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あずまんがSSを発表するスレッド パート4!!

1 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/05/14(土) 00:04 ID:???
前スレのリンクです。
あずまんがSSを発表するスレッド パート3

http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1081700484/

暴力・猟奇・グロなど読み手を選ぶ内容のSSは以下のスレッドに投下する点は前スレと同じです。

グロまんが大王
http://www.moebbs.com/test/read.cgi/oosaka/1081698529/

新しいスレでも、またがんばりましょう。

37 :名無しさんちゃうねん :2005/05/16(月) 00:44 ID:???
>>36
GJ!!オチが良かった
大阪ワールドも健在だしw

38 :27GETTER ◆pXWVmj9lto :2005/05/16(月) 22:56 ID:???
>>36
正直、久々に萌え死んだ

39 :国防委員長 ◆Ps6jeUWgS6 :2005/05/16(月) 22:57 ID:???
>>36
今日、携帯で何度も見返した。
最高だ!!

40 : :2005/05/18(水) 11:22 ID:???
>>36
素晴らしいっすね
大阪さんの独特の雰囲気を出すのって凄い難しいのに見事でした
GJ!!

41 :名無しさんちゃうねん :2005/05/19(木) 19:08 ID:???
age

42 :名無しさんちゃうねん :2005/05/22(日) 17:44 ID:???
だめだ〜〜我慢できん!!どなたかSS書いてくれ!!禁断症状で死にそうだ〜!!


というわけで、age

43 :シンデレラ? ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:44 ID:???
「・・・ごしごし・・・ごしごし」
 つぎはぎだらけのドレスを着た少女が雑巾がけをしている。
「ごしごし・・・ごしごし・・・ふぅ。これで半分ですね」
「ちよ。ちよは何処?」
「あ、はい。ただいま」
 呼ばれ、少女は立ち上がる。
「あら、まだこんなところにいたの?頼んでいたドレスは出来てるのかしら?」
「おまえ・・・ずいぶんノリノリだな」
「意地悪お姉さんって、はまり役ですからね〜」
 ちよが掃除していた舞台に、3人の女性が入ってくる。
 義姉である、智とかおり。義母である暦だ。
「にしても、なんで私が母親なんだ?しかも、意地悪って」
「ぷぷぷ。はまり役」
「お前が言うな!!」
「あの〜・・・えっと・・・ドレスは出来てるんですけど・・・」
 ちよが奥からドレスを持ってくる。
 少々裾を引きずっているがそこは愛嬌でごまかした。
「意地悪やらせたらよみにかなう人はいねぇだろ!」
「なに〜!?どの口が言うんだどの口が!!」
「バーカ!バーカ!!」
「わけわかんねぇよ!!お前の方が馬鹿だろ」
 ちよは手にドレスを持ったままオロオロとその場で二人を見ている。
「えっと、じゃあ、二人でやろうか」
「あ、かおりさん・・・はい」
 笑顔になったあとに、まじめな顔になってかおりがちよに向けて指をさす。
「ドレスは受け取ったわ。いいこと。今日は舞踏会だけど、アナタはお留守番よ!!お〜っほっほっほ」
「・・・かおりさんもはまり役なんじゃ・・・」
「あ、私のセリフとった!!かおりん、ここじゃセリフねぇじゃん」
「智ちゃんが喧嘩してるのが悪いんだよ〜だ」
「はぁ、どうでもいいけど、終わったんならはけるぞ」
 暦が智とかおりんの背中を押して舞台袖へとはけていく。
 ちよがあっけにとられていると、舞台を照らしていたライトが昼間のものから夜へと唐突に切り替わった。
「あ、あははは・・・えっと・・・・・あ、続き続き・・・舞踏会に私も行きたかったなぁ」
「ホンマに行きたいんか?」
「あなたは!?」

44 :シンデレラ? ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:45 ID:???
 突然、部屋の一部分がスポットライトで照らされる。
 そこに立っている黒いローブとフードで身を包んだ女性が立っている。
「魔法使いの大阪や・・・でな、ホンマに行きたいんか?舞踏会」
「え?あ。。。。あの?」
「ちよちゃんが行ってもまだおもろないで?途中で疲れて寝てまうのが落ちや」
「いや、落ちって」
 大阪が徐々にちよに近づいてくる。
「でな、思ったねん。ちよちゃんじゃなくて私が舞踏会に行くねん」
「あの。それは、シンデレラから」
「と言うわけでや。この毒リンゴ食べてくれへんか?」
 大阪がリンゴを取り出してちよに差し出す。
「何処に持ってんですか!!それに、毒リンゴはシンデレラじゃなくて白雪姫です。大阪さん、もう少しまじめに」
「私はマジメやで?そかぁ・・・行きたいかぁ。しゃあないなぁ。ならネズミとカボチャを持ってきてぇな」
「あ。はい」
 ちよが舞台袖にはける。
 数秒後、ちよはカボチャをかかえ、後ろに二人の男性をつれて戻ってくる。
 二人の男は灰色の布を頭からすっぽりとかぶっているだけだ。
「なんや、この二人?ネズミ男でももっとましやで?」
「ひ、ひどい」
「うぅ。こんな役なら裏方の方がよかったよ」
「あ、あの。カボチャとねずみさん・・・ですけど」
「ちよちゃん。もっと男を見る目つけなあかんで。・・・えぇわ。今回はこれで手を打ったる」
 大阪は持っていた杖を高くかかげ、掛け声と共にそれを振り下ろす。
 同時に舞台上に大量のスモークが。
 まったく何も見えなくなる。
「けほけほ。少し・・・煙・・・多すぎです」
 徐々に煙がはれてくる。
 ちよのそばには大阪も二匹のネズミ男もいなくなっていた。
「ちよちゃん。その馬をつかってぇな。ほななぁ」
「ふぅ・・・え!?えぇぇぇぇ」

45 :シンデレラ? ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:45 ID:???
 煙が晴れ、そこに現れたのは運動着姿の1人の女性。
「強気に本気、素敵に無敵、元気に勇気!名馬神楽、神に遣わされただいま参上ぅ!」
「あ。あわわわ。。。。大阪さ〜ん、ねずみは二匹でしたし、カボチャは?カボチャは〜??」
「ふっふっふ。ちよちゃん。細かいことは言いっこなしだぜ」
 神楽はちよを背負う。
「しゃべると舌噛むから、黙ってろよ〜。いっくぜ〜〜」
 ちよを背負ったまま神楽が走り出す。
 舞台を飛び降り、客席の通路を走る。
「あ、わ、わ、わ、わ、わ」
 そのまま、ドアを開けて外に出てゆく。
 同時に、流れる優雅なメロディー。
 舞台はいつの間にか、舞踏会の会場へと変貌を遂げていた。
「王子さま。今日はお招きにあずかりありがとうございました」
「いやぁ。派手だねぇ」
「さ、さか・・・榊さんの王子様姿・・・うぅぅぅぅぅぅ・・・・写真撮らせてください!!」
 暦が智とかおりの頭を小突く。
「いや。うん・・・来てくれてありがとう」
 困ったような顔で榊が軽く手を上げる。
「今日は王子様のお妃様を探されるとか・・・では、後は若い者に任せて」
 そう言って暦がスススと後ろに下がる。
「えっと・・・」
「あ、あの。お、踊ってくれませんか?」
 真っ赤な顔をしたかおりが一歩前に出る。
「あ。う、うん」
「や、やったぁぁぁぁ。あぁ、榊さん、私は一生この日を忘れません。えぇ、忘れませんとも、日記にも書いて永久保存版ですぅぅぅ」
 あまりのかおりの壊れっぷりに一歩引く榊。
「んじゃ、私は何しようかな。あ、よみ!!料理ばっか食ってるとまた太るぞ!!」
「いいんだよ、甘いものじゃねぇから」
「・・・いや、その理屈はおかしい」
 先ほど後ろに下がった暦は、皿に大盛りの料理を載せて頬張っていた。
 かおりは、無理やり榊を引っ張って踊りだし、智は暦をからかっている。
 突然、客席側のドアが勢いよく音を立てて開かれる。

46 :シンデレラ? ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:45 ID:???
 同時に鳴り止む音楽。
 全員の動きがとまり、その方を見る。
 当てられるスポットライト。
 そこには、美しいドレスに身を包んだちよ(リボンプラスバージョン)が立っていた。
「・・・王子様。私と・・・踊ってください」
 ちよは微笑みながら、舞台に向かう。
「よろこんで」
 榊は顔を真っ赤にして応える。
 かおりの手を振り解き、近づいてくるちよに手を差し出す。
 ちよは、みなが見ほれるほど可愛らしかった。
 可愛いもの好きの榊から見ればその効果は数十倍にもなっている。
「王子様」
「ちよちゃん」
 二人が手を取り合うと、再度音楽が流れ始める。
 流れるようなダンス。
 身長差がありながら、二人のダンスは息のあった綺麗なものだった。
『・・・さっき言い忘れてもうたんやけどな、ちよちゃん。12時になったら魔法のドレスは消えるで〜』
 急に場内スピーカーから大阪の声が聞こえる。
「あう。大阪さん・・・雰囲気ぶち壊しです」
 同時に鳴り出す鐘の音。
「12時!?・・・あ、帰らないと」
 ちよは王子の手を振り解き舞台を降りる。
 客席から通路を駆けてゆく。
「ちよちゃん!」
 しかし、いかんせんちよの足は遅い。
 客席を抜ける前に12時の鐘がなり終わった。
「残念やったなぁ」
 目の前に大阪が現れる。
「え?」
「12時になったら魔法のドレス消えるて言うたやん」

47 :シンデレラ? ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:45 ID:???
 言うと同時に、ちよのドレスの肩から生えていた一本の紐を引っ張る。
「え?・・・きゃぁっ」
 ドレスがバラバラになり、足元へと落ちる。
 ちよは、その場でスクール水着姿になってしまった。
「ありゃ。水着きっとたんかぁ・・・下着姿を期待しとったんやけどなぁ」
「お・お・・・さか・・・さん」
「なんや?」
「そこ!どいてください!!」
 ちよは顔を真っ赤にしながら客席を駆け抜けていった。
「え・・・えっと。あ、こ、この靴はさっきのちよちゃんの!」
 呆気にとられていた榊がなんとか元の話に戻す。
「兵士たちよ!この靴にあうちよちゃんを探してくるんだ。その人が私の妃だ」
 暗転する舞台。
 いつの間にか大阪も姿を消していた。
「ふぅ。それにしてもあのちよちゃん誰だったのかな?」
「おい。その会話は何かおかしいぞ?榊のセリフもそうだったが」
「そうねぇ。ちよちゃんを探すなんて、そう簡単なことじゃないのに」
「だから!!ちよちゃんイコール謎のお姫様みたいな使い方は間違ってるだろ」
 最初のセットにもどり、暦と智とかおりがお茶をしている。
 ちよはそのすぐそばでお盆を持って立っていた。
 そこに兵士の格好をした男性がやってくる。
「ここに、可愛らしいちよちゃんはいないか?いたら、この靴を履いてみるんだ」
「・・・あぁ、もうどいつもこいつも。ほら、ちよちゃんご指名だよ。早く履いてみて」
「え?あ・・・でも、先によみさんたちが」
「いいんだよ。こんな茶番劇にはこれ以上付き合えない」
 そういって、テーブルに顔を突っ伏す。
「くくく。そんなこと言って、さっき食べ過ぎて動きたくないだけだろ」
「むぐ!そ、そんなわけないだろ」
「じゃあ、立てよ」
「てめぇ!!」
「あの、あの。私が履きますから、喧嘩はやめてください」
 ちよが差し出された靴を履く。
「あぁ、ぴったりです」
「はいはい。よかったよかった。めでたしめでたし、はい解散」
「うぅ。ともちゃんひどいです」

48 :シンデレラ? ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:46 ID:???
「もう。なんなんですかあの舞台は」
「台本なし。配役も本人以外には伝えない限界ギリギリの舞台はどうだった?」
 舞台袖に集まった役者たちに担任であるゆかりが声をかける。
「むちゃくちゃですよ・・・水着を着てなかったらどうなってたか」
 むくれるちよ。
「ご飯はおいしかった。うん」
「お前、そればっかだなぁ」
 料理を思い出し悦にひたる暦とつっこむ智。
「私は榊さんが・・・かっこよかったから」
「ちよちゃんが。可愛かった」
 お互いに好きな物がみれてよかったかおりと榊。
「あんな。王子様のキスはどこいったん?」
「もう少し出番ほしかったな」
 相変わらず勘違いしている大阪。
 少しだけ不満げな神楽。
「んじゃ、今度は西遊記やってみよ〜」
『今度!?』

(完)

49 :限界 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/23(月) 17:49 ID:???
芸術発表会・・・みたいな感じのネタ。
ちょっと長かったですかね。
実は前スレとか読んでなくて・・・・ネタかぶってるのあったらごめんなさい
では。また何か書きに来ます。

まぁ、この板の別スレでSS・・・書いてるんですけどね。
トリップはつけてないので。わからないと思いますが

50 :名無しさんちゃうねん :2005/05/23(月) 19:11 ID:???
GJ!!
展開がうまかった。

>ちよちゃん=謎のお姫様みたいな使い方

ここら辺の流れ激ワロス。

51 :名無しさんちゃうねん :2005/05/24(火) 20:07 ID:???
やべえ めちゃ笑いながら読んでた
うまいことキャラの特徴と笑いのツボをおさえてていいな。

52 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/05/26(木) 19:34 ID:SBtO6zLU
>>43-48
本当にあずまんがでありそうでな話の展開で、落ちもすっごく良く、とても楽しませていただきました。
GJ!!

