲良く…する訳にはいかない…だ…
ろうが…
「かみねこ!!」
頭…くら…いは…撫でてさせ…やっても…良かったかもな…
「かみね…こ…!」

雨とは違う何かが俺の顔に滴った。
しょっぱい…何の液体だろう…?
目を開けても何も見えない。耳を澄ましてももう何も聞こえない。
結局それが何かは分からなかった。
とりあえず暖かい…それだけは分かった。

目の前は赤く赤く黒く黒く染まっていく…。



もう一度頭を撫でて欲しいなと思った。

FIN

133 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:16 ID:???
以上…。
とりあえずこの続きみたいなもんでかみねこが生きていたらバージョンも
いずれ考えてたり。

134 :名無しさんちゃうねん :2005/06/22(水) 23:28 ID:XxjVTo4A
切ない話乙!

135 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:33 ID:???
明日学校だけど、深夜にずぅっと前の続きを投稿します。遅れてごめんなさい。
そして例のごとくまた続きは不定期です。けどこれほどは遅くはならないです。

↓ずぅっと前の(忘れられてたり・・・!?)
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1081700484/713-716

136 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:34 ID:???
 雨は静かに、降っていた。コンクリートやアスファルトをぬらし、
雨の日特有の香りがした。花がすべて枯れたアジサイがサ――ッと、音を立てている。
静かな、午後。一人ぼっちの、下校時間。
登校初日から天気予報を見ないというのも少し投げやりな感じだが、傘を持っていなかった。
前髪から垂れてくる雨がうざったい。
なんとなく、本当になんとなく過ごしていると、一日は簡単に過ぎていった。
これからもそんな風に安易に流されていってしまうんだろうか。
楽なままに、退屈なままに何もかも過ぎていくんだろうか。
思うと、少しだけぞっとした。
早いところダチ作って、また馬鹿騒ぎみたく出来ればいいな・・・
そんな願いは、簡単にはかないそうになかった。
・・・どうすりゃいいんだろうな・・・・・・
分からなかった。
このボッコボコの顔の理由ってさ、***で****なんだよ、それで・・・・
こんなような事を言って回りたかった。
けど、勿論そんな情けない、逆効果なことはしない。するはずもない。
大山とかいういかにも真面目そうなひょろい奴になるべく社交的に話しかけてはみたが、
これでもかってくらいに相手はおどおどしていた。
思い出すだけであんまり情けなくて逆に笑える。
今は焦らないほうがいいのかな・・・
こういうことで自己完結はした。
けど、昨日公園で会った(、と、いうよりは見かけた)二人とかが同じクラスだったこと
は驚いたし、(特に小さいほう)それに気にもなったけど、話すのはだいぶ先になりそうだな、と思った。

しばらくして次の角を曲がって、家のそばに出たとき。
淡い水色の傘をさしたまま中腰になってる奴がいた。

137 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:34 ID:???
「・・・榊か?」
言ってから違ったら困るな、と思ったけど、その心配の必要はなかったようだ。
「・・・! あぁ・・うん」
体制はそのままで振り向いて、気まずそうにしていたのは、今日名前を覚えた榊だった。
制服のままだけど、かばんを持っていなかった。
「聞いていいかな・・・何してんの?」
「・・・いや・・・その・・猫が・・雨に打たれて寝てたから、つい・・。」
「ふぅん・・・」
「帰りがけに見かけて、やっぱり気になったから・・・。」
「・・・そっか・・。」
気持ちは分からないでもない。
そしてこういう状況で相手がやっぱり気まずいだろうなっていうのも分からないでもない。
何か話しかけようかと少し考えてる間に、先を越された。
「・・傘は?」
「あったらさしてる」
「そうだよね・・ごめん」
「別に謝ることじゃないと思う・・・そのネコさ、とりあえず家に連れてって体でも拭いてやるか?
気になるから見にきたんだろ?ただ見てたって始まらんし、さ。
もしお前んとこが都合悪いなら俺んちでやるから。家、近いんだ」
「・・・手を出すと噛まれるかもしれない・・・この子にはよく、噛まれるんだ・・・。」
「ふーん・・」
何気なく、その灰色のネコに手を伸ばした。すると、寝てたはずなのに、一瞬で軽く手を噛むと、
すごい勢いで逃げていった。
「いってぇ・・・ま、これはこれで良かったんじゃない?元気だったじゃん。」
「手・・だいじょぶ?」
「うん。よゆー。」
返事を聞くと、榊はすっくと立ち上がって、
そしてためらっているのか、恥ずかしいのか、分からない感じで言った。
「あの・・・傘、・・・入る?風邪、引いちゃうと・・・」
「さっきも言ったけど、近いから大丈夫だ。どうも。」
榊は、すこしだけ困ったような顔をして、そして・・・そっか、とだけ言った。

138 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:36 ID:???
俺も立ち上がって、それからそれじゃ、と言った。けど、榊と俺の家の方向は同じらしく、
100mくらいだけど、一緒に歩く感じになった。
「家、同じ方向だったからそれじゃって言うことなかったな。」
「・・・うん。」
「昨日さ、お前はこっち知らなかったろうけど、公園にいたっしょ?」
「・・・。うん。・・・・気づいてた。」
っそっか。
そう言ってしばらくして、榊に本当の「それじゃ」を言った。
そして以外にも家は、隣だった。
昨日見たく雨は止まずに、夜まで降り続いた。本当に聞きたいことは、聞けなかった。

139 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:38 ID:???
>>138
そして以外にも→そして意外にも
昨日見たく→昨日みたく    ・・・アチャー

140 :名無しさんちゃうねん :2005/06/27(月) 20:19 ID:???
和むSSだな…続きがんばれ…!

141 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:53 ID:???
ものすごく思いつきで、即席の短編を一つ。>>138の続きじゃないです。
あと、積極的にageてみます。

まずないとは思うけど、もし既出ネタだったら、本当申し訳ないッス。

142 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:53 ID:???
 少女の目は、虚ろだった。本来なら、小学校2年生であるはずの歳。
静かな、雨の降る小さくて薄暗い路地の端っこに、少女は生気のない顔で寄りかかって座っていた。
着の身着のまま。肩くらいまである黒い髪は、雨でストレートのようになっている。
その先からはひっきりなしにぽたぽたと雫が垂れていた。人は全然通らない。
哀れみなんてそこにはなく、ただひたすらに冷たく雨が降っていた・・・。

一ヵ月後。前よりは少しだけ元気になったその少女は、孤児院に引き取られていた。
入ったのはあのすぐ後だった。
広くて明るい部屋で、同じ部屋にいる子供たち(とはいっても歳はずいぶん上しかいないが)
と話そうともしないで、一人で絵を描いている。
人が二人、クレヨンで書かれていて、その下には「おとうさん」、「おかあさん」と書かれている。
奥の事務室では男の経営者が名簿をめくり、個人情報の整理だろうか、
コンピューターになにやら打ち込んでいた。
パサ、とめくられて、入居者名簿の一番新しい一ページが開かれた。

両親は事故で32日前に死去。両祖父母は既に亡くなっていたため、事故二日後に警察から引き取り、入居。
名前:滝野
パサッッ
ここまで見えたところで、また次のページが開かれた。