53 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/05/26(木) 21:57 ID:???
キャラの特徴というか、役回りというか、はっきりしてて読みやすかったです。
ん―――・・キャラが立ってるってことでしょうか。

西遊記だとラブひな5巻のあずまんが版みたいになりそうで面白そうですね。
いや・・・ラブひな読んだことなかったらすんません。

54 :限界 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 17:01 ID:???
>50さん 
実は、自分に対する突っ込みだったりします。書いてて最初気づかなくって。
読み返してみておかしいと思って、よみちゃんを突っ込み役にしてみました。

>51-52さん
ありがとうございます。そう言っていただけるとうれしい限りです。
原作の雰囲気をなくさないようにするのに気をつけてみました。

>53さん
キャラは特徴ありますからね。他作品よりもこういうのは書きやすいです。
ラブひなのは知ってますけど。西遊記はあくまでオチだったんで、何も考えてませんでした。
今度考えて見ますね

えっと。新作できました。何回かに分けるので、時間かかりそうです。
あと、作品は主人公とちよちゃんの視点でかかれます。
主人公してんの時は−TAKA− ちよちゃん視点の時は−CHIYO−と頭に書きます。
今回のは書いたことの無い分野なので、手探りで作品を書いています。
修正したほうがいい部分などは、教えてください。
内容を読んでもらえればわかると思いますが、別スレの大阪メイン小説を読んでいたら書きたくなってしまいました。
やばいです。微妙にパクッてます。
大阪の兄さん。どうか暖かい目で見守ってくれると嬉しいです。

55 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 17:03 ID:???
−TAKA−
 美浜ちよという名の少女がある高校に通っている。
 俺の義妹だ。
 もっとも、彼女はまだ11歳。
 本来であれば小学6年生なのだが、特例中の特例で高校に飛び級。今は高校2年だ。
 俺の友人たちは、俺のことをうらやましがる。
 可愛い義妹がいて、ゆくゆくは恋人だと。
 と、いっても。俺には幼女の趣味はまったくない。
 俺とちよは8歳の年齢差だ。恋愛感情を抱くほうがおかしい。
 彼女は俺の・・・妹なのだから。
「うわ。雨か。そういや、日本は梅雨時期だったっけな」
 俺は中学を卒業して、アメリカの高校に進学をした。
 色々大変だったが、努力の甲斐もあって今はMITの学生だ。
 そして、2年ぶりの帰国。
 羽田空港に降り立った俺は雨の降る外を見ていた。
「タカお兄さん。おかえりなさい」
 外を見ていた俺の背後から声がかかる。
 可愛らしい声だ。
 最後に会ってから2年・・・俺は一日たりともこの声を忘れたことは無かった。
 振り向く。
 声のイメージ通りの可愛らしい姿の少女。
 髪を両側でお下げにし、白いワンピース姿だ。
「ただいま。ちよ」
 美浜ちよ。俺の義妹。
「また、可愛くなったな」
「えへへ。ありがとう」
 少し背も伸びたようだ。
 10歳で高校に入学と聞いて、どうなるかと思ったがどうやら元気でやっているようで安心した。
「さぁ、お家でお父さんとお母さんが待ってますよ」
「そうだな。色々土産話もあるからな、後で聞かせてやるよ」
 俺はちよの小さな手をとって歩き出す。

56 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 17:04 ID:???
−CHIYO−
 お兄さんが帰ってきた。
 美浜貴洋。私はタカお兄さんって呼んでいます。
 4年前にアメリカに留学して、2年前に一回帰ってきたきり。
 電話も手紙もこっちからしないと、絶対に自分からはしてこないお兄さん。
「どうした?俺の顔に何かついてるか?」
「あ。ううん。なんでもないです」
 嫌われたのかなとも思ったけど、お兄さんの優しい顔は変わってませんでした。
 お母さんの言うとおりに、忙しかったのと筆不精なだけみたいです。
 大好きなお兄さん。
 お父さんとお母さんの次に大好きです。
 いつも私に優しくしてるところも好きだし、手をつないでいてくれるのも好き。あと、頭を撫ぜてくれるのも。
 こうして電車に乗っている時でも手をつないでいてくれます。
「結構ビルとか増えたな」
「私はあまり知らないけど、友達がまたビルが建ったって言ってましたよ」
「そういや、高校に行ったんだよな。学業は問題ないとして、友達とかはどうだ?」
「えへへ。大丈夫だよ。友達い〜っぱい出来たから」
「そっか。なら安心だ」
「うん。あ、お兄さんにも今度紹介しますよ」
 お兄さんの笑顔が好き。お兄さんの声が好き。お兄さんの全部が大好きです。
 あ、彼女さんとか出来たのかなぁ?
 もし、彼女さんがいるなら私はあまりくっつかないほうがいいかもですね。
 ちょっと寂しいです。
「あれ〜?どっかで聞いた声だと思ったらちよちゃんじゃん。やっほ〜」
「え?あ、ともちゃん」
 前の座席に座っていたのは、なんと同じクラスのともちゃんでした。
 こんなこともあるものなんですねぇ。
 ともちゃんは座席をひっくり返して、私たちと向かい合う形に座席を変えました。
 あ、お兄さんが不思議な顔で私とともちゃんを見ています。
「紹介しますね。クラスメートの滝野智ちゃんです。ともちゃん、こっちは私のお兄さんです」
「へぇ。ちよちゃんにお兄さんいたんだ。ども〜、滝野智でぇす」

57 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 17:06 ID:???
−CHIYO−
「俺は、美浜貴洋です。よろしく。いつもちよがお世話になってるみたいで」
「あはは。いえいえ、そんなことはありませんよ」
「どっちかっていうと、私が世話をしているような」
「ちよちゃん、言うようになったねぇ」
「は、き、聞こえてました〜!?」
 うぅ。ともちゃんは地獄耳さんです。
「あ、ともちゃんはどうしてここに?」
「あぁ、うちのオトンが出張で北海道に行ったんだ。それの見送り〜」
 へぇ・・・あ。そういえば、ともちゃんのお父さんってどんな人なんでしょう?
 見たことありませんねぇ。
「ねぇねぇ、ちよちゃんのお兄さん」
「ん?」
「彼女・・・いる?」
 あわわわわわ。さっき、私が疑問にしてたことをともちゃんが口に。
 ともちゃんはこういうことが大好きだから油断できません。
「残念ながら。女友達はいるけど、彼女はいないよ」
 お兄さんは肩をすくめて言います。
 なるほど。いいことを聞きました。はっ・・・ともちゃんまさか!?
「へぇ。素材はすごくいいのに・・・ひょっとして性格が悪いとか?」
 確かに。それは私も疑問です。
 って、お兄さんの性格は悪くありません。悪いのはともちゃんの方です。
「そうだ。それじゃあ、私が立候補しようかな」
「ダメです!!そんなの絶対にダメなんです!!」
「ち、ちよちゃん?」
 はっ。えっと・・・あの、私。
「そんな立ち上がってまで否定しなくても。んふふ。お兄さんの幸せ者」
 あうぅ。顔から火が出そうです。
 あっ。お兄さんが・・・頭を撫でてくれました・・・こうされていると、とても幸せな気分になれます。
「いいなぁ。お兄さんかぁ。私もお兄さん欲しかったなぁ」
「えへへ。お兄さんは私だけのお兄さんなんです」

58 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 18:01 ID:???
−TAKA−
「さ、つきました〜」
 俺とちよはタクシーを降りる。
 相変わらずこの家はでかい。
 そういえば、俺がこの家に来てからもう10年以上はたつんだよな。
 俺の両親が死んで、親父の親友だったちよの父に引き取られたのが8歳の時。
「どうしたんですか?」
「いや。相変わらず大きい家だよなと思って」
 丁度ちよが生まれたころのことだった。
 だから、ちよは俺が養子であることを知らない。本当の兄妹だと思っているはずだ。
「お兄さんの部屋はそのままです。あ、シーツとかお布団類はちゃんと洗濯されてますし、掃除もしてありますよ」
「ありがとう」
 俺は荷物を持って二階にあがる。
 お父さんとお母さんの靴が無かったところを見ると、まだ仕事から帰ってきていないようだ。
 俺は懐かしさを感じながら自室のドアを開く。
 ベッドがあって机があって。本棚やタンスがある。
「ん〜・・・やっぱここはいいなぁ」
 俺は荷物を置いて上着を脱ぐとベッドに横になる。
「あれ?これは・・・」
 ベッドと壁の隙間に何かが落ちている。
 白い布?
 ほほう。これはひょっとして。
「お兄さ〜ん。お父さんとお母さんはあと1時間で・・・って、あわわわわわ、な、何を持ってるんですか〜!」
 俺はその白い布を広げてちよに見せていた。
 ペンギンのワンポイントの入ったそれは、ちよのパンツだと思われる。
 それはちよによって奪われ隠された。
「むぅ」
「なんで、こんなのが落ちてるんだ?」
「・・・寂しかったときに・・・お兄さんの部屋で寝たから・・・」
 うつむいた顔が紅い。
「そか。ちよ。こっちにおいで」
 俺はちよを抱きしめる。俺の鼻腔をちよの甘いにおいが突き抜けていった。

59 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 18:01 ID:???
−TAKA−
「休みは短いけど、休みの間は一緒にいような・・・寂しい思いをさせてごめんな」
 ちよが頷く。
 頭もよくて高校生のちよだけど、やっぱりこういうところはまだまだ子供だな。
「お兄さん」
「ん?」
「今日は一緒に寝ていい?」
「いいぞ」
「一緒にお風呂に入ってくれる?」
「もちろん」
「・・・・・・嬉しいです」
 そうだよな。
 やっぱりちよは子供なんだ。自分よりも5歳も上の人たちに囲まれて過ごして。
 不安や寂しさや辛さがないはずがないんだよな。
 少なくとも俺がいる間だけでも、それが和らいでくれればいいな。
「そういえば、お兄さんはいつまでいるんですか?」
「えっと、今日が土曜だろ?2週間はいれるから・・・再来週の土曜までだな。日曜の朝の便で帰るから」
「2週間・・・うぅ。やりたいことがいっぱいあって全部できないかもです」
 ちよは、俺の部屋の本棚から雑誌を取り出す。
 レジャーランドの雑誌のようだ。
 俺の本じゃないな。ま、ちよがここをよく使っている証拠のようなものだ。
「えっと。ここも面白そうですし、こっちもいいですよね。あ、でも・・・」
 一生懸命に雑誌を読んでは折り目をつけている。
 そんなちよを見ているとどうにも微笑ましい雰囲気になってしまう。
「あ。私の顔に何かついてます?」
「いや。楽しそうだなって思って」
「楽しいですよ。お兄さんと出かけるなんてめったにないんですし」
「そうだな。よし、じゃあ俺も片付け終わらせてちよと計画を練るか」
「はい!」

60 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/27(金) 18:01 ID:???
−CHIYO−
「ふぅ。いいお湯です」
「くく。なに年寄りみたいなこと言ってるんだ」
「そんなにお年寄りみたいな言葉ですか?」
 浴槽にはられた真っ白なお湯。
 普段はこんな入浴剤は入れないんだけど今日は特別です。
「うへ。真っ白だな。これじゃあ何も見えないぞ」
「見えないって何を見るつもりですか?」
「もちろん、ちよのおっぱいがどれだけ成長したのかをだな」
「入浴剤を入れて正解でした」
 お兄さんも湯船につかる。
 本当に入ってしまえば、自分の手すら見えないくらいに真っ白です。
「やっぱ風呂はこうだよなぁ」
「??」
「俺の住んでる場所、ユニットバスなんだけどさ。浴槽が狭くて狭くて。向こうはシャワーが多いから広さは必要ないんだと」
「あぁ。なるほど」
 そうは言っても、お兄さんは背が高いから特別な気が。
 あ、でも、アメリカの人ならお兄さんと同じくらいの背の人はいっぱいいますよね。
 じゃあ、やっぱり狭いのかな?
「温泉に行きたいなぁ。紅葉に囲まれた露天風呂・・・日本の風物詩だよな」
「そうですね。露天風呂って気持ちがいいです」
「・・・ちよ。こっちにこい」
 きゃっ。抱きしめられました。
 さっきと違って裸だから、少しドキドキします。
「あっ」
「ん〜。こっちはあんまり成長してないなぁ」
「お、お兄さん・・・」
 お兄さんの手が私の胸の上で。
「バカバカバカバカバカバカ」
「いてててて。桶でたたくな、悪かったよ」
 もぅ。お兄さんがこんなにエッチになってたなんて。注意しないといけませんね。

61 :名無しさんちゃうねん :2005/05/28(土) 00:14 ID:EUT3sCR6
>>60
GJ!!

62 :名無しさんちゃうねん :2005/05/28(土) 00:24 ID:???
>>60
つ・づ・き!!つ・づ・き!!続きキボンヌ!!

63 :義兄弟 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/28(土) 10:35 ID:???
−CHIYO−
「・・・なので昨日はすごく楽しかったです」
「おぉ。あのお兄さんとか」
 昨日はお父さんとお母さんとお兄さんと4人で遊園地に行ってきました。
 忠吉さんはお留守番です。
「へぇ。よかったじゃないか」
「えぇなぁ。私も遊園地に行きたかったなぁ」
 今はみんなにお土産を渡しています。
「そんなにいい兄ちゃんなんだ。どんな人なんだ?」
「えへへ。見ますか」
 私のカバンの中には昨日撮ったデジタルカメラが入っています。
 カメラのデータにはお兄さんの写真もいっぱいです。
 これで、お兄さんが帰っても寂しくはありません。
 でも、最初だけかもしれません・・・
「ちよちゃん?」
「あ、す、すみません。えっと、この人です」
 みんなが覗き込みます。
「へぇ。結構かっこいいな」
「・・・うん」
「榊さんほどじゃないですけどね」
「隣に住んでた松永さんにそっくりや〜」
「いいなぁ。こんなかっこいい兄ちゃんがいてさ」
「ふふん。どうだ」
「どうして、そこで智がいばるんだよ」
 えへへ。みなさんがお兄さんを褒めてくれると私もうれしいです。
「いつまでいるんだ?」
「えっと、再来週の日曜の朝の便だって言ってました」
「よっしゃ。その前に一回会いに行くで〜」
「おぉ。大阪にしては珍しくいい案だな」
「はい。ぜひ会いに来てください」

64 :義兄弟 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/28(土) 10:35 ID:???
−TAKA−
「貴洋くん。どうだい一杯」
 お父さんがブランデーをすすめてくる。
「酒は二十歳になってからですよ」
「家に居る時くらいは気にするな」
 俺もアメリカでは飲んでいたから別に酒を飲むことには問題はない。
 お父さんの向かいのソファーに腰掛ける。
「ちよは寝たのか?」
「えぇ。先ほど」
 グラスの中の液体に口を含む。
 口の中が熱くなってくる。
「そうか。じゃあ、丁度いい機会だ。帰ってきて1週間たったしな・・・聞いておきたいことがあったんだ」
「なんですか?」
「君が家に来て10年ほどか」
「えぇ。今まで本当にありがとうございます」
 俺は心から感謝している。
 俺のことを本当の子供のように育ててくれたお父さんとお母さん。
「時に貴洋くんは、ちよのことはどう思ってるのかね?」
 聞かれた。いずれそういう質問がくるだろうと思ってた。
「ちよとは血が繋がっていないんだ・・・もし君が」
 ちよは確かに可愛い。
 だけど、10年以上妹として接してきたんだ、いまさら。
「俺はちよのことは妹としか思っていません・・・それ以上でもそれ以下でも」
「・・・そうか・・・ちよ?」
「え?」
 俺は後ろを見る。
 リビングのドアが微かに開きそこからちよの顔が覗いていた。
「あ、あの・・・盗み聞きとか・・・じゃなくて、あの」
「ちよ。今度ゆっくり説明する。今日は寝なさい」
「あ・・・はい」
 俺は・・・寂しそうな顔のちよに何も言えなかった。

65 :義兄弟 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/28(土) 10:36 ID:???
−CHIYO−
「おはよ〜・・・!?ちよちゃんウサギさんや!!」
「え?」
「目が真っ赤やで?何かあったん?」
 昨日は一睡も出来ませんでした。
 お兄さんはお兄さんじゃなくて・・・でも私は妹で・・・
「・・・何かあったのか?」
「あ、榊さん・・・いいえ、ちょっと心配事あっただけです。今は平気です」
 平気・・・です。
 心配ではありますけど、私にはどうすることもできません。
「ちよちゃん・・・今日、放課後時間・・・ある?」
「あ。はい。大丈夫ですけど」
 榊さんが私を誘ってくるなんて珍しいです。
 その日、私は勉強が身に入りませんでした。
 お兄さんのことだけが頭の中をグルグルと回ります。
「ちよちゃん・・・一緒に帰ろう」
「あ。はい」
 今日は榊さんと一緒にどこかに行くのでした。
「どこに行くんですか?」
「・・・もうすぐ」
 私は榊さんと一緒に公園にやってきました。
「修一」
「あ、姉ちゃん」
 ブランコのところに男の子が居ます。
 あれ?どこかで見たことがあるような。
「・・・ちよちゃん。弟の修一」
「あ。美浜ちよです・・・はじめましてじゃないですよね」
「覚えててくれたんだ。よかった。俺は榊修一。小4の時に一緒のクラスだったんだぜ。まぁ、ほとんど話とかしてないけどな」
 あ、そういえば。
「先生にイタズラして怒られてた榊くん?」

66 :義兄弟 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/28(土) 10:36 ID:???
−CHIYO−
「うわ。そういう覚え方か。でも、まぁ・・・その榊だ」
 そっか。榊くんのお姉さんが榊さんだったんですね。
「えへへ。久しぶりですね。元気でしたか?」
「あ、お、ぉぅ」
 榊くんは顔が赤くなってうつむいてしまいました。
 あれ?さっきまで近くにいた榊さんがいません。
「あ、あのさ・・・美浜って今・・・つきあってるヤツとかいるか?」
「え?あ・・・」
 お兄さん。
 あ、あれ?どうしてお兄さんの顔が。
「い、居ません」
「そ、そうなのか。えっと、あっと・・・なんていうか・・・あのな」
「ん?」
 何の用事なのでしょう。
「あのさ。お、俺と・・・付き合ってくれないか?」
「え!?・・・えぇぇぇぇぇ!?
 付き合うって、あの、それは、遊びに行くとか・・・あのあの。
「へ、返事はすぐじゃなくていいんだ。あ、ご、ごめんな。じゃあ、またな」
「あっ」
 榊くんが走って行ってしまいました。
 ・・・私は・・・どうすればいいのでしょう。

67 :名無しさんちゃうねん :2005/05/29(日) 09:29 ID:???
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━

68 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:24 ID:???
−TAKA−
「ただいまぁ。あれ?」
 玄関に見慣れない靴がある。
 大きさはちよのよりも少し大きい程度。けど、男の子の履くような靴に見える。
「あら、貴洋さんお帰りなさい」
「あ、お母さん。お客さん?」
「えぇ。ちよのボーイフレンドみたいなの。ちよったら、違うって言うけどきっと間違いないわ」
 ちよのボーイフレンドか。
「確かにちよにもいてもいい年頃ですものね」
「えぇ。ただ、お父さんがなんて言うか」
 心配はしているようだが、娘に彼氏が出来たことの方がうれしいらしい。
 顔が笑ったままだ。
 ふむ。丁度いいかな。
「お母さん。お話しがあるんですけど」
 ・・・
 俺は部屋に戻って周りを見る。
 といっても、ベッドとタンスと机。あとはラジカセなどの小物類しかないのだが。
「ん〜・・・今のベッドとタンスは借り物だからこれをもっていくとして。小物類は処分かな」
 そんなことを考えながら俺は携帯電話をとる。
「今日が火曜だから、金曜の午前中までにっていうと時間がもうないな。けど、今はシーズン外だしどこかあるだろ」
 手に持った電話帳を机に置いてページをめくる。
 さて、今日から忙しくなりそうだな。

69 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:25 ID:???
−CHIYO−
 あれ?
 私の家の前に停まっているトラック、お兄さんの机を載せていたような。
「では、これで」
「はい。ご苦労様でした」
 お母さんに挨拶した男の人とすれ違う。
 宅配業者さん?
「ただいま。お母さん、今のはなんですか?」
「あら、ちよ・・・おかえりなさい」
 少しお母さんの顔が暗い気がします。
「トラックの中にお兄さんの机が見えたんですけど」
「・・・ちよ。お兄さんねアメリカに行ったの」
「え?でも、帰る日って日曜の朝じゃ」
「帰ったんじゃなくて、向こうに行ったのよ。ちよ宛に手紙を預かってるわ」
 手紙?
 私はとても嫌な予感がしました。
 この手紙を読んでしまったらお兄さんとの関係が全て崩れてしまうんじゃないかっていう予感が。
 けど、読まないとダメですよね。
「ちよ。家に入ってから読みなさい」
「あ、はい」
 私は重い足取りで二階にあがります。
 机に向かって手紙を・・・読みたくはないのですけど。
「・・・ちよへ。この手紙をちよが読む頃には俺はもう日本には居ないと思う」

70 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:25 ID:???
−TAKA−
 ちよへ。
 この手紙をちよが読む頃には俺はもう日本には居ないと思う。
 黙って出てしまってすまない。本当は、ちよにも言っておくべきだったと思う。
 けど、俺はどうも意気地がないらしい。こんな形での報告を許して欲しい。
 俺がちよの本当の兄じゃないことはもう知っていると思う。
 お父さんはもっと別な形でちよに教える予定だったみたいだけど、突然のことで驚いただろう。
 この家の本当の子じゃないのは俺だ。
 だから、俺は家を出ることをあらかじめ決めてたんだ。
 ちよを俺が守らなくてもよくなったら。そう決めてた。
 先日、ちよに彼氏が出来たのを聞いた。
 同い年くらいだけど、きっとちよを守ってくれるような相手になると思う。
 それに、そろそろ俺も妹離れしないといけないと思ってたところだったから。
 ちよはとっくに兄離れしてたのに、情けない兄でごめんな。
 俺の方が整理ついたら、また会いに行くよ。
 ちょっと変な文章になったけど、すまない。
 俺のほうでも少し急なことでまだ気持ちが落ち着いていないんだ。
 じゃあ、バイバイ。

71 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:25 ID:???
−CHIYO−
「・・・お兄さん・・・」
 あ、あれ。涙が・・・止まりません。
 お兄さんの手紙が濡れちゃう。
 っく・・・ひっく。
「くぅ〜ん」
「忠吉さん・・・そう・・・ですよね。お散歩・・・行きましょう」
 今は何も考えたくありません。
 お散歩に行って気分を変えるのもいいかもしれません。
 ・・・変わらないかもしれませんけど。
「じゃあ。行きましょうか」
 ・・・
「ちよちゃん」
 あ。榊さん。
「・・・何かあった?」
「うっく・・・ひっく・・・えっく」
 ・・・
「落ち着いた?」
「はい」
 私は榊さんから体を離して涙を拭きました。
 あ、榊さんの服が私の涙で濡れてしまいました。
「お兄さんが・・・行ってしまったんです」
「・・・そうだったんだ。ひょっとしてと思ったけど」
「え?」
「昨日の夜。散歩していたお兄さんに会って、少し話をしたから」
 そうだったんですか。
 榊さんは少し戸惑ったような感じでしたけど、私に昨日の夜に話をしたことを教えてくれました。

72 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:25 ID:???
−SAKAKI−
 ん?あれは確か。
「あ、あの・・・」
「え?あぁ、君は確か・・・ちよのクラスメートの」
「あ。はい。榊です」
「こんばんわ。散歩かい?」
 私の前にちよちゃんのお兄さんががいる。
 私よりも背が高くてすらりとした男性。
 物腰も柔らかくて優しくて、もっと、前に会ってみたかった。
「いえ・・・コンビニに買い物です・・・お兄さんは?」
「そっか。俺は適当にプラプラと。女の子の一人歩きには時間が遅いから送るよ」
「あ。ありがとうございます」
 いつもなら男の人にこんなことを言われたら絶対に断るのに。
 なぜか今は素直に従ってしまった。
 ・・・買い物も済み、でも全然会話が進みません。
「あのさ。ちよのことよろしく頼むな」
「え?」
 急に声をかけられて思わず立ち止まる。
「俺はもうあいつの側には居られないから」
「けど」
「君がちよの友達の中で一番頼りになりそうだからさ」
 そう言ったお兄さんの顔は少し寂しそうな笑顔だった。
 けど。お兄さんはアメリカに帰ってしまうんだ。だから、なのかもしれない。
 ふと私の頭にあることがよぎった。ひょっとして。
「お兄さんは、ちよちゃんが好き・・・なんですか?」
「兄だからね」
「・・・兄妹じゃなくて、男女として・・・です。お兄さんが恋人をつくらなかったのはひょっとして」
 お兄さんは私に背中を向けて歩き出す。
「さぁね。もう、ここでいいだろ。じゃあ・・・ちよのこと頼むな」
 肩越しに振り向いたお兄さんの顔は、先ほど以上に悲しさと笑顔の混じったそんな顔だった。