143 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:54 ID:???
・・・しばらくすると孤児院の経営者は、コンピューターのフロッピーを換え、
その中の過去の日記を開き、すべてに目を通しながら考えていた。

○月×日 火曜日
今日、新しい入居者が来る。これまでの子供たちの中でも最年少だ。
引き取り先がいないとのことで預かることになる。
ひどくつらいことがあったようでひどく落ち込んでいるとのことだが、
健やかに成長できるように、少しでも早く友達を作って、明るく、幸せになってほしい。
ここの子供たちにも、その旨伝えておこう。

○月*日 金曜日
滝野ちゃんが来てから、数日が立った。周りが話しかけても、上手く対応できていないようだ。
無理もない。週末の楽しい思い出が打って変わってあんなことになってから、まだ一週間もたっていない。
・・あせらない程度に、けど出来るだけ早く明るさを取り戻せるようにしよう。

ここまで読んで、経営者はなんとも複雑な顔をしてため息をついて、なにかをしばらく考えていたようだった。
そして、今日の日記を書き始めた。

144 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:55 ID:???
○月●日 
昨日の晩御飯で、小松君はニンジンが食べれるようになった。
すごく渋い顔をしなければまだ無理なようだが、すごくいいことだ。
滝野ちゃんは、だいぶ明るくなってきた。こっちも、すごくいいことだ。
東京の出資者の財閥も、一昨日こちらに見学に来てくれた。
小松君と庄司さんからの花束贈呈ではとても喜んでいただいたようだが、
元をたどればあの花を買った金も彼らの金なのかもしれない。
・・・・その財閥についてだが、社長が滝野ちゃんを引き取ってもいいとの旨を昨日、
電話でもらった。すごくいいことではあるのだけど、滝野ちゃんはそれでいいんだろうか。
まだあれから一ヶ月しか経っていないのに、対応できるだろうか。この私が不安になっているようじゃダメだが。
滝野ちゃんは昨日聞いたら、とりあえず「だいじょうぶです」と言っていた。
社長さん夫婦は本当にいい人だと良く聞くが、その中で彼女の明るさを取り戻せるだろうか。
もう少しここで対人関係を学んでからのほうが、良いのかもしれない。

書いてから、一度これをまたざっと読み、経営者はまた息をフゥ、と吐いた。

145 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:55 ID:???
「おじさん、私絵書いたんですよー!」扉を開けて、いきなり滝野ちゃんが入ってきた。
"おじさん"はよしてよーと笑って言いながら、頭をわっしわっしと撫でた。
極度のストレスのせいだろう、元々黒かった髪は色素が落ちて茶色くなっている。
うん、上手だね。そう言って、経営者は思った。
大人の勝手かもしれない。けどこの子なら、きっとうまくやっていけるな。
小松おにいさんにも見せておいで、と言うと、少女はうんと言って、とててて、
と駆け出した。それを見送って、美浜財閥に、電話をかけた。
もしもし。あ、ハイいつも大変お世話になっております。社長さんいらっしゃいますか?
・・・・・・・・・あ、ハイ、○○○園です、大変いつもお世話になっております。
滝野ちよちゃんの件なんですが、本人も了承してます。ハイ。ハイ。
あ、分かりました。じゃぁ日程などは後日。ハイ。失礼します。

フゥ。
本日何回目かのため息をついた。

146 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:55 ID:???
数年後。
「いってーきまぁーす!」
明るく通る少女の声が、豪邸から聞こえる。
「忠吉さん、いってきますね!」
わん!
すがすがしい、朝。かつての暗さは少女にはかけらも残っていなかった。
前までにとり損ねた幸せを、今全力で取り戻しているかのような毎日。
今の名前は、美浜ちよ。笑顔の可愛い、元気な少女に成長していた。


 
 ともちゃんは、昔の私と苗字が一緒なんで、親近感が沸きます。
だから、なんでか説明はしないけどともちゃんだけは"ちゃん"です。
けど性格はけっこう、違うかなぁ?

今のお父さんとお母さんには、言葉では言い表せないくらい、ほんとうに感謝してます。
そしてあの事故の後引き取ってくれた○○○園のおじさんにも。
だから、お年玉なんてお受け取りできないです。

147 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/28(火) 19:57 ID:???
age忘れ〜

オオバカヤロウ

148 :名無しさんちゃうねん :2005/06/29(水) 02:38 ID:???
乙です!面白かった

ちよちゃんの出生とか、智とは実は生き別れの・・・とか、
なんかもっと秘密がありそうでワクワクする。
続編待ってます

149 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/29(水) 23:02 ID:???
あぁッッと、すみませんこれは読みきりのつもりでした。
続きも一応考えてはみますが、思いつきだったしもう一つ手がけてるのがあるので
(むしろそっちに力入れたいんで)ちと無理かもです。
他力本願と言われればそれまでですが、もし「続きを書きたい!」「(続きで)面白そうなのが思いついた!」
という人は、どうぞ。

すみません先にこっちを書くべきだとは思いましたが、
>>140>>148
ありがとうございます!これがあるからやめられない!
和む、というのは意識したことなかったです。
まぁけど変に意識すると作風変わったりするかもしれないので、
これまで通りにやっていきます。ど素人なんでそこら辺、まだ制御できてないです。

150 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:07 ID:???
王子さん乙。
>>138は期待してますよ。。
これからどうなるのか、最後はどんな結末か、楽しみにしてます。
>>146は以外にありそうな展開で、とても面白かったです。。


さてさて、自分も遅れていた>>84の続きを落としますよ。。

151 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:08 ID:???
「じゃぁ、ともちゃんのさよならの言葉だ。まずは神楽からだな」
そう言って神楽のほうを向いた。
まだ何も言ってないのに、もう涙で顔をグシャグシャにしてやがる。
こいつ、前からこういうシリアスなのが苦手なんだよなぁ。
「ほら、神楽。何泣いてるんだよ」
「だ、だって…… お前死んじまったんだぞ!」
「別にいいじゃんか。人間いつか死ぬんだからさぁ。
 さ、お前はこれからも水泳がんばれよ。お前ならオリンピックも夢じゃねーぞ!」
「もちろんがんばるさ!けどっ、けど……」
「神楽……」
私は神楽に近づいて、半分抱きしめるような格好になって、耳元で―――
「愛してるよ」
って言った瞬間もう顔真っ赤になって、触れないのに私を無理に振り払おうとしてやんの。
「なっ、なななななっっ!!」
「あっははははは〜〜〜!冗談だよ冗談。私は大阪ともう結ばれてるもん」
「せやで、ともちゃん。浮気はあかん」
「ともっ!お、お前〜〜〜っ!」
神楽はまだ顔真赤だ。
「そう、それでいい。これでいつものお前じゃねーか」
「……もうっ、最期の最期までお前わぁ〜〜〜っ!!」
「あ〜はいはい。神楽かわいいよ。胸大きいよ」
「っかぁ〜〜〜〜〜っ!!」
ま、この調子ならいいよな。
さてと、次は―――