73 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:26 ID:???
−CHIYO−
「そんなことがあったんですか・・・」
 私は考えたことがありませんでした。
 お兄さんが私のことをなんて。
「榊さん・・・みなさんには内緒にしてくださいね・・・私とお兄さんは血が繋がってないんです」
「・・・義兄妹・・・なんだ。そっか。それなら」
 榊さんは夕日にしずむ町を見ている。
「ちよちゃん・・・ちよちゃんの気持ちはどうなの?」
「私の気持ち?」
「うん。お兄さんのこと・・・どう思ってるの?」
「私は」
 私は・・・お兄さんのことが。
 お兄さんのことが。
「好きです。大好きです。ずっと・・・ずっと一緒にいたいです」
 そう言った時の榊さんの表情はとても暖かいものでした。
「なら、会いに行けばいい」
「でも・・・お兄さんは」
「大丈夫。ちよちゃんの願いはきっとかなうよ」
 私の願い。
「はい!榊さん。ありがとうございます・・・あ、榊くん・・・」
「うん。ちよちゃんは、笑顔の方がいい。あと、修一のことは気にしなくて言い・・・私から言っておくから」
「いえ。帰ってきたら私が言います」
 えへへ。
 明日は土曜日です。
「明日、お兄さんに会いに行ってきます」

74 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:27 ID:???
−TAKA−
「はぁ・・・」
 本日十回目の溜息。
 先日榊さんに言われてわかった。
 俺はちよのことが好きだったらしい。
「はぁ」
 本日十一回目。
 ロリコンなのか俺は?
 あぁ・・・それだけは認めたくはないのだが。
 ちよが好きだってのは、間違いないよなぁ。
 いや。まてよ。俺が好きなのは不特定多数の女の子じゃなくてちよだけなんだし。
 ならロリコンじゃないな。うん。
「はぁ」
 本日・・・・・
 好きだとわかったとたんに失恋か。
 ピリリリリリリ。
 誰だ?俺がこんなに早くこっちに戻ってきてること誰にも言ってないはずだけど。
 ピリリリリリリ。
「はいはい今開けます」
「・・・お兄さん」
 ちよ?
 やばい。幻視じゃないだろうな。
 そんなわけはないか。いくらなんでも。
「えへへ。遊びに来ちゃいました」
「どうして」
「・・・お兄さん。ふつつかものですけどよろしくお願いします」
「へ?」
 どうして、ちよが俺に頭を下げるだ?
「お兄さん。ちよをお嫁さんにしてください」
「・・・ちょ、ちょっと待て。どういうことだ?」
「私は・・・私はお兄さんが大好きです」
 その日。俺とちよは・・・義兄妹から恋人になった。

75 :義兄妹 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:27 ID:???
−CHIYO−
「ちよちゃん留学するんやよね」
「はい。アメリカの知り合いのお家に住まわせてもらいます」
 えへへ。
 お兄さんの家に住まわせてもらうのです。
 来年からはずっと一緒です。
「・・・なぁなぁ」
「なんですか?」
「ひょっとして、去年来たお兄さんか?」
 う。大阪さんてば、たまにするどいですよね。
「はぁ。ちよちゃんにも春が来てるんやなぁ。私もガンバらなあかんな」
 大阪さん。結構人気あるのに、本人が気づいてないからなぁ。
「ちよちゃん、がんばろな」
「はい!」
「まずは、私は大学受験や・・・彼氏つくるよりも難しいかもしれへんなぁ」
「あ。あははは・・・」

(完)

76 :限界 ◆QkRJTXcpFI :2005/05/30(月) 21:29 ID:???
長・・・長い作品ごめんなさい。
昔の少女漫画とかのオーソドックスパターンかな。
しかも、64-66までのタイトルが間違ってるし。
義兄弟じゃなくて義兄妹です。義兄弟だとちょっとヤバイ感じ。
では。長い作品にお付き合いいただきありがとうございました。

77 :名無しさんちゃうねん :2005/05/31(火) 19:08 ID:McEBvBo2
>>76
すっごく乙_〆(゚∀゚*)

78 :ペンギンダンス :2005/06/01(水) 00:52 ID:???
巧いなー(;゜∀゜)=3 
なんか胸がキュンときました。乙です。

79 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/06/01(水) 19:29 ID:0FjnkBnw
>>76
青春ってかんじですねぇ。
GJ!

80 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/01(水) 20:41 ID:???
乙です!面白かったっす!!ゴチソウサマ――

81 :(ー・∋眠)<.。oO(眠い名有り) ◆4sS6D/pkQc :2005/06/04(土) 08:46 ID:IGS2QQ0c
かなり遅れましたが、
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1081700484/827-829
の続きですよ。

82 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/06/04(土) 08:48 ID:???
「ちよちゃん、がんばれ。あと少しだからな……」
皆が来るまで、ちよちゃんを見守っていた。
息はしてるから大丈夫だ。まだ間に合うって自分に言い聞かせながら。
「ちよちゃん!」
一番に救急箱を持った榊さんが駆けつけてくれた。
「榊ちゃん!早く解毒剤!!」
「わかってる!!」
中にはメスとかいろんなのが入ってるけど、その中から注射器を取りだして、なんかの容器に突き刺して、中の液体を吸い出している。
そうか、あれが解毒剤か。
で、ちよちゃんの腕に打った。
「どう?」
「多分大丈夫。ともが毒を吸ってくれたんだろ?だからそんなに酷い事にはならないと思う」
これでこれで安心できた。
「よかったぁ」
「ああ……」
いつのまにか皆が私の後ろに集まっていた。
「まぁ、あとはちよちゃんを別荘に運べば終わりだしな!」
「そうね」
ふと気づいた。
皆どこか悲しそうだ。まだ、ちよちゃんが意識戻らないからかな?
まぁいいや。気のせいだ気のせい。
ところで、何か忘れてるような気が……
「そうだ!私も海蛇に噛まれたんだ!!」
ちよちゃんのことですっかり忘れてた。このままじゃ私も死んじゃうところだ!!
「お前…… 本当に気づいてないんだな……」
え?よみ、何言ってんだ?
「もう私でもどうしようもなかったんだ……」
榊ちゃんも。
「本当におっちょこちょいね…… あ、あんたって……」
かおりんまで!?
「何だよ!私がどうしたんだよ!?」
「とも、手をかざしてみなさい」
なんかいきなりトンチンカンな質問だけど、かおりんに言われて左手を夜空向かってかざした。
「はいよ」
なんでこんなこと?べつにどーってことないじゃん
「あんた、本当に鈍いのね……」
へ?何が?
「じゃぁ手を私に向かってかざして、良く見ろ」
「よみ!!それは―――」
「いいんだ…… そのほうがとものためだ」
まったく、私の手に何かついてるの?
まぁわかんないけど私は手を見た。
「!!!!」
手によみの顔が映ってた。いや、よみの顔が透けて見えてる
何これ!?どうなってんだよ!?
「な、なんだよこれ!?」
まさか……まさかまさか、私……

83 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/06/04(土) 08:49 ID:???
「もう、わかっただろ……」
今度は神楽が後ろにいた。涙を零しながら、こっちを見てる。
神楽の両肩から腕が垂れ下がっている。
つまり誰かを背負ってるってことだけど、メンバーは全員ここにいる。ってことは―――
「神楽…… もう、覚悟できてる。だから―――」
神楽の持ってるのが“誰か”くらいわかるよ。怖いよ。それを見るのが……
けど…… 見なかったらどうこうなることはないんだよな……
「ほら……」
器用にその“誰か”を手前にもってきて、お姫様だっこで私のほうに向けた。
いっつも一緒にいて、別々になるなんて夢にも思わなかった。
無茶する私にいっつも耐えてくれた―――私の身体(からだ)。
毎日鏡で見ている姿がそこにあった。嘘みたいだけど―――死んじゃってるんだ。
もう、私は…… 死んじゃったんだよな。
あの時だ。別荘の前で転んだ時。あそこのあと全力疾走したのに、辛いどころか、体がフワフワしてたし。
「笑って…るんだぜ。いかにも…お前らし……っい死に方じゃっ……ねーかよ……」
なんで…… 笑ってるんだ?毒でフラフラになって…… なんで?わからない。
けど、満足したからじゃないかな。ちよちゃんを助けられたから。
別に自分の命がどうこうなんて思ってなかった。ただ、ちよちゃんがこんな悲しい中で死んでほしくなかった。ただ、それだけ……
「なぁとも……」
「何だよ?」
よみの声が震えてる。こんなに悲しそうまよみ見るの、大阪の時以来だ……
「満足……してるか?今まで……」
「ああ!」
そりゃぁもちろん―――
「大満足だ!」
大笑顔で返してやった。だって別に死んじゃったのは私だけだし、悲しむ事はないよな。
「そりゃぁこれからお前たちと喋れなくなるのは悲しいよ。
 でもさ、お前たちの事ずっと見守ってやれるし。御用とあれば、ムカツクやつらを呪い殺してやってもいいぜ」
よみのやつ、クスッって笑って―――
「そうか。ならいい」
って言った。
私も、大阪のところに行く事になったんだ。もう、こっちの人間じゃない……
「わっ!」
「うわぁぁぁぁっ!!」
な、なんだ!?
「あはははははは。変わらんなぁ、ともちゃんも」
この声、この大阪弁、このおっとり感、そして何よりもこの感覚……
「大阪ぁっ!!」
約束、守ってくれた。
会いに来てくれた。
「もう、ともちゃん。死ぬの早すぎやで!」
そう言いながら、私の胸――結構成長したんだぞ――に抱きついてきた。少し、涙声だ……
「なに泣いてんだよ〜〜〜。お前らしくねーぞ!」
「だって、ともちゃん死んでもうたんやで!」
「別にさぁ、人間いつか死ぬんだから〜〜〜。それに大阪だって死んでるじゃん。くよくよしてたってしょうがないし」
嘘じゃない。本当にそう思ってる。
だって私が死んでも、皆がそう考えてほしいから。悲しんでほしくないから……

84 :Moment But Happy Life 〜あっというまだけど幸せな命〜 :2005/06/04(土) 08:51 ID:???
「でも、私が死んだとき、ともちゃんやって泣いとったやん!」
大阪の抱きしめる力が強く――てか、もともとこいつ力弱いけどな――なった。
「そ、それは―――」
「まぁええ。お願いや。このままもう少しだけ……」
「ああ……」
綺麗言かもしれないけど、言葉なんて要らない。
お互いに理解しあえてるつもりだし、満足しあえればそれでいいんだ。
「っと、大阪……」
「ん?どないしたん?」
大阪が私を見上げる。
改めてみると、皆がこっちを見てる。
「お前も大阪も、本当にかわんねーな」
「ほんと、死んだなんて思えない」
「別に、女同士で愛し合うのは悪い事とは思わない」
「これなら、あっちの世界でも安心だな」
あわわわわわ。こ、これはかなり恥ずかしいぞ。
「あの、こーゆーことは成仏してからにしよう、な」
大阪をゆっくりと離らかした。
「せ、せやな」
大阪もかなり赤面してる。やっぱ、皆の前でこんな大胆なのは…… やっぱりなぁ。
「あー、成仏で思い出した。私、ともちゃんを成仏させにきたんや」
「ってことは、お迎え?」
「せやねん」
そっかぁ……
やっぱりこのままここにいるってのはダメだな。
「49日間だけこの世にいれるんやけどな。その前にともちゃんをふつーの人には見えへんようにせんとだめやねん」
へー。そうなのかぁ……
「ちょっと寝過ごして遅れてしまったんや」
……おい。
「なぁ、最期にもう少し時間くれよ。皆に一言ずつ…… な?」
「あ―――、そんなことしたら役人さんに怒られてまうんやけどなぁ……」
天国にも役人いるのか。やっぱり無理だよなぁ……
「まぁええで。ともちゃんの頼みやさかいなぁ。怒られるのはゆかり先生ので慣れとるし」
やったぁ!
やっぱりさぁ、最後くらいはけじめつけてきたいよな。
けど、もうこれで最期…… なんだよなぁ……

85 :27GETTER ◆pXWVmj9lto :2005/06/04(土) 08:59 ID:???
>>82-84
リアルで見ました。


86 :限界 ◆QkRJTXcpFI :2005/06/06(月) 13:32 ID:???
>>82-84
乙です。最後がどうなるのか気になるところです。
頑張ってください。

新作できました。一応、続くと思います。

87 :春の日を歩む2人(1) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/06(月) 13:33 ID:???
「あんな。私、好きな人できたんや」
 佐伯雄一の手から箸が転げ落ちる。
「どうした?」
「あ、いや・・・なんでもない」
 友人の長谷川にはそう言ったが、佐伯の顔には動揺の色が出ている。
 もちろん、それは大阪こと春日歩の好きな人発言によるものだ。
 佐伯の後ろの席では、春日がいつものグループと一緒に昼食をとりながら雑談をしている。
「5組の大河内くんや」
「へぇ、大阪ってあぁいうのが好みなのか」
「ダメダメ。大河内はもっとマジメでかっこいい、そう榊ちゃんみたいな女性が好きなんだって」
「えぇ?わからんやん。ひょっとしたら私のこと」
 大河内誠。
 高校2年生にしては小柄な体と中性的な顔立ちで、学年問わずファンが多い。
「でな、実は生まれて初めてラブレターだしたんや・・・今日の放課後裏庭でって」
「うわ!ベタだ!!昭和のベタベタ女がいるぞ!!」
「とも・・・うるさい。そうか。うまくいくといいな」
「そうですね。大阪さん、頑張ってください」
「おおきに〜」
 そこから彼女らはまた別な話にうつる。
 テレビやファッションの話などに。
「大河内ねぇ・・・佐伯とは正反対だな」
「うるさいなぁ。てか、何の話だよ」
「バレバレ」
 長谷川はニヤリと笑う。

88 :春の日を歩む2人(2) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/06(月) 13:34 ID:???
「ごめん。俺・・・好きな人いるから」
 大河内が中庭から去ってゆく。
 一人取り残された春日。
 いつものように笑顔だがどこか物悲しげな雰囲気をかもし出していた。
「・・・あはは・・・ふられてもうた」
 春日はとぼとぼと歩き出す。
 中庭を抜ける校舎の角。
「ひゃん」
「っと」
 丁度中庭に入ろうとしていた佐伯と戻ってきた春日がぶつかる。
「えく・・・えっく」
 佐伯の胸の位置がかすかに湿ってゆく。
「春日・・・」
 その一瞬で佐伯は悟った。
 春日がふられてしまったことを。
「・・・っぅ・・・かんにんな。見ず知らずの女にこんなことされて困ったやろ」
 少したって、彼女の涙声が聞こえてくる。
 どうやら春日はまだ佐伯だと気づいていないらしい。
「あ・・・あれ?」
 顔をあげて佐伯の顔を見る。
「えっと。同じクラスの・・・」
「佐伯雄一。一応去年から同じクラスなんだぜ」
「佐伯君・・・えへへ、かっこ悪いところみられてしもうたな」
「無理に笑わなくっていいって。なんとなく、理由は知ってるから。辛かったら泣いたって誰も責めねぇよ」
 春日の目に大粒の涙が浮かぶ。
 しかし、その顔は先ほどの悲しい笑顔とは違う。いつもの春日の笑顔に戻っていた。
「おおきにな。あ、用事あったんちゃうん?」
「え?しまった。備品取りに来たんだった。じゃ・・・あ、春日って可愛いからすぐにまた、いい人見つかるって」
「あはは。佐伯君って優しいなぁ。ほなら、部活頑張ってな」

89 :春の日を歩む2人(3) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/06(月) 13:34 ID:???
「で?」
「で、ってなんだよ」
 長谷川が牛乳を飲みながら佐伯に聞く。
「その後は?ちゃんと家まで送って帰ったとか」
「だから、部活で使う備品取りに行ったって。これでも俺は野球部だぞ?」
「かぁ。それじゃあ、ダメだろ。もっとアプローチしないと。ふられて悲しんでいる彼女をだな」
「いいんだよ別に・・・それに、そういうのは卑怯な感じがして俺は嫌いだ」
「はいはい。まぁ、名無しから友達Eランクになっただけマシか」
「なんだよ友達Eランクって」
「名前を知ってるだけのただのクラスメート」
 佐伯が渋い顔になるが、当たっているだけに反論は出来ない。 
「そういや、そのお目当ての春日はどこだ?」
「今日は天気がいいから屋上だろ?」
 佐伯の読み通りに春日たちは屋上でお弁当を食べていた。
「そうなんですか」
「だから言ったじゃん。大河内は」
「お前は黙ってろ」
「あはは。でもな・・・えぇねん。ちょっと気になる人・・・いたから」
「なにーーーーー!?昨日の今日でか?誰だ」
 羽交い絞めにしていた水原を振りほどき、滝野が春日に詰め寄る。
「えへへ・・・内緒や」

90 :春の日を歩む2人(4) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/07(火) 13:40 ID:???
「でな、新しい水着買おうと思うとるんやけど」
「いいじゃんいいじゃん。よっしゃ、アタシも買いにいくぞ〜」
 7月初頭の朝。
 外ではセミが鳴き、初夏の日差しがじりじりと肌に食い込んでくる。
「春日の水着姿か・・・見てみたい」
「へ?いややわぁ。そんなえぇもんでもないで」
 春日が顔をあからめて、佐伯の方を向いてはにかむ。
「のあ。春日!?心を読めるのか?」
「アンタ、思いっきり口に出してたし」
 席替えがあって、春日と佐伯が隣の席になってからというもの、春日と佐伯はよく話をするようになっていた。
 それはありがたかったが、どうにも滝野や水原は苦手対象なため、差し引き0と言ったところだったが。
「それにアンタ、水泳の授業で見てるじゃん」
「はぁ?授業ってスクール水着だろ。そうじゃなくて、普通の水着の春日を」
 佐伯がさも当たり前のように言ったのを見て、滝野が深いため息をつく。
「はぁ、わかってないなぁ。ひょっとして、あんたブルマ否定派?」
「ブルマ?別に肯定も否定もしないな。運動はしやすそうだけど転んだりすると危なそうだし」
「これだから根っからの体育会系はダメね。萌えがわかってないわ」
「燃え?」
「萌えよ!萌え!草冠に明るいで萌え」
 間に春日を挟んで、佐伯と滝野が口論を始める。
 まぁ、一方的に滝野が熱くなっているような気もするが。

91 :春の日を歩む2人(5) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/07(火) 13:40 ID:???
「あのね。スクール水着もブルマももう日本の遺物なの。ありがたがられこそすれ、煙たがられる言われはないわね」
 滝野の物言いに、周りの男子生徒がうなずく。
「萌えは日本発祥の日本の新しい文化。経済効果だってあるんだから」
「そうなのか?」
「え?あ・・・はい。ニュースでそんなことを言ってましたけど。私もよくは知りません」
 佐伯に聞かれ美浜が答える。
「そんなの常識よ常識」
「お前の常識は少し偏ってるだろ」
 冷静な突っ込みの水原。
 だが、いまだに佐伯には萌えと言うのがよくわかっていない。
「アンタは・・・大阪の水着が見たいって言ってたわよね。てことは、ペタ胸萌えの天然萌えね」
「なんだそりゃ」
「ペタ胸て・・・私、そこまでちっこくは無いと思うんやけど」
「だって、大阪の属性ってそれくらいだし。あとボンクラ属性?」
「それはともちゃんもやんか」
 結局萌え討論は担任がホームルームにやってきて終了した。
 かに見えたのが、佐伯はその日の休み時間全てを使って、滝野と長谷川の2人にじっくり萌えについて教え込まれていた。

92 :春の日を歩む2人(6) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/07(火) 13:40 ID:???
「あかん・・・東京の夏は暑くてかなわん」
「はい、アイスです」
「おおきにな〜」
「サンキューちよちゃん」
 日曜の昼。
 春日と美浜と滝野は水着を買うためにショッピングモールに来ていた。
 水原と榊は別な用事が、神楽は部活でそれぞれ今日は来ていない。
「夏だなぁ」
「夏やねぇ」
「夏ですね」
 七月も中旬となれば暑さもかなりのものだ。
 テストも終わり、あとは夏休みを待つだけといった気持ちの学生がいっぱいだろう。
「あ〜。野球やっとる〜」
 ショッピングモールから見える都営市民球場。
 そこで丁度野球の試合が行われていた。
 外から見える電光掲示板に試合状況が書かれている。
「あれ?私たちの学校ですよ?」
「あ、ほんまや」
「ちょっと見ていくか?」
「さんせ〜」
 ・・・・・・
「負けてるな」
「最終回で一点差。2アウト2塁」
「おぉ。ちよちゃん頭えぇ・・・で、どうすれば勝てるん?」
「外野を越えるヒットが出れば同点になると思います。あとはホームラン」
「おぉ!ホームラン。バースや!!バースを呼ぶんや〜」

93 :春の日を歩む2人(7) ◆QkRJTXcpFI :2005/06/07(火) 13:41 ID:???
 選手がバッターボックスに入る。
 最終バッターとなるか、同点・逆転のバッターとなるか。
「あれ?私たちのクラスの佐伯さんじゃないですか?」
「ホンマや。佐伯君や」
「へぇ、2年なのにレギュラーじゃんか」
 マウンド上のピッチャーは素早いモーションでキャッチャー目掛けてボールを放つ。
 鈍い音と共に高く舞い上がるボール。
 キャッチャーがマスクを取り上を見上げる。
 だが、ボールはバックネット裏へと落ちていった。
 佐伯は安堵のため息と共にバットを構えなおす。
 その表情は真剣で少し気負い気味にも見える。
「危なかったですねぇ」
「ほら、大阪。応援してやれよ」
「よっしゃ。佐伯く〜ん!!気合やで〜!!きばりや〜!!」
 佐伯が声の方向を見て一瞬驚きの表情を見せる。
 だが、すぐに笑顔になり主審にタイムをかける。
 天を仰ぎ大きく深呼吸。
 バットを構える佐伯の顔は余裕と自信の表情へと変わった。
 ピッチャーはそれに怒りを覚えたのか、ランナーを気にせずに大きく振りかぶる。
 放たれたボールは先ほどよりも勢いのあるストレート。
 直後。
 甲高い金属音が球場に響き渡り、白球はバックスクリーンに突き刺さる。
「やりました!!」
「おぉ〜」
「いぇい。勝ちだ勝ちだ」
 佐伯がダイアモンドを回り、ホームに戻ってくるとチームメイトたちが出迎えてくれた。
「にしても、佐伯も現金なやつだねぇ。大阪の応援一つでこうも変わるなんて」
「私の応援のおかげなん?」
「そりゃそうだ。この2点は大阪がとったようなもんだな」
「おぉ〜・・・私は幸運の女神なんや」

94 :名無しさんちゃうねん :2005/06/12(日) 00:01 ID:???
さて、どうなる?

95 :名無しさんちゃうねん :2005/06/12(日) 21:13 ID:yuEo5rcE
期待age

96 :春の日を歩む2人(8) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/13(月) 09:58 ID:???
「・・・ぁ〜」
「うっす。って、なにいきなり死んでるんだ」
 2学期初日。
 佐伯が登校した時にはすでに春日は机についていた。
 座ってはいるのだが、上半身を机に突っ伏しており、完全に無気力状態だ。
(うあ。目がいっちゃってる)
「あ〜。おはよ〜」
「大丈夫か?」
「大丈夫やねん」
 そうは言っているが動作に力がない。
 軟体動物のような動きだ。
「あ〜・・・黒いなぁ」
「ん?あぁ。部活だったからな」
「野球やったんやな。ワールドカップいけたん?」
「は?いや、ワールドカップじゃなくて甲子園な。残念ながら地区大会決勝で負けてダメだったよ」
 佐伯は荷物を置いて椅子に座る。
 クラスの半分はだらけているのが目に映る。
「あ〜。そや。あんな、野球教えてくれへん?」
 顔だけを佐伯の方に向けて春日が言う。
 その目はまだ死んだ魚のような目だが、なんとか意識はあるらしい。
「かまわないけど。どうした?」
「体育でソフトボールがあるねんけどな、私、トロいから」
「ソフトボールか。じゃあ、とりあえずキャッチボールからはじめるか」
 放課後。
「さ、グラウンド行くぞ」
「へ?」
 カバンを持って帰ろうとする春日が佐伯の方を向く。
「へって。お前が言ったんだろ、野球教えろって」
「今日からなん?」
「部活休みだからな」

97 :春の日を歩む2人(9) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/13(月) 09:58 ID:???
「とりあえずボール投げてみろ」
 春日が手にしているのは、やわらかいゴムボール。
「おっしゃいくで〜」
 ボールを投げる春日。
 春日と佐伯の丁度中間くらいにボールが落ちる。
「これは・・・ちゃうねん」
「ボールの投げ方から教えるか」
 ・・・・・・
「ちゃうねん」
 再度投げたボールは先ほどよりは飛んだが、それでもまだ佐伯の位置には届かない。
「ん〜・・・何がおかしいんだろうか。ちょっとすまんな」
「ひやっ」
 佐伯が春日の二の腕を掴んでみる。
「単に非力なだけか?これじゃあ、ソフトボールは重いんじゃないか?」
「む、無理なん?」
 春日の顔が少しだけ赤くなっている。
「無理ってわけじゃないけどな。バッティングもきついだろうし」
 佐伯が顎に手を当てて考える。
「下手投げで投げてみるか」
「下手投げ?」
「こんな感じだ」
 佐伯はアンダースローの構えでゆっくりとボールを投げる。
 ボールは弧を描き地面へと落ちた。
「おぉ。ほなら、やってみるで」
 春日が見よう見まねでボールを投げる。
 今度は何とか佐伯の立っていた場所まで届く。
「まぁ、試合で使えるかどうかわかんないけど、いいだろう。今度はキャッチの練習もあわせてやるぞ」

98 :春の日を歩む2人(10) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/13(月) 09:58 ID:???
「ふぅ。いい時間だな」
「もうこんな時間や。今日はおおきにな」
 夕日が徐々に街に隠れ始めている。
「なに。いいってことよ。俺も部活休みで暇だったしな」
 野球部の部室に置いておいた鞄を持つ。
 密室の部室。
 二人の男女。
「あ、あんな。佐伯君」
 顔を赤らめる春日。
「あ。な、なんだ?」
「私な・・・私な」
 うつむいたまま佐伯の目の前に歩いてくる春日。
 彼女の髪の甘い匂いが佐伯の鼻腔に感じられる。
 顔を上げた春日の顔が真っ赤に染まる。
「春日」
 二人は目を瞑る。
 そして、徐々にその顔が近づき。
「お〜っす。大阪〜!!特訓はうまくいったか〜〜」
 突然、勢いよくドアが開いて滝野が部室に入ってくる。
『!?』
「お?お?お?ひょっとして。おじゃまだったかにゃ〜」
 滝野が口に手を当て目を細めて笑う。
「ちがうちがう。か、春日が目にゴミが入ったって言うから。な」
「そ、そうやねん。とってもらってたんよ」
「ふ〜ん。ま、そういうことにしておくか」
 3人は部室を出る。
 春日が後ろを歩く佐伯に近づいてきて、耳元でつぶやく。
「あ、あんな。さっきのは・・・かんにんな・・・もうせぇへんから・・・」
 それだけを言うと春日は滝野の隣に戻ってしまう。
(・・・それって・・・実は脈無し?)