152 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:09 ID:???
「榊ちゃん」
「とも……」
榊ちゃんも涙もろいんだよなぁ。
「前に、マヤー怒らせちゃったね。ま、マヤーに悪かったって伝えといてよ」
「あ、ああ。わかった……」
ま、最期くらい素直に謝っておこう。
引っかかれたけど、なんかあいつは私に似てるような気がしたんだ。出来れば、仲直りしたかったな……
「あとさぁ、かおりんが榊さんのこと好きなんだって!」
「ちょっ……と、と、と、ともっ!!」
あー、今度はかおりんが赤面だ。
「もう一年の時からずーっとさぁ」
「そうなのか?」
「は、はいそうれす!」
もうかおりん緊張しすぎてろれつが回ってない。
「ま、そういうことだから」
「とも!ちょっと待ちなさいよ!」
「ん?」
「その、あ、ありがとう」
うわぁー。お礼を言われたのなんて久しぶりだよ。
えっと、こんな時はどう返事すればいいんだっけ……
「あ、どういうたしまして」
これでいいよな。
そんで、次は…… 次は―――

153 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:10 ID:???
「長かったな小学校から高校まで、12年間か……」
よみから切り出してきた。
「なんでだろうな。昔からちょっとお前の事はうるさい奴だと思ってた。
 いっつもハイテンションで、人を食ったような態度で……」
「それは元気って言うんだろ!」
「正直な話、お前の事を邪魔だと思ったこともあった。
 別に大学が別になってからでも、何ともなくて、静かに過せるようになってよかったと思ってた」
コノヤロウ!こいつは私をそんな風に思ってやがったのか!
「よくさ、『大切なものは、失ってからわかる』って言うけど、本当なんだな。
 私も、お前が死んでやっとわかったんだ。お前が、私にとってどれだけ大切な奴だったかが……」
「せやな。私にもわかる。ともちゃんのことは、よみちゃんが一番よく知っとるって」
「大阪には悪いけど、やっぱり大阪が死んだときよりもショックだよ。
 それに、大阪の時はお前らの様子が変だったら、まさか、なんて考えてたりしてたこともあるけど……」
「よみ…… 最後のお願い、聞いてくれる?」
「なんだよ?」
「私の体、大阪の隣に埋めてくれない?」
「ま、そんくらいなら、やってやるさ」
「サンキュー!」
「ったく、お前はいっつも突然だけど…… 最期までそうだとはな」
月明かりの反射で、よみの眼鏡の奥は見えない。けど、その下からは涙が零れてきてる。
「あれ?」
今になって気づいた。私も泣いてる。何時から……?
「おいおい、気づいてなかったのかよ」
「ともは大阪と抱き合っていた時から泣いてた」
「ほんっとう、自分のことは棚に上げるんだから」
「ともちゃんはいつもこんなんやもんなぁ」
「ま、いいじゃんいいじゃん!」
私が笑うと、皆がつられてちょっと笑ってくれた。
これなら、私が逝っても大丈夫だな。
さてと、最後は―――

154 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:17 ID:???
「う……ん?」
丁度いい具合にちよちゃんが起きた。
さてと、最期にこいつにもキツ――――く言っておかなきゃな。
「こるぁっ!ちよすけ起きろ!!」
「とも……ちゃん?」
あー、やっと起きた。まったく、こいつが事をややこしくしたんだ!
「うそ…… ともちゃん、その体……」
どうやら、私の体に気がついたみたいだ。
「そんな…… わ、私のせいで…… 私が、私がともちゃんを……」
ちよちゃんの目からぶわっ、て涙が溢れる。
「悪いな」
「ともぢゃっ…… 私、私……」
「私が海に誘っちまって、こんな怖いめにあわせちまって」
「え?」
仲のいいあいつらでも、ちよちゃんが私を殺したなんて知っても何も変らないと思う。
けど、それでもちよちゃんの心は傷つくと思うんだ――何だかんだ言っても子供だしな――。
だから、このことはちよちゃんと私の秘密だ。
「悪いな。今まで意地悪しちゃってよー。ま、最期だから謝らせてくれよ」
「あ、謝るのは私のほゔじゃないですか!」
「ちよちゃん……」
大阪がちよちゃんに近づく。
「ちよちゃんも私のこと好きやったなんて気づかんかったなぁ……」
「で……でも私っ……に゙は、大阪ざんを愛する資格な゙んてっ!」
「ちよちゃん」
泣き叫ぶちよちゃんに、大阪がそっと手をかざす。手が、ちよちゃんの髪の中に吸い込まれていく……
「好きな人って、一人じゃなきゃあかんのかな」
「へ?」
「せやろ。ちよちゃんにも友達はたくさんおる。友達と恋人の境目なんてちょっとのもんや。
 さかいな、別にともちゃんっつー恋人がおる私がちよちゃんを好きになってもええと思うんや」
確かにそうだよな。
「ともちゃんも、かまわへんやろ?」
私だってさ、実はちよちゃんと一緒にいた時、大阪に対してと同じような感覚を持った。
もしかしたら、私もちよちゃんのこと―――
「ああ、もっちろん!」
でもそのことは胸の奥にしまっておこう。
だって、ちよちゃんとはもうすぐ別れなきゃいけない。ちよちゃんはまだ生きなきゃいけないから……
それに私には大阪がいる。やっぱりちよちゃんには悪いけど、今は大阪が誰よりも大切だ。
「ともぢゃん、大阪さん……」
「ちよちゃんはな、私たちの分まで生かなあかん」
大阪がさっきからちよちゃんをなでる格好だけ――もう幽霊だから触れないしな――してる。けど、やっぱりちよちゃんにはこれが落ち着くみたいだ。
「私に…… ぞの資格がある゙んでずか?」
「生きることに、資格なんているわけあらへんやろ?せやから、な」
「うっく、わ゙かりましだっ!!最低でも100歳まで生きまずっ!!」
「せやせや。それでええんやで」
「ほら。だからなくなちよすけ。な!」
そう言ってちよちゃんの背中をおもいっきし叩いた。