99 :限界 ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/13(月) 10:00 ID:???
久々の更新です。あ〜、怖いSSも書かなあかんなぁ
あ、そうそう。トリップ変えました(先に言えよって感じですけど

100 :春の日を歩む2人(11) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:18 ID:???
「おっす。何やってんだ?」
「スタメンのオーダー決め」
「あぁ、お前キャプテンになったんだっけか」
 佐伯が机に置いた紙を前にうなっている。
 長谷川が覗き込むと、そこには野球部のメンバーの名前とポジションなどが書かれていた。
「打撃を取れば守備に穴が空くし、守備重視なら打撃力に難があるんだよなぁ」
「ま、がんばれや」
 部外者である長谷川は佐伯の元を離れる。
 佐伯の携帯が震える。
「はい・・・・・・なにーーーー!?」
 佐伯が急に立ち上がって声を張り上げる。
「松戸と円谷が事故!?なんで・・・あんの暴走バカ。で、容態は?・・・そうか。わかった」
 電話を置き頭を抱える。
「骨折か。秋の大会に間に合わないな。ヤバイ。本格的にヤバイ」
 机に置かれた紙から松戸と円谷の文字を消す。
 二人はかなりの実力者ゆえに、その穴はかなり大きい。
「1年の木戸・・・は、ダメだな。雪を一塁手にコンバートするか」
 一人ブツブツとつぶやく。
 声にかなり棘がある。気が荒立っていることは確かだ。
「おはよ〜・・・どないしたん?」
 隣の席の春日が声をかける。
「ちょっとな」
 佐伯は生返事だけで、顔はずっと紙の方に向けられたままだ。
 春日が顔を微かに赤らめて、鞄の中から一枚の紙切れを取り出す。
「あ。そや、あんな。次の土曜に映画に行かへんか?」
「後にしてくれ。忙しい」
「そ、そか。かんにんな」
 手に持ったチケットを鞄にしまい、ゆっくりと席につく。

101 :春の日を歩む2人(12) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:18 ID:???
「佐伯君、忙しいん?」
 春日の質問に沈黙で答える佐伯。
 いや、声が聞こえていない可能性もある。
「そやな。忙しいんやな。うん」
「大阪!!今日は寝坊しなかったんだな」
 急に滝野が春日の側にやってきてその背を叩く。
「なんやの〜・・・私、最近寝坊しとらんやんか」
「そうか〜?ま、どっちでも私は構わないけどな、あははははは」
「笑う門には福来るや。佐伯君も根を詰めすぎたらあかんで。あはははは」
 春日と滝野がケラケラと笑う。
「・・・うるさい」
 低く怒りのこもった声。
 佐伯が滝野と春日を睨んでいる。
「お?なんだなんだ?不機嫌モードか?」
 佐伯が立ち上がる。
 勢いよく立ち上がったために椅子が大きな音をたてて倒れる。
 静まり返る教室。
「や、やる気か?そ、それに・・・大阪は佐伯が悩みがあるからと思っていったんだぞ」
「そんなの、ただの迷惑だ」
「迷惑って、ちょっと言いすぎだろ!」
 滝野が佐伯の襟首に掴みかかる。
「大阪はな、お前のことを」
「ともちゃん、えぇねん。うるさくしてかんにんな、佐伯君」
「けど」
 滝野は不満そうな顔だが春日が黙って座ったため、それ以上は何も言わなかった。
 相変わらずの不機嫌顔で椅子を戻して座る佐伯。
 滝野も水原に連れられて自分の席に戻っていった。

102 :春の日を歩む2人(13) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:19 ID:???
「佐伯」
 長谷川の呼びかけに答えない。
「無視はするな」
「・・・なんだ」
 昼休み、未だに佐伯はチームのオーダーを組んでいる。
「朝のことだ。あれはお前が悪いぞ」
「で」
「でって。だから春日に謝るとか」
 佐伯がもっていたペンを置き、長谷川の方を見る。
「なんで俺が謝らなきゃならないんだ」
「だから」
「俺が悪いからか?ふん、機嫌の悪い俺の横で騒いだヤツラのほうが悪いに決まってるだろ」
「おいおい。それは逆恨みだろ。それにいいのか?春日・・・結構ショックだったみたいだぞ」
 春日のことを言われて黙り込む。
「別に。もう、どうでもいい」
「は!?なんだよいきなり」
「今は逆に春日のあのノホホンとした顔が恨めしく見えるくらいだよ」
「・・・そうかよ。んじゃ、俺が春日にアプローチしていいってことだよな?」
「どうぞ。てか、いちいち俺に聞くな」
 長谷川が振り返る。
 彼らのすぐ側には、春日が立っていた。

103 :春の日を歩む2人(14) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:19 ID:???
 数分前屋上。
「にしても佐伯も心が狭いよな〜」
「あ、でも。朝はともちゃんたちも悪かったと思います」
「なんでだよ。ちよ助はあんなヤツの味方なのか〜〜!?」
 いつものように6人で食事を取る春日たち。
「キャプテンで大変な上に、チームメイトが事故だろ?そりゃ誰でも不機嫌になるだろ」
「あぁ。そういや、野球部の顧問も変わったんだろ?確か古木だったかな。なんかすげー嫌な先生らしいぜ」
「そうやったんか・・・悪いことしてもうたんやな・・・もう一度謝らな」
「大阪いいって、どうせ自分のことしか考えてない頑固親父なんだから」
 滝野はそう言うが、春日の顔は悲しみであふれている。
 顔色もいつにも増して青白くみえた。
「私、やっぱり謝ってくるわ」
 立ち上がり教室に向かう春日。
「ちゃんと謝らな」
 教室に入ると、佐伯はしかめっ面で長谷川を睨んでいる。
 まだ気が立っているせいで声も大きく、春日の耳に佐伯の声が入ってきた。
「今は逆に春日のあのノホホンとした顔が恨めしく見えるくらいだよ」
「・・・そうかよ。んじゃ、俺が春日にアプローチしていいってことだよな?」
「どうぞ。てか、いちいち俺に聞くな」

104 :春の日を歩む2人(15) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 10:20 ID:???
「春日」
 佐伯も春日の存在に気づく。
「あ、あんな・・・朝は・・・ほんまにかんにんな・・・あ、ごめんなさいやった」
 春日の頬を涙が伝う。
「もう。なるべく話かけへんようにするわ・・・今までごめんな」
 佐伯に背を向けると廊下に向かって走り出す。
「佐伯、追えよ」
「いい。言ったろ、どうでもいいって」
「佐伯!!お前、いつからそんなに腑抜けになったんだ。そこまで部活が大事なのかよ!!」
 長谷川が佐伯の襟首を掴み締める。
「何とか言えよ!」
「お前こそ追いかければいいだろ」
「くそっ」
 長谷川は佐伯を離して、背を向ける。
 そして、春日を追って廊下へと出て行った。
「こぼれた水は・・・もう戻らない・・・か」

105 :春の日を歩む2人(16) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:09 ID:???
 佐伯と春日が話をしなくなって数ヶ月。
 冬休みを間近に控えた日。
「さみぃ〜」
 その日、春日は長谷川と一緒に下校していた。
「そやなぁ。長谷川君は寒いの嫌いなんか?」
「あんまり好きじゃないな」
 二人は付き合ってはいない。
 しかし、最近ではこうしてたまに一緒に登下校をするような仲になっていた。
 傍目には付き合っているようにしか見えないのだが、二人の中ではそれは違うものだった。
「今日も見に行くのか?」
「うん」
「風邪引くなよ」
「うん」
 公園の前で春日と長谷川は別れる。
 そして、春日はゆっくりと音をたてないように公園の中心へと向かう。
 そこでは、佐伯が素振りをしていた。
 部活の休みの日は必ずここで素振りをしている。
 そして、それを見つからないように遠くから見るのが春日の日課だった。
「佐伯君」
 佐伯は一心不乱にバットを振る。
 秋大会ではチームが安定せずに惨敗。
 佐伯自身も不調で打撃も守備もボロボロだった。
「へ、へ、へ・・・へーちょ」
 小さなくしゃみ。
 それと同時に、春日は木の陰に隠れる。
「き、気づかれたやろうか」
 木の陰に隠れたために、佐伯の方を見ることが出来ない。
 だが、彼女のほうに近づいてくる気配は全くしなかった。
 春日がゆっくりと木の陰から顔を出して、先ほどまで佐伯の立っていた方を覗く。
「あれ?」
 だが、そこには誰も居ない。
「帰ってもうたん?」
 誰も居ない公園。
 寂しく悲しい気持ちが彼女の胸にこみ上げてくる。
 佐伯の居た場所をもう一度見る。
 すると、先ほどまで彼が鞄を置いていたベンチの上に赤い何かが置かれていた。
「なんやろ。忘れ物かな?」
 近づく春日。
 ベンチの上には赤いマフラーと一枚の紙。
『風邪引くなよ』
 殴り書きのように乱暴にかかれたその文字は、まぎれもない佐伯の字だった。
「佐伯君」
 春日がマフラーと置き手紙を手に取り、胸に抱く。
 ほんのりとしたあたたかみが彼女を包みこんだ。

106 :春の日を歩む2人(17) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:10 ID:???
 春。
 三年生になった春日。
 教室を見渡すが佐伯の姿はどこにも見当たらない。
 クラス替えは二人を別々なクラスへと引き離していた。
 冬の一件以来、挨拶程度は交わすようになった。
 だが、それだけだ。
 昔のように親しく話をすることは無くなった。
「大阪。なにしてるんだ?」
「あ〜・・・うぅん。なんでもあらへんよ」
 そうは言うが、春日の声には元気がない。
 春になり運動系の部活も始動し始めた。
 佐伯の野球部もほとんど休みが無い。
 もう、彼が公園で素振りをすることも無いだろう。
「いけばいいじゃん」
 滝野が寂しそうな顔の春日に向かって言う。
「そんなに寂しいなら行って、自分の想いを伝えてくればいいじゃん」
「えぇんや。見てることが出来れば」
 春日は首を横に振る。
「それに、甲子園行くために頑張ってるんや。邪魔しちゃあかんやん」
「大阪。それは逃げだぞ?そりゃ、私も前は色々言ったけどさ、でも、そんなに好きなら」
 春日の手が滝野の口を塞ぐ。
 そして、もう一度首を横に振った。
「そうか。なら、私たちが出る幕じゃないな。けど、それならもう少し元気を出せ。それじゃあ、同情を誘ってるようなものだぞ」
 滝野の後ろで話を聞いていた水原が口を挟む。
「うん・・・よみちゃんはかなわんなぁ」
 微笑む春日。
 だが、その表情はもの悲しい雰囲気をかもし出していた。

107 :春の日を歩む2人(17) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:10 ID:???
 野球部の練習が始まる。
 新しいオーダーにも慣れてきて、やっと打撃と守備が繋がりはじめてきた。
 いや、去年の秋の惨敗をバネに、冬に鍛え直した部員たちの力は秋の何倍もの実力をつけたためかもしれない。
 佐伯のバットも快音を響かせ続けている。
「やってるやってる」
「冷やかしならお断りだぞ。ま、部活に入ることを前提に見学に来てるならいいんだけどな」
「まさか。3年になって部活に入るわけないだろ」
 バックネット裏に立つ長谷川。
 その隣で練習を見る佐伯。
「で、用はなんだ?お前がなんの用も無しにグランドに来るとは思えなんだが?」
「ほれ」
 長谷川がポケットから白い封筒を取り出す。
 表には丸まった字で佐伯様と書かれている。
「俺にはその手の趣味は無いぞ」
「俺もだ。頼まれたんだよ、妹にな」
「妹なんていたのか?」
 封筒を受け取ってポケットにしまう。
「出来の悪い妹だ。んじゃ、練習頑張れよ」
「おう」
 長谷川が校舎の方へと歩いてゆく。
「出来の悪い妹・・・ね」
 佐伯はもう一度封筒を手にとって書かれた文字を見る。
 見覚えのある文字。
 そして、長谷川に妹が居ないことなど、友人である佐伯は知っていた。