155 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:21 ID:???
「うわああぁぁぁっっ!!」
ってそうだった。私今何にも触れないんだっけ。おもいっきし空中でグルグルって回転する羽目になった。
「っ。もう、ともちゃんったら」
「ほんま、あわてんぼうやなぁ」
それを見て、ちよと大阪が笑いやがったんだよ
「もー!!ちよすけも大阪もさっきまで泣いてたくせにー!!」
「ともちゃんかて、今から天国行くのになぁ」
「そ、そうだけどさぁ……」
「すっごく大変なことなんやで!」
「そ、そうなのか!?」
「もう死んでしもうたから、ともちゃんの言っとった成長中の胸も成長ストップやねん」
な、何ィ〜〜〜〜!?
「くっそぉ〜〜〜!!大阪っ!何とかしろ!!」
そうだ!せっかく“急”成長してて、榊ちゃんとか神楽とかよみも夢じゃなかったのに!!
「何とかせえ言うても、そんなの死んでもうたら……」
「だぁ〜〜〜っからとにかくなぁ」
「とにかくってもなぁ。別にええやん。私よりはかなりええで」
「なぐさめになってねぇ〜〜〜!!」
「あのっ……」
そんなこんなで大阪と口論――って言えるのかなこれ?――してたら、ちよちゃんが口を挟んできた。
「笑っても…… いいですか?」
「へ?」
いきなりの事ですっごくすっとんきょうな声あげちゃったけど……
「せやな。私も…… くくっ…… 笑ってええ?」
大阪まで言いやがった。けど、こいつもう半分笑ってるし。
や、やめろよ。そんな変な顔で見られたら、つ、つられ笑いが……
「じ、じゃぁ…… っっ…… 私もっっっ」
も、もう限界!!
「だ、だめだもうっ!あはははははは!!大阪、笑いこらえたのすっごく変。あはははは」
「はははははっ、ひどいなぁともちゃん」
「だ、ダメです。私も……あはははははっ!」
ちよちゃんも大阪も笑い出した。
「ぷははははっ。お前ら、こんな時に笑うなんてなぁっ」
「神楽ちゃんかて笑い泣きやん。あっはははは」
結局、皆笑った。大声出して。ちよちゃんも、大阪も、神楽も、私も。
私達みたいに爆笑じゃないけど、よみも、榊ちゃんも、かおりんも、後ろのほうで笑ってる。
やっぱ、こうじゃなきゃなぁ。やっぱりこれだろ。かしましいのが一番いいんだ。
「あはははははぁ〜〜〜〜」
今がチャンスだ。私は葬式とかが得意じゃない。だから今のうちにとっとと成仏しちまおう。
そう思って、私は小声で大阪をつついた。

156 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/07/16(土) 17:21 ID:???
――大阪
「せやなぁ。ほんともう」
――大阪!
「ともちゃんもちよちゃんも―――」
――大阪!!
「なんや〜〜?」
――ほら!今のうちに成仏させろよ!!
――なんで?まだ皆に―――
――いいから!ほら、さっさとしろ!
――わかったわかった。いくで。せぇ〜〜のっ!!
一瞬、体がカッと熱くなった。キツイんじゃなくて、柔らかくて優しい感じ。

けど、あくまで一瞬。それからは何も変らないい。私にとっては。
「あれ?ともちゃんと大阪さんは?」
やっぱり、も私と大阪は皆の前から消えてるんだ。
「逝っちまった…… みたいだな」
「あいつらしいな。いっつも私達を出し抜いてさ」
笑いが止まった。皆から。
ったく、また泣き出すのかよー。本当、私がいないとだめだなこいつら。
「智の…… お墓をつくろうか」
榊ちゃんが私の体を抱え上げた。
「そうだな。今ならあいつらも見てるだろうしな」
「それじゃぁ、私はスコップとってくるよ」
そう言って神楽が別荘の中に入っていく。
「大阪。行こう」
「へ?今からともちゃんの葬式やねんで?」
「いいよ。行こうぜ」
ったく、葬式ってどーも苦手だしなぁ。あの暗〜〜〜い雰囲気ってのがどうも……
通夜の時に出る寿司とかお菓子とかは好きだけどな。
ま、自分自身の葬式見るのも何か変な気分だしな。
「なぁ大阪。天国逝くのって、49日たたないといけないのか?」
「んなことあらへんで。別に今からでもええねん」
「そっか。じゃぁすぐ行こう」
「せっかく今からともちゃんの墓穴を掘るのになぁ……」
お、おい!それって確かに正しいけど、ある意味かなり失礼だぞ!
「んじゃ逝くで〜〜〜 1、2、の3!」
―――――…………
「で逝くで」
っておい、紛らわしいなぁ。
「本当に、ええんやな?」
「いいって言ってるだろ」
「1、2、の……3!」

157 :名無しさんちゃうねん :2005/07/16(土) 19:35 ID:???
またこの終わり方か。

158 :名無しさんちゃうねん :2005/07/18(月) 01:28 ID:???
別に…悪い事じゃ…ねぇと…思うがな…

159 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/07/18(月) 23:25 ID:???
現実的ではない場面でもすぅっと入ってけるのは、そういった箇所の表現とかが
上手いからだと思います。乙!!

160 :名無しさんちゃうねん :2005/08/13(土) 13:09 ID:qKAuteSs
誰か書くと期待age

161 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/08/13(土) 22:47 ID:???
久しぶりっす

>>138の続きを書いてはみたものの、最近ルーズリーフとかにまとめないでやってるんで
明らかに文章力落ちてます。「〜た。」みたいな文が連続したり。
とりあえずちょっとだけ投稿しますね。

162 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/08/13(土) 22:48 ID:???
 Y-1 主人公視点

 窓から街灯のほんわりとした明かりが入り込んで、それだけが部屋をうす明るくした。
ぼんやりと見える時計は、大体午後9時を指している。秋虫の鳴き声が交錯するのがかすかに聞こえた。
学校から帰って自分の部屋に戻り、湿気でべとつくフローリングに寝そべってふと目を覚ますと、もうこんな時間だった。
むくっと起き上がって真っ暗な部屋のドアを開けると、そこにはやっぱり真っ暗な廊下がある。
・・・なんだか自分のこれからを見せ付けられた気がして、階段の電気をつける手が早まった。
家には誰もいないようで、ダイニングにも電気はついていない。
テーブルの上に紙が置いてあって、明かりをつけてみると
「パートで遅くなります。ごはんは炊いてないので、台所にカップ麺置いときます。」
とだけ書いてあった。
なんか食欲も湧かないし、テレビも見たくなかった。
と、いうより、何もしたくなかった。そして何も考えたくなかった。
暗いままの部屋に戻り、窓を開けると、涼しい風が入り込んでカーテンを静かに揺らした。かすかだった虫の鳴き声が強くなる。
窓の向かいの数メートル離れたところには、隣の家の壁がある。
家と家の間には街灯の明かりが淡く差し込んでいた。
しばらくボ―――っとして虫の声を聞きながら、窓枠に頬杖をついて物思いにふけった。
例えば、前の席の高岡。水泳部だったかな?うるさい奴だけど、面白そうだ。仲良くなれるかなぁ。
例えば、大山。あんなにびびんなくてもいいだろ。
例えば、美浜。何者だ!?て感じだけど、馴染んでるのもまたすごい。
そして例えば、榊。俺が言えたことじゃないけど、微妙に怖そうな顔してネコにおせっかいってのも変な奴だ。
・・・そんな少しくだんない事をどんくらい考えていたんだろう?
しばらくして、向かいの家の窓・・・自分のいる窓から少し左側の所に光が灯った。近くで鳴いていた虫の声が止まった。
カーテンが閉まってないので、部屋の大部分は見えてしまっている。なんか結構な数の人形が置いてあって、そのほとんどはネコだった。
あんまり見ちゃいけないだろうな、と思って窓から離れようとして、最後に見えたのは・・・。榊だった。

163 :名無しさんちゃうねん :2005/08/18(木) 21:19 ID:???
む、続きは?

164 :あずまんが王子 :2005/08/19(金) 23:10 ID:UljFt60o
む、PC壊れました

165 :あずまんが王子 :2005/08/19(金) 23:13 ID:???
しまった〜ageちゃった
すんません、ケータイからは慣れとらんもんで…
ささやかながら下げます

166 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2005/08/21(日) 22:31 ID:???
びみょ〜なところですがあゆかぐ
【病院】
「悪い、私は部活があるから後で行くよ。5時半には終わるから間に合うだろ?」
「ええ、市民病院の面会時間は確か7時までですから」
ちよちゃんが答え、榊が無言で頷いた。
帰り際。
珍しく榊の方から話し掛けてきたと思ったら、大阪が風邪をこじらせて入院したんで、一緒に
見舞いに行こうって誘われたんだ。
ああ、線が細くて体力なさそうだもんな。
そのときはせいぜいそのくらいしか思わなかったんだ。
でも。

病院に着いたのは6時半。
受付の人に病室を聞いたら、病状が急変して手術室に運ばれたって言われた。
みんなはもう帰った後みたいで、いなかった。
頭に白髪が混じったおばさんが、赤いランプに向ってぎゅっと目を瞑って祈っていた。お母
さんなんだろうと思って挨拶をすると、ありがとうってお礼をされた。なんと言っていいかわ
からなかったから、とりあえず「きっと大丈夫ですよ」なんて無責任な励ましをしたら、ありが
とうありがとうって手を握られた。
しばらくするとスーツ姿のサラリーマンが、額に汗を浮かべて早足でやってきた。
きっと必死だったんだろう。鬼みたいな形相で「どうだ」と聞かれて、私は一瞬ぎょっとしたけれど、
おばさんが「まだ、わからない」と答えると、「そうか」と言ってソファーにどかりと座った。
それからしばらく、秒針が時を刻む音と鉛のような空気が辺りを支配した。

……もしかしたら時間がループしているんじゃないかと思い始めた時、ようやく手術室のドアが
開いた。
おばさんが跳ねるように立ち上がり、お医者さんに駆け寄った。
「うちの、うちの娘は……」
すると、お医者さんは目だけでにこりと笑った。
「ご安心ください。手術は成功しました。まだ予断は許しませんが、もう大丈夫でしょう」

「それで昨日は見舞いに来ぃへんかったんやなー。なっとくやー」
大阪がベッドの上でふわっと笑った。
「うん、ごめんな。大阪は大阪だと思ってたから。本当の苗字が春日だなんて、昨日まで知ら
なかったよ」
(FIN)

167 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/08/21(日) 22:34 ID:???
最後のオチ笑ったww

168 :名無しさんちゃうねん :2005/08/25(木) 18:50 ID:???
お久ー
忙しい中、SS書き継続しているようで嬉しいです

169 :名無しさんちゃうねん :2005/08/31(水) 19:45 ID:???
だれか投下をキボンヌ

170 :名無しさんちゃうねん :2005/08/31(水) 23:49 ID:???
10日

171 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:29 ID:???
保護監察中のためトリップなしで。

172 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:29 ID:???
【樹海】
「真っ暗だね」
隣に座っているはずのともだちが、私の手をぎゅっと握った。
見えるものは木々の間からかすかにこぼれる明かりのみ。尻に敷いているビニールシートすら見えない。
ただ、時折聞こえる車の走行音だけが、人の領域のそばにいることを教えてくれる。
……どうしてこんなことになっちゃったんだろう。

173 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:30 ID:???
猫の写真を取ることに失敗した私に気を使って、ちよちゃんが子猫の写真を持って遊びに来てくれたあの日の夜。
ふいに、みんなと遊んできなさいと父さんが渡してくれた富士級ハイランドのフリーパスが事の発端。
みんなを誘ったら、どうせなら泊りがけで遊んだほうがいいぜとか、それならちよちゃんの宿泊分はいつもお世話に
なっている分みんなで出しあわへんかーとか、(せっかくCDコンポ買おうと思っていたのにそりゃないぜセニョール
とか、ダブルチョップとか、)いろいろ話が進んで9月の3連休に1泊2日でミニ旅行が決まって。
結局ちよちゃんの宿泊代の一部を負担することに同意させられた滝野さんが、民宿についてすぐに強引にねじ込んだ
樹海探索。
そして、遊歩道を横切った狸かなんかを追って滝野さんが道を外れ、後を追おうとする水原さんを「私が追いかける」
と制して……
その子を見失ったときには私たちも道を見失っていた。
いけどもいけども同じような景色。
目印も見当たらない。
ならばつけようと思っても、10メートルも進めばそれすらも見失ってしまう。
足場もでこぼこしていてまっすぐ進めない。
そうしているうちに日が落ちて、何も見えなくなってしまった。

174 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:30 ID:???
「ごめんね、榊ちゃん。巻き込んじゃって」
学校では聞いたこともないしおらしい声。
顔は見えないけれど、きっと泣いているんだろう。
違う、そうじゃない。
私は首を振る。
あの子をよく見たかったのは、私もだから。
だから、利用した。
私も樹海を甘く見ていたんだ。
それを告げたら、滝野さんは急に明るい声に戻った。
「そうか、榊ちゃんも同じだったか。悩んで損した」
学校で聞きなれた、自分勝手で暴走気味な、いつもどおりの彼女の声。
その行動力にちょっぴり憧れてた、彼女の声。
だから、私はそっとチョップした。
「やったな、榊ちゃん」
「あ、ごめん、水原さんならこうするかと思って」
「よみのチョップなら、もっと激しいぞー。頭かち割られるかと思うくらいだし」
滝野さんが笑った。
「ここから出たとたん、飛んでくるぞ、きっと」
ふと、手に水滴が当たった。
「雨?あっちゃー」
「大丈夫、傘、持ってる。二本」
「さすが榊ちゃん」
私は手探りでリュックから折り畳み傘を取り出し、一本を滝野さんに渡した。
差してみる。
「あー、だめだなこりゃ。離れ離れになっちゃう。榊ちゃん、私なるべく身を寄せるからそっちの傘に入れてよ」
答えるどころか、え?と思う間もなく、傘を閉じる音がして滝野さんがぴったりくっついてきた。
「これでよし。服についたコケ臭さがちょっち気になるけど、あったかいし、この方がずっといいよ」
滝野さんの野球帽がほほを軽く掠めた。
確かに暖かくて、とくんとくんと脈打つ生命の息吹がすごく感じられて、さっきよりもずっと安心できる。
「こりゃあ、かおりんにもチョップ食らうかなぁ」
えっと……
なんて答えてよいやら迷っているうちに、滝野さんの寝息が聞こえてきた。

175 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:31 ID:???
どれほど経っただろうか。
「うひゃぁ!」
滝野さんの声にぼんやりした意識が戻った。
「い、今、靴の上を何か駆けていった」
その声に、靴のほうに目を向けたけど、もう何もいなかった。
でも、ふと気がつく。
見える。
地面も、木々も、ちゃんと見える!
夜が明けたんだ。
車の通る音もひっきりなしに聞こえるようになっている。
「これだけ聞こえていれば」
「うん、十分目印になるよね」
はやる気持ちを抑え、ビニールシートをたたんでしまおうとして、見つけた。
夜には見えなくて気づかなかったけど、リュックの底にアルファベットチョコがいくつか。
「あせるのはよくない。その前に、食べよう」
滝野さんに一つ渡し、自分の一つ口に含む。
そうして簡単な食事を終えると、私たちは歩き出した。