108 :春の日を歩む2人(18) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:11 ID:???
「あ〜。懐かしぃ〜」
「神戸!!」
「みなさん、お疲れ様でした」
「いや。疲れるのはこれからだろ」
 神戸駅。
 そこのエントランスに春日・滝野・美浜・水原の4人が立っていた。
 佐伯の所属する野球部。
 地区大会では快進撃を続け、去年の優勝校を破り、ついに夏の甲子園のキップを手にした。
 4人はその応援のために夏休みを利用してここに来ているのだ。
「榊さんと神楽さんは午後にならないと来ませんし、どこかで時間を潰して待ってましょう」
「さんせ〜」
 駅を出て、手近な喫茶店へと足を運ぶ四人。
「いらっしゃいませ。4名様ですね。こちら・・・あ。春日か?」
 店員の男性が春日の顔を見て尋ねる。
「お〜・・・誰やったっけ」
「あら。あんなぁ、3年前まで同じクラスだった俺を忘れんなや。沖や、沖。ほんまに覚えてへんのか?」
「お〜おぉ〜。沖君や。東京弁やからわからんかったわ」
「お前は声と言葉で判断してんのかい」
「あははは」
 彼女が神戸に居た頃の旧友。
 それだけに掛け合いもバッチリあっている。
「沖!!」
「あ、バイト中やった。ごほん。こちらの席へどうぞ」
 沖が春日たちを席へと案内する。
「友達か?」
「うん。沖君ゆうてな、結構一緒に遊んだ仲や」
 4人ではお茶を飲みながら話をする。
 時たま、沖が会話に加わっては、店長に怒られ仕事に戻ってゆく。
「なぁ、よみ」
「うん。大阪の顔。だろ」
 心からの笑顔。
 去年の秋からほとんど見せることの無かった表情。
 春日を心配しているからこそ、今回の応援を計画した滝野と水原にとっては複雑な心境だった。

109 :春の日を歩む2人(19) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:11 ID:???
 並んで歩く沖と春日。
 榊たちと合流するために店を出たのだが、丁度、沖のバイトの終わりと重なったために彼も一緒することとなった。
「ふぅん。春日のとこの学校が甲子園でるんか。えぇなぁ」
「沖君とこはでとらんのか?」
「あ〜、無理や無理や。俺んとこ弱いんよ」
 二人だけ先を歩く。
 数歩送れて榊、神楽が合流したメンバーが歩いている。
「どうよ、あの二人」
「どうもこうもないだろ。ま、私たちがこれ以上は首突っ込む必要もないだろ」
「そうですね」
 6人が泊まるホテルの前まで歩いてきた。
 最初から最後まで春日は沖と楽しく話を弾ませていた。
「じゃあ、春日、また明日な」
「ほなな〜」
 沖が押していた自転車にまたがり走り出した。
「明日?」
「大阪、明日って佐伯の試合だぞ?応援に行かないのか」
「大丈夫や。沖君、球場まで送ってくれるさかい。応援には間に合わせるで」
 笑顔でホテルに入る春日。
 残りのメンバーは先ほど以上に複雑な顔つきだった。
「私帰ろうかな」
「はっ!?何言ってんだ、とも」
「だってさぁ」
「でも、甲子園に出るのすごいから・・・春日さんと佐伯さんのこと抜きでも」
「そうそう。応援するだけしようぜ」
「そうですよ。それに、勝ったら佐伯さんと一緒に喜びましょう」
 あまり高校野球に興味の無い滝野は未だに渋い顔をしている。
 少しだけギクシャクした感じのまま、その日は過ぎていった。

110 :春の日を歩む2人(19) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:12 ID:???
「ついに試合だ。一戦負ければ終わりだからな。死ぬ気でやれ」
 野球部の顧問が檄を飛ばす。
 ぶっきらぼうで、乱暴な言葉遣いのため誤解されがちだが、生徒想いの先生だ。
「大丈夫だ。俺たちは強い。行くぞ」
『お〜!!』
 佐伯の掛け声にあわせ、部員たちも声をあげる。
 場所は彼らが泊まっていた旅館のロビー。
 旅館の従業員や他の客も彼らを応援してくれる。
 客の中には同じ高校の生徒がちらほら。その中に長谷川の姿もあった。
「よっ」
「来てくれたのか、サンキュ」
「そりゃ、甲子園だもんな。でだ。あいつらも応援に来てるぞ」
「あいつら?」
「・・・出来の悪い妹たちさ」
 それを聞いて佐伯はバツの悪そうな顔をする。
「嫌なのか?」
「まさか・・・無様な姿は見せられないなと思って」
 一瞬、佐伯は何かを考え込む。
「そういうことだ。頑張れよ。試合も春日も」
「・・・おう」
 それだけを言うと佐伯はバスに乗り込む。
「やっぱり、あれは春日だったんだ」

111 :春の日を歩む2人(21) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:13 ID:???
 球場の前。
 選手を乗せたバスが止まる。
 バスを降りる佐伯。
「よっ。応援に来たぞ。ふっふっふ、感謝しろ」
「リラックスしていけよ」
「今日は頑張ってください」
 滝野たちが降りたすぐ側に立っている。
「当たり前だ。目指すは優勝!」
「おぉぉ。頼もしいぜ」
「・・・大丈夫。佐伯さんたちは・・・勝てる」
 佐伯の前に立つ5人の少女。
「春日は?」
「あ、あの。ちょっと寝坊しちゃって」
「・・・昨日一緒だった男か?」
「なんでわかるんだ!?佐伯エスもご」
「バカ。なんで、そんなこと言うんだよ」
 水原が滝野の口を塞ぐ。
「やっぱそうか」
「昨日、私たちを見つけたらな声をかけてくれればよかったのに」
「ん。まぁ、楽しそうに笑ってたし。まぁいいかなって」
 苦笑する佐伯。
「本当にいいのか?」
「ん?」
「本当にいいのか?だって、大阪も佐伯も」
「いいんだ・・・俺は彼女を笑わせてあげれなかったから。滝野、ごめんな。あと、心配してくれてありがと」
「バカ・・・言う相手が違うだろ」
 滝野がうつむく。
 他の4人も同じだ。
「んじゃ。会場に入るよ。頑張るから、応援してくれよ」

112 :春の日を歩む2人(22) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:14 ID:???
「あかん。試合はじまってしまうやん。もう行くで」
「春日」
 沖が春日の腕を掴む。
「好きや」
 沖がバイトしているあの喫茶店の中。
「え?」
「お前のことが好きなんや」
 沖が春日を見つめる。
 手を離し、立ち上がる。
「私」
「高校卒業したら、東京に俺も行く。そしたら・・・一緒に暮らさへんか?」
 彼女の肩を掴み抱き寄せる。
「ぁっ」
「幸せにする。だから」
「・・・沖君・・・私・・・」

113 :春の日を歩む2人(23) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:15 ID:???
 高く打ち上げられた白球は、その勢いを落とし、外野のミットに収まる。
「すまん」
 アウトになったバッターが戻ってきて一言つぶやく。
 ネクストバッターサークルに居る佐伯。
 彼に対して言ったものだった。
 最終回にして0対1。ツーアウト。ランナーは2塁。
 守りに特化した相手チーム。
 最初の緊張していたスキをつかれ、1点を取られた。
 対し、佐伯たちはこの回のツーベースヒットを除いてはヒットは出ていない。
 佐伯も三振とゴロで打ち取られている。
 そんな状況で佐伯がバッターボックスに入る。
「ま、初出場にしてはよくやったほうじゃないか?」
 キャッチャーが佐伯に対して言う。
 このチームの心理作戦の一つだろう。
 最初からキャッチャーはバッターに対してボソボソ囁きかけていた。
「俺たちは去年ベスト8まで行ってるからな。負けても恥じじゃないさ」
 冷静を装っている佐伯も、集中力はすでに無いに等しい。
 それほどまでに、初出場とキャッチャーの心理攻撃。そして、春日のことが彼を追い詰めていた。
 ピッチャーが振りかぶってボールを投げる。
 バットは空を裂き、ボールはキャッチャーミットに収まる。
「す〜・・・は〜・・・」
 深呼吸するがあまり変わらない。
 第二球。
 ボールがバットの上部をかする。
 高く上がったボールはそのまま、バックネット裏に落ちていった。
 ツーストライク。
 ピッチャーにとっては最高の。バッターにとっては最低のカウント。
 佐伯の頭に去年の地区大会がよぎる。
 春日の応援を受け、ホームランを打ったあの試合を。

114 :春の日を歩む2人(24) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:15 ID:???
「今日はさすがに来ないか」
 バットを握り、ピッチャーを凝視するがなかなか投げてこない。
 審判の方を見ると、タイムの構えを取っている。
「ん?」
 審判がタイムを指示しながら見ている先。そちらは、佐伯たちのベンチの方だ。
 佐伯もバットを構え直しながらそちらを見る。
「な!?」
 佐伯の目に映ったのは、一人の少女がチームメイトに抑えられている姿だ。
「放してぇな。応援するんや」
「だから、ここは部外者以外は立ち入り禁止だ。応援するなら客席で」
「ダメや。もう、時間ないやんか。応援したら、すぐに戻るさかい」
 春日歩。
 少女は目に涙をため、顧問の先生に懇願している。
「・・・春日!!」
 佐伯が叫ぶ。
 ベンチに背を向け、バットを片腕で高く高く上げている。
 誰もがその動きを止め佐伯に注目する。
「ありがとう」
 バットを構え直し、ピッチャーを睨む。
 ベンチの騒動が納まりタイムが解ける。
 地区大会とは違って冷静なピッチャーだ。
 何事もなかったかのように、先ほどと同じテンポでボールを投げる。
 しかし、佐伯は先ほどとは違った。
 集中力を取り戻した佐伯のバットは、ボールを芯でとらえ快音を響かせる。
 青い甲子園の空に白球は吸い込まれていった。

115 :春の日を歩む2人(25) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/14(火) 22:15 ID:???
「おめでとう」
「ありがと」
 球場の外で春日と佐伯が顔をあわせる。
 長谷川と滝野のお膳立てだ。
「春日のおかげで勝てたよ・・・これで、2度目だな」
「えへへ。私は勝利の女神やもん」
 ほんのりと染まった頬。
「・・・そういや、一緒だった男は?」
「あ〜、しっとるんや。沖くんな・・・告白されたんや」
 黙り込む二人。
 セミの鳴き声だけが耳に入ってくる。
「そ、そうか」
「えぇんか?」
「え?」
「私が、沖君と付き合ってえぇんか?」
 うつむいた春日の顔は佐伯からは見えない。
「昨日。春日の顔を見てたら。すごい笑顔だったから」
 また、沈黙が二人の間に訪れる。
「なら・・・私・・・行くわ・・・沖君・・・待ってるさかい」
 佐伯に背を向け歩き出す春日。
 一歩。また一歩とゆっくりと歩き出す。
「・・・っ」
 背中から抱きしめる佐伯。
 目を瞑り背中を預ける春日。
「行くな」
「・・・うん」
「俺でいいんだよな」
「うん」
「いらいらしてると、好きな子でも八つ当たりしちゃうような男だぞ」
「えぇよ。人間だれでもそうやねん」
「巨人ファンだぞ」
「あかん。それだけは許されへん」
 そう言うと、春日が振り向く。
 見つめあい、微笑む。
「キス・・・してくれたら許したる」
「んっ」
 目を瞑り、近づく顔。
 交わされる口付け。
「佐伯君・・・好きやねん」

116 :春の日を歩む2人(26) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/15(水) 09:45 ID:???
 春。
 卒業と入学。別れと出会い。
「・・・またな」
「ぃゃゃ」
 駅のホーム。
 春日の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
 佐伯が春日を抱きしめる。
「毎日電話する」
「ほんまに?絶対の絶対に?」
「あぁ。同じ日本なんだ。月に一回は歩の所に遊びにくるよ」
「・・・二回や」
「わかった」
「大学卒業したら、雄一の所にいってえぇ?」
「あぁ。待ってる」 春。
 卒業と入学。別れと出会い。
「・・・またな」
「ぃゃゃ」
 駅のホーム。
 春日の顔は涙でぐしゃぐしゃに濡れている。
 佐伯が春日を抱きしめる。
「毎日電話する」
「ほんまに?絶対の絶対に?」
「あぁ。同じ日本なんだ。月に一回は歩の所に遊びにくるよ」
「・・・二回や」
「わかった」
「大学卒業したら、雄一の所にいってえぇ?」
「あぁ。待ってる」
 佐伯は春日の身体を離すと彼女の手をとる。
 そして、ポケットから取り出した小さなリングを薬指にはめ込む。
「そうしたら。結婚しよう」
 今度は春日の方から抱きつく。
「幸せや」
「あぁ。俺もだよ。じゃあ・・・行ってくる」
「頑張ってな。あ、浮気したらあかんよ」
「んっ。愛してる」
 身をかがめ、キスをする。
 長く、しかし二人にとっては短いキス。
「いってらっしゃい」
 佐伯が電車に乗り込む。
 それと同時に閉まるドア。
 彼女は想い人の居なくなったホームで一人、また涙を流した。
 嬉しさ。悲しさ。待ち遠しさ。寂しさ。
 そんな感情が彼女の胸を締め付けていた。

(完)