176 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:31 ID:???
歩き出してすぐ、滝野さんの姿が視界から消えた。
一瞬ドキッとしたけれど、ただ転んだだけだった。
「ごめん、大丈夫。ちょっとこけちゃった。こんなところに穴があるんだもんなー」
滝野さんを助け起こそうと手を差し伸べたら、今度は私が転んでしまった。
つかんで体重をかけていた木が、腐っていてぽっきり折れてしまったのだ。
「あはは、榊ちゃんも同類ー」
あっけらかんと笑う彼女に、状況にもかかわらず思わず私も笑う。
「とにかく」
滝野さんはぬるぬるする服を気持ちだけ払うと、自分にも言い聞かせるように言った。
「雨上がりの地面は思った以上に滑りやすいみたいだね。気をつけていこー」
それから、しばらく進んだ。
音に向かって。
希望に向かって。
間もなく木の天井に切れ目が見えた。
きっとそこが国道。そう信じて、少し急いだ。
でも、そこは、本当にただの切れ目だった。
目指して進んできた方向には、一瞬コンクリートかと思うような厚い木の壁が、いまだ続いていた。
それはまるで、私たちをあざ笑うかのような、絶望の壁。
腰から力が抜けて、思わずその場に座り込む。
だめなのかな?
樹海からは絶対出ることはできないのかな。

177 :蛍石 :2005/09/07(水) 19:32 ID:???
「ねえ、榊ちゃん」
ふと、滝野さんがしゃがみこんだ。
「これ、ビニールテープじゃないかな」
摘み上げたそれは、確かに白いビニールテープで。
目で追ったら延々地面を這っていた。
「もしかしたら」
「うん」
これをたどれば出られるかもしれない。
「行こう」
再びつながった頼りない希望。
でもそれは、細々と長くつながって。
たまに切れてもすぐそばに続きが見つかって。
私たちは見失わないよう、足も滑らさないよう気をつけながら歩いて。
それでも何度かバランスを崩して。
そして……とうとうその末端にたどり着いた。
そこはまだ樹海の中だったけれど。
今まで通ってきた道とはぜんぜん違う道。
下草もない。
コケもほとんど生えていない。
何より足の踏み心地がぜんぜん違う。
硬い。
明らかに人の歩く道。
それが、ずっと続いている。
「榊ちゃん。私たち戻ってきたんだよね」
「うん」
「いやっほぉ!!!!!!」
滝野さんは叫んで飛び上がり、転んだ。
(Fin)

178 :名無しさんちゃうねん :2005/09/08(木) 20:41 ID:???
乙いやっほぉ!!!!!!

179 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/09/10(土) 01:19 ID:???
乙です
いやっほぉぉぉう、何度でも転ぼうぜぇぇ

180 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/09/11(日) 08:59 ID:NhAPJ6b.
>>162
おおーおつおつー
PC直ったら、またがんばってください。。
続きに期待してます。

>>166
うはー
最後のオチがすっごく面白かったです。
おつかれですー

>>156の続きです。

181 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/09/11(日) 09:00 ID:NhAPJ6b.
ザック、ザック、ザック……
私は神楽さんからスコップを借りて、ともちゃんの墓を掘っていました。
「ちよちゃん…… そろそろキツくなってきただろ。交代する?」
「いいえ。私に掘らせてください……」
ともちゃんは逝ってしまいました。大阪さんと一緒に。
たとえともちゃん自身が私を許しても、私は…… 身勝手な理由でともちゃんを殺してしまいました。
言い訳なんてありません。私は許されない存在です。
大阪さんやともちゃんに許してほしいなんて想いません。
でも…… せめてもの償いに、ともちゃんの墓ぐらいは私が作ってあげたいんです。
そのくらいは…… 許してもらえますよね。
ドサァッ
突然、掘っていたところの一部が崩れて、穴の中に落ちてしまいました。
「きゃっ!」
びっくりしました。
とりあえず、また掘るために穴から這い出ようとして…… 気づきました。
「!!」
「こ、これって―――!」

182 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/09/11(日) 09:00 ID:???
何ででしょうか。
いつもなら、こんなもの見たら絶対驚いて悲鳴をあげてます。
けど、今回は不思議と冷静でした。
恐怖でも、驚きでもなく、最初に出てきたのは…… 涙でした。
「大阪さん……」
ボロリと崩れた土の中から、腕が見えたんです。もう、骨になった腕が……
不思議な話ですが、それが大阪さんだとわかる前に、私は泣いていました。
わからない。わからないけど……
「ちよちゃん…… そろそろ滝野さんを眠らせてあげよう。
 大阪さんも、起こしちゃったから…… その、早く……」
「そうですね」
涙を拭いました。私は強くならなきゃいけないんです。
大阪さんや、ともちゃんの分も生きるために!
だから…… だからだから、絶対に強くなって、100歳でも200歳でも生きて見せます!!
「もう、この辺でいいよ」
「そうですね……」
私とよみさんがともちゃんの頭を、神楽さんが足を持って、その穴にともちゃんを横たわらせました。
ともちゃんは最期の最期まで―――いえ、死んだ後も笑ってます。
なんででしょうね。ともちゃんはいっつも私のこといじめて、弄って、おちょくって……
けど、いっつも笑ってました。時々行き過ぎたこともありましたけど……
人は死ぬときに走馬灯を見るといいます。
走馬灯を見たいと言ってた大阪さんも、多分見れたと思います。
けど…… 自分とが死んだときも見てしまうものだと今わかりました。
本当に走馬灯としか例えられません。
フラッシュバック――といっても経験した事ないのでなんともいえませんが――のように瞬間的に、パッパッとしたものではなくて、
大阪さんやともちゃんと過した時間が、そのときの流れのまままで頭の中で駆け巡りました。
本当に、3年間をそのままやり直したような…… そんな感覚でした。
「それじゃぁ、埋めようぜ…… とももこのままじゃかわいそうだろ?」
「ああ」
よみさんと神楽さんが、ともちゃんを埋めようとスコップを手に取りました。
「ちょっと待ってください!」
私はそれを咄嗟に止めていました。
そして、ともちゃんの手をとって、大阪さんの骨になった手の上に乗せました。
これで二人とも永遠に一緒です。いつまでも……
――私が逝くまで、かなり長くなりますが…… それまでお幸せに
涙が零れました。
それは、冷たくなったともちゃんの手を伝って、大阪さんの骨へ染込んでいきました……

183 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/09/11(日) 09:01 ID:???
ミーンミンミンミ゙ィ〜〜〜
早いもので、あれから10年もの月日が流れました。
「去年は榊さんとよみさんが、仕事で来れませんでしたけど…… 今年は来れるそうですよ」
何年前からでしょうか。
こうやってともちゃんの命日の前の夜から、夜通しで二人のお墓の前でお話するようになったのは。
「今年は、榊さんが自分の病院をつくりました。それから―――」
こうやって、最近の皆さんの報告するようになりました。
きっと大阪さんは、私のわからないようなすごいことを言って、ともちゃんは何だかんだで笑って聞いていると思います。
「私は毎日元気ですよ。  くすっ。大丈夫ですよー。アメリカ行ってもみんながみんな撃たれるわけじゃありません」
二十歳になってから、一年にこの日だけ、お酒を飲んでいます。ちなみに今年は日本酒です。
飲む前に二人のお墓にも全部の半分くらいのお酒をかけてあげます。
健康に悪い事はわかっています。けど、二人にに本当の自分を見てもらいたい。
それに私自身、こうでもしないと本当の自分になれないような気がするんです……