117 :限界 ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/15(水) 09:50 ID:???
どうも。長かった割にはあまりメッセージ性もなにもない作品?
中途半端な終わり方に見えている人も多いかと思います。
本当はこの後。大阪が大学を卒業して結婚するまでの2年間の話も考えてはあるんですが。
とりあえず止めます。
ひょっとしたら第2章として書くかもです。

・・・最終話。崩れた!?
同じ文章が2回・・・あうあう。2行目から14行目は飛ばして読んでください。
ごめんなさい。

118 :名無しさんちゃうねん :2005/06/15(水) 22:16 ID:???
いや、お疲れさまでした。
今後も頑張ってください。

119 :質問推奨委員長 ◆EIJIovdf8s :2005/06/16(木) 04:59 ID:???
珍しい大阪の純愛ストーリー…
切ないです

120 :名無しさんちゃうねん :2005/06/19(日) 02:58 ID:???
>>117
続きがあるのなら、最後までウプすべし! SSスレにテーマに沿ったSSをウプすることに、何も、誰も遠慮を
することはない。……だろ?
評価を求めるのなら、それからだ。

121 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:33 ID:???
「はぁ。もうあかん」
「どした?」
 大学の食堂のテーブルにつっぷす春日。
 同じテーブルについてオムレツを食べる滝野が聞く。
「雄一が恋しい」
「昨日、会ったばかりだろ」
「だからやねん。毎日でも会いたいんや」
「重症だな」
 大学に入学して3ヶ月。
 過去にも似たようなことはあったが、今日の春日はいつにもまして暗い。
「そら、ともちゃんは彼氏が近くにおるからえぇわ。遠距離の辛さなんてしらんもん」
「そうだけどさ。でも、佐伯も同じように苦しみながら頑張ってるんだろ」
「………多分」
「なら、大阪も頑張らないと」
「そやな。がんばらな」
 春日が顔をあげる。
 先ほどよりは明るさを取り戻したようだ。
「そうだ。今週の日曜にさ、よみ誘ってデパートにいかねぇか?新しい水着でも買おうぜ」
「よみちゃんか。久しぶりやな」
 高校卒業を境に春日たちはバラバラになった。
 水原は春日たちとは別な4年生の大学。美浜はアメリカに留学。榊は北海道で獣医師を目指し、神楽は他県の体育系大学へ。
 一緒なのは春日と滝野だけだ。
 佐伯雄一。彼は、スポーツ推薦で、関西にある大学へと進学していた。
「変わってないぜ」
「そか。楽しみにしとるわ」
 幼馴染の滝野と水原。進む道は違えどその関係は変わらなかった。
 もっとも、お互いに出来た恋人のせいで昔ほどの関係ではないのだが。
「………元気だせよ」
「おおきにな、ともちゃん」

122 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:33 ID:???
 日曜日。
 春日は一人デパートの中を歩いていた。
「あかん。暇や」
 水原はサークルの会合。滝野も前日に急にキャンセルになっため、一人で来ていた。
「家に居たほうがよかったやろか」
 当初の目的であった水着売り場の前を通り過ぎる。
 横目でチラリと見たが、買い物をするような気分ではなかった。
 10分くらい売り場を見て、エレベーターに乗る。
「かえろ」
 珍しく空いているエレベーター。
 乗っているのは春日の他に一人の男性のみ。
「……春日?」
「え?」
 不意に男に声をかけられ振り返る春日。
 型の古いエレベーターがゆっくり下がり始める。
「沖君」
 沖和雅。春日の旧友で去年、一度再会した青年。
「買い物か?」
「そやで。沖君はなんでここにおるん?」
「大学はこっち来る言ったやん」
 沖の顔が険しくなる。
 沖は一度春日に告白した。
「一度は振られたけど、忘れられへんかったんや」
 結果は彼の言ったとおり。
 春日は沖の下を離れ、佐伯と想いを遂げた。
「私は……?」
 エレベーターが止まる。
 表示は1階を指しているが、ドアが開かない。
「あかん。どのボタンもきかんで?」
「どういうことや?」
「故障やろか」
 沖が非常用通信ボタンを押すと、係員の声が返ってくる。
 どうやら、機械のトラブルで止まってしまっているらしい。
 10分ほどで1階に下ろすとのことなので、それまでおとなしく待つことになった。

123 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:33 ID:???
「あ〜、今日は厄日や」
「そうか?俺にとっては嬉しいで。春日と一緒におれるんやからな」
「沖君」
「ほんで、春日の彼氏は今日はきいへんのか?」
 春日の頭に佐伯の顔が浮かぶ。
 今頃は大学のグラウンドで野球の練習をしているだろう。
「近くにおらんのや。遠くの大学に行って」
「なんや。そうなんか。俺なら、春日を置いてどっか行ったりせぇへんで?」
「ちゃうねん。雄一は、そんなんやあらへん」
「春日」
 沖が春日に近づく。
 それにあわせて春日も下がるが狭いエレベーターの中。すぐに追い詰められてしまう。
「あかんよ」
「……俺を見てはくれへんのか」
 春日を抱きしめる沖。
「あかん。私は」
「俺は春日が好きやねん。一生幸せにする」
 幸せ。
 その言葉が春日の頭に響く。
「私は」
 沖の顔が春日の顔に徐々に近づく。
 涙を流すが、はっきりとした否定を表さない春日。
「好きや」
 春日の涙が零れ落ちる。
 彼女の脳裏にフラッシュバックする佐伯の顔。
 そして、一つのシルバーリング。
「ダメや」
 もう少しで唇が触れ合いそうな瞬間。
 春日は両手で沖を拒絶する。

124 :春の日を歩む2人〜第2章〜(1) ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 09:34 ID:???
「春日」
「かんにんな。けど、私には雄一しかおれへんのや」
 そう言って、左手を見せる春日。
 その薬指には綺麗に光る飾り気の無いシルバーリング。
 丁度その時、エレベーターのドアが開いて店員が入ってくる。
 エレベーターから降ろされる二人。
「春日。幸せか?」
「……幸せや。あまり会えへんことは寂しいけど、その分、会った時は心が張り裂けるくらいに幸せなんや」
「そうか」
 店員の謝罪を受け、粗品を受け取る。
 そして、二人は外に出た。
「春日」
「え?」
「幸せにならんと、あかんからな」
 それだけを言うと沖は走って行ってしまう。
 人ごみの中、すぐに春日の視界からその姿は消えてなくなる。
「沖君」

125 :限界 ◆p.Yo7BdKcg :2005/06/21(火) 11:58 ID:???
えっと、春の日を歩む2人の第2章です。
のっけからやってしまいました。
タイトルNoが、全部(1)orz
本当は(1)〜(4)です。
これにめげずに更新するので、長い目で見守っていてくれると幸いです。

126 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:05 ID:???
ズル‥‥ズル‥‥。
後左足を引き摺る音と降り注ぐ雨の音が耳障りだ。

………痛ぇ…。
動かすたびに脳に衝撃が走り地面の赤い跡が数を増やす。

とにかく痛ぇ、足が…全身がいてぇ…。
これが俺の足かって思うほどいてぇ…でも結局は俺の足だからいてぇ…。
何故こんなに足が痛いのか、何故こんなを説明すると一時間前の事、
といえども一言で済む。

今日他所の野良猫が俺の喧嘩を吹っかけてきやがった。
「チチッ…あいつ…5匹で襲いやがって……」
最後には俺が勝ったが俺も全身ボロボロ、特に足の怪我が酷い。
もし今犬にでも襲われたりすれば一たまりも無い。

ドサリッ

127 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:06 ID:???
背中が雨に晒されているらしく凍えそうだ。
「?」
気が付くと俺のすぐ目の前に地面があった。
地面にうつぶせのまま倒れている。
体を起こそうとするが両手両足への命令が全く伝わらない。
感覚も無くなってきている。

自分の血が小さい水溜りを濁した。

ああ…突然だが…俺も…か。

思えば色々な事があったよな…
今まで人間のデマかと思っていた走馬灯とか言う物が頭をめぐる。
実際にあるんだな…。

俺を包んだお袋の暖かい体に…
兄弟はみんな優しい白猫だった事…
お袋の優しい笑顔…
姉貴や妹は一匹だけの雄である俺を差別もせずに優しくしてくれた事…

そして───

128 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:07 ID:???
ある日俺だけが目を覚ますとダンボールに居て
理由は俺が黒かったと言う事…

────走馬灯は続く────

すぐに飢えて天敵に襲われた痛み…
そこに駆けつけてくれたマル兄貴の大きい後ろ姿…
マル兄貴の背中を付いて行った時の兄貴の男らしさ…

そして───

129 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:07 ID:???
そして
人間を憎むきっかけとなったお袋、そして姉妹の死体…
お袋達をボロ雑巾のようにしたクズみてぇなクズども…
金髪、歯が抜けた顔、ガキ…
そして気が付いたら金髪の足に噛み付いた事、

────走馬灯でも記憶に無い事は思い出せないらしく
そこからの走馬灯は無い────

気が付いたらマル兄貴の背中に乗っていた事、
マル兄貴のあの時のたくましい背中、
俺と同じ位傷だらけだった兄貴、
誰一人として俺を責めなかった仲間達、

そして…

そして…

あの、人間。
そうだ、あの人間あの女。

130 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:08 ID:???
体が揺すられる感覚に声も聞こえる。
誰だ?
そうかあいつだ。

「…み……こ」
走馬灯が続いている…。

「…み…ねこ! かみねこ!」
記憶には無い姿だ。
人間は慌てている。
雨の中傘もささず、全身を濡らして。

「しっかりしろかみねこ!」
まだ感覚の残る体を暖かい───まるでお袋の腹のような───
───マル兄貴の背中のような───
そんな気持ちになれる物に包まれている。

131 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:09 ID:???
そういえば一度だけこいつに撫でられた時、
気持ち悪いと思った。
今思えば…それは嫌悪では無く…安d…

「頑張って!今病院に…」
走っているらしく多少ゆれているがそんな事は気にならない位に安心出来た。
「他の野郎には…知らせられないな…」
まさか人間を憎む自分が幻覚の中とは言え、人間なんかに抱かれて
落ち着いてるなん…て。

「かみねこ…?」
人間の腕がこんなに温かいなんて知らなかった…。

132 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:09 ID:???
「かみねこ!!」
もしそうだと知ってるなら…仲間が…居る以上仲良く…する訳にはいかない…だ…
ろうが…
「かみねこ!!」
頭…くら…いは…撫でてさせ…やっても…良かったかもな…
「かみね…こ…!」

雨とは違う何かが俺の顔に滴った。
しょっぱい…何の液体だろう…?
目を開けても何も見えない。耳を澄ましてももう何も聞こえない。
結局それが何かは分からなかった。
とりあえず暖かい…それだけは分かった。

目の前は赤く赤く黒く黒く染まっていく…。



もう一度頭を撫でて欲しいなと思った。

FIN

133 :かみねこ物語 :2005/06/21(火) 21:16 ID:???
以上…。
とりあえずこの続きみたいなもんでかみねこが生きていたらバージョンも
いずれ考えてたり。

134 :名無しさんちゃうねん :2005/06/22(水) 23:28 ID:XxjVTo4A
切ない話乙!

135 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:33 ID:???
明日学校だけど、深夜にずぅっと前の続きを投稿します。遅れてごめんなさい。
そして例のごとくまた続きは不定期です。けどこれほどは遅くはならないです。

↓ずぅっと前の(忘れられてたり・・・!?)
http://so.la/test/read.cgi/oosaka/1081700484/713-716

136 :あずまんが王子 ◆N1Y4rpky/o :2005/06/27(月) 03:34 ID:???
 雨は静かに、降っていた。コンクリートやアスファルトをぬらし、
雨の日特有の香りがした。花がすべて枯れたアジサイがサ――ッと、音を立てている。
静かな、午後。一人ぼっちの、下校時間。
登校初日から天気予報を見ないというのも少し投げやりな感じだが、傘を持っていなかった。
前髪から垂れてくる雨がうざったい。
なんとなく、本当になんとなく過ごしていると、一日は簡単に過ぎていった。
これからもそんな風に安易に流されていってしまうんだろうか。
楽なままに、退屈なままに何もかも過ぎていくんだろうか。
思うと、少しだけぞっとした。
早いところダチ作って、また馬鹿騒ぎみたく出来ればいいな・・・
そんな願いは、簡単にはかないそうになかった。
・・・どうすりゃいいんだろうな・・・・・・
分からなかった。
このボッコボコの顔の理由ってさ、***で****なんだよ、それで・・・・
こんなような事を言って回りたかった。
けど、勿論そんな情けない、逆効果なことはしない。するはずもない。
大山とかいういかにも真面目そうなひょろい奴になるべく社交的に話しかけてはみたが、
これでもかってくらいに相手はおどおどしていた。
思い出すだけであんまり情けなくて逆に笑える。
今は焦らないほうがいいのかな・・・
こういうことで自己完結はした。
けど、昨日公園で会った(、と、いうよりは見かけた)二人とかが同じクラスだったこと
は驚いたし、(特に小さいほう)それに気にもなったけど、話すのはだいぶ先になりそうだな、と思った。

しばらくして次の角を曲がって、家のそばに出たとき。
淡い水色の傘をさしたまま中腰になってる奴がいた。

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