「へぇーよみちゃんに赤ちゃんがなぁー」
「どんな旦那だろうな。大変だぜー、あいつ小言多いし」
にしても、よみが結婚して、もう子供ができてるとはなー
私は絶対30過ぎてもよみは結婚できない――俗に言うあれですよ、負け犬ってやつ――とふんでたのに。
なんだろうな。こうやって実際は話してないのに、結構会話が成り立つんだよな。
やっぱりあれか。友情パワーってやつ?
「ちよちゃんは結婚とかせんのかなぁー」

「私は結婚なんてできませんよ。大阪さんがいるんですからぁー」
だんだんと体がポカポカしてきました。アルコールが体に回ってきたみたいです。
今日は夏なのに結構涼しいので、丁度いい感じがします。

「ひゅーひゅー!大阪愛されてるねー。ちよちゃんからラブラブ告白ぅ!」
「あー、そんなこと言っとると、私、今度ともちゃん抜きでちよちゃんとデートしてまおうかなぁ〜〜?」
わっ!わっ!ごめんなさい。それは冗談ですから。
「えーん。大阪が二股して私のこといじめるー! 大阪がぁ―――」
まぁここは泣きまねだ。かわいい子の泣きまねは絶対グッっとくるって言うし。
このともちゃんのかわいい泣き顔を見たら大阪も―――
チュッ……
「うわわわわぁぁぁっ!?」
キスされた。な、ななな、何だああぁぁぁ!?
「かわええからなー」
「は、恥ずかしいだろー!」
こっちは顔から火がでるほど恥ずかしいのに、大阪ったらなーんも反省してない。
「誰も見てないやん」
「ちよすけがいるだろー!!」
ったくー、こいつ、お墓に酒かけられて酔ってるのかー?

184 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/09/11(日) 09:01 ID:???
「私はまだ100年くらいそっちに行く予定じゃありませんけど…… それでも待っててくれますよね」
何だか…… 今年は妙にお酒を飲んでしまいます。
「いつか…… 私がそっちに行ったら…… また……
 よみさんとか、神楽さんとか…… 榊さんとかかおりんさんとかも一緒に、おしゃべりしましょう。
 何十年後…… いえ、百何十年後になるかわかりませんけど」
涙が溢れてきました。でも泣きません、絶対に。
だって…… 私は強く生きなきゃいけないから……
「だから゙…ひっく……ぅぅ」
今年も泣いちゃいました。いっつも来年こそは泣かないと決めてるのに。
やっぱり、まだ二人の死を現実として受け止められない。
だから八年間も吹っ切れないんです。

あーあーあー、ま〜た泣いちゃったよ。何だかんだ言っても、まだまだ大人じゃないねぇ、ちよすけは。
やっぱりここは大人の私が慰めてあげねば!
「ほら、ちよすけ泣かない泣かな〜い」
「そうやで〜、泣いていいのは玉葱切っとるときだけやで〜」
「大阪、まだまだだな」
「?」
「目にシャンプーが入った時も許可しないと駄目だろ!」
「あ―――!!そうや。それがないと大変や!」
うむ、我ながら的確は指摘だ。

「わがってま゙すよ…… 泣ぎまぜんっよ!」
私だって成長してます。身長は150センチ超えましたし、ゆかり先生の車に乗ってもなんとか大丈夫になりました。
よみさんには子供ができて、神楽さんだって水泳の日本代表になりました。
かおりんさんは、動物を中心に撮影するカメラマンになって、ちょくちょく榊さんに仕事を協力してもらっています。
ゆかり先生とにゃも先生は、すでに旦那さんと子供を持って、主婦になっています。
みんな、たくさん大人になったんです!
私だって、大阪さんやともちゃんの死を乗り越えることぐらい……
「あ……」
その時、すごいものが私の目に入ってきました。

185 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/09/11(日) 09:02 ID:???

「うっわー、今まで気づかなかったなぁ」
「ほんまや」
驚いたのなんのって。いつの間にか、辺り一面黄緑色の光でいっぱいになっちゃってるんだから!

「す、すごい……」
この別荘には何度も来ていますが、こんなのは初めてです。
何十もの蛍が、パァッと一面に漂っています。すっごく幻想的で、神秘的で……
例えるなら都会の夜景でしょうか?それとも天の川……
いえ、魂みたいだと思いました。

「きれいやなぁ」
「こんなにワラワラ集まってるの初めて見た」
ほーんと、綺麗だよなぁ。
ピカソとかムンクみたいなただの落書きなんかよりも、こっちの方がず〜〜〜〜〜っと価値あるぜ?

「ぁ……」
いつの間にか、涙が止まってました。
来年からは泣かない…… 何故かわかりませんけど、そうなるのがわかりました。
大阪さんもともちゃんも、死んでしまいました。
けど、人間はいつか死んでしまう。ただ、別れるのが人より少し早かっただけ。
そして、それを早めたのは……
私は一生罪の十字架を背負っていく運命です。それを捨てるつもりはまったくありません。
けど、これは身勝手な考え方かもしれませんが、大阪さんとともちゃんが、いっつも側で励ましてくれている。そんな気がします。
だから、私はその励ましに誠意一杯答えて、この一生を全うするつもりです。

186 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/09/11(日) 09:02 ID:???
キラッ!
「あっ!!」
流れ星が空を翔けました。
でも、願い事を思い浮かべる間もなく、すぐに消えてしまいました。

「ともちゃん、願い星にお願いできた?」
「ああもっちろん」
こう見えても反射神経には自信があるんだからなー。ばっちしに決まってるだろ!
「何や?」
「ひ・み・つ。 大阪は?」
「あかんあかん。最初の文字の子音くらいで星が消えてもーた」
あっちゃー。日本語の一文字もいけなかったかー
「けど一応お願いはしたで」
「で?なんてお願いしたの?」
「私もひ・み・つや」
「いじわるぅ―――!」
ふーんだ。でも、私は大阪の考えてるくらいわかるさ。
なんせこのともちゃんは天然ボケの大阪の恋人で、天才高校生のちよすけと恋のライバルなんだからな!!
多分、ここにいる全員私とおんなじだろうな。そんで、私の願い事は―――

流れ星は消えてしまいました。まるで、短い一瞬を生きた大阪さんかともちゃんの魂ように。
けど、周りにはまだたくさん流れ星が飛んでいます。
だから、そっと願い事をお願いしました。

――また、みんな一緒になって、どうでもいいようなおしゃべりができますように……

187 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/09/11(日) 09:04 ID:???
やっとこさ完結できましたー
一年前のものよりも、かなり上手くなったと思っているのですが、いかがなものでしょうか。
ちなみに、ここまで長くなる作品を新たに書く気はありません。
創作板とかクロスオーバーの方がかなり長くなる予定なので。
でも、短編とかをたまに投下しようと思ってますので、そのときはよろしくお願いします。

188 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/09/11(日) 11:27 ID:???
大長編御疲れ様でした
病者的なものに関しては上達してると思います
これからも期待してます

189 :名無しさんちゃうねん :2005/09/13(火) 20:44 ID:aCjvH9..
だれかきぼんぬ

190 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/09/13(火) 21:09 ID:???
今気づいた描写ですね
アホか俺は

191 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2005/09/16(金) 17:17 ID:???
野望のラスト。よみちよ投下します。

192 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2005/09/16(金) 17:17 ID:???
【タイピング】
「えーと、ここは『ルーズベルト大統領』でいいのかな?」
「うーん……間違いではないですが、ルーズベルト大統領はセオドアとフランクリンの二人がいますから、『F=ルーズベルト』がより正解だと思います」
「そうか。じゃあ、三角ということで1点、と。合計は……86点か」
「一応合格ラインには達してますねー。そろそろ一休みしましょうか。お茶を入れてきますね」
ちよちゃんがすっと立ち上がり、部屋を出て行く。
たったった。
階段を警戒に下りる音がだんだん遠ざかる。
時はもう3月。
九州ではもう桜も咲き始めたところもあるらしい。
でも、私の桜はまだ咲いていない。
(はぁ……どうして私だけ取り残されちゃったんだろう)
在学中はそう悪い点を取ったことはない。
授業だってまじめに聞いていた。
それなのに、今、私は自分より5歳も年下の娘の家にお邪魔してその娘に勉強を教えてもらっている。
(情けないな。智や大阪ですら志望校に受かったというのに)
確かにあの二人よりはレベルの高い大学を受験した。
でも、それは関係ない。
あいつらは自分達のレベルより高い大学に合格し、私は私の偏差値なら楽に合格して当然の滑り止めすら落ちてしまった。
不運はあった。
1校目は英語で、2校目は古典と世界史で、今までの傾向からすると絶対に出題されないはずの範囲の問題が出題されていた。
(ちよちゃんなら天才だから対応できたかなぁ)

そんな事を考えながら本棚をなんとなく眺めていて、ふと一冊の本に目が止まった。
いや、本ではなかった。
ただそういう風に見えただけ。
パソコンソフトのケース……その背表紙には『ねこねこたいぴんぐ』とあった。
(あれ?ちよちゃんパソコンなんて持っていないはずなのに)
とんとんとん。
ちよちゃんが階段を上ってくる音が聞こえる。
そうだ、本人に聞くのが一番早いよね。

193 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2005/09/16(金) 17:18 ID:???
「ああ、あれは1年生の時に買ったんです」
ちよちゃんは紅茶をスプーンでかき混ぜながらそう言った。
「私、最初の情報実習の時、何も知らなくて恥ずかしかったから、練習して早くみんなに追いつこうと思って。本当は公共の端末にソフトをインストールなんかしちゃいけないんですけどね。てへっ」
ぺろりと舌を出す。
その言葉を聞いて、私は思わず顔が赤くなった。
あの時、ちよちゃんがブラインドタッチできた本当の理由がわかったから。
天才だからじゃない。
陰で努力していたんだ。
問題に真正面から立ち向かっていったんだ。
やっとわかった。
思えば、智も大阪も問題に立ち向かう時はちゃんと真正面から立ち向かっていた。
私みたいに、姑息な受験技術の研究なんてしていなかった。
だから私は取り残されたのか。

「よぉし」
気合を入れなおす。
「ちよちゃん、もう一回一問一答お願いできるかな。今度は全範囲で」
ちよちゃんは親指を立てて力強く微笑んだ。
「はい、頑張りましょう!」
(END)

194 :名無しさんちゃうねん :2005/09/16(金) 21:54 ID:???
よみ「おめでとう」
ちよ「おめでとうございます!」
神楽「おめでとう!」
大阪「めでたいな〜」
榊「おめでとう」
智「おめでとー!」

195 :蛍石 ◆tzCaF2EULM :2005/09/17(土) 12:02 ID:???
>>194
なんかシンジ君になった気分w

196 :名無しさんちゃうねん :2005/09/18(日) 19:07 ID:AY6iBKCM
なんかいろいろキタ━━━━(゚∀゚)━━━━

197 :うちゅー ◆UCHU/Xh/xE :2005/09/19(月) 01:43 ID:???
35 2005/9/19 秘密 (創作)

 なぜなんだろう?
 3年生になって、担任の木村に気に入られている。

 親しくもなかったのに私を授業中に愛称で呼ぶし、
鶴というか怪奇の一声で委員長にしてしまうし、
榊さんとは別のクラスになってしまったし、
私の3年生はこのままでは不幸の湖底で泥となってしまう。
しかもその泥を木村という魚に掻き回されたのでは、
もはやなんと形容していいか分からない。

198 :うちゅー ◆UCHU/Xh/xE :2005/09/19(月) 01:43 ID:???
 すべては木村のせいだ。
いったい彼は私のどこを気に入ったというのだろう。
木村の基準は胸が大きく、美しいということのはず。
私はサイズも普通だし、背も普通だし、
容姿も目立っているわけじゃない。
木村の奥さんはとても美人で、胸はとても大きく、
いつか奥さんを見かけたとき男子が興奮しながら話題にしていた。
 これにはなにか秘密が、裏があるにちがいない。
私と木村の好みを結びつけるなにかが。
それを解き明かし、木村を退け、
私はあるべき自由を獲得するのだ。

そう、これは私の戦いだ!

199 :うちゅー ◆UCHU/Xh/xE :2005/09/19(月) 01:45 ID:???
 ――その決心から、すでに2ヶ月も経過してしまった。
一時的とはいえ木村から解放される夏休みはまだはるか彼方なわけで、
私はいまだに木村の地獄から脱出することができないでいる。
クラスメイトは誰もが木村を気味悪がっていて、
私に蜘蛛の糸を垂らしてもくれない。
みんな私ひとりだけを犠牲者として地獄に押し込め、
天国でのうのうと暮らしている。
 頼れるのは自分しかいない。

 そうだ。他力本願はいけない。4月に誓ったじゃないか。
これは私の戦いである、と。いままであまり行動に移さなかったけど、
こうなったら木村の秘密がどうのこうのという以前に、
その弱みを掴んで脅すといったくらいはやらないといけないだろう。
 私は犯罪に手を染めることにした。
お母さんお父さんごめんなさい。かおりは悪い子になります。

200 :うちゅー ◆UCHU/Xh/xE :2005/09/19(月) 01:46 ID:???
 週末というか土曜日、木村は一家3人で車に乗って
出かけたのを見計らい、木村の家に侵入することにした。
金曜に木村が私に言っていたからだ。
やつは気味が悪くて女子高生大好きで
セクハラまがいのこともしでかす変態のくせに、
やたらと家族想いで良い父親を演じている。
きっとそれはそのままの演技に違いない。
今日、私は木村の裏を暴き、英雄になるんだ。

 木村の家はローンが20年残る一軒家で、まだ新しい。
だけど犯罪があまり起こらない平凡で平和な団地にあるためか、
戸締まりはいいかげんだ。新聞受けを開け、
中に入っていた自転車用のオイル容器を取ると、
ほら、娘さんのために用意してある、予備のカギが隠れてる。
 簡単なものだ。

